0079_03


「局長、当局へ直接の設計依頼なのですが…」

イトカワ設計局局員が困惑した様子だった

「どうしたの?」

ルナは局全体の設計仕様書に目を通しながらも、別のモニターには
モール大隊へ送った高機動支援補給型の更なるバージョンアップを含め
沢山のモニターに色んな画面が映し出されていて、情報収集や設計や製造に関する
報告・連絡・相談なども準リアルタイムでこなしていて忙しそうだった。

「依頼元が…その、日本国で…特殊部隊専用少数生産枠MSの設計と…」

流石にマルチタスクをこなす訓練の出来たルナですらその全ての思考タスクが
吹き飛んで行くのが判る。

「…なんですって!?」

情報通信用のモニターを使い、同依頼の回線経由のものを呼び出し、
ありとあらゆる「工作の跡」を探した。
しかし情勢を考えても、現在進行形の仕事を考えても、例えアナハイムや
ツィマッドと言った大手ですら多少はその設計や生産における調整や素材回しに
関わっているだけに、「今この情勢が厳しい方面に傾いた状況で」そんな
足を引っ張り相手を陥れる様な工作は考えにくかった。

そして何より、その送信元は明らかに日本で電子透かしも工作なく堂々と
日本国である事を示している、敢えて言うなら「公安・特殊配備」という部署が
浮かび上がる程度…
眉間にしわを寄せるルナの困惑振りに局員も更に困惑を極め

「確かに我が局は軍需だけではありませんし、民間機…船や飛行機の範囲であるなら
 三十年ほどの歴史の中で地球の各国とも取引はあります…」

「…でも今この情勢で…例え中立的立ち位置とは言え、連邦の国から…
 しかもウチでは初期設計には関わった事のないMSの設計となると…
 …ヤシマ重工も製造に参加とあるわね…後は聞いた事もない会社だけれど…
 (検索をしながら)ん…なるほど、取引はないけれどベアボーリングや
 その他精密部品…そしてこれは…なるほど…素材関連のはのれん分けとか
 矢張りウチとは今まで直接は取引がなかっただけで関連会社ではある…」

ルナのマルチタスクが蘇ってくるのが局員にも読み取れた。

「…あの女か…」

「「デブリ宙域清掃」…その関係でしょうか」

「他に考えつかないわ、いきなりこんな事を言い出すなんて、
 モビルスーツ大量生産完成品とは縁の無いウチを設計で指名してくる理由がない」

「しかしこれは…」

「難しいわね…ウチだけの判断で始めるにしても…極秘扱いにしないと
 それこそ策謀の燃料になりかねない…なんて事をいきなり…」

そんな時に内線連絡で

『局長…あの、ヤシロと言えば判るからという通信が…』

瞬間湯沸かしのように怒り心頭に発すると言った雰囲気になったルナが受話器を取り

「どーいうつもり!?」

少し間を置き

『…連邦はこっちに何寄越すにしてもジムのカスタム以外認めないなんて言うし、
 私達の活動を知って居てどういう機能や運動性が欲しいかを貴女なら知ってるでしょ
 それなら…と思ってね、いやぁ、国に承認貰うのも手こずったけれど…』

「ジオンじゃもっと難しいわ!」

『まぁ、そう思って今上の方がね…公国側にも承認まで言わずとも
 ウチの活動は知って居るはずだし、ある意味手の内見せる行為でもあるわけだから
 首輪付けるとでも思って黙認してよってお願いをね』

「…またこの難しい時期に…」

『まぁね、タイミングは考え得る最悪よね、でも鹵獲ザクもジムも受領してから
 殆どを造り替えるなんてのもさぁ』

「…そこは判る、その動きが可能、と言うだけでは皮膚感覚で使えないというのもね」

『連邦軍としての…例えば国境警備隊とかそう言う部分では普通に受領はしてるんだわ
 ただ、私達の活動はそうも行かない、ビーム砲主流になってきたから多少は
 時代に流される部分はあったとしてもだわ、私の考える理想に一番近い設計を
 してくれるのはここしか無いとこないだ思ってさぁ』

複雑な表情で少しルナが赤らみ

「…そういう風に褒められるのも…悪い気はしないところがイヤになるわ…」

『それに今まで初期設計のゼロ含めた一から十までの実績のないわけでさ、
 試しにやらせてみるか的にはなったっていいと思うんだけど…
 でも本当にタイミングは最悪だと思うわ、極秘扱いでもさ、やれる限り
 進めていて欲しいのよね』

「ジオンから承認を得たとしても極秘よ…子会社的立ち位置で完品の実績ゼロでも
 関わっては居たわけだからね、父の代からずーっと」

『貴女の趣味丸出しでいいわ、私は貴女を信じる』

「バケツでもいいのね」

『バケツ型の兜なんて実例挙げたらキリ無い、ガンダムだって武者兜モチーフなんだし』

「そういや…そうなら何故日本なんだしガンダムタイプの頭には拘らないの?」

『いや…単純に凸凹が多すぎると感じてね』

「…なるほど…ああ、いけない、少し考え始めてしまったじゃないのさ!」

『それ以上にそう、貴女は多分職人だと思ったのね、言われたからこうした
 って言うのを実現するのが仕事とは言え、あのバケツ、かなり作り込んであったし
 まさに3Dでキッチリ遠くの小さいカケラも含んだデブリを大きな範囲で
 囲い込めたら、しかもたまたま初期に鹵獲出来たから間に合った私一機じゃなくて
 部隊運用出来るようにしたいのよね、シロナガスとかああ言うのだってこれから
 経験の浅い兵士とか多くなりそうだし、知らされないまま襲われたりしたら
 あれ、殆ど武装ないからさ』

「聞けば聞くほど有用性を感じてしまうわ…所でこの回線…」

『暗号化はしてある、でも探ってるヤツがいたとして日本の政府機関からとしか
 判明しようないし、そちらに傍受される何かがあるというのでもない限り大丈夫』

「ウチは大丈夫よ、少なくとも今までは…この一件だけ逃げ切りでやるのも…
 悪く無いかななんて考えてしまうわ」

『いよいよ大きく連邦の反抗作戦始まるそうだし、タイミングに感しては悪かったと思う
 ただ、だとしたら今頃少数生産枠の設計始めたってロールアウトまでだって
 結構掛かるわけだし、戦局に影響はないと思うけれどね』

「またポロッと重大事項を…とはいえ最前線じゃその動きは掴んでいるだろうけれど」

『日本は基本連邦を信じては居ないわ、旧世紀に散々国連のエゴに振り回されたし
 …とはいえ、「その気持ちもわかる」と言うだけでコロニー落としは正当化出来ない
 抗議もしたし、それなりにジオンに対するヘイトもある、とはいえ、
 そう言う表向き抜きで中立都市化している所もあるわけでさ
 正直、尻拭いだけで済むなら喜んで拭いましょってトコロなのよね』

「連邦での日本の立ち位置もまた微妙なのかしらね」

『幸い日本出身の幹部とかもいるからね、日本の立ち位置は崩せない事は知ってるでしょ』

「…まぁ旧世紀史を学べばね、日本の今の立ち位置は当然と言える、判った
 ジオンがどう言う判断するにせよ、とりあえず進めてはみる」

『お願いね、後でジムやガンダム、その試作後継機やらの基本的なスペックくらいは
 盛り込み要件として送るわ、ジオンのはそっちが持っているだろうし』

「大丈夫なの?」

『ただの数字よ、出力とか機動能力とかそう言う部分の』

「なるほど、承知したわ」

通信を終えて、成り行きをハラハラしながら見守っていた局員が

「…請け負うんですね」

「「どう転ぶにしても」身の振り数パターン考えておいて、まぁこちらもこちらで
 出来る限りのアリバイ作りはやっておくし、貴方達を道連れにはしない
 でも…あたしは…正直色々詰め込みで必要な資格を修めた者として…
 こういう挑戦…してみたかったのは本音なのよね」

そうして何事も無かったかのように、イトカワはいつも通りに戻っていった。



いよいよ連邦軍がその戦力を整え、ソロモン攻略を始めた。
いかにガンダムのモンキーモデルとは言え余りに多数のGMが
ボールと組んで押し寄せるこの戦場、多くのジオン兵は「ここが正念場」と奮闘した。

名ばかりの「大隊」とは言えモール大隊も参加しいつものように…と始めるのだが

ムサイ三隻とパプア改による艦船、そして総勢三十数機のザクやドム、そして
ケントの特別機はとりあえずいつも通りに動く、だがモール中佐が呟く

「…要塞攻略戦と言う事もある、あるのだが…何か足りない気がする」

現場のウィンストンが

『何が足りないんだよ、木馬と白いヤツがいるんだぜ!
 こっちはもう白いヤツの気を引かないようヒヤヒヤだぜ!
 アイツこないだのコンスコン戦で十数機のドム一人で落したじゃねぇか!』

「…あれは確かに驚異的だった、パイロットは同じだそうだから…
 あれは…ニュータイプという物なのだろうね、戦闘タイプの…
 しかしそういう事では無いんだ…あれは戦闘としては小規模だし
 流石に混戦状況ではあのガンダムもコンスコン戦と同じには行かないだろう」

『詰まり艦隊を伴う拠点攻略にしては寂しすぎると?』

「一隻の新造戦艦とモビルスーツで変えられるほど戦局は甘い物ではないよ」

『俺もそー思ってたけどよぉ、あれに関してはどーかなぁ!?
 オレ最初に白いヤツの記録見たときは行けるかなと思ってたけど
 もー無理だわ、こっちの相手の砲塔だけ壊すとか、ジムやボールの
 腕や砲だけ壊すとかも余り狙いすぎるとヤツに狙われそうで怖くて出来ねぇ!』

「…それほどかね」

『流石に…ウチの隊総出であれ見た後だし…オレ達の動きもビビりが見えるかも
 しれねぇな、あの白いヤツの目には』

「…うーむ…いや、確かにあの運動性能を生かし切った動きとまるで攻撃を
 先読みするかのような狙撃率の高さは目を見張る物はあるのだが…
 あのパイロットにはまだ戦局を見るほどの物は養われていないと思うね」

『そうかよ?』

「確かにこちらも必死だ、向こうも応戦に留まる動きがメインだが…
 それだけに何かおかしい」

『増援がまだ控えてると?』

「確実に居るだろうね、どこにどのくらい居るのか…規模は判らないが…」

『とりあえずよ…防衛戦なりの動きで粘るわ』

「そうしてくれ給え、ああ、ケントにはなるべくいつも通りに」

『アイツも内心ビビってるぜ? まぁ逃げ切る事は出来ると言ってるが』

「エースパイロットを怯ませる機体性能…もう少し熟慮すべきだったかな」

『今更だぜ、オレもアンタもな』



どれだけ時間が経ったか、あるいはそれほどでもなかったのか

「ダメだぁー、流石に艦隊戦だし白いヤツいるしで物資がキビシイぃぜぇー!」

『そうか、ガトー殿がアイツ引きつけてくれたりしたとはいえ、
 確かに普通に混戦で余り気を遣った戦いも出来ん、全力だからなぁ』

「ウィンストン、とりあえずよォー幾つか隊分けて本格補給行ってくれねぇ?
 この「屋台」はまだまだ動けるけどよぉ、引っかけとくみんなの武器とかも
 ついでに一杯取ってきてよぉ」

『判った! じゃあー…旗艦所属機! 一回戻る!』

隊の1/3程が「それとなく」一旦退却の姿勢に移ったときだった

『なんだ…あの光は…!』



三隻のムサイ、及びパプア改は「そろそろか」というタイミングもあり、
最前線へ向かって微速前進を始めたときであった、

「中佐! は…八時の方向…!」

ブリッジ要員が声を上げる、窓ごしからも視認出来る、強烈な光が、
何か物凄く強烈な光が、ソロモンを焼き始めた!

「矢張り居たか、先ほどのソロモンからのあらぬ方向へのミサイルはそれか!」

それは純粋な、そしてとてつもなく大きな熱線、
それが移動しながらソロモンを焼いている!

そこへ混戦の中でも通信圏内に入ったウィンストンの叫びが

『今すぐ反転しろ! あの光はそっちの方角に向かっている!』

移動しているとは判ったがこっちに向かっている??
モール中佐は少し眉をしかめ

「今すぐ、二・三番艦、及び空母は反転し給え!!
 そしてこの艦は乗れるだけの人員と物資を詰めてコムサイにて脱出し給え、
 旗艦であるこのムサイはもうダメだ、今から反転しても慣性重力を打ち消し
 あの光から逃れる事は無理だろう、だからせめて機動力のあるコムサイに早く!」

『無理とか言ってんじゃねー! やるだけはやってからそういう事は言え!』

モール中佐は「ではそのように」という手つきをしたが、先ほどは離れていた方が
艦隊への光の進路は測りやすかったが、いざその寸前となると先頭を
飛んでいたムサイからの方がその光の動きが良く判った、旗艦ムサイが
つんのめるように艦首を軸に転進しようとしているときに、光も同時に
襲いかかりつつあった!

『クッソ! 第一小隊のヤロー共! オレらでなんとか押し返せ!』

「いかん! それでは共倒れになる!
 今急いでコムサイへ出来るだけの物は詰め込んでいるから!
 この艦の事はすっぱり諦め給え!」

『出来るかよォオオ!!』

そして巨大な熱線の中に包まれるムサイの艦橋からエンジン部分、
隊の何人かがムサイに取り付こうとしてその余りの高エネルギーにやられ、
なんとか艦橋に取り付く物のザクの右足も一瞬に破壊され、
たまたま影の部分に大部分が重なったウィンストン機は破壊され行く
ムサイの艦橋のこちら側に敬礼をするモール中佐が見えた

『おおおおおい!!』

「君はこの爆発で影のまま吹き飛ばされる事だろう、コムサイも今発射した
 後は、君に任せるよ」

旗艦ムサイのつんのめって前に来ていた艦橋部分とエンジン部分が爆発する、
モール中佐の言うとおり、爆発した艦橋の破片にザク諸共飛ばされ
ウィンストンはその目にその光景を焼き付ける事になる。
ムサイ三隻のうち二隻まで爆発四散、パプア改軽空母は大爆発は免れたが
機関部を一気に吹き飛ばされ、それで皮肉にも動けなくはなりつつも
そのまま光は逸れて行った。

この瞬間、連邦側も一部を除いて攻撃の手が止んでいた。
吹き飛ばされつつ、バックパックと残った左足で姿勢制御をしつつウィンストンが

「…ハ、こっちも最大の足掻きをするだろーって事を見越した上の…
 下手したら味方すら焼き殺しかねない…陽動だったわけだ…
 やってくれたなァ…おい」

ソロモンの方から迎撃はしたので二発目はない、と言う連絡が混線しつつも入る
しかし要塞が焼かれたのだ、被害も甚大だ、なるほど生き残りが多ければ
陽動もそのまま本隊として突撃か
部下も何人かが一瞬で消された、ウィンストンの表情は怒りに満ち

「コロニー落としやられたからやり返すってか、規模が違うとはいえ…
 テメーらも中々胸くそ悪い事してくれんじゃねぇか!
 おい! 生き残りども! 動けなくなった空母でがっちり補充だ!
 そして…今回ばかりはオレ達は飢えた狼の群れになるぞ!」

残り数機のリックドムやザクの部下達の叫びに近い怨嗟の声を、ギリギリで
ウィンストンはまとめ上げ、補給に戻る。



ドズル中将自らが駆るビグザムが出撃した頃になり、大隊の者達は
「どう足掻いても結果としては負けなのだ」と言う事を悟った。
ビグザムの火力を見ても単騎で変えられる戦況などは有りはしない、
モール中佐の「懸念」は逆の形で極度の脱力感と共に、撤退を余儀なくされた。
慣性飛行でギリギリまで行けるよう、十数機まで減じた部隊は空母を放棄、
生き残り等を避難させた後、一隻のムサイに推進の形で貢献出来るよう
多くが収納ではなく、ムサイに捕まる形で一気に戦場を脱した。

モール中佐は人柄としては軍人には向かないが良い上司ではあり、
その先見の明や分析力は確かに実働隊であるウィンストン達の作戦基準に
なっていたし、それを失った今、半ば「どうでも良い」という諦観に
襲われつつあり、ア・バオア・クー直行ではなくグラナダに向かった。

戦闘詳報など細かい記録を付ける事もモール中佐は長けていて、
今までのデータの大半はコムサイ伝手にその続きは全体を見守り続けた
ケントが付けた、流石に他の人員による添削が入るが、彼の報告はまた
学が足りない事を除けば割と平坦に平等に、だが、頼れる上司の死を報告する
一文だけは、矢張り怨嗟が籠もっていた。
ともすれば隊に咎もあろう大量破壊兵器に対する嫌悪感も
この時ばかりは全員の意見が一致し、そのまま残された。



「貴様達は上官を失い、私は部下をあの光で失った、か、皮肉であるな」

オデッサで僅かばかりの休養…という厭戦感に満ちあふれた中、
訪問してきたのは歴戦の勇士であるヘルベルト・フォン・カスペン大佐であった。

「それでこの体たらくかッ! たるんで居るぞ!
 公国の為に今こそ立ち上がれ!
 貴様らとてその半数は歴戦の猛者であろう!
 輝かしい戦果を敢えて上げずに這いずり回ってきた猛者であろう!
 私は試験隊とか言う輩とその装備人員を全て預かる事が約束されて居るので
 残念ながら貴様らを拾ってやる事は出来んが、
 今のウチにそのたるんだ心を引き締めておくのだな!」

試験隊…603か、この人物、真っ直ぐな軍人だけあって、
自分に下された命令がいかに悲惨かを判っていないのか…
ウィンストンは思いつつ、しかし彼の言う事も尤もだ、
先ずは白黒つくまでは足掻かないと、気分だけでどうなる物でもない。
ウィンストンは大佐の行く末を少し案じつつ

「その通りです、オレ達もこのまんま全てが何となく流れるとは思ってませんよ
 なんとか、やれる限りの事はやりましょう、次はア・バオア・クーでしたか」

「諜報部によるとそのようだ、今数日は連邦もこちらのエルメスとか言う
 ニュータイプとやら専用のMAに翻弄され身動きもとれんだろう
 だがこれも一時期の物だろうな、中将のビグザムですら戦局は変えられなかった」

「戦争は、多勢のぶつかり合いで規模として成り立つ物…どうか大佐もご武運を」

「私は貴様らに贈る言葉などない」

ま、今この状態じゃ「腑抜け」だもんな、ウィンストン大尉は改めて
気持ちを塗り替える積もりで大佐を敬礼で見送った。



「言われっぱなしだけど確かに今の俺達じゃダメだ」

古くから生き残っている隊の一人が言った。

「ああ…生き残って次を任されちまったからには…
 俺はあの人の代わりにはなれんが…恐らくソロモン以上の混戦になるだろう
 初心に返るぞ、お前ら、オレ達は勲章稼ぎでない、あの大佐殿も良くオレ達を
 見ているよ、「彼は、決して人間性は歪んでいない」と中佐殿が言っていた事を
 思い出すぜ、強烈なジオニストだけに、自分の置かれた立場を知ったら…
 こっちが心配しちまうぜ」

「どこに配置になるかも決まっていねーけどよぉー、
 まぁやる事やるだけだよな、オレ達は結局、決着がつくまではよぉー」

ウィンストンは笑って

「オメーも結構一端の兵士だよな、そのモヒカン、大丈夫かよとか思ったのが懐かしいぜ」

「これでもよぉー、入隊する前に幾らか切ったんだぜぇー」

問題はそこじゃない、ケントのちょっとズレた答えに皆は和み、気持ちを切り替える。



「少し装甲を追加したわ、修理以外はこんな事しか出来ないけれど…」

グラナダまで来てケント専用機を調整していたルナ、何となく「次が決戦」と
感じているのだろう、早々に発進しなければならない余裕の無さからも。

「おう、このくれーなら動きにも問題はねぇーだろー」

「サイコミュの方も少しだけいじったけれど、これはできれば実感する事の
 無いように祈りたい物だわ」

「んー?」

「まぁ一瞬手が離れる事もあるかも知れない、貴方の意志次第である程度
 手操縦でなくとも動かせるようにしたのよ」

ケントは余り深い事は想定していないのか

「おーそらありがてーや!」

「もうそろそろ連邦は動き出すようよ、貴方達の処遇は?
 その前に…中佐は惜しい事をしたわね」

それにはウィンストンが冷静に

「「それも戦争なんだよ」アイツなら涼しい顔でそう言うさ」

短い付き合いながらもルナも苦笑し

「言いそうね、他の機体にも出来る限りの事はしたいけれど、
 メーカーが直でその辺動くのだろうし、恐らくゲルググの受領もあると思う
 こちらもビーム兵器を使えるようになるのはある意味では大きいわ」

「ゲルググか…仕様その物は先行配備型も量産型も変わらないと言うから、そうだな」

「あと大尉、貴方のザクはもうダメだわ、さっき見たけど良く今まで動いたなレベル」

「まーなぁ…右足もぶっ飛んで余所から05の持ってきたって
 チューニングしなくちゃならんがそんな時間はない、技術大尉殿の「バケツ」
 貸して欲しいくらいだ」

「あれは装甲削ぎ落として居るだけ、貴方の眼鏡に適う物ではないわ」

「オレどーもあんまデカい図体のMS使う気になれなくてなぁ、
 あの日本の掃除部隊の05みたいなのがあれば欲しいぜ、まったく」

「あら、貴方あの女の機体知ってるの?」

「俺は会った事ないが記録は幾つかあるからな、ありゃいい動きが出来る
 というか俺の好みの戦い方が出来る中々いい機体だ」

「へぇ…なんか少し意外だわ、でもそう言う理由ならいままで05を
 チューニング一本で運用してきたのも判る」

「ったーいえ…次の辞令もない状態だしな…ゲルググとやらを押しつけられるなら
 それもしょうがねーとは思ってる」

「今日は…12月29日か…今日中には処遇が決まって明日にも受領と
 ア・バオア・クーへの配置も始まるのでしょう、あとは色々な巡り合わせだわ」

「おや、技術大尉殿も余計な約束はしない派か」

「当たり前じゃないの、戦場には出ないとは言えあたしも「お互い様」なんだから」

「…そうだよな、技術者だと下手に生き残った方が大変かも知れないな」

「ま、そこは駆け引きね、何処の誰に対しても一応材料は用意してある
 あたしにはあたしの部下がいる、その道筋だけでも立ててあげないと」

ケントもウィンストンも、その言葉に少し胸が詰まった、
そしてウィンストンが言った

「アンタも…結構指揮官とかお似合いかもな」

「止して、流石にそれは畑が違いすぎる、モール中佐は立派だったわ」

「…だな」



「キシリア閣下より、諸君らに通達!
 戦死されたモール中佐は二階級特進により少将になり、また、残された家族も
 居られなく、遺言には隊の諸君らにと言う事で、諸君らには特に希望がある限り
 ゲルググが配備される事となった、この後ゲルググ所望者は私に進言を!」

自分たちに遺産を残すとは最後まであの人も心憎いな、と思いつつ、
ウィンストンも他の者も「体のいい未払いだよな」とも思えたが、
量産型とは言え数に限りもあるだろう配備に限界を設けないというのは
矢張り有り難い「意向」だなと素直に大隊長に感謝した。

「ウィンストン大尉には、この一作戦に中佐権限を与え、ザンジバルと
 パプワ改二に相当する補給空母を任せ…指揮を執って貰う!」

ウィンストンはビックリして思わず

「お…自分が指揮官でありますか!?」

「君以外に誰が艦隊指揮を執るのか?」

言われてみればそうか!
と思いつつ隊の誰もが隊長にそれは無理だろう…と思った。

「は…はぁ…やらせていただきます」

汗たっぷりのウィンストンに笑いかけるモノの、冗談ではないのだ、
流石のモール大隊長も誰が生き残るか判らない戦争で一人一人の「身の振り」
までは口を挟めずに、戦闘詳報もそれほど顧みられる事はなく
「一番上の階級なのだから指揮官」という当たり前と言えば当たり前の処遇になった。

「あと、諸君らも先の戦いで戦力に低下が著しいので…一個小隊
 全員ゲルググで参戦させよう、正し受け取りは現地で!
 では、ゲルググ所望者は私に!」



いざ出発の段階で「計算外も甚だしい」という表情を隠せずに
ウィンストンのなれない指揮の下、サンジバル以下ムサイ・パプア改二輸送空母の三隻が
大量の武器予備品と共にア・バオア・クーへ向かった。

「まぁーウィンストンよぉー何をやればいいのかはよぉーく判ってるから
 でんと構えててくれよなぁー」

「オメーもいつまでも階級を理解しない奴だな…そうは言っても
 先制攻撃や、それなりの迎撃はしなくちゃならない訳でな…調子狂うぜ」

しかし流石にゲルググの希望人数分受領はこちらのリスクも減る、幾らか
到着までに模擬戦や「慣らし運転」で隊はコツを掴んで行く。



ア・バオア・クーへ到着した改名無し、モール大隊は更にムサイ一隻の受領と共に
一個小隊のゲルググを…全員学徒兵のゲルググを受領する事になり、
折角落ち着き掛けたウィンストンをまた悩ませた。

こう言うときだけは戦闘詳報を参考にされ「損耗率の低いモール大隊」に
任せれば良いだろうという判断、と言うわけである。

光学ズームによる望遠には既にこちらへ向かう連邦軍も見えているが、
僅かの間に訓練と睡眠を取るようにウィンストンは指揮し、
そして自ら出る事は出来ないが、全体を見通しての訓練という「モール視線」で
学徒兵達に「先ず何をすべきか」「何をしてはいけない、或いは避けるべき」
のアドバイスをしていった。
これには隊の先輩達も付き合い、ケントも例外なく、そして自分のような役職は
他の隊には珍しいので武器の予備弾倉やビームライフル・ビーム薙刀用
エネルギーポッドなどは余分に身につけないように、欲しいとさえ思ってくれれば
届けに行く事を諭し、学徒兵達を少しでもほぐしていった。

「そういや、オレ、このゲルググ乗りの中には大学生もいるだろーから
 年下だけど先輩でなんて事になるのな」

などと言っておどけてみたいしたが、彼は曹長から少尉に上がっていた。



そして起床予定時刻の少し前…それはやって来た。

ゲントが跳ね起きて叫んだ!

「なんだよおー! だからってそれ使うのかよォーーーーーーーー!!」

隊の皆もビックリして起きるのだが窓のない部屋でも伝わる振動、
そして眠れずに兵法などを色々悩んで苦心惨憺して組み立てていた
ブリッジに居たウィンストン他艦橋クルーは見た!

「…これは…こんなんじゃ泥沼になってくださいと言わんばかりだろうが…
 何でこんな戦いを選ぶかなぁ…総帥含むお偉いさんよぉ…
 ヘイトばっかりお互い溜め込んで…下っ端のオレらに何もいい事ねぇじゃねーか…」

望遠観測による目視だとそれでも結構な数の艦隊が残っている。
二発目以降はチャージまでの時間などから味方を多数巻き込む、
流石にそこまではしないと願いたいモノだが…

「向こうはこちらへの憎しみ一番で来るだろうかな…
 …なっちまった事はもうしょうがねぇ、迎え撃つさ…」


0079_03

戻る  01 02  04