Sorenante JoJo? PartOne:OrdinaryWorld

InterMission

第二幕 開き

夕方になり何とか仕事を片付けて俺は行き着けのパブに向かった。

引き続き、ジタン=ゴロワーズがしゃべるぜ…。

…まだ奴は来てないようだな、店主のオヤジが

「よう、最近忙しいようだな」

と、声をかけ、俺にトラクエアを出す。
…あぁ、ビールだよ。

世間話もいいかなと思ったんだが、まずは気になったことから聞く。

「最近ここにウインストンは来たのか?」

「…いやぁ、お前さんと違って暇で金もないから…
 最後に来たのはいつだったかね、もう二週間?」

「…新しく女が入ったらしいんだ、でもじゃあ
 恒例の「ここへ強制連行」はまだやってないようだな。」

店の常連なら誰でも知ってる、ウインストンの傍迷惑な習慣だ。
俺もそうやって連れてこられたが、まぁ俺はいける口だったんで
俺独自で常連になったわけだ。

「女ねェ…ああ、あれかなぁ。」

オヤジが思い出してるようだ

「知ってるのか?」

「ここに来たわけじゃあないんだがね、でもホラ、K.U.D.Oの
 入ってるアパートに女が新しく一人出入りしてるからね。
 大人しそうな、物静かな女なんだが、体が結構鍛えてあって
 …どういう女なんだろうなって。」

…俺もかなり想像に困った。
マッチョなのか?
でも大人しい?
ジョークにしかならんような…

まぁいい、もう一本トラクエアを受け取って
(パブで出されるようなビールだ、ビン一本がグラス二杯ぶんとか
 そんなささやかな量なんだ)
俺の指定席に向かったそのときだ

「おお、ウインストンじゃあないか、またなけなしの金で飲みに来たのかい?」

オヤジがそう声をかける。
俺がまだK.U.D.Oに居た頃もろくな仕事がなくて収入も薄いのに
…なんていうかビールで食事を済ませてた時期があったものさ、
惨めなんだが、まぁいい思い出かもな。

…女だ、ウインストン、やっぱり連れてきたな。
……なるほど…大人しそうな穏やかな表情だが
体は引き締まってて相当「きれいに」鍛えてある。
混血なのかやや浅黒い肌が更にその体を端整に見させた。

…正直ジョークじゃなくてよかった、と心の底で思った。

「…よぉ、ジタン。」

指定席(立席だがな)に向かっている俺にウインストンが声をかける、
女も俺が「ジタン」だと話には聞いてたんだろう、
「ああ、この人がそうなんだ」というにこやかな顔で俺を見た。

「お、トラクエアか、いいの飲んでるな…しかし俺もトラクエアだ
 オヤジ、5,6本頼むぜ」

「…なんだ、お前もずいぶん羽振りがいいじゃあないか?」

俺は素直にビックリしたんで声をかけた。
トラクエアは最高級とまで言わんがそれなりに高いビールだ。
あの頃は一番普及品のを、しかもちびちびと一瓶を二人で分け合って
飲んでたもんだが。

「K.U.D.Oもついに開眼…ってな、やっと歯車がかみ合ったのさ
 ああ、ジタン、俺が連れを連れてくるって事は判るよな?
 ナンパじゃあないぜ。」

俺の指定席はウインストンの指定席でもある。
席に移動しながら、俺に女を意識させた。

「ジョーン=ジョットよ、宜しく。」

女が手を差し出した。
なんだ、礼儀も心得てるじゃあないか、ルナのときは相当ぶっきらぼうで
明らかに俺を警戒してたからな。
俺は右手にビンを持ってたんだがそれを席において
俺も名乗って握手に応じた。
…さて、早速だが…
俺のやり方はウインストンも知っている、店の片隅で普段なら
誰も俺たちのことを気にしないんでルナやケントをこいつが
つれてきた時もそうした。

本体同士が握手をしたまま俺のスタンドが女に向けて拳を振るう。
…女だからって油断してたら痛い目を見るのがこの世界だからな。

「…わたしが珍しいのか、ウインストンが久しぶりに来たからか
 ちょっと注目浴びてるみたいよ?」

スタンドの拳が女の顔の前で止まる。
くそ、確かに他の常連客の視線がジョーンに注がれてる。
女は…ジョーンは俺が本気で殴るつもりじゃあないことも見抜いたようで
スタンドを出しもしなかった。
…こいつ相当できるな…

更にジョーンは俺の握手している右手の袖にいきなり目を近づけた。
俺がちょっとビックリすると

「…貴方…工場ってどんな工場だったの?」

「…やっぱりポールから話は筒抜けなんだな、
 「表向き」ただの鉄工所ってところさ、今回の調査は失敗したが。」

「どんな」調査依頼だったかは話してない、だからこそ
次のジョーンの言葉に俺は心底驚いた。

「…そう、ジルコニウムとハフニウムのコロイドが付着してるから
 核関連施設なんだって思ったけれど。」

…なに!?
俺は握手している手を解いて自分の袖を見た…見当たらないぞ…

「…普通に肉眼では見えないと思うわ、マイクロメートル単位のコロイドだもの。」

「お前…本当に分子一個でも見えてそうだな…」

ウインストンが飲みながらジョーンに話しかけると

「ええ、見える…というか判るというか…まぁ見える…
 って言って置こうかしら、オングストローム単位でね」

オングストロームは原子一個の単位だ。
…こいつ……
辺りに「ゴゴゴゴ」って重い音が響くようだった。

「おい、そのジルコなんとか…とか…やばいものなんじゃあないだろうな?」

俺に言ったともジョーンに言ったとも取れるウインストンの言葉だ。
俺はこのジョーンって女にすっかり驚いちまって声も出せない。
…後で専門家に調べさせたんだが、確かに俺の袖には
大量の鉄粉とともにジルコニウムやハフニウムが付着していた。

「大丈夫よ、放射性物質じゃあないわ、放射性同位体でもない。
 ジルコニウムは中性子吸収が低いから原子炉の素材に
 ハフニウムは中性子吸収が高いからその制御棒に使われる素材なのよ」

「…へぇ、」

ウインストンは多分よく判ってない、話半分で聞いてる。
きっと彼女はウインストンに言ってるようで俺に言ってるんだろう

「両方とも割りと豊富に地殻に含まれるんだけど…
 同族元素で一番分離が難しいとされている両物質が
 それだけ純度高く別々に付着してるとなると
 …まぁ多分用途は核関連でしょうね。
 ジルコニウムそのものは健康に害は殆どないわ、
 化粧品にも使われてるくらいだから。」

「…ハフなんとかってのは?」

「そっちは耐火ガラスの原料として有用ね。
 ハフニウムも特に健康に害はないわ。」

驚いた、この女…

「ジタン、オメーも驚いてないで何かいえよ、調査の突破口が
 こいつから開けてショックなのか?」

「あ…いや…マイクロメートルの金属の塊なんて…見えるもんじゃあない。
 そこの所は別段ショックじゃあない…」

「ビールって余り飲まなかったけれど、結構美味しいものね。」

ほろ酔いって感じのジョーンは改めてビンを開けて
ウインストンと乾杯した後、俺にもそうした。
一気に飲み干して、美味そうに呑んでる。

「ジタン、貴方は喫煙者? 嫌煙者?」

そう俺に聞いてきた。

「…いや…どっちでもない、俺は吸わないが、
 別にそばで吸われても気にしない。」

「…じゃあ、失礼するわね。」

彼女はタバコのビニールテープを解いてふたを開け、
底を軽く叩くと3,4本タバコがせり出す。
その中で一本余計にはみ出たものを口でくわえて取り出した。
細いタバコで、それほど重いタバコじゃあない。
ウインストンがライターを渡そうとすると、
軽く断って、普通にライターで火をつけるように
左手で先を隠し(風で火が散らないようにする動作だ)
右手指先を先にかざすと…

そこで初めてスタンドの指先が見えた。
火を使うスタンドではないようだが、
どうやら空気分子かタバコそのものの分子を
操作して熱を発生させたようだ、端から見ると
マッチかライターで火をつけたようにしか見えない。
…スタンドを隠す心得もよく出来ている。

…個人的な感想なんだが、一連のタバコを取り出し
口にくわえ、火をつける動作も相当様になってる。
こういうのに嫌悪を示す奴も居るんだろうが、
俺はウインストン流に「粋な女だな」と思った。

「お前、スタンドが健康管理してるから、そういうのは嫌わないのか?」

ウインストンが言うと、ジョーンが応えた。
スタンドが強い意志を持ってるらしいな。

「…余り吸って欲しくないって言ってたわ、だからまぁ…
 一箱消費するのにひと月くらい掛かっちゃうけれど。
 ねぇ、ウインストン。」

ジョーンが煙で輪を作った。
スタンドじゃあない、こいつの「技」だ。

「…この輪の中央に貴方、タバコの煙を操ってダーツのようにできる?」

ジョーンが何気に微笑みかけたが、「風使い」としての力量を
派手なほうではなく、細かい制御が出来るか? という意味だ。
俺もウインストンもスタンドは派手に使うほうに注力してたから
ミリ単位で煙(風)を操る、何気なくこれは難しいぞ。

「…やったことはないが…やってやるぜ?」

奴も自分のタバコに火をつけてジョーンの作った輪に
煙を尖らせて輪を通過させた。

「…なかなかだが惜しかったな、中央は外れてたぜ?」

俺がからかう。

「そうかよ? 輪が一個じゃあよく判らんな。」

おいおい…今のは確かに中央から外れてたぜ?
この女、何気なくだがウインストンを鍛えようとしているな、
…喫煙もその為か?

ジョーンは煙を三回、吐く息の量と勢いを調節しながら
三つの輪がある程度の距離でそれこそダーツの的のように
重なるようにした。
中央のは本当に小さな円だ。
…相当吸いなれてる?
…わからん、やっぱり結構吸う奴なのか?

「輪が重なる瞬間に真ん中に、」

挑戦されて後に引くことはウインストンのプライドが許さない。
この女、ウインストンをどう誘導するかもこの短期間で心得てるぞ?
…ひょっとして見た目の年じゃあない?

ウインストンは煙を操ってダーツにするが、やっぱり中央は外れる。
輪も崩れた。

「…お前もまだまだってところだな。」

俺がそういうと、ウインストン、ムキになったぜ?
ふふ、お前はそういう奴だ、そこんところ、だが嫌いじゃあないぜ?

「ジョーン、ここじゃあなんだ、今度どっかできっちり決めてやるぜ」

「程ほどにね、オーディナリーワールドに怒られちゃうわ…w」

オーディナリーワールド…そいつがこの女のスタンド名か。
「何気ない普通の世界」
…だがその能力はどうやらかなり強力なようだぞ…
分子を操り火をおこす、その分子が直接見える、
…そして人を上手く誘導するこいつの人柄…

なるほど羽振りがよくなったのはこいつの力だな。

「…ともかく、高純度のジルコニウムとハフニウムの件は
 正直助かったよ、何度も何度もあの工場に
 立ち寄らないとならないのかとちょっと辟易してたからな。」

C国だぜ?
同じ北半球ってだけでほぼ裏側だもんな。

「…いえいえ…w」

俺はトラクエアをもう一本注文し、ジョーンに差し出した。

「ささやかだが、礼だ。 ありがとう。」

「いいな、しかし流石だぜ? ジョーン。」

ジョーンはにっこり微笑んで素直にエールを受け取った。

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二時間ほど過ぎた。

…ジョーンはそれから一本もタバコは吸わなかった、だが
かなり飲んだぞ、普段余り飲んでないといってたがどうやら真実のようだ

潰れかけてる。

「…おい、勢いのまま飲ませたようだが…そろそろやばいんじゃあないのか?」

「…そうだなぁ…余り飲まないのは飲むと歯止めが利かないからなのか…」

「…俺もそろそろ引き上げるよ、ちゃんとつれて帰れよ。」

「…手伝ってくれてもよくねェか?」

ウインストンが思わずこぼした。
ジョーンはかなり筋肉のある体だ。
引き締まってるから印象はそうでもないが、恐らくかなり重いぞ。
まともに歩けそうにないし…まぁこいつ自身にも興味はある、
手伝ってもいいか。

「…歩けるか?」

俺が声をかけると

「…ん…酔いは醒ませるけれど…でもねぇ…折角「酔った」のを醒ますのもねェ」

酒を楽しむ性格のようだ。
こいつ、「嗜好品」ってものを理解しているというか。
無理に飲みに来させられた趣旨返しの意味も含んでるんだろう。

結局パブを出て、ウインストンの背中に彼女は納まり、
俺は力の抜けた彼女がずり落ちたりしないよう支えたり補助しながら
K.U.D.Oのあるアパートにつきあった。

「…参ったな…
 人生経験ある奴だからもうちょっと計画性ある奴だと思ったんだが…」

ウインストンがこぼした、こいつ、ジョーンに仕返しされてる
って発想はないようだな、ちょっとおかしくなっちまって
つい笑っちまった。

「ははは…だが、酔いつぶれたとはいえ女を背中に背負ってるなんて
 ちょっとした役得じゃあないのか?」

かなりグラマラスだからな。
そう言うと奴も背中に押し付けられてる胸の感触が気になったんだろう。
だが浮かせようとしてもちょっと隙間が開いたくらいじゃ
…この女の胸のサイズじゃ離れてくれないぜ?

「…俺にとってジョーンは手の掛かる姉のよーな存在だよ…」

「…ふふ、そのようだな。
 …姉…か、失礼でなければ…本人は潰れてるな…
 ウインストン、ジョーンは幾つなんだい?」

「…それが俺にも判らん。
 スタンド効果やらなにやら…どうやら100年以上生きてるらしいが…」

「…百年…?」

軽く酔いを醒ます一撃だ、ウインストンの背中のジョーンをつぶさに見る
…どう見ても…20代後半…肌の状態はかなりいい、
だからもう少し若くも見える…

「…一体どういうスタンドなんだ?」

俺も混乱したんでついストレートに聞いちまった。

「…それがよぉ…判りにくいんだ。
 判ってて教えないんじゃあねーんだ…
 だが何ていうかな…物理的なことならほぼオールマイティーというか。
 あ、だが「感覚的に」は殆ど操れないらしい、
 さっきもホラ…何とかって元素の話してたろ?
 やけに詳しいのは、こいつが物質の組成とか
 そういうのを知ってないとすばやく操れないんだとよ。」

「…なるほど…そう考えると強いんだか弱いんだか判らんスタンドだな」

どこかの現場にたどり着いたとして、その場にある元素を全て列挙
できなければフィールドをフルに活用できないって事だからな。

「…なんだったら事務所まで来いよ、ルナが一番こいつの能力判ってるぜ」

「ルナがBCの俺にべらべらしゃべるとは思えんな。」

苦笑の面持ちで俺が言うと、ウインストンも笑った。

「だったら、戻って来いよ、こいつが来てから…
 急に歯車がかみ合ったんだ。」

「…それには応えることが…まぁ今は出来んよ、
 判ってるだろ?
 …だがまぁ…そうだな…何年かして
 好調が続いてるようなら、考えさせてもらうよ。」

そんな話をしてるとジョーンが俺の頭に手をかざした。
スタンドの指先も見える

「…なっ…」

いくら信用の置けそうな女とはいえ、俺は流石に躊躇して
自分のスタンドを出した。
身構えようかちょっと迷った。

「…どうかしたのか?」

ウインストンがこっちを見た。
背中のジョーンが何してるかはこいつからは見えないからな。

「…さっき見落としたのよ、髪の毛に…テクネチウム99が…
 極少量だけれど…ああ、本当に原子数個って感じだけれど…」

「問題なのか?」

「…放射性物質よ…それほど深刻ではないけれど…」

それを聞くとウインストンは俺から一歩引いた。

「俺は放射能とニンニクは苦手なんだ…ッ」

こいつの「何々とニンニクは苦手」っていうのは
口癖だ、実際にはこいつニンニクそのものは
嫌いじゃあないんだが、東洋の食べ物で
どうにも苦手なものがニンニクたっぷり使ってるらしい
そいつの匂いが嫌いだそうだ。

「ああん…だからオーディナリーワールドで無毒化しようと思ったのに…」

「いや…心配には及ばん。」

俺はそう言った。

「Speaking Words of Withdom!」

スタンド効果を使った。

「ジョーン、君の能力ばかり聞くのではフェアじゃあない、
 俺のも教えてやるよ。
 俺のスタンド…「レットイットビー」の能力は
 「現状維持」もしくは「劣化」を扱うスタンドだ。」

「…あら、わたしのスタンドに少し似てる…
 じゃあ、テクネチウムは安定物質になったわけね…ルテニウムとか…」

「…ああ、すまん、結果何が出来るとかそういうのは俺にはよく判らん、
 ただ放射性物質で…何が出てるのか判らんが…不安定だというなら
 過程のエネルギー終始は無視して安定させた。」

「…テクネチウム99は使用済み核燃料に含まれるわ。
 だから貴方の調査した工場は思いっきり黒ね…
 ちなみに放射性物質はイコール放射能じゃあないのよ? ウインストン。
 放射能って言うのはあくまで「そういう現象を持つ」って意味。」

「お前の能力と一緒でよく判らんよ。」

酔っ払ったジョーンを軽く扱い、事務所の階段を上る。
って、ここまで来ちまった。

「上がってくか?」

「…幾らなんでもそりゃまずいだろ…」

「…だが…こいつ背負って階段は…正直ちょっときついんだがな…」

確かに力が抜けた人間って奴は重い。
相手がジョーンとあっては尚更だ、
酔っ払ってていきなり動くかも知れんし…やれやれだな…

懐かしい扉だ。

ウインストンの代わりに俺が開けてやる。

「おお、お帰り、ずいぶん飲んだようだね?
 おや、これは珍しい。」

ポールが声をかけるが事務所には他のメンバー全員居た、

「ああん、ジョーンが酔いつぶれたことを先に言おうか
 ジタンが来たことを話題にしようか迷っちゃったぁー」

アイリーが言うと

「今ジョーンを先に言ったじゃない…それにしても…
 「何の用?」って言いたいところだけれど…
 ジョーンがその状態じゃあ「わざわざごめんなさいね」って感じね…」

ルナが思いっきり呆れてる。

「あぁー、折角帰ってきたら酔いつぶれてンのかよぉー、
 これどうにかして欲しかったんだがなぁー」

ケントが床の下にぶちまけられてるカップを指差した。

「…いつの間にか猫を飼ってたのか、ずいぶんおいたが
 過ぎるようだが…」

ジョーンがウインストンの背中から降りてよたよたと
その割れたカップのところに手をついた。

「…ちょっと、ジョーン?」

ルナが、つまり俺に能力を見せる気か?
って感じに声をかけた。

「いいのよ、彼の能力は教えてもらったわ…お返ししなくちゃあね」

ルナが俺を見た、俺はルナやケントには能力を披露してない。

「…ひょんなことだが…俺の抱えた仕事に大きなヒントをくれたんでな…」

「…そう、でもそれじゃあジョーンが能力を披露する義理はないわけだけど?」

「そうだな」

「…いいじゃない、減るものじゃあないし」

「あたしたちの安全が減る可能性があるんだけどね」

「わたしが守るわ…あなた達を……オーディナリーワールドッ!」

彼女の上半身から一瞬甲冑をまとったような女性型スタンドが現れ
カップを殴りぬけるとその破片やら何やらが飛びながら
元に組みあがってゆく。
俺のほうに飛んできたんで手で受け止める。

…確かに割れてたのに、元に戻ってる?

「正確には「分子一個が欠けている」状態に「変更した」のよ、
 …直したんじゃあないわ」

ああ、ばらしちゃって…という顔をルナはしたが、俺にはまだ良く判らん。
なるほど、ジョーンの能力はルナが一番よく知っている、というわけだ。

あのつっけんどんで寄らば切るといわんばかりのルナとずいぶん短期間で
仲良くなってるようだが…。
それも「歯車がかみ合った」という事なんだろう。

「そこの棚にあったものだわ、ちょうど貴方がいい位置にいたから
 そっちに投げたのよ、置いてくださるかしら?」

俺の立ってる位置のすぐ脇にある棚に、なるほど、同じ柄の
ソーサーだけが置いてある。
俺がカップを戻すと

「あらあら、床も傷が入っちゃって…」

ジョーンの指とともにスタンドの指がそれをなぞると
…こういうことか?
「木の分子一個傷がついた状態に「変更した」」

…俺のスタンドに「似ている」と言ったんだ、この女は。
「真逆だ」ではなく「似ている」と…
今はこいつは「治すほう」に力を向けたが…
そういや俺の髪の毛についてた放射性物質も「無毒化」するとか
言ってたな…

…なるほど…この女…オールマイティーだ。
だがしかし対象の組成が分かってないとっていうのも納得できる。
「知らんものはやれん」
そういう能力なのだ。

強いのか弱いのか判らん…

だが何気なく「わたしがあなた達を守る」と言ってた。
こいつは自分のことをよく知っている。
…いや、言葉を変えよう、
こいつは自分に何が出来て何が出来ないかをよく判っている。
自分に出来ることは何でもすると言っているのだ。

優しい女だな。
ずいぶん悲しい女とも思う。

百年生きてこのお人好しっぷりだ。
相当苦労したんだろうな。

「…じゃあ、おれはここでお暇するよ、」

ちょっと長居が過ぎた…微妙にこいつらが羨ましく思えてきた。
感化されないうちに帰らなくては。

「…帰っちゃうの? 久しぶりにゆっくりしていけばいいのに」

相変わらずアイリーは悪意ではなく思ったことを純粋に言ってのける。

「…まぁたいしたお構いも出来ないけれどね、調理係がこの有様じゃあ…」

ルナのお得意の毒舌、お前も調理くらいできるようになれよ…

「ああー、帰るんならよォー、オメーの会社の奴らに
 あんまヘンなちょっかいかけんなって言ってやってくんねェ?」

俺も知っている、すれ違い様に一発分殴ってやったとか
バカいってるからだ。
人ごみの多い場所でしかやってないから、誰がやったかもわからない

「…言ってるんだがな…、スマンがその辺はいつか
 きついしっぺ返しをお前ら自身の手でやってくれないか?」

「ちぇー」

「…まぁ、ジョーン君が手間をかけさせたね、有難う。」

ポールが握手を求める、俺もそれに軽く応えて

「じゃあな、ウインストン、羽振りがよくなったんなら、
 またパブで会おうぜ」

「おう」

俺は扉を閉めて…家に帰ろうかと思ったんだが…
プレジデントは会社住まいだから…
この女のことを報告しよう。

とにかく経験豊富で能力は今ひとつつかめないが
この女の出現でK.U.D.Oは変わった、と言う事実だけはな。

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