Sorenante JoJo? PartOne:OrdinaryWorld

InterMission

第一幕 開き

あれから数日。
わたしの内部のダメージはあの場で九割ほど治して、
後は自然治癒に任せた。
もう大丈夫。

ジョーンよ、ごきげんよう。

春の温かい日差しにお掃除をしても部屋にきらきら光る埃。
事務所は今わたし一人。

…と、猫ちゃんも居た。

仕事は今までのように探し物を中心にそんなに収入にならないものも
大切に遂行している。

今日はアイリーとウインストンとケント君がトリオで行動していて、
ポールは先ほど光熱費支払い、家賃の先払いそのほか用事で
家をでたのね。

ルナは体調を崩して休んでる。
…え、ああ…まぁ体調不良といってもその…女性特有のね。

アイリーが言うにはこんなに重くないはずなんだけどって
心配してたのだけど、この二週間でちょっと大きな事件が
突然舞い込んで皆が…わたしもちょっと大変な思いをしたから
…多分それで崩れ方も大きかったんじゃないかな。

とりあえず薬と、オーディナリーワールドの力で
「軽く」はしておいたから、今それでやっとゆっくり就寝している
そんな感じなのね。

…わたし?
電話番謙お留守番謙看病ってところかしら。
猫ちゃんが誰も居ないと寂しがって暴れちゃうのも
あるから、その「お猫番」もある。

…前回のエジンバラ行きは帰ってからも大変だったわ、
猫ちゃんが相当暴れたらしくて備え付けの食器がいくつか割れてて。
(分子一個が欠けていた、程度に状態を戻したけれど、大変だったの)

…お世話はポールが管理人さんに任せたというのだけど、
やっぱりね、二室で6人っていう賑やかな中で
突然人がいなくなったから、
寂しくなっちゃったみたい。

気持ちはわかるわ。

ご飯を一生懸命食べたあと、わたしのひざの上で軽くリラックス。
わたしが撫でる手を止めると、「どうして撫でてくれないの?」
って言う目でわたしを見る。
まったく貴女は、手の掛かる子ね。

いつもは何か音楽とかラジオとかテレビとかが流れているのだけど
隣の部屋とはいえ、ルナが寝ているから、無音。
外の喧騒が少し聞こえる程度。

猫ちゃん以外は特に動くものも無い世界。

だからきらきら光る埃を見てたの。

まだお昼にはなってないけれど、もうそろそろ昼食も近いのかしら
そう思ったときに廊下伝いに隣のドアが開く音がして
ちょっと足取りが重い、でもそれほど深刻そうでも無いくらいの
スリッパの音が聞こえてきた。

事務所の音をドア越しに確認してから扉を開けた、それはやっぱりルナ。

「…ああ…あんまり静かだから誰も居ないかと思ってたわ。」

まだ微熱があるんだろう、軽く頭を抑えてルナが言った。

「起きて大丈夫なの?」

「…一眠りしたら…ベッドでただ横になってるのも苦痛で…」

「ダメよ、こういう時は寝てなくては」

「そうなんだけどさ…ここのソファーで休みながら留守番もいいかなって
 っていうか…オーディナリーワールドの力を使えば
 こういうのもほぼ完治…っていうのは言葉がおかしいけれど
 できるはずでしょ?」

「…できるけれど、それをやっては体のリズムも狂うし…
 そのうちわたしみたいに完全に止まっちゃうわよ?」

わたしが密使…スパイをしてたことは以前言ったわね、
その時体調が急変しないようにコントロールしてたら
機能そのものを失ってしまったって訳。
…でもまぁわたしはね、妖怪のように長生きしてるわけだから
世代交代も何もない、だからそれでいいのだけど。

「…別にそれでいいのに…」

ルナがソファまでやってきてやっぱりちょっとだるそうに座った。
3人がけソファがテーブルを挟んで向かい合わせにおいてあって、
でもルナはわたしが座ってるソファの端っこに座った。

「…よくはないわよ…子供が作れなくなるのよ?」

「…だから別にいいのに…そういうのはアイリーに任せるわ」

「…どうして? 勿体無いわよ…」

ルナはため息をついた。
何か事情があるってそういっている。

「…貴女が「恋愛は出来ない」といったのと理由は違うけれど
 あたしにも無理なのよ。」

「…そう、…まぁでも、人生何が起こるか判らないから、
 今回は症状を軽くする、程度で収めておいて、お願い。」

「…ええ。」

「…ホットミルクでもいれる?」

わたしの突然の話題転換にちょっと意表を突かれた感じだったけれど
わたしがこの話題はやめよう、と言うことを彼女も察知したみたいで

「…ちょうどそういうのが欲しいと思ってたところよ、ありがと。」

猫ちゃんをひざから下ろしてキッチンに向かう。
猫ちゃんは突然のことにきょとんとしたけど、
キッチンにわたしが向かったとして、自分はご飯も食べたし、
ルナはちょっと具合悪そうだし、と猫ちゃんなりに空気を読んで
お気に入りの場所、ポールの机の上に登った。

「…ところでその猫なんて呼んでるの?」

キッチンから戻ってくるわたしにルナが問いかけてきた。

「…え? わたしは「猫ちゃん」って」

ルナにホットミルクを渡し、わたしもそれにほんのちょっぴり
コーヒーを落としたものを飲む。

「…その子…じゃあ名前は何ていうの?」

「…知らないわ、
 アイリーとか、結構構いたがりのケント君とかが
 付けてるんだろうって思ってたし。」

「…あらあら…」

そんな時、廊下向こうの階段から賑やかな足音が三人分。
賑やかな明るい声のアイリー、軽口で特徴あるしゃべりのケント君。
そしてドアの向こうだと声が低くて何を言ってるのかよく判らないのは
間違いなくウインストン。

事務所の扉が開く

「たっだいまー、あ、ルナ、大丈夫なの?」

「寝てるのにも飽きたわ、薬とジョーンのスタンド効果で
 楽にはなってるから、別に少しくらいいいでしょ。」

「お帰りなさい、仕事はうまくいったようね」

二人の会話にわたしが入る。

「まぁ…先日の用件に比べたら雲泥の差だな…
 ああ、ジョーン、ほらよ、頼まれ物だ。」

ウインストンがわたしに投げてよこしたのはタバコだ。

「…あら…ジョーン貴女喫煙者なの? …ちょっと幻滅だわ」

ルナは嫌煙者なのだ、わたしもよく知ってる。
ウインストンが喫煙者で、でも一週間前まではお金もろくになかったし
ロンドンはタバコが高いから、半ば強制的に彼禁煙してたのね。
そんな彼に「一生やめればいいのに」といってたの。

「…チェーンスモークとかそういうのじゃあないけれどね、
 たまに欲しくなるのよ…勿論煙の分子一個貴女に近寄せないし
 わたしの衣服や体にも付着させないわ、いい?」

「…分子一個…まぁ、そこまで言うなら…」

「…あ、そういえば三人とも…猫ちゃんに名前付けてる?」

わたしのまた突拍子もない話題転換に今度はルナは「逃げたわね」
という顔をした、ううん、本当に分子一個でも操れるから心配しないで…w

三人はそろって「えっ?」と声を上げた。

「…オレ、てっきりジョーンが名前付けてるかと思ってたぜぇー?」

「あたしも、だってジョーン一番猫ちゃんの世話してるし」

「ポールも猫には「君」とか「猫君」とか呼びかけてたな。」

「…ここに来て6人の人間に囲まれて一週間名無しだったのね…」

ルナがそういった。
わたしが一番お世話って…みんなの食事に合わせて猫ちゃんのも用意しただけだし
その後用足しする習慣があるようだから躾も連動しただけなのに…w
ケント君もアイリーも構いたいときだけ構ってるんだもの、

「名前が必要なら、ジョーン、お前がつけるといいよ、誰も異存ないだろ?」

「異議なーし」

「ってーか早く付けてくれよぉー、呼びてーからさぁー」

もう…困ったわね、オーディナリーワールドの名前をつけるのでさえ
ものすごい時間がかかったのに…

「じゃあ…女の子だし…足取り軽く踊るように歩くから…
 「ジタン」ちゃんってどう?」

ジタンっていうとなんだけど、フランス風に読めばジタンヌ、
ね、なんかこう、ジプシーの踊り子って言うかそんな感じしないかしら?
わたしが我ながら考えた、とちょっと満足に思ってるとルナが

「…そりゃ、ダメね」

…ダメだし食らっちゃった…わたしは肩を落とした。

「ああ、そのよォ、ジョーンの考えた名前がどうのって問題じゃあねぇーんだ」

「うん、ジタンってウインストンのお友達に居るのよ」

「あ、そうなの…? ということは女性?」

わたしが首をかしげると

「…いや、男だ。 男だがそんな名前なんでだいぶからかわれてた。」

ウインストンが応えると

「…そして元ここの職員で…引き抜きでBCに行ったわ」

ルナが言った。
あ、なんか深い事情がありそう。

「そういえば最近彼見かけないね、元気なのかなぁ?」

アイリーが屈託なく振り返る。

「あいつはあっちで看板になるようないい仕事専門だからな
 世界中飛び回ってるさ」

「どんな人なのかしら?」

「…どんなって…ああ、あたしが言っても仕方ないわね、ウインストン。」

「ジタン=ゴロワーズ、フランス系のイギリス人だ。
 女のよーな名前はえらく気にしてるが、その割に本人が中性的でな…w」

「そーなのよ、あたしなんかよりは色っぽいかもw」

「ウインストンの三個下だっけかよぉ?」

「ああ、初めて会ったのは小学校のときだったな、
 フランスから転校してきた奴は英語が余り上手くなかったのと
 その名前でからかわれてたんだ、だがそんなのフランスに居た頃も一緒だ
 いじめられてそのまま大人しく泣いてるよーな奴じゃねえ
 …奴は生まれ着いてのスタンド使いだった。
 能力で相手を凹ってるのを止めに入ろうとした俺にもスタンドの鉄拳が
 飛ぶトコだったのが馴れ初めだな、懐かしいぜ。」

「…で、どうなったの?」

「スタンドなんて知らなかったがジタンのは見える、そいつが殴りかかろうとしたんで
 俺もなんかこう…無意識の防御というか、腕だけだがスタンドが発現して
 それをガードした、「君も仲間か」それが奴の第一声だったな」

「…へぇ…」

わたしが心底から言うと

「同じ能力者って事で急に仲良くなったな、そんな時だよ、
 ポールに初めて出会ったのは」

そこらあたりは皆も知らなかったらしい。

「貴方たちそんな古い知り合いだったの?」

ルナも思わず言った。
そんな時ポールが帰ってきた。

「おや、皆勢ぞろいだな、ルナ、調子はどうだね?」

いつもわたしがおさんどんを受け持つのもなんだろうと
ポールは昼食になりそうなものを…まぁケンタッキーとか
そういうのなのだけど…w
いい匂いを漂わせながら。

「…ああ、ええ、お蔭様でだいぶ楽よ、それよりポール
 貴方ずいぶん古くからウインストンと会ってたのね?」

「…む、ああ、ずいぶん懐かしい話だね、なぜまた?」

「ジタンの話になってたんでな」

「なるほど、私がウインストンとジタン君に会ったのは
 17年ほど前だったかね?
 スタンドという概念が広まった頃だよ、
 河川敷で二人が模擬戦…というか訓練のつもりだったんだろう
 私はスタンドを身に付けて間もなかったが、正直その頃
 「マインド・ゲームス」の使い道に相当悩んでてね。
 ああ、こういう殴り合えるようなストレートな力だったなら
 まだいくらか道も見えやすかったろうに、そう思いながら見てたら…」

「…ジタンの奴がポールに気づいてな、胡散臭そうな顔しながら
 寄って行ってまたいきなりスタンドで殴りかかろうとしたんだ」

「…子供だからっていうのもあるのかもしれないけれど…
 ずいぶん直進的な確かめ方する人なのね?」

わたしが口を挟む。

「…今でもよ…」

ルナが言った。

「街ですれ違う類の奴とは違うけれど、今でも彼初めてであったらまず先に
 スタンドで殴りかかって相手のスタンドを引き出して
 能力を確かめようとするわ」

「結局、それが一番早く判る、そういうことなんだろうね、
 マインド・ゲームスは弱いが一応パンチを受けることくらいはできる。
 で、ジョーン君が今言ったみたいな事を言ったんだよ」

「そしてポールが言ったんだ
 「君たちは、この力を磨いて将来どうするというのだね?」ってな」

ウインストンがポールの口調を真似た、何気ないけど、結構似てたのが
少しおかしかったのだけれど、そこはこらえた。

「私も迷ってた、マインド・ゲームスをどう使うか、あれは
 自問でもあったんだよ、うん。
 ウインストンがいったんだっけかね?
 「悪いことなんて力がなくたって出来るから
  なんか役に立つことに使うさ」ってね。」

「ジタンも気持ちは一緒だったよ。 あの時は無言だったがな。」

「私はそこで初めて自分の能力をちょっと活かせるかも知れないと思った。
 舌先八寸のスタンドの使い道、」

「こいつ、俺たちに向かって
 「では、君たちは成長したらきっといいスタンド使いになるのだよ?
  いいかね? ”Yes”イズ・ジ・アンサー!」」

「…言わされたのね…w」

「ああ、言わされたw 実行能力はない、精神まで支配するスタンドじゃあないからな」

「いつかまた、お互い成長したらまた会おう、その場はそういって私は
 この舌先八寸能力を「交渉」や「約束事」に使おうと私なりに
 勉強しなおしたんだった。」

「でもなんか、ポールのスタンドはホントにいいスタンドだよねw」

アイリーが会話に加わった。
彼女はポールのことを「叔父さん」くらいの感覚で結構慕ってるし、尊敬してる。

「いやぁ、戦いがメインになると途端に役立たずだからね、心苦しい。」

「気にすんなよぉ、俺だって殴る蹴る関係ねぇスタンドなんだしよぉー」

ポールはケント君のその言葉にちょっとうれしそうにすると

「ああ、ジタン君といえば、さっき道で会ったよ、何でも海外の工場まで
 調査に向かってたらしい。」

「本当に世界中飛び回ってるのね」

わたしがそういうと

「そうだね、彼はBCのやり方そのものに全肯定はしないが
 スタンド能力者でなければ出来ない、やれないことがあって
 その為にはここよりBCの方がいいと移って行ったんだ」

「…まぁ奴がここを離れたときのここの状況は…
 ジョーン、お前少しわかるよな?」

…確かに、かなり仕事も閑古鳥ではあった。

「事の大小はあるかもだけれど、でもアイリーやルナや
 ケント君にウインストン、ポールの能力だって
 立派に活用されてここも運営されているけれどね」

「…ちゃんと歯車がかみ合うようになったのは…だがしかし
 ジョーン、お前が来てからだよ」

ウインストンが言った。

「ジョーン、後で一杯付き合え。」

「…えっ?」

とまどうわたしにルナが言った

「諦めなさい、ジョーン、二週間声が掛からなかったほうがヘンだったわ。」

「…ということは皆も…?」

あ、イギリスでは飲酒は18歳からOKなの。
つまりこの事務所の全員…一度は飲みに付き合わされたことがある?

「いやぁ、そんな体育会系な乗りでもねェよ、なんつーか
 ウインストンお得意の「ゲン担ぎ」ってやつじゃぁねーの?」

「ゲンかつぎってーか…いいじゃねーか、バーとかじゃあなく
 パブでビールでも、まぁ飲み友達探しってーか」

「残念なことにお酒はたしなみ程度ってのばかりでね、あたしらは」

「…え、えと…わたしも…」

「何言ってんだ、百年は少なくとも生きてるんだ、
 いける口だろ?」

ウインストン…飲み友達にそんなに飢えてたのね…w
でもそこでポールが、

「まぁ、毎晩はともかくだね、今晩は行って見るといいよ、
 ジタン君がどんな人物かが気になるならね」

「そう、彼ここに勤めてた時代から今でもウインストンと同じパブに
 常連で、彼こそうってつけの飲み友達だからね」

ルナが言った。
ちょっと興味はあるな、

「…ええ、そう、判ったわ、じゃあ…折角ポールが買ってきたものを
 早くいただきましょう、冷めてしまうわ。」

「あ、ジョーンよォー、猫の名前どーするんだ?」

「…あ…」

「話題がすっかり猫から外れてたわね、しっかり考えなさいな」

「…えっと…えっと…じゃあ…猫だし…「リベラ」ってどう?」

「リベラ…か、それらしい名じゃあないかね、」

皆が「リベラ」と名づけられたその子に名前を連発する。
名前をつけられたばかりのリベラはよく判ってないかのように
きょとんとしてた。

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「よぉージタン、出張お疲れさん」

社屋の入り口のところでばったりダビドフと出会った。

「お前はエジンバラだったか?
 帰りの予定が一日遅れてるようだが…」

俺は釘を指すようにダビドフに言った。
こいつ、強力なスタンド使いだがそれだけに無用なトラブルをよく起こす。

「ああ、それなんだがよぉ、エジンバラに奴らが居てよ
 ほら、お前の古巣だ。
 そこに新人が入ったらしくてな。」

「…新人?」

「ああ、女が一人な、年のころは…ウインストンとかお前のダチと同じくらいかね?」

「本当か?」

「何疑ってるんだよ、ホントーだってばよ、ああ
 おれの言葉じゃなくて奴らのところに新人ってトコが疑わしい?」

「…両方疑わしいが…どんな奴かもっと情報はないのか?」

「ちっ、信用ねぇの、しゃーねーな。
 遠目に見ただけだったから詳しいことはわかんねェよ、
 お前がウインストン辺りから聞けばはええなって途中で
 追加調査はやめたんだよ。」

「…そうか、まぁ判った。 プレジデントにはその旨報告しておくよ。」

「ああ、たのむぜ、俺ぁちょっくら疲れたんで他の奴らに顔出したら帰るわ。」

ダビドフがさっさと事務所に引っ込んだ。
多分それ以外にも何かやらかしてきた、やれやれだな…

俺はここの調査員でもあるが秘書もかねている。
報告書なんかは事務所から上がったものを
俺が社長室までもって行って報告するわけだ。

しかしまぁ…一応は報告書の体裁を保ってる奴も居るし
正直これじゃあ判らんって奴も居る。
ただそういった奴ほど強いスタンド使いではあるから
プレジデント(社長)の意向は間違っても居ないのが歯がゆいな。

報告書を手に社長室にノックを。

「ゴロワーズです、入ります。」

返事は大概ないのでそのままドアを開ける。
いつも部屋を暗くしていて、素顔もよく見えないが、
低い、渋い声が響く。

「ああ、お疲れ様…」

とりあえず俺はこれまでに上がったほかの奴らの報告書を…
多少俺の推測も交えて(そうしないと要点すらつかめんものがある)
報告した後、

「私のほうは…依頼のあったC国の工場ですが…
 胡散臭くはあるのですが、正直、奴らもかなり狡猾ですね…
 予定の日数では尻尾もつかませてもらえませんでしたよ。」

核開発や関連施設、物質に関して不正な製造をしている
との政府からの依頼があって、調べていた。

…ただ表向きは普通の製鉄工場といった面持ちだった。

「そうか…まぁ近いうちにもう一度…君か…ダビドフ辺りに
 調査をさせよう。
 結局のところ彼の能力が「核関連」には強いわけだしね…
 多少危険な野犬だが…ふふふ…」

この人は例えそれが狂犬だったとしても意にも介さないほどの
力を…恐らく持っている。
ちょっと身が引き締まる。

「ああ…そのダビドフからの報告なんですが、K.U.D.Oに
 女の新人が入ったらしいんです、それをエジンバラで見かけて
 彼は遅くなって先ほど戻ったようですが。」

「…ほう…」

「私がその辺りも調べてきます。」

「そうだね、君に任せるよ、…まったく君は本当によく働いてくれる。
 おかげでかなりこの会社も評判が上がってきたよ。」

「いえ…プレジデントの人事の才に拠るものが大きいかと存じます…では。」

事務所に戻り、結局は一度上がった報告書の校正をしなおさなくちゃならん。
その場に居る奴や、電話で詳細を聞きなおし…まったく…
自分の報告書がままならねえ…

昼に帰ってきたのに終わる頃には夜だぜ、まぁいつものパブにでも寄って
とりあえず帰るとしようか。

…そういやポールと街で会ったな、エジンバラに行ってて帰ってきてる
って事は…その新人をウインストンが飲みに着き合わせさせる頃だろうか?

いかん、こいつらの下手な報告書にかまけてる暇はないな。
ダメだしだけ記入しておいて…奴らにもう一度書かせるか。
俺は早いとこ仕事を上げて夕方にはパブに向かわないと…
どんな女が入ってきたやら、だ。

物好きな…とも思うんだが…さて…

…ああ、ナレーションはジタン=ゴロワーズが担当した。

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