L'hallucination 〜アルシナシオン〜

CASE:TWELVE

第三幕


最上階での攻防はなかなか苛烈を極めていた、自衛隊員も機動隊もそれなりの
防御装備があるゆえに一撃死とは言わないが、やはりかなり重傷者も出てくる、
しかも銃撃では倒せないイヌガミもまだ居るが為に、裕子は迂闊に治療にも
回れない有り様。

そんな時、敵の背後から物凄い放電が起きる。
雷獣はその頃には裕子が全て倒していたので特に問題は無かった。
イヌガミが一気に散って行き、「さぁ、一斉掃射なさい」
という聞いた事のある冷静な声が

「叔母様! 大丈夫です、皆様撃ってください! 叔母様には当たりません!」

「当たらないどころか外れ弾反射させてそいつらに食らわせてやるわ」

一斉掃射の中、硝煙が収まる頃にはそこには木くずになった彫像と、行き場を失い
昇華して行く悪魔達だった。

「叔母様! 間に合ったのですね !? 他の場所は?」

「今あやめに確認取らせているけれど、もう大丈夫なはずよ、陣はもう完全に
 効力を失って消えたからね」

「そういえば…わたくしそこの処理までは手が回りませんでした…それを見越して?」

「貴女達を信じてなかった訳ではないわ、最初からそう言う手はず…
 つまり福移の方で事が起きればあなた方を呼んで先ずは陣を破壊する事を
 お願いしてたって訳」

「成る程…」

「動ける機動隊や自衛隊は負傷者を運んで一階の援護に回って、
 私はこの階で決着を付ける」

機動隊員達はその指示に従い、負傷者を連れて階下に降りていった。
そんな時に屋上の方から大きなカラスを手に止めた葵も降りてきた。

「弥生さん!」

「…矢張り漏れてはいたのね、でも漏れた悪魔が全て人に仇なすとは限らない
 八咫烏さん、では行きましょうか」

弥生は八咫烏とその存在を全く気にもしていなかった。
そして、とある一室の前出足を止めドアに向かった。
八咫烏も言う

『何の者はここにあり』

「OK、ではオトシマエ、着けさせて貰いましょうか」

そこも何らかの結界が敷いているようであったが、弥生は意にも介さずドアを開ける。
密かに裕子が驚いた、手順も何も無視して、弥生は「相手に対する怒り」を
直で祓いの力に転嫁している、そしてそれは詰まり、かなり強い怒りであった。

机から何からほぼ蹴散らして広くしてある部屋の奧に一つだけ机と椅子は残されていて
そこに円行と…そしてその傍らには魔獣ケルベロス。

「こんなに早く反乱が終わるなんて…やっぱり人間様々なんだな…」

円行が呟くと

「貴方の抱えた苦しみや怒りは多くの人は一度は抱えるモノでしょう、
 人のエゴで増えて、人のエゴで捕らわれ、人のエゴで再び生きる事を許される
 命もあれば、多くの場合人のエゴで死に追いやられる、一体何の権限でってね」

「その通りだ、判っているじゃないか」

「ええ、判るわ、そしてそれを何とかしたいという貴方の意思もまたエゴだとね」

「どうせ死ぬ命なら、人間どもに一矢報いさせたかった…」

「その意思を貴方は利用されたのよ、屋上の「同志」たち、彼らはまだ
 生きてるわよ、あの施術に人身御供は要らないからね」

「…え…っ」

「開きっぱなしの召還門として処理されない限り魔界からケモノ型の悪魔が
 依り代を求め野良ばかりでなく家で飼われている犬や猫、馬も牛も
 全部が対象で札幌を一気に大混乱に陥れられたら「めっけもの」という
 事だったんでしょうね、当然、私達「祓い人」や警察の「特備」による
 お手並み拝見の意味も込めて…どっかでモニタリングしてると思うわ」

「それじゃあ…」

「そう、下手をしたら札幌中が悪魔と化したペットなどによって荒らされていたかもね」

円行は落ち込んだが

「…それでも…僕の最初の目的だけは果たさせて貰ったんだ…」

「そうね、その為にひょっとしたら引き取り手も見付かったかも知れない
 犬猫含めて「命日が今日」になった訳だけど、いい?
 貴方のやった儀式は彫像も勿論依り代にできたけれど、センター内全ての
 動物に及んでると考えてね、今一階で機動隊と自衛隊が必死で戦ってると思うけど」

そこへ葵が

「一矢報いるどころか…無念の魂をより強く増やしただけなんだよ…!」

円行も流石に俯いた。
だが寄り添うケルベロスが言った。

『ソレデモ…我、コノ者ニ付キ従ウ、オマエ達ヲ…今ココデ…出来ル限リ叩キノメス!』

ケルベロスが咆吼を上げる、弥生達は少し戦いのための体勢を取った。

「いい身分よね、ケルベロスは忠犬でさ。
 アンタのために戦うって、自らが何らかの力や技を持ち自らが戦うのなら
 私もまだ貴方に敬意の一つも抱けたのだけどね」

弥生の冷たい言葉にケルベロスが襲いかかってくる。
裕子がスッと弥生の前に立ち、防御の言葉と共に、右手に凍る詞を込めケルベロスの
襲いかかる勢いそのままに前足を取り投げ飛ばした。
ケルベロスの左前足が凍って砕け、砕けた前足は彫像に戻る。

「この世は理不尽かも知れません、でもこの世の全てに完全なる平等など有り得ません!
 和人がこの地を開拓する前から「石狩場所」と呼ばれアイヌとの取引を
 して居た頃からそこに理不尽はあったでしょう、明治になり蝦夷地は北海道となり
 この地を札幌として開拓した頃には多くの野生動物が死滅したり脇に追いやられたり
 した事でしょう、そして、戦争中や上の厳しい時期には犬や猫だって
 食していた厳しい時がありました、近年には野良犬は狂犬病を媒介しやすい旨で
 わたくしの生まれた頃には野良犬など有り得ない状況になりました、
 そして今! 野良猫ですらそう言う状況になりつつあります!
 全ては強い方のエゴです! いつか手痛い罰を受ける時は来るかもしれません!」

そんな裕子の必死の訴えに弥生がトドメを刺す

「でも、そんな場当たり的でエゴの塊の人間の作った社会にあって
 エゴでエゴを打ち破ろうとするからには、貴方は覚悟をなさい、
 言って置くけれど、もう貴方に退路はない、大人しく警察に捕まって
 自供して罪を認めるなんて事すら許されない身になってると理解しなさい」

「…え…」

「じゃあ貴方、「協力者」について教えてくれる?
 堅く口止めされてない? それとも全てを黙秘で貫いて全ての罪を受け入れる?
 貴方がやったことじゃないことまで…偽装の手配や国に機材搬入を働きかけた
 人の事まで全部を自らが負うことになるわよ」

ここまで来て円行は自分の立場が判った。
本当に、ただ本当に自分の「動物たちに対する思いを利用されただけなのだ」と。

「詰まり僕は…」

「生き延びるなら全ての罪を黙秘のまま…秘密を一生抱えたまま生きるか
 ぶっちゃけて死ぬか、二択ね、ああ、ま、気が進まないけど私がとどめ刺す
 って可能性もまぁ無いでも無いかな」

円行はその言葉に弥生を見た、まるで「貴女の手で終わらせてくれ」と言うように。
だが、弥生の目は冷たかった。

「 や な こ っ た 」

弥生は怒っていた、目的が何であれこの男は命を弄んだのだ。
円行は暫く俯き、イヤな汗を流しつつ考えた。
ケルベロスが三本足になっても円行に近づく、このケルベロスだけは
例え主人が正しかろうと間違っていようと寄り添う積もりのようだ。
ここで逮捕されることになろうと、始末されることになるにせよ、
ケルベロスもそうなったら終りなのだ。

円行は、ケルベロスをひと撫でして顔を上げた。

「それは「近未来研究所」! 場所は無印真駒内と澄川の…!」

と叫んだ時、どこからともなく空間が避け、巨大な刃が円行を真っ二つにした!
弥生と八咫烏以外の誰もが驚き、ケルベロスは主人に仇成したそれに
攻撃をしようとするが、もう一つの剣が現れ、ケルベロスも真っ二つにされ
そして彫像に戻った。

『あァ…その程度で済んで良かったよ…』

女の声だった。
そして、その剣はまた消えてゆく。
裕子は愕然としつつも、無線で本郷に円行の言い残した言葉を伝え、捜索をお願いした。

愕然とする皆に弥生はタバコに火を付け一息吸いながら

「…百合原瑠奈の魔界レポートにはこう言う事も書いてあった。
 評価レベルって言うのはあくまで人間が契約できたりする場合のものであって
 本来、魔界に居るそれそのものの…特に神と目されるような者は
 抗おうという方が間違っているレベルの強さだとね…ただし…
 玄蒼市のバスターでも天辺に居る奴らはそれに匹敵する力を持っているそうだけど」

葵がそこに

「今の…じゃあ…」

「恐らく神なんでしょう、何の神かまでは流石にこれだけじゃあ何ともね…
 向こうの…檜上って人も今の現象を隈無く捜査するんでしょうけれど
 多分何かの圧力やら何やらで追うに追えない壁に当たるんでしょうよ」

裕子が弥生の言葉に

「しかし…これで何もかもが確信に変わりました…!
 わたくし達は何としてもこの札幌を守らねば為りません!」

そんな裕子の頭を撫で、優しい表情の弥生が

「そんな堅くなる事も無いわ、向こうだって自らが手を出すそれなりに
 危険な行為に及んだうえに、一つ研究所を暴露されてしまったのだからね、
 今頃は盛大にお引っ越し中でしょうけれど…全てが整い、またちょっかいを
 掛けるまで…そしてその間に若い裕子や葵クンが育つこと…
 相手も慎重にやらざるを得なくなるでしょうよ、何しろ「彼女達」は
 神をも屠る能力を持つデビルバスターやその管理局、そしてなるべく均衡を保ちたい
 魔界からも隠れて全てを行わなければ為らないのだからね」

葵が

「ボク…もっと強くなる!」

「わたくしもですわ…こんな事…許されません!」

両断された円行の死体とケルベロスの空っぽの彫像、
この件に関しては、終わった、終わらされてしまった。



弥生があやめに「他には全て異常なし」の報告を受け、階下に降りて行くと
なかなか惨憺たる有り様、機動隊にも自衛隊にも結構な被害が出てしまっていた。

本郷が死者に手を合わせていて弥生達に気付き

「…外には出さなかった、職員にも一人の犠牲もない
 そう言う意味じゃあ大成功なんだが、なんだかな…」

そのうち弥生が収容されている動物の檻やら何やらがある所に歩き出す。

「どうした? まだ居るのか?」

「…いえ、悪魔では無いわ、気にしないで」

搬出されて行く被害者を横に弥生がその部屋に行くと、檻の中の一匹の猫が
何事もなく毛繕いをしていた。
弥生は比較的冷静な職員を捕まえ、この猫のことを聞いた。

「ああ…地域猫として結構認められて可愛がられていたそうなんですけど…
 昨今どうしても…野良猫と言うだけで「害悪」という人が増えまして…
 それで引取ったんだそうですが、いざ飼うとなると…アパートが多い事から
 引き取り手もつかなくて…そして引取られても脱走するんだそうです、
 野良が板に付いたようで…」

「ふーん…」

弥生は霊会話で猫に話しかけた

『貴女もう人の言葉も解する程には魂紡いできたでしょ、その体で何代目?』

猫はやや面倒そうに弥生を見つめ

『さぁね…彼方にふらり此方にふらり、寿命が来ては丁度よく突然死んだような
 入れ物が見付かったんでついつい何年もね…決まった目的もないよ…』

霊会話が可能なほどの猫、葵も裕子も驚いた。

『貴女捕まっちゃった訳でこの分だと殺処分だけどどうするの?』

『さぁね…都合良くまた入れ物があれば生き様を楽しむさ…ただ…
 住みにくい世の中になったモンだねぇ…アタシが生まれた頃には
 野良が野良でやってくには厳しい時代で…やっと飼い猫にもそれなりに
 自由が出来で野良もと思って暫く謳歌してりゃぁ今度は増えすぎだ不快だ…
 まぁ、ここでアタシの人生終わるなら、それもいいだろ…とは思ってた所さ』

『そう…あのさ、たまにアリバイ作りに家に来てくれないとならないかもだけど
 私の作った社を古い記録の書庫にもしたくてね…名目ネズミ避けで
 社に住む気はない?』

『ネズミ避けね…野良猫が多かった時ならそんなモン…って鼻で笑ってたんだろうが
 これから野良猫が居なくなったらイヤでもネズミ退治が繁盛するんだろうね
 それも面白そうだ…』

『よし』

「彼女引取りたいんだけどいいかしら」

職員がびっくりして、でも通り一辺倒の審査をしてから探偵稼業と言う事で
多少渋られはするモノの、弥生が試しに猫を触れ合う様子、
弥生がとても猫好きなのだと判るその様子にこのまま処分よりはと
猫を引取って貰う事にした。

「センターも暫く再開できませんしね…」

職員の呟きがまた今回狭い範囲で終えられたモノの、事のあらましの酷さを物語った。



結局、修復工事やら何やらで暫く職員含め休職、あるいは福移の方で働くことになり
足場で囲って幕を張っていたことが幸いし、急な建て替え工事で…と言う事で
場も治めやすかったし、志茂が方々に目を光らせ事の有り様に気付いたような
出歯亀には火消しからのきつ〜いお達しがあった事は言うまでも無い。

弥生の社は元々拝殿と小さいながらも本殿のある作りだったこともあり、
一通り記録の終わった歴代の書物などを酸化の進まないよう詞を施し
安置して行く予定だったことから、猫は「弥生の土地の中だけ」と言う事で
首輪はしているが放し飼いにされた。

ちなみに猫の名は「皆から好き好きに呼ばれてたので特にない」というので
「狛江さん」と名付けられた。
八咫烏は普通のカラスに化けることも可能なので、これまた社で飼われる
カラスと言う事で鳥舎が緊急に作られ、名を「朝霞(あさがすみ)」とした。

葵と弥生には朝の日課が一つ増えたが(それぞれ猫かカラスの世話)
ま、これもいいかという感じで三日ほど過ぎた。





探偵仕事や軽い祓いの仕事を請け負いつつ、
早速、警察や地域の武道道場などに通う人達、自称「見える」人を集めての
「初級でも祓いが出来る人捜し」も行われ、そこに朝霞も同行したが
収穫はゼロであった、矢張り身近に祓いの人が居ると言った弱くても受け続ける
影響みたいな物が無いとなかなか芽は出てこない物らしい。

方法は簡単で、朝霞がただのカラスでは無いことを見破るだけ。
朝霞には霊会話で弥生が何度も会話しているし、その会話の傍受すら
感じ取れないのでは話にならない、第一段不発、と言う事であとは
希望者による異種格闘試合みたいなモノが行われ、例の弥生仕様の
巫女姿の弥生がまた圧勝というこちらもまたつまらない結果となった。

その金曜の夜のことである。
動物センター修復工事担当の警備会社から「妙な感じがする」という一報が入る。

これについては弥生は「やはり」としか思えなかった。

「魔法陣の影響が出始めたわ」

と、夕食後のマッタリタイムの時受けた一報に葵が

「じゃあ…また魔階(フロア)が出来つつあるってコトだね」

「…ま、魔法陣を敷いて開きっぱなしの召喚魔法使ったからには
 そうなるだろうとは思ったけれど…意外と早く異常が起きたわ…」

「弥生さんが「どんな小さな事でもいいから」って先に言って置いて良かったね」

「全くよ…さて…ここからどうするか…今の段階では他愛もない
 イタズラで済むのでしょうから、とりあえず国土交通省から
 あの女に今回の事件のあらましから考えられる事態を想定して貰おうかな…」

と言って弥生が携帯から国土交通省に連絡を始めた辺りである。
事務所の方の電話も鳴っている。
葵がその電話に出て、「はい、十条探偵事務所ですがぁ」と言うと

『ああ…日向さん、十条さんは今電話中のようですね?』

「新橋さん、こんな時間までお疲れ様ですぅ、で、弥生さんに何か?」

『言伝ではちょっと…向こうが国土交通省に連絡を取っているのは
 判っています、直ぐこちらに出るよう通達お願いします』

「何か緊急の用事があるんだね、判った」

すると、しけたツラで弥生が携帯を折りたたみ、事務所に向かってくる所だった。

「何ですって? 新橋から緊急?」

「そうみたい」

「判ったわ」

電話に出て軽く挨拶をした後。

『直行便はありませんので、今から千歳空港より羽田に来てください』

「はぁ !? こないだの動物センターでの件で絶対魔界化するって言ったばかりよね?
 そしてとうとうその兆しが来て明日にでもって思って居た所なのよ !?」

『判っております、そちらはこちらで手配をします、十条さんにはとにかく
 出雲へ向かって欲しいのです』

「出雲ぉ !? なんでまた私が? そんな古い土地柄なら三家と別系統の
 祓い一族だって居そうなモノなのになんでまた !?」

『「それ」が現れた最後の記録は戦国時代…大変甚大な被害を出しながらも
 場を治めたのは天照フィミカその人だったと言われています、
 歴史的には戦国時代の名だたる戦の中に埋もれていまして正式な記録は残って
 居りませんが…出雲の祓いには今にも伝わる伝説…
 天照フィミカを動かす訳には行かないというか彼女は動けないでしょう
 そしてバスター派遣はその能力を保持したままですと時間制限があります
 更に言えば、それほどのバスター派遣をすると今度は玄蒼市が疎かになる…
 もう、貴女しか居ないのです、どうぞご理解ください』

弥生は考えに考えて

「それじゃあこっちには? それこそこっちにバスター派遣?」

『はい、魔階であれば長くても二時間以内で決着が付くはず、その範囲なら
 魔界側も問題ないと言う事で了承は得ています』

「何人寄越してくるの? こっちも裕子や葵クンの修行はさせたいんだけど」

『それに関しましては、今向こうで協議中と言う事です、わたくしも口を挟めません』

「…なんてこったわ…はぁ〜〜〜…それで? 夜八時前だけど?」

『二十一時のには間に合いますか?』

弥生は天を仰ぎ片手で顔を押さえて

「無理言わないで…」

『では、最終便には何が何でも乗ってください、席はこちらで用意させます、
 貴女は搭乗口で身分証明さえしてくれればそれでいい』

「認めて欲しい装備、拳銃・弾・そして野太刀それが認められないのでは
 話にならないからなんとしても話を通して、判ったわよ、大急ぎで行ってやるわよ」

『判りました、それに関しては何としても、ではお願いしますよ』

弥生は心底ウンザリした様子で

「葵ク〜〜〜〜〜ン…」

「弥生さんにしか出来そうにない急な仕事じゃあしょうがないよね、
 今色々着替えとか準備してるから、弥生さんはその他の持ち物とか
 ちゃんと点検して持っていってね!」

「もう、この可愛らしさ、抱きたい衝動を駆られての旅立ちって…もう…
 あ、葵クン、裕子土産の半四條院式巫女服もお願いね
 トランクが幾らかでかくなろうが構わないから」

「はーい」

そして準備がある程度整い、忙しく慌ただしく出発の準備をしながら
弥生と葵はキスをして…

「そーだ…なーんとなくだけど…朝霞連れてくかな…」

と、呟くと葵が

「導き手だっけ、確かに弥生さんの勝利に貢献しそうだけど…着いてきてくれるかな?」

「ま、いいわ、一応聞いてOKなら籠に入って貰いましょ」

「じゃあ、行ってらっしゃい、明日はそしたら誰が来るのかな」

「私の予感だとアイツは確実に来る…またすれ違いで会えないとか言う運命か…」

「それって…」

「ま、とにかく行ってくるわ…くっそ…最終便もかなりすっ飛ばさないと不味いわ」

「あ、うん、気を付けてね」

弥生の投げキッスと共に弥生はベランダから飛び降りた。
勿論詞の強化ありだ。

「大丈夫なのかなぁ…色んな意味で…」

葵は少し不安に駆られつつもそれぞれが上手くゆくことを願い、明日に備えて
しっかり英気を養うことにしたのだった。


第三幕  閉


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