玄蒼市奇譚・第一章

第一夜

第二幕


そこは今までより少し広めの部屋になって居た、それも古地図通り。
部屋の中央に陣が敷かれ、既に発動しており「開きっぱなしの門」として
次々と悪魔が湧いて出ていた。

「人の怨を燃料に…幽鬼や外道ばかり…少し厄介な奴も居るけれど…
 相手に取って不足はないわ…さて…犠牲者の怨念がどれほど強いのか
 試させていただくとしましょうか」

瑠奈が小ぶりな日本刀を抜刀したが、それは「魔法の杖」のような物で
それ自身を振り回して戦うのでは無い。
彼女は生粋の魔法使い、細かく言えば破壊魔法のスペシャリストなのだ。

戦闘を前に出来る準備を淡々とこなし、アイリーも呼び出して
魔法攻撃力強化、魔法防御力強化などを施して居る間、三谷と二浦は
さっさと銃のカートリッジを抜いて特定の属性弾の詰まったカートリッジに
詰め替えながら、三谷が韮淵に叫んだ

「探偵さんが「少し厄介」と称するのは「外道・スペクター」だ!
 万能魔法以外魔法は効かない特性を持っている、撃ち漏らしはオレ達の担当だ!
 んで、幽鬼・ラフィンスカルだけは撃つなよ!
 アレは逆に物理攻撃を反射しやがるからな!
 署から支給されたザンダインストーンを使えよ!」

その言葉に「流石付き合い長いだけあるなぁ」と思いつつ韮淵も慌てて弾丸を取り替える。

「先制攻撃させて貰うわ! (超早口の詠唱の後)食らいなさい! メギドラオン!」



室内の悪魔は物の一分強で一掃された。
とはいえ、瑠奈の呪文から漏れたり、躱した奴らが襲いかかってきて
アイリー含め一課の三人も十分気を付けながらの反撃となり、
それなりに広い部屋とは言え、悪魔の攻撃方法も様々耐性も様々とあっては
多少の反撃も受けたりして、アイリーの傷回復呪文でほぼ癒された物の、
三谷がこぼした。

「二十メートル四方の中に百体居以上とか尋常じゃねー数だったな、
 あ〜あぁ、背広また一つダメにしちまったよ」

瑠奈とフィミカ様が中央の魔法陣を眺める位置に居て、フィミカ様が
「怨の残り火」を昇華させた後、瑠奈がその陣を記録すると直ぐに
その陣が効力を失うよう重要部分を消し、陣としての効力を失わせた。

「後から後から湧いてきちまうんじゃ特別捜査官殿も一瞬とは流石に行かないさ」

二浦もダメージを負った後の(傷は完全に治っているが服のダメージまでは戻らない)
服の痛みを確認してぼやいた。

「…にしたって一分ちょっとですよ…もうちょっとこのクラスの人が
 街にいてくれると楽なんすけどねぇ」

韮淵の言葉に三谷が少し忌々しげに

「あちこちに魔法陣なんか敷いたらそう言うのもアリだろうが、
 そんな事になったら管理局だけじゃねぇ、魔界の法廷も動くから
 奴らだってそこまで迂闊な事はしねぇさ、探偵さんが
 「たまたまA級バスター」で何の因果かオレ達と組む事が多いからこその幸運だよ」

瑠奈とフィミカ様が渋い表情(かお)で戻って来つつ

「ここでの怨念を利用した召喚術のせいで「総括」の理由が本の奪取失敗なのか
 別な何かなのかが判らないわ…他にも盗まれた本は何冊もある、
 そして上下巻とか全数巻のうちのどこか間だけみたいなのも結構ある…
 中にはその一冊だけで「特定のこと」は出来たりするから
 ここでのリンチ理由がわからないのだけは痛かったわ」

「うむ、怨の残り香ももう自我を残しておらなんだし、体の欠片も
 血の跡も全て召喚材料に使われてしまった、ここは鑑識を呼んでも無駄じゃろうな」

二人の話を聞いて三谷が

「じゃあ、一旦ここで情報は途切れちまったことになるな…表沙汰になった
 事件数と隠しリンチ部屋の数は合ってるし…」

「まぁ幾らか情報を得て、組織も総括に勤しむほど巨大では無く、
 あとは召喚魔法やら何やらで邪魔してくるのがメインになるだろうさ、
 全く収穫が無かったわけでも無い」

二浦が話を纏めると全員が頷いた。

「相手の目的から逆算して「総括理由」となった本の割り出しを
 管理局へ要請するわ、あたしも独自に調べる、フィミカ様、お疲れ様
 あたしが天照院まで送るわ」

「うむ、大したことも出来ぬで申し訳ないがまた日中であらば呼んでくれ」

そこへ韮淵がかなり尊敬の念をもって

「でもこの街にも祓い人が必要だって言う言葉の意味は理解しました、
 貴重な体験をさせて貰いました」

それについては三谷も思い知ったか頷いた。

「じゃあ、あたしはフィミカ様を送って、取り敢えず事務所に戻るわ」

二浦が

「ああ、こっちは三課の応援というか様子を見に行かないとならん、
 出来ればC級当たりでもいいから、特別捜査官どの、出動要請願えませんかね
 鑑識も一応バスター訓練D級持ちは居るが心許ないですからな」

瑠奈は開けた時と似た要領で「閉じろ!」と部屋を閉じてから

「判った、特急で合流させるわ(といってCOMPを通じ通信を始める)」



車中、フィミカ様がぽつりと

「「魔界」というモノは厄介じゃなぁ…」

「そうね…「魔」は避けられないモノとしてそこで連まれて
 現実世界とは別に存在した上に現実社会にも影響を持つなんて…
 ここの土地の特性とはいえ、そんなもの呼び込まれてもね…」

「うむ…おかげで原初の力である払いの力を普通には使えなくなってしまった」

「そこよね…代わりに一般人でも払いに近い力を持てるようになったとは言えね…」

「…アレはここを切り開いて数十年の頃であったか…魔が隆起してわらわ含む
 祓い人との戦いになったのじゃが…アレよりももっと狡猾に複雑に
 そして個々の能力もそれぞれの「悪魔」による攻防…あの頃に魔界が
 寄ってきていたらここもお仕舞いであったじゃろうなぁ」

「その時の被害は?」

「ある程度の町並みとそれに見合った人口、そして祓い人が数人…
 中でもあやつを失ったことは大きかった」

「…それは聞いていい類いのモノ?」

「ん…、そうじゃな、十条宵という強い祓い人が居たのじゃが、そやつを
 失ったことが大きかったのぅ、まぁ、魔の方もそれでかなり規模を小さくして
 明治過ぎの魔界と接触するまで抑えられたのじゃから感謝この上ないが」

「十条か…四條院や天野のいいとこ取りだけどそれが故に力を持った人も
 少ないんでしたっけ、椎菜のトコの夕月(ゆつき)も十条だけど払いの力は無い
 ってバスターやってる訳だし」

「うむ…宵は中々面白い奴でもあって余りわらわに謙ることもなく
 接してきた…そうじゃな、今のお主に立ち位置が近い奴じゃったのじゃが…」

いつも目は伏せているフィミカ様であるが、その時ばかりは遠い目をしていることが
瑠奈にも判った、「友」を失った感覚、それに近いのだろう。
自分もフィミカ様に敬意は払いつつも言いたいことは結構言っているし
友達と思われているのかな、それは少し嬉しいかな、と思っていると

「瑠奈や、通信が入るぞよ」

フィミカ様が通信が入る直前にそれを言って居る間に着信が入った。
瑠奈はやっぱりフィミカ様の底知れない力に畏敬の念を感じつつ、応答した。
それは三課の辺島係長からのモノだった。

『探偵さん! 探偵さん、ダメだ、俺たちやC級一人二人じゃどうしようもないよ!
 急いで来てくれないかな!?』

瑠奈の眉間のしわがキツくなる。

「状況をある程度教えて、C級での火力ではどうしようもないって事なの?」

『数も問題なんだよ、そして…一人どうも未知の悪魔が居るようで…!』

背後の銃声、剣や魔法の詠唱、そして爆発音やら怒号やら…
そこへフィミカ様が

「…流石にわらわはもう活動外に迫る、じゃが、ここからなら天照院は近いし
 わらわをここで下ろしておくれ、直ぐにも適切な手配をするのじゃ」

瑠奈は道路脇に車を一時停車し、

「悪いわね…うわ…丁度管理局からも要請が……ええ、現場へは車飛ばせば
 直ぐ着くけれど、報告あったと思うけれど未知の部分が大きい、丁度いい
 場所に一人アテが居るから二人で急行するので…15分くらいは持たせて、お願い」

瑠奈の慌ただしい通信にフィミカ様は車を降りながら

「丁度よい、では、夜には役に立たなくなるで申し訳ないがわらわはここでお暇するぞよ」

「ええ、お疲れ様」



玄磨区郊外…とはいえ、天照院のある特区の山側、真從区との接点も近い、
玄蒼市内環状線の外側…ここには牧草地や農地が広がっていた。
玄磨区は開発が早く、払いも進んでいることから余程山に分け入らない限り
「ほぼ」安全な場所であった。

そんな静かな郊外に大きくは無いが狭くもない一軒家がある。

「仕込みを早くやり過ぎたせいでちょっと早いけど夕食だ」

割に「渋い」街道を走りつついい男と言えばいい男なのだが
どこか所帯じみて物腰の柔らかい、それでいて会社勤めでもなさそうなのに
スーツの上着だけを脱いでエプロンを掛けた男がほかほかと湯気を立てる
料理をトレーに載せてキッチンから出てきた。

「ネコマタ、君も食べるかい?」

ソファに横になってまどろんでいた服装は人間の格好をしたネコマタが
そのかけ声でちょっと面倒そうに彼に言った。

「あたしが食べてもほぼ無駄なのは知ってると思うけど」

「いいじゃないか、ちょっと作りすぎてしまってね」

「じゃ、食べる! 少し冷ましてね」

ダイニングに移動しつつ

「早速今日の「報酬」使ったんだ」

「有り難い、有り難い、おかげで食費も助かるし、何よりおろしたての肉や
 この町では贅沢とも言える旬の野菜が食べられるんだからね」

「人間って面倒ね」

「そう、面倒なんだ」

「まぁ、そういう面倒な人間の生産活動を邪魔する獣や悪魔を退治する…
 お互い様なのかな」

「まぁまぁ、深いことは考えない、戴きます」

行儀良く「戴きます」をする彼にネコマタは言った。

「正当な仕事の報酬なんだからそこまで有り難がらなくても」

「そうなんだけど、育てる人や育てる大地、太陽や雨や…色々な物の恵みだしね」

「難しいこと考えるんだ、人間ていつも」

「難しくないさ、「なんとなく」怖かったりありがたい物に敬意を払ってるだけだ」

「ふーん、まぁ、いいけど、あ、タマネギとか入ってないよね?」

彼は微笑みながら

「猫が食べちゃ行けない物は入ってないか、分けてあるよ」

「なによ、最初から二人分作ってたんじゃない」

「まぁね」

ネコマタは一口食べて

「美味しいけど、男の料理ね」

言われた男はちょっと繕うように

「今日は動いたからねぇ、濃かったかなぁ」

ネコマタはキッチンの方を見て

「ま、洗い物はちゃんと浸け置き分以外洗ってるし、合格点上げてもいいかな?」

「はは…、有り難う」

そして半分くらい食べ終わった頃だった、「彼」の指輪型のCOMPに通信を示すサインが。
ネコマタは半目になって

「…通信入ってるけど…今日はフロア(魔階)ハム(周回)とかやりたくないなぁ」

「うーん…とりあえず要件…あ、百合原さんからか」

ネコマタはちょっと安心したように

「あの人ハム大っ嫌いだから世間話かな、良かった」

ネコマタはまた一口食べつつも

「…あの人の話長いのが玉に瑕だけど」

「彼」はその言葉に苦笑しつつも通信に出た。

「今晩は、百合原さん」

COMPから漏れ伝わるような焦り声で瑠奈が叫ぶように言う。

『今空いてる!? 緊急なの!』

二人は顔を見合わせた。

「まぁ、空いてると言えば空いてますが」

『真從六区付近で手の足りない事態になっている、力を貸して!』

と、言いつつ家の外に軽自動車と思われるエンジン音が近づいてくるのが聞こえる。

「…もう連れて行く気満々ね」

ネコマタは呆れ返りつつ、急いで食事を続けた。

「ああ…その…」

『なに? 何かこれから用事でもあるの? なら無理は言わないけれど』

と言いつつ、かなり急いでいるのだろう、敷地内にて急ブレーキで止まるような音と
けたたましく開く車のドアの音が響き、「彼」がなんと答えたモノだか言葉を選ぶ間に

『正体不明の悪魔が居るらしいの、相手の実力も何も判らないけれど
 少なくとも警察やC級バスターでは手に負えないようなのよ!』

ノックはすれど返答を待つでもなくドアを開ける瑠奈。
そして瑠奈は「彼」の返答にちょっと窮する状況を把握した。
二人は急いで料理を平らげていた。

「…ゴメン」

「彼」は何とか料理を全て平らげ口を拭きながらも

「いえいえ…w 夕食にはちょっと早いかなと思いましたが、丁度良かったですよ」

「全くだわ、お預け食らうよりはまだマシね」

ネコマタも同様に食事を終えつつ、瑠奈に

「それでその、正体不明の悪魔ってそんな強いの?」

間の悪さを正直戸惑いつつ、瑠奈は気を取り直し

「向かったC級が「どの程度」なのかは判らないので何とも…でも今現場に一番近い
 そこそこのバスターはあたしと貴方しかいない、アキラ05…おっと、独立してるから
 岸岡さん、同行してくれる?」

岸岡と呼ばれた彼は微笑んで

「05とか懐かしいですね、あの頃は同名も多かったから区別していましたけれど
 彰でいいですよ、確か百合原さんはファーストネーム呼びの方がしっくり来る方ですよね」

「悪いわね、年上なのに。
 とりあえずどんな攻撃が効率的で何が強みなのか弱みなのかも判らない状態なの
 考え得る最大装備でお願い、取り越し苦労ならそれで済む話だし」

「気にしないでください、よし、腹ごなしには丁度いい、行くかい、ネコマタ」

「当たり前でしょ」

「送迎はあたしがするわ、さっき見たら貴方の車後輪がパンクしてたわよ」

彰はそれは予想外だったらしく

「ええっ!? ああ、ひょっとして帰り道岩か何か踏んだようだけどそれかな…
 判りました、急ぎましょう!」



「相変わらず後部座席は色々積み込んでて狭っ苦しいわね」

スルッと飛び込むように後部座席に飛び乗ったネコマタがその狭さに辟易した。
因みに瑠奈の自動車は形式の古い軽自動車とは言ったが2ドアであり、ネコマタは
その身軽さと体の柔らかさ故、前部座席を調整すること無く飛び乗っていた。

「悪いわね…普段せいぜい二人乗りだし、色々現場分析してラボに送ったりとか
 することもある物だから、どうしても機材がね」

「相変わらず百合原さんは半専門分野的な攻め方ですね」

彰も乗り込み、シートベルトをするやいなや瑠奈の車が急発進した。
普段は結構運転が上手い彼女にしては乱暴だった。

「正体不明の悪魔か…どう言うのなんだろ…
 単に玄蒼市内での出現が確認されたことのない種なのか…単純にC級のそいつが
 まだ「悪魔全書に登録してないだけ」なのか」

バスターはその対峙する悪魔や仲魔に引き入れることの出来る悪魔を「全書」というモノに
登録することが出来る、登録数に応じて特典もあるのでそれ狙いのコレクターもいるほどだ。
ネコマタのつぶやきに彰が

「級別が有名無実化している部分があるのが痛いよね、実力はA級なのにわざと
 Cで留まって最低限の仕事しかしていない人だって居る訳だし」

それについては瑠奈が

「…とはいえ、厳密に区別化されるとあたしも貴方も困っちゃうからね…」

彰は苦笑して

「物凄く限られた活動以外許されない宮仕えなんて確かにまっぴらゴメンですね…w
 真面目にS級以上やっていらっしゃる方々には悪いですが、自分には無理です。
 知人に呼ばれたら付き合うくらいが丁度いい」

その様子を横目で瑠奈はにやっとして

「おかげで今回は助かったわ…さて…見えてきた」

真從五区と七区の間の道を抜けて五区と六区のブロックに入る。
なるほど、まだ「六区内」ではあるがあちこちから火の手も上がっているし
道ばたに迂闊に突入できないでいる警察や自衛隊、バスターとおぼしきも数人見える。



「A級・百合原 瑠奈、及び岸岡 彰、到着、何でもいい、状況をもう少し細かく教えて」

瑠奈が代表して身分証を示している横で、彰は愛用の散弾銃をセットしていた。
Scatter-SG、今となっては旧式な銃なのだが、これも今の技術や改造、本人の鍛え方次第
装備効果などにより一線でも使える。
やっと来てくれた「実力者」に現場は少し安堵に包まれつつ、緊張感は薄らがず
先に調査を開始していた捜査三課の課長さんがすがるように瑠奈の方にやって来て

「体高は20メートルくらいでどうも口ぶりだと人間をよく知っているようなんだ
 でも救援に来たC級さんは「こんな悪魔知らない」って言うし、攻撃は効くけど
 回復の方が上回るみたいなんだよ、どう考えても規格外の強さを発揮できる
 あんたらじゃないとあいつ止められないどころか、じわじわ侵攻されてるんだ!」

「そいつ一人だけ? もしや手下を増やすタイプとかじゃあない?」

瑠奈に何か考えがあるのかそれを言うと課長さんは

「そーなんだよ…! 六区と言えば元々外国人が多い地区…しかも不法でさ…
 日本人としての遵法意識なんてこれっぽっちもない奴らだしこれは誘導だけでも
 疲れるなって思ったら、そいつらがどんどん悪魔に取り憑かれていっているみたいで…」

「取り憑かれてなんになるの? それも不明?」

「いや、そっちは餓鬼とかグールとか…幽鬼族っていうの? その辺になるみたい」

「外国人だけ?」

「外国人だけ、と言っても、全部が全部じゃないのがまたややこしいんだな…
 ほら、姐さんが目を掛けてた屋台の?尊貴(日本風に「き・そんき」)とか
 ああいう日本に馴染もうとしてる奴らは平気みたいなんだよ」

瑠奈は軽く頷きながらも頭の中でかなり色々な情報を組み合わせ合体させているのだろう事は
付き合いの長い警察には良く判った、こう言うときの瑠奈は損得勘定抜きで
探究心や闘争本能が勝る時でもある、よし、やる気になった! と周りの一課の連中も思った。

「探偵さん、あんたの出番だぜ」

三谷がそう声を掛けると

「ええ」

瑠奈はまっすぐ現場のある当たりを見据えて彰と共に六区に分け入った。



現場近くになるとC級バスター達が戦っているが、それは主に悪魔化させられた
元外国人の幽鬼達であった。
見た感じ、実力はバラバラだが中にはB級に上がっても良さそうなのも居る。
瑠奈はアイリーを呼び出し冷静に指示を出した。

「あたしと彰は本丸とだけ主に戦う! あなた達は幽鬼どもの掃除をお願い、
 「元人間だ」なんて思わないで、そんな状態になったモノを元に戻せるのは
 それなりの力を持った祓い人だけだし、人間に戻したところで不法入国者
 あるいは遵法意識ゼロの無法者でしょ?」

瑠奈はその幽鬼達に冷たい目線を呉れて

「遠慮無くぶち殺しなさい」

C級達はその「はっきりしすぎている分別」に恐れを抱いた。
そうでもないと上り詰められない領域なのか、A級というのは…改めてそれを思いつつも
しかし確かに「倒す」以外に方法も無いのも本当のところだ、
手が空いた隙に敵本丸も…と思っていた意識を雑魚にだけ集中させた。

「あ…正体不明の悪魔なんですが、特に反射とかは無いみたいです…!
 ただ…弱点らしい弱点もないようです…!」

C級の一人が瑠奈に報告すると、彰が頷いた

「じゃあ、ある意味力押し可能かな」

ネコマタもやる気をたぎらせながら

「腕が鳴るわね」

そしてやや開けた戦場と化したそこに立つ。

「ハハハ…やっと「らしい」のが来たじゃあないか…うん?」

なるほど、身長20mほど、特に何とも形容しがたい外見で瑠奈も彰も知りうる限り全書に
登録のない悪魔であった。

「「貴方は何者か」なんて愚問には答えてくださる?」

瑠奈が一応聞くが、そいつは余裕の笑みで口の端をゆがめるだけだった。

「玄蒼市内での未確認悪魔でもない、コイツは多分「作られた」悪魔よ」

「玄蒼市内未確認悪魔って言うとまだ結構居ますが…百合原さんにも心当たりありませんか」

彰の言葉に瑠奈は短く

「ない、コイツのサンプルが欲しいわね…小さい肉片で構わないから…」

その言葉と同時に、瑠奈とアイリー、彰とネコマタが全力で攻撃を仕掛ける。
C級だといいとこ数百〜良くて千数百というモニター越しのダメージ表示が
相手の耐性によって割り引かれているとは言えほぼ9999張り付き、或いはそれを越えて
一万数千のダメージをたたき出していて、時に三万を越えている。

どちらが化け物か判らないほどの火力、瑠奈は魔法使いとして、しかも連続して
魔法を使えるように強化をしているし、彰はそもそもが連続撃ちで手数勝負するスタイルを
更に高め一撃一撃がでかい。

流石の「正体不明」も、いきなりの高威力には流石に体が幾分削られたが

「…流石だぜ…だが、俺の回復力も伊達じゃあ無いんでなァ!」

「正体不明」が気合いを入れるとダメージはほぼ無かったことにまで回復された。
周りのC級達は「こんなのを相手にしていたのか…」と思ったが、彰が言った。

「…押せないことは無いですね」

「ええ、では泥仕合と行きましょうか」

瑠奈達は全く意に介することなく「少しでも押せているなら勝機はある」事だけに
集中している様を見て、格の違いを改めて感じた。



ネコマタの素早い動きに翻弄され「正体不明」は余裕をかましつつも目移りするようだったが
そこにかまけていると彰をはじめとした瑠奈やアイリーの強烈な攻撃が少しずつではあるが
「正体不明」の体力を奪って行く。

「ほらっ! 瑠奈! サンプル欲しいって言ってたでしょ!」

ビルの壁なども使い猫らしく三次元での戦いでネコマタは「正体不明」の肩部分の肉を
「切り掛かり」でそぎ落とし、瑠奈の方へ投げてよこした。
瑠奈はにやっとして

「有り難う! よし、じゃああたしちょっとだけ外すわ! 一人欠ける分
 厳しくなると思うけど、何とかこらえて!」

と言って瑠奈はアイリーに変わってハトホルを呼び出した。

「彼らの完璧な補助と共に貴女の強烈なのもお見舞いしてやりなさい!」

「はい、判りました!」

「正体不明」は腕や足などが変幻自在で刃物になったり鈍器になったり、
そしてその破壊力も尋常では無かったため、たびたびこちらもダメージを受けていた。

「3000を越える(通常人間なら精々600)回復、リインカーネイション(完全蘇生呪文)
 取りそろえておりますわ、どちら様も存分に私の能力をお使いください!」

ハトホルは彰とネコマタ二人にそう言うと彼女の片目が呪を込めた光に満ちる。
「ヘルズアイ」ハトホルは女神にしては珍しく相性・呪殺のスキルを持つ悪魔でもある。
その強化版「光る眼」を瑠奈は持たせていた。
ハトホルは治癒系・火炎系両方で良い特徴を持つ基本優しい女神なのだが、
元来家を守る愛と喜びの女神、それを崩そうとするモノには容赦なく戦う闘争心もある女神だ。

「…それにしても瑠奈もホント悪魔本来の持つ能力を伸ばすことにだけ余念無いわよね」

その呪殺攻撃の高威力にまた気合いを入れて回復している「正体不明」を見ながら
ネコマタは瑠奈の美学を「ちょっと尊重しすぎじゃ?」と思いながら戦った。

「…全く、彼女らしいと言えばらしいね、でもおかげで俺は彼女の仲魔と言うだけで
 何が得意かはすぐ判る、この上なく判りやすくて有り難いね」



瑠奈の車に瑠奈が走って戻ってきた。
事態を見守っていた警察…特に三谷がそれに食いついてきた。

「おい、お前が戻ってくるってどういうことだ? まだヤバいのか?」

それに対して瑠奈は助手席を前に出し後部座席の機械に「サンプル」を押し込め作動させ

「このまま行っても多分押せるとは思う、ただ物凄い時間と手間が掛かるわ、
 だから今コイツが正確に何者なのか組成を分析してラボのドクターに精査して貰うのよ
 ついでだからウチの職員達も呼ぶわ、確かに手は多い方がいい、でも
 無制限に無条件で不特定多数に集まられても統率が取れない」

「自衛隊はあんたが出した指示でC級バスターの補佐に廻って幽鬼どもの始末だ
 …なぁあんた、「アイツ」何モンだと思う?」

瑠奈は分析完了して行くデータを少しずつラボに送りながら余り感情を込めず

「あたしらに対する挑戦…だと思うわ、奪った本以外にも以前から用意していた
 本や研究もあったでしょう、組織のどのくらいの地位のヤツかは判らないし
 アイツもそこまでべらべら喋るとは思えない、恐らくは中核を担うとしても
 その中でもかなりの下っ端…ってトコロでしょうね」

「デビルマン…そういう事でいいんだな?」

「ええ…しかも一種類じゃない、弱点がない代わりに補強点もない、
 ただ体力や回復力だけは山のように高めてある…そう言う「組み合わせ」を…」

「ドクターに打診という訳だ」

「ええ…後戦いの状況はCOMP越しにウチの職員は見ているだろうから増援にも来ると思う
 そしてただ…これがあたしの読み通りだとしたら…」

「何か不味いのか?」

「いいえ、弱点なんて無いはずの「アイツ」に攻めどころを見つけられるかも知れない」

そう言って瑠奈は車を離れ戦場に戻りつつ、別などこかへ通信を始めたようだった。


第一夜・第二幕  閉

キャラ紹介その2・彰とネコマタ


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