0079_02

9月も半ばを過ぎるとジオンサイドは騒然となった。
名前だけは知られていたV作戦の全容とその成果の報告が上がるたびに
不安の色も濃くなっていった。

「…こんな事を大隊長である私が言うのもなんなのだが、
 木馬が地球に降りてくれて助かったよ…その間の調査追撃はほぼ
 ドズル指揮下シャア少佐が受け持ちで…それでいてあの損害…いやはや」

各方面の現場単位での記録ビデオをチェックしながら
(公式には士気の低下を招くと言うことで禁止されたが、それでも出回った)
ウィンストン・ウィンフィールド大尉が

「…動きは完全に素人だが…なんつー機体性能と火力の武器だ…
 どうも試作機全振りらしいから量産型はモンキーモデルになるんだろうが…
 マズいな…兵装を全面的に見直すかしないと…」

「丁度重力戦線向けにグフとドムが投入されるタイミングだが…
 それで果たしてどうなるか…だね」

「ドムの方は宇宙戦用ももう少しで上がるんだったか?」

「ああ、幾つか受領は出来ると思うが、矢張り乗るかね?」

少佐から中佐に上がったモール中佐の言葉に大尉は

「いや、オレのはとにかく部品の交換とチューニング、兵装だけ少し新調して
 欲しいくらいかな、ともかくオレも部下には生き延びて貰わにゃならん、
 白いヤツの練度が並みのパイロットくらいであれば、オレはまだ何とかなるよ」

「しかし、幾ら改修を繰り返しても、君の愛機も05じゃあないか、限界があるよ」

「あの装甲を破る武器や戦法さえあれば…とりあえずオレは何とかなるかな」

「そうかい?」

「そこそこ自信はある」

そこへケントが割って入ってきて

「あ、オレはよぉー、06Fのままでいいや」

二人はビックリして

「オメーが一番怪しいんだよ、頼むよドムに乗ってくれ!」

「そうじゃぁーねーんだ、なんつーかオレ…
 敵を追うにはつくづく向いてないっていうか、それを思ったら
 周りの同期のアイツがそろそろマガジン0だなとか、アイツのヒートホーク
 そろそろ残量0だなとか、そっちの方ばかり気になるんだ、
 オレよぉー、詰まりは現地でみんなの補充係になりてーのよ」

以外に思慮深いその提案に大尉はツッコみそうになったが中佐は重く受け止め

「…確かにこれから戦いも激化するとなると全体の補給の前に
 目の前の戦闘での補充が肝になるかも知れない、
 ロスマンズ君がそれにいち早く気付き、仲間に武器弾薬をその場で
 補充出来る役割が出来るのなら…」

「…しかしそれでは矢張り06Fの機動力じゃ無理だ、多少カスタムしたとしても
 あっちこっち飛び回るわけだからドムと同等以上でなければならなくなる、
 ザクでそれは無理だ」

「うむ…「かもしれない」…とりあえず半コンテナを背負う形でロスマンズ君の
 思うような動きを何となくの形で良い、途中までして貰って
 皆に話しかけ半分取りに来て貰う形で運用してみよう」

「周波数合わせられたら貯まらんぞ?」

「敵にそこまで余裕があるかどうかだな…何か他に手段もあれば他の皆も
 提案があればして見てくれ給え、あのビーム砲の威力、
 今までのように弾薬やエネルギーポッドの補充を体に装着していたのでは
 誘爆の恐れもある、なるべく軽く、欲しいときに欲しいモノに手が届くなら
 それが一番いいからね」

なおも悩む大尉に、中佐は

「とにかくどこかで一戦、そのやり方を試してみよう」



「サイコミュをとにかく機動力や通信への転化が出来ないかですって?」

イトカワ設計局にスーツ姿のモール中佐が現れたのだが、
ロン局長へ直談判の積もりが彼の目の前に居たのはその娘であった。

「いや、申し訳ない、准将が亡くなっていたとは知らず…彼はダイクン氏が
 大学で活発に活動をされていたときの先輩で私は後輩、
 「ニュータイプの可能性」についてあれこれ質問や談義をして居たので…」

「ええ、ニュータイプの「可能性」についての話は父から聞いていた。
 それが必ずしも戦いを基準とする能力とは限らないと言うことも勿論ね、
 だから貴方が言いたいことは良く判るわ、
 そしてグラナダに直訴しても直接大戦力にならないような物はないだろう
 と言うこともね」

「私の部下に、間違いなく素質がある者が居るんだ、ただし
 軍の欲しがるような方面の能力ではない開花なのだが…」

「詳しく聞かせて」



「なるほど…なるべく余計な可燃物を持たせないために、志願したその
 ロスマンズってのを試しに配備してみたらビンゴって事なのね」

「だが、多少チューニングをした06Fでは足りない、
 それなら判っている人に何かとにかく作ってみて評価をしてくれまいかと…
 この有用性が認められれば今使う以外の武器弾薬の携行をせずに済む、
 誘爆の恐れが減る、それだけでも生還率が上がる」

ルナは紅茶を勧めながら強く

「皆まで言わなくでも判る、しかもこの局面、なるべく急ぐって事よね?」

「まだ敗戦が濃厚というわけではないが…その可能性…連邦の量産型新MSの
 出来と投入量いかんでは一刻をも争うかも知れない」

「…判った、丁度デブリ集積のシロナガスの方が付近を掃除中のハズ、
 こちらに父が設計の一部に携わったブラウ・ブロの図面がある、
 ジャンク品とにらめっこして効率はともかく試作品作ってみるわ」

「おお、こちらは日本と繋がりがあるのですな?」

「ウチはただの設計じゃなくて細かい部品の一つ一つに至るまで
 発注出来るし、小規模だけどグラナダに工場もある、
 ニュータイプとやらの「可能性」というのも興味があるの、
 なに、どちらの軍にもそれなりの言い訳はしてでもやってみせるわ。
 ウチの局でも数少ない一から十までの品になるわ」

「とりあえずゲルググの受領を後回しに引き換えた「カスタマイズ分」
 の予算は引っ張ってきてあるのだが…」

「足りるとは思えないわね、局長継いだときにはそういうの、断ろうと思ったけど
 これに関しては意義が意義だわ、ただ、突然の要求に
 貴方の個人的な財布で答えて貰わないとならないときは覚悟して」

流石に個人で払うには余りに大きくなるだろう出費にモール中佐は汗したが

「…殺し合いの中で生き延びるための出費、生きてこそなのだから
 私もそこは腹をくくろう」

「良い上司だわ、軍人には向いていると思えないけれど」

「良く言われるよ、たまたま士官から始まって部下になってくれた者のお陰で
 今ここまで来られたが」

「良い部下にも恵まれたのね、それは益々何があっても生き延びさせないと」

「ああ」

二人は立ち上がり握手を交わし

「では後はこちらに任せて、とりあえず「掃除部隊」に連絡だわ」



月の周回軌道に乗った「シロナガス」の内部にルナは専用の作業用05で
ジャンクを漁っていた。
ジオンでの修学時代に廃棄寸前のを引き取り、装甲を落とし、
武装を止めておく場所などを廃し、軍用とは差を付けるため、実習も兼ね
頭部のみ再設計の上製造したものである。
バケツを引っ繰り返したような頭部である事から皆からは「バケツ」と呼ばれた。

軍用機に満たない程装甲を落したそれは出力その物はそのままと言うことで
大荷物を運ぶような作業には向いていた。

『お探しの物はありそうですか』

「悪いわね、本来なら既に二箇所の集積場に投棄してしまうのでしょうけれど
 それだと各メーカーが我先に使えそうな物漁ってゆくからさ…」

『概算設計を拝見させていただきましたが…MAのような規模に近いですね…
 そんな大きさの破片はそう簡単には…』

「まぁ最悪継ぎ接ぎになるんだけど…PCBやチップ・プロセッサ・パターニングから
 心臓部に必要な物はもう全部日台連合に発注掛けたし…
 後は使えそうな関節や推進装置やら…」

『しかし、概算とは言えそれなりの設計図をこちらに渡して大丈夫なんですか』

そこでルナは少し作業の手を止め

「…多分…基本的にはMSにはスピードと反応速度、そしてより高火力が
 求められて行くんでしょうね、ニュータイプもそう言った方面の才能が
 求められるのでしょう、でも、なにか違う気がする。
 サイコミュニケーターについてはあたし自身手探りだから
 その辺もいじり直さなくてはならないのでしょうし、
 「支援専門ニュータイプ」…もしそういうのが成り立つなら…
 ジオンだ連邦だって話の前に全人類で共有して見て欲しくてね」

『ともかく、そのままでは貴方の権利侵害しますのでこちらでも研究しますよ』

「そうして、別に相手黙らすのに殺す以外の方法があったっていいはずだわ」

会話の途中でシロナガスに通信が入ったようだ

『リリーさん、ウチの隊長が役に立つんじゃないかっていうデブリを
 捕まえたそうで今こちらに持ってくるようです』

「有り難いわ、さすがにこの残骸の海から宝石拾うのはキツい」



『これよ、何かどうも高機動型の実験でもしてたみたい』

網の三つ分に分散されたそれはザクをベースに大きな推進器を足としたような…
既に人型からは半分外れたような物になっているのだろうと破片から推察される。

「…これだわ、おそらく試作の上制御が難しくて四散したのね」

黒い05カスタムがその三つの荷物を背負いつつ

『それでこれを直接渡せばいいの?
 貴女のラボの所まで持って行く?』

「こう言うのはグラナダが有り難いんだけど…これがまさにグラナダでの試作
 でしょうからね…一応ジオン側にもサイコミュの別方面での活用を
 打診しては居るけれど、政治的にはドズル様は弱いからなぁ…」

『中将殿には進捗伝えつつ、貴女のラボが良いんじゃない?』

「そうなるか…頼むわ、それ以外に必要そうな外殻用の破片は当たりを付けて…」

作業中にふと05カスタムが

『貴女の05カスタムも面白いわね、装甲や装備箇所削って
 軍事目的でないことを強調しつつ頭だけ新調して…面白い形だけど
 地味にカメラとか一杯仕込んでるわね』

「学友達にはバケツ被りってバカにされたけど、そう、これは頭にだけ
 色々仕込んであってね…モノアイも従来のではなく3Dマップ作るのに
 最適なものを選んで搭載してある」

『それで目の色が違うのか…面白いわ』

「お陰でこう言うジャンク探すときにも多少は有効なのよ…と…
 貴女のカスタムは完全に両手持ち武器のための改装ね、そっちも面白そう」

『連邦と言うよりは日本独自の技術だから多少天辺性能よりは落ちるけれど
 まー、量産品GMくらいは「いらん」と言えるくらいはあるわね、
 カタログスペック上の話だけどさ』

二機はシロナガスからフォン・ブラウン市の外れのイトカワ・ラボの所に
荷物を置いて行きつつ

「いいの? 連邦の白いヤツの量産型名何気に言ったけれど」

『それを最初に確認するのは地上部隊でしょうし貴女は軍属ではあれど軍人ではない
 ま、このくらいは丈夫でしょ』

「そういえば…白いヤツの外見や性能からそのGMはおおよそこうなるんじゃないのか
 って図面引いてみたんだけど、どうかしらね?」

ルナが通信でカスタム05にそれを渡すと

『…貴女は設計の天才ね…あの少ない活躍からよくここまで導き出した物だわ
 一応正解ともどのくらい近いとも言わないけどさ…恐るべしね』

「それが総合的技術者なのよ、あたしはまだ設計局とラボ継いだばかりで
 死ぬ気で色々吸収しなくちゃいけないのよね」

ややも作業を進め、イトカワラボに部品を卸す段階になって

『設計士さん、貴女名前は?』

「あら、貴女からは名乗らないわけ?
 まぁいいわ、ルナ・リリー技術大尉よ」

『私は十條八代少佐、ファーストネームは八代だからヤシロでいいわ
 もし…これから先連邦が盛り返していって…「もし」があったら
 日本での裁判と私の名前をだしてみて』

「じゃあヤシロ、もしその逆があったらイトカワの名とあたしの名を揚げて」

『イトカワ?』

「亡き父の付けた社名、日本人なら知ってるんじゃない? そこからあやかってね」

『ほうほう…興味深いわね、覚えておくわ』



「じゃあロスマンズ曹長、先ずはこのVRシミュレーションで始めて見るわ。
 ただ、実際のサイコミュニケーターも反応するようになってる、
 要するに貴方の力の実測ね、行くわよ」

ひと月半ほどで急造された機体をシミュレートした球体シミュレーターで
実際の戦場からAIを通じてケントの動きに合わせ味方機が動くようになっており
その移動や早さはサイコミュによる実測から機体の性能に合わせてある。
因みにこの場には実験兵器のお墨付きのため603からも二人立ち合っていた。

「お…おう…なんか済まねぇー、艦長、えれぇ事になっちまったようでよぉー」

モール中佐はウィンストン大尉と共にこのシミュレーションに参加していて

「いいんだよ、いや、むしろ君のような人物が私の部隊から出た事は望ましい」

「そーだなー、オレも部下の損耗は抑えたいし、その為に相手の攻撃力だけを
 削ぐように訓練して行きたいからなぁ、下手にあちこち爆発なんてしてたら
 ジオンにとっても連邦にとっても無駄な混戦招く」

「では、スタートするわ」



「全工程終了、お疲れ様」

VRカプセルから出てきたロスマンズ曹長は少しふらついていたが

「結構気疲れすんなぁ…でも最後の方はちょっと動きも良くなってたぜぇー」

「何しろ前例のない事にサイコミュニケーターなる物もちゃんと動くのか
 調整しながらだったからね、でも、お陰様でだいぶ調整出来たわ」

ルナが記録を整理しつつ語りかけると

「大きなMAだと狙われやすい、ビグロに近い機動力を持ちつつ
 ビーム撹乱、或いは多少の被弾ではびくともしないような装甲を纏いつつ
 味方へリアルタイムで弾薬等を補充…なるほど…こういうやり方もあるのですね」

オリヴァー・マイ技術中尉が感心していると

「確かにシミュレーションの範囲では調整もしながら工程終了まで来られたけれど
 実戦だと曹長の疲労も計り知れないわね」

モニク・キャデラック特務大尉が懸念を表明した。
ルナはケントの精神データを分析しながら

「…彼自身の慣れや成長に負うところも大きいわね…
 後はもう実戦に出てみて稼働時間含め調整しないと…
 サイコミュの方はどうも一定の設定ではなくある程度ロスマンズ曹長の精神に同調する
 ようにプログラムで調整し直さないとならないわ」

マイ中尉は少し興奮気味に

「私的には継続して試験をしてみる価値はあると思います、
 問題は矢張り少々機体が大きすぎてエンジンや出力系統はもう一回り大きくした方が
 稼働時間の延長に繋がる事でしょうか、その部分だけ守りも堅くして…」

「ニュータイプか…戦闘用途向けの方のMAは幾つか技術書を見たけれど、
 オールレンジ攻撃とかそう言う方向ばかり、
 こういうのが実際の戦場では駆け巡ってほしいものね」

「ニュータイプは…未知数ですね、私としては、こういう方向で伸びてくれると
 非常に有り難く感じるのですが」

「ただ、一瞬にして相手を沈黙させられるような物であるなら…それも理想」

「兵器の行く先に限りはありませんね…」

ルナはある程度データとプログラムの変更を行いつつ、ひと息ついたところで

「…残念ながら悠長に技術試験というわけにもゆかないのよね。
 地球ではオデッサもあるのでしょう?
 603の貴方達にも声が掛かると思うし、モール中佐も?」

「ああ、出なければならない、いきなり実戦という形になるだろうね」

モール中佐のため息交じりの言葉にウィンフィールド大尉も

「明らかに旗色も悪くなってきているしな…宇宙に戻ってくる奴らを狙って
 連邦軍も待ち構えるだろうし、始まっても居ない今からオデッサを敗北で
 コマ進めるのも何だが…必要な事だ」

「ボールとジムも配備され始めたね、ボール先行…宇宙空間だし
 モビルポッドというか、これも一つの正解か」

モール中佐の呟きにマイ中尉は頷いて

「機動力も悪くない、ジムと組んでの来襲は…正直キツい物がありますね」

「今から暗くなってもしようがないわ、とにかく実機を見せて、
 一応603からは「実験兵器」としてのお墨付きは与えるわ」

モニクの自分と似たような客気にルナは苦笑し

「郊外のラボになるから…では移動しましょう」





オデッサでのジオンの敗北の後、矢張り宇宙へ脱出する者達に対する
連邦の追い打ちもあり、603含め多くのジオン兵がこれを救うべく、或いは
連邦に立ち向かうべく奔走する事になる。

少しの慣らし運転の後のほぼいきなりの実戦でケントの駆る
「ザク・高機動補給試験型」は操縦者に深刻なダメージを残すでもなく、
ケント自身の「仲間への思い」と「仲間からの信頼」で思った以上の活躍も見られた。

ルナが予想していたほどにはGMの能力は高くはなく、武装もビームサーベル
一つとは言え常備になっているところからモール隊としては主に
ジムの両腕とボールのキャノン部分への狙い撃ちという形で
「退却させ、修理の時間を掛けさせる」事での時間稼ぎをモットーにした。

まだ地上の主戦場はジャブローが残っている物の、時間の問題だろう。

転びようによってはまだ勝利の糸口はあるかも知れないが、
何故かそれを現実の物と捉えきれないモール隊とルナだった。



「603の「お墨付き」のお陰で独自で予算が下りたわ、エンジンの取り替えと
 スラスターの位置と出力調整をするから、数日休みを取って」

ルナの一言で屋台骨となるその名も「屋台」と名付けられたザク高機動補給試験型の
メンテナンスと共にモール隊は少しの間休みとなり、裏側…グラナダではあるが
うっすらとこれが数日のんびり出来るなんて言う最後の日々になるかも知れないと
隊の全員が何となく心に思っていた。

「上手くいきゃ推進力自体上がるからお前の疲労も多少は軽減されるってよ」

カフェのような場所で隊の半分ほどがくつろぐ中、フィッシュアンドチップスのような
とにかく腹に詰め込む系の食事をしながらウィンフィールド大尉が
ロスマンズ曹長へ語りかけた。

「あの技術大尉殿のチューニングって最初の内キツいんだよなァー
 まるで「アンタがこの戦いで成長しなきゃ皆の命が掛かってるのよ!」
 とかケツ叩かれてるみたいでさぁー」

場が笑いで包まれつつ、同僚も

「だがお陰でバズが欲しいとかサーベルがいいとか欲しいと思ったときに
 来てくれるんだ、俺たちゃ大助かりさ、残りもお前に預けていられるし」

その部下の言葉にウィンフィールド大尉も

「オレ達の部隊はヒットマークを稼ぐようなエース部隊じゃあなくていい、
 向こうに整備の手間を掛けさせ、敵MSを退却させ収容させる手間さえ
 掛けさせればそれでいいんだ、大昔みたいな生きるか死ぬかだけでない
 勝ち負けがあったっていい、いつでも判定勝ちを狙う、オレ達のモットーだな」

部下の一人が

「開戦初期なら許されなかっただろうが、MS戦になっちまったらなぁ」

「マゼランやサラミスも下手に沈めたらあちらさんも帰る場所がなくなるから
 やけっぱちにもなる、砲塔やミサイル発射口だけを潰せばあちらさんも
 帰る場所はあると油断誘えるしな」

ウィンフィールド大尉が頷き

「そういう戦があってもいい、そう言う勝ち方があってもいいよな
 そう言う意味じゃあのルナ・リリー技術大尉のケントへのケツ叩きも
 無理のない範囲のようだし、なかなかいいトレーナーかもな」

「オレあの女苦手だけど、確かに使って行くウチに丁度良くなるからなァー」

「あの技術大尉の親父さんが艦長の馴染みだったらしいんだが、
 あのキツい性格の割りに理解のあるヤツだよな、リリーなんて家名だからか」

再び場が笑いに包まれるとそこへ一人の少女に見える女性が

「あのそれって、ベリーショートでメガネのキツい目をした…」

ケント曹長がそれに

「お、ルナの知り合いかよォー?」

「まるでルナの対極に居るようなお嬢さんだな」

また場が笑いに包まれると

「これでもあたし19だよ?」

「げ、オレより一つ上かよォー?」

ウィンフィールド大尉はヘルメットの時以外はいつも被っている帽子をとって
立ち上がり軽く頭を下げ

「そりゃ、悪かった、オレはウィンストン・ウィンフィールド大尉、
 こっちはケント・ロスマンズ中尉、オレ達は「モール大隊」のものだ」

「あたしは、アイリー・アイランド、まだ階級はついてない。
 フラナガン機関って所から、ちょっと息抜きにこっちに来たの」

フラナガン機関、なるほど、同じニュータイプでも、殺す方かと思いつつ

「でもさ、あたしのやり方は消極的すぎるって怒られちゃって、
 年下でもっと凄い子も居るから大変だよ」

「ウチの部隊に来ればケントと交代でいい感じで行けそうだな、そうなると」

「あー、そうなると楽だぜー」

「え、フラナガン機関を通さないニュータイプ施設があるの?」

「報告くらいは行ってるんじゃないのかな、詳しくは知らねぇが…
 ケントの場合は思いっきり実戦で伸ばしてるから…なんと言っても
 味方への武器弾薬の補充・補給を足りなくなるかなってタイミングを
 察知して届けてくれるんだ、お陰でウチの部隊は損耗率が著しく低くてね」

「いいなぁ、あたしも、そういうのやりたい」

「やっぱフラナガンじゃそうも行かねぇのなァー」

ケントも声自体は掛かったのだが、何しろリアルタイムで部隊運用絡みという
難しさから断った経緯があるのだ。

「あっちは殺伐としてるねぇ~、モール大隊だっけ、行きたいって言えば
 配置してくれるかなぁ?」

「どうかな…オレじゃ約束は出来ないがアイリーたっけ、お前さんの事は
 艦長には…大隊長には聞いてみるよ」

「お願い出来る? ヤなんだよね殺してめでたしって」

そこでウィンストンは少し思案顔で

「…だが…余り反抗心は今は出さない方がいい、
 大人しく従うと見せて実際にどこかに配属…と言う段階になってから
 その気持ちを発揮させてもいいんじゃないかな、
 どのみちこれは戦争だ、最終的には白黒付けなくちゃいけない訳だからな」

「お、ウィンストンが優しいアドバイスだぜぇー、アイリーったっけ
 おめー結構気に入られたかもなぁー?」

部隊の回りもはやし立てる、ウィンストンは帽子を目深にして

「うるせぇうるせぇ! お前らだってこういう女に人殺しマシーンになんて
 なって欲しくないだろーがよ!」

そうなると、やはり深く同意出来る、

「白黒付けるのに圧倒的でなくてもいい、判定勝ちでもいいハズなんだ、
 オレ達の部隊はそれがモットーでね、お陰でエリート部隊なんて
 持て囃される事はないが、損耗率の低さで成績稼ぐ感じだよ」

「うん、やっぱりあたし、貴方達と働きたいなぁ、希望だけはしておこう
 そしてやっぱり…訓練は訓練だよねぇ…割り切らないと」

「多かれ少なかれオレ達の部隊だって結果的に殺し合いはしてるんだ
 手を汚す事そのものに躊躇してたら、居場所がなくなるからな」

「そーだねー…あ、じゃあそろそろサイド6行きが搭乗開始だから、行くね」

「おう! オメーと組んで仕事出来たらよぉー、オレも部隊も楽だぜー」

部隊の皆に見送られ、アイリーは笑顔で去って行った。

「あの技術大尉殿も色んな繋がりがあるんだな、
 アイリーとはどの程度関わってるんだろうかな、フラナガン機関に
 出入りのある様子はないが」

そんな時にケントの電話にルナからの着信が

「ん、おおー大尉さんよぉー、どうした?」

『許可が下りてね、貴方のパーソナルカラー何にする?』

「パーソナルカラー?」

そこへウィンストンが

「シャアなら目立つ赤、ライデンなら深紅、マツナガなら白、三連星は黒とか」

「え、参ったなぁ、急に言われても浮かばねぇや」

『貴方の短めのモヒカン見たいなオレンジでもいいのよ』

ルナが大きめの声で言った事もあり、周りが大ウケ状態だが

「いや、補給係が目立ってどーするよぉー、あ、そーだ、
 アッガイッたっけ、なんかステルス塗装とか言うヤツ、あれにしてくれる?」

ウィンストンが半分感心・半分呆れたように

「何にも考えてねーようでオメーもキッチリ色々考えてるなぁ」

『アッガイのは特殊だからあれと同じような茶色主体になるけどいいわね?』

「おう、かまわねー」

『では、そうするわ』

「あ、ちょっと待った待った」

『うん? 違うのがいい?』

「ちげー、アイリーって知ってる?」

『…ええ、一度会ったきりだけど、当時本格稼働始めたばかりのフラナガン機関に
 行ったみたいだから…貴方とは違う方向に育てられてるんでしょうね、
 会ったの?』

「ああー、ウチに来たいってさぁ」

『…でしょうね、あたしの方からも彼女の適性がケントに近いなら
 似たようなタイプのMSでの似たような活動推してみるわ、フラナガンに
 知り合い居ないのがちょっとキツいけれど』

「何とか頼むぜぇー、オレ達の方も艦長通してお願いするつもりでよぉー」

『承知したわ、それはとても大事な事』

電話が終り、もう一日ほどすれば「屋台」受領でまた戦場だろう。
時期にして宇宙世紀0079、12月も中旬に差し掛かろうとしていた。

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