Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World

Inter Mission 3

第一幕 開き

またしばらく間が空いちゃった。
とはいえ、それは「戦い」のほうであって、
仕事のほうは順調そのもの。

「探し物が異様に速く確実に見つかる」

今やあたし…ああ、アイリーだよ、
あたしだけじゃあなくて、ジョーンも居るから
たとえ探し物が壊れててもある程度直せるわけだし、
盗まれたのならウインストンが居る(無理にでも取り返せる)

こないだちょっとした事件で刺されかけたけれど、
それがケントだったからね、壁で受け止めてそれで終わり。

たとえ怪我をしてもね、ルナが居るし、
弁の立つ奴にはポールが居る。

冷静に考えると、どうして前からこうじゃなかったんだろう?

そう思えるほど、すべてが順調だ。

やっぱり、ジョーンの存在が大きい。

少しくらい「これは大胆だな」と思える行為でも
ジョーンは何気にやっちゃう。

ルナがそれに乗り、ケントはジョーンを慕ってるから言わずもがな
ポールは完全に違法ではないのなら、もしくは
証拠を残さないならある程度手段には目をつぶる人だし、

ウインストンも最近また大胆になってきた。

あたしもね、ジョーンがこないだ言ってくれた
「たとえどんな痕跡であれ、残っているものなら証拠にして見せるわ」
という言葉にすごく勇気付けられた。

やっぱり貴女は悪魔じゃあないよ、天使だ。
あたしらを導いてくれる。
心の底で「わたしを追い越してゆきなさい」といいながら。

春から夏に季節が移り変わりつつある。
あたしのカッコでちょうどいいくらい。

あたしたちが普段の仕事で自信を深めて
スタンドの使い方なんかも工夫を始めて
修行を開始しだした。
ポールですら「何か交渉以外にはないものかね」って。

そんなある日だ。

いつものようにポールが郵便受けから色々持ってきて
チェックしてた時だ。

「ん…ルナ、君にだね。
 招待状のようだが。」

軽く騒然とした、とはいえ、みんなあからさまには
リアクションしなかったけどね、
「おっ?」って言う程度ね、
…ジョーン以外は。

ジョーンは何でだろう、あたしずっと同じ部屋だしね
誰も読み取れないような小さな表情というか
無表情の意味までわかり掛けてきたの。

その招待状をルナが受け取って差出人やら確かめるのに
裏表しているのを見て、ジョーンはちょっと
…なんていうかな、負の表情をした。

嬉しそうではないってくらい、ルナにもわかんないほど
微妙すぎる空気。

「招待状はいいとして…お前にかよ」

「普通所長のポールってとこだからね、でも
 まぁこれはわかるわ、差出人がね、知り合いだから。」

ああ、なるほど、納得。

ルナが開封して中を検める。

「…彼、大学の同級生でね、フィリップ=モーリスって言うんだけど…
 ふうん、親の会社継ぐことになったのね。」

ルナが特に感情も込めず淡々とあたしらに説明した。

「…あ、モーリス社…大きくはないが中堅どころの貿易会社じゃあないかね?」

ポールが気づいたようだ。

「すごい、ルナ、玉の輿狙えるじゃん。」

あたしが言うと、ケントも頷いた。
でもルナはあたしに「何言ってるの? この子は」って顔したよー><;

「興味ないわ、そんなの。」

「えー…もったいないなー」

「だったらあなたに紹介しましょうか?
 パーティーがあるのだけど、全員招待って書いてるしね。」

ウインストンがびっくりしてるよ?

「あー、やぁ…だってルナのお友達じゃない?」

「何よ? そんなこと気にしてどうするの?
 あたしにとって彼は同級生以上でも以下でもないわ。」

平然と言ってのけた。
フィリップ君、この場に居たらそれはそれで落ち込むだろうね…^-^;

「好きな奴とか気になる奴とか居なかったのかよぉー?」

ケントがかなり自然に聞いた。
これって微妙にルナのタブーに重なる質問なんで
誰も聞けなかったんだけど、ケントの天然っぷりと
ルナもやっぱり変わったんだね、怒るでもなく

「あたしの興味はとにかく「知識をつけること」だったからね。」

「…それにホラ…あれだ、ルナは「今」気になる奴ハッケーンだからな。」

ウインストンが微妙に恐る恐るツッコミ入れたよw
誰のことか丸わかりだから、自然とジョーンに視線が集まる。
そのときやっとジョーンはいつもみたいに微笑んだ。

でも、軽くルナが否定しやすいように軽く首を横に振った。

ルナは予想通り

「何言ってんのよ、ウインストン!」

「誰が見たって丸わかりだろーがよ、同性で結婚できる世の中に
 なったんだ、いいじゃねーの?」

「そういう問題じゃあないのよッ!」

「まぁまぁ…ともかく、パーティーの招待は全員なんだね?
 いつかね? それは」

さすがのポールだw
怒りとおすわけにも行かず、予定を話さなくちゃいけないw

「……明日よ、出席欠席は電話で受け付けてるって。」

ずいぶん急な気もするけど
ジョーンはまた無表情に戻った。
…?

「ではまぁ、特にみな異存がなければ、出席にしておくが、どうかね?」

それなりの企業とパイプがつながるかもしれない、
ポールは大いに乗り気だ。

「オレ、いいのかよォー?」

ケントだねw

「ケントはさすがにモヒカンは崩さないとねー。」

「えっ崩すのかよォ?」

「何言ってんだ…たりめーだろ…」

「ウインストンも普通のスーツかタキシードくらいは決めないとね。」

マジか!?二人がそんな顔をしたw

「…うむ、まぁそういうことになるね、二人とも頼むよ?」

「じゃ…じゃあよお、女連中はどーするんだよぉー?」

「あたしはスーツで行くわ、企業のスタッフとしてね。」

ルナが普通に答えると

「えー、こないだのドレスにしようよ、あれ、結局
 引き取りになったんだしぃ」

そう、デパートで試着してたドレス結局あれで動き回ったって言うのもあって
買ったんだよねw

「えぇ? 嫌よ…」

ルナがはじめてちゃんと嫌そうな顔をした。
さすがにここまでは許せないかな。

「じゃあ…わたしもスーツにしようかしらね。」

ジョーンが言うと

「何言ってるのよ、こういうパーティーこそ貴女が華じゃあない?」

確かにそうだね、ジョーンならかなりゴージャスだよ。

「企業のスタッフとしてって言うルナのスタンスなら、わたしも
 そうしようかなって。」

ルナを乗せようと言っているんじゃあないとあたしは直感した。
皆は気づかないみたいだけど…
どうしちゃったの? ジョーン、なんかちょっぴりおかしい。

「…参ったわね…アイリーはチャイナじゃあ何だから
 ちゃんと買うのよ?」

「あ、うん、でもあたしちっちゃいから似合うのどうかなーw」

「じゃあ、明日までにわたしが作るわ、寸法も大体わかるし。」

さらっとジョーンが言った。
裁縫もお手の物なんだね…

「じゃあ、ジョーン…貴女が華として、仕方ない、あたしもドレスで
 行ってやるわよ、化粧は念入りに頼むわね?」

「ええ、」

デパートの時ならこの会話、ノリノリだったろう、
でも、ジョーンが今ひとつ乗ってないのがあたしにはわかる。
その影響か、他の人も気づいてないけど、
どことなく会話が淡白に進んだ。

ジョーンは早速、あたしに合わせるドレスの生地を買いに行った。
あたしの好みがあるから、口で言うだけじゃなんだからって
あたしもついてゆく。

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「ジョーン」

「なに? アイリー。」

ジョーンは前はすごくおっとりって言うか
慎重なペースで歩く人だったんだけど、
最近はかなり颯爽と歩くようになってる。
こっちが本来なんだろうけどね、

でも、今日はあたしのためのお使いだから、
あたしの歩調に合わせて歩いてくれてる。
勿論そうと意識はさせない。
あたしが気づいちゃっただけ。

「…あのさぁ、ジョーン。」

なんかちょっぴり言いづらいな。

「どうしたの?」

「…あれってやっぱり…嫉妬?」

言われてジョーンが立ち止まった。
空っぽの表情をしている。

嫉妬っていう感情を、今初めて知った、そういう顔だった。

ジョーンはまた歩き始めた。

「…ごめんなさいね、…正直、わからないわ。
 でも、そうよね、本来アイリーに同調…というか
 一緒に祝福ムード…とも違うけれど、
 チャンスはそこにあるじゃない、って言うべきだったのよね。」

何気なジョーンの表情だけど、すごく動揺しているのが判る。

「…うん…っていうか、少なくとも一ヶ月前くらいのジョーンなら
 そう言うんじゃあないかなって。」

ルナの変化ばかり気にかけてたし、ジョーンの変化も
「あたしたち全員に対して」っていう部分しか見てなかった。
ジョーンも変わっていってるんだ…

「…おかしなものだわ…」

ジョーンがつぶやいた。

「仲間はあたしたちで初めて…っていうのは知ってたけど…
 ひょっとしてジョーン…友達とか…」

「…以前フランスから来たっていうのは、あれは実はジタン。
 わたしの「系譜」に関する報告書をとりあえずわたしに見せるための
 …まぁ、BCに対するカモフラージュね。
 …そう、わたしに友人など居ないわ。
 これから先もずっと、そんな風に思っていたのに。」

とんでもなく重い言葉だった。
見た目どおり26歳ならそういうこともありえるけれど、
なんていったって595歳…
なんて寂しい人生だったんだろう。

「ジョーンにとっては、あたしもまだ友達じゃあないのかなぁ。」

とはいうものの、あたしにとってもジョーンは
「友達」なんて気安く呼べるようなものじゃあない。
大事な仲間で、重要な導きをしてくれる人、
なんていうか、まだ雲の上の人。

「…まだ判らないのよ…楽しいと毎日感じてる。
 あなたに怒られたこと、わたしにはとても懐かしい感覚だった。
 …すっかり人間的な感情…忘れてたわね…」

ウインストンは言っていた「あいつは本当に表面を繕う事だけは上手い」
「だが、スタンドは極端な人見知り、あいつの苦労がしのばれるな」

「…そんな中でも、ルナはジョーンにとってもやっぱり特別な存在に
 なりつつある…わけだよね」

「…そこは…否定できないわね…
 ルナはね、ただわたしを知ろうとしてるんじゃあないのよ、
 このあいだわたしにニトログリセリンの組成を教えてくれたように
 彼女は彼女でわたしを後押ししようとしている。」

雲の上の人をさらに高いところに…
でも、うん

「そっか、ルナらしいね。
 態度はあんな感じだけど、ホントは誰よりも優しいからね。
 そしてそんなルナも、ジョーンにだけはって感じに
 色々特別な部分見せ始めてるし、
 …うん、ウインストンの言い方はちょっとないけど
 見る人によってはそれは「恋」に見えるかもね。」

「…それに関しては否定するしかないわね…
 恋じゃないっていう否定じゃあないわ
 「この感情が何なのかもわからない」
 ルナもわたしも、恐らくそう。」

…そっか、ルナは勉強漬けから人生どん底に叩き落されて今まで、
ジョーンは…少なくとも故郷を出て580年誰とも仲良くできずに今まで、
すごいめぐり合わせだ…なんて不器用な巡り合わせなんだろう。

「…そっかぁ…うん、早く…あたしたち成長して
 決着つけないとね。
 そうしたら、ジョーンだって。」

「ええ…ん…そうね…」

お店の前だ、ここでこの会話は終了した。

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日が改まって夕焼けの空。
仕事を早めに切り上げて、皆支度。

あたしまだちょっぴり気がモヤモヤしてるんだけど、
でも、ジョーンがルナにも話せないようなこと
あたしにこぼしたことをちょっぴりうれしく思う。
だから、普段どおりにしてる。

ジョーンが仕上げてくれたドレスを着せてもらって
全開でジョーンに微笑むと、ジョーンも最近のいつもみたいに
気持ちを込めて微笑み返してくれた。

「あ〜あ、またこれ着る事になるとはね…
 色んなペースが速くて、馴染むのに戸惑うわ。」

ルナがこぼしてる。

「そうかもしれないけれど、ルナ、大丈夫、似合ってるわよ。」

ジョーンがルナの化粧を始める。
ジョーンも普段どおりに見える。
でも多分、何かを引きずってるな、昨日の話題じゃあない何か、
うん、あたしの「勘」がそう言ってるのよね。

女部屋はいつもは割りとシンプルというか飾りっ気のない
部屋なんだけど、今日は化粧道具やらなにやら、華やかだね。

化粧品のにおいも香る。

男連中と合流し、慣れない落ち着かない雰囲気は
ルナよりむしろウインストンやケントがバリバリで
少し笑った後あたしらは出かける、

「リベラ、では、三時間ほど出かけてくるわね」

ジョーンが言うと、リベラは不満そうな声を出した。

念入りにリベラを撫でて、ちょっぴり豪華な食事を用意、
それで許してもらおうってw



パーティー会場はそんなに遠くない。

立食パーティーなんてジョーン以外は殆ど慣れてないせいか
…うん、あたしを含め皆ちょっと固いね…w

「…や…やぁルナ、来てくれてありがとう。」

これがフィリップかな?
ちょっと頼りなさそうな、でも人は悪くなさそうな。

「久しぶりね、会社継ぐんだって? おめでとう。」

普通に旧友というか同級生に会ったルナは軽く笑顔で接してる。

ジョーンの化粧のおかげか、ものすごい輝いて見える。

「あ…ああ…ありがとう、でも、これからが大変だよ。」

フィリップ君、何気にそんなルナに照れながら

「何言ってるのさ、研究でチームで一緒に資料集めに走り回ったじゃあない
 あの頃みたいに何でもがっついて身につけなさいな」

…ルナはこういうけど、たぶんルナが引き回してたんだ…w

ポールを見ると、堅くなってる男連中とジョーンを引き連れて
社長…というか、前社長に挨拶に行ってるようだ。

ポールですらややぎこちないところを、ジョーンは上手くナビゲートしている。
ものすごい華やかだなぁ、見た目だけじゃあなくって、
ちゃんとK.U.D.Oを導いてるって言うか。
自分の役目も知っているから、社交的な話もまったく動じず
堂々としている。

「…で、この子がアイリーよ、わが社の要で、友人。」

「あ、よろしく…」

ん、ああ、あたし紹介された?
ちょっとびっくりしたように差し出されたフィリップ手を握り、握手をする。

ルナは苦笑してる。
やっぱり皆(ジョーン以外)、慣れてないわねって。

「には…w よろしくぅ…でもあたしが要って言うのもどうかな、
 皆が重要なスタッフな会社なんだから。」

「そうね、」

ルナは微笑む。
ルナ、あたしのこと友人って紹介したねぇ、やっとそこまで
近づけたんだなぁ、あたしも微笑み返す。

しばらく三人で会話をしてた。
でもなんかこうして話してると、フィリップ君って
なんかこう…自信なさげというか、申し訳なさそうに
ルナに話しかけてる。
なんだろ

ケントはこういう場には慣れなくて食べるほうに専念してるw
ウインストンも無理してたけど、途中から背伸びはやめようと
ケントと一緒になってるw

ポールだけが色々社交界な人たちとお話をしてるんだけど…

…あれ…ジョーンは?

きょろきょろするのもなんだから、会話を邪魔しないように
密かに小さなベイビーイッツユーでジョーンを会場内で探した。
…いた

「あ、あたしちょっと風に当たってくるね、お酒のにおいで酔っちゃいそうw」

「ええ、行ってらっしゃい」

ルナは普通にあたしを見送った。

両開きの大きな窓を開ける、それはバルコニーの一つに通じる扉でもある。
そしてジョーンはそこに居た。
一服してるよう。

「あら、アイリー。」

ジョーンの表情は、またあのなんともいえない無表情に近いものだったけど
あたしが来たことでちょっぴり微笑んだ。

「パーティーは苦手なの? ホントはジョーンも。」

「得意ではないわね…」

「そんな風に見えないあたり、さっすがだけどねー
 …っていうか、やっぱり気になるの?」

「…ん?」

「ルナのこと、フィリップ君と仲良く話してるし。」

「…まぁ、あれはあれね…ルナはやっと大学時代の思い出まで
 振り返られるようになったって言う喜びって言うか…
 せっかくクラスメートにあったんだからって感じだわ。」

「…え、じゃあ…ちょっと待って、そこまで思えるならなんで?」

ジョーンはタバコの一本目を灰皿に落とし、矢継ぎ早にもう一本すい始めた。
…ジョーンがチェーンスモークするなんて…よく見たら
灰皿の中はすでにジョーンの指定銘柄が何本かある。

ジョーンは今度はもう判り易く負の表情をした。

「…わたしが最近やってた「調べ物」に関する報告をするわね、
 …これはルナに言わないで。」

ジョーンがルナに言わないでって…

「ルナを襲った犯人を調べてたわ。
 …心を鬼にして現場を当時まで再現したりしてね。」

…そうだ…ジョーンはそれができる…
現場とかそういうのは報告書や警察に聞けば特定できるだろうし…

「…え…ちょっと…それ…」

「彼女を襲った犯人、現場近くの界隈では名の知れたチンピラ。
 …名は通称「デス=ジョーカー」
 前科持ちの…婦女暴行のね…そういう男よ。」

ジョーンはすべてを知っていた…!

「…だったらなぜそれを…!?」

「そこに至った経緯も調べたわ。
 当時つるんでた仲間を締め上げてね。」

…ああ…おっかないジョーンだ…

「…ジョーカーはある依頼であの日、現場を通るルナを待ち構えてた。
 …依頼人は、ジョーカーにある程度お金をつかませれば
 悪役を演じてくれて、自分が王子様になれる、
 そんな甘いことを考えたんでしょうね。」

「なんてことを………あ………まって、もしかしてそれって…!」

あたしの心臓が張り裂けそう…

「依頼人はまぁ…うかつすぎるけれど…許してあげましょう…
 洒落にならない事態を引き起こしたわけだけど、
 順調に事業をこなしてるとはいえ、まだまだ弱小のK.U.D.Oを
 お抱えの調査会社に取り立てようって言うのだから。」

フィリップ君は…本当はルナが好きだった…
何とか振り向かせたくて…
…でも…
そして…月日が流れて今日のこの…
招待が遅れたのも、納得できちゃう…

「ジョーン…そっか…判った…ジョーンの嫉妬は
 ただの表面の嫉妬じゃあない…」

あたしはただ、ルナに親しげにしてる人がいるって言うことが
面白くないのかなって単純に考えてた。

「…いいのよ…それはね。」

「…それでその…ジョーカーについては?
 依頼の部分はもみ消すとしてルナに教えるんでしょ?」

「…教えない。
 …いえ、正確には…「死体になって発見された後」
 わたしがそこに行き着いたことにするわ…」

…この人…ジョーカーを暗殺する気だ…!
ジョーンはわたしに向かって、いつものように微笑んだ。

「アイリー…せっかく明るく変わってきたルナに
 もう一度そのドス黒い記憶を呼び覚まさせて…
 彼女の手を血で染めたいの?」

それを言われると…
あたし、涙が止まんなくなってきた。

「だからジョーンが殺すの?」

「ドス黒い返り血で染まるのは…わたしだけでいいわ…
 アイリー…わたしはね…「仕事」で何人も人を殺してきたわ。
 …勿論罪もない普通の人は手にかけないようにしたけど…
 …だから…いいのよ、復讐の血なんかで汚れるのはわたしだけでいい…」

「…ジョーン…」

「それにね…ジョーカーには余罪がたくさんある。
 立件された罪状なんて数えるほどしかない。」

「…えっ…」

「告発できずに追い込まれて自殺した少女や…少年まで居るわ
 彼が捕まったのは、ルナを襲った後弱っていたからで
 やっと告発されてたホンの一部の被害が罪状だった。
 …そう、彼はルナが矢を受けたその時まだそこに居た
 …彼も矢を受けたのよ。
 現場を再生してわかったこと。」

「…それって…」

「僅か数件の立件では…彼をたいした罪にできなかった。
 彼もレイプ魔にしては切れる男でね、
 生かしておく、もしくは殺すのはさすがに足がつくような
 相手にはゴム着用してたのよ。
 …ルナは依頼で襲われる羽目になったわけだからね、
 殺せない相手だった。
 そこは唯一の救いよね。」

「…ちょっと待って…殺された人も居るって言うの…?」

「ええ、仲間の証言から現場を再生したわ、確実に
 数人殺されている。」

…なんて…男なの…

「そう、彼は矢を受けてたって話だったわね…
 刑務所に居る間、彼はおとなしくまじめに過ごした。
 刑期短縮が検討された頃、一つの企業が彼を引き抜きで指名してきたのよ。」

もう、あたし物凄い衝撃で声も出ない…それって…!

「…彼はそのままBCに就職した。
 ここ最近ね、とはいえ数週間といったところかしら。
 …厄介なのは…とりあえず住む場所がないから
 BC社屋の一部を仮の住まいとして提供されてること…
 さすがに…本拠地まではわたしも乗り込めないわ…」

ジョーンがまた改めてタバコを吸いだす。
これは…彼女の苛立ちなんだ…嫉妬じゃあなくって…

「…彼が仕事の最中を狙おうかとも思ったのだけど…
 まだ勤め始めて間もないのもあって、常に相方が居るのよね…
 タイミングがつかめなくて今の今まで放置してしまってたけれど…
 …いい…アイリー…勿論ルナのためっていうのもあるわ…
 だけどね、殺されて立件されなかった被害者や、
 自殺に追い込まれた人々の恨みの念を晴らすっていうのもあるわ。」

…重い…

「…偽善なのは判ってる…そうね、本音を言うと…」

「…ううん、言わなくていいよ…あたしのスタンドがもし
 オーディナリーワールドだったなら…
 あたしもそうしたかもしれない…」

今話を聞いただけで殺したくなってくる…
何でそんな奴が今の今まで生きてられるの?
人間社会も弱肉強食だから?
だったら…強い力でそいつを…

「あ…あの…一つ…いい…?」

あたしの聴きづらそうな態度に

「…わたしはレイプの経験はないわ、
 かなり似た状況になったことはあるけれどね。
 姦通とは違うけれど…
 オーディナリーワールドは何であれわたしを守る
 だから、レイプはないのよ、レイプはね。」

強調してるけど…

「…相手の自由を奪った上で力で相手を好きにする…
 …そういった輩が…死ぬほど嫌いなだけよ……!」

ジョーンの左手が…バルコニーの柱にかけられてるんだけど
力がこもってる…
何か記憶があるんだ…聞いたことないジョーンの
怨念のこもった怖い口調…
今まで怖い時って無表情だったけど…
隠すことなく憎悪をあらわにしてる…

「…判った…この件に関しては…ルナに血を浴びせたくない
 って言うジョーンのキモチ…受け止める。
 だけどジョーン…だからって貴女が…」

「…証拠を突きつけて彼を立件できたからどうなるのかしら…
 イギリスには死刑はないわ…」

物凄い…怨念だ…殺された人の怨念まで背負ってそうだ…

ちょっとした間の後、ルナがやってきた。

「ああ…二人ともこんなところで何やってるのよ?」

いつもの怪訝さで言った。

「あ、ごめん、なんか話し込んじゃって…w」

あたしはもう涙は引いてる。
耐水性の化粧だ、涙くらいじゃ崩れてないからばれないだろう、
ジョーンも吸ってたタバコを消した。
その時、灰皿に10本近くたまってた吸殻を手で覆った瞬間に全部灰にしてた。

「…本当はわたしもこういう場ってあまり得意じゃあないのよね。」

ジョーンがいつもの優しさで言う。
ああ、でも、この奥に物凄い殺意を抱いているんだ…
そうやって毎日を過ごしてたんだ…
勿論普通に笑える日はそうしてるのだろうけど…

「…何よ…w 貴女も苦手なら無理することないのに、
 ああ、彼女がジョーンよ。
 彼女こそは本当の「要」かもね。」

ルナはフィリップを連れてきてた。
フィリップがおずおずと握手を求めると、
ジョーンもいつもの感じで自己紹介をして
その握手に応じた。

…本当はジョーン…フィリップにも何かしら…
ペナルティを与えたい気持ちだよね…

その時、ジョーンは何かをつぶやいた。
でもそれは何語かわからない言葉だったんで、あたしら「?」って顔に。

「ああ、ごめんなさい…「どうぞよろしく」と言ったの…」

ジョーンはそう言うんだけど…あたしもルナも「嘘だ」と直感した。

フィリップは、「ああ、そうですか、よろしく…」と握手を交わし続けた。

あたし…なんかすごい秘密を知っちゃった…
つぶれない程度にワインをあおった。


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