第一幕、開幕

2007年7月始め…
それはいつもの光景だった。

始業時間にはまだだいぶ早い、柔らかな朝日の差し込む
女性従業員用のベッドルームで先ず一番はじめに起きたのが彼女だった。
彼女は先ず前足を伸ばし、ついで後ろ足を伸ばす。
そして枕元に歩み寄ると、ジョーンがうっすらと目を開ける。

「おはよう、リベラ」

ジョーン少し動作を見せるとリベラが寄ってきて鼻を合わせる。
猫式の挨拶である。
鼻は犬や猫にとって健康の証でもあるので鼻を合わせることで
「How Are you?」のような意味を持つのだ。

「今日も元気ね、リベラ」

ジョーンはリベラを撫でて暫く過ごすと、リベラがベッドから降りる。
そしてジョーンに向かってそわそわとしたような面持ちで鳴きかけるのだ。

「はいはい、今ご飯あげるわ、ちょっと待ってね…」

あられもない寝姿のジョーン、この癖は直らなかった。
アンダーの下着だけから、スエットの下、上半身はタオルを掛けただけ
という実に「だらしのない」格好で人間用の朝食の準備と共に
余る魚の部分などからリベラ用の食事の用意もした。

リベラはこの「魚のあまり」もジョーンはそれなりに食べやすく
スタンド効果を使い丸々食べられるように加工していることを
いつかの丸二日での経験から判った。

リベラはその事もあり、ますますジョーンにだけは絶対的に懐いていた。

調理中のジョーンの足下にリベラがまとわりつく…いつもの光景の中
ルナも目を覚ます。

「ん…おはようジョーン…リベラも…」

「おはようルナ」

リベラもその時無視をせず、目配せやちょっとした動作でそれに応えているのだが
ルナには通じているのかいないのか。

「順当に仕事があってそこそこ忙しいってのも日を重ねると結構体に来るわね…」

「しっかり、あなたは今やこの会社のNo2なのだから」

「ええ…さて、気合い入れるのに少し熱めのシャワー浴びてくるか…
 っていうかジョーン、流石にぱんつ一丁はやめるようになったけど
 貴女もお風呂入るつもりとはいえもうちょっとその格好どうにかならない?」

「どうしてもねぇ…面倒で」

「僅かな手間だと思うけれど…」

ルナが浴室に入ると、リベラに食事が与えられる。
路地裏で保護され、この探偵社で過ごすようになってから数ヶ月、
今まさに食べ盛りのリベラ至福の時であった。

ルナが熱めのシャワーを浴び、彼女の戦闘服であるスーツに着替える頃には
アイリーも目を覚ます、この順番もいつもの光景であった。

「んあー…おはよぉー」

「おはようアイリー」

「あー、あたしもシャワー浴びてこよー」

前日から仕込んでおいたパンも、ジョーンは発酵の続きなどはスタンド効果で補える。
なんとも、才能の無駄遣いのような、しかしそれで有り難い食事も出来ていて
ジョーンも十分に休むことが出来る訳なので、ルナはこのいつもの光景に
いつも「勿体ないような、有り難いような」と思い見つめていつつ、
彼女も仕事の手始めに取り掛かる。

前日PC上に作り上げていた報告書や請求書などの書面を一晩明けてからもう一度チェックし
問題がないようであればプリントをしてゆくのだ。

リベラにとってこの無線LANで起動し、勝手に動く「プリンターと呼ばれる物」は未だに苦手であった。

「あ、ジョーン、浴槽にお湯、入れといたからね〜」

「ありがとう、ではさっと入ってくるわ…一応鍋監視して時々かき混ぜて置いてくれる?」

「うん、わかった」

食事も水の補給もしてしまうと、リベラは女性従業員部屋と男性従業員部屋の
間の壁に作られた「猫用出入り口」を通ってポールたちが寝ている部屋に入る。

…この「猫用出入り口」は勿論無断で追加拡張された物だが、ジョーンの能力を
持ってすれば「ほぼ無かったことに出来る拡張」というわけであり
これに関してもリベラがそこを行き来するのを見るたびにルナは「才能の無駄遣い」を
少し、思ってしまうのであった。

男性従業員部屋は、元々の施工が居住空間込みでの企業用として作られた物であり
女性従業員部屋に比べたら居住用スペースも広くなっていて、狭いながらも
寝るスペースは連続した構造でありつつ三人それぞれ別々であった。

リベラが『起きて』と声をあげつつポールの寝室のドアに爪を立てる。

「やぁやぁ…判った判った…今行くよリベラ君」

この寝室からちょっとした廊下を通り、事務所へ出る扉がある。
この事務所へ続く扉の前にリベラは待機している。
寝間着姿で眠そうなポールは先ずその扉を開け、リベラを事務所で自由にさせる。
(とはいえ、大体リベラはソファで食後のお休みなのだ)
その扉を開けたまま、ポールは廊下を寝室側に少し向かった浴室に入り
これまた朝のシャワーを浴びるのが習慣であった。

その頃には朝食をかねたミーティングの為のセッティングもあり、ルナが
事務所へ入室するが、そこで事務所への扉が開いていてリベラがくつろいでいるところを
見ると「あ、ポールも始動したのね」と確認し、一応見えないとはいえ
プライベート遵守で扉を閉めておき、諸々の準備を開始するのも日常であった。

人間も言葉を使わないコミュニケーションで意思を伝え合うのに
どうして猫語はジョーンくらいにしか伝わらないのだろうとリベラは思った。

そんな「いつも通り」の光景を幾つか繰り返し、朝食を兼ねたミーティングである

「依頼件数と大凡の内容は把握しているけれど、ポールに予定は?」

「そうだね、余裕があるようなら昼は外に食べに行く可能性が高いくらいだ」

「あら…じゃあ、今日はお昼用意しておかなくていい?」

ジョーンが確認すると

「ああ、いつもいつも申し訳ないね、と言う意味でもないんだが、たまにはという
 気分転換のようなものさ、これもルナ、肩の力を抜く一つの方法だよ」

「まぁ、そうかもね、この間の数日が異常だっただけで、でもこれから先
 内にこもるようになったら確かに散歩くらいしないと息が詰まりそう」

「そうそう、プレッシャーからは逃げられる時は逃げてもいいんだ
 試験勉強も大詰めのときにあえて寝てリフレッシュするようなものさ」

ルナは少し呆れたような顔をしつつも、でもそれも真理なのかもと納得もした。

「じゃあ、昨日の報告書と請求書は軒別で机に置いてあるから、署名サインとそしたら
 投函も宜しくね」

「ああ、急ぎの分は君の方で頼むよ」

「ええ、サインだけ貰ったらそれは午前中にあたしが直で回っておくわ
 あたしの午前はそこで終了だから…午後からは本隊に合流しようかしらね」

内容如何で班はウインストン組・ルナ組で基本別れるのだが、
今日はルナが一人で午前仕事をして、それ以外の四人が実働組、
急ぎの仕事の後は、こんな風にルナが直接書類を渡しに行くようになった。
以前は殆どなかった事だが、ここ半月ほどで固定してきた。

「…またよりにもよってここを中心として東西南北に離れた四件とか…巡り合わせって酷だわ」

ウインストンがすかさず

「それを…流石に交通機関は使ったが一日で他も含めて回った俺たちの苦労も
 同時に偲んで置いてくれや」

「はいはい、みっともない愚痴だったわ、どうせなら報告以外の何か仕事を挟みたかったのよ」

ポールが

「今日の捜索依頼は近場が殆どだからね、ルナはまずはお使いと言う事になるね」

そしてジョーンが

「午後どこで落ち合う?」

「ルート的には…あなたたち実働隊のペース次第になるわね、昼前に一度連絡するわ」

メモ用紙を見ながらウインストンが

「近場だからなぁ…いっそここに戻るのも手かと思ったが、ポールが出かけるんじゃあな」

「済まないね、私には散歩が必要だ」

「とりあえず実働隊のルート指定はしてあるけど、
 後は追加の仕事の有無とポールの判断で入れ替えるなりして頂戴、
 さて、あたしはそろそろ出るかしらね…ポール、食べてる最中悪いけど
 この四通サインしといて、その間に皿洗ってくるわ、空いた皿も頂戴」

「一斉に動けばいいのに、慌ただしいなぁ」

アイリーが「みんな一緒」を提案してみると

「地下鉄がね…「ちゃんと来るか判らない」から余裕見て出ないとならないのよね」

「不便だよなぁ、交通機関は…日本の都市部じゃあ3分遅れればアナウンスで謝るらしいぜ」

「それ聞いた事あるよw 遅れるのが当たり前なのも困るけどきっちり過ぎるのも
 慣れたら怖い気がするな〜」

「だから、そういうイライラを募らせないためにとりあえず早め早めで動いて…
 1,2本余裕持って何か本でも読んでるとするわ」

ルナが皿を持って隣に戻る。
ポールは一応「どれどれ」と報告書に一通り目を通して署名する。
「文字」という物も不思議だ、とリベラはいつも思っていた。

「そう言えば…ルナとジョーン君がペアで動いていた頃…君ら良く怪我などしなかったものだね」

「正確に言やぁーひっかき傷とか擦り傷とかはしょっちゅうだったぜぇー
 夕方ここの扉通った瞬間治っちまうからいちいち口にしなかったけどよぉー」

「動物はどーしてもこっちの言う事聞くとは限らんからなぁ」

「ルナの生まれ変わったスタンドは血の臭いもある程度敏感みたいでさー
 怪我したってとこピンポイントで速効治しちゃうんだよ、流石に骨折とか
 そういうのはケントやウインストン居るし大丈夫だっただけだよ」

「そうかそうか、なるほど…まぁその程度なら料金の上乗せも必要なくていいのかな」

「…そういうことか…まぁ確かに俺も以前「リスクが0に近いのはそういう能力があるからであって
 リスク自体は存在する」とは言ったが…」

「取れる追加は取っておくという判断は持っておいた方がいいよ、だがまぁ、
 そのくらいなら大丈夫だろう、よし」

急ぎの分とそうでない分を分けてポールが封筒にそれぞれ住所と案件を確認しながら
しまい終えた頃にはルナがやってくる

「できた?」

「ああ、では、四件頼んだよ」

この時点では封をしていない、ルナはもう一度宛先と中身を確認して

「確かに、じゃあ行ってくるわ」

一瞬のこの賑やかの後は静かになる「いつもの」光景だとリベラは感じた。
みんなが「おう」とか「行ってらっしゃい」「気をつけて」とか声を掛ける
前までスニーカーだったルナの靴音がコツコツ音のする靴になったが
それでもルナの足音だと判るのが階段を降りて行くのが聞こえて、通りを
やや早足で去って行くのがリベラの耳には判る。

「ルナもダブルチェックの癖がついたようだね、よしよし」

ポールは満足そうだ。

「オレにしてみりゃぁーよぉー、間怠っこしいっつーかよぉ
 ポールなら信用してもいーんじゃねぇーかと思うんだがなぁー」

「どんな完璧そうな人間でもミスを犯すよ、ダブルチェックをしてもミスは0にならない所が、人間の
 不完全な部分であり、かつまた愛おしい部分でもあるのさ、だが0に近づける努力は
 惜しんではいけないよ「信用」はそう言う努力が積み重なるものだからね」

「そーいうもんかよぉー」

「そう言う物ね」

ジョーンがちょっと苦笑気味にケントの言葉に返した。

リベラは「いつものこと」とはいえ、ここ最近みんなが忙しいと言うことに
ちょっと『詰まらないな』と思い、軽い睡眠に入った。



地下鉄の構内で、やはり時間通りにはやってこない地下鉄を待ちながら
ルナはベンチに腰を掛け本を読み始めた。
これも特に変わったこともない光景で行動であった。

だが…そこでルナの直感が働いた。
ア・フュー・スモール・リペアーズの三人が瞬時に散らばって辺りを探り出した。
ルナは読書を続けつつ

「ジョーンの尾行授業も受けてみる物ね…一体誰…あたしを途中からつけて
 監視していたのは…」

三人がそれぞれ声を掛け合って不審者を確認し合うが(一般人に声は聞こえない
 聞こえたとしたら敵の可能性もあり、牽制になる)
「確かに妙な視線を感じた」以外、いつも通りの朝の地下鉄だった。

通勤なんだろうロンドン市民、…この辺りはビジネス街近くのベッドタウン的
場所であるために見るべき物もほぼ無く、この駅から乗る観光者は少ない
詰まり、降りる物もほぼ無い。
あとは…ベッドタウン的場所であるが故に…ちょっとした荷物を抱えながら
引っ越しか何かに来たんだろう女性が階段を上ってゆく姿…そのくらいしか
見当たらなかった。

「…敵も然る者…素人じゃあないわね…まぁ、こちらの動きを感じて引っ込んだなら
 とりあえず良しとしましょう」

「トハイエ…地下鉄デ暴レラレルトチョット厄介ダヨ」
「ソンナ無茶ハシナイト思ウケレドネ」
「アタシガ常ニルナノ後ロ警戒シテルヨ」
「タノンダヨ、フュー」

数分遅れでやってきた地下鉄に乗り込むルナの襟足に「フュー」が張り付いていた。

…その「引っ越しの女」がルナの去った後憎々しげに呟いた。

「…聞いてないわ…何あれ…!
 スタンドが「成長」したとでも言うの?
 もうちょっと私の「イン・ザ・グルーブ:アゲイン」を隠すのが
 遅かったら……ますます奴ら力をつけて行ってるのに…
 フレッドさんは何故これを放置するの…? プレジデントの指示?」

彼女が歩く階段の隅に雨水を誘導するための溝があるが…そこに蠢く物が
その女の中に吸い込まれるように消えてゆく。
そして「その女」は、引っ越し先に向かう…



ルナは終始警戒をしていたが、報告書の渡し四件目までは異常なく、また四件目も
場所が場所だけに何事もなさそうである。

「…ま、一人のあたしを襲うつもりが無いのだとしたら、次の可能性は…」

そう呟きながらも、用件を足す、それは警察署だったのでまぁまかり間違っても
何事もあるまい、それも油断と言えば油断なのだが…

その警察署に提出する急ぎの事件の中身は、密輸グループの一人が拳銃を所持したまま
(イギリスも日本と同じく銃規制の強めな国である)
市中を逃げ回っているという物で、アイリーの能力を「スタンド能力」という物を込みで
理解していたこの署に所属するスタンド使い刑事モアからの緊急依頼があった物だ。

当時二班に分かれていたが、緊急合流、10メートル以内に近づけたルナのリペアーが
セーフティロックを掛けて死守したことで、ウインストンやジョーンが心置きなく
犯人を取り押さえたものであった。
勿論アイリーの検索能力が一番の要であるし、10メートル以内に近づく時も
もしもの為の「ケントの壁」の心強さもあったこと、本格捕り物となれば上述
ウインストンやジョーンが大活躍というように全員の活躍があっての被害ゼロという順当な結果。
(まぁ、犯人はちょっと殴られたかも知れないが、そんなものは表面的になら
 瞬時にゼロに出来る、というちょっとした強みもあった、ま、そこは秘密)

報告書を受け取りながらモア刑事は

「アイランドさんもロスマンズ君も免許取得はまだ難しいのかな…」

であれば今から警察にでも…という淡い期待もありつつ

「探偵も元軍人とかそれなりに本来技能職だからね…あたしが22で取得できたのも
 奇跡的だったし、まぁ、でも、彼らには探偵が性に合ってるみたいだから残念ね」

心を見透かされたモア刑事は肩をすくめながら

「まあ…ロスマンズ君はともかく、アイランド女史には警察となると精神的にもきついかな…」

ともかく、報告書の中身を確認して

「…それにしても完璧な布陣だよね、君たちは」

「まぁ、BC見たいにでかい野望に立ち向かうタイプじゃあないけれどね」

モア刑事はため息をつきながら(疲れたという物ではなく、やれやれという感じ)

「あんまりああいう所にも大きくはなって欲しくないんだけどね…
 まぁそういうのも末端の刑事だからこそのため息かも知れないが…」

「なんだか結構疲れてる様子ね?フューの力居る?」

「ああ、いやいや…、密輸団に絡んでその周辺も結構きな臭くてね、昨日からずっと
 裏とって逮捕状の請求、逮捕、と言う流れを何度か繰り返して居てさ
 今朝も一人繋がりで輸入雑貨商捕まえたところさ…」

「家に帰れてるの?娘さんには会えてる?」

モア刑事は判りやすく落ち込んだ

「そうなんだよなぁ、娘の夏休みには少し時間取れてたら…と思うよ」

モア刑事の娘は養子だが、そんな事など関係なく愛情を注いでいるのが判る、ルナはちょっと微笑んだ

「娘さんは今幾つ?」

「12だね、夏休みが明けたら二年生だ」

「難しい年頃でもあるわね、頑張ってお父さん」

「その結果が帰れないだからね…ぐれたりしなきゃいいんだが…まぁ真面目すぎるほど
 真面目な子なんだけどね」

ちょっと親ばかが入ってるかな、ルナは微笑んだ。



帰りの道すがら、遠目に見知った顔があったのでフューを飛ばした。
彼の斜め前に滞空しつつ、声を掛ける。

「ハァイ、スティングレイ」

生まれ変わったア・フュー・スモール・リペアーズを知らないスティングレイは焦った
…が、ルナが遠くから声を掛ける。

「御免、声を掛けてから気付いたわ、貴方も知らなかったわね」

「…ッ!びっくりさせんなッ!あんたかよ…!何があった!?」

遠目に見たルナが外見からちゃんと「社会人」になってることにも驚いたが…

「「何があったか知りたい」って言ってたから、今戻るとちょっと昼に早いわね…
 まぁ、戻りつつ…知りたくない?」

「あ…ああ…こいつ(フュー)含めて知りてぇな…」

「仕事は?」

「相変わらずバイトだよ」

「身を固める気はないの?」

「考えちゃあ居るんだがよぉ…でもあんたんとこだと命の危険もありそーだしよ…」

「まぁ、確かにそこは保証できないわね、でも以外と緩い物だけれどね」

「100日のうち10日くらいはそんな目にあってんだろがよ…御免だぜ」

「貴方の能力なら訳ないと思うけれどね」

「俺自身が生き残るのは別にいいんだよ、同じチームの奴が「もし」と思うと
 そんな責任俺には負えネェよ」

「…そこは実際に「組んで」みないと何とも言えないわね…でも貴方
 ケントやジョーンと一時は組んだじゃあないのさ」

「あくまで「外野から」絡むのは好きだってだけさ」

「ふむ、貴方もまだ少し社会人としては若いわね」

「オーバーオールのあんたなら「あんたに言われたくない」と言ってやれるんだが
 …そこで本題に戻るぜ、何があったんだよ」

「だからそれを今…地下鉄内で話してあげるわよ、スタンドを通して」

そう、それは心の糸電話のように、「スタンド使い同士の会話」という奴だ。



ほぼ空っぽの部屋の中に「引っ越しの女」は居た。

「忌々しいの連鎖だわ…何ここ…家財道具も殆ど無いわ…!
 …まぁ、本格的に住む訳じゃあないから…さて…」

彼女はスタンドを呼び出しその蛇のようなスタンドが天井と壁の間の梁に飛び込んでゆく。

「壁の中の配線のように…梁を伝ってあんたらを監視してやるわ…」

スタンドは梁を食い進んでゆく。

「この分なら奴らの夕食の時間には…女部屋の方にはカメラ設置できるかしらね…む…ッ!」

この時間、来客でもない限り足音の響くことのないはずの階段から廊下にかけて
二人分の足音がする、内容は聞こえないが声も聞こえる、片方はルナだ!

彼女はスタンドを一端収用し、逆方向…出入り口付近に這わせる。
どうもこのスタンド、床板にせよ何にせよ、その隙間の溝を伝ってしか動けないようである。
(必ず、でもないようであるが)
そして、扉と壁の隙間から廊下を…素で覗くと成長したルナの思うつぼの恐れがあるので、
そこに監視カメラを置いて直ぐスタンドは引っ込めた。

「…ルナ=リリー…!戻るのが早いのよ…! 連れの男は誰?
 こんな男公式登録者に…(監視カメラを見るPCで検索を始める)…無いわね
 野良スタンド使いって奴かしら…それにしては馴れ合ってる様子があるわ…
 くそ…!会話の内容までは伝わらない…ッ!」

ぶち切れそうになりながら監視を続けるが、ルナと連れは事務所の方に入ってゆく。
よりかすかにではあるが、ポールの声が聞こえた。

女は思案した
このまま、隠遁状態での偵察にはルナの忌々しい成長もあって余りにリスクが高い…
引っ越してきた「隣人」であるというように自己紹介しておいた方が日常動く分には
動きやすい…だが、顔をさらすことにもなる…

女は決心し、廊下を出て探偵社のドアをノックし、ポールの「お入りください」の
声と共にドアを開けた。

『!!』

即座に警戒の反応をしたのはリベラであった。
女が中に入ろうとすると、猫特有の威嚇をする。

『何この女!ゲスな匂いがするッ!プンプンするわッ!こいつは敵!』

しかし、この場にジョーンのように朧気にでも猫語を解する物は居ない、
いや、例えジョーンでもリベラの全てをくみ取れるわけではない。
何も判らない三人はそのにこやかに出入り口に立つ女に威嚇する
リベラにびっくりしながら

「おやおや…リベラ君、困った子だね…ちょっとこっちへおいで」

ポールが目配せをすると、ルナがその意をくみ取り

「ご依頼でしょうか?」

と、声を掛ける、この女引っ越しの女だわね…ともルナは思ったが
それを口に出すことはなかった。
バレては居ないはずだ、と確信した女はにこやかな笑顔を崩さず

「いえ…このフロアの奥に越してきた物です、ただ、こちらに
 K.U.D.O探偵社があると言う事は管理人さんから伺っておりまして…
 もし、何か困ったことがあったら宜しく、とご挨拶に…」

「あら、それはそれは…まぁ…そのような面倒がないことを祈りますわ
 ただ…「もし」その場合には、是非(と言いつつ名刺を取り出し、渡しながら)
 こちらに連絡を宜しくお願いします」

スティングレイはなんだか急に社会人に成長した感じのあるルナにちょっと
『何か馴染めねーな…いつも眉間にしわ寄せてプリプリ怒ってるイメージしかねぇのに』
と思っていた。

ポールとルナの目配せでの意思疎通もリベラをイライラさせた。
『なんで人間同士なら伝わるのよ!ムキー!』
もはや自分が何に怒っているのだかも不明になって荒れ狂ってきた辺り、猫と言うべきなのか。
暴れつつもスタンドまでは出さなかったので(彼女も「余程」の身の危険を感じない限り
 スタンドは出してはならないとジョーンやルナに躾けられたのだ)
ポールにとっては何が不満なのかも判らず、とりあえずその「悪い印象のない」お隣さんが
帰るまで待とうと思った。

「彼女」は一応猫の心配をしつつ

「でも嫌われてしまったみたいですねぇ」

などと柔和に言っている。
ルナがそれにフォローを入れている間、「彼女」は生来の「切れやすさ」を
心の中だけで爆発させていた。
『可愛くねェェェエエエ!だから猫は嫌いなんだよッ!クソがッ!』

その「彼女」の柔和な顔の奥も感じ、リベラは怯えるのではなく完全に敵意をむき出しにして
威嚇していた。
『アンタの心の顔が見えンのよッ!可愛くネェのはこっちの台詞だッ!ブースブース!』

もはや「敵」という印象から怒り始めたことをリベラもすっかり忘れ、完全に
この女性を「嫌い」という感情で威嚇していた。
ポールは仕方がないのでそのままリベラを抱きかかえながら、奥に行った

「申し訳御座いません、まぁ子猫ですので気紛れ具合も子供並みと言うことで
 どうかご容赦ください…………」

ルナは彼女の「何か」を待っているようだった。
心の中で猫と敵意のぶつけ合いをしていた「彼女」は笑顔のまま少しその「間」を感じて

「あ…、ごめんなさいね、猫ちゃんがかわいらしくて…(ケッ)
 この事務所の二つ隣に越して参りました、ビディ・ハンターと申します、それでは宜しく…」

と、事務所を去ろうとした時に戻ってきた実働組と鉢合わせた。
体格は「筋肉ダルマ」と言うほどではなくとも、ダビドフと同じ190近い身長のウインストンと
ばったり向き合ってしまい、一瞬固まったビディ。

「おっと…失礼」

「ああ、その方はあたしらの部屋の隣に越してきた方ですって、ハンターさん、
 そう言えば何をされていらっしゃるの?」

手でウインストンに「道開けなさいよ、ぼけっとしてないで!」と指示しながら
ルナもなかなかに動作と表情を上手く操ってビディと名乗った女性に聞いた。

「え…ええ、個人で輸入雑貨など…ホホ…余り儲かる仕事ではありませんが…ではぁ…」

終始笑顔笑顔で彼女は去った。
自室のドアを閉めて彼女の笑顔が憤怒の形相になる。
『あの猫ッ!ふざけやがって…!会話の流れが変になってしまったじゃあないのさッ!』
しかしビディはルナからもらった名刺を見つけながら
『しかし…!そうそう不信感は与えてないと確信するわ…!
 見てらっしゃい…あんたらの何もかもを記録して情報をフレッドさんに献上するわッ!』
彼女のスタンドはまた家の溝という溝を通り、先ほど掘り始めた梁の中に潜り込んでゆく。



元々怒り心頭に発しても何事もなければ数秒後には気分を切り替えられる猫である。
すっかり待っている間にポールのあやしに懐柔されたリベラであった。

ポールは昼時に出かけるという予定はそのまま出かけたが、
ルナがスティングレイと共に地下鉄に揺られている間その旨を実働組に
伝えてあったことから、ポール以外の五人+一人は社内での昼食タイムとなる。

軽くルナから事情を聞かされていたが、テーブルを囲んだ昼食にて詳しいことを聞くことになる。

スティングレイは「やっぱりこいつらと関わると偉い目に合いそうな予感がプンプンするぜ」と
思わないでもなかったが、なるほど、そんな中でルナも成長できて何だって副所長?
お似合いすぎて先の対応もなるほどだぜ…もし、そんな風に成長できるって言うなら
悪くネェのかもしれねぇな…とも思った。

「まぁ、無理にとは言わないわ、確かにリスクの高い事件に巻き込まれたり、
 飛び込んだりは事実だしね、でも、その気があるなら、いつでもいらっしゃい。
 ポールはまだ誰かを新規で雇うのには慎重だけれど
 今までも何とかなってたのよ、もう一人二人増えたから何だって話だわ」

オマケにこの大胆さだ、このやりとりに突っ込み入れる奴もだれもいねーし
スティングレイは本気でちょっと悩んでみたが。

「でもよぉ、今の俺ン家からだとちょっと時間掛かるんだよな
 通勤に30分以上は掛けたくねぇってのも…まー贅沢なんだけどな、でも譲れねぇのよ」

そのやりとりにウインストンが

「そーいやぁ、ポールこのフロア借り切りとか言ってて一室取られちまったんだな」

「ウインストンの奴外でタバコが吸えないってちょいとイライラしてるんだぜぇー」

「だから早く一人部屋欲しいぜ…それで…アイリーたちはまぁ三人一部屋でいい
 っつったが残り五部屋でも押さえられれば、スティングレイ、オメーも
 こっちに越してくりゃ解決なんだけどな、俺も正直オメーの能力は買ってる」

ちょいとくすぐったい話題だな、と彼は思ったが

「買いかぶりすぎだぜ、物質透過は…初めて会った時ジョーンも指摘してたが
 スタンドには無力なんだから出会い頭にぶっ飛ばされたらシメーだ」

それに対してちょっと考えつつもジョーンが呟いた

「…それについては何度か修羅場を味わって越えてゆくしかないかな…」

「THE・経験者は語る、だな…」

スティングレイが呟くとジョーン以外の全員が頷く。
『こいつら俺が誰にも秘密漏らさねぇと信じてやがるのか
 595歳だって? なんだかなぁ…博物館なんて行かないがそこに飾ってる
「ジョゼ=ジョット」の肖像の写真とやらもルナに見せられちまったし、
 どうにも嘘言って俺を担ごーとしてるよーにも思えねー…
 結構信頼されるってのも悪い気はしねぇんだが…』
彼はちょっと考えて。

「いやぁ、まぁ、とりあえず選択肢の一つとしては考えさせて貰うわ。
 真面目に評価されんのもまだくすぐってぇし、何か切っ掛けが欲しい」

そればかり聞くとアイリーが彼に素で聞き返した。

「切っ掛けってどう言うのだろ?」

勿論、具体的な何かを考えての発言ではなかった、スティングレイが固まる

「まァーよォー、何となくは言いてぇこともわかるぜ?
 ここに来ないとどうしよーもねェーって事にならねぇかぎりはよォー
 って事だろォ?」

年が近いこともあってかケントの救い船に手を叩いて指を指すスティングレイ。
イェーイとハイタッチもしてみる。

「まぁ、任せるわよ、貴方ほど慎重な人がBCによもや行くとは思えないからね」

「そりゃ確かにあり得ねぇやな、じゃあ、昼ご馳走になって悪かったな、
 おかげさんで足代のみで予定額以内で納まったわ
 知りたかったことも知れたし、しかしまぁよく話してくれる気になったもんだな」

ルナが何とも慎重で、且つちょっと脅しとまでは言わないが力のある目で

「今言った通りよ、少なくとも「敵には絶対にならない」と判っているから
 貴方の厚意に甘えて二日ここ任せたのも事実だしね」

「スモーキンの方には?」

「彼は不特定多数…或いは敵側のルームメイキングに立ち会う可能性がゼロじゃあない
 彼の場合はこちらに来ることが確実になったら…かしらね?
 地味にスカウトはしてあるわ、でもあちらも今は自分の職分を全うしたいんですってよ」

「真面目っぽい奴だからなぁ、じゃあ俺帰るわ、ああ…あのなんつったっけ
 引っ越してきた女…」

「ああ、ビディ・ハンター、引っ越し荷物持って最寄りの地下鉄駅を
 上がってたのはあたしも見たわ」

「あれよ、なーんか…猫に嫌われすぎって気がするんだ、俺だって
 あそこまであからさまには嫌われなかったし…なぁーんか気になるんだ
 まー猫に嫌われてるからって「怪しい」ってのも短絡かな」

「何しろ猫だからね…あたしにも何とも」

スティングレイはジョーンに飯が美味かった、とも付け加えて去っていった。
と、ポールも入れ替わりくらいに帰ってきて(うむ、やはりケンタッキーのようだ
 と言うのが匂いから判る)午後の部に入ったのでまた仕事に没頭をした。



仕事も終わり、夕食も終わり、報告書などの作成も早めに終わり
もう寝るかという時のことである。

「そういえば…スティングレイの「気になった」じゃあないけれど
 地下鉄で何者かの監視を受けていた感覚を味わったのよね。
 特に一般の探偵の監視もなかったし、スタンドも特に見当たらなかったし
 とはいえ、確かにあれは監視の目だった…」

ルナが朝のことを気に掛けた。
アイリーがふっと

「たまたまそのハンターって人がルナを方見ちゃったとか?」

「…としたらかなりの敵意を感じたわ、そこまでむき出しの敵意を
 対面した時には感じなかったけれど…でもあたしもまだ未熟者だし…うーん」

ジョーンが次の日のパンの仕込みをやりながら

「何とも言えないわね、BCの動きもあれからかなり間が開いてるから…
 気疲れの程度も見ながら警戒はしなくては…疑心暗鬼に取り憑かれてしまうわ」

「それもそうね、今夜は割といいタイミングで仕事終えられたし、
 たまにはさっさと寝てしまいましょ」

ルナがベッドの上で戦闘服からパジャマに着替える。
(アイリーはすでに着替えていた)

机のPCの音楽プレイヤーソフトを閉じ
(それぞれ三人の好きな音楽をシャッフルで流していた、
 仕事が早く終わった時や、休日にはそれもまた「いつもの光景」でもあった)
PCをシャットダウンしつつ、10分くらい頭の中を空にするのもルナの習慣であった。
余り次の日にアレコレ前日のことを引きずってはならないというのが
彼女の新たな習慣になっていた。

その最後の10分の間に、アイリーは先に「おやすみー」とベッドに入り、
アイリーの挨拶に二人が応え、机でコーヒーの残りをルナは飲みつつ一日の最終リセットを行い
ジョーンは窓を開け、一服する。

ルナとジョーンの二人がお休みと言い合って消灯し、それぞれのベッドに上がる頃には
リベラがジョーンのベッドにすでにいて、何となくジョーンがベッドに入るのを
阻止するように横たわるのを持ち上げながらリベラがまるで「イヤーン」と言うかのように
一声上げてジョーンに抱えられ一緒に眠る。

いつもの光景だ

いつもの光景なのだが…

真夜中、ホンの、ほんの僅かな音というか気配だった。
リベラが目を覚ます。

『なに…何の音?』

何かをひっかくような音だった、木を…内側から削るような…

『ってことは三人じゃあないな…』

密閉された空間の向こう側…だが、リベラが男部屋側に耳を澄ましても
彼らはまだ起きているようであり、生活音が若干聞こえてくる。
今、この女性従業員側の部屋の中に微かに聞こえるこの音の音源ではない

そのうち、リベラの頭に木くずが落ちる。
ふと見上げたそこにちらりと光る物が見えた

『あれだわ!あの木の中を掘ってたんだ!ジョーン!ジョーン!』

リベラが声をあげつつ、カーテンをよじ登りその現場に向かおうとする。

ジョーンは一端寝付いたら「余程の緊急事態」にならねば起きない。
隣のルナが(前はアイリーだったのに)

「なに、どうしたのリベラ…運動会は昼間にお願いよ…、ジョーン
 失礼するわね…ほら、リベラ降りなさい」

『ああ、違うのよ!隣の奴だわ、あの女よ!あの女が何かをやろうとしているの!』

リベラ必死の進言が伝わるわけもなく、ルナは呆れ加減にジョーンを起こし、
そしてオーディナリー・ワールドがリベラの後頭部に触れると途端に眠くなる。

『違うんだってば…もう…!』

眠そうなルナが、何とか役目だけを果たして毛布を半分はだけさせたまま
リベラを抱えて再び深い眠りに落ちるあられもない姿のジョーンに
毛布をかけ直し、彼女も再び寝る

「…なにかあったのぉー?」

凄く眠そうにアイリーも一声掛ける

「運動会みたい、大丈夫、もう朝までぐっすりのはずよ」

「んー」

これも、本当に何かが起っている以外は時々あったことなので
不覚にも彼女たちは「いつもの光景だ」と再び眠りに落ちてしまった。



これも猫のサガなのか、起きたらすっかり昨晩のことは忘れていた。
いや、覚えてはいるのだが、記憶の隅に追いやられて
「お腹が空いた」
「撫でて」
「構って」
などと言った猫にとって「最優先」になる欲望には勝てなかった。

隣室では、ビディが胸をなで下ろす。

「…あのクソ猫…焦ったわ…でも気付いたのが猫一匹で良かった…
 夜が明けたらすっかり忘れたようだわ…しかし…各人の就寝スペースに
 カメラ一台ずつ…っていうのは危険ね…昨日はたまたま疑われずに
 「いつもの事」でごまかせたけれど…
 これからは事務室(女部屋リビング)と事務所だけを目指すとするかしらね…」

夜中の間ずっと猫が目覚めてまた騒ぎ出したら…と思うとそれ以上掘り進めることも出来ず
何とか設置できた三台…アイリー・ルナ・ジョーンのベッドの光景をPCで確認しつつ

「何よこれ…これだけじゃあ、あたしまるで変態だわ!
 クソッタレが…!眠たいけど…クソ猫が向こう側の事務所に居る昼間が
 一番掘り進められるチャンスだわ…!」

とはいえ、地味に拾える音声からすると、今日はどうも猫以外無人の間があるらしい
所長のポールも仕事で半日空けるらしいし、ルナ=リリーも出払うようだ、
事務所への連絡は全てルナ=リリーの携帯電話へ移送されるらしい、
数時間確実に隙間が空く!

K.U.D.Oの面々が仕事に出払った午前9時、彼女は再び活動を再開した。
多少大きな音でも気付かれまい、彼女は梁の採掘ペースを早めた。



意識朦朧としてくる中、ビディが女部屋事務室の方のカメラセッティングを終えて
男部屋へと向かう穴掘りを進めていた時であった。

猫が女部屋事務室の方に駆け込んできた。
ビディは一瞬採掘の手を止めたが、リベラは窓側には興味を示さずドア側をうろうろし始めた。

…驚かせんなよ…クソ猫…
ビディは、環境音の関係から夜中ほどは音は響かないはずと睨んで弱めに採掘を続けた。

と、その時、女部屋のドアが開き、ジョーンが一人で入室してきた

何故ジョーン=ジョットが!? 足音なんてしなかった!

…と、どうもジョーンの足下を見ると素足である。

「はいはい…リベラ…換えの靴を取りに来ただけよ…直ぐみんなに合流しなくては…」

手に持ってる靴を見ると、ボロボロというか部分的に削り取られたというか…
野良スタンド使いにでも会ったか?
社の方では動く予定はなかったはずだし…

しかし、寂しくて『詰まらない』と思っていた矢先に思いがけず帰ってきた
ジョーンにリベラは舞い上がりっぱなしだった。
仕方がないのでちょっと相手をするジョーンがふとリベラの食事皿を見ると…

「あら…緊急用のタイマー給餌機の中が空だわ…補充ついでに、貴女のお昼は
 じゃあ作ってゆくわね」

ジョーンが女部屋事務室にも設置された電話からルナへ連絡をしているようだ。
口ぶりからしても、内容が猫に関わる物であることからしても相違あるまい。

会話や調理という環境音があればもう少し採掘ペースを上げてもバレることもあるまい。
ビディは猫を構いつつキッチンに入るジョーンをPC上から監視してほくそ笑んだ。


第一幕 閉

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