Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World

Inter Mission 2

第一幕 開き

リベラの容態はそれから微妙に悪くなっていってるみたいだわ。
ア・フュー・スモール・リペアーとオーディナリーワールドで
安定させてはいるけれど…

語り部はわたし、ジョーンよ。

昨日のデパートでの一件からわたしはとりあえず休み
ルナが様子を見ながら朝方にわたしとバトンタッチ、
朝に事務所に看病場所を移して
わたしが電話番をかねて留守番。

捜査の際に怪我や修理が出たときには
緊急の場合以外は事務所まで我慢してもらう形。

昼からは留守番に起きたルナも参加して
二人で様子を見る。

…ルナは自分の行動からリベラに怪我をさせたという気持ちが
どうしても拭い去れないし、
わたしは普段からリベラに甘いのが原因だと拭い去れない。

リベラは家猫が具合の悪いときにいつもそうであるように
ただじっと寝ている。
鼻も乾いているし、朝少し食べて以来水すら口にしない。

「…まいったなぁ…あたし子供の頃犬飼ってたんだけどさ…
 ホントこういうときは気が気じゃあなくなるのよね…
 ましてこうなった原因がどうあれあたし達にあるわけだし…」

時々リベラが曲がった尻尾をパタパタさせて寝ている猫様ベッドを
叩くようにしている。
犬ならともかく、猫がこれをするときは気が高ぶってる証拠。

具合が悪いことに苛立ちを覚えてる。
でも気力がわかない。

結局、その日は皆もちょっと重い雰囲気で一晩を過ごした。

わたし達は女部屋に戻り、わたしがまず少し仮眠を取って
夜中過ぎにはルナと交代した。
生活を朝型に戻さなければならないしね。

交代のときもルナは眠らなければならないのが辛いという感じだった。

リベラは眠りと昏睡の間を行ったり来たりの状態。

わたしに出来ることといえば、重要器官で繁殖し機能不全に
陥らせようとするウイルスをオーディナリーワールドである程度
制限することだけ。

頑張って、リベラ…

朝になって、ルナが起きるととりあえずルナに少し見ててもらって
わたしは朝食を作る。
リベラの快気も願ってリベラの分も作る。

皆で事務所に向かい朝食、やっぱりリベラにはまだ食べる元気はないみたい…。

事務所で静かにそれとなく過ごすと、依頼の電話が掛かる。
ちょっと激しそうな依頼内容で、怪我の可能性がある
わたしが夜中過ぎから起きている、ということで
少し転寝も出来るだろうからとルナが皆と出かけることになった。

ポールが用事ついでにお昼は自分が何か買ってくると言って出かけた。
…いいのだけど、ポール、あなたってケンタッキー一択なのよね…

一人になって一時間ほど過ぎた頃だろうか、テレビだけが小さく
しゃべっている室内で、それまでただぐったりしてたリベラが体を起こした。

「…リベラ?」

とはいえ、まだ具合が悪い…というか体に痛む箇所があるのだろう、
わたしが頭を撫でようとすると嫌そうに興奮して猫パンチが飛んできた。

オーディナリーワールドが出てきて猫パンチを手の甲で受け止める。
彼女は「概念上の装甲」とはいえ、鎧をまとってるから痛みも傷も
わたしには伝わらない、

その時だった。

リベラの背後に何かが沸き立つのをわたしは見た。

「…! リベラ…貴女…!」

それはスタンドだった。
形容しがたいデザインだけれど…一応頭があり
胴があり…手というか前足というかがあり…
という感じでヒトとも動物とも取れない…
大きなサイズのスタンドではないし(それこそ中型犬くらいだろうか)

リベラが何か文句をつけたそうに口を鳴らすと
スタンドが声を…というか…
ギター演奏をテープでとって逆回転させたような…
うぅん、これも形容しがたいけれど…

とにかく、猫の声を特殊変調したような「音」がなる
思わずスタンドを見ると…

急にわたしに抗いがたい眠気が襲ってきた。
以前の犬のスタンド「スタンド・バイ・ミー」のように
魂が抜けるとかじゃあないみたい。

…ああ…判りかけて…きた…

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「ちょっとジョーン? ジョーン!?」

次にわたしが目覚めたときには、ルナがわたしを揺り起こしていた。
皆もいる。

うっすらと目を開けたわたしに

「ほら…呼吸殆どしてないけど体温はあるし大丈夫だって、あたしいったじゃないのさぁ」

以前エジンバラへ向かう列車内でも寝たけれど、列車の揺れがあるから判りにくくて
わたしの寝るときの呼吸の調整はこのとき皆が改めて知ったらしい。

「…ほんとだなぁー、おい、ジョーン大丈夫かよぉー?」

「なんだかんだ看病で疲れたのか?」

ケント君やウインストンもわたしに話しかける。

…どのくらい寝てたのだろう?
テレビ…意識を失う少し前にやっていた次の番組をやっている。

小一時間ほど?

…にしてはやけに気分が優れている。
起きようとしたわたしの腰の上にリベラは寝ていた。

「…リベラ…?」

「ア・フュー・スモール・リペアーで見たけど、心身に乱れがないわ、矢に選ばれたのかも」

わたしがリベラのご飯皿を見ると空になってる。
ほんのちょっとも残してない、ということはリベラ的にはまだ食べたい、という意思表示と
わたしは知っている。

「…じゃあ…リベラは正式にスタンド使いに…」

わたしが言うと、

「リベラのスタンドを見たの?」

アイリーが聞いてきた。

「…ええ、そして多分わたしはその…」

と、そこまで言って、ポールが帰って来た。

「ん、皆勢ぞろいだね、リベラ君は元気かな?」

寝ているリベラにいい匂いのする鶏肉の加工品なんて持って近づいたら…
案の定リベラはそれに反応して「ちょうだいよー」って感じに紙袋に
手を出してきた。

「おやおや、すっかり元気のようだが、これはイカンよ。」

ポールが紙袋を引っ込めると、またリベラは何か文句を言いたそうにして…

「いけない!リベラのスタンドと目を合わせてはッ!」

皆、え? という顔をしたが、とりあえずわたしの言葉に
リベラから顔をそらしたけれど、ポールだけは好奇心が勝ったのか
固まったのか、リベラのスタンドを見てしまった。

…どさっ…

ポールはその場に倒れて寝てしまった。
リベラは紙袋を開けようと前足でかりかりひっかいてる。

「…催眠効果?」

ルナが恐る恐る言うと

「…ええ、でもどうやら猫のように浅い眠りのよう。
 ただ、深く寝たときと同じくらいの回復感があるわ…」

「おいおい…完全こいつ「お猫様」になったな…」

ウインストンがそういいながらポールを揺り起こすとわたしの読みどおり
ポールはすぐ起きた。
目覚めも悪くないようだし、これもほぼ読みどおり。

「…まぁ、スタンドが見えた瞬間目隠しすればいいよね」

アイリーが言う、

「それで防げるかしら…」

ルナが疑問を持つ。

「…たぶん…防げると思う。 ただ、目を見て二秒以内かな…」

「ギリギリね…」

「まったく、貴女は本当に手の掛かる子だわ…
 わたし達の前では効果は使わないようにこればかりは躾けないとね…」

「ジョーンに出来るかよぉーw?」

ケント君がからかう

「ケント君やる?」

わたしがそういうと、彼は困ったように笑いながらわたしに席を譲るかのような
手を差し伸べ「あなたがどうぞ」というポーズ、貴方も、仕方のない子ね。

「まぁ…あたしも躾けには参加するわ、犬方式しか知らないけど、
 スタンドを操れるならそれなりの猫の限度も越えるような自制心は持ってもらわないとね」

とりあえずわたしが急いで女部屋の冷蔵庫から魚を持ってきて
軽く火であぶった後ぶつ切りにしてリベラに与えた

わたし達の食事用だったのだけど、仕方ないわ。

「貴女のスタンドは「アイム・オンリー・スリーピング」よ、リベラ…」

わたしがそういいながら彼女の頭を撫でると、ちょっとだけ彼女は
わたしを見た。
何か言いたそうな目と顔と動きと、そして空気でまた食べ始める。

「受け入れたっぽいね…w リベラにぴったりのスタンド名かもw」

アイリーが笑って、一安心というか、わたし達も昼食に入った。
ルナが思わず食卓でこぼす

「それにしてもポール、あなたはケンタッキーしか買ってこないわね…」

ルナも思ってたのね…w

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午後になる。
昼下がりのアフタヌーンティー。

さっくりと焼き上げたクッキーにオーディナリーワールドで
不純物と余分なミネラルを除去した水で紅茶を入れる。

とりあえずリベラももうすっかり落ち着いたみたい。

ポールがポストから郵便物を色々持ってくる。

この一週間ほどでもウインストンが携帯電話を新規契約、
ルナもつい最近同文。

依頼解決のお礼なんかも来るし、それで喜んでいると
光熱費などの請求でポールが少し渋い顔。

あと、これは外に漏らさないようにしているのだけど
アイリーとケント君にはちゃんとご両親が居て
手紙でやり取りをしている。
(アイリーは電話もしているみたいね)

なぜ漏らさないかって言うと、やっぱりほら、ね。
スタンド使いの普通の家族っていうのが知れると
…特にもう最近は本格的にまずくなってきてるし。

そういえばあの日…
わたしが一人きりで放浪を余儀なくされたあの日以来
故郷には帰ってない。

わたしの両親や弟妹はその後どうなったのだろう。

5年前イタリアに戻ったときも…怖くて確かめられなくて
故郷は遠くから見守るで済ませてしまった。
すっかり現代の「小さな町」になっていたということくらいしか
確かめられなかった。

物思いにふけっていると、ポールが

「おや、ジョーン、君にだ。」

彼が一通の封筒をわたしに。
…一瞬そんなことはありえないとわたしは思い、そして
そんな表情をしようとしたのだけど、普通に受け取った。

…名前はフランス人…?
でも正直覚えのない名前なのだけど…

開けてみると…わたしはすぐそれが誰から来たものなのかは判った。
写真が添えてある。
一見普通のベネツィアの風景。
でもそこは波紋の修練場。

思わず笑みが出る。

手紙の内容はフランス語でイタリア旅行のことを書いてるって内容。
でも…そこにはちゃんとメッセージが残してあった。

ここまでする必要を感じたってことか…判ったわ。

「フランスの知人がロンドンに来るみたい、しかも手紙が届く今日に合わせて。
 …ちょっと出かけてくるわね。」

わたしがそう言って、でも手紙は置いておいて
女部屋でちょっぴり支度をして出かけた。

正直皆は驚き半分だろう、

「ジョーンにも知り合いが居るんだね」
「そりゃ、居るだろうさ、それなりに長く生きたのなら尚更ね」

そんな会話が聞こえてきそうよ、でも手紙をおいていったのには意味がある。
ルナだけがやはり懐疑的にみていたから。

ウインストンも微妙に怪しく思うタイプだろうけど、でも冷静に考えて
わたしに連絡を取る知人の一人も居るだろうと思うタイプ。

ルナは違う

ルナはわたしがほぼ完全な孤独であると知っている。
教えたわけではないけれど、知っている。
だからルナだけに、わたしが何をしに出かけたか、ヒントを。

…普通にアパートを出るわけにいかない。
わたしは裏路地へ出られる窓から路地に飛び降り、
更に家の隙間を縫いながら部屋から持ち出した
先日買ったスーツに着替える。

帽子もかぶって、縦ロールは崩し、ソバージュっぽいウエーブの髪とする。

通りに出た後は適当に眩しそうに目を隠しながらサングラスを購入し
それを掛け、また路地を縫いながら目的の場所に向かう。

目的場所はなんてことはない、普通のカフェ
そしてその場に居たのは、変装をした…彼だ。

「やっぱり誰か…あるいは貴方のプレジデントに監視されてるのかしら? ジタン」

なるべくささやくように、待ち合わせの友人にそっと話しかけるようにわたしが言う。

「…完全に撒いたけどな、やあ、ジョーン。
 君なら判ると思ってたよ。」

ジタンはわたしがドジを踏むはずはないと確信しているよう。
それはちょっと過信と思うのだけど、でもまぁ、カフェの待ち合わせの友人が
ファッション雑誌を見て談笑するような感じで彼の持ってた雑誌を
見せてもらうと、そこにはマイクロフィルムが。

ジタンは何も言わない、マイクロフィルムに何枚もの文書を写していて
文字のサイズがマイクロメートルになってようとわたしになら読めるということ。

ええ、確かに読める。
それは報告書のようだ。

ええ、わたしの「系譜」に関する報告書。

一見ファッション雑誌の内容を話し合ってるようにそう話しながら
時々小声で会話をする。

「…貴方個人としてはこれを「系譜」と思う?
 それとも「わたし一人の歴史」と思う?」

「…どうかな…君が教えてくれるとも思えんが、答えを聞きたかった。」

「…多分貴方は貴方の望む答えをわたしが言ったとしても
 プレジデントには報告しないわね、「証言」だけでは
 「証拠」にならないことを貴方はよく知っている。」

「…当たりだ…だが心の決着っていうかな…」

「わたしが生まれた年は覚えてないの、これは本当。
 今が何年で生まれた事がどういう意味を持つなんて
 貧しい農村には必要のない情報だものね
 ただ、後になって勉強してから、知ったけれどね」

ジタンは黙って聞いている

「わたしの生まれた年は…」

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ナレーション変わるわ、ルナよ。

怪しいってモンじゃない。
今まで断片的に聞いたジョーンの過去を照らし合わせても
知り合いはいたとして連絡を取り合うほどの仲なんてありえない。

横暴に聞こえるかもしれないけれど、あたしの勘はそういった。

ジョーンは手紙を女部屋においていった。

あたしに調べてもいいって言ってる。

これも横暴に聞こえるかもしれないけれど。

フランス語は大学で少しやった程度。
辞書を片手に手紙を翻訳する。
…でもやっぱり、偶然ジョーンの居所を知り、
連絡ついでにロンドンに寄るから会おう、的な内容でしかない。
手紙の相手は女性を装ってるけれど…女性かしらね
…判らないわ

数分悩んで手紙を持ち上げ天井を仰いだその時だった。

かすかに光る手紙の文字の部分。

「…?」

一見ただの手紙、でもその文字のところどころに
ホンの小さな穴が開いている。

「…これ送った奴はシャーロキアンかしらね、謎は解けたわ。」

あたしは余裕の笑みでこの針穴を見るのによいように加工した
ライトテーブルでルーペをかざす。

「…ジタンか、なるほど、文面にはないけど、隠れて会いたいって言うなら
 調査があらかた終了して…ストレートに報告するには判断に迷うから
 見てくれって事かな…」

…あたし? いえ、別にシャーロキアンではないわ。
ただ、知ってただけよ、この暗号トリックをね

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「そうか…」

「信じる信じないは貴方に任せるわ。」

ジタンは考え込んでいる。
わたしは雑誌の違うページもめくりながら

「わたしと同時代を生きたバチカンの司祭の中に…
 記録末梢されてるかもしれないけれど…
 居るはずよ…F=F=Fって言うのがね」

「F=F…エフ…」

彼の表情が変わった。

「既に当時の社会背景も調べたの?」

「いや…ああ…なんでもないよ、ちょっと気になったことがあったんでね」

「教えて、ずるいわ、わたしの過去は調べたくせに…w」

「いや…プレジデントの名前が頭文字で同じなのと…
 そういやそもそも1400年代を調べろと言い出したのは彼だった。
 君のフルネームを知って、急に笑い出してね。」

「同じ…そう、フレデリコ=F=フェルナンド、ミドルネームはFのまま」

それを言うと彼は驚いた。

「いや…、フレデリコではなくフレデリックだが…なぜ判った…」

「ふふ…ふふふふ…あはは…w そう…w フレデリックね…w」

わたしが急に笑い出したのをジタンは少し恐怖したみたい、
そりゃ、そうよね、わたしの名を知ったプレジデントが
笑い出したのと同じだから。

「ドイツならフリートリヒ、そんな感じで各言語で各時代のF=F=Fを
 調べてみるといいわ…そう、彼はそういう風に時代を渡ってきたわけだ…」

彼の心臓が高鳴るのをわたしも感じた。

つまりわたしと彼は「因縁」なのだと彼は知ってしまったからだ。
今までは広いヨーロッパ大陸ですれ違い程度で済んでたのだろうけど
…今ここ…ロンドンで点と点が線で結ばれようとしている。

…わたしも「今」知ったけれど、彼のスタンド能力からすると
生きていてもおかしくないもの…

「…つまり…その…こう考えていいか…?
 一介の村娘…ただし、スタンド能力を持っていた君を
 「悪魔」…当時の価値観だと「異端者」として捕獲しようとしていたのは…」

「証拠はないわね、でも貴方は直感したはずよ。」

「………」

ジタンは汗一杯にうつむいた。

「もし…それがわたしの知る「彼」ならば…
 わたしは彼を今度こそ止めなければならない。
 何の躊躇もなく…殺してあげるわ。」

「…止める…?」

「…彼は「欲」のままに人と魂を喰らい続ける…まさしく怪物だからよ…」

わたしを調べていて、
彼はわたしなんてものじゃないとんでもない深淵を見てしまった。
彼はどうしていいのか判らない風になりながらも立ち上がり

「…とりあえず、今日は有難う…とりあえず仕事は仕事だ…
 確実に判ってる範囲で報告しておく。」

「ええ、わざわざ有難う、危険まで冒して」

握手をすると、わたし達は分かれた。

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二時間ほどしてからだろうか、ジョーンがいつものように
スーパーによって食材を一杯買い込んで帰ってきた。

隣の「事務所」に「ただいま」を言って、
ポール辺りと「知人とは会ったのかね?懐かしかったろう」
とか話しかけられてるのだろう、ジョーンは何気な顔をして
嘘の感想を言ってのけてるに違いない。

ジョーンが女部屋に戻る。

ああ、ちなみにあたし一人が女部屋に引っ込んでるとか
結構あるから皆誰も何も思わないわ。
資料探しや資料作成、報告書の作成なんかもやってるしね。

そして女部屋に実はテレビがないから、アイリーは
見たいテレビは夜中だろうと
男どもが寝てようとこっちの部屋を空けるしね。

「…おかえり、調査結果はどうだった?」

「…やっぱりルナね、彼は素晴らしいエージェントになれるわね」

「という事はかなり図星な報告だったようね。
 点と点を線でつなげられるかどうかはともかく。」

「…あなたも素晴らしい探偵になれるわ、保障する。」

「…ふふ、ちょっぴり嬉しいかな、じゃあ、いいわ、もうそろそろ貴女が
 嘘をつく理由もあたしにはなくなってる頃ですからね
 …貴女本当はいつの生まれとか
 話せる範囲でいいから話してくれないかしらね。」

「おおよその答えはだいぶ前に言ったけれどね」

「…いつ? …あ…」

「何年生まれとか、神に祈ってても学のない村娘には31より上は
 数えられなかった、何月何日以外必要なかったから。
 後から勉強して年はわかったわ、
 生まれてから12年…わたしは文字も読めなかったただの村娘
 貴女なら、笑っちゃうかもしれないわね、わたしの生年月日」

「…勿体つけないでよ…でも…まてよ…あたしが笑っちゃうような
 その時代の…あ…もしかして…!」

ルナがひらめいたみたいよ、わたしも合わせて言ってみようかしら
二人同時に、一言一句余さずシンクロして言った。

「1412年1月6日!」

ルナが本当に少しおかしそうな顔をした、

「ああ、でも、本人ではないわよ。」

「そりゃ…人生の経緯が全然違うもの…でも…でも貴女…そう、
 なんてことかしら、それじゃあ「彼女」も「神の啓示」という形で
 スタンド能力を持ってたのかしらね?」

「判らない、会った事はないから。 なにしろ、彼女が処刑の火に掛かった
 その時、わたしは必死に波紋を習得していたのだから」

「悲劇ではあるけれど、彼女はまだ幸せね。」

「ええ、19って言うのはちょっと早いけれど…
 その分わたしが生きたにしては長すぎたわね…」

「いいのよ、貴女はちゃんと歩み続けてここに来たわ、
 あたし達が貴女を「見つけた」のよ。」

それを言うとジョーンは嬉しさを少しかみ締めて笑ったけれど

「…貴女たちと出会った「巡りあわせ」…かなりの幸福よ…
 だけどわたしはもう神を信じない。 信じられるはずもない。
 幸福をぶっ飛ばす「運命」って言うのはあるものなのね。」

その言葉にあたしは推理した。

「…貴女を「異端」と捕らえようとした司祭はまだ生きていて…
 実はそれがBCのプレジデントだったとか?」

ジョーンはちょっと本気で驚いたようだったけれど
あたしは言った。

「…あなたが信じざるを得ない運命なんて決してろくなモンじゃない、
 とするとよほど殺したいほど憎んだ相手が実はそばに居たっていうこと
 まぁ、推理って言うか、勘って言うか…
 ふふ…あたしのよーな人間だからわかったって言うか。」

「ごめんなさい、とてつもなく面倒で嫌な相手と争わなくてはならなくなったわ…」

「…何言ってるの、ウインストンも言ったけれど、いつかは競合してたわ
 むしろ貴女が居てよかったかも、
 他に迷惑をかけず、あたし達だけでかたを付けられるかもしれないんだから。」

あたしはジョーンの額に自分の額をくっつけて言った

「弱いあたしが言うのもなんだけど、
 逆にあたしが…あたし達があなたを守ってあげるわ
 さぁ、悪いけれど、夕食いいかしら? お腹すいちゃったわ」

ジョーンがちょっと泣きそうな顔になって、
あたしからさっと離れてキッチンに向かった。
まだ、涙は見せてくれないかしら。
別に泣かそうって言う訳じゃあないけれど、
まだ彼女が本当に馴染むには必要なのよ、
彼女の涙がね。

やっぱり天使はいたとあたしは思った。
羽の生えたっていうんじゃあなくってね
神の名の下に暴走を続ける悪魔を討つために立ち上がった
もう一人のジャンヌ=ダルク。

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