Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World

Inter Mission 2

第二幕 開き

「…どうかしたかね…? ゴロワーズ君…」

相変わらず暗い室内で顔もよく見えないが…おおよその雰囲気や
僅かな光やその声から老体なのだ、ということだけはわかる。

…調査結果の報告中に俺がふとジョーンの言った
「欲のままに人と魂を喰らう」
という言葉が頭に渦巻き、一瞬言葉に詰まったとき、プレジデントが俺に言った。

「…ああ、いえ…その…申し訳ありません…
 …正直今このロンドン内にいた期間だけで43年という時間を
 二十代真ん中辺りという外見のまま過ごしていた…というだけでも
 信じられなくて…」

見た目の年じゃあないのだろう、というのは判っていた事だし
俺は今ジョーンの…というよりK.U.D.Oの今後を考えると
ジョーンが595年もさまよってきたのだ、なんていう結論には
結び付けたくなかったので調査結果の「点」をいかに「線」で
結ばないかに頭を廻らせていた。

「…そうだろうね…しかし…波紋を修めていたというのなら、
 ありえない話ではない…」

「…ええ…それでまぁ…そのくらいならと思ったのですが…
 現代から順に1930年代付近のパリを皮切りに…
 数十年おきにぽろぽろと「ジョ」で始まる「ジョット」という女性の
 記録は出てきます。
 …プレジデントの仰っていた1486年のジョセッタ=ジョットに関しては
 その年代に波紋の修練場や…当時の教会の記録などに
 登場していた数十年間のみです。」

「ふむ…それで君は…どう思うかね…?」

「1486年より後で次にJo=Giottoの女性の記録はもうその百年後になります
 その後も100年ほど開きますし…場所もばらばらです。
 いくつか「たまたま」という事例もあることでしょう…血統とするなら
 ありえなくもないかと存じます。」

「ふむ…まぁ…やはりそうなるかな。 なんにしてもご苦労だった。
 血統なら血統で…それは追う価値のあるものと思うしね…ふふふ…」

普通ここで「彼女をどうなさるおつもりですか」と聞くのだろうが、俺は聞けなかった。

「…何しろ古い記録なので…詳しいことは判りませんでしたが…」

「いや…構わないよ…ご苦労だったね、受け持ちに戻りたまえ。」

俺は一礼をし、社長室を出た。
…本当は多分彼女も軽い気持ちで応えたのであろう…
画家やその卵なのだろうという人物の描いた「JO=Giotto」の
デッサンなんかも数点見つけていた。

時代時代で微妙に違う顔をしていたりはするんだが…
だが感想を述べれば…目などは本当に今のジョーンを思わせる。
1400年代のイタリアではイタリア人のまま、
1500年代以降は一度黒人の外見が入るがその後記録が出るたびに
少しづつ混血化していく…

…それも「血統だ」といえば納得してくれるだろう。
………だが………数百年をつむいだ血統にしては…
余りに似ているのだ…
…提出できなかった。

…と、廊下の壁に聞き耳でも立ててたかダビドフがいた。
俺は念のため表情は変えずに扉を閉めてから怪訝な顔をした。
ダビドフも口に指を当てて「しゃべんじゃあねーぞ」と態度で示してる。

俺が普通に廊下を歩き普段と変わらないペースで歩くと奴も
俺の歩調に合わせ忍び足でその場を去る。

…こいつも気になってたか…?
ジョーンか? それともプレジデント…?

充分社長室から離れ、角を曲がるときに社長室に見慣れない奴が
二人入って行くのを俺は見た。

「………?」

怪訝な顔で俺はそれを見る、一瞬歩くテンポが変わるとダビドフが小声で

「おい…! なんだよ、リズム狂わすなよー!」

いわれて肩をすくめ「やれやれだな」とつぶやき、また歩き出す。

俺は業務に戻る。
…また判らん報告書の直しか…
…それにしても最近やけに新入社員が多いな…
…辞めていく奴も多いんだが…

ダビドフが俺のそばに来てなるべく小さな声で俺に言った。

「…お前が調査に出てた一週間ほどでずいぶん人が入ったろ。」

「…そのようだな」

「そして人も出て行ってる」

「…ああ…だがまぁ…正直この環境では…馴染むのは大変と思うが。」

実力一番的弱肉強食の世界に近いからな…

「…お前はよ…この会社じゃあ特殊な分類だ…他からの引き抜きで
 秘書も兼ねてるなんざなァ…」

「…それがどうした…この報告書見ろよ…俺は添削校正係みたいなもんさ」

「…正直言うぜ…俺は他の奴はたいしたこたねーと思ってるが…
 お前のスタンドだけは一目置いてるんだ…唯一俺のスタンドの
 真の能力に歯止めをかけられる奴だからな。」

「…なんだ…? どうしたっていうんだ…? 急に」

ダビドフの能力は普段ならあらゆる軽元素を鉄にまで「安定化」させる
というものだが…こいつの能力はそんなものが「通過点でしかない」ということを
俺は知っている。
確かに俺だけだ、こいつをマジで止められる能力持ちは。

「…よォ…ここじゃあなんだ…後で付き合え…オメーのパブじゃなんだから
 俺のよくいくバーの方でな…」

何が言いたいのかよく判らんが…だがしかしこいつもこいつなりに
「野犬」としての鼻が利いて何かをかぎつけたって事なんだろう、
俺は視線を下手な報告書に戻しつつ、手で「判った」と合図しておいた。

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「…辞めた奴がどうなったかお前知ってるかよ?」

バーのカウンターの隅でダビドフがソルティー・ドッグを
口にしながら俺に語りかけてきた。

「…いや…以前から出入りは多少激しいと思ってたが…
 俺が席を外してた最中もより激しかったようだな」

「まぁ…捜査中ドジ踏んで殺られた奴とかは論外だがよ…
 単に「ドジこいた」って奴は退社後…」

「…なんだ?」

なんとなく先は判ったが、俺はあえて普通に返した

「…行方不明だ。
 しかも…噂なんだがよ…クビ宣告で社長室入ったっきりでてこねー…ってな」

人と魂を喰らう、そのジョーンの言葉がまたよぎった。

「…確証がないな…ただの噂だ」

俺もジントニックを煽る。

「…俺も実際調べたんだよ、確かに噂だった。
 八割噂だったぜ…まぁ大体ロクでもねーことやらかして
 刑務所行きとかそんな感じだけどよ。」

「ふふ、お前の口から「ロクでもねー」なんて言葉を聞くとはな…
 …しかし…八割といったな…」

「海外に出た奴なんかも居るかも知れねー
 だから実際はもう少し少ねえだろうがよ…」

「マジで行方不明の奴も居るって事か…」

「お前よ…「女」調べてたんだろ?
 何かよー…あのプレジデントの勅令と思うと…何か関連あるんじゃねーのかなってな」

正直驚いたさ、こいつ、結構考えてるじゃあないか。

「…滅多な事は言えない…だが…そうだな…無関係ではないかも知れん」

こうは言った。
実際確証のないものはうかつに信じないのが俺の信条だ。
だが…プレジデントやジョーンのあのお互いを知った態度を考えると…
かなりの因縁なのだろうと俺は直感してた。

「お前がそういうってこたー…やれやれだな…怪訝な顔されて
 「考えすぎだよ」とかいつも見てーに言われるのをちょっぴり望んでたんだが…」

ダビドフはバーテンダーにギブソンを頼むと一気に煽った。
ギブソンはドライマティーニの更にジンの割合の多い強いカクテルだ。
酔いたくなったか?

「…すまんな、笑ってやりたかったが…」

「いいさぁー…俺は所詮「野犬」さぁ、BC以外に行くところはねぇ。
 だがしかし…奴のためだけには死にたくねぇ。」

ダビドフは生まれながらのスタンド使いだ。
あの能力でよく能力の暴走を起こさなかったもんだと感心する。
…だがダビドフは強い自制を強いる代わり
能力を適度に洩らすというか…
そうだな…ダムの放水のように力を調節しなければならない。

こいつは人殺しだってなんだって溜った力を調整するためにはやる。

…俺はこいつを肯定は出来ないが…しかしだからと言ってどうなるモンでもない…
こいつはこいつで強い葛藤の中で生きてるんだからな…。

「俺は…」

口を開いた俺だったが一瞬次をためらった。
…こいつが本当はスパイだったならと思ったんだが…

「…俺はこれから空いた時間で調べなければならないことがある。
 何かわかったら…お前にも教えてやるよ。」

言ってやった。

「…まぁよぉ…知ってどうなるってモンでもねーが…しりてーよな
 奴が何者でどんな能力なのかくらいはよぉ」

「…そうだな。」

妙なもんだ…こいつと飲み明かすなんて日が来るとは。

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日が改まって、あたしよ、ルナ。
出ずっぱだけれど勘弁して頂戴ね。

朝からウインストンが買い出しに珍しく出かけたと思ったら
何買ってきたと思う?

「おい、ジョーン、付き合え。 修行だ。」

彼の両手に何カートンも抱えられた彼の指定銘柄とジョーンの指定銘柄の
…タバコよ!

確かに一日のどこかほんの隙間に一本くらい吸ってるジョーンも
その抱えられたカートンの数と彼のせっかちな性格からして
何時間でもやるつもりなんだろうという勢いにちょっと判りやすくうんざりしたようになった。

「ウインストン! ヘンなことにジョーンを巻き込まないでよ!
 第一どこでそんな修行する気よ!? タバコじゃあなくたっていいでしょう!?」

あたしが大声で文句を言うとあっけにとられてた皆も頷いた。

「小さな煙を操るってーとこれしかうかばねーんだよ!
 それに最初にこれで俺に「煙の輪に煙の矢でダーツが出来るか」
 って挑発してきたのジョーンだぜ!?」

「確かにそうだったけれど…まさかそこまで気にしてたなんて…誤算だわ…」

「…あなたたち…ともかく事務所は厳禁! 女部屋もダメよ!」

幾らオーディナリーワールドでもカートン単位のタバコの煙を操るのは
並大抵じゃあないだろう、それにイギリスはタバコが高い割りに
喫煙にはまだ甘い国だからどっかその辺で出来るでしょ!?

「…いやー…あたし嫌煙者じゃあないから別に吸う事自体どうこういわないけどさぁー」

流石のアイリーもそのカートン数にはあきれ果ててる。

「どんなけジョーンに鼻へし折られたんだよぉー?」

「へし折ったって言うか…「こういう修行はやってる?」ってくらいだったのだけど…」

実際、ウインストンは豪快派だ。
そんな細かい芸を仕込むほどに細かい性格でもない。
確かにミリ単位で風を操るなんて芸当は役に立つかもしれない。
だから修行自体が無意味だとはあたしも言わないけれど…

「ウインストンをここまで熱くさせたのは仕方ないね、どこか川べりか…
 広い場所でやってみてくれないかね?」

「仕方ねーなぁ…」
「仕方ないわね…」

二人が椅子をそれぞれ持って出かけていった。
どっちが仕方ないのよ…まったく…

ああ、ちなみにあたしはジョーンがジャンヌ=ダルクと同じ生年月日で
595歳だ何ていうのは流石に皆には言わなかった。
確かに何かこう…確たる何かがない限り言っても受け入れがたいかなって思ったから。

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そのうち、外がなんだか騒がしくなった。
騒がしいって言ったって、そんなに人が集まってるって程でもないのだけど
普段日中は人が少ないアパート街だからね。

「なんだねなんだね…?」

ポールとケントが窓を開けて階下を見下ろした。
ああ、今まで事務所が何階にあるか言ってなかったけど、二階なのよ。

人々が上を見上げて指差したりしてる。
でも事務所の窓からでは見えない位置。

あたしとアイリーで下まで降りて行ってその野次馬の中に入って
上を見上げた…その視線の先…

4階建てのアパートの屋根の上に数メートル距離を置き椅子に座って
例の煙の修行をやってる二人が居た…!

…とはいえ、何をやってるなんて言うのはもう殆ど見えなくて、
オーディナリーワールドの力なんだろう、
煙の一つ一つを操るのではなく、5メートル×5メートル×高さ2メートルほどの
空気の立方体を作り、その中で煙を自由にさせてる感じだ。

もう空気の壁側は真っ白でシルエットくらいしか見えない。
恐らく二人は煙の判別とかあるから中心は少し煙も操作してるんだろうけど…

「…ああ…もう、…やれやれって奴だわ…」

あたしが頭を抱えるとアイリーが苦笑しながらあたしの肩を叩いた。

「…とにかく止めよ」

「そうね…そうだわ…」

事務所に戻り、残ってた二人に事情を説明してから
あたしらは屋根裏部屋から屋根に続く扉を目指したわけよ…

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「嗜好品って言うのは楽しみたいときに楽しむものだけれどね…」

「俺だって普通に吸いたいさ…!
 しかし、よし、だいぶ操れるようになって来たぜ…!」

「…確かに、直進ならOKだし、少し曲げながらって言うのも大体正確になってきたわね」

「もう少し…もう少しだ! いくぜッ」

バターンと屋根に通じる扉というかふたが開き

「ちょっと、貴方達! いい加減になさい!」

「もうその「空気の部屋」大変なことになってるんだよぉ?」

あたしらの到着よ、まったく、近くで見ると確かにこれは「空気の部屋」だわ。

「あぁ? おい、ジョーン、どうなんだよ?」

自覚ないのね、この男…

「酷いことになってると思うわ…下の道路見えなくなってるし…このままでは
 苦情はおろか警察のお世話になるかも。」

「判ってるなら今すぐ野次馬に嘘でも何でもテキトーな言い訳して退散なさい!」

あたしが言うと、ジョーンが椅子から立ち上がったか(もうそれすら判別できないほど)
道路側の野次馬に向かって言った。

「ああ…その、皆さん! これはわが社がある会社から依頼を受けて
 新製品のテストを任されたのです、ご覧ください」

ジョーンが何かをかざすとそれに向かって煙が動き、吸着されて行って
空気が清浄化されてゆくように見える。

何のことはない、ジョーンの服のアクセサリーを適当に「新製品だ」と偽り
オーディナリーワールドの力でそのアクセサリーに向かって煙を操り
アクセサリーの手前で煙分子を一個の塊にして行ってるだけだ。

遠目じゃあ判らないだろうけど…相変わらずこの女のハッタリは
ひやひやするわね…

「この壁も(と言ってジョーンはパントマイムで壁があるかのようにした)
 某社からの依頼の新素材のビニールハウスなんですよ、
 ただ、ちょっぴりコストに難があるということで、とりあえずのモニタリングなんです
 お騒がせ致しました、もう、終わりましたから!」

ジョーンが一礼をすると、一般市民は口々に「なんだ、終わったのか」
「あの空気清浄機小型だし、いいね、ウチにも欲しいよ、どこの製品なんだろう」
とか言って退散してるわけ…

「…後でウチに問い合わせ殺到するわね…」

あたしがまた頭を抱えると

「まぁ…ジョーンとウインストンに電話番させようよ…w」

「そうね…こんなバカ騒ぎ起こして騒ぎ起こした張本人が
 尻拭いしなくてどうするっていうのよね」

「えっ、俺かよ、ジョーンに任せろよ、そんなの」

確かに勝手なハッタリの設定を作ったのは彼女だ、

「そもそも貴方がバカな誘いをしなければこんな事にならなかったのよ…!
 何で屋上な訳よ?」

言ったそばからあたしに思い当たる節が。

「ジョーン、貴女ね?」

あたしが突っ込むとジョーンは図星を突かれ
恥ずかしがりながらもおどけてこう言った。

「グループに成り代わり、わたくしが皆様に御礼申し上げます、
 オーディションに合格できればいいのだけど!」

ビートルズだ、
解散の一年ほど前レコーディングに煮詰まってライブアルバムの計画に頓挫しかけて
「もう屋上でやっちまおう、終わったらすぐ帰れるし」
そしてその突然のビートルズの屋上ライブに集まった観客(野次馬)に
ジョン=レノンが言った台詞がジョーンが言ったそれだ。

「罰ゲームは貴女ね、ジョーン。」

あたしの心底呆れた顔にジョーンはちょっとしゅんとしたような、
でもどこか嬉しそうに従った。
あたしも呆れたがちょっぴり口の端が緩んでる。

アイリーやウインストンはそんなあたし達に「何、この二人のここまでの空気は」
って顔を見合わせてたわ。

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「あの女か…なかなか色っぽいが…能力の方は小細工系か?」

「ああ、あの女だ…どうかな…俺がこないだちらっと体験した感じでは…
 デパートの屋上のコンクリに満遍なくひび入れてたよーだが…
 それよりは身体能力のほーが驚いたくらいだな。」

「まぁいい…お前の能力でも俺の能力でもまず足止めすることが基本
 みたいな能力だからな…後はどうひっかけるかなんだが…」

「…それについては心配ねーぜ。
 手は打ってある。」

「決行は…今夜半…場所はこの先のビジネス街だな。」

「ああ…まー多分楽勝さ。」

「余り油断と過信はするなよ…ソブラニー。
 お前のスタンド「ロッキー・ラクーン」には重大な欠点があるからな。」

「それをゆーならお前こそ、
 お前の「リボルバー」こそばれたら最後だぜ? ディーン君よぉ?」

「俺のは弱点は克服してある…まぁここで俺たちが争っても仕方ない、
 ただ一点、ぬかるんじゃねーぞ」

「それもそっくりお前に返すさぁ」

第二幕 閉じ

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