L'hallucination 〜アルシナシオン〜

CASE:SIX

第一幕


「今日は赤羽先生がなんか弥生さんに相談したい用事があるんだってさ」

抜けるような青空、ゴールデンウィーク中頃の圓山公園で葵は
クラスメート達とピクニックを兼ねて圓山動物園などを回ったお昼。
一応保護者枠と言う事で裕子が同行していて、葵と二人で腕によりを掛けたお弁当を
皆で突いているところだった。
天気は快晴、気温も20度辺り、この時期の札幌は「暖かい」と「寒い」の
ジェットコースターだ、今日は山の部分のようでピクニック日和である。

ちなみに田端里穂のグループに、中里久尾とその友達、
今後登場もあるかも知れないので紹介すると
女の子は田端里穂・河島南澄(かわしま・なすみ)・綾瀬優(あやせ・ゆう)の三人、
中里の友達は駒込義郎(こまごめ・よしろう)と言った。

男子二人は密かに弥生目当てで、彼女が居ない事に少しガッカリだったが
裕子の大人の階段後数段、って感じの雰囲気と「爆乳お嬢様」振りで鼻の下を伸ばしていた。
「弥生の姪」…なるほど…これは血なのか…と里穂達も思っていた。

そんな男子どもをちょっと睨み付けつつ、里穂が

「え、それってどんな相談なんだろ」

それに葵が

「さぁ…ボクはまぁ折角のGWにみんなからお誘いもあったんだからって事で
 詳しくは聞いて居ないんだ、ただ、相談は相談として燃え上がってるだろうね」

何か凄い事をさらっと言ってのける葵に里穂達や中里達はびびるのだが、
裕子に至ってはニコニコと聞いて居て頷いたりしている。

「え…だって弥生さんはヒューガの…」

と里穂が言うと、葵は困り笑いの表情ながら顔を赤らめ

「だって、弥生さんの相手本気でしたら次の日足腰立たなくされるし…
 先生と弥生さんはもう十何年来の仲みたいだから、たまにはそっちで
 盛り上がってくれないと逆にボクが持たないよ…」

とまで言ってから、あ、そう言えば先生がそっちの人だってみんなは直では知らないか
と思ったが、後の祭りである。
まぁ、あんな判りやすい態度の人だから何を今更だろう。

「ヒューガェ容だねってゆーか、妬けない?」

「弥生さんの価値観ではエッチはちょっと相手を選ぶコミュニケーション
 くらいの感覚みたいなんだ…そこボクが縛るのは違うかなぁって
 それに、なんだかんだ一緒に住んで一番可愛がって貰ってるの、ボクだからね!」

葵はちょっと鼻息を荒くした。

ああ見えて結構遊び人なんだ…いやでも確かにそんな感じもするよ…
ちょっと体験してみたいかも…でも本気で相手したら足腰立たなくされるって…
なんて女の子連中が盛り上がってる側で男子はちょっと困ってた。
思春期の彼らにはちょっと刺激が強すぎたw

「まぁまぁ、刺激的な話題で申し訳御座いません、
 しかし何しろ叔母様はそういう方ですから、「そーいう事」として
 どうぞ、こちらもお食べになってください」

裕子がいつものほんわかキラキラでまだ純朴な彼らに弁当の続きを勧める。
ちなみに服装は、葵は前ケース末の三分丈ほどのスパッツにホットパンツ、
白いタンクトップにジージャンという出で立ちで、
裕子はおしとやかすぎず、砕けすぎず、華美にならず、といってシンプルすぎず
ワンピースにボレロを重ね着していて、黒の羊毛製リボン付きカンカン帽を被っていた。
そこは間違いなく弥生の影響だと判る。

「それにしても、赤羽先生やっぱそっちの筋なんだ、まぁ
 ヒューガへのあの態度見てたら誰でもそうじゃないかって思うけどさw」

中里君がそこへ

「そういえばよぉ、あの何か刑事さん? の女の人は」

「あんたそればっかって言うか年上好みなの?」

「いや、そーいうんじゃねーけど…」

という里穂とのやりとりを幾らかした後、葵が

「あの人は刑事さん、こないだの異臭騒ぎの時は弥生さんがたまたま
 警察に出向いてたから一緒だったらしいよ」

そこへ裕子が

「折角のGWですのに、公務員は公務員でも警察官ですからね…
 叔母様のお宅へ遊びにいらしてたのに、やっぱり勤務もあるからと」

「遊びに来てた」その一言はとても深読み可能な言葉だったが葵がそれに気づき

「あ、あやめさんはそっちの人じゃないし、弥生さんもそれは心得ていて
 何かそんな迫ったりって事はないよ…、GW前にちょっと色々あって
 泊まり込む事になったんだ、仕事を基本にちょっと親睦をって感じ」

「薄い感じだけど結構キレイな人だったよね、大丈夫なの?」

里穂の疑問に葵も

「ボクも初めて会った時は「あー弥生さんの虫がうずき出してるなぁ」と思ったけど
 その後直ぐ異臭事件…ボクの知らない間に弥生さんが何か凄くあやめさん
 尊重しちゃってて、ボクも珍しいなって思っちゃったよ」

「初恋の面影…ステキですわね」

裕子がキラキラ手を合わせ浸る。
みんなには訳がちょっと分からなかったが、葵は弥生が余りそれに触れて欲しくない
ようだったので、それを尊重して

「まぁ、だから「弥生さんだからといって」危険じゃないよ」

そう言われると弥生が野に放たれた野獣のような存在のような気がしてきた中学生一同

そんな時だった、何やら圓山周辺が騒がしい、警察のパトカーのサイレンとかが響く。

「まぁまぁ、何があったのでしょう」

裕子が立ち上がり、公園の回りを見回した。

「…あれのようですわね…もうこの状態では逃げ切られないと思いますのに…
 武器を持っていますわ…トカレフ…? マカロフ…その辺りでしょうか
 なるほど、人質でも取って…という算段なのでしょうか」

淡々とまだ遠くを走る「銃を持った危険人物」を見て分析する裕子、視力もいい、
穢れを知らぬお嬢様ぶりを発揮しつつ、分析は慎重で物騒だった、そこへ葵が

「ボクが捕まえようか」

「いえ…こちらへは向かってきますが、葵クンはクラスメートのみんなを
 守ってください、折角のお友達なのですから」

裕子はニッコリ、おっとりと言う。
しかし裕子が戦闘向きではないと知っている葵がちょっと焦って

「でもそれだとおねーさんが…」

ニコニコした顔の裕子の目がちょっと開いて

「わたくしこれでも、十条の祓いの女ですのよ?」

逃げ惑う一般の人達に混じり、昼食中と言う事で動かない一団、そして
ちょうど立っていた事で「銃を持った危険人物」は裕子目指してやって来た。

「葵クン、ちょっとだけ、皆様を北側にずらして頂けますか?」

「え…うん…まさかおねーさん、これを修行に?」

「まぁ、そうとも言えますわね…折角のハプニングです、精々利用させて頂きますわ」

物凄い勢いで突っ込んできたソイツが、裕子を人質に取ろうと手を伸ばした時だ、

「!!!!」

ホンの一瞬、裕子の最小の動きでソイツは伸ばしていた左手を取られ投げられていた!
しかもそのまま関節を決めているおまけ付。

物凄く華麗だった、正に柔よく剛を制す、小よく大を制す、を地で行っていた。
みんな呆気にとられる。

銃を持ったソイツは甚だ意外という顔をしつつも激高し、右手の銃を
何とか体をよじりつつ裕子の頭の方へ三発ほど撃ち込んだ!
裕子のカンカン帽が宙を舞う…!
一気に緊張が回りへ波紋のように伝わって行く!
女子は叫び、それに釣られて回りの一般女性達にもそれが連鎖して行く。
追ってきた警察の人達が「発砲!」「三発確認」とかインカム越しに連絡を
取り合いつつ、こちらにやってくるのが見える。
こちらの状況はと言えば、発射の煙などで一瞬状況が判りにくい、葵が

「おねーさん!」

と叫びつつ、ソイツを押さえ、銃はその銃身を拉げる程度に踏みつぶした。
とはいえ銃身をひしゃげさせ踏みつぶした事に「犯人」は仰天し、
その隙に完全に葵によって取り押さえられた。

裕子は少しのけぞりつつ、右手拳を顔の前に寄せ、拳の手のひら側を外側に向けて居た、
…その裕子の指がゆっくり開くと、そこから三発の銃弾がポロポロっと落ちる。

「…熱かったですわ…最初の一発だけ防御が遅れましたわね…まだまだですわ…」

犯人を取り押さえながら葵が

「え…おねーさんコイツ投げてからのあの僅かな時間で詞を !?」

「滑舌は良くした方がいいって叔母様に言われておりまして、
 ボイストレーニングなどを受けていたのですが、まだまだです」

裕子の手のひら一カ所だけ少し弾が皮膚にめり込んで、しかもその温度で火傷したと
思われる怪我があった。
銃弾を素手で止めた事はもう理解の範疇外だったので、つい言葉に出てきたのは

「あ…合気道…かなにか…やってるンですか…?」

中里のダチの駒込君がちょっと格闘技系好きなようで止まっていた時を
動かすかのように声を絞り出し、裕子に聞いた。
裕子はそれににっこりと

「黒帯ですのよ♪」

ただの爆乳お嬢様じゃねぇ! ハイパーお嬢様だ!
葵のクラスメート達は、すげーーーーーーーー!! と一気に尊敬の眼差しになる。
葵も裕子の細かいプロフィールや習い事は良く知らなかったのでビックリした。
でも、そう言えば弥生も合気道をやっていた…と言ってたなぁ、と思った。

そこへやっと警察が状況を確認して一気に周りを囲んで、犯人に通り一辺倒な
文言を叩き付け、逮捕…となるのだが、当然、葵と裕子は説教を食らう事になる。
ちゃんと出来たんだからそれでいいじゃないか、なんていう葵的な考えは
大人の世界では通用しない、危険だ何かあったらどうするんだと言われている
そんな時だった。

「葵ちゃん! 裕子ちゃん! 何してるの!」

向こうから、あやめがやってきた

「あ! あやめさ〜〜ん!」

葵がちょっと甘えるようにあやめに声を掛ける、暗に「助けてくれ」って事だな、と
あやめも理解したが、このハイパー中学生と、話を聞く限り最初に投げ飛ばしたのは
裕子で、発砲も「どう言う訳か」三発とも止めたという、ハイパー高校生を
どう説明したものだか…少々困った。

裕子が説教など意にも介さないようにあやめに

「あやめさん、大きくは警備課所属ですわよね? 一課の応援でしょうか?」

「うん…たまたま旭山記念公園の修復についてちょっと近くだった物だから
 …あ、そうじゃなくて…ええと、一課の皆さんあの…」

と言い、あやめは彼女たちが「十条弥生のパートナーと姪である」ということを
告げてみた、これはあやめにとっても効力があるのか判らない事だったが、
何しろ新橋と本郷の間の二年間に臨時で火消しをやった者も居るらしいし
弥生の威光は結構絶大だった。
「いけ好かない女だが、実力は認める」という所だ、そういえば葵には見覚えもある

とにかく本人達が無事でも、回りに少年少女も居たのだから今後は無茶をするな、
と説教を受け、あやめのジェスチャーで「とにかくここは素直に」と言う事で
通り一辺倒な「ごめんなさい」をして解放された。
武器の不法所持や公務執行妨害の他に殺人未遂まで加わったのだから
「こっちとしても助かった」という一言も引き出せた。

ちなみに裕子の怪我は速攻で「無かった事」に出来るレベルであった為
話題にも上らなかった事を付け加えておこう。



「いやー…正直助かったよ、私も旭山記念公園で補修の人に質問攻めだったし
 何だかんだ被害ゼロだし上手く解放された、ここにいてくれて有り難う、
 葵ちゃんと裕子ちゃん」

場所をちょっとずらしてランチを再開するみんなにあやめも合流しつつ
中里君がちょっと事件の匂いを嗅ぎ付けて

「え、旭山記念公園に何かあったンすか?」

あやめがそれに困ったように

「まぁ、ちょっと衝突事故があった…と言う事にしてくれないかなぁ」

「よしお」が吹き飛ばされ激突し、破壊した部分のことだ、
補修の人達はどの方角からどんな勢いでぶつからないとこうはならないと言う感じで
単純な事故という説明を懐疑的に見ていたのでとにかく自分も到着して
その状況を見ただけだからよく判らないと言うほかは無くてほとほと困っていたところへ
要請された応援であった。

あやめがここでも質問攻めかなぁと思ったところに救いの電話…本郷からだった。

「あ、ゴメンね、上司から電話が…(席を立ち、背を向け遠ざかりながら)
 はい、富士です…ええ、いえ、たまたまですよ…参っちゃいました…」

その様子を見送りながら

「あの人なんか苦労しそう」

と、里穂が呟いた。
葵と裕子も何となく異論無く感じて微笑んだ顔を崩せなくて何も言えなかった。

あやめが戻って来つつ電話を終え、

「ねぇ、みんな今日は公共の交通機関で来たのかな?」

クラスメート達が口を揃え

「はい」

「えっとね、今日これから予定は?」

あやめが聞くと、里穂が

「朝イチで北海道神宮で…動物園行って…で、今これで…この後は
 歩きでフラフラ行けるところ行こうかってくらいです」

「そっかぁ」

続いて中里君が

「あ、オレ、ゴメ(と言って駒込君を指さす)とオレのイトコんトコ…
 藻岩山のほうなんスけど、遊びに行って泊まる事になってます」

「南の方角か…そっちなら大丈夫だな…いや、あのね…今の奴一人じゃなくて…
 もう一人仲間が逃げててこれが創成川通りを北上してるらしいって言うんだ、
 みんなあの学校の生徒さんって事は私立とは言え大体北区か東区のお住まいだよね?
 だから今日北区か東区に帰る子達は、申し訳ないんだけど私送るから、
 今日はこれにて解散って事にしてくれないかな」

あやめが申し訳なさそうに言ったが、折角警察が居て葵の知り合いで
送ってくれるというのだから異存はないと言う事で、あやめの車の所まで
全員で降りてから、男二人は南の方角へ、
そして残る合計六人な訳だが…

「うーん、13歳が四人は法の杓子定規で四人だよなぁ…w」

と軽く悩むあやめに裕子が

「「もし」の場合はわたくしが皆様を守りますわ、
 「あっ」と思った瞬間にでも守りの詞が展開されますわよ?」

そして葵も

「ボクと田端さんと綾瀬さんは小さめだから12歳以下って事にしちゃえばいいさ」

葵が屈託無く言う。
あやめが苦笑しつつ

「制服だと誤魔化しきれないけど、私服だし…ま…いっか…ホントにでも
 裕子ちゃんと葵ちゃん、私が悪くなくても事故る時は事故るからね、
 そんな時は先ずお友達を守ってあげてね」

「はぁい」

葵と裕子が揃っていい返事をする。
里穂達はあやめは苦労しそうだけど、でもちゃんとすべき事もする
強く忍耐強いタイプなのかなと思った。

助手席裕子、後部座席に中学生四人という編成で車は走り出した。



時間を同日午前に戻そう、朝の九時頃、弥生の家に阿美が訪ねてきた。

「ああ、弥生…ゴメンナサイね、そんな大した用事でもないんだけど…
 あら? 日向さんは?」

「クラスメートの子達と圓山動物園とか行こうって約束してたみたいで
 一応保護者枠として姪の裕子同行させて…帰りは夕方か夜前じゃないかなぁ」

阿美はちょっと嬉しそうに

「日向さんもお友達と遊び歩いたりするようになったのね、こないだの
 栄川品中の子の祓いの影響かしら? 凄く気に掛けてたようだから」

弥生は優しく微笑んでコーヒーを振る舞いつつ

「ええ、もうちょっと友達を大事にしようって、思ったみたいよ
 気に掛けてくれて有り難うね、阿美」

阿美は軽くハートを射貫かれ

「久しぶりだわ、貴女にキュンキュンさせられるの」

「こないだ別れ際にキスしたじゃない」

「アレはだって、ちょっとスキマ埋まっただけだもの」

二人は見つめ合い、弥生が

「用事を先にする? それとも先ず…三年ぶりくらい…?」

「あら、一年半前に一回あのホテル使ったでしょ?」

「そうだっけ、でも、結構それでも間が開いたわね」

「お互い大人になっちゃったからねぇ…」

と言って二人はキスを始め、一気に心の温度を上げていった。



二人が肌を重ね合う事自体は一年ちょっと間が開いたりするモノの、
ままあったことだが、大体それは「お互いの時間的事情」もあり
軽く一・二時間程度という感じで、四半日は求め合えるなんて状況は
それこそ数年ぶりであった。

恋人にこそはならなかったモノの、二人の体やエッチの相性は
特に阿美にとっては今でも弥生以上の人に出会う事はなかった。
本当はちゃんと恋人なり欲しいなと思っているし、探す努力はしているし
それなりに付き合ったり、肌を合わせる事はしていても、どうしても続かない。

それでも「恋人とは違うのよねぇ」という風に弥生の事を阿美は思っていたし
弥生も「恋人になってしまうとすれ違うだろうなぁ」という予感があったので
二人は物凄く近い距離にありつつも14年、ついぞお互いを「恋人」とまでは
位置づけなかった。

でもその、一歩退いたカンジが上手くゆく秘訣なんだなとも二人は思っていた。

だから、肌を合わせる瞬間とその時は凄く大事にしていた、
少なくとも、お互いは大親友であることには変わりはなかったし。

阿美の弥生をリードするような体勢に持って行きつつ、自分が主に気持ちよくなりたい、
みたいな阿美の我が儘を弥生はかわいいと思っていたし
自分も攻められるようで攻める、自分も気持ちいいけれど、それより相手を多く
イかせたいというやっぱり何というか、相性が良かった。

二人以外誰もいない、と言う事で遠慮なく、真っ昼間にもかかわらず
二人は燃えたし、主に受けに回る阿美は遠慮なく喘ぎ声をあげた。



昼下がり、流石に四半日愛し合って阿美はへとへとになり、ベッドに横たわる。

改めて弥生がカフェオレを作り、阿美に差し出す。
気怠そうに、でも久しぶりに大満足したって感じに起き上がった阿美は
微笑みながらそれを受け取り、一口飲むと、タバコをくわえた弥生が
阿美にもどうか、と箱からせり出したそれを勧めてきた。
阿美も喫煙者なので、それを少し伸びをして口で受け取り、弥生が火を付ける。

気怠い、全く大人な午後のひと時であった。

「ふぅ…こんなに燃えたの久しぶりで何かちょっと眩しいわ…」

阿美の気怠い一言に、弥生はふふっとその頭を撫でながら

「まぁ西日は入るから、そろそろ寝てると眩しいかもね…、
 レースのカーテンだけ引くわ」

裸の弥生が立ち上がり、窓辺に立ちそのように薄手のレースのカーテンのみを引き始める。

「ただいまー」

と言う元気な声がした、葵だ。
ベッドルームはどうせだからと解放してたし、予定では裕子も一度実家に帰るかも
と言う事だったので、少々早い帰りだけど、まぁ葵クンならいいか的に弥生は
何も気にせず(阿美はちょっと恥ずかしそうである)

「あら、早かったわね」

とにこやかに玄関の方へ声を掛けると、やって来た葵が顔を真っ赤にして
「うわっ! ちょっと弥生さん!」と言ってる。
何を今更? 私の裸なんてナンボでも見てるでしょうに…と思いつつ、そこへ

「えっ、どうしたんですか?」

と、あやめが固まる葵越しにその状況をバッチリ見てしまった。

ベッドの上の褐色系のだいなまいつ・ぼでーな気怠い女は半端にしか
シーツも掛かって居らず、窓際の弥生に至ってはその引き締まったアスリート系の
美しい体とは言え、全裸でアンダーヘアーも巨大な胸もバッチリ♪

あやめは叫んだ。
「キャー」とか「イヤー」とかそんな可愛らしいリアクションではない。

「うひゃぁぁあああああああ/////////!!!」

弥生が頭を抱えて、「やっちまったぁあああああ!!!」と心で叫んでいるw
確かに予定よりは葵は早く帰ってきたけれど、ちょっと燃え上がりすぎた…と
阿美も物凄く恥ずかしくなってシーツを目深に被った。



「…いえ、まぁ、お二人が十数年来の「そう言う関係だ」と言う事は
 聞き及んでいましたし、私もちょっと取り乱しすぎました」

ちょっとプリプリしたあやめが顔を真っ赤にして弥生をマトモに見られないカンジで
リビングで話し始めた。

二人はあの後急いで一緒にシャワーを浴びつつ、裕子がまた洗濯に奔走し、
葵があやめを落ち着かせていたのだ。

「…ゴ…ゴメン…私達もちょっと油断し過ぎてた…」

弥生と阿美が小さくなってうなだれてた。

「ボクとおねーさんが出掛けたのが朝八時で…先生いつ来たの?」

葵の質問にまた阿美が馬鹿正直に

「く…九時頃だったかしら…」

色々家の中の事をしてた裕子が

「用意して置いたお昼を食べた形跡もないのです…まさか四半日ほどずっと…?」

流石の裕子も驚きの表情で顔を赤らめた、あ、微妙に珍しいかもとあやめは思った。
葵がそこへまた

「ええ? 弥生さんに六時間攻められて動けるの? 先生凄い…さすがだ…」

とか感嘆の言葉を漏らす物だからあやめは赤面が中々取れなかった。

「ま…まぁ…その…色々あって早めに解散になって私がちょっとお邪魔するってこと
 先に連絡しなかったのは私の落ち度でした…はぁ…すんごいモノ見た…」

あやめの言葉に弥生が恐る恐る

「じゃ…じゃあその…何があって早めの解散になって裕子やあやめさんが
 来る事になったのか…そこ…先ずいいかしら…」

とはいえ、葵以外はみんな気まずそうか顔を赤らめていたかなので
葵が今までの経緯を教えた、拳銃不法所持犯を裕子と二人で取り押さえた事、
裕子が合気道黒帯とは知らなかった事、詞の詠唱もかなり早くてビックリした事、
近くに居たあやめに応援要請が掛かって偶然合流できた事で拳銃不法所持犯が
もう一人いて東区から北区に掛けてのどこかにいるらしい事であやめが
車で送る事になり、ピクニックは二時頃には解散していたが、
里穂達を送ったりしてるうち四時前になっていたので、裕子はもう一泊、
あやめもついでにちょっと寄った、と言う事だ。

弥生は恐る恐る

「…あら…、裕子合気何段になった?」

「叔母様と一緒ですわ、それ以上は私的に意味がないと言う事で自己鍛錬のみです…」

「そ…そう…」

何となく気まずい会話の流れに葵が

「それって何段ってこと? 弥生さんもうボクと一緒になった頃には
 道場には通わなくなっちゃってたし、やってたって事しか知らなくて」

そこへ阿美が

「…弥生は四段よ…中三から始めて高校には四段に…」

そこへ更にあやめが

「合気道は流派というか道場にも依るのかも知れませんが、
 基本試験のようなもので上がれるのは四段までです…
 後は鍛練などを積んで、より上級の方の推薦などがあって初めて五段以上が
 取れるのが基本です、そして上限八段まで…名誉階級的に九段があるカンジですね…」

弥生が勢いはないがすかさず

「流石警察、貴女もなにかしら段位は持っているのでしょうし…詳しいわ…」

「…一課の方達が目撃してこぼしてた感想を聞くに四段では済まなそうですね…」

「…だって後は自己鍛錬で推薦制で…それもどうなのかなって思って
 自己鍛錬のみで余り道場の人達とも今あんまり交流無いし…裕子もそんな感じ?」

「…ええその…叔母様の後追いで…」

すこーし沈黙が場を満たした後、あやめがやっぱりぽつりと

「でもやっぱりビックリしました…凄いもの見ちゃいました…」

全員うなだれて、弥生と阿美が

「…ゴメン…」

少しの間の後、葵が

「あ、そういえば先生、弥生さんに用事って済んだの?
 エッチだけが目的じゃなかったはずだよね?」

阿美は恥ずかしそうにしながらも

「ええ…でも…そう…不思議な事件ではあるのだけど…
 大した実害もないし…今丁度連休中じゃない?
 ゆっくり見て貰えばいいかなって思って…一応校長先生から正式な依頼でもあるわ…」

「不思議だけど、大した害もない…?」

流石に弥生がちょっと真剣モードに入った。
今までの空気を払拭するように、目つきと声の調子を変え

「…とりあえずどんな小さな事でもいいわ、教えて」


第一幕  閉


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