L'hallucination 〜アルシナシオン〜

CASE:TWELVE

第二幕


病院の了承を得て五人が屋上へ上った、なるほど、ちょっと高い場所からなら
まる見えだ…志茂は早速辺りを見回し、角度的にちょっとでも屋上が見えそうな
ポイントを割り出し、カメラを数台セットしだした。

「…既に興味津々って感じで見てるのが居るよ…、警察さん、
 あの…二丁ほど北西のあの建物…(双眼鏡を貸して)あの辺り…
 情報封鎖しに行って、関係者じゃないことは好奇の表情で判る」

警官の一人が無線で本郷に場所を伝え、一人警官が向かったようだ。

「流石ですわね、仕事の早い…」

「いやぁ…もっと褒めていいんだよ?」

裕子がナデナデすると志茂もとろけそうになってる。

「…と、気を緩めても居られない、ダイニからも屋上駐車場一部から
 ちょっと見えてるっぽい…これは現場で1メートルくらい高く隠すように
 して貰えばいいかな」

警官も何で祓い人でもないジャーナリストなんて危なっかしい人を呼ぶのかと思ったが
その役割がよく判った、ジャーナリストだからこそ持つ能力を志茂は発揮していった。

と、そんな作業中である。
葵が呟いた。

「何か運送屋さんらしいトラックが入って行くのに交渉してるけど…」

と呟くと、警官の一人が

「ああ…なんでも国からの援助で新しい機器類が入るとかで…」

「ふーん…中を検めてるね…確かに何かちょっと大きな機械っぽい」

距離にして何十メートルも離れているのに葵にはしっかり見えているようだ。
警官はなるほど、これが祓い人か…と、この若き少女の能力に感心した。

「…と言う事は動物センターにもその旨連絡が入っていたと言う事になりますわね」

「ええ、こちらの事情を話すときに聞き及んでいます、なので間違いはないかと…」

「………」

裕子がそのトラックが搬入口というか裏口辺りに着くのを見つめていた。



「こっちは動きないわね、建物すっぽり目隠しすれば盗撮も不可能、住宅地はまばらだし、
 粗大ゴミ破砕場にも一応事情は話してるからもうほぼ情報統制も完璧よ、
 そっちはどう?」

篠路町福移の弥生から現状の報告と八軒側の様子を本郷に訪ねていた

『センター側も了承済みの国からの補助での機材の運び入れくらいかな…これも
 ちゃんと機械類のようだぜ、問題は無い…ホントに今日来るかね?』

弥生の表情が曇った

「あのさ、本郷…」

と、声を掛けたとき、キャッチホンが入ったようだ。

『済まねぇ、先ずキャッチホンからだ、何かお嬢ちゃんが話があるらしい』

「OK、じゃあ、いいわこのまま私は切る、こっちもキャッチが入った」

弥生は問答無用で通話を終え、キャッチホンの方にでた。

「もしもし…鶴ヶ峰さんね、電話来た?」

『ああ…俺と妻には絶対工房から出るなと…』

「判った、もしもの為に一応そうしておいて」

電話を切った弥生が目を瞑り、算段を開始している。

「弥生さん…向こうでしたか?」

あやめがその様子から慎重に聞いた。

「まだ…完全な答えは出ていない…」

と、言いつつ、こちらに来るときは弥生の車だったので弥生はあやめにキーを渡しつつ

「…直線八キロ程…間に丘珠空港挟むのが戴けないわね…」

そこへあやめが、

「ここはお任せください、向こうの雲行きが怪しいのなら…こちらは陽動にしても
 時間差だとしても、弥生さんと裕子ちゃんと葵ちゃん、この三人の内誰かでも
 急行してくれればそれでいいです、持たせます。
 丘珠空港へは私が連絡しておきますよ」

弥生はきりっとした表情でありつつもニヤリと微笑んで

「貴女と仕事のパートナーになれて良かった」

あやめも微笑み返して

「「特備に私が配属された意味」やっと今ちゃんと理解できた気がします」

「じゃあ…」



「なに? ホントにそれは国からの援助なのか? って?」

「そうですわ、「そこから罠」だったとしたら? 本郷さん、少し油断しましたわね?」

「そっか…クッソ! 一応確認は取るが、おい、搬入を中止させろ!
 機械の中を検めさせるんだ!」

そして病院上の葵が叫んだ

「おかしいよ! あの大きさの機械をボクなら兎も角、普通の人が
 一人で台車に乗せて運ぶなんて! 他のもそうだ、機械っぽい重さが
 まるで感じられない!」

「葵クンの分析がそう言うのなら、間違いありませんわね…あの中身こそは…」

既に搬入も結構進んでいる、下の本郷も搬入中止の号令を掛けて捜査員達が向かおうと言う時
向こうも焦ったか、全部の搬入では無く「全員が中に入ること」を優先させ、
施錠されてしまった、そして、何か特殊な光が建物全体を覆う、裕子が叫んだ。

「しまった…! 矢張りこちらが本命…!」

葵が病院の屋上から飛び降り、動物センターの屋上に降りようとする!

「ダメですわ!」

裕子の言葉通り、葵は屋上まで後三メートルほどというところで何らかの障壁に
弾かれてしまい、そのまま病院の駐車場まで跳ね返され落ちてきた。

本郷や裕子、志茂と言った事情を良く知るモノ以外驚いたが、

「いっててぇ〜〜〜…固い壁だ…無策で突破することは不可能だよ!」

葵は元気に起き上がり、障壁の固さを回りに聞こえるように言った。
「あの子何者なんだ」と思いかけるがそれどころでは無い。

「入り込んでしまわれたからには仕方ねぇが、術の余波って奴がくるかもしれねぇ!
 今すぐトラックの中身に残ってる物引きずり出して中検めて像だったらぶっ壊せ!」

そんな時、公安特備新橋からの電話。
本郷はしけたツラをしてそれに出て

「…俺の失点一ってトコです…職員が納得してるならイイかと思っちまった…」

『…と言う事は既に始まってしまいましたか…』

「始めようってトコですね…障壁に囲まれて葵ですら突破できねぇとか
 ちょっと相手舐めてたかも知れません」

『いえ…実は本当に搬入の予定はあったのです…ただ…すり替えられたようですね…
 本当の搬入物はそれはそれでどこかにあるのか…』

「マジっすか…敵も然る者…でもなんでまた急に機器搬入とかあったんでしょう」

『働きかけた者が居るようです…ただし…その者が現在行方を掴めません…
 こちらはこちらでバスター派遣をしてより深い調査を進めます、そちらは…
 なるべく、その範囲の中で決着を付けてください、いいですね、これは厳命です』

「判っております」

通話を終え、とはいえこれどうしたモンかと思った。
葵が戻ってきて、「飛び降りただけじゃ気合いが足りなかったかも知れない!」
とか言って本気の構えを見せた。

「つかおい…大丈夫かよ、迂闊に触って」

「だいじょおぶ、ボクはつおい!」

正拳突きをお見舞いする葵、領域に波が広がるのが全員に見える。

「あーこりゃ力が分散されてるなぁ…堅いけど柔らかいみたいな感じか」

「うーー、悔しいなぁ…!」

「うん? いや待てよ…」

本郷がサイレンサーを付けた拳銃で全弾その弾を撃ち込んでみた、勿論これは祓い弾だ。
弾が発射され、確かに薬莢は排莢されるのだが、弾が障壁に当たって
どんどんそれが何か光に変化して弾自体は消えてゆくようだ、回りの警察官はびっくり
したが、本郷は「これは特殊な弾だから!」といって全弾撃ち尽くした。

「そこだ!」

本郷が葵に言うと、葵はその意図を汲み取り、集中砲火を受けた壁へ拳を叩き込むと
なるほど、拳がめり込み、そこへ何とかもう片手を突っ込んで広げようとしている。
若い子にあるまじき結構な筋肉。
その子が結構な汗を滲ませながらも、それはなかなか広がらないようだった。

「突破口の糸口は掴んだのですわね、良くやってって頂きました」

病院の屋上から戻ってきた裕子は苦戦する葵の後ろに立ち、両手に詞を込めて
その葵の両手の側に触れた。
すると、葵のチカラでどんどん穴が広がってゆく。

「葵クン、体が入れられそうになったら大の字でそれを支えてください、
 一瞬物凄い反発が来ると思いますが、大丈夫、貴女なら耐えられますわ」

「…うん!」

その通りに穴がある程度広がった頃葵がその穴を大の字で人が一人通れるくらいの
大きさになった時に裕子が壁に触れていた手を離す、一気に葵に反動が来たようで
物凄く辛そうな表情を浮かべるものの、裕子は冷静に次の詞を唱え、葵の開けた
入り口の淵に沿うように両手を上から下へ降ろした。

「…もう、大丈夫ですわよ、葵クン」

「…ん…でもじわりじわりと狭まってきてるよ」

「これは時間稼ぎですわ、相手の施術が終わったら消える障壁でしょう
 ちゃんとそのようになって居るはずです、今のウチに、機動隊や自衛隊の方々
 突入してください! 本当に今日なのか本当にこっちなのかと言う事で
 通常業務をなさっている職員さん達も居て人質になって居る可能性もあります!」

そんな時に、志茂から本郷に電話が

『屋上で施術するようですよ! 何か魔法陣が敷かれ始めてます!』

「おい、お嬢ちゃん達! 屋上だ! 中へ突入できる祓い弾持った奴らはまず
 職員の安全の確保! 屋上へは数人ついて行けばいい!
 あと…動物たちを見ておけ! 異常があったら………」

その先が言いづらかった、
「悪魔の姿になってもまだ人への愛や信頼を失っていない個体」と弥生が呟いた言葉が
流石の本郷の良心を締め付けた、しかし…

「祓い弾を支給されているものは…それを撃ち殺せ…」

辛いが仕方がない、何が正義かも救いかも全ては人間の尺度…今ここで
人以外への情けは無用…!
本郷は歯を食いしばり、号令を掛けた。

「祓い弾を持つもの、突撃!」



志茂が屋上から確認した人数からすると、「ほぼ」全員屋上だと言う事だった。
(というのもそもそも何人編成であったかが不明だからなのであるが)
突入した機動隊員や苗穂の自衛隊員はまず、職員の確保を優先し、逃がそうと
するのだが、先程開けた葵と裕子の突破口は既にかなり小さくなっており、
本郷の指揮により、とにかくそれなりの広さを確保できる所への仮避難とその護衛を命じ、
職員もただ事で無い事が起っていることは理解できたので大人しく、
それに適した部屋を示し、誘導した。

そんな時自衛隊員が

「職員さん…! 何故犬を連れてきたんです! 危険です!」

「でも…この子はもう10歳、病気も患っていて飼い主の方も高齢と病気で
 手放さざるを得なかった子です! 持っても数ヶ月だろうという診断の…
 そんな子を置いて行けません!」

職員は女性、犬も病気と言う事で大人しい、奪うことなど簡単だ、
…だが…「まだ本格的に何が起った訳でもない」状況では機動隊も自衛隊も
良心が咎めて引き離せなかった。



一方の裕子組である、屋上へ通じる階段を上りドアがあるが、葵が少しドアに触れて

「ダメだ…やっぱりこう言う所は凄く堅い守りが敷いてあるよ…!」

自衛隊員が一人

「祓い弾というものをカートリッジ一つ分支給されておりますが…
 それで先程の本郷警部と同じ事をやってみましょうか?」

裕子が冷静に

「多分…ドアは無理でしょうね…流石に術式その物は邪魔されたくないはずですもの」

「ではどうすれば…」

裕子は冷静に屋上へ通じる階段とドアを見つめ、両手に詞を込め始めた。
まるでバーナーでドアを破るように、少し詞を行使しては、また両手に詞を込め直し
少しずつ少しずつ壁に何かをしていって、そして号令一つ

「葵クン、今わたくしが指定した辺りど真ん中です!
 ファイトォォオオーーーー !!」

「いっぱぁぁあああああーーーーーーーーーつッ !!!!!」

若いノリというのだろうか、反射的に葵がそう叫んで裕子の指定したドア横の壁を
殴ると、その壁が綺麗に長方形に割れて向こう側に重い音を立てて崩れる。

「石は物によって「割れる向き」詰まり結晶構造という物があります
 これはコンクリートですから結晶も何もあった物ではありませんが、
 わたくしの指定した箇所のみ砂利とセメントと鉄材の分子構成が
 揃って平行になるように並び替えました」

おお…! と、どよめきが起り、向こうもちょっとは焦ったようだったが
術式は続けられ、「障壁」はそこにまで及ぼされた。
しかし見通しは利く。

魔法陣の要所要所に配達員の格好をした者が立っていて術式を手伝って居るのだろう、
その間々に彫像も立てられている、そして陣の中心にはより立派な犬型の像と
そして彼が湘南台 円行という者なのだろう、彼が一心不乱に何かを唱えていた。
葵が叫ぶ、

「やめて! アナタのやってることだってただの人間のエゴだ!」

裕子も続く

「人間に対し復讐の機会を与え、一矢報いんが為の行動だなとと…
 その為に多少の犠牲はつきものなどと…それこそが貴方の身勝手ですわ!」

円行はその言葉に少し惑わされたが、取り巻きの男たちが

「円行さん、あなたはそれも何もかも承知の上だからこそ私達は協力している
 のですよ…私達の命も捧げてね…」

円行の呪文詠唱がピークに達し、回りの配達員に分した男たちが倒れ
服以外が消えてゆく、円行が叫ぶ

「もう…もうここまで来てしまったんだ!」

彫像に陣から流れ出た魂が乗り移って生きた悪魔に変貌してゆく…

「ゆけ! 先ずアイツらを始末するんだ!」

結界領域も消えた、広い場所でもいいが、相手はケモノ、なるべく動きの幅は
狭めた方がいいかもしれない、と裕子は先ず一歩退きながらそれらが何であるか
冷静に分析し、そして自衛隊員に向かって叫んだ

「赤い犬系のガルム、青い狼のようなフェンリル! これに対しては
 銃撃が大変よく効きますが、フェンリルの評価レベルは高いのです!
 祓いの弾でなくてもいいですわ! 撃ってください! カートリッジ内の全てを
 撃ち尽くしてでも!」

そして裕子は詞の守りを自分と葵に掛け

「私達には銃弾は当たっても大丈夫です! 遠慮なさらず!
 葵クン! 唱えなくても宜しいので「あまかけしいかづち」と思いながら
 猫又・イヌガミをお願いします!
 わたくしは…あのライジュウを…!」

狭い所に…と思いつつ、あっという間に壁は壊され、下に降りる事は可能なれど
それなりの広さの戦場になってしまった!

しかし、裕子の的確な指示でそれらは自衛隊員の装備を越え怪我をさせることはあっても
確実に倒されてゆく、裕子はライジュウとは少しみんなと距離を置いて戦いたいようで
皆何故だろうと思ったが、直ぐにその答えが判った、ライジュウは「雷獣」
範囲はそれほど広いとは言えないが、辺りに放電をまき散らすのだ!
裕子はその手のひらに「衝撃属性」をこめ、守りの壁と併用で戦っている。

やはり、言われていた通り敵も然る者…と教えられていた円行は、
その魔法陣から溶けるように下に降りていった。

戦場は円行が階層を一つ降りたであろう事から少しずつ下へ移動してゆく。



職員達が避難している一回につれられてきた高齢で病も患っている犬が苦しみだした。
職員さんが名前を呼びかけるが、犬はただ苦しそうにしながら、そしてその体が
変質し始めた、悪魔化している…!

隊員達は銃を構えようとするのだが、何しろ職員さんはその子を信じ切っていて
強く抱きしめ手放さない、その気持ちも判る、でも、その犬は確かに
今悪魔に変貌しようとしているのだ!

…そんな時、半分悪魔に浸食された犬が死んだ。
精神力も体力も尽きて死んだようだった。
そんな時、その犬から別の思考…いや、声としても半ば聞こえる…

「バカナ…! コノ俺ヲ拒ンデ死ヌナド…ソコマデ…」

犬の死体から何か揮発して散って行くモノが見える。

職員さんは涙した

「残酷な…こんな残酷な事ってありますか…!
 運命がどうであれ、彼らは縁と絆を信じても居るのに…人に対して
 愛と信頼以外の感情を持っていない子だっているのに!」

隊員達も泣きたくなった。
だが、廊下が騒がしい…そう、人に愛と絆を持って居るモノも居れば、
裏返しで憎しみに駆られるモノだって居る!

「機動隊、廊下の守りを確保! 自衛隊員さん、後は頼みます!」

無線で裕子達の指示は伝わっているので、無線で裕子達に

「こちら銃しかありません! 銃で大丈夫でしょうか!」

『今屋上から出現したモノと同種であれば、イヌガミ以外には有効です!
 イヌガミにだけは祓い弾を使ってください、他は普通の銃弾でも戦えます!
 詳しいことはカメラ越しにモニターなさっている本郷さんに指示を…!』

『こちら本郷、細長ぇイヌガミだけ気を付けろ、後は行ける!』

「了解しました!」



「ああ…丘珠空港じゃあ妙な速度や高度制限は受けるし…
 ろくなもんじゃなかったわ…始まってしまったようね…本郷指揮で
 裕子や葵クンが居るからには戦力的には問題ないのでしょうけれど…」

弥生が屋上に降り立った。
その頃には裕子達は階段伝いに下の階に移動中と言う事でその様子は志茂が気付いた。

志茂が携帯を取り出すと、屋上の弥生は「待って」というジェスチャーを志茂にして
自らの携帯で先ずどこかに電話を掛けたようだ。

「あやめ…そちらには全く動きは無い?」

『職員さん達から南西の方角に向かって妙に警戒して怯えているような
 感じだと言われて今私他数名センター内です、確かに尋常じゃあありません』

「判った、原因は判ってる、今すぐそれを解消するわ」

『お願いします』

電話を切った弥生は両手に詞を込め、陣の中を見回し、特定部分を「なかったこと」
にして行っているようだ。

「百合原瑠奈のレポートには簡略化した陣しか描いてなかった、意味はただ一つ
 完全に書いてしまうと意味を持ってしまうから…詰まり彼女の例のような
 欠け方にすれば…とりあえず現象は終わるはず…!」

一気に全部を無くすことはやれば出来るはずなのに敢えてやらなかった。
弥生はそれを記憶しながら消して行っているようだった。
そして、幾つかの文字や印を消すと、それまで光っていた陣は光を失った。
弥生はぐるっと見回し、配達員の服だけが残っている様子から

「人身御供を装って「誰かさんの本拠地」に逃れたか…やはり敵も然る者…」

そこへ志茂から電話が

『弥生さん! これはどう言う流れだったんですか?』

「円行は騙されてたのよ、これはただの召還門、ただしこちらでは
 明確な体を持てないから、先ず依り代に出来る見事な彫像で第一陣、
 円行はそこで終わりだと思って多分建物内のどこかに居るんでしょう
 …でも、本当の狙いは陣をそのまま放置し、動物系悪魔などを
 次々と呼び寄せ、周辺の動物たちを順次乗っ取る…デビルマンならぬ
 デビルアニマル作りの計画って言うかね…それも今終わらせた、
 多分そう大した範囲には及んでない…と思いたいわね、上から警戒を続けて」

『判りました!』

そして弥生は改めてあやめに電話を掛け

「…どう?」

『身体的に悪魔化とか…そう言う異常はありません…でも…
 極度の緊張のためか老犬や病気持ちの猫ちゃんの容態が急変して…』

「…そう…回りにも特に変わった様子はないのね?
 他の動物園や牧場も…恐らく八軒の方向を気にしただけで異常は無いことを
 確認して貰える? 辛いだろうけどヨロシク」

『判りました…』

折りたたみの携帯をパタンと閉めた弥生が建物に入って行く。
その表情は、明確な「憎しみ」であった。



「おい! かわいい! お前手が空いたらちょっと外出てその辺
 何か怪しげな霊というか…「何か」が彷徨ってないか見てくれ!」

『おっけ!』

場面変わって最上階の戦場の最中、裕子が今の通信に

「では、ここはわたくしが受け持ちます! 葵クンは直ぐに病院の屋上にでも!」

「あいさー!」

葵は窓を開け、屋上に飛び上がり、そこからちょっと足と腰でタイミングを計って
一気に病院側屋上まで跳んできた。

「いやぁ、相変わらず猫みたいでかわいいねぇ…」

志茂がナデナデするも、続けて

「私じゃ霊と言うか悪魔の魂は見えないからね…頼むよ」

「うん!」

葵が全神経を集中する。

「中央区側に一つ…北大獣医学部でも狙ってるのかな…後八軒側…
 ええい、勘に任せる!」

詰まり左右に一つずつ反応があってどっちを先に仕留めるかで考えたようだ。
牧場などの大型の動物に取り憑かれた方が長期的に被害が大きいかも知れないと
葵は中央区を跨いで北区北大に向かおうとするそれを上空から殴り、昇華させた。

「次!」

八軒側に向かう時、志茂から電話が

「なに? どうしたの?」

『私でも判るわこりゃ…カラスに憑いたよ…もう他のカラスの倍くらいある』

「カラス! 飛ばれるとボクには厄介だなぁ…、おねーさんと交代しようかな」

『とりあえず今は電線に居る』

そして、葵は病院から更に八軒側の電線の上にそれを見つけた。
カラスは、葵を見ている。

葵は一気に電柱のてっぺんまで登り、まるで猫のように相手を見据えた。

『汝(な)、我(わ)を知る者ぞ』

「わかんない」

『我は八咫烏なり、決して汝に害を及ぼす者には為らず』

「八咫烏って…サッカーの紋章に使われてる三本足のカラス…」

『斯様な使われ方も在るよう為り、而るに本来は導きの使い也』

「導きって…何の?」

『我が使えしはこの大和の神々也、それでは判らぬか』

「敵じゃ無いってこと?」

『然り』

「じゃあ、ドコに導いてくれるの?」

『この地に仇なす者…と言いたい所なれば、まだ時は来たらず…
 この場はこの場を治める為の場』

「それって動物センター内じゃん、そんな難しい事言わなくてもいいのに」

『汝、特異な力を持つが我に掴まれ、行くぞ』

「足でいいの?」

『良いぞ』

葵は八咫烏の足に捕まりセンターに戻って行く
志茂としては本郷に「カラスに付いた悪魔は敵では無い模様」と伝える他は無かった。


第二幕  閉


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