L'hallucination 〜アルシナシオン〜

CASE:THIRTEEN - SideA & B -

第一幕

Side A

金曜23時、弥生が羽田空港に到着し、公安権限で荷物は検査素通りで
荷物をしょってロビーに出てくると、そこには

「お久しぶりです、十条さん」

やや疲れ気味の弥生だが微笑んで

「蒲田さんね、御免なさいね、あの時はヘンな事しちゃって」

「いえいえ…でも、祓いの厳しさをあの時覚悟しろと言われたことは役に立ちました」

「一番酷かったのは?」

「祓いの手伝いのために一時見えるようになった事ですかね、…長崎で」

弥生は優しく微笑んで御園の頭を撫で

「そりゃ、最悪なモノを見たわね、でも、それを乗り越えてきた訳だ、
 素質在るわ、大丈夫、貴女なら」

やはり同じ十条の女といえど裕子と弥生では格も違う、何より
最初の出会いがあれだ、やはり「飲み込まれちゃダメ」というあやめの声も
心に響きつつ、顔を赤らめてしまった。

「それで…私はここから深夜バスか貴女の運転する車にでも乗って現地?」

「いえいえ…流石にそれは…この先のロワイヤル・パル・ホテルに
 既にシングルですが部屋を取ってあります」

「と言う事は朝イチで今度は出雲か」

「大変ですがそうなりますね、私も随伴と言う事で部屋は別ですが泊まりますので」

「朝は何時発? 朝イチだろうけど…」

「お察しの通り七時二十五分発です…w」

「五時起きでとにかく朝飯大量にぶち込んで行くしかないわね…」

「丁度朝五時からブッフェがありますから」

「入浴やら何やら準備も終えて六時から45分で詰め込んで30分前には
 搭乗ロビーって感じね」

「えー…今から五時間ちょっとですね…w」

「きつい? そろそろ慣れっこ?」

「ええもう、すっかり慣れましたよ…裕子ちゃんから話聞きました?
 奈良で大きな祓いの後二日ほど火消しに走ってその足で京都に行って今度は
 そっちの祓いと火消しでまた一日半ほどでしたからね…w」

「あやめより酷い事になってるじゃないの、流石東京の公安特備ともなると
 ベリーハードモードだわね」

「今はまだ、若いから大丈夫です!」

弥生はフフッと笑って(その笑顔がまた素敵だと不覚にも御園は思った)
とりあえずホテルの自室まで来た後、

「それにしても幾ら公安権限とは言え…カラスなんて何か役に立つんですか?
 可愛らしいペンダントしてますけど」

「じゃあ、ちょっと部屋の中で話でもしましょうか、二十分くらい」

弥生の部屋にお邪魔して弥生は朝霞を籠から出し、その上に留まらせた。
朝霞はグン、と倍ほどの大きさになる。
「ふぅ」とため息すらついた感じがある。
御園は驚いたが…物凄く冷静に朝霞を見つめながら

「八咫烏…ですか…?」

「ええ、先の動物センターでの悪魔召喚事件の余波で出てきたの
 今回の事でも何か導きになってくれればと思ってね」

「素戔嗚尊に仕えて神武天皇東進の導きをしたカラスでしたっけ」

「結構勉強してるのね、そう、その八咫烏なんだけど、この子はその分霊だから
 記憶としてそれは持ちつつ、また別な存在でもあるわ」

御園は朝霞に挨拶やナデナデをしつつ

「それで…その長いケースは何です? 弥生さんライフルでも使うんですか?

弥生はそのケースを開けつつ

「…ああ、そうか、継いでいたとは言え貴女と会った後に本格的に使い出したから
 貴女は見たことは無いわね…これよ…」

諸氏には言わずと知れた野太刀「イツノメ」である。

「…大きな刀ですね…」

御園は圧倒された。

「…これは私が上級に上がった時に正式に授かったモノなんだけど…
 ずーっと「ここぞ」って時に使うぞって思ってたの、だけど丁度「皆既日食」の時に
 襲いかかってきた悪魔ぶった切ってこれ抱えたまんま寝てから全てを知ったわ」

弥生はその鞘から刀を抜きその刀身を見つめて

「これは遥か鎌倉時代に端を発し730年余りの年を経て私の所有となった
 私は六代目の野太刀「イツノメ」の所有者、この刀には神も宿っている
 歴代の話をずっと聞いたわ、それ以来、なるべく持ち歩くようにしている」

「鎌倉時代からのものって…良く残ってましたね…」

「十条本家は京都だったからね、遺言から所有者に相応しいモノが現れたら受け継ぐように
 守られて…そして明治時代、五代所有者がこれを持って北海道に渡って…
 そしてその死後90年余り経って私の所有になった、切るのは主に詞を載せてだから
 少し細身だけれど未だにこの輝き…私の誇りよ」

御園はまた一つ祓い人の奥深さと、戦う運命にある事を胸に刻んだ。

「…とはいえ一応銃も持ってきたけれど…貴女今回は銃は?」

「あ、今回は大変な祓いになると言うことで携帯しています…
 富士警部補にあやかってP2000を…w」

弥生はニヤッと笑って

「そりゃぁ丁度いいわ、弾使って頂戴、9パラにはそれぞれ万能属性祓いの
 印が記してある、相手が何者かまだ聞いてないけれど、殆どの奴には
 無条件で効くはずだわ」

「あ、その連絡行ってなかったんですね…判りました、明日貴女が対峙すべきは
 八岐大蛇です」

流石の弥生もちょっと愕然とした。

「は? それこそバスター案件じゃあないの?」

「単体ならそうかも知れません、ですが記録によるとたびたび玄蒼域以外での
 出没に際してお供というか…八岐大蛇には勿論劣りますが
 取り巻きもそれなりに出現するそうなんです、出雲には出雲の独特な
 祓いの一族が居ますが、流石に大蛇となると…と言う感じで、
 弥生さんに白羽の矢が…」

「新橋によって立てられた訳ね…こりゃぁ12年前の上級試験の時より厳しくなるかも
 ええと…八岐大蛇八岐大蛇…あった…竜王族なのね…ふぅん…弱点は電撃か…
 銃撃は特に記されてないと言う事は、余程特別な奴でない限りは
 ダメージは通るはずだわ…射撃圏内ギリギリで援護お願いね」

御園もだいぶ緊張してこくりと頷いた。

「もしダメだと思ったら、この朝霞…この子に捕まって安全圏外へ避難して」

「え…十条さんは」

「祓い人が祓うべき敵を目の前に戦略的以外に撤退は許されないわ、死ぬまで戦うまでよ」

いとも簡単にそれを言ってのけたしこの人はそうするだろう、御園はまた
祓い人の恐ろしさを味わった。
弥生はイツノメを鞘に収め、また専用のケース(銃と弾丸もそのケース)にしまい
微笑んで言った。

「何にせよ、推薦を受けて承諾したからには私は決して負けはしないわ、
 普通に送り出してくれた葵クンの為にも、私は出来る限り無傷で帰ることを心がける
 さ、寝ましょう、もうあと…五時間切るわ、私の睡眠ペースは90分だからそこは守りたい」

「…あ、はい、そうですね、それでは朝…六時前にお伺いしますよ」

「ええ、そうして、ではお休み」

弥生の軽い手挨拶と微笑みに
底知れない怖さと共に矢張り感じる魅力に対し、「私抗えるかな…」と思いつつ
御園はお辞儀をして弥生の部屋を去った。



次の日の朝、5時50分に御園の部屋をノックする音、御園も準備万端で今出ようと
言うタイミングで、弥生が先に御園を迎えに来ていた。

朝になって改めて見ると…物凄い重量物…

「十条さん、それ何キログラムあるんですか」

「トランクの方が軽いわね、キャスターも付いてるしさ…
 銃と弾と刀のこっちのケースは…さぁ20kg越えてるかもね」

「うひゃぁ…肩こりません?」

「まぁなので時々右と左で持ち替えてる」

と言いつつ、朝食のブッフェに向かい、弥生は一見良識そうな量を持って来つつ
何度でもお代わりをした。
裕子の食欲も見ているだけに、やっぱり結構燃費が掛かるんだなぁ、祓いって…
と思いつつ、引きずられないように一般的な量で済ませ、コーヒー一杯分の
(御園はジュース一杯分の)休憩を取って、7時25分発の出雲行きに乗った。



午前九時前に出雲空港着、ここから現場までがかなりあるらしい。
空港から外へ出るロビーで「十条ご一行様歓迎」の幕を掲げている人が居る

「…判りやすいけどあれに近づくのは気恥ずかしいわ…」

弥生の呟きに御園も汗して

「そうですねぇ…w」

千駄ヶ谷 代木(せんだがや・しろき)と言うらしい島根担当の特備係だったのだが
御園も名前しか知らないと言う事で気恥ずかしいながらも横断幕の男に近寄り

「やぁやぁ、よこさいお出でくださいました、島根担当の千駄ヶ谷と申します」

お互いに身分証を見せ合い最終確認をしてから

「黒いスーツのすらっとした女性だって言うから直ぐ判ったんだも
 わすりゃー(ひょっとして)って事も世の中には在ーけんね(在りますけどね)、
 ちょっこ目立ちますけど、こー(これ)」

「ええ、そうね、その通りだわ、だから早くそれ片付けてくれる?
 あと…申し訳ないけれどもう少し標準語意識してくれる?
 何となく言いたいことは判るのだけど…」

「ああ、こりゃすんません、いや、こっちに赴任してあっちゃこっちゃ行ってると
 半端に方言混じってこっちの人にもわかりにくいって言われてるんですが…
 年配者の人々相手にするとどうしても方言って必要になりますんで…」

御園がそこへ

「地元の方では無いんですね」

「ええ、生まれは東京なんですが…標準語で喋ると矢張り気取ってるとか
 思われることもあるもんで、スイマセン、なるべく標準語は思い出して使います」

既にイントネーションは取り返しの付かないほど訛りが入っている、
この土地で仕事をすることに一生懸命なんだろうと思うと、二人も微笑ましく思った。

車は目立たない普通の車種の公用車で、運転が千駄ヶ谷、助手席に御園、
そして後部座席に弥生という具合であった。
弥生は武器ケースを開け、銃弾100発の入った箱を二つ、御園に渡し、

「一人ひと箱ね、千駄ヶ谷さんの銃は9パラ使える?」

「あ、スンマセン、僕のは規格違いでやんす」

弥生はそれではとP7と換えのカートリッジも御園に渡し、

「じゃあ千駄ヶ谷さんはわたしのP7使って、グリップがセーフティで
 しっかり握らないと撃てないから気を付けてね」

「あ、何からどうもスンマセン」

そして、信号待ちの時に千駄ヶ谷さんは、自らの銃を車の収納スペースに入れ、
P7と換えのカートリッジを素早くホルダーとポケットに入れた。

「結構手慣れてるんですね、島根って祓いの機会多いんです?」

御園の質問に車を発進させながら千駄ヶ谷は

「祓い弾に類するモノはこちらにもありましてねぇ、ただ、警察で支給されるような
 モノともちょいと違うんで、持ち替えることは多いんです
 出雲独特の祓いって言うのは出雲には結構魔も居りましてねぇ
 僕にも見えるからって結構借り出されるんですわ、ははは」

そこへ弥生が

「手慣れているにしても八岐大蛇となると規格外って事か…どうも戦国時代以来
 現れていないらしいし、その時もトドメは現地の人じゃないフィミカ様だった
 らしいしね…よいしょっと…」

後部座席からごそごそ音がすると思って千駄ヶ谷はバックミラーを、御園は
後ろを振り向いて仰天した、弥生が着替えているのだ。
千駄ヶ谷は余り若い女性に馴染みがないらしくちょっと動揺して
北上中の県道23号線の道路脇に思わず車をリザーブしてしまった。

「…ちょっと、何よこのくらい…胸でかいなー何どーしたら
 こーなるんだろーなーくらいで治めておきなさいよ、ホラ、出発!」

弥生に発破を掛けられ、千駄ヶ谷はバックミラーをなるべく見ないように発進した。
動揺したのは千駄ヶ谷だけじゃない、御園も顔を赤くしながら

「いつものスーツ姿じゃダメなんですか? それとも東京で間違って
 昨日のをそのまま着てきてしまったとかですか?」

「裕子のお陰でこう言う正式で大事なお仕事に着て行くユニフォームが出来たんだけど
 流石にそれでホテルうろついたり飛行機乗るのははばかられたモノだからね…」

そして御園は見た、弥生の左肩から心臓近くにまで乳房まで巻き込んで
切れ目の入った傷やら…ほか、大分薄くなっては居るモノの、かなり傷だらけだ。
思わず痛ましそうにそれを見ていると、弥生が

「…ああ、左肩のはついこないだ…貴女と会うちょっと前くらいに
 相手の動きを武器ごと封じるために体で受け止めた跡なのよね、その他にもまぁ
 色々と…、ほらこれ(右脇腹を強調して)麻酔無しで縫ったのよ、疲れた体に
 これも結構きつかったわねぇ…まぁそんな感じ、私は戦うために生きる祓い人、
 このくらいでたじろがないの」

「…はぁ…、やっぱり厳しい世界なんですね、弥生さんですらそうなんて…」

「いえ、「私だから」って物も多いわよ、裕子なんて綺麗な体してるわよ、
 元々治したりする方特化だからってのもあるけど、ウチの葵クンとかも。
 なんていうか、肉を切らせて骨を断つっていうのが歴代イツノメ持ちの
 持ち味みたいな物でねぇ」

「同じ十条でもやっぱりスタイルの違いがある…と言う事は判るんですが…
 京都で見た裕子さんの戦い…見事でした、相手の力量を測りつつ
 徐々に自分のペースに相手を引き込み、気がついたら王手を取っている…」

「あの子育ったらある意味では私以上になるわよ、イツノメの所持者には
 なれないだろうけれど、初めての場所の地の利まで含めて瞬時にあんな作戦を
 手際よく、且つ天野と四條院に説教までしながらだからね…
 私より指導者としては向いてる子になると思う」

「そうですね…、でも私あの一見ピンチで追い込まれることを演じつつ
 実はそれが勝利への道だった…それが…どう見ても弥生さんからの影響に見えて…
 今日初めて組むのに、おかしな話ですが、あの子には物凄く弥生さんへの
 目標と憧れを感じました」

「…どうかなぁ…私なら無念さんを使いつつ無念さんに食み断ちまで施すなんて
 職人技は出来ない…というか、多分県庁の屋上の段階で祓っちゃってるだろうからなぁ」

「桁が違いますね…」

「ただし、そこに行くまでに私もボロボロになってるのよ、詰まり私は
 泥仕合専門って訳、決して褒められた物ではないわ」

県道23号から左折、国道431号線に乗りやや西南西と言った感じに進む。
まぁちょっと窮屈そうではあるが、何とか出雲大社の近くで納得いったようで

「よし、ちょっと折角だからお参りして行きたいのだけどいい?」

と来て、千駄ヶ谷は近くに駐車場を探し、

「何とか巻きました(時短出来ました)んで十分二十分ほどなら」

「よし、刀剣については御園、公安権限でヨロシクね」

「えッ!」

弥生が車から降り、右肩に朝霞を載せ、左手にはイツノメ。
巫女衣装ながら色合いがスーツの弥生と同じように配色されたそれ、
千早まで羽織り、色違いだがそれは確かに巫女だった…ブーツ以外は。

髪飾りまでして居て、大きすぎず然りとてその黒髪に映える金細工…
しかも車内で化粧までしていたらしい、美しかった。

千駄ヶ谷も御園も頬を染めた。

「確か出雲は二礼四拍一礼だったわね、よし」

参道を前に鳥居に一礼する所からしてもう何かの行事のようで回りがざわついていた。
右肩にカラス、左手に野太刀、目立つ、何て目立つ人なのだろう。
しかもその目つき、一般人のそれでは無かった。
戦う人の目だったのだ、迂闊に声も掛けられない、でも目立つ、そう言う意味で
ばっしばし写真に撮られていたが、気にもせず、参道を進んで行く弥生。
後に続く千駄ヶ谷も御園も「並んで歩いちゃ悪い気がして」少し後ろを歩いていた。

弥生は迷うことなく拝殿に向かい、賽銭と共に二礼四拍一礼を綺麗な動作で済ませ、
千駄ヶ谷と御園がその後に続くが、参拝を終えて弥生を追おうとした時、
弥生は宮司よりは下なのだろうが結構な立ち位置の人に話しかけられていて、
弥生は二人を手招きで呼んだ。

「これが今回の公権力側…そちらの方は現地集合って感じのようね」

権宮司の男はそれに応え

「記録にある魔の出没の前兆に依りますと、今回は
 八雲山・坪背山・太々山・竜山・青木平・天台ヶ峰・弥山の七つを囲う領域より
 濃くなっているとの話が御座居ます。
 鷺峠と呼ばれる少し前より猪目町という山地がありますが、その近辺と思われます」

弥生が千駄ヶ谷に地図を見せて貰って

「成る程…水害の権化としての大蛇ではなさそうね…ここも近い…」

権宮司がそれに応え

「はい、なので我々はこれより結界を張る事になります…とはいえ、相手は八岐大蛇
 …何卒、この大社をお守りください」

「言われずとも判っているわ、山地に出没するというのだから、山火事にだけは気を付けて
 多分今回現れる八岐大蛇は「赤く溶けた鉄」に纏わる方の大蛇だわ、
 各消防署には準備をさせておいて」

「判りました」

権宮司が頭を下げると、弥生も頭を下げ、釣られて千駄ヶ谷も御園もそうした。

「バラバラで居るはずはないわね、多分この…峠の二俣に別れた所にある
 バス停辺りにでも何らかの目印があるはず、行きましょう」

弥生がそう言って、颯爽と歩いて行く。
とても現代人とは思えない、その隙のなさというか無駄のない動き。
千駄ヶ谷も御園も後を追って(弥生は結構早足だった)恐らく集合場所なんだろう
そこへ向かった。



再び車に乗り込んで、鷺峠の手前の二俣の道の所へやって来た。
降りて弥生が表情を曇らせた。

「…何てロケーション…動物センターが近くにあるわね?」

千駄ヶ谷が驚いて

「あ、はい、鷺峠のバス停のところに…」

「アナタは現地の祓いとは接触の有る人なのね?」

「ええ」

「じゃあ、先にそっちに行って動物たちの様子をしっかり見守るよう、
 或いは厳重にするよう言ってきておいて」

と言った時、反対車線側から野袴に動くことをメインとした和装で、
頭巾と面を被った者達が出てきて

「気付かれましたか、心配はご無用です、既に魔の気に対する結界は張っております」

弥生は一礼をしてから

「何の因果からかアナタ達のお手伝いを任された十条弥生、宜しく」

その祓いの一団の中でも頭領格なのだろう男が面を外し

「こちらこそ…出雲の事は出雲の者達で片付けたい物なのですが…
 流石に八岐大蛇…下手をすれば全滅です、それだけは避けなければなりません」

「ええ…、こちら東京の公安特備課の蒲田御園さん、まだ若いけれど
 結構な修羅場はくぐってきている様子だから、戦いにも参加して貰うわ、
 今回は山地が舞台と言う事で火消しもホントの意味の消防くらいでしょう、
 兎も角出雲大社や動物センターと行った場所に行かれるのが厄介だわ、
 なるべく狭い範囲で収めましょう」

「はい」

出雲の祓い集団(六人ほど)がお辞儀をし、集団の一人が

「では…最も出現率の高いと思われる所まで案内致します、
 かなりの山地なので足下など気を付けてください」

千駄ヶ谷は緊急で停車できるスペースを見繕い、「公用での駐車である」旨の
プレートを見える位置に置き、山地に分け入る。

そう言えば、弥生は車内で千早は脱いでいた。
髪飾りも外していた、山地で動くことを念頭にした出雲の祓いとは装いの違う
馬乗り袴を少し動き重視にした袴と、やや派手目とも言える白衣(水色だけど)
大丈夫なのかな、と御園は思いつつ、自分のスーツとヒールはほぼないが
パンプスという出で立ちも大概かな…と思って苦笑した



直線で一キロメートルほどの距離…を大した勾配ではないとは言え
道なき道を歩いてきた特備組はヒーハー言ってた。
弥生がその様子を微笑ましく見つつ

「なるほど、やーな感じが渦巻いてるわね…地鎮は済んでる?」

「ぬかりなく…」

「いい仕事ッぷりだわ…それにしてもいつ出現してもおかしくないのに
 ヤケに詰まってる感じがあるわね…何かしら」

「そこが我々にも判りませぬ…貴殿でも判りませぬか」

弥生は考えた…そして呟いた。

「ひょっとして…」

出雲の祓い組が全員声を揃え

「何か心当たりがおありですか !?」

「そう言うレベルの心当たりだけれど…今…札幌市では玄蒼市に端を発して
 外の世界…いわゆる普通の世界用に翻訳された悪魔召喚の影響で
 人間界と魔界の間に出来上がる魔階(フロア)が出来つつあるの…
 あるいは…「せーの」で両方動くように連動している可能性が…」

「連動と言う事はこちらも魔界絡みだと言うのですか? ナニモノかの手引きで?」

祓い組頭が聞いてきた。

「いえ…うん、可能性はゼロじゃ無いにしても…魔を呼びやすい土地柄って在るじゃない?
 そう言う意味の連動で今回は出雲なのかなと…ひょっとして京都の魔が現れた事件
 というのもキッチリ時間を追えば札幌での魔階(フロア)事件に連動していたのかも…
 魔界の方も色々と力関係の綱引きがあるようなのよね…
 今まではそれを玄蒼市で晴らせば良かったのだけど、人間側…バスターがチカラを
 余りに強く持ちすぎたが故、或いは魔を呼びやすい土地に対して大暴れしたい
 フラストレーションを溜め込んでいるのかも…」

頭領が溜息をついて

「三家とは距離を置き今の今までやって参りましたが…そろそろ連携が
 必要な時期なのかも知れませんな…その…玄蒼市と「魔界・魔階」と言う物に
 ついて我々は学ばなければならないことが多いようです」

「まぁ祓いの立場として知っておきたいくらいはいいんじゃない?
 今更国譲りだなんだで「やまと」に恨みもヘッタクレもないというなら
 きちんと公安管理の下動くことをオススメしておくわ。
 私は所詮は大和側の人間だから軽く言っちゃうけれど、「日本」という統一された
 国号を持つ一つの国になった以上、必要なことは受け入れないと」

その言葉に矢張り思う所はあるようで出雲の六人衆は少し俯いた。

「ここ…電波届くかしらね、もし何なら、札幌と連携取らないと不味いかも」

ヒーハー言ってた千駄ヶ谷さんが組み立て式のアンテナを立て始めて

「これで…ちょっとはマシかも…」

弥生は半分呆れつつ

「なるほどw そりゃ疲れもするわ」


第一幕  閉


Case:Thirteen 登場人物その1

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