Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Six

第一幕 開き

ある朝だ。

俺だ。
あー…ウインストンな。

結局何日くらい平和だったんだろうかなぁ?
覚えてねーが、アチラさんも企業だしな、
従業員全員で掛かってくるわけにも行かんだろうし
…向こうだって仕事抱えてるわけだからな。

ポロポロと矢による殺傷事件は聞くんだ。

だがアチラさんもやっぱり正体まではなかなか
尻尾つかませちゃくれねぇよな。

どうやら若い男らしい、って事くらいだが。

スタンド能力者なんてそうそう才能に恵まれた奴なんて
居やしない。

いや、スタンドは才能、とはいえ、それが強いか弱いかとなると
まったく話が別になる。

アイリーのスタンドは俺達にとってなくてはならないものだが、
喧嘩に役立たせるには用途があまりに限られすぎてて
しかも検索にそれなり時間がかかる。

そんな感じに、だ。

適材適所が基本ではあるが、だからと言って
その適所が戦いの場とは限らない。

矢で生まれたスタンド使いだって「刺客として使える」奴
となると、そうはネタもだせんだろう。

…長々話したが、多分よーするに向こうも
本気でジョーンを殺るつもりじゃあなかったんだろうと
言うことだな。
ジョーンが言うには、つまり自分が
追うに値するかどうかのお試しだったんじゃねーかと。

…いや、ジョーンを襲った奴は殺気バリバリだったそーだが
指示したプレジデントは返り討ちになるだろうと思ったんだろうってな。

折角生かしといてやろうと救急車呼んだはいいが、
あの後近くで事故ったらしい。
…いや、事故じゃあねぇよな。
そのくらいは判るぜ。

だったらあのまま死なせてやっても良かったんじゃねぇのか?

なんて俺が言ってみたらな。

「どうあったって死ぬ運命なら、自分がどんな会社で
 働いていたか、どれだけ割に合わないかを
 しってから死んでも…いいんじゃあないかしら?」

…だってよ。
…まぁ、どうあれ死ぬんなら…
いや、こいつ密かに俺より考えが黒いぞ…

すっかり冒頭から話がそれちまったな。

朝一番で仕事が入ったんだが、珍しいことに
パワータイプな仕事と言うか…
…いやぁ…ギア入れ違えてニュートラルのまま
ドアを閉めてしまって更にキー綴じ込みだっていう
車が微妙に動いてて大変困ってるとかいう…

ちょっと郊外って事で大騒ぎにはなってないようなんだが…

ロードサービスか警察に頼めよ…

割と事務所から近い地区なんでウチにかけてきたそーだ…

「あきれ返ると言うか…」

ロンドンにしちゃいい天気だ。
イマイチ乗り気になれんと言うか、春のいい日差しに
俺とジョーンの二人で現場直行って話になったんだよ。

「…この場合どうしたらいいのかしら。」

「…どうするかね、まぁ俺たち二人なら
 本体プラススタンドで車くらいは止められるわな。
 スティングレイの奴が居たら楽勝なんだが、
 お前に一度ドア破壊してもらうのが近道だな。」

ふ、と

「おい、今更「オーディナリーワールドは恥ずかしがって出てこない」
 なんてこたーねーよな?」

「大丈夫よ…多分。」

「多分ってなんだよ、ルナやアイリーの前じゃあ
 かなりはっきり姿見せるようになったらしいじゃねーかよ?」

「一緒の部屋で一緒に過ごしてるんだもの…それは。」

「お前、本当は人見知りなのな。」

「貴方も鋭いわね…」

ジョーンは少し微笑んだ。
さっきの続きみたいな言葉になるんだが、
こいつもかつては闇に生きた女なんだ、俺は聞いてみたわけだ

「…お前…もし「死ぬことができる体」…だったとしたら…
 何度死んでる?」

俺の突然の言葉だが、ジョーンは気分を害するでもなく、
さっきの「刺客への扱い」についての事なんだろうと思ったようだ。
微笑んだ顔のまま指折り数えだしやがったよ。
…数えるほどはあるんだな…やっぱり。

「…年をとらないって言うのはこの場合考えないのよね?」

「あ、そーか…お前の場合その前提があるんだな。」

「…じゃあ…そうね、確実に死んでるのが五回かしらね。
 多少グレーなのを入れると後何回か。」

さらっと言いやがった。
普通の体なら五回は死んでるってか…

「今でもどういうことか判らない出来事もあるのよね。
 故郷を逃げ出してベネツィアを目指したときとか。」

「…どういう状況だったんだ?」

「逃走経路と言うか…まぁ普通の道なのだけど…
 わたしは見えている道をただひたすらに進んだのだけど
 おかしいのよ…途中に分かれ道があって、
 一方がベネツィアへ向かうことの出来る道、
 もう一方がふもとの漁村を通って延々ローマに続く道。
 でもわたしは道を選ぶことなくベネツィアに向かっていた。」

「…ふむ、…って、ローマじゃあ地獄にまっしぐらじゃあねーか」

教会から「異端」で追われたんなら総本山だからな。

「…そうなのよ、わたしは村から遠くに出た事はないから
 どっちも行ったことはなかったけれど、
 お使いで漁村には行ってたのね…ローマに続く方…
 …12歳の小娘が必死でとっさに逃げるなら
 土地勘のある方だと思うのだけど」

そうだよな…

「看板をとっさに読んだとか?」

「ありえないわ、当時のわたしは字が読めなかった。」

「…分かれ道のあるはずの場所が何故か一本道だった、と…」

「ええ…他にも記憶のおかしなところがあるのだけど…
 こっちは長くなるから…また今度ね。」

「オーディナリーワールドの力とも思えないよな…
 お前もしかして本当に神の使いだとか?」

「ふふふっ…バカね…w そんな事あるわけがないでしょう…?w」

こいつ、心の底から神を信じてないぜ。
何の気負いも抵抗もなくあっさり神を否定しやがったよ。

「…そうね、特にあの故郷を出た日はわからない。
 わたしを助けてくれた六人の人物といい、
 道を間違えることなく進めたことといい…
 突然霧が深くなったり…追われるわたしに
 有利なことばかりが起こったのは…なんだったのかしら。」

「わかんねぇなぁ…
 …まぁ俺も言うほど信心深くはねーが…と、あの車だな」

少し緑の多い路面にのろのろバックで動いてる車だ。
依頼人だろう、どーしていいのかわかんねーって顔でうろたえてるぜ。

「K.U.D.O探偵事務所の者です、ご依頼人の方ですか?」

事務的…というにはあまりに堂に入った優しい語りで
ジョーンが話しかける。
…こいつは自分の表面をつくろうことは本当に上手い。
ただ、本心の更に根っこであるスタンドは極端な人見知り。
…その一点だけでもこいつの苦労がしのばれるな。

依頼人はあせってとにかく何とかして欲しいって必死だ。
ジョーンは相手を落ち着かせつつ、先に自宅で
待っているように、と指示を出し、この場を引き受けた。

「…引き受けたが…今度はちゃんと然るべき場所に電話してくれよな…」

俺が言うと依頼人は日本人みたいに何度も頭下げてその場を去った。

風街ろまんと俺でとりあえず車を押さえる。

「…しつこいようだが…お前…何度か「生まれ変わって」
 …今こうしていることはどうだ?」

「…とても幸せよ…生きていた甲斐があったかなって、本当に思ってる。」

「…まぁ…あとは決着つける奴と決着つけないとな。」

「必ず…わたしは今度こそ…生き延びてみせる…
 もう…絶対に「いっそ死にたい」なんて思わないわ。」

依頼者は充分遠くなった。
俺はジョーンに車のドアへ向かって目配せした。

「オーディナリーワールド!」

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語り部変わるわね、ジョーンよ。

何のことはない簡単な仕事で、あれならケント君と組んでも
別に良かったのだけど、ウインストンと二人で
仕事をしたこともなかったし、そんなに普段も会話もないから
(彼自身が結構無口で、あまり誰とも世間話しないのよね、
 ああ、ジタンとは結構喋ってたかな)
まぁ…結構新鮮だったかも。

事務所に戻ると、そこにご婦人が依頼者として来訪していた。

年のころは…40代後半と言ったところかしら?
…苦労なさったのか、疲れきった印象がある。

わたしとウインストンが入室すると、わたしは軽く会釈をして
とりあえず車の方の報酬を机にいるポールに差し出す。
そうするとルナが耳元にささやきかけてきた。

「…結構ヘヴィな内容よ。」

ポールが車の依頼の領収書に目を通しながら言った。

「…もう一度よろしいですかな…メンバーも揃いましたので…
 ああ、二人とも、いいかね?
 彼女の名はマリーナ=ベイリーズさんだ。
 それで…息子さんの行方…といいますか…「結果」を知りたい…と。」

ご婦人はやや重く答えた。

「…ええ…息子は…カールトンは…フリーのジャーナリストで…
 とある組織を追っていました…
 二日前…携帯電話から着信があり…叫びと共に…行方不明です…」

その一言でわたしはアイリーの耳元で小さくささやいた。

「…結果はどうだったの?」

アイリーは言うのが辛そうに

「…ダメ…もう…死んでるんだよ…痕跡も殆ど残ってない…」

「…そう…でも僅かには何かが残ってるのね…?」

それを言うとアイリーはビックリしていた。

「…えっ…うん…何が残ってるかは行ってみないとだけれど…」

ルナによると、アイリーはテレビが大好きで、
しかもスタンド能力者になって自分の力を知ってからしばらくは
…ほら…たまに話題になる「超能力捜査官」みたいなのの
特集番組とか良く見ていたそうよ。
…ただ、テレビに出るような人はやっぱり相当怪しくて
かなりの編集と捏造があると画面上から知ってしまったのね。

…どうしてって、ベイビー・イッツ・ユーと結果が違うから。
そしてその捜査官はただでたらめに言葉を並べてあるだけだと
看破してしまったから。

一度匿名で結果をたれこんだら、アイリーのが正解だった。

…それを確認してからはそういった類のものを見なくなってしまった。

第一、スタンド能力者は一般には知名度は低いし、
知っていたとしてやはり能力者は「異端」だろう。

ルナも言っていたけれど、アイリーの能力で何か
重大な事件の糸口を掴んだのだとしても、
「スタンドで探知した」ではなかなか伝わらない。

件の「超能力捜査官」みたいなのはかなり例外的に
捜査をしてくれたようだけれど、匿名でたれこんだから
犯人かもって疑われたりもしたようよ。

人には分相応がある、アイリーはそう心に刻んで
「ちょっとした探し物」とか、重大にしても命が関わってなさそうな、
もしくは軽い家出くらいならって感じで今までやってきた。
「超能力捜査官」とか、そんな一見目立つものになったところで
実際にはそんな捜査は殆ど行われない。

そうだったかもしれない、
だけどもう大丈夫よ。

「痕跡が残っているなら…そこからわたしが「状態を戻して」
 証拠にして見せるわ、安心して。」

わたしがささやきかけると、彼女ははっとしたようだ。
自分ひとりの分相応と誰かの分相応が合わされば、
それは二倍の相応以上に力が発揮できるかもしれない。
わたしの能力は、正にアイリーの能力の補完にもなる力。

ちょっぴり話がそれてしまったわね…
ご婦人は続けた。

「…その組織は古く、二十年前にも主人がそれを追っていました…
 政府の機関として機能しているはずのそこは、
 どうやらどこかの「一般企業」と癒着していて、
 その企業の私欲のためにも動いていたらしいこと…」

わたしが空になった彼女のカップに二杯目の紅茶を入れると
「ありがとう」とそれを一口飲み

「…イギリスではかつて「殺人許可」と言うものがあったようですが、
 現在はそんなものはありません…
 ですが、時と場合によりキレイなことばかりでは世の中は
 進まなくなることもあるでしょう…
 ですから、その組織…「暗殺者の養成所」らしいのですが…
 それ自体はキュベロ…あの人も…息子も容認はしておりました。」

ここまで喋ると、ポールが補足した。

「…そんな組織があることは極秘だ。
 だが、この地下組織と「とある企業」との癒着っていうのは
 20年前にもちょっとした噂になっててね…
 私が丁度探偵業を始めた頃だったので、追いはしなかったが
 それなりに情報は集めてたんだよ。」

郊外でのんびり過ごしていたわたしには勿論知る術はなかった。
ご婦人は続ける。

「…そう…一部では話題になったようで、主人も友人の
 ジャーナリストと組んで「謎の企業」を追っていたようでした。
 …そしてある日…友人は裏切り、主人は亡き者に…」

空気が重くなった…けれど

「息子はそんな主人の姿を見ていて…
 その後を継ごうと決心したようなんです。
 どうあれ、一企業が内包していい業務ではない、と。」

…正しいのだけど、正義は小さければそれはただの出る杭…

「…息子も多分…今頃は天国で主人と再会してることでしょう…
 それはもう仕方のないことです。
 泣いて喚いて帰ってくるのなら、苦労はありません…。」

ご主人が亡くなった時は…相当泣きはらしたのだろうと推察できた。
でもここで何かを依頼してきたと言うことは…

「…ですが息子は音信不通になる前に…わたしに手紙をよこしました。
 電子メールでは何かと不安があったのでしょう、
 一度郵便物として集配に紛れさせ、たった一つの報告をわたしに…
 「どの企業が黒幕か、わかりかけてきたよ、今それを出版社に
  届けに行くんだ、明日か…明後日か…新聞を見ててくれ」と…
 …今回の依頼は…どこかにあるはずの「証拠」を…
 見つけて欲しいのです…。」

みんなの顔が引き締まる。
これはリスクがある仕事。

「もう一件…依頼をしたのですが断られてしまいました…
 「危険が過ぎるし、受けたとして貴女の全財産を請求するほどの
  金額が掛かる」と…
 ですからもし…この仕事によほどの危険があるのなら…
 お断りなさっても…構いません」

ポールはアイリーを見た、アイリーはわたしを見た。
わたしが頷く。
大丈夫よ、わたしと貴女がいれば…
わたしが頷いたのを確認すると、アイリーは強い意志で
ポールに頷いて見せた。

「…お受けしましょう、その依頼。
 ただ…リスクが伴うことは間違いがありません、
 時間と、多少の金額の上乗せ…おっと…無粋ですが…
 ですが、全財産などとは申しません。
 多少…頂くことにはなりますが…よろしいですかな?」

「…引き受けてくれるのですか…?」

「任せてください…必ずや親子の捜し求めたものを、手に入れて見せます。」

ポールが手を差し出すと、彼女も答えた。

「…宜しくお願い致します…」

彼女は去った。
去って、彼女の足音が聞こえなくなった頃、事務所はちょっぴり騒然とした。

「…大丈夫なのかよ? アイリー、ポールも」

ウインストンがまず口火をきった。

「…多分断ったって会社BCよ…尋常じゃない吹っかけ方とか…
 単にリスクで断ったとも思えないわよ…あるいは…
 その癒着企業がBCなのかも…」

ルナの推理、彼女らしくまっすぐに先ず最悪の選択を選ぶ。

ケント君は事の成り行きを固唾を呑んで見守っている。
どうあれ、皆が選ぶ道なら自分はそれについてゆく、
彼は、そういうキモチの持ち主。

「…正面衝突になるかもしれないね、実はBCが
 キチンと企業として稼動し始めたのはその20年前…
 このK.U.D.Oと同時期なのだよ。」

ポールは続けた

「…BCは正式開業当初から大手の顧客を抱えててね、
 だから一般には知られてなかったが、当時から派手だった。
 …暗殺も請け負ってたようなのだよ…
 ただ…組織とBCとでは一見接点がないことと…
 本当に高いリスクがあって…殆ど誰もそれにちゃんと
 近づけなかったんだ…先のご主人の名なら、私は知っているよ。」

彼は壁の棚の中から古いスクラップブックを取り出した。
小さな記事、詳しいことは書かれていないけれど
「タブーに迫っていたキュベロ=ベイリーズ氏、惨殺死体で見つかる」
そんな見出し…

「この疑惑を追う事自体、タブーとされたんだ。
 だが、キュベロ氏も息子のカールトン氏も、
 追い求めてしまったようだね。
 …アイリー、何かわかるのかね?」

「…何か彼の残した痕跡があるってだけだよ…二箇所…」

アイリーはわたしを見た。

「痕跡が何であれ、指定されただけの時間の流れを…
 新しければより確実に復元できるわ。
 例え燃やされたり、破壊されたのだとしてもね…」

「…そう…流石だわ、心強いわね…「一度消去された証拠」であるなら
 あるいは逃げ切りが可能かもしれないし、追う価値をあたしは感じたわ。」

ルナも賛成に回ったようだ、ウインストンはまだ心配そうだけど

「…皆やる気か…仕方ねぇ、ただ、条件と言うかな…
 アイリーやポール、そしてケントは残れ。
 対象が動いていたとしても、動いてないにしても、
 電話越しにでも検索結果は伝えられるだろ?
 所長が自らリスクの前に立つのは感心しねえし、
 ケントは守りの要だ、そんな二人を守ってて欲しい。」

戦えるし、治せる面子だけでこの捜索をしよう、と言うわけね

「ルナ、大丈夫?」

わたしが聞くと

「なぁに? あたしじゃあ足手まといにしかならないっての?」

ルナが鋭く聞いてくる。
ウインストンがそれに答えた。

「正直、戦いの場じゃあ期待はしてねぇ。
 だが、お前の頭脳と治療は必要だ、刻々と状況が変わるかも知れねぇし、
 俺的にはお前も同行組だ。」

「ええ、そのつもりよ。
 ウインストンだと一歩およばなそうだし、ジョーンだと
 深追いしすぎるかもしれない。」

「宜しく頼むわ。」

わたしもルナに握手を求めてみた。
彼女はちょっぴり赤くなりつつも、その手に応えた。

…とりあえず、アイリーに二つの検索場所…
「駅近くのロッカー」と
「無人のアパートや建物がある半スラムの一角」
という、二箇所を詳しく教えてもらって、わたし達三人で出かけた。

…この選択が正解だったと、この後かみ締めることになった。

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ウインストンだ。
先ずはロッカーに向かったが…

番号の指定もアイリーはしていた。
ベイビー・イッツ・ユーってスタンドは
何気に恐ろしいくらい事実をむき出しにするな。
アイリーがあの調子だから深刻さは浮き彫りにならないが

「扉…壊す?」

ジョーンが聞いてきた。
周りの人を警戒しつつ、俺が頷こうとすると

「…待って…ベタだけれど…」

ルナはひざまずき、ロッカーと路面の隙間の
ロッカー側の底面を探り出した。

数秒して、ルナがにやりとした。
なるほど、あったわけだな、鍵が。

「本人が持ってるとそれこそ隠滅の可能性があるからね…」

ルナがそのテープで固定されてた鍵を指定された番号の
鍵穴にあわせ、開けた。

何かテキトーな服でくるんであった…携帯音楽プレイヤー…?

おっと、…他に何もないことを確認し、とりあえず俺たちはその場を去る。

事務所に第一の遺留品ゲットの報告…の前にだ…
適当なカフェに立ち寄り、一服ついでに
「これが果たしてどういう意味を持つのか」
と言うことを探らなくちゃな。
…とはいえ…携帯音楽プレイヤーではあるが
イヤホンも何もない。
買って来るべきかな…

ルナに電源だけ入れてもらうとなにやら
音楽やら音声メモやらが入って入るようだが…

「…本体にマイクが…ああ、この穴よ。
 音声メモはつまりそんな感じで録音か…感度を調整できるなら
 直接これに重要な証言辺り入ってるかもね…
 …ただ…」

「ただ…どうした?」

「イヤホンがないから聞けないのはまだしも…
 とりあえずスタートしてもデータがおかしいのか
 始まらないようなのよね…
 普通の曲を選択しても…」

データをスタートするととりあえず録音分数と
スタートしてから1秒とか2秒とか
表示があるわけだが…なるほど…表示がすすまねぇ。

「どれどれ…」

ジョーンがオーディナリーワールドの手を出した。
左手を中空にやり、右手の人差し指をイヤホンジャックに当てる。

オーディナリーワールドの左手から…正確には少し先から
ルナの操作と共に少しだけ電磁ノイズが流れる。

「本体からの信号を読み取り…左手の先の調整した空気に振動として伝える…」

…いや…和んでる場合じゃあねーんだが…面白い特技持ってるな。

「…データが破損してるわね…これはハードディスクで記録するタイプ…」

ジョーンが機械のことを語った!?
俺がビックリしてるとルナが半分呆れたように語りだした。

「ジョーンったら…いつだったかしらね…いきなりパソコン
 解体してたのよ…基板上のROMからコンデンサーから何から…
 「何やってんのよ!」って怒ったら
 一つ一つの石やコンデンサや基盤のプリントの意味を知るためとかって…」

「…ヘンなところで最先端だよな…お前も…」

「…あら、ちゃんと使えるように組み立てなおしたわよ…
 シリコン結晶の欠陥も補正しておいたし
 コンデンサやバッテリーも元より品質高めたから
 前よりも使いよいものになってると思うけれど…」

「…これだもの…キーを打つのは今でも遅いのに
 一つ一つの意味や機能にだけはやたら詳しいのよね…」

「…とりあえず…データの復元を目指すわ。
 三日ほど前の状態かしらね…」

「時間を支配するスタンドじゃあないのになんでまた「三日前の状態」とか
 やれるんだよ?」

俺が思わず突っ込むとルナが

「微小な空間と物質は小さなタイムマシンっていう説があるわ。
 …異端の説だけど、小さな時間のループが寄り集まりあたしらの感じる
 大きな時間を作り出してるって言う感じのね、
 それがそのまま当たってるかはともかく、素粒子単位で物を操る
 ジョーンにとっては似た感じなんでしょう。
 大きな時間を直接操るって言うのとは違うから「時間を操るスタンドじゃあない」
 って言ったんでしょ。」

「まった訳わかんねぇ…」

「物質の歩んできた道程がある程度見えるのよ…」

ジョーンが言うんだが…
ルナは納得してるようで頭抱える俺はスルーでジョーンに聞く

「…それで…データは戻りそう?」

「…少し時間がかかるわね…一ビットづつデータを修復しながら
 …到達点は20ギガバイト…つまり160,000,000ビット…先にもう一つの
 「痕跡」を探しましょう。」

…わかんねぇ…えらい数の修復が必要ってことだな…
ジョーンが携帯プレイヤーを持って中身の修復をしながら、
俺たちは無人の半スラムに…ここに罠が待っていた。


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