第一幕 開き

「だぁーッッ!! ジタぁぁーーーン! なぁーにが
 「目立たないように俺の切り開いておいたルートを進もう」
 だよ、おい!」

ダビドフが荒れている。

「…済まなかったな、たまたま警備係がルート内に
 寄り道しててたまたま見つかったのだとしてもな…
 …というかだ! だとしても!
 正面切って「宣戦布告だァ〜!!」っていうのは無謀すぎるし
 目立つことこの上ないだろ!?」

俺たちは檻の中だ。

何があったって?
件の「限りなく黒」の鉄工所に侵入しようとして
しくじっちまったのさ。

いや、別にスタンドを使えばよかったんだ。
すぐに決着がついたろうさ。
警備員の一人くらい。

もし仲間を呼ばれたとして、派手にやっていいなら同じことだ。

…だが、それではダメでね、
後に今回のことが問題になったとして、大義が必要になるんだ。
つまり、ジルコニウムやハフニウムのコロイド(小さなかけら)が
どーたらではなく、文書なりなんなり誰が見ても納得できるような
確固たる証拠が必要になるって事なんだ。

とりあえず大人しく捕まってみたわけだ。

とはいえ、
「外にはまだ見つかっていない仲間が数人居る
 中からの通信そのほかを見張っていて、
 俺たち生命活動やお前達の同行を観察しているぞ」
と、ハッタリをかましておいたので
奴らも無下に俺たちをどうこう出来ん、と言う状態って訳さ。

実際たった二人でこの工場を「潰しに来た」なんて
普通ならただのお笑い話だからな。

他にもまだ居るに違いない、そう思うのは向こうにしても当然だろうさ。

俺たちの格好は普段とそう変わらないし。

「…まぁ〜ったくよーォ…
 警備員の一人くらい瞬殺出来たろうによーォ
 何オメーもびびってんだか…。」

「それに関しては本当に済まんな…
 どうしても躊躇してしまってな…」

見つかった瞬間に殺れてたなら、確かに潜入も続行できてた。
そこはまぁ…俺がダーティになりきれない甘さが出たってトコだな。

「まぁいいさ…ここから出るときには嫌でも
 何人かはオメーも殺らなきゃなんねーんだからなぁ」

「…ああ、済まんな、素人みたいな対応はこれっきりだよ。」

「頼んだぜー?」

「何度も言わすな…」

「何度も言わさなきゃーァこっちも安心して組めねーって言ってんだよーォ!」

「お前もしつこいな! 俺だって一応はプロなんだ!
 殺しに関しては経験が少ないから最初はミスたってだけだろ!?」

俺たちはここがどこで自分達がどんな状況に置かれてるなんて
まったくお構い無しにやり合ってた。
…なもんだから、見張りの奴がやってきて
下手な英語で

「お前達! 何騒いでる!」

牢に向かって足蹴や何やらやってるわけだ。

ハン、一般市民ならそれでもびびるんだろうが、
例えお前がその腰の銃を撃ったとして
俺たちは平気で居られる自信があるんだ、
俺たち二人は言い合いをとめられて
見張りを逆に凄んでやった。

「邪魔ァすんなよ…! 俺たちゃ今忙しーんだァ!!」

ダビドフのドスの効いた声にそいつはびびって
引っ込んでいった。
ああいう負け犬は権限がもっと上の奴を連れてくるんだろうが
同じことだな。

ちょっとだけ静かになった牢で、ダビドフの気持ちも冷めたか
ふてくされたように寝転がって

「…それで…「どの」タイミングでここ出るよ…?」

「俺かお前か、あるいは二人で尋問を受けるだろう、
 とはいえ、ただ尋問専用の部屋で専門の奴に
 やらせるんじゃあダメだな、
 何とか所長クラスの奴の部屋にでも連行されんもんかな。」

「ンでこのバカらしい喧嘩のマネゴトかよー…?」

「「俺たちじゃ手に負えん」、権限が下の奴らにそう思わせるためさ。」

「…証拠ねぇ…めんどくせーなァ…派手に暴れて…
 オメーも居ることだしよォ…ここを焼け野原に
 早く変えちまいたいね」

「お前は…ゴジラか」

俺がゴジラなんて単語を吐くとは思わなかったんだろう、
ダビドフが顔を上げ、俺を見た。

「お前さん…、もしかしてOTAKUかよ?」

「ゴジラを知ってるくらいでOTAKU呼ばわりしてたら
 本物のOTAKUに凹られるぜ…」

「…それもそーだ…いや、あの映画は俺も好きでねェ。
 1954年だったかの…オリジナルだ。」

「…日本の映画だぜ? お前日本語なんて知ってるのか?」

「…ああー、いや…海賊版かなんかでよォ、
 有志が英語字幕つけたビデオが出回っててなァ…
 俺がイギリスに渡って何年かしてから偶然見たんだよ…」

ダビドフは「元」ドイツ人でね。

「…そうか、そのビデオ…案外メジャーなのかな。
 俺は昔、ウインストンから見させられてね。
 ここのこれが素晴らしいだの聞かせられて
 素直に見れなかったが、まぁそれなりにテーマ性はあるよな。」

「ああ、エンターテイメントになった後のはともかく、最初のはなァ
 …そ、俺は思ったんだ、俺はゴジラだとね。」

「お前が言うと…洒落にならないんだよな。
 …まぁ思わず「お前は」なんてつけたが…
 ゴジラの本当の意味するところは…
 ああいう生き物が居たら云々じゃあないんだがな。」

「はっはァ! 何だかんだちゃんと見てるじゃあねーかよ?」

「いや…まぁ…俺もあの映画は嫌いじゃあないんでな…」

「好きと素直に言えない辺り、可愛らしいねェ。」

「…何を言ってるんだ…今度は演技じゃあなくホントに怒るぞ…」

「へーいへい…」

ダビドフのダラダラした返答のとき、牢の向こうの扉が開いて
数人の足音が近づいてくるようだ、一人が現地語で
何かを訴えていて、もう一人は毅然とした口調で現地語で返している。

…さて、ちょっとは権限が上の奴が登場したようだな。

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「なぁなぁ、ジョーン。
 ルナのマネゴトじゃあねーが、お前なら
 「オキシジェン・デストロイヤー」できるのか?」

何かね? それは、
ああ、所変わってポールだが…
先日の事件から三日たったんだが、とりあえず平和でね。
夕食後に突然切り出したウインストンの話題がそれだった。

「なぁに? それは…」

食事後の洗い物をしながら
わたしとまったく同じ反応のジョーン君、軽く首を横に振り
表情も「この人は何を言ってるのだろう」という表情だよ。
ジョーン君も微妙ながら色んな表情を見せるようになったね。

「「ゴジラ」で出てきた兵器の名だが…やっぱ知らねぇか」

思わず口にしたらしい、SFっぽいモノをとりあえず
可能か?というくらいの軽い気持ちだったが、

「…ブロムナード戦でもあたし密かに思ってたんだけど…
 貴方ひょっとしてOTAKUなの?」

ルナが物凄い怪訝な顔でウインストンを見た。

「おいおい…ゴジラ知ってるくらいでOTAKUかよ?」

「他にも何か言ってたじゃあないのさ…何とかゼットとか
 何とかブイとか…」

「マジンガーZとコンバトラーV知ってるくらいでもOTAKUにゃぁならねーよ。」

「…そうなんだ…あたしには海の底より深い世界だわ…」

ルナはそれ以上深入りすまい、という態度でジョーンの
手伝いに専念した。

「…ゴジラって言う怪物の出るパニック映画があるのは知ってるわ、
 でも見た事が無くて。」

ジョーン君が答えると

「しらねぇなら先ずは見てもらわねーとな」

ウインストンはノリノリで自分の持ち物の中からビデオテープを一本取り出した。

「えー、ちょっとウインストン、あたし今テレビ見てるのよぉ?
 後にしてよ後にぃ〜」

「なんだよ、たまに一回くらい見逃したっていいだろ?」

「えぇ〜? やだぁ〜」

ジョーン君がちょっぴり呆れたように

「…見るわ、でもちゃんと見たいから、片づけが終わって
 アイリーの見てるその番組が終わるまでは待ってね、ウインストン。」

たしなめられるとウインストンも落ち着いて待つよりほか無い。
「早く終わんねぇかな」と言わんばかりにそのテレビを見ている。
ルナが小さく

「…男子って夢中になるものがあるとこれだもの…
 冷めてるよりは人間らしいけれど…」

うむ、いやまぁ「ロマン」って奴には心酔してしまうもの
なのだよ、「ロマンティック」とはまた別にね。

そして上映会と言うか…ノリノリのウインストンがビデオを回し始めた。
地味に私は何度かウインストンに見させられていてね。
内容は詳しく覚えていないんだが(ウインストンの解説入りだったしね)
やや傍観気味だが、それ以外の皆はそれなりに画面を見ている。

なにやら解説を入れたそうなウインストンだが、ジョーン君は

「ストレートにわたしの目で見させてね。」

軽くノーサンキューだ。
ふふ、この事務所で…いや全人類でもダントツの年長者な訳だし、
ジョーン君の鶴の一声で事務所内はその「ゴジラ」の音で一杯になる。

有名なストーリーだが、WWII戦後間もない時期、アメリカや
当時ソ連などが軍事拡大などに伴い海上での水爆実験や
地中、大気圏などでも同様に核実験をやってた頃だ。
そういった世界情勢はそれほど描かれていないが、それを念頭にするしないで
この映画の重みはまるっきり変わってしまう。

日本近海のある海域で謎の沈没事件、
捜索に加わった若き船乗り、その恋人との約束を反故にせねばならん、
恋人は古生物学の権威の娘で、古きよき日本の、と言うか
奥ゆかしく仕事とあればそれは仕方ないと彼を見送る。

海域の近くの島で謎の大地震、いや、目撃者の中には
暗闇にうごめく巨大な何かを見た、と言う報告も出た。

古生物学の権威である主人公の恋人の父が出向き調べた。
その時にそれは現れた。
「ゴジラ」
島民の間で語り継がれた水陸両棲の生き物であるが、異様に巨大だ。
放射能の反応も強い。

これは、核実験による多大な放射性物質の副産物なのだ。

「ゴジラ」を「調べる」べきか、すぐにでも駆除すべきか、
日本は揺れたが、とりあえず防衛策をとることにした。

ゴジラはとうとう東京湾に出没し、復興間もない東京に上陸、
突然のことに殆どなす術が無い。

ところで、博士の娘には博士の決めた婚約者が居た。

ドクターセリザワ。

戦争で片目を失い、いまや引きこもりの研究生活だ。

娘は今や他に恋人が居る身であるし、
娘にとって芹澤は兄のようなもので、それ以上でもそれ以下でもない。

娘は自分の恋路についての相談のつもりで芹澤を訪れるも、
そこで彼女が目にしたのは彼の研究する恐ろしい成果だった。

…ゴジラが二度目の上陸。
国家をあげ、保安隊があらん限りの策をとるが
ゴジラはとめられない、歩くだけでも街を破壊し、
彼の吐く炎の息は放射能を帯び、街を焼き尽くす。
暴れるだけ暴れて、ゴジラは海へ戻ったが、このままでは日本が壊滅してしまう。

救護のボランティアに出ていた娘だったが、この惨状に
恋人へセリザワの研究を伝える。

それは水中の酸素を「破壊」し、あらゆるものを溶解する恐ろしいものだった。
酸素を研究していて偶然発見してしまい、より良い使い道が見つかるまではと
娘に口止めしていたセリザワだったのだ。

ゴジラを撃退するにはそれしかない。

船乗りは(彼は娘とのつながりで父である博士とも、セリザワとも知り合いだ。)
娘と共にセリザワの説得を始める。

何があっても取り合わないセリザワだが、放送開始間も無いテレビに
惨状が延々映されている。
あまりに酷い。
日本はこの僅か九年前に広島や長崎への原爆投下、日本各地も
空襲の憂き目を見ていたばかりなのだ。

セリザワは立つ。
「しかし、僕の手でオキシジェンデストロイヤーを使用するのは
 今回一回限りだ!」

ゴジラの潜む海底に艦艇が乗り出し、船乗りとセリザワが二人で
オキシジェンデストロイヤーの配備、操作を行うことに。

本来なら、起動直後二人とも脱出するはずだった。

だが、この発明のあまりの破壊力は知られると
「これで最後だ」が何度も続くやも知れない。
セリザワは既に発明の図面も論文も全て焼いて破棄していた。

引き上げられるはずのロープが切られる。
セリザワが自ら退路を絶ったのだ。

「幸福に暮らせよ!」

オキシジェンデストロイヤーが始動する。
それはその有効範囲内の海中の酸素を全て「破壊」し
ゴジラも最後の足掻きを見せるが、流石に抗えない。

とうとうゴジラは、セリザワの命と、彼の発見した科学者の意地を懸けた
発明品に倒れた。

海底に沈む骨だけになったゴジラ。
そしてそれもあわ立つ海底に溶けて消えた。

セリザワは勝ったのだ。

そして全てが終わり、帰路に着こうとあわただしくなる船上で
博士はつぶやいた

「これが最後の一匹とは思えない…」

セリザワへの弔いを船上で示す皆。

受けがよければ、エンターテイメントとして
続編を匂わせるいつもの手法で、大ヒットとなった
同作は、ご存知のとおりシリーズ化され、
アメリカでも製作されたのはご存知のとおりだ。

「…怪獣ってのは馬鹿馬鹿しいけれど…うん、
 頭から否定できる話じゃあないわね、
 スタンド使いだって似たようなものだし。」

開口一番、ルナらしい感想が出た。

「「ゴジラ」が象徴するのは水爆そのものではないわね、
 暗に恨みや悔やみがあるかはともかく…
 放射性物質が持つ「リスク」の具現化といったほうがいいのかも。
 言ってみれば人類そのものなのかもね。」

ジョーン君がかなり真面目に視聴したようで、その感想を言うと
ウインストンは声には出さなかったが、
「お前も判ってくれるか!」とばかりに喜んだ。

「この時代ってCG無かったよね? 何か結構凄かったけど。」

アイリーが思ったより作品に引き込まれたようで、
映像技術に驚愕した。

「円谷英二ってなオメー…特撮の神だぜ?
 1954年の作品でCGに慣れた今じゃ辛いかも知れんが、なかなかだろ?」

ウインストン、君やっぱりOTAKUかもだよ…
少なくともその素質はあるね。

「リスクの具現化かよォ、確かにオレ達スタンド使いも
 こんな風に見られてるかも知れねぇーんだよなぁー」

ケントはそこに描かれる「ゴジラ」のもつ破壊力を
やはりスタンド使いになぞらえて考えたようだった。

「…うん、原理も何も説明されていなかったけれど、
 効果範囲内の酸素を強制分解し「溶かす」っていうのは
 …ええ、わたし出来るわ…」

ジョーン君がつぶやいた。
そういやそもそも「オキシジェンデストロイヤーとは何ぞや」
と言うところから出発してたんだったね。

「実際ジョーンが岩石を破壊する際に酸素や珪素を 
 選択的に分解してるからね。」

ルナも続けた。

考えをちょっと変えれば、ジョーン君はつまり「ドクターセリザワ」に
なれてしまうのだ。

「…そうね、セリザワがそう言ったように、
 簡単にやるべき事ではないわね。」

威力の規模を変えれば、ジョーン君はそれなりにそれをやっている。
エジンバラの修道院跡の柱に金を隠す、取り出す、何ていう時にだ。

だがやはりそれは「異能の力」なのだ。

エンターテイメントであるはずの同作は、我々にとって別のものを見せた。

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ダビドフだぜ。
はっはァ、俺がこんな語りするとはねぇ?

俺達二人は牢から出され、手錠と共に
指令室と思しき所に連行。

鼻の一つもほじりてーのに、手錠なんざァ…こんな趣味ねぇーんだがなァ

「お前達は! 何の目的でここへ来た!?」

「おいおい…そりゃー野暮ってモンじゃあねーのよ…?」

見張りの奴めが俺の膝裏に何か棒で殴りかかる。
俺も一応鍛えてるんでね、腱のあるトコ殴られた以外なら
大したダメージにゃなりゃしねーよ…こいつら…
ここに居る俺たち二人が化けモンだってしらねーから
高圧的だがよ…俺は軽く睨みつけてやったが、
見張りの奴は俺の眼を見ないようにしてるらしかった。

ハン…、この「痛がり屋」め…

権限の上っぽい…っていうか最高責任者っぽい奴が
席から立ち、ジタンの方に歩み寄って

「…全く惜しいな…こいつが見た目以上に…
 本物の女なら…別な聞き方も出来たんだろうがな…!」

ジタンのあごに手を当てしゃくりあげるようなことをやるわけだ。

…あーあ…

ジタンはこの手のことが嫌いなオマケに
見た目は中性っぽいかもしれないが…いざそう扱われると
キレる奴なんだぜ…?

ジタンは精一杯我慢してるのか、あらん限りの無表情で
しのいでいるんだが…「ゴゴゴゴ」って音が
こっちまで聞こえてくるよーだ…

「…むしろこいつは男の振りをした女なんじゃあないのか?
 裸にして調べようか?」

「おい…そのネタ引っ張るなよ…どーなっても俺は知らんぜ?」

俺の心よりの忠告だ。

「どうなるというんだ!? お前達はわが国に忍び込んで
 捉えられたのだ! その両手の手錠を切るとでも言うのか?
 じきに仲間も見つけ出し、偉大なる指導者の下に送り込んでやる!
 …その前に、こいつで遊ぶのも…」

そこまで言って、奴は喋れなくなった。

レットイットビーが口を塞いだんだ。

「…済まん、ダビドフ…作戦を立てた俺が…こんなざまで」

「だからシンプルに正面突破でも良かったんじゃねーのと
 俺は言ったんだよ…やれやれだなァ…」

「…もう少し…もう少しモラルのある奴が上だと信じたかったが…」

「どこの国だろーとこういう場所は大差ない気がするね、俺は。
 増してこの駄々っ子国家じゃァなァ」

「…そうだな…だがまぁ…炉が地下にあるこの極秘施設だ…
 多少の段取りは必要だったと、そういう事にしておいてくれ…」

レットイットビーは勿論奴らには見えねぇ。
何が起こったか判んねぇって顔のこいつらをよそに、
ジタンの両腕はいつの間にか自由になっていた。
そう「劣化」を使ったんだ。

手錠はボロボロになって床に落ち、ジタンは司令官と思しき
この男の銃を奪い取ってそいつの顔面に突きつけた。

「…ここにある重要書類、データの類を出してもらおうか…」

周りの奴らも騒ぎ出す、だが、俺の手錠も蒸発するようになくなって
俺もレディオアクティヴィストを出し、そいつらの武器になりそうなもの
なんかを「蒸発」させた。

…いや、何のこたァねぇよ。
核融合をエネルギー無視で繰り返し、第18属元素…「希ガス」に
してやったのさ。

アルゴンやクリプトン、キセノンや…こいつはちょっぴり危険だが
ラドンにしてやったわけだ。
鉄ならアルゴンが近いし、鉛ならラドンが近い。
炭素酸素な木の棒、火薬の原料になる窒素系化合物ならネオンだな。

希ガスってのは…化合物を殆ど作らねぇ。

だからそこまで持ってきゃぁ…自然と蒸発するように無くなるのさ。

そう、俺のスタンド「レディオアクティヴィスト」の能力は
鉄にすることじゃあねぇ。
エネルギー収支無視で核融合をさせより重い物質にする能力だ。
(全くの元に戻すのは出来るが、一旦出来ちまった物質の原子番号を
 一つ指定して戻すとかそういうのはまぁ無理だ。
 出来なくはないが(それこそタバコの一本くらいなら)、
 そんなめんどくせー事修行しちゃいねーからなぁ)

じゃあ何で「鉄」だったのかって?

覚えとけ、鉄ってのァな、この宇宙で最もエネルギー的に安定な元素なんだとよ。
太陽が燃えるのは「核融合」のエネルギーだが、
星の融合炉の核には鉄がたまってゆく。
「重力」では鉄から先の核融合は起こせねェんだ。

鉄より重い元素は、星が死ぬ際、外殻を吹き飛ばすエネルギーなんかで生まれてる。
原子番号26、そこが一応の頂点なんだぜ。

それより重い元素はきっかけがあれば分裂して鉄になろうとするし、
軽い元素はきっかけがあれば融合して鉄になろうとする。

実際俺もやりやすいんで鉄に持ってくのを第一段階にしてるだけさァ。

とはいえ、選択的に「希ガス」とか急にやれるモンじゃあねぇ。
…僅かとはいえ、ここに連れて来られて、少しの時間だが
尋問の時間があったこと、それがまァ…準備時間だったわけだァな。

「…あーらあら…オメーら…素手で俺たちに勝てると思ってんの?」

その上司令官はジタンに銃口向けられてる。

「…お…お前ら一体…!」

怖気づきながらも司令官はそう言った。

「…俺たちは…スパイでここへ来たんじゃあない…
 ここをぶっ潰しに来たんだ…」

ジタンの向けた銃口が火を噴く。
司令官の帽子を吹っ飛ばした。

別に耳の一つくれー飛ばしたっていいのによ。

…まぁ、いいか。

「つ…潰すだと!? この偉大なる施設に
 恐れをなした国の差し金か!?」

俺は思わず笑っちまった。

「ヒャーッはっはーァッ!!
 マジか、こいつマジで言ってンのか?」

「…まったく…やれやれだな…」

ジタンが奴をせっつき、書類やら何やらを集めさせてる。
拒むようなら今度は肩や上腕の皮膚部分なんかを打ち抜いてる。

「本当に怖えーなら…誰も手出しなんかするかよ…
 ウゼー奴がウゼーもん作ってウゼー事言い出すから
 「やれやれ」ってな気持ちでぶっ潰しに来たってのによォ」

俺の言葉を緊張の面持ちで聞いた司令官の奴、
机の下の引き出しを探る振りをして机裏の
何かボタンを押したようだぜ?
ジタンに銃床で殴られて気絶しやがった。

「…こいつ…何をした?」

ジタンの言葉に下っ端の一人…とはいえ、司令官の二つ下くらいっぽい奴が
汗一杯の顔で引きつりながらも勝ち誇ったように言いやがる

「…我々には見えない「力」…そんなものはないと信じていたが…
 偉大なる指導者様は…このことも予見してらしたのか…
 ここの施設にそんな奴必要あるかと思ったが…
 今司令官が呼んだのはそれだッ!
 偉大なる力を思い知るがいいッッ!!」

「へェ…」

俺はつぶやき、レディオアクティヴィストの腕はそいつの胸を貫いた。
鉄にしてやるよ。

他の奴らがビビリまくって腰抜かしたようだぜ

ジタンが必要書類と思われるものをその部屋にあった
カバンというかトランクに詰め込みながら。

「…そりゃまぁ…この国にも居るだろうな。」

「ああ…ちょっとは楽しめそーだねェ…偉大なる指導者様
 直属の…スタンド使いってのァ…どんなもんかねーェ?」

「悠長にもしてられん、このまま炉の方に向かうぞ。」

「ああ、じゃあ…(テキトーに)こいつにでも案内してもらおーか。」

腰を抜かした一人の襟を捕まえ、俺たちは引きずりながら司令室を出た。

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厳重に締められた分厚い扉も、警備兵の銃もライフルも、
はっきり言って俺たちには無力だね。

ジタンの「劣化(これはスタンドの拳で触れなくちゃならない)」
「現状維持(これは多少状況で効果範囲が変わる)」

そして俺の「エネルギー無視の核融合連鎖」

何より、お互い攻撃力評価はAでね。
(ジタンのはAの下ってとこだがな)

防御は主にジタンが「現状維持」で賄い、
目の前の敵の排除は主に俺だ。

ゴジラ様がお通りだぜ?
アキラ=イフクベのテーマ曲が俺の頭をよぎるぜw

そうこうしているうちにだな、
「ここから先が炉への入り口だ」
って通路にやってきた。
案内人はさっき用済みなんで俺が銃弾の盾に
使っちまった。

ジタンはやや複雑そうにそれを見るんだがよ。

「おいおい、これからここを吹き飛ばすんだぜ?
 殺さなかったからってこいつらが助かるとでも?」

俺の言葉に、ジタンは苦笑の面持ちで

「…ああ…そうだな…」

複雑そうなまま、そう答える。
お前はよ、ホントはBCにゃ向いてねーンだよ。
俺もお前もよく判ってる。
だが、そんなクリーンなお前だからこそ
プレジデントは看板になるような
「いい仕事専門」のやつも欲してた。

ま、何かの縁って奴だね。

ジタンが扉の「劣化」に取り掛かるが、
さすがに分厚く頑丈に作ってあって時間がかかりそうだ。

この場に二人固まっていると上手くねェ、
俺が少し通路を戻って通路を塞ぐ手を講じた。
スタンドで防御とかやってても疲れるんでねぇ、その辺の倉庫から
バリケードに使えそうなもん見繕ってきたってことさ。

…そのうちにだな、
突然バリケードの一部が燃え出したり、俺の居る位置の近くから
「ツララ」が攻撃してきたりだな、
おいおい、なるほど、これが能力者の奴らか?

見ると、通路の先から三人組の…とはいえ、
一人はどう見てもガキんちょなんだがよ…
まぁそれでも特別な軍服らしきを着たのが
こちらを伺いながらやってきた。

火と言うか、火力ならブロムナードの足元にもおよばねェし、
氷の方も俺が以前エジンバラで出会ったあの洒落にならない冷気を
最後に出してきた奴には比べ物にならねェな。

…やれやれ、やっぱり狭い世界でちんたらやってたって
この程度の奴くらいしか生まれちゃこねーって訳かね?

…それとも緊急事態だからこの程度の奴らしか来れなかった?

…唯一つ、ガキんちょと思われる奴の能力が見えねェのが
気になるところだが…

俺は銃やら何やらがこねーならバリケードは無意味と
その先に躍り出て、通路をそいつらの方に向かった。

火は「ファイアーボール」というかな、火球を投げる感じだし、
氷の方は連続では使えないようだ。
くだらねェ、ちょいと体をずらすくらいでかわせちまう。
軌道を曲げる訓練もろくすっぽしちゃいねーよーだ。

その三人までの距離10メートル。
俺はポケットに手を突っ込んだまま歩いてたが、そこで立ち止まり、
レディオアクティヴィストを出した。

「…ネタはそこまでかい? 俺からも行かせて貰うぜ…」

軽く…3割ほどの力で先ずは俺の視界の先のそいつらの内の二人を
鉄にしよーかね…

と………何?
変わっていかねぇ…
よく見ると、真ん中のガキんちょはまだ弱そうで
全身を出現させることも出来ないスタンドを
精一杯使って何かしているようだ。

…このガキ…ひょっとして…

大人二人の方は英語が話せないらしく、
現地語で何か俺を煽ってるようなんだが、
そのガキんちょにも向かって何か指示を出してる。

ガキんちょが更にスタンドパワーを籠めたらしい、

炎とツララが俺を襲って来るんだが、
どうしたことだろうかね、威力もスピードも上がってやがるぜ、

流石にジャンパー少し焦がして更にツララで穴も開けちまったい。

「…なるほど…俺の敵は…お前だな。」

俺はガキを指差して睨みつけた。
ガキが萎縮しかかるが、周りの大人が叱咤しているようだ。

「三流のスタンド使いがよ…おめぇら二人はいいわ、退場な。」

三割の力じゃあねェ、八割の力で二人に
レディオアクティヴィストの能力を使う、

くっそ、八割の力だってこんな場面で初めて使うとはな…

そーさ!
俺だって自分の五割以上の力を見たこたーねェ!

流石にそいつらの体がどんどん堅く縮まってゆく。
最後に足掻きを見せるが、遅いね。

俺はまた歩き出し、ガキの前まで来て立ち止まると
レディオアクティヴィストが両手で
脇の二人の成れの果てを突き飛ばした。

がしゃん、と二人は砕けた。

部分的に鉄までなってるが…大部分はシリコンで止まっちまってる。

ガキんちょは俺に恐怖を抱いたようだが…くそ…
俺の初めての八割の力をここまでセーブしちまったか、こいつ…

「オメーさんの能力…味方の力は平均値をあげ、
 敵の能力の平均値は下げる…そういう能力らしいな…。」

軍帽を取り上げるとそれは…
年のころはまだ10歳未満か? 濃い目だがややブロンドに
目の色も東洋人じゃねー。

…しかも女だ。

そいつも一応は軍人として訓練をつまされてきたんだろうが、
…あるいはこいつ…もしくはこいつの親はどっか欧州から
連れてこられた奴なのかも知れんな。
英語で何か言おうとしたらしいが、恐怖が先にたって
何もいえねー見てーだ。

自分の能力が結局は通用せず、俺の損害はジャンパーの焦げ目と穴
味方の二人は殺された。

自分も殺される、そう思ったんだろう。

そうだな、どうあれ、オメーさんは敵だよな。

スタンドじゃあなくて俺自身がガキをぶん殴って飛ばした。


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