Sorenante JoJo? PartOne:OrdinaryWorld

Episode3:Stay Close to Me

第一幕 開き

ある日…夜だが…
ロンドン郊外の公園で散歩中の近所の老人と思われる変死体が発見された。

「思われる」というのは
体中が中から沸騰したような状態にまでなっており、
性別やおおよその年齢以外は判別不可能なほど
破壊されていたからだ。

腐乱とも違う、死亡時刻そのものは新しそうだったからだ。

明確に判ることは、背中からちょうど肋骨の隙間を縫い
心臓を貫いた「矢」のようなものが死因で、
体から抜け出すときに胸骨に当たり方向が下を向いて出て行ったのだろうと
言うことだった。

現場は凄まじく、科学捜査班も一時派遣されたほどだった。

細菌に侵された状態と思われたからだった。

現場のすぐそばに被害者とは別の血があり、犬の血と判別された。

犬の血はある程度まで点々と追えたが、市街地に入ると
だんだん血痕も少なくなり、
そして喧騒に紛れてしまっていた。

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…ここから報告する話は…俺は途中からしか関わってないが
K.U.D.O探偵事務所の連中が巻き込まれた…
人騒がせとも…まぁそういうことにしておこう
そういう事件があって、
後から考察され想像した部分と彼らの証言なども元に
俺が再構成したものだ。

しかし、時にこういう事件もあるのだな、と思い。
最初から関わってなくてよかった、と心底思った事件だった。

まぁ…順を追って話そう。

最近出ずっぱりだが…ジタン=ゴロワーズがお送りする…

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その日は…俺のジョーン探索の仕事の合間に起こった。

あれから俺はルナの突き放したメールに頭を抱えてた。
…これは今回の事件には関係ないんだが…
ジョーンの正体がかなりぶっ飛ぶものだと言うことは
予想はしていたが、あんなに深刻に俺に忠告していたルナを
「一人で悶絶してなさいな」とまで言わせたほど
彼女は「異質」なのだという事なのだろうか?

…俺は散々悩んで、そして次の日だったか、更に次の日だったか

突然バカらしくなった。

とはいえ仕事だし、興味は続いてはいる。

ただ、一度ロンドンに戻って気分を完全に入れ替えよう、
そう思ってロンドンに戻ったときのことらしい。

二度目になる、

その日は…

穏やかな気温だが曇りで、平日の昼前とあって
K.U.D.O探偵事務所のあるアパート街は閑散としていた。
契約者(居住者)に独身者が多く、仕事で留守が多く、

家庭を持った世帯でも昼前だ、買い物に出かけた主婦や主夫が多かった時間。

ジョーンはルナからPC操作を教わっていた。
事務所でのことだ。
平日昼と言うことで仕事もなく、K.U.D.Oは即日調査終了できる仕事が
殆どなので抱えたものもなく、全員がその様子を見ていたんだそうだ。

「あなた…アクションは凄いし知識もそれなりに深いのに
 なんでまたキーボードもまともに叩けないのよ?」

ルナの檄が飛ぶ。
ジョーンはPCの画面を見て、手元のキーボードを見ながら
恐る恐る両手の人差し指で丁寧に長時間かけて文章を入れていた。

「…なんかよぉー…w 悪りぃな、ばーちゃんみたいだぜぇ?」

ケントがからかう、しかし本当にそう思わせる動きだったそうだ。

「…からかうものじゃあないわ…わたしは必死なのだから…」

いや、その必死さがそう見させるんだ…

「なんでまたこういうことには疎いのかしらね?」

「そりゃお前…生まれて最低200年はPCなんてない時代だったしな…」

ウインストンもその様子をややおかしそうに見ていた。

「…キー配置が慣れているものと違うのよ…
 タイプライターで昔わたしが持ってたのなら早いわよ…」

「…ああ、確かに黎明期のタイプライターはキーは位置がまちまち
 だったらしいわね、現在の形になるまでも結構紆余曲折あったようだし」

「じゃあ、ジョーンが使ってたタイプライターって
 どこにどの字があったのぉ?」

アイリーがクッキーを食べながら素朴な疑問をぶつけた。
ジョーンは「Bはここで…」とか指をやると確かに全然違う。

ルナもアイリーが独占するように抱えてるクッキーを
横から一枚とって口にやりながら。
(そもそもこのクッキーは全員のティータイム用にジョーンが作ったものだ)

「…あなたのキー配列を書き出すと
 多分どこの会社の何年製のものか特定できるわね…」

「それに…ShiftとかCtrlとか…知らないキーだし…」

「…ふふ…確かに…お婆さ…ゴホン、ほほえましい光景に見えるね。
 まぁ何事も慣れだね、早く新しい慣れで古い慣れは書き換えてしまわないと。
 今はほぼ世界中英字キーはこれで統一だからね。」

「…ええ…そう…ねぇ…」

ルナが使ってるときは軽快な音を立てているキーボードの
もどかしそうな音が部屋を満たして皆がまた
声をかけるより見守る方に注意が行ったその時だ。

ちょっとしたブレーキの音と、そしてその後
「どんっ」という音がした。
車が止まって運転者が降りてきて何か喚いている。

ケントが即効で事務所のブラインドを上げ、窓を全開した。
ケントの目線からするとちょっと距離があるようだ。

「あれだぁー! 血は出てねぇーが、女が轢かれたようだぜぇ?」

その声に、ジョーンとルナが瞬間に鋭い真剣な目つきになった。
修復(?)系と治癒系だ、当然の反応だろう。

二人が部屋を飛び出した。
後の4人もそれに続いた。

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ケントの視界には入ってなかったが、そのそばには犬が一匹いた。

…リードはついたままだが、どうやら女の犬と言うわけでもないらしい、

だが、犬はその女に近寄った後、上を見上げた。

そこには、天に昇ろうとする女の姿があった。
魂だ。
まだ20歳そこそこだろう、若いが、彼女の目には
なにかこう、希望の光らしきものはなかった。
いつも冷めてて、つまらなさそうだった。

「…ああ、あたし死んだんだ。
 …まぁいいか、別に何に固執する気もなかったし、
 終わるなら終わるで。」

犬が自分を見上げ吠えている。
自分が見えている?

「なに? 君は。
 …あたし? ああ、死んだのよ、歩いてて急に胸が苦しくなって。
 …別に気にしてないわ、死ぬなら死ぬで。」

なおも犬は何かを求めるように吠えていた。

「なによぉ…?
 あ、魂だけになったら貴方の言葉はわかんなくても気持ちは判るかしら…?
 …お、わかる、判るわぁ、主人を探してくれ?
 なに、君のご主人は死んだわけ? いつ?
 つい最近?
 何かで刺されたって?
 そりゃ、酷いわね、で、自分を逃がしてくれたけど、
 最後に振り返ったときに…なるほど、あたしみたいに
 体から魂がでてきたって訳だ。」

犬はもう必死に懇願するような表情だ。

「…判った、その君のご主人様をさがして来ればいいんだ?
 …ああ、なんならその体使ってちょうだいよ。
 あたし多分心臓発作か何かの突然死だから
 血も出てないし、体はいたんでないと思うわ。
 …で、どっちで亡くなったの?」

犬は顔の向きでそれを示した。

「…わかったわ、探してきたげる、ちょっと待っててね。」

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通りにジョーンが先頭
ルナが続いて、更にその後ろを四人が駆け込んできた。

運転手が大混乱している。

「あああ…私違う! この女が突然道に倒れこんできたよ!」

英語がかなり東洋なまりだ、顔もそれ系だ。
駆けつけたジョーンが体をオーディナリーワールドでチェックした。

「…傷はないけれど…既に死んでるわ。」

ルナも駆け込んできて射程一杯でフュースモールリペアーを
倒れた女性に触れさせた。

「…ハァ…ハァ…た…確かに…「空っぽ」だわ…傷もない…」

ほんの数十メートルだが、ルナは息を切らしていた。
後から続いた四人が二人の言葉を聞き

「ふぅ…ふぅ…ということは…「彼女」は心臓発作か何かで絶命した?」

ポールもデスクワークの多い42歳だ、余り無理はするな?

「バンパーも凹んじゃあいねぇ、おい、運転手、状況を教えろ。」

ウインストンが探偵免許を示しながら運転手に事情を聞いた

先ほどの喚きのとおり、車で右折だか左折だか、とにかく曲がって
この道に入ってすぐ、ちょっと前を歩いてたこの「彼女」が
うつむき加減になったかと思うと、道路に倒れこんできたのだという。

「本当かよぉー?」

「ほ…ほほほほほほほ…本当だよ! 私違うよ!」

ジョーンとルナが同時に言った

「どうやら真実のようよ、だれか救急車を!」

死んで間もないなら、あるいはまだ蘇生手術が可能かも…
そういう一縷の望みだ。
ルナが心臓の上に手を置き数回押すと、
ジョーンが「彼女」に息を吹き込む見事な連係プレーで
人工呼吸を始めた。
しかし、携帯電話は事務所のポールは机の上に、
アイリーはソファーの上に投げてしてしまってて、
ウインストンもつい先日購入したが、充電を忘れていて
使えなかった。

ウインストンが落ち込んだ。
こいつは時々抜けてるんだ。

「あーーーーーー!!!!!」

ケントが頭を抱えて叫んだ、彼の携帯は事務所の窓の下。
つまり、先ほど窓から身を乗り出したときに落としてしまったらしい。
こちらもご愁傷様だ…

その間、人工呼吸を続けたが…どうやらジョーンも医療に関しては素人なので
もうシロウトではどうしようもないようだ。

運転手の立っている後ろに電話ボックスが、

ルナが叫ぶ

「そこのあなたッ! 貴方のせいじゃあないって事はほぼ確実だから落ち着いて!
 だからそこの電話ボックスで救急車をッ! 早くッ!!」

「は…はいぃぃいいいーーーーーーッ!」

「彼」が電話ボックスに向かったその時だ。
ジョーンが「犬」の存在に気づいた。

「…あら…? このワンちゃん…怪我をしてるわ?」

ルナが

「…本当、黒い地毛だから気づかなかったわ、見せて…
 ああ、ウインストン、ちょっとどいてよ!」

現場に六人入り乱れ混乱してる。

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「つれて来たわ、この人でしょ?
 …じゃあ、あたしは逝くわね。
 さよなら、名前わかんないけど…ワンちゃん」

犬が尻尾を振って見送るも、「彼女」は振り向きもせず、
この世に何の未練もないかのように消えていった。

つれてこられた魂は弱っていた。
早く「器」に入れないと消滅してしまう。
犬はうろたえ、精一杯願った。

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「ああ、スマン「彼女」に近寄りたいのかと思った、「犬」な」

ウインストンがよけようとしたその時だ。

犬が遠吠えをした。
あたりにちょっとこだまするような、
悲痛とまで言わないが、必死な咆哮。

「…ん…ッ…なに…気が…遠く…」

一番犬に近づいていたジョーンを皮切りにウインストン、ルナ、アイリー、
ポール、ケントが次々に路上に倒れた。

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それからどのくらい時間がたった?

最初に目を覚ましたのは…

「…なぁに…ちょっと今の…あッ…「彼女」がいないッ!
 どういうこと? 蘇生が成功したの?
 あッ…「犬」も居ないわッ!
 怪我をしてたのにウインストンが早くどかないものだから…!」

そういって彼女は異変に気づいた。

「…あら…何であたし左目が隠れてんのよ?
 何で髪の毛巻いてんのよ?
 メガネがないのによく見えるし…
 …何この服、アイリーじゃあるまいし…
 あ………あああーーーーーーーーー!!!」

その叫びに起きたものが居た。

「…うぅーん…何よぉ…いきなり…ちょっとうるさいよー?
 あれ、あたしなんか声変じゃない?」

対面した二人。

「…あたしが…起き上がった…」

「なんであたしそっくりの人が目の前に突然いるわけぇ?
 眉間にしわ寄せてたら跡がついちゃうよぉ?」

「余計なお世話よッ! ど…どうなってるの…!」

二人は同時に近所のガラス窓に映った自分を確認した。
その途端、二人はパニック寸前だ、

「ちょっと…なにあたしキュロットなんて穿いてるのよォォォオオ!
 じゃないわーッ!
 ちょっとそこのあたしの姿をした貴女、念のため名前を聞くわ!?」

「何よぉ、そっちこそ…よし、じゃあ、二人いっせいに自己紹介を!」

アイリーの姿と声をしたそいつは「ルナ=リリー」と名乗り
ルナの姿と声をしたそいつは「アイリー=アイランド」と名乗った。

「……入れ替わってる…!」

「…え、じゃあ…他の四人はぁー?」

二人の心臓が高鳴る、なまじのホラーより怖い瞬間だ、とアイリーは言ってた。

「ううむ…なにやら騒がしいようだね…何が起きたのだね…?」

口調はポールだ…でも起き上がったのは…

「おや…頭が部分的に涼しいね?
 …なんだね?
 いつのまに私にこんな破れたジーンズなど着させたのかね?」

パニクってた二人が思わず噴出しそうになった。

「アイリー、貴女手鏡持ってたでしょ?」

「あ、うん、…ああ、違うよ、探すのはルナの方、左ポケットだと思うよ」

「ああ…そうだったわね…」

笑いそうになって危機感がなくなったらしい、アイリーの姿と声をしたルナは
手鏡を出してポールの口調をした者に手鏡を差し出した。

「………」

声を失ったようだ。
ルナが言った。

「…と言うことは…ポールの体にはケントが入ったようだわね。」

「うぷぷっ♪ なんかおかしーい♪」

「…体が…入れ替わったのかね?
 アイリーが眉間にしわを…ルナのように寄せているし…
 ルナの表情が無防備極まりないアイリーのようだよ」

「余計なお世話よッ!」

「「無防備極まりない」って「バカっぽい」ってことぉ? ひどいなぁ」

ケントの姿と声をしたポールもおかしくなったようだ。
ルナとアイリー、普段の態度がまるで逆のタイプだから尚更だ。

「ぬぉー…何だよぉーくっそ、ケータイ落っことすしサイテーだぜ? 今日はよぉー」

自分たちの身に起きた事なのに、既に起きてた三人は思わず口を押さえた。
ルナの姿をしたアイリーやケントの姿をしたポールが特に肩を震わせている。

「おぉ? なんでぇー、何で俺が俺の目の前に居るんだよ?」

ケントの姿をしたポールはアイリーの姿をしたルナから手鏡を受け取り
起き上がったポールの姿と声をしたケントにかざしていった。

「…私と君が、入れ替わったようなのだ。」

ポールの姿と声をしたケントは口を大きくポカーンと開けた。
思考停止したときのケントの癖そのままだ。

「ルナ、あんまり笑わなかったねぇー? 受けなかった?」

ルナの姿と声をしたアイリーがアイリーの姿と声をしたルナに問いかけると

「…いや…だとすると…さ…最大級に…おかしいのが…後ろに…w」

想像したのだろう、必死で笑いをこらえるアイリーの姿と声をしたルナが
そういってる間に後ろでジョーンの声で目を覚まそうとしているのが。

「くそ…何だっていきなり気が遠くなるんだ…お、お前ら起きたのか?
 大丈夫か? 何があったかわかってる奴は居るのか?
 …あ…? 何俺の声こんな高くなってんだよ?」

もうその時点でケントの姿をしたポールとルナの姿をしたアイリーは
路上に座ったままお腹を抱えて笑いそうになってる。

「…おい…何がおかしーんだよ?
 お? 何この細い指?
 何だこの手袋みたいなの、ジョーンじゃねぇんだからよ…
 …ジョーン…?」

そこで彼…といっていいのか…まぁ魂はウインストンの奴は
自分のすぐまん前に倒れてるそいつを見て固まった。

「…俺だ…俺がぶっ倒れてる…」

魂がウインストンのそいつは…玉のよーな汗を流しながら
自分の目線を下にずらした。
ありえない巨大な脂肪の塊が二つ、そこにはあった。
うつむいたその時、顔の左右両方の視界に
縦ロールの黒髪も見える。

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!
 なッ…なんじゃあこりゃぁぁあああああああああああ!!!!!!!!!」

ルナの姿をしたアイリーが笑い転げ、ジョーンの体と声をしたウインストンは
思わず胸をわしづかみにするが、確かに感覚がある、自分の胸だ。
笑い出してるケントの姿をしたポールは手鏡をかざした。

「何で俺が映るべき鏡にジョーンが映って俺と同じ台詞はいてるように
 見えるんだよぉぉおおお!!!!!」

ジョーンが眉間にしわ寄せて険しい目つきになりかさつな座り方で叫んでる。
ウインストンそのものだ。
まだ半分あっけにとられてるポールの姿と声をしたケントがジョーンの姿と声をした
ウインストンに指差しで誰と誰が入れ替わったかを指し示しながら

「入れ替わっちまったらしぃーんだよぉー、やばくね?」

「…ああ…一番笑えるのが最後に残ったわ…ww」

流石の(アイリーの姿と声をした)ルナももうこらえきれないと言う感じで
ふきだしながら倒れてるウインストンの体を揺さぶっていった。

「ちょっと…ぷっ…うっ…くく…「ジョーン」起きなさいよ?」

「…や…やめろッ! 起こすな! 起こさなくていいッッ!!
 てめえら、俺の姿と声でジョーンの口調になってるの見て
 笑う気だろォォ!?」

ジョーンの体と声をしたウインストンが必死にアイリーの姿と声をした
ルナを止めてる。

「ああ、ルナ一番笑えるってそれかーッ、あっははーッ♪
 確かに考えただけでチョー受けるんだけどぉーっ♪」

ルナの姿と声をしたアイリーがもうそれだけで呼吸困難に近いことに。
今まで笑うにしてもポールらしい紳士さは忘れてなかった
ケントの姿と声をしたポールも想像してとうとう声に出して笑い出してしまった。

とうとう運命の瞬間だ、目を開けたウインストンの姿と声をした
ジョーンのはずのそいつは上体を起こしたときに幸いなことに
近所の窓ガラスに映った自分をまず見た。

「…………」

そしてガラスに反射した位置関係からジョーンの体と声をしたそいつを見た。
口をへの字に曲げ、眉間にしわを寄せて自分を怖い顔で見つめてる。

ウインストンの体をしたそいつは…しかし慎重だった。

両手の指でお互いを指差しあい、その手を交換するように指した。
つまり、言葉には出さなかったが
「…入れ替わってる?」
そう自分の体をした奴に聞いたのだ。

ジョーンの姿と声をしたウインストンは自分の体をしたジョーンの肩に
両手をかけて叫ぶように言った。

「いいなッ! 一切しゃべんじゃあねーぞッ! ああ、その目もだめだッ!
 眉間にしわ寄せてろッ! それが無理なら帽子を深くかぶっとけっ!
 いーなッ!」

それを聞くと、ウインストンの姿と声をしたジョーンは、
…体がウインストンになったからなのか、
(つまりポーカーフェイスを作りなれてないからなのか)
ちょっと判りやすく「むっ」としたような表情になって。

「…貴方がその態度じゃあおあいこよ、わたしも喋りますからね。」

案の定、その声と喋り口調を聞いた途端、ジョーンの姿と声をしたウインストン以外は
爆笑に包まれた。
ジョーンの姿と声をしたウインストンが泣きそうな顔になってるのが
更に笑いを誘った。

「…それより皆、「問題」を忘れてない? 問題は二つあるわ。」

ジョーンも喋っててかなり違和感があるのだろう、
喋りたくはなさそうだったが、しかし笑いに包まれたこの場で
ジョーンだけがまだ正気を保ってたようだ。

「…うう…ふぅ…もう…涙出るほど笑っちゃったわよ…、で、何?問題って。」

アイリーの姿と声をしたルナがそういうと、

「…貴女は…その口調からするとルナね?
 「彼女」と「犬」は?」

「…ああ…それが居ないのよ…運転手も姿が見えないんだけど…」

「………(未だ傷心)…おい…
 …運転手の奴なら通りの向こうの電話ボックスに居るぜ…?」

ジョーンの姿と声をしたウインストンが肩を落としながら
かなり遠くを指差した。

「…え? どこ? どこぉ?」

ルナの姿と声をしたアイリーが言うと

「…見えんね、電話ボックスは」

「何言ってんだよ? ほれ…ああ…あの距離だとどのくらいだよ?」

「…ああ、わたし視力5.0だから…なぜ彼はあんな遠くのボックスに?」

またさり気にジョーンが凄いことを言った。

「うっは、ルナぁ、目、悪いねー。メガネ外したらそこの看板も見えないよ?」

「ああ、あたし視力0.005だから、乱視も入ってるし。
 裸眼だと本を目に10CMくらい近づけないと読めないわ。」

「みんな…脱線が過ぎるわ…いえまぁ…端から見てる分にはおかしいのだけれど…」

なんだかんだ言って、ジョーンもおかしいらしい。

アイリーの姿と声をしたルナがウインストンの体と声をしたジョーンの肩に手をかける
慰めてるようだが…でもやっぱり可笑しそうだぞ

「…まぁ…あなたが…ぷっ…一番堪えてるでしょうからねぇ…」

ジョーンが沈んでる。
そんなに判りやすく沈んだジョーンは初めて見る

「…もう…話を元に戻すわよ。
 これはとても大事な事だから、皆、笑わないでね?」

それを聞くと、ジョーンはまだふざけたり楽しむだけの気持ちがないのだろうからと
皆も注目した。

「…皆、自分のスタンドが出せる?」

えっ?
皆がはっとしてアイリーが試し、ケント、ポール、そしてウインストンも
自分のスタンドを呼び出そうとした。

スタンドが出せない。

その様子を一人観察していたアイリーの姿をしたルナが言った。

「…ダメだわ…アイリーの体ならアイリーのスタンドなら出るのかと思ったけれど…」

逆をやってみたらしい、気が利いたが、しかし徒労に終わったようだ。

ウインストンの体と声をしたジョーンがつぶやくように言った。

「…6年前のローマでの出来事…先のグイード=ミスタから聞いた話なのだけど
 あるスタンドのある暴走によってローマ中の人の精神が
 そばに居る…人でも動物でも…入れ替わる出来事があったそうよ
 ただ、その時スタンド使いのスタンドは入れ替わった魂と共に
 代わった先の体でも使えたということだけれど…」

ケントの姿と声をしたポールが

「ふぅむ、それはまぁ、それが目的なんだとすると不自然だから
 …何か別な意味があるか…かなり副次的な効果だったか…だろうね」

「ええ…そっちの方はね…細かく話してる暇はないけれど…
 とりあえず皆、意識を失う直前のことで覚えてることは?」

自分のケータイに意識が行ってたケント以外は揃ってこう答えた。

「…犬が吠えた…!」

ポールの姿をしたケントが

「犬がスタンド使い…まぁーいるだろうけどよぉ?
 魂と体が入れ替わるなんて一体犬に何の利益があるんだよぉー?」

ウインストンの姿と声をしたジョーンが

「…まだ推測の域をでないわ…とりあえず「彼女」と「犬」を探さなくては…」

ジョーンの姿と声をしたウインストンが

「おい…待てよ、敵の攻撃って事はないよな?」

スタンドが使えないなど、敵にとってこれほどおいしい効果はないからな。
だが、それに関してはアイリーの姿と声をしたルナがきっぱり言った。

「ありえないわ、こんな風にあたしたちの身に何が起こったかなんて
 考えさせる余裕を与えることがまずありえない。
 …やはり「決め手」は「彼女と犬」だわね、一緒に行動していると
 考えた方が自然だし…それほど長い時間気を失ってたわけじゃないのは
 間違いなさそうだし」

ルナの姿と声をしたアイリーが

「ああん、ベイビー・イッツユーは使えないしぃーッ!」

ケントポール

「…なるほど…これはきつい…いかに我々が「楽」を選んでいたかが判るね…」

アイリーの姿と声をしたルナが檄を飛ばす

「…原点に返るのよッ! それしかないじゃないッ!」


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