Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Seven

第一幕 開き

これを運命…と言わずに何て言ったらいいのだろう。

すべてのタイミングが最悪の方向でぴったり合わさってしまった…!

ジョーンの余りの憎悪の表情にルナが

「…ちょっとジョーン…どうかしたの?
 あの…彼がどうかしたの…?」

心配そうな声でルナが話しかける。
あたしの心にも…ちょっぴりドス黒い心が湧き上がってくる…

手負いの獣になってたルナにやっと訪れた安らぎ…
その傷をつけた奴が今目の前に居るなんて…!

その男の影には既にスタンドがいた。

「ひっひ…オメーらは「今」…俺のスタンドに捉えられたァ…!」

敵…そう宣言した…間違いない…

「…敵!?
 一体何をしたって言うの…?
 体には何も異常はないし…」

「ルナ、アイリー…スタンドが封じられたわ。」

落ち着こうと必死で声を殺すジョーン。

「…えっ…本当…スタンドが…出ない…!」

あたしのも出ない…

「逃げてもいーんだぜ…
 俺のスタンドの有効範囲は俺の視線の先30メートル
 とはいっても…遠距離攻撃はできねーんだからよ…」

「視線の先…限定的だわね…だったら散開して一度
 逃げるのは確かに手だわ…」

ルナのつぶやきに

「そうしてルナ…この場はわたしが…」

「でも、ジョーン! スタンドを捉えられてるんだよ!?」

「…くっく…いや、ホント…逃げていーんだぜ…
 それにしてもよ…生かしておいてやったら…
 何なんだぜ? その色気のないメガネは…くっくっく…」

その言葉に…ルナは反応した。
驚きと共にルナの心にもドス黒いなんてものじゃあない
真っ黒い感情がふつふつとわきあがるようだった…

…と、そんな時にジョーンが「奴」に向かって歩き出した。

「…貴方は喋るんじゃあないわ…お黙りなさい…」

自分にとって最悪な事件を思い出しかけたその時の
ジョーンの行動にルナはそっちに気をとられ、驚いた。

「ちょっと…ジョーン! 貴女何を…!?」

「逃げて…ルナ…さっきも言ったでしょう…この場はわたしが…」

「へっへ…美しい友情ってか…?
 スタンドを封じられたただの女に何ができる?
 オメーから俺様に可愛がって…」

「…お黙りなさい!!!」

奴の台詞を遮ってジョーンは叫んだ。
物凄い怨念のこもった声で

「…あー…? 何だよオメーは…こいつ食らわされたいのか?」

奴の手には…スタンガンも握られている…

ルナの記憶が奴と結びついてしまった…!
ルナはもう確信したという驚きと共に、ジョーンに叫んだ

「何やってるの! ジョーンッッ!
 …そいつは…あたしの…あたしの敵よ!!」

ジョーンは歩みを止めない。

「…あなただけの敵ではないわ…」

「何よ!? そいつは…!」

ルナはそこまで走ろうとした

「来てはいけない! ルナッッ!」

ジョーンが初めてルナに怒るように叫んだ。
ルナは突然怒られた子供のようにびくっとして動けなくなった。
ジョーンは半分振り返り、寂しそうに、でも優しい表情で

「…来ないで、そして出来れば見ないで、ルナ…」

奴の目の前まで歩いていった。

「ひゃは…どーやら決定だな…最初の獲物はテメーだぁぁぁああああ!!」

奴のスタンドの左手がジョーンの首を捉え、
そしてスタンガンがジョーンを襲う!!

「ジョーンッッッ!!!」

あたしとルナが叫ぶ…見るななんて、出来るわけないじゃない!

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『あ〜…始まったようだね〜…ごめんよ〜
 僕もこんなのいやなんだけどさ〜ぁ…
 奴はどーしても先にお楽しみがしたいっていうからさ〜』

何か彼は…とてつもなくまずい事を言っている気がする…
だがそれは何を指している…??
依頼人の彼女か…?

我々なのか?
「奴」とは?
「お楽しみ」とは…?

「君らが二手に分かれて…何かよからぬことを始めている…
 というのは判るのだがね…一体君は…何者で一体
 何をしようとしているというのかね!?」

さすがのわたしも少し声を荒げてしまった。
…なんていうのかね…物凄く…物凄く嫌な予感がするのだよ…!

その女性の一室で、音声は既に受話器越しではなく、
据え置きで全員が参加できるようにしてある。

…そんな時、ウインストンだ…やはり何ていうかね
わたしよりダーティな世界で修行を積んだ「経験」からだろう

「…おい、ひょっとしてテメー…俺たちとジョーンたちを…
 引き離しているんじゃあねーだろーな!?」

「…ってこたぁーよぉ…何だよこれ…罠かよォ?」

『あっは…もういいかな…ご名答〜
 とはいえ、今彼女達がどこにいるかなんて…
 …君らにはわからないよね〜え?』

「…こいつ…!」

部屋の女性が困り果ててる、
突然のイタズラ電話が自分にはまったく関係なく…
解決にやってきた私たちはおびき出された…??

「ここの住所…思い出したよ…貴女以前わが社に
 依頼をなされましたね?
 確か向かったのはルナとアイリーで我々ではなかったし
 簡単な探し物だったので深く考えず報告書を検めた程度で
 すっかり記憶から遠のいていました…」

私が彼女に言うと…

「え…ええ…女の人が二人…確かに…
 それで今回もって…『探偵でも警察でも呼んでごらん』
 って言ってたから思い出して…」

「後をつけられたか何かしたのだろう、あの二人…
 そして…非常に申し訳ないが、貴女は私たちを
 二手に分割するために利用されたのだ、
 非常に申し訳ない…!」

こればかりは"エクスキューズミー"ではなく完全に
"ソーリー"の分類だ…彼女は最初っから何の関係も無かったのだから!

私たちが焦りを見せたときだ、本来なら彼は勝ち誇るところだろう
…だが…

『ん…あ…あちゃ〜…これはまずいかな…』

「おい! どうした! 何があった!?」

ウインストンの声は怒鳴ると大きい。
精神の自制が利かなくなりつつある

『ああ…いやぁね〜ぇ…あの女一体何者なんだろ〜ぉねぇ…』

「…ジョーン君だ…誰の目にもワンダーに映るとしたら
 彼女しか居ない…彼女が何かアクションを起こしたのだ…!
 君は…ここの状況も把握できるし、向こうの現場も把握できている…
 君は一体どこに居るのかね?」

私は窓から辺りを見回すも石造りのビルやアパートや…
それらしきは見当たらない…アイリーが居てくれたなら…!

『僕の位置は…それは教えられないね〜ぇ…
 だが、奴の場所は教えてあげるよ…こりゃ〜ぁまずい…』

「早く教えやがれ!」

私たちは既に玄関に押し寄せ、いつでも部屋を出られるようにする。

『事務所近くの公園だよ…』

ここから…10分ほどか!?
ウインストンやケントが先に部屋を出た。
私は依頼人の女性に。

「…大変申し訳ないことを致しました…
 もう貴女は大丈夫です、近く正式に謝罪に参ります、では…!」

深くお辞儀をし、私もその場を去った、
…間に合ってくれたまえ…何が起こっているかわからないが…

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奴のスタンガンが電気を散らしながら…
ジョーンの左手の指…人差し指と中指で止められた…

電気はジョーンの表面を伝い…腰のベルトや髪の毛から
放電されている…

「…そうだ…彼女は波紋使い…
 体の中には電流が流れないように体表だけを
 流れるようにコントロールしてるんだわ…」

ルナが黒い気持ちと戦いながら荒い息と共に解説してくれた…

「…くッ…! なんだぁこりゃーッッ!
 押し込めねー! 引き離せもしねーッッ!!」

しかもくっついて離れないようだ…これも波紋…?

奴のスタンドの左手がつかんだジョーンの首を絞めようとする
…でもこれも絞まらない…!

「どうあれ貴方のスタンドはスタンドを消すわけじゃあなく
 効果を押さえ込み本体から出られないようにしているだけだわ。
 こんな準備万端に時間をかけてわたしの首をいまさら絞めようと
 したところで…既に首は中から強化済みよ…」

「ああ、そーかよ! じゃあ首以外ならOKだって事だよなぁぁぁあああ!」

スタンドの右手もジョーンの頭に襲い掛かる!
…でもジョーンはそれを少し首や動く範囲の上半身を動かすだけで
紙一重ながらかわした…!

「…スタンドを操るのも下手ね…能力だけにおぼれて
 力だけに頼って…ちゃんと修行を積まなかった証拠だわ…」

ジョーンが何か構えをとり、右手を手刀にした…!

「ジョーンッッ!!」

そいつはあたしの敵だと、ルナは叫びたかったんだ、
…でも…

「ぎゃぁぁぁああああああああああああッッッッ!!!」

肉を貫き、骨を砕き、ジョーンの手刀が奴のみぞおちあたりから
奴の体の中に食い込んだ…!
もがく奴のスタンドはジョーンの首から手を離した。

「…どうあれ掴んだターゲットの首を離すなんて…やはり素人だわね…」

淡々とジョーンは殺した感情に憎悪を滲ませながら…
右手一本で奴を持ち上げた…

奴がもがくたびに奴のドス黒い血がジョーンに浴びせられる。

…ジョーンが血で染まってゆく…

あたしもルナも…動けない…
今目の前でジョーンは…人を殺そうとしている…

そのうちもがく奴はさらに苦しみ痙攣に近い動きをし始めた。

「…ジョーン…スタンガンの電流を…左手から右手を通し
 奴の心臓に直接叩き込んでる…」

あたしは頭を抱えた…恐ろしい…
…これがあのいつも微笑んであたしたちに優しく
接してくれてたジョーンなの…?

「…見ないでといったでしょう…二人とも…
 …でも…いい機会かもしれないわね…
 これもわたしよ…ルナ…これでもわたしは天使かしらね…?」

奴はもがきつつ、スタンドの力を振り絞ってジョーンに殴りかかる
でも、弱ったスタンドの拳はさすがにジョーンには
簡単にかわされている。
ちょっと体をずらすだけで…

「…スタンドが弱ってるわよ…効果も消えたみたいだし…
 オーディナリーワールドが…出てこられるようになってきてるわ…」

…そう言われてルナもあたしもスタンドを出してみる…
でもまだ半分抑えられてるというか…
本体からちょっぴりしか視覚化できない…

…でも…ジョーンの右手から徐々に現れる…
どんどん体も見えてくる、凄いスタンドパワーだ…
少しくらいの「抑制効果」なら無視できるってくらい…

…とうとう全身を出した…
オーディナリーワールド…?
…何かおかしい…デザインが違う…?
あれ…オーディナリーワールドなの…?

「……あれは…多分「奥の手に近い」と言ってた
 ジョーンの本気の表れなんだわ…」

「…200年封じてきたっていう…あの…?」

あたしたちは一切動いていないのに
この状況に嫌な汗が滲む…息も上がる…
ジョーンの超本気を抑えられないほど…
それほど憎い…

…それは…鎧をまとったっていうコンセプトからやや外れた…
なんていうか、鎧が体そのものっていう感じの…

目も見えている…
ジョーンに似た目をしている…

「…貴方に見せてあげる、そして全身で感じなさい、
 ありもしない地獄ってものをね…
 …そして…ただただ吹き飛ばされてゆきなさいッッ!!」

オーディナリーワールドの連打…いや…なんていうかもう
見えないほどのラッシュ…

普段は体の中央とかそういう場所を狙うからただの打撲だけど、
このラッシュは奴の体の端っこから殴りぬけてる
奴の体はつまり「削ぎ落とされてゆく」
皮膚から順を追って、どんどん奴が削られてゆく。

ジョーンはこの状況でもたぶん波紋を使って
奴の心臓を強制的に動かしている、
そして気絶しないようにもコントロールしている。

「…何て…ジョーン…奴の神経は削り取らないで残してあるわ……!
 最後に神経を直接殴って…なんて事を考えるの…!?」

ルナが恐怖で少し泣きそうな表情と声で言う、
…ホントだ…血管とは違う「それ」だけをむき出しに
筋肉や骨なんかがどんどん吹き飛ばされてゆく…

吹き飛ばされた奴の破片は、空中でもっと細かい破片に砕けて行き、
そしてとうとう空気にまぎれるほどの塵になってゆく…

…こんな時でもジョーン…「証拠は残さない」……

あたし…腰が抜けてその場にへたり込んだ。

「…味わいなさい…苦しみを…貴方に襲われ殺された人の苦しみを
 貴方の欲のために自殺に追い込まれた人々の…怨念の声を
 聞きなさい…ッッ!!」

強制的に生かされてる奴は体のかなりの部分が吹き飛ばされるまで生きていた。

心臓と、一部脊椎と…そしてもう原形をとどめない頭だけの状態になって
やっと絶命したようだった…

オーディナリーワールドは勢いをこめ、最後の一撃を放つ。
頭は砕け散り、そして塵にまで分解されてゆく。
脊椎も徐々に…

戦いは…ううん…殺戮は終わった…

最初に奴を吊り上げたポーズのまま、
ジョーンの手には奴の心臓だけが握られている。
ジョーンが握りつぶすと…それも気化するように消えてゆく。

地面の血ももう何も痕跡が見えない。

奴は…この地上から完全に姿を消した…

ルナもその場にへたり込んだ。
自分の復讐が…自分の想像もつかない凄絶な形で
ジョーンによって成し遂げられたことに一気に力が抜けた感じ。

…ジョーンはこちらを振り向いて歩き出した。

…怖い……

「…見られたくは無かった…でも仕方ないわね…」

向こうの街灯の光の範囲を出て、浴びた返り血はそのままのジョーン
真っ黒いシルエットが近づいてくる…

「…だから言ったのよ…わたしはむしろ悪魔だとね…」

ゆっくりした歩調のジョーン

「…ここまでの事は考えなかったよ…
 …でも…あたしですら殺してやりたいって思ったのは事実…」

うなだれたあたしの言葉に

「…アイリー…貴女知ってたのね…?
 ジョーンの調べものって…これだった…わけか…」

「…なんて間の悪さかしらね…」

ジョーンがつぶやいた。

「…ジョーン貴女…「暗殺しておく」つもりだったんでしょう…
 あたしに必要以上にドス黒い気持ちを呼び起こさせないようにか…」

「…ええ…」

「…残酷だわ…なんて残酷な優しさなのかしら…」

ルナはへたり込みながらも涙を一筋流してジョーンのほうを見た。

「…あなたの手を血で染めたくなかった
 …あなたの心を復讐で真っ黒にしたくなかった…
 …そんなのはわたしだけでいいわ…」

「ルナの気持ち…あたしも幾らか判るんだけど…
 さっきもジョーンが言ってた…
 奴には立件されて無い余罪が…殺人も含め一杯あるんだよ…
 …だからこの復讐代行を許してあげてとは言わない…
 …だけど…」

「…もういいわ…どうあれ終わってしまったものなのだから…」

ルナががっくりと、涙を流しながらつぶやいた。

ジョーンがこちらの光の範囲内に入ってきた。
もう…返り血なんてどこにも見えない。
いつもの…何も無かったかのような…
ただ、無表情な中にも悲しそうなジョーンだった。

「…最後に…怖がらせてしまって…ごめんなさい…」

すっかり気の抜けたと言うか…

ジョーンはまた以前のような自分の殻に閉じこもろうとしていた
…そんな風にあたしにもルナにも見えた。

ルナにも内心はあるだろう、
正直、悔しいだろう、
でも、ルナは立ち上がり、

「…ほんと…何て事してくれたのかしら、
 でかい借りを作ってしまったわね…
 いつかきっちり返させてもらうわ。」

ジョーンの両腕を両手でそれぞれ掴んで

「…でも……………ありがと……
 ……どうあれあたしを思っての行動だものね…
 免許の偽造や病み上がりの体での危険まで冒して…
 調べてくれたんだものね…」

でもその手は震えていた。
悔しいと同時に怖くもあるんだ。
…でも、595年を駆け抜けてせっかく初めての仲間になった
そして…友達とも何とも形容しがたいまでの
間になったジョーンをこのまま手放してなるものかと
精一杯の気持ちを奮い立たせてそう言った。
…そう、それはルナの優しさだった。

ジョーンがうつむいた。
いつもの静かな呼吸が少し乱れてる…?

髪の毛で表情までわからないけど…
泣きそうになってる?
何があっても自分を見限らないルナに…

あたしも立ち上がって何か声を掛けようとしたその時だった。

『怖い…怖いね〜ぇ…悪魔もぶっ飛ぶ恐ろしさだよ…
 まったく…ジョーカーの奴は確かに最低ではあったけれど〜』

公園内に余り大きな音声ではないけど声が響く。

反射的にあたしはベイビー・イッツ・ユーを展開する。

『おっと〜ぉ…アイリーちゃん…だっけ?
 …多分バレやしないさ…無駄だよ…』

「アイリー!?」

ジョーンの両腕を掴んだままルナはこっちを見た!

「…だめ、この周辺にスピーカーが何十個も仕込んである…
 聞こえる声を頼りに検索して…一つ一つ確かめて
 行ったとして…凄い時間がかかっちゃう…」

「…偶然にしては出来すぎと思ってたけれど…
 …やはりこれは罠だったようね…」

「…なんですって…」

あたしの検索結果にジョーンがつぶやき、ルナが今までの
事でボーっとしかけた頭をフル回転させようと首を振った。

「ここは周到に準備されたバトルフィールド…蜘蛛の巣ってとこね…」

ルナが辺りを見回し

「…防犯カメラもそういえば死んでいるようだわ…
 ジョーンならそういうのは気にするだろうし…
 …何て事…」

ルナがスタンドを出して全方位で警戒を始めたその時だった。

『だ〜いじょうぶだよ…ルナちゃん…だっけ…
 僕のスタンドはね…まぁ殴ることは出来るけど…
 力で戦うにはあんまり向いてないからね〜』

「…だから能力のほうを警戒してるんじゃないのよ!」

ルナの視界にジョーンが入ったときだった。

「ジョーン…! 貴女の…上…!」

『遅いよ〜…ターゲットロックオ〜ン…』

ジョーンの頭上にパソコンのカーソルみたいなひし形のが
はっきり現れてくるくる回っている。

ジョーンも頭上を確認する、

「…何も異常は感じなかった…今突然ここに出現した…?」

ジョーンの分析、

『…そう、僕のスタンドはまずターゲットを決め
 そいつに照準を合わせなくちゃならないのさ〜
 …だけどロックオンしたよ…
 そうなったらまぁまず逃げられないね…
 たださ〜…まぁこれだけは教えてあげるよ。
 すぐ死ぬとかそういう能力じゃあないからさ…
 ふふ…100年は生きてるって言うようだし…
 「君なら」このゲーム…楽しめそうだね〜』

ルナがジョーンにロックされたカーソルを触れてみるけど透過する。

『それはただのマークさ〜…スタンドの射程は…
 まぁ数十メートル…そしてロックされたら…
 数百メートルは離れないと解除にならないよ〜
 さらに効果範囲はターゲットより半径30メートル…』

「…何かまずいわ…今度こそ二人とも逃げて…」

ジョーンもオーディナリーワールドを出して…
あ…元のオーディナリーワールドに戻ってる…
とにかく警戒と言うか、彼女は彼女で敵を探しているようだった。

「…アイリー」

ルナがあたしに声を掛ける、うん、判ってるよ!

ジョーンと背中越しにあたしたちはしっかりした足取りで
全方位を固める陣を取った。
ジョーンが少し動揺する。

「…今度こそは敵が何者でどういう能力か判らないわ…
 わたしを基点に半径30メートルと言うのだから…
 お願いだから逃げて頂戴」

「…逃げる…? 何を言ってるの貴女は…
 既にロックされた貴女を放って置いて
 それで胸をなでおろすような、
 そんな安い気持ちで貴女と共に今までいたと思うの?」

「そうだよ…ジョーン、あたしにとってジョーンは
 まだまだ雲の上の人だけど…
 今ここで時間はかかろうとも敵を見つける
 お手伝いをしなくてどうするのさ」

「二人とも…」

「即死系の効果ではない、といったわ。
 嘘かもしれないけれど、ここまでの仕掛けを作って
 さらに本人は姿を現さないようにしている…
 時間はあるわ…!」

「確かにあたしらはジョーンの最も恐ろしい面を見た。
 正直、怖い人だと思ってる。
 …でも、あなたを失うわけには行かないんだよ」

『固い結束だね〜…まぁ僕的には〜…ありがたいけれどね。』

そんな時に、向こうのほうからウインストンたちがやってきた。
息も弾ませ、必死になってケントもポールも走ってきた。

「止まって!」

ジョーンがストップを掛けた。
さすがのウインストンも息を切らしながら

「…ハー…ハー…やはり既に罠の中か…!?」

「わたしを基点にロックされてしまったわ、
 わたしより30メートルに近づいてはいけない!」

ケントが

「ゼェ…ゼェ…それでよぉー…うっく…
 ハァー…ハァー…「敵」はどこだぁー?」

「今アイリーが必死で検索してるわ、」

ルナが答えると、ポールが

「…ふぅ…ふぅ…ああ…ふぅー…
 恐らく…「イタズラ電話」の犯人と同一だろう…
 どこかに潜んでいると…推理するがね…」

『しょうがないね、ジョーカーがあんなにあっさりやられるなんて
 予想外もはなはだしいもの〜
 もうちょっと周到に行きたかったけど〜』

「もう一人は…どこだ…?」

ウインストンが言うと、あたしとルナはどう言おうか
ちょっと困った。
そしてジョーンが冷たく言い放った。

「…殺したわ、わたしが。
 一切の痕跡も残さず…この世から消した。」

上がった息で必死に呼吸をするのも忘れるほど
三人は凍りついたようだった。

「いいのよ…ジョーン。
 防犯カメラは奴らが潰してあったし、
 一切の証拠も残ってないし…
 …第一死刑のないイギリスであんな奴…
 生かしておく価値も見出せないわ…」

ルナも言い放った。

「ルナ…君…」

ポールが…どうやら「誰と」戦っていたのか気づいたようだった。
でも、それ以上そのことには触れず

「…そして今、私達の方の相手をしていた声の主が…
 君らを襲っている、と…」

「…多分そういうことね」

ルナが言う。
後で聞いたんだけど、「ジョーカー」と言う名前は
ジタンがまだウチにいた頃にルナの事件を調べて
浮かんだ容疑者の一人で、でも絞り込めなくて
ルナに余計な感情を持たせないために
ポールは伏せておいてたんですって。

まだ、ルナが来る前だったからね。
知ってるのもジタンとポールだけだって。
確かにウインストンじゃ容疑者を片っ端から
ぶっ飛ばして行きそうだしね…
さすがにそれはやりすぎだから…

「数十メートル範囲に「声の主」がいることは間違いないわ…
 貴方たちはそれを…」

ジョーンが言うと

『…どうかな〜ぁ…ここが…判るだろうか…ふっふっふ…w』

「相当自信があるようだわ…地上じゃあないのかもしれない
 地下…移動しながらかもしれないし…」

ルナが推理してる、そうなると…ちょっと辛いな…
下水道とかだとそれこそ網の目だし…

「即死系ではないと言っているわ…おとなしく
 アイリーの検索待ちがいいとあたしは判断した…
 ジョーンを守りながらね…!」

そればかりを聞くと、男連中は顔を見合わせ、頷き
そして止まってと言われた30メートル圏内に
しっかりと足を踏み入れた。

「…みんな…」

ジョーンが激しく困っている。

「…頭数は多い方がいい」

ウインストン

「俺の「壁」の出番かも知れねぇー」

ケントだね

「実は私もね…最近一つだが戦いの場で
 一回だけ使えそうな技を発見したのだよ…
 役に立てるかもしれない。」

え、ポールほんと?
すごい

『ん〜ふっふ…いや…その結束の固さ、実は待ってたんだけどね』

「どうせ最初から罠だったんならよ…最初からこーしてりゃいいものを」

『僕はしたかったさ〜…まぁ、馬鹿な相方を持ってしまったが故の
 無用な段取りだったと思っておくれよ〜、僕も被害者さ…』

「…貴方もかなりサイテーな精神の持ち主のようだわ…」

ルナがはきすてるように言った。

『じゃあ…そろそろ行かせてもらおうかな〜…』

いよいよ来る…!
そんな時にケントが

「あ、ちょい待ち!
 電話掛けてもいいかよぉー?」

敵を含めあたしら全員ケントを半分呆れたように見た。

『これ以上仲間を増やすのかい?
 …いや…何人増やそうとかまわないけどさ〜』

「ちげぇーよ。
 …あ、オレだよ、ケントだぜぇー
 …何の用ってか?
 いや、助太刀じゃあーねぇーよ。
 留守番頼みてぇんだ、
 ウチのお猫様は寂しがりだからなぁー。
 オメーならよぉー、鍵かかってようと関係ねぇーだろ?」

あ、スティングレイ君だね。
なるほどあたしもケータイ出しながら

「あたしも電話いきまーす」

『なんだいなんだい…一人も帰って来れないかもしれないってのに〜』

「あ、もしもし、アイリーだよ。
 うん、留守番お願いしたくってさ、もう一人頼んだんだけど
 ホラ、ウチ二部屋構成でしょ、貴方なら仕事柄もあるから
 女部屋も任せられそうだし」

それを言うとルナが

「ああ、なるほど、彼ね。」

ケントとあたしにポールが。

「これは正式なアルバイトだ、時給で10ポンド払おうじゃないか。
 伝えてくれたまえ、特にケント、いいかね?」

「おう、おお、そーかやってくれるかよぉー
 もう一人行くからよ、ああ、心配ねーよ。」

電話を終えた。

「彼、快諾してくれたよw」

「ええ、まぁ、罪滅ぼしの一環と彼なら思うでしょうね、有難いわ。」

ルナが言うと

「奴もよぉー、ちょうどバイト辞めたとこで
 金に困ってたんだってよぉーw」

「おやおや…じゃあ、帰ったらちゃんと礼はしておかないとならないね。」

『調子狂うなぁ〜…まぁいいさ…じゃあいかせてもらうよ?
 もういいね〜? なにもないね〜?』

「来るならきなさい、受けてたつわ!」

ルナが力強く言うと、

『よっし…行くよ〜ア・デイ・イン・ザ・ライフッ!
 I'd love to tuuuuuuuurn yoooooooooou oooooooooooooon』

どこからかなんかこう…オーケストラの調律みたいな…
シンバルのけたたましい音とか
低い方から半音づつ上がってゆく音とか…
とってもじゃあないけど「いい音」とは呼べないような
すっごい音が響く…

あたしらが思わず耳をふさいだ…!
気はそれほど遠くならないけど一瞬視界が…

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…気づくとそこには暑いくらいの風、その風に乗って
ほのかに海のにおい、そして草木のにおいがする…

気絶してたわけじゃあないんだけど、
「いつのまにか」景色が変わっていた…

山肌の木々も見える草原にあたしたちはたたずんでいた…
ふもとに小さな村がある?

「な…なんだよぉー…ここはよぉー…
 あっちー日差しだなぁー…どこだ?」

ケントがきょろきょろしてると、
ふもとの方の風景の一点を見つめるジョーンが…

「…ふふ…ふふふ…ふふふふふふ…」

…笑い出したよ?
どうかしちゃった??

「ちょっとジョーン! 大丈夫?
 何か異常があったの?」

ルナが凄い心配そうにジョーンの前に行き、顔を確認しながら
両腕を掴んで少しゆすったりしてる。

「ああ…ごめんなさい…大丈夫…でも…そう…
 なるほどね…あっはははははははは…w」

ジョーンがなんか大きく笑っている…こんなジョーンは初めて…
ルナ以外、あたしも含め皆が凍りついたようになる。

「ジョーン、何か判ったの?」

ルナだけが冷静にジョーンから状況を聞こうとしている。

しばらくおかしそうに笑ってたジョーン、
ほんとうにおかしそうにしながら

「…何って…ふふ…みんな…まず…携帯電話を見て…
 日付はどうなってる?
 8月15日だと有難いけれど…」

えっ?

あたしを含め皆がチェックする

「…あぁ…いや15日ではないよ…だが8月だ…」

今、6月の初めのはずなのね…

「ああ、そうね、ずれてるわね…仕方ないわ。
 暦の変更ばかりはね」

ジョーンが言うと、ルナが驚きを隠せない様子で叫んだ

「…待って…! みんな…「年」を確認して…!
 1424年…皆そうかしら…!?」

「…な…なんだと!? ……マジだ…1424年になってやがる…!」

「…わたしの記憶から作られた仮想空間かと思ったのだけど
 それも無いわね…どこにも電波が飛んでいない
 大気の組成も、当時のものだわ…そして…そう…
 ふふふ…ごめんなさい…ああ、どうしても可笑しくて…
 あはははは…w」

笑っているジョーンにちょっと恐怖は感じつつ、

「あ、電話もつながらない…電波も立ってないね…」

「…本当だね…というとここは本当に…」

と、ポールが言うと空を仰ぎ見て、いつもはつむりがちの
目を見開いて驚いた

「ジョ…ジョーン君…もしやこの日は…この場所は…!?」

あたしらも空を見上げる。
やや暮れがかる夕方の空、まだ明るいけど。
その空にぽつんと一つだけ…まだ淡いけれど雲が…え…?

「…わたしはどうやら…貴方達とは「会う」運命にあったようだわね…w
 どういうスタンド効果か…はっきり判ったわ…」

「何? どういうことだよ、ジョーン?」

ウインストンが混乱しているとルナが

「…幼いジョーンをベネツィアまで逃がしたのは…
 …他でもないあたしらだって事のようよ…」

ルナも目を見開いて、驚きを隠せないでいる。
あたしもウインストンもケントも「ええッッ!!?」と声を上げた。

「これは…洒落にならないゲームだわ…わたしの本物の人生を
 使った洒落にならないゲーム…」


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