Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Eight

第二幕、開幕


一方それは野良スタンド使いなどではなく、遺失物捜索のためかなり足場の悪い
燃えない大型ゴミを一時的に積んである廃棄場での出来事であった。

「工場からの廃棄なんだろーがミキサーの刃のでかいような奴やら
 旋盤のでかいのやらが足下ってのは厳しいなぁ…
 ジョーンだったから咄嗟に靴だけで済んだが…」

ジョーンの靴底が吹き飛んでいたのはこの大型のミキサーの刃のような物が
ちょっとした力でまだ回転し、彼女の靴底をそぎ取ったからで
削り取られた靴底は大型ミキサー刃の更に下、回転しやすいその刃の奥に
手を入れたり、ルナのスタンドを潜ませるにしてもちょっと危険が
伴うと言うことでジョーンはそれなら急いで靴を替えてくる、となったのであった。
ウインストンがちょっとずつ足下の安全を確保しながら他の三人を進ませた。

「んー、この工場廃棄物を越えた向こう側なんだよねぇ…時間掛かっちゃうなぁ、これは」

ベイビー・イッツ・ユーで対象を確認しながらアイリーは呟いた。

「俺の壁を足場に…つったって今度は傾きがやべーからなぁー」

三次元ランダムに積まれた大型の廃棄物だけに地ならしも無理そうだし、
壁を地面に見立てて先に進むのも傾きが出て上手くないことにケントも渋い顔をした。
そして、探す対象は何のことはない、指輪なのだが、この工場から廃棄された
機械の下になっており、掘り進めるのにも手順が必要(流石にトン単位のものが
 折り重なったものはK.U.D.Oの面々では如何ともし難い)
対象が数センチでも隙間のある10メートル下…とかなら
ルナのスタンドがあれば取っては来られるが、どうも完全に色々なものの
下敷きになってるらしい。
部分的に取れる部品とって行けば何とかなると言うことで
スティングレイにヘルプを要請するでもなく、それほど込み入った
用件が差し支えているわけでもないので、腰を据えてこの作業に取り掛かっていた。

…まぁその「取れる部品がどうたら」の前に足下の安全を確保しないと
先にも進めない、と言う事態に、ルナは外出の際ノートPCも
持ち歩いているのだが、何となくそれを広げて何かを始めた。

「ん?ルナぁ、どうしたの?」

待ち時間が発生したこと、ジョーンもリベラの世話をではちゃんとこの隙間で
やってしまうと言う事で、今アレコレ廃材などから「むささび変化」で材料を斬って
足場を組んでいるウインストンと上手くゆけばそこに壁を寝かせて幾らか
ショートカットできそうなケントだけが「仕事」になっている状態。

「…いえね…気になるって程じゃあないけれど…
 何か何となく「検索してみたくなった」ってこと…ない?
 ああ、ベイビー・イッツ・ユーでもいいのよ、携帯とかでなくとも」

「あー、うん、最初の頃はね、今は気をつけてるけど」

「まぁ、スタンドでの検索はね…確かに余りにも対象丸裸にしてしまうし…」

「んで、何を検索してるの?」

「ちょっとね…人名検索…」

「"ビディ・ハンター"と"輸入雑貨"…あの人やっぱり怪しいの?」

「いいえ、空いていたアパートの一室を借り、管理人氏から
 ウチの社のことを聞き、イギリスに引っ越しの挨拶回りの習慣はないとは言え
 探偵社とあれば「もしも」のために挨拶をしておく、職業が輸入雑貨とあれば
 頼んだ荷物が期日に届かないなどのトラブルも考えられるし、何もおかしくはないわね」

「じゃあ、なんで?」

「なんでかしらね? おかしいとまでは思えない、別に、いつもの事だ、という
 範囲内のことのはずなのに…昨日朝感じた視線と、慎重派のスティングレイの言葉と
 リベラの夜中の大運動会が…「何となく」を引き起こしてるというか」

「ふむふむ…ん〜同姓同名っぽい人の記事だけど中身からしたら
 「あの人」の事じゃあなさそうだねぇ…輸入雑貨やってる人じゃあなさそうだし」

「「ハンター」「輸入雑貨」でヒットしてるのがあるわね…………」

しかしそのヒットしたページとは…

「ルナ、これって…」

ルナが電話を掛ける、掛けた先は…



ちょっとしたトラブルとは言え、誰かが…この場合はジョーンだが…
が帰ってきて、ついでに猫の世話をしてゆく…「いつもの事」の範囲のはずだった。

ジョーンのリベラ用ご飯調理中、ジョーンの足下をぐるぐる回っていたリベラ

『…あれ、おかしい…アタシ…そう言えば夜に何か凄い事を気付いたような
 なんだっけ…あれ…あれ…うーん…』

ふと立ち止まって見上げた天井付近…猫というのは「気になった物」に対する
執着も結構あるが、動く物に対する反射神経は例え家猫でもなかなか消える
本能ではなかった。
その時、彼女は天井を繋ぐ梁が僅かに盛り上がったのを見た。

『…今…!あの…あの木の中に何か居るッ!
 …そうだ…アタシ昨日…ベッドの上…そうだ!』

しかしこれをどうジョーンに伝えようか、少し悩んだ。
時が経てばまた忘れて…いや、別な欲に上書きされる、だって猫だもの
今…、今これをジョーンに伝えなくては…!

リベラは走り出し、そしていつもジョーンが喫煙の時に開ける窓枠に登った。

『ジョーン! ジョーン! ここ開けて!開けてぇーッ!』

激しい鳴き声にジョーンは火を止め、

「どうしたの? 一服時間にはまだ早いし、換気もまだ必要な程ではないし…」

日常モードのジョーンはそこで現場で作業をしているウインストンたちの
作業内容と進捗から考えて現場まで戻る時間を加えても(現場へは自転車)
一服くらいできるかな…と何気なく思い、

「…もう、仕方のない子ね…五分だけよ」

と言って窓を開放すると…
勿論ベランダという物はないが、30cm程のスペースが
窓の範囲内を柵で覆っている空間がある。
普通なら、そこに鉢植えの花などを飾って街を彩る物であるが…

リベラはその鉢植えを縫って開いた窓から枠の向こう側に行った。

「どうしたの?リベラ、危ないわ!」

オーディナリーワールドで引っ張ろうと手を伸ばす、
しかしリベラは、枠の際から、向こう側の枠へ飛び移ってしまった。
かなり、ぎりぎりで危なっかしい。
成猫にまでなれば造作もないことだろうが、リベラはまだせいぜい五ヶ月ちょっとの子猫!

ジョーンは一体何がリベラをそうさせるのかは判らないが、オーディナリーワールドの
射程範囲はもの凄く狭いので、急いで寝室側の窓も開ける。
リベラが今まさにさらに向こう…つまり隣の家の枠に飛び移ろうと枠を蹴ったところだった。

『…くッ! まだアタシのジャンプじゃあきついッ…! このままじゃあ届かないッ!』

「リベラッ!」

オーディナリーワールドの手はまたしてもぎりぎりで届かなかった…!あわや!

…リベラのスタンドが枠を掴み、何とか落下は免れた。

「なかなか…スタンドの使いどころも覚えてきたようだけれどリベラ…
 ダメよ、戻っていらっしゃい」

ジョーンが窓から乗り出す…でも流石に昼前のベッドタウン街とはいえ…
見られる可能性を考慮し、ジョーンは光学迷彩を施し「くっつく波紋」で
壁を伝わり、隣の部屋の枠まで移動する。

越してきたばかりとは言え…カーテンもない、余りに素っ気ない室内が見える。
イギリスの貸し部屋というと家財道具がある程度あるようなものだが
空室期間が長かったからなのか、メンテナンス重視のためなのか
ここの管理人は余りそう言う物を置いていなかったようだ。

…しかしそれがこの部屋の異常さを醸し出していた。

小さなテーブルの上にノートPCだけがあり…有線で窓側の…上の方に
何か繋がっている…?

リベラが必死に中に向かって鳴いている

「あれが…何か怪しい…?そう言っているの?」

『そうそうそうそう!やっと判ってくれた、ジョーン!愛してる!』

ジョーンの方を向きひと鳴きすると、窓をひっかくリベラ
とはいえ困った、何か水…コップに水さえあれば生命探知の波紋も
使えるけれど、今この差し迫った事態に一度戻るのは…

とりあえず見た感じ人は居ないが…

しょうがない…ジョーンは、窓の留め具の辺りに窓越しに指を当て

「少し…強めに波紋を練らなくては…」

自分の磁力を指先で強め、さらに僅かに浮かんだオーディナリーワールドが
その効果を強め、留め具を窓の外から外した。

「ふぅ……波紋そのものではなく波紋で強めた磁力をさらにオーディナリーワールドで
 磁場の誘導…何年ぶりかしら…こんな真似したの…」

窓を開けると、リベラが真っ先に入室しノートPCから延びた線をいじっている

「窓の上の梁に…直接中に入っているわ…そして…」

その画面に映るのは、自分たちのそれぞれの寝室、並びに事務室だった。

「これは…監視!?」

そう思うや否や、特に何があったようにも見えなかった床板の溝から
蛇のような、でも先の尖ったもの…スタンドが、ジョーンの胸を貫いた!

「!!」

『!!!』

その蛇のようなスタンドは直ぐ引っ込み、また溝の中に紛れる
リベラが直ぐ追いかけるが、なるほど、溝の間を蠢く者が居る
だが…隙間が細すぎて爪が入らない!

ジョーンは胸を貫かれたことよりも、その傷口から吹きだした血を見て愕然とした

「これ…は…! 四酸化オスミウムに…硝酸…タリウム…ほか重…金属の
 劇物の塊…だ…わ…スタンドに…本物の劇物を…塗布…して…いる…ッ」

こう言う劇物を使った奴を一人知っている…そいつはルナが殺したが…!
間違いなく…BCの手の物だ!
心臓へのダメージもそうだが、心臓へ直に劇物を打ち込まれたら
その全身への広がりは…!
ジョーンが膝をつき、今にも倒れ込みそうな時にその女は
僅かな家財道具…クローゼットの中から現れた。

「…クソ猫がやっぱり気付いたか…あんたが気付きそうになったから
 ちょいと隠れて隙をうかがってたけれど…案外気を抜いてたね…助かったわ!」

ジョーンはなるべくビディより距離を置くように、しかしもう動く力もなく
横向きに倒れた。

『ジョーン!ジョーン!!』

「うるさいクソ猫だねぇ…あたしはあんたが最初っから気に入らなかったよ!」

スタンド攻撃だ!
また、どこからか溝から攻撃してくるのだろう…しかもジョーンの様子からしたら
「掠るだけでもヤバい」ということは判るッ!

自身の死角になりそうな斜め後ろからそいつがかなりの速さで襲いかかってくる…!
子猫とは言え、結構な反射神経でそれをかわそうとするが刺さるコースだ!
ビディがほくそ笑む。

しかし!リベラの体からわき出したスタンド「アイム・オンリー・スリーピング」は
そいつの勢いを利用し殴りつつ、さらにリベラ本体を上に跳ね上げ、そして
着地は流石猫である、戦闘態勢を崩さぬまま、着地した。

「なんですって…クソ猫までスタンド使いなんて…そんなデータはなかったわ…!」

ビディのスタンド「イン・ザ・グルーブ:アゲイン」の頭部をひっかいたこともあり
こめかみ近くを僅かに三本の爪痕の血を流しつつ、それでもビディは「やる気」の構えだ。

『あの女もやはりスタンド使い…どっから来るのか警戒してないと…攻めるのに
 夢中になっちゃうとアタシまでやられちゃうわ…!』

今にも命の火の消えそうなジョーンが、血の通ってないような青い顔で
汗を全身に滲ませかすかに声を掛けた

「…リベラ…逃げなさい…それが…できない…なら…
 わたしを…しばら…く…この…ままに…放置…できるよう…に…して…」

と、言ったきり、ジョーンは一切動かなくなった、呼吸もしてない。
ただ、「死の匂い」は少し漂いつつ、この死は「まだ本当の死ではない」
ということがリベラの本能で理解できるッ!

『アタシが…ジョーンを守るッ!』

恐怖はなかった、自分より体も大きく、体重を使った攻撃とかなら
自分はひとたまりもないはずなのに、そういう圧迫されるような恐怖感はなかった。
それがスタンドという物を身につけた証なのか
リベラの「アイム・オンリー・スリーピング」がぐわっと目を見開き鳴き声を上げる
…と、同時に奴のスタンドも攻撃してきた!

睡眠攻撃を続行すれば、自分もダメージを負う…!
しかもジョーンのようになってしまうかも知れない!

仕方なく、リベラはまた、スタンドを併用した回避行動を取らざるを得なかった。

ビディが一瞬ぐらついた体を起こすためにペンを手のひらに突き刺し気力を振り絞っている

「クソ猫…!催眠攻撃が特殊能力なのね…! 目にヒントがありそうだわ…!
 しかしそれなら…スタンドの目を見なければいい…それだけの話よ…
 所詮クソ猫って事だよこのダボがァァアアーーーーッ!」

三度、ビディのスタンドが襲いかかりつつ、ビディ本体も猫がかわすだろう
空間に向かって自らの手のひらを指したペンを振りかざす!

『バッカだねぇ…!ブス女!毒か普通のペンかなら…
 ペンを選ぶに決まってるじゃあないのさッ!!』

リベラはスタンドも目一杯使ってビディのスタンド攻撃をかわしつつ
敢えて、ビディ本体のペンの突き刺しは甘んじて受けたが…!
それは尻尾!
本体への深刻なダメージではない事を幸いに、猫を刺すために
屈み気味になった体勢を利用しない手はないッ!

尻尾へのダメージも物ともせず、リベラがビディの背中に取り付く!

「ああぁああ!こんのォォオオ!」

ビディは一瞬スタンドでリベラを攻撃しようとするも、下手に動かれると
自らもヤバい、咄嗟に彼女は背中を壁に押しつけるという選択をした!

ドスンッと昼間ながらに結構な音を響かせたが、猫を押しつぶした感触はないッ
リベラは、彼女の頭の上にジャンプしていた。

「アホがッ!キャッチぃぃぃいいッ!」

リベラの胴体を掴み、力を込めるビディ

「猫ごときが…!例えスタンド使いとしてもこのあたしを
 出し抜けると思ったかこの黒カビがァーーーッ!」

黒カビ、言ってくれるなぁ、リベラ直の猫パンチがビディの顔を襲う。
リベラになるべく怒りをぶちまけるべくちょっと顔を近づけていたビディの
鼻っ面に爪痕が!

「こんのォォォオオ!クソ猫がァァァアア
 しかしこうやってあたしがアンタを握ってりゃあーもう逃げ場はないッ!
 テメェもシネッ!黒カビ猫ォォォオオ!」

『そう、そうやってアタシを自ら固定した上でアタシを狙い撃とうという
 瞬間を待ってた!自らが捕食者でもあると同時に獲物でもある場合
 目の前の獲物を狩ることだけに夢中になった…アンタの負けだッ!!」

ビディの目の前にリベラのスタンドが沸き起こり、そして目を見開いて
鳴き声を発する。
ビディの手の力が僅かにでも緩まった一瞬、スタンドでその手をほどき、
勢いでやってくるスタンドを蹴りつつ、その勢いでついでにビディの頭を蹴って壁を伝い
…リベラが華麗に着地した時、ビディも床に倒れ込んだ。

『正直賭けだったわッ、アンタに捕まれた時に、アンタのにょろにょろ
 スタンドがアタシの体と同時にスタンドを縛って体から出てこられないように
 縛り付ける使い方をしていたら、アタシは負けていたかも知れない!』

ビディを横目で見つつ、ジョーンへゆっくり歩み寄るリベラ。

『ビディって名前は知らないけど「ハンター」ですって笑っちゃうわ
 あんたはハンター失格よ!攻めることしか知らないハンターなんて
 獣の世界では生きて行けないッ!』

ジョーンの傷口や、汗を舐めとりたかったが、何か嗅いだことのない
独特の匂いがする、ジョーンがたまに例えば間違ってペン先を体に刺してしまった時に
オーディナリーワールドとか呼吸を使って汗としてインクの成分を体から
滲ませ追い出していたことをリベラは知っていた。

『今…ジョーンは再び動くために体の中の「ダメな物」を
 絞り出している…!胸の傷もふさがり掛けてるわ…!
 何とかこの状態をキープしなくては…アイツが自ら
 覚醒しない事を祈るか…まぁ起きた瞬間また
 アイム・オンリー・スリーピングの声聞かせればいいんだけど』

…と、自分の位置と倒れ込んだビディの間にPCがあるのだが、そこに最近見慣れた
スタンドが一人、居た。

「ヨクヤッタネ、リベラ、コレハ大変ナ手柄ダヨ」

ルナの「フュー」だ。
みんな戻ってきた?
恐らくルナが射程距離の都合で隣の女部屋の端っこまでやってきていて
さらに「スモール」がジョーンを確認し、治療の後押しをする
そして「リペアー」がドアの鍵を開けると、ウインストンを先頭に
みんなが入ってきた!

「ビディ=ハンターは偽名…彼女が咄嗟に使ったそのファミリーネームと
 職業の元になった人物は…つい今朝詐欺で捕まった…
 何も知らないところからいきなり持ってきたにしてはできすぎてるから
 交友関係を調査したら…」

アイリーが慎重に言うとケントが

「ビディというファーストネームだけは本当だったBC職員が浮かび上がったんだなァー」

「ルナの「何となく」だったわけだが…いい勘だったぜ…詐欺事件絡みの
 捜査だっつったら警察だってある程度捜査資料ださねー訳にもいかねーしな」

イギリスの探偵にはある程度の捜査権が認められている。
そう言う意味合いもあっての「免許制度」なのだ。
ウインストンがじゃあこの女縛り付けでもするかと動いた時に

「待って…彼女の…スタンドは、溝の間を縫って…5メートルほどの…
 直接攻撃ができる…蛇…のようなスタ…ンド…」

息を吹き返したジョーンがウインストンを止める。
改めて入り口からやってきたルナが

「なるほど、地面や壁の隙間を這ってたわけか…まだまだあたしも未熟者だわ」

「さて、この女どーしてくれよーか」

「…(天井の梁を見て)やはりリベラは昨夜これに反応してたんだわ
 ということで、天井の異変に気付いて辿ったらここで、盗撮までしてたから御用
 と言う筋書きでいいのでは?」

「盗撮は違法だからな、それが真っ当なやり方なんだろーが…」

「痛めつけて放置すれば向こうの会社からお迎えも来るでしょうけどね」

「ああ、地獄からのお迎えがな」

物騒なやりとりをルナとウインストンがしていた。
まだ動くにはきついジョーンに寄り添うリベラをジョーンは撫でた

「よくやったわ…逃げ出さずに…」

『ジョーンのためだもん、当たり前じゃん』

ジョーンにすりすりを繰り返すリベラ。

「ともかく今回は…リアルな「証拠」もあることだし、警察に引き渡した方がいいんじゃあないかな」

アイリーはこう言う時には結構トーンを抑えた慎重な口ぶりになる。
なんかこう、ちょっと「占い師だった」祖先の血がそうさせるのだろうか、妙な説得力を感じる。

ルナはその意見に頷いた、そして廊下に出ながら携帯で

「ああ、モア刑事? 詐欺事件容疑者の交友者の一人がね…ええ、そう
 その女がうちの隣にわざわざ引っ越してきてウチを監視しようと梁に穴まで開けて
 監視カメラ設置してたのよ…ええ、現状はそのまま、スタンド使いだから
 貴方を中心に直ぐ来て頂戴」

そこへビディは既に目を覚まし、逃げる機会を伺っていたのだろう、電話を掛けるのに
後ろ向きになっていたルナを人質に取るべくスタンドが出入り口の床の隙間から襲いかかる!

「!!」

が、打撃担当「リペアー」は正確にそのスタンドの軌道が変わる程度の打撃を与え
「イン・ザ・グルーブ:アゲイン」が天井に突き刺さる。

「舐められたモンだわ、後ろさえ向いてればがら空きだと思ったの?」

そして、リペアーはそのスタンドの頭部分を握って締め付けた。
ビディの首筋に指のあとが浮かぶ。
スタンドの直径が小さいことからそれを掴むリペアの指がビディの首のサイズに合わせ
拡大された物だろう。

「ぐぐ…こいつ…!」

ルナは更に、少ないビディの手荷物から(その鞄は開けられては居たので中がまる見え)
ある物を…白い手袋をはめてから取り出し

「ジョーンの汗が金属質を含んでいるのが遠目でも判るわ
 これ…手書き文字で「扱い厳重」とか書かれてるけど出所は何かしら
 どうも匂いからすると…四酸化オスミウム…それ以外も重金属を使った劇物ね」

「重金属の劇物…?」

アイリーとウインストンが同時に言った。

「そう、あたしもこれに覚えがある。
 あの時…あの場にいたキャラバンの人達に使われた猛毒よ」

ウインストンの怒りに火が付くが

「ダメ、ウインストン、もう警察を呼んだし、彼女には法の裁きを受けさせなくちゃ!」

ルナは推理を続け

「と言うことは出所はあの…なんて言ったっけ…ああ、ゼファー…」

その名を聞くとビディはルナを睨んだ

「仲良かったの?あらあら、友達は選びなさいよね…ただし本当の出所は
 彼でもない」

「えっ」とみんながルナに注目する

「恐らくダビドフがスタンド能力で合成したのよ、彼の能力なら訳ないと思うわ
 ただし、扱いは厳重に、そういう事だと思う
 さて、この事…どうするべきかしらね、まぁビディ、貴女はともかく
 ゼファーはこれを無差別殺人に使用したのよね」

そこへ、警官隊が突入してきた。
結構な数にK.U.D.Oの面々も面食らってしまった。
先頭のモア刑事はやや恐縮して

「いや…申し訳ない、スタンド使い同士の争いっていうのは
 どうしても規模を正確に把握して貰いにくくて…
 さて、それとはともかく…ビディ=ブライト、詐欺共謀の容疑…
 及び盗撮の現行犯で逮捕する」

彼のスタンドは「鍵」そのもののスタンドだった。
それを閉められたスタンド使いは、その鍵を解除するか、
モア刑事が死ぬまでスタンドを封じられる…
一度一人に鍵を掛けてしまえば、また一つ鍵を生み出せる
捌ける数は「常に1」だ、スタンド名もズバリ「Key」

「便利というか…なるべくしてなったというか
 よくぞその能力を治安維持のために役立てようと思った物だわ、尊敬する」

ルナがモア刑事に語りかけると

「まぁ…代々軍人か警察の家系なのでね…」

捜査員でごった返す中、既にジョーンはルナの意思を汲み自らの血痕を処分していた
それを確認し、護送を見送ったモア刑事に

「これ…重金属化合物をふんだんに使った劇物…BCに対して牽制に使えるかも」

「む…そうですね…判りました」

こうして、一連の事件はBC側の発表もあり、「スタンドプレイ」と言うことで決着を
見ることになる。

ビディはそのスタンド能力からも、潜入からの暗殺…という手段がメインであり
その伝手もあって輸入雑貨商でもあったハンターと情報のやりとりもかねていた
「仕事仲間」であったことも判った。
その輸入雑貨も、某国のコピー品やら、まともな商売はしていなかった。
そのまともでないルートの開拓をビディがやっていたのだ。

ちなみに、廃棄物の下敷きになった指輪の捜索であるが…
結局緊急事態と言う事でスティングレイが動員されることとなった。
ぶつぶつ文句は言いつつ「危険はない」方の担当だったために、引き受けたのだった。

その指輪は、その廃棄もとの工場の工員が廃棄作業の途中無くしてあとから
無くしたことに気付いた物だった。



重金属の毒物の出所を追及しないことと言うのを条件にBCはビディに関する
あらゆる調査への協力をした。
(K.U.D.Oの遭遇したのはゼファーが15世紀末に使った一件と、この一件だけであるが
 世間的には…何件か同様の毒物による死亡「事故」があったからだ)

実際それは作ったのはダビドフだが、ゼファに対してであって、横流しされてるなどとは
考えても居ないことだった。
いつものパブで夕方に二人が語り合う、もうすっかりダビドフもここの常連だった。

「お前も、甘い奴だな」

「いやぁ…こう言う物の危険性ってフツー考えねぇか?」

「「知ってる奴」ならそりゃ、考えるだろうさ…お前、頼まれても
 フッ化水素なんて死んでも作るなよ」

「あー、そりゃ流石の俺でもやんねえよ、鉛さえあればちょいちょいいじりゃ出来るから
 あの毒物だって作ってやったんだしよ」

「にしても…尻尾切りで手打ちの予定か?」

「ゼファーの奴がやった殺しの扱いをどーするかだな、まぁ、俺もジタン、お前も
 アリバイはあるんだから「行方不明のゼファー」とビディの奴の二人に…というか
 実際に使ったのはあの二人だしあいつらに全部背負わせて終わりだろうなァ」

行方不明か…とダビドフは考えて

「おまえさんよォ、もしかして知ってないか?」

「現代に帰ってきたと言う事はK.U.D.Oの…恐らくはルナが奴を倒した…
 あいつらとゼファはちょっとした距離と段差を挟んでたらしいから
 あとは知らん…さぁ…下水にでも流れていったんじゃあないのか?」

余りにすっきり無表情に言う、完璧なんだが完璧だけに「ああ、やっぱこいつ
 あいつらにちょっと手を貸したな」と思った。

「まぁ…今回のこともよォ、どうもルナが証拠品を直でモア刑事に渡したことで
 鑑識の手に渡らずに内々で済ませられた訳だし、俺も借り作っちまったなァ」

「気にすることもないだろ…「貸し一つね」とルナは言いそうだが、
 だからといって見返りを要求するような女じゃあないよ、彼女は」

ダビドフが少しだけ神妙に

「まったく、そんなに俺を引っ張りてぇのかよ」

だがそんな彼の口の端は少し笑っていた。
そしてジタンも感じていた、そんな事を言いながらも、ダビドフは「殺人衝動」を
抑える努力を始めていることを。



これはまた、少しあとの余談になるが挟んでおこう。

刑務所に服役したビディに面会があり、それはフレッドという男であった。

スーツを着こなし、やや長髪で30歳ほどの男である。

「やぁ…君、勿論自らの容疑以外何も認めても取引もしていないだろうね?」

彼はBCの役員であった。

「勿論です…!フレッドさん…!」

フレッドと呼ばれた男はフッと微笑んで

「まぁ…君を失ったことは痛いが…単独行動を貫いてくれるのであれば問題はないよ」

「はい!」

「じゃあ、近いうちに何か動きがあると思う…宜しく頼むよ」

ビディが自分に気があることは知っていた。
フレッドは笑顔で面会室をあとにする。
廊下を歩き、出口に戻りつつ、その途中の刑務官にすれ違いざまに

「…まぁ、折を見て頼むよ…もう余計な物は要らないんだ…」

その刑務官は何かを受け取りつつ、態度も表情も崩さなかった。
フレッドが刑務所の来客用駐車場に着けて車に乗り込みながら

「もう、余計な物は食いたくないんだよ…この一時的に若返ることが出来る
 「ナイス・エイジ」だって10年前には丸一日効果が持続できたのに…
 失敗した奴や処分しなくちゃまずい奴を食い続けて…今や一時間がやっとだ…
 早く見つけなくては…この能力を維持したまま新たな獲物を食える能力を…」

そこからまたしばらく間が開いて…刑務所内で暴動が発生したとして
死亡者が数名出たが…その中にビディ…彼女の名があった。
暴動中に服毒したらしい、それは、そうあの重金属の毒だった。
体のどこかに隠し持っていたのだろうと結論づけられた。



さて、また日付はさかのぼるが、件のリベラ大活躍から数日後である、
このところジョーンに考え事がのしかかってるのか
いつもより思い詰めた雰囲気がずっと漂っていた。

ルナが「どうしたの?」と聞いても「ちょっとこれからのことを…」と答えるのみで
と言ってその「これからのこと」というのが何を指すのかが要領を得ないというか
彼女の中で何か決着をつけなくてはならない事のようだった。

そしてある休日、朝食の時にジョーンがおもむろに

「決心したわ…みんな…今日ちょっと付き合ってくれる?
 ああ、ポール、レンタカー…配備宜しく」

「?」

ピクニックにでも?
などと言おうにも、ジョーンの表情が硬く、とてもじゃあないが誰も軽口を叩けなかった。

郊外までやってきて、ジョーンが呟いた

「それこそ、ピクニックにでも来たら偶然とでも言ってくれればいいわ…」

この辺りでと言うその場所は古い地層などが見えるような岩場である。
ここ数日のジョーンの苦悩をずっと考えていたルナはあることに気付いた

「待って、ジョーン。…貴女まさか…!」

「先に言うわ…こんな事…二度とやらない…でも、今はこれが必要だわ」

そう言うとジョーンの両手にほぼ重なるようにオーディナリー・ワールドが出現し
ジョーンが地層の断面に手を当てると黒っぽい石の塊がキラキラと輝きだした。

「こ…これは…ジョーン君?」

ジョーンはそれに応えなかったが、ルナが答えた

「石炭の組成を変えたのよ…ダイアモンドに…!」

「こ…これをよォーどーすんだよォ」

「売るか…政府に「見つけた」って事で礼金受け取るか…」

「んでんで…それでどーするのぉ?」

本来ジョーンが語るべきなのだろうが、ジョーンは今罪悪感と戦っていると
感じたルナが代わりに答えた。

「ウチの弱点は拠点にいると全員油断しちゃうことだわ、
 フロアはがら空きで今回のことのように敵が入り込むことだって出来たって言うのにね」

ルナはレンタルした大きめの車に戻りつつ

「つまり、フロアの借り切り…金額がでかければビルそのものを買い取れって事よ
 『安全の確保』の為にね、ポール、貴方の計画は確かに正しかった
 ただ、悠長に「金が貯まり・毎月正しく運用できる」瞬間を待つことが
 難しくなった、ジョーンの判断はそこ」

トランクを開けて、

「良かったわね、みんな「何かあるかも、アリバイが必要かも」と
 ピクニックの用意もしてきて」

そう、流石にこのため、とまでは予想していなかったが、
心の底でしまっておいたその「アリバイ」を全員が何も言わずとも用意しておいたのだ。

時系列を演出するためにカメラで順を追うようにピクニックで楽しむ「慰労会」のような
雰囲気を醸し出しつつ、「これなんだ?」「ダイヤじゃね?」みたいな流れを
あえて静止画である写真で残したのである。

その地域の事はそれなりに長いイギリスの歴史で調べられたこともあっただろうし
地質調査団も不思議がりはしたが、でもそこに存在するのは確かにダイヤの原石、
K.U.D.O側は権利を寄越せなどとは一言も言わなかったし国家運用資金に回せると言う事もあって
それを「真面目に」通報してきた彼らにはやはり報奨金が与えられた。

規模は試掘の結果それほどは大きくないにしても(詰まり継続した採掘には向かない物の)
それなりの資産にはなると言うことで報奨金も多めであった。
それこそ、フロアを借り切ることが…そのフロアだけ「所有」という形にすることも。

そしてその借り切りか、所有かの相談も行われた。
管理人氏は、しかしここで意外なことをポールたちに進言した

「いや…ワシも歳だし…そろそろ引退というかな…と思っていたところに君らの提案…
 ここだと思ったね…わしゃ知っとるよ、どうやってるのかは知らんが
 お前さんがた、ここのビルのメンテナンスもやってくれてるじゃろ
 年数の割りにかなりいい状態じゃと査定の時に言われたことがあってね…」

固唾をのむ六人

「このビルの権利をポール、あんたに譲ろうかと思うておる…
 わしらの息子は独立して海外じゃし…
 ここの管理まではできんから処分しろとずっと言われておってな…
 とはいえ、あんたら、仕事もあるし管理までしろとは言わない
 エレベーターか何か増設して…最上階にでもロハで住まわせて管理人だけ
 させて貰えれば…と思うんじゃがいかがじゃろ?」

ちなみに彼は他にも幾つか不動産を持っていたが、なるほど幾らか処分をしていた
ようである、折角手に入れた物を、少なくともビル丸ごと手放すのには少ない金額で
ここ一件の管理だけで悠々と隠居したいと考えていたようだ。
ちなみに売った資産の大半は既に寄付までされていた。
「セレブだ」六人は思った。

これ…ひょっとしたらダイヤの件が無くても交渉できたのでは…と言う気もしたが
そこはやはり「何であれフロアを借り切るだけの収入を得るようになったこと」
と言うのが彼の一つの「試験」であったようで、ジョーンがひたすら
住みよくするために、と各種調査点検補修まで行っていたことも支えとなって
今回の「譲渡」という流れになったのだ。

何とも都合のいいというか、だったらもう少し早く色々決断しておくべきだったか…
とはポールも思った、いささか自分は慎重すぎるかも知れない、と。

仕事もこなしつつ、こう言う交渉もしつつ、七月の中旬になっていた。

ポールは手続きやら何やらで事務所を開けがちになり、ルナが副所長として
また以前の「怒濤の三日間」に近い状態になる。
更にいえば、改装のために工事業者も出入りする。
(その身の上は、保証されていた)

しかし、名実共に、3,4階には他の住人がありつつ、2階は確かに自分たちだけの
フロアになった、男連中は事務所真向かいの部屋は「いつかの拡張」のために
とっておき、早々に向かいの列残り三室を手前からポール・ケント・ウインストンで
引っ越しをして、少しゆとりある一人暮らしを満喫し始めた。

ポールは念願の書斎に囲まれ、ケントは音楽を存分とまでは言わないがそれなりに楽しみ
ウインストンは家酒と喫煙を楽しめるようになった。
男連中は大満足である。

事務所は旧男部屋を仮眠室、或いはゲストルームとして一端ちょっとした改装をするにとどめた。
これもいつか、もし或いは規模を拡大となったら…ここをデスクフロアにするのもいいかもしれない
と、ルナは思った。
その時には、もし自分が所長になっていたら、女部屋はその隣…ビディが仮住まいとしたあの部屋を
ぶち抜きにして、所長室兼、住居スペース、うん、いいかもしれない。

…と、確定しても居ない未来をアレコレ思うのはまだ早すぎる。

今回のことはイレギュラーな事件や巡り合わせでたまたま手にすることができた「拡張」
ここから先事業を拡大できるのかどうかは、これからの自分たちの頑張りに
掛かっているのだ…濃いめのコーヒーを一気にあおり、ルナは気を引き締めた。

一人、ソファの上でくつろぐリベラに

「これが東洋…日本で言う「招き猫」って奴なのかしらね」

無論そんな評価は何処吹く風、一人「いつもの風景」のリベラであった。


第二幕 閉

Episode8 End

戻る 第一幕へ 進む