Sorenante JoJo? PartOne:OrdinaryWorld

Episode3:Stay Close to Me

第二幕 開き

「…とりあえずこんなものでどうかしら?」

事務所に一度戻り、ウインストンの姿と声をしたジョーンは
紙にペンで流暢に「彼女」と「犬」をモンタージュしていた。
「印象と想像」半分で描いたと言うが、かなり似ている。

「…驚いた…あなたこんな特技もあるのね」

アイリーの姿と声をしたルナは人工呼吸で「彼女」をよく見ているし
「犬」も治そうと注意を払った経緯から、それが「かなり似ている」と判断した。

皆事件を忘れかけてそれに見入ってる。

「…自分に何が出来るのか、どうやって生きていくのか
 色々学んで見た結果よ…これで食べてゆけるレベルかどうかは微妙だけれど。」

やはり彼女の経歴に深くかかわりがあるようだ。

「じゃー、とりあえずコピーしておくねぇ、何枚コピーするぅ?」

ルナの姿をしたアイリーがその姿からはありえない
天真爛漫な動きでFAXにジョーンの描いた原画をセットする。

「…とりあえず二人一組3チームだな…俺とジョーン、
 ケントにはポール、アイリーとルナ、入れ替わった同士かな」

ジョーンの姿と声をしたウインストンがソファーに大股開きで
横柄な腕の組み方に眉間にしわを寄せ目つきも悪く、ウインストンらしい
慎重さで言った。

「いいのだが…ウインストン、せめて足は組みたまえよ…」

笑いが収まると今度はそれぞれ入れ替わってしまったそれぞれの
心境を思うたびに目を覆いたくなるケントの姿と声をしたポールであった。

「あー? あ…ああ…ってかジョーンもよお…こんなパンツ見える服なんて
 着てるのがどうにかしてるぜ?」

そのジョーンの姿と声をしたウインストンに
ここが事務所内で本当によかったという安堵の表情でウインストンの
姿と声をしたジョーンが言った。

「そもそも大股開きで座ることなんてわたしの人生にはありえなかったもの。」

「そうだねぇー、ちょっと酷いよねぇ〜、はい、コピーできたよッ」

ルナの姿と声をしたアイリーは、ばつの悪そうに足を組みなおした
ジョーンの体と声をしたウインストンの足が余計にはみ出ているのを
そのスカートで隠しなおしながらジョーンの姿と声をしたウインストンに一枚
ケントの姿と声をしたポールに渡し、後は自分が持った。

「あたしとアイリーが付近のアパート中を聞きまわるわ、
 あたしらの入れ替わりならまだ何とかフォロー可でしょう、
 (ホントはあたしの姿でバカっぽい行動は控えてもらいたいもんだけど…)
 ポール達とジョーンたちはそれぞれ通りを左右に展開ね、
 悠長に聞き込みの結果待ちなんて状況でもないから。」

ルナだが、アイリーの姿と声がきっぱりすっぱり「出来る女」口調で場を取り仕切る。
フォロー可といってたけど、これはこれでかなり本当はオカシイ。
…だがやはり紳士口調のファッションパンクス、
チンピラ口調の紳士、普段が普段なだけに入れ替わり前後の
ギャップが一番激しい男と女。

やはりダメージが一番少ないのはアイリーとルナの入れ替わりだ。

「ホント、ルナでよかったぁ。」

いつもアイリーがそうやるようにやや大げさなアクションで胸をなでおろす
ルナの姿と声をしたアイリーだった。

「まぁ…男三人女三人だから…それぞれ性別を越えて入れ替わりに
 ならなかったことが唯一の救いよね。
 さぁ、ホラホラ、こうしてる間も「彼女と犬」は遠ざかってるわッ」

6人が3チームに分かれ行動開始だ。

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「おい…ちょっと待てよ…!」

通りを駆け抜けるウインストンの体をしたジョーンは
元のウインストンの身体能力をも超える運動性能を発揮してた。

慣れない女の体での行動はジョーンの体をしたウインストンにはややきつかったようだ。

「…波紋の効果は無意識下にまで浸透してるから息は上がらないと思うけど?」

波紋と言うのはそういうものらしい、意識せず、身にその呼吸を染み付かせる「技」
精神が入れ替わったからといって体に染み付いた呼吸法は消えてるわけではなかったようだ。

「…そうじゃあねぇよ…腰の位置とか幅とか…骨格とか…あわねーんだ、
 お前よく俺の体をちゃんとコントロールできてるな?」

「わたしの体はパッチワーク、そう言ったでしょう?
 まあ…性別まで越えたことは無かったけれど…
 貴方の骨格は流石に動くのに向いてるわね。」

ジョーンは体を何度も部分的に入れ替えている、他人同士の体の寄せ集めを
精神に馴染ませるためには彼女も相当の苦労をしてきたのだろう。

住宅街を抜けると繁華街が近い、賑やか過ぎて、人がいすぎて判別つかない。

「ウインストン、肩車するわ。」

「ああ、お前の視力を使えばまだ楽かも知れん」

街中でそれがどう映るかもうこの際は半分二の次だ、
こういう非常事態の時の二人のコンビネーションはとてもかみ合ってる。
ウインストンの体をしたジョーンがジョーンの体をしたウインストンを
肩車し、高い位置からモンタージュの絵を参考に探した。

「…どう?」

「…この絵によると犬種はゴールデンレトリーバーかなにかの雑種かな…
 最近じゃあ珍しくない犬種だからな…」

そんな時だ、俺が…ジタン=ゴロワーズが通りかかったのは。
俺はジョーンの系譜探しに一度精神をリフレッシュしようと
ロンドンに戻り、件の博物館でもう一度「ジョゼ」を見てから
ただ何気に町をぶらついてたんだ、見かけたとき正直
関わるのはどうかとも思ったんだが、ウインストンがジョーンを肩車し
明らかに何かを捜索している、

「やあ…ウインストンにジョーンじゃあないか、こんなところで何してるんだ?」

至って普通に、俺は声をかけたんだがビックリしたのはその後だ。

「…あ? よぉ、ジタンか、オメー、なんかえらいのつつきまわってるらしーな?」

台詞だけ見てると普通にウインストンが答えた、そういう字面だ。
だが、その台詞はジョーンの方が眉間にしわを寄せウインストンの
横柄な口調で俺に視線を注がれ発せられた。

あの大人しそうで礼儀もわきまえ「Lady」って言葉がしっくり来るような
ジョーンが「よぉ」「おめー」????

俺の脳が軽くかき回された気分だ。

「…ああ、ウインストン…ちょっと…ジタンも…いい?」

その慎重で優しげな口調はジョーンのものだがウインストンから発せられた。
ジョーンに向かって「ウインストン」?

ウインストンの体をしたそいつはジョーンの体をしたそいつを下ろし
ジョーンの声をしたそいつは吐き捨てるように

「ああ…くそ、そうだったな…事情を話すぜ。」

またジョーンにあるまじき言葉遣いを…
俺は言われるがまま、裏路地に回った。

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「体が入れ替わった…?」

「ああ…俺達だけじゃねー…ポールとケントが、アイリーとルナがそれぞれな」

一瞬想像して噴出しかけた俺だったが、仕方ないだろ?

「…ああ、…いや、すまん…で、それが「彼女」か「犬」かそれとも「敵」か
 って言うところなんだな?」

「…ルナが推察したけれど「敵」の可能性は薄いのよね…
 0ともいえないのだけれど…」

俺はウインストンとは20年近い付き合いだ。
だから尚更眉間にしわもよってなく、優しい目つきでジョーンそのままの
口調でありつつウインストンの体と声をしたそれに思わず噴出した。

「オメーはしゃべるんじゃあねーッ!」

ジョーンの体と声をしたウインストンが特に俺に笑われるのは
最大の屈辱と感じるんだろう、怒ったんだが。

「…だったら、お前もジョーンの体と声でウインストンそのままの
 態度は慎むべきだな…」

俺が言うと、ウインストンの体と声をしたジョーンは深く頷いた。
やはり彼女にもプライドってものがあるだろ?

「…まぁだからこそ「あえて」わたしの口調は崩してないのだけど。
 …ジタン、いいかしら? 頼みたいことがあるの。」

ジョーンは意地悪でウインストンの「振り」は、やってない…
それを知ったウインストンは「…こ…こいつ悪魔だ…orz」とうなだれた。

「…俺に頼み?」

そんなウインストンを尻目に俺が聞き返すと。

「…正式に依頼するわ、わたしが貴方を雇う。
 依頼したいことは第一に「警察への確認」よ。
 …ロンドン中の警察に
 「最近散歩中に死んだ、あるいは殺された犬の飼い主」を
 探してもらいたいのよ。」

「…おい、そりゃ…どういうことだ? さっきそんな推測出さなかったろ?」

落ち込んでいたジョーンの体をしたウインストンだったが、
ジョーンがなにやら考えがあることを知って絡んできた。

「…これは…余りに確証のない憶測だから…無駄に時間を費やすかもしれない
 憶測を並べたらルナが怒っちゃうわ。」

「…まぁ…確かに。 それで、ジョーン、お前の「憶測」ってなんだ?」

「…現場を確認すると…ワンちゃんは怪我をしてたのに
 あの現場に続く血痕は無かった、一度血が止まりかけてたと思うのね。
 そして「彼女」の犬ではない、運転手の証言に「犬」は登場しなかったし
 事故にあった瞬間は犬は吠えてなかった。
 わたし達が現場に到着する直前くらいから吠えてたわ。」

「バンパーが凹んでない、車体が凹んでも居ないのは俺が確認したな…
 犬が事故にあったわけでもない…」

「そう、だから、どこか別な場所で誰かが怪我か死ぬかして、
 巻き添えを食ったワンちゃんが逃げ出してここまでやってきたと思うの」

「…スタンド効果は恐らく犬だが…しかしなぜまた俺達が?」

「あの場に飼い主の魂があったんじゃあないかなって思うのよ…
 「彼女」はたまたま死んでしまって、恐らく体を
 提供すると言ったのでしょう、ただ、別人の魂が体に入ることは
 それなりに不可能に近い大変な出来事、
 …多分もとの飼い主は男性ね、犬は必死にスタンド能力を駆使して
 …いえ、そんな意識もなかったかもしれない。
 怪我…もしくは死体を捜す際は「矢で射抜かれたような傷跡のある」
 って言うのがポイントになるわ。」

「…矢で…射抜かれ発現した能力…!」

その言葉には俺も反応した。 声は出さなかったが。
近頃ロンドンでもその類と思われる事件が起き始めている。

「…コントロールが利かなくて効果範囲内に「たまたま」わたし達が
 居たって事だと思うのよ、どう?」

「…偶然の要素が多すぎるな、確かにそれでは憶測だ、
 だが、可能性の一つを追求して潰すにしても拾うにしても
 その線は追う価値はあるな、俺に依頼をするって言うのは
 …つまりウインストンやジョーンに無用な恥をかかせない為、だろ?」

俺がここで口を開いた。
ジョーン、お前はやっぱりかなり出来た奴だな。
軽く敬意を表するぜ。

「…やってくれるかしら?」

「いいだろう、しかし、俺を雇うんだ、高いぞ?」

「…構わないわ。」

俺達のやり取りにジョーンの姿をしたウインストンは少しおののいてた。
余りに金が無く、ルナとウインストンは一時携帯を解約せざるを得なかったんだ

つい先日やっと新たに契約をして俺に「電話も復活したぜ」と
K.U.D.O開眼の電話をかけてきたくらいだ。

BC/LMの俺に依頼をすると言うことは情報はつつ抜けになるし
金もふんだくられる、そういう恐れを抱かせたんだろう、

「…心配するなよ…、俺は休暇中で、ただお前らのその笑える姿に
 同情して協力してやるって言ってるだけだ。」

「…勘弁してくれよ、俺達今スタンドも封じられてるんだ」

「…お前も一言多いな、うちの連中が聞いたら喜び勇んで
 つつきに来るぜ?
 ああ、ちなみにうちの連中に「魂を入れ替える」能力なんて
 持ってる奴は居ない、「野良スタンド使い」って線以外は
 「敵」の可能性は更に低いぜ。」

俺は早速電話をかけ始めた。
この地区以外で(この地区で起こったならそれなり騒ぎになってるだろう)
片っ端から警察に該当者が無いか聞き出す。

「…俺はこの線が繋がってくれることを祈るぜ…今無用に
 血走った奴と一戦まみえる訳にいかねぇからな…」

ジョーンの姿をしたウインストンがつぶやく。
スタンド使いがいざスタンドを剥ぎ取られるとかなり惨めな思いをすると
以前そんな奴に聞いたことがある、この様子を見てその落ち着かない様子から
なるほど、真実のようだと俺は思った。

「ウインストンの体で波紋の呼吸をしてるけど…意識してやらなくちゃいけないし
 …幾らこの体が戦闘に向いてるとはいっても…スタンド相手じゃあ限界があるわね
 同感だわ」

俺はこの時に初めてジョーンが波紋使いでもあることを知る。
さっきは報告の流れを悪くするから普通にしゃべったが…
また一つこいつに近づく情報を俺は得た。
波紋の修行場は限られている。
いくつか地味な支部はあったが、欧州での拠点はベネツィアだ。

…と、そうしてる間に、…かなり奇跡的だが三軒目でそれらしいのに出くわした。

「…本当か? よし、判った、ヒリングドンの北だな。」

俺が電話を切ると
ウインストンもジョーンもちょっとうんざりしたような顔になった。
…要するに俺たちが今いる場所から結構遠いんだ。

「そんな顔するなよ、ジョーン、お前の「憶測」が「核心」かもしれないんだぜ?」

「とりあえず…地下鉄ね…ウエストルイシップ辺りまでかしら…」

「そうだな、二人とも、地下鉄が空いてたとしても座るんじゃあないぜ?
 二人ともしゃべるのも厳禁だ、それがお互いのためだからな。」

俺が言うと、二人は黙って俺の後について地下鉄に乗り込んだ。

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「なんですって? 事件の鍵かもしれない別の事件の現場に行く?」

聞き込みの最中に掛かってきた電話が俺からだったのもあって
ルナ…といっても声はアイリーの声だが彼女が声を上げた。

「行動心理学と言うか…素人の俺たちが言うからには「ただの勘」って奴だが…
 だがしかし、もし入れ替わった元の魂が目指す場所があったとして
 自分の家か、現場か、それとも…もしあるんなら思い出の地か…
 そんなトコだろう」

俺は続ける

「被害者の名はチェスター=フィールド、ついでに犬の名はトレジャラーだ
 …恐らく「矢」で死んでいて…犬もそのとばっちりを受けているが
 犬は逃げ出していて行方不明だ。」

「…何ですって…!?」

「ジョーンの「憶測」だったんだが…調べてみたらドンピシャだった…そういことさ
 彼はもう80近い老人で、妻にも先立たれていて、息子も独立しアメリカだったかに
 移住している、近所づきあいと犬との生活くらいが心の支えだった孤独な老人さ。」

「…待ってよ、それどこ? あたし達も向かうわッ
 ポール達にはあたしから電話しとくから!」

俺が場所を伝えると、「…遠いわね…また」と一言言って
電話を切った。

「な? マジだろ?」

入れ替わり事件が事務所の全体に渡ってるという事を実感したんだが

「…だからお前はしゃべるな…結構混んでるんだし」

何本も乗り継いだ地下鉄は結構混んでいた。
観光者か?
聞き慣れない言語や顔つきの奴らも結構居る。

目的地が近づいた頃だ…混んでる電車内ならそれはそれで
俺が恐れてた事態が起こった。
ジョーンも地下鉄が混んでると知ると「いやだわ…」
とポツリとつぶやいていたのだが…

「オラァッ!! 何やってンだ、テメーはよぉぉおーッッ!!」

そういってジョーンの体と声のウインストンは観光客だろうか?
その見慣れない外国人の腕を締め上げて叫びだした。
えらい剣幕で眉間のしわも更に深く、怒りも頂点なウィンストンそのものな
表情と言えばそうなんだが……
ウインストンの体と声をしたジョーンが「ああ…」と右手で顔を覆う。

「この俺相手に痴漢たぁーいい度胸だなッ! ええッ!? おい!
 俺なんざ触って面白いのかよ!? 俺はお…」

その続きを言わせるのは余りにやばいッ!!!
俺とジョーンと二人でウインストンの口を塞いだ。

「…いいか…本当にいいか…今お前は女なんだぞ、かなり上玉のな…」

俺が耳元でつぶやくと

「お…そうだった」

そういやそうだったと奴が油断した瞬間、痴漢は逃げ出した。

しかし、ウインストンの体と声をしたジョーンはそれを予知していたかのように
逃げ出そうとした瞬間そいつの足を引っ掛け転ばし、地面に激突するその瞬間に
引っ掛けたその足で受け止めて、蹴り上げるように足で持ち上げると
襟を掴んでかなり抑えた口調で言った。

「…痴漢は痴漢、どうあろうとそれは犯罪…。」

こいつも長い人生で痴漢、もしくはそっと酷い目に何度もあいそうに
なったのだろうと俺は推察した。
この時ばかりは元のジョーンの口調ではなく、どうとも取れる
口調に言い直してはいたが、ジョーンは明らかにこの手の犯罪を憎んでいた。

「…まぁ手を出した相手と時が悪かったな、しかし逆にその「時」が
 おまえの運の良かったところだよ。」

俺が言うと電車は目的地に着き、駅員に事情は説明したんだが
事情聴衆にかまけている暇はない。
お咎め無しになるんだろうが、この場は仕方ないと言う顔をジョーンは…
ウインストンの体をしたそいつはしていた。

「くっそ…女の気持ちが少しわかっちまったぜ…お前も大変だな」

俺達は「現場」に向かう選択肢を選んでいたので現場に向かいながら
ジョーンの体と声をしたウインストンはウインストンの体と声をした
ジョーンに語りかけた。
ジョーンは苦笑の面持ちでそれに答えただけだったが、
きっと何度もいやな目にあったのだろうと言うことは俺にも
ウインストンにも伝わった。

そんな時にアイリーの声をしたルナからの電話だ。

「ああ、ジタンね? あたしらは自宅付近の聞き込みに入ったわ、
 どうせ貴方達は現場直行でしょ?」

「早いな…だが当たりだ。 ポールやケントは?」

「あたしらと同じで、タクシーで「自宅」に向かってるわ。
 彼らの聞き込み情報で一つ判ったことを報告しようと思ってね。」

俺は通話をウインストンやジョーンにも聞こえるよう
モードを設定し、続けさせた。

「「彼女」の名前よ、パール=ハーモニー。
 あたしらの事務所のそう遠くない場所に一人暮らしの学生で
 家族はないわ。 日ごろからあまり生気もなくて
 あまり生きることとかそういうのに執着のない子だったそうよ」

「あいつらも入れ替わってるんだろ?
 よく聞き込みなんて真似できたもんだな?」

俺が思わず言うと

「…あたしも詳しく聞かなかったけど…、まぁ彼らに覆いかぶさるダメージだもの
 とりあえずあたしらには関係ないわ。」

ルナらしい切り捨て方だ。

「…とりあえずあたしらは周辺で細かいことや第一発見者とか
 普段のフィールド氏や飼い犬のことを調べるわ。」

「ああ、頼むぜ、俺達じゃ聞き込みは流石に厳しい。」

ウインストンが答えたんだがジョーンの声でそう言われると説得力がある。
そりゃ、だめだろ、と言う空気が伝わる。

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「たいした混乱もなくまっすぐたどり着けて幸いだったね。」

タクシーを降りながらケントの姿と声をしたポールが言った。
どうやら道路はそれほど混んでなかったらしい、ルナたちも早かったようだしな。

「…これが「被害者」の自宅かよぉ? こじんまりして古そうだがよぉ」

郊外と言うことで敷地はそれなりにあるが、家が豪華と言うわけでもなく、
塀や庭と隣との隙間は狭い。
イギリスではよくある庭なんだが、庭と近くの林が殆ど一体となっている。

「さて…どこから何を探そうかね?」

そうケントの姿と声をしたポールがつぶやいた瞬間だ、
「チェスター=フィールド氏」の家のドアが開き、誰かが出てくる。

…彼の遺族はアメリカのはずだし「息子」と聞いていた。

それは「パール嬢」とそして「トレジャラー」だった!

「あ…ッ! おい! あれ!」

ポールの姿と声をしたケントが思わず声を上げ指を刺すと
「彼女と犬」はそれに気づき、裏の庭に回った、逃げたのだ

「む、待ちたまえ! 我々を見て逃げるなんて
 いかにも「何か知ってます」ってそぶりじゃあないかね!?」

「フォー・エンクローズド・ウオールズ!……は、つかえねぇーんだったぁー(泣」

すぐにも追いかけるが、はじめて来た地区だし、体が入れ替わってる、
ケントの体は案外ひ弱だし、ポールはデスクにいることの多い40代だ。
追いかけるも悪戦苦闘する。

「彼女と犬」は庭と塀と隣の家との隙間なんかを巧みに利用して
逃げてゆく、土地勘がないと出来るもんじゃあない。

そうこうしている間に細い隙間を縫い通りに戻った頃には…
見失っていた。

ケントの姿と声をしたポールは即座にルナに電話をかける。

「すまん、「彼女と犬」に遭遇したんだが…逃げられてしまった。
 だが、「チェスター氏」の家から出てきて、
 逃げるときもどこにどんな逃げ道があるか土地勘が豊富だった、
 間違いない、外見は「彼女」だが「魂」はチェスター氏だよ…!」

ポールのその電話の横で、ポールの体と声をしたケントが何かに気づいて
姿勢を低くした。

「…血だぜ、結構深手っぽいなぁー…」

入り口付近やその前の通りなんかでは殆ど血痕は無い、
庭や家の隙間なんかを縫っている間に傷口が開いたのであろう。

「む、追跡可能かも知れん、」

『無駄と思うわよ…』

アイリーの声をしたルナがそういう、
なるほど、「自宅」にほど近い路地裏で傷をハンカチか何かで
巻きなおしたようだ、血のついた前のタオルか何かが落ちていたが

…そこから先はまた血痕の無い状態だ。

「…すまん、本格的に逃げられたようだ。
 しかしどうやらチェスター氏には思惑があってここに来たのが伺われるし
 …本格的に遠くに逃げるか…さもなくば…」

『…現場かしら…?』

「…動き回ってるのもあるのだろうが…犬の傷が一向に癒えないのが…
 ちょっとした予感なんだが…犬は…トレジャラー君は
 ひょっとしてスタンド能力は発動したが使い切っては居ない…
 つまり結局は矢には選ばれないのではないかと…」

「それってなんだよぉー? 「現場」ってこたぁーよ?
 テメーが死んだ場所で改めて死のうってーのか?」

犬が死ねば、能力も終わる、魂は体を離れるだろう。
つまりチェスター氏は「もう一度死ぬ」

「ここは心理の考えどころなのだが…
 「思い出の場所」か「現場」か…」

『トレジャラーの「状態」が今度は鍵になるわね…
 「思い出の場所」があったとしてそこまで持つかが問題だし…』

ここに来て、彼らの表情には「はやくこれを元に戻したい」というよりは
「彼女と犬」の状態が純粋に気になる、というようになってきた。


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