Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World

幕間 一:Remake 第一幕 開幕


あれから何日経ったのだったか。
三月も初旬から中旬に掛けて…
一時的なスタンドの深層を解放…これもいつかは話さないとならないのだろうと思う。

ジョーンよ、ごきげんよう。

会社のみんなもわたしについては色々疑問に思っているし、
わたしも企業に属し、仲間として行動するからには話さねばならないのだと思う。

でも、あけすけに事実だけをポンと伝えた所で、伝わる気がしない。

どこから、どんな風に、どの程度話して行けばいいのだろう。
この間ちらっと少なくとも近世までわたしの人生は遡れるという事は
ほのめかしてしまったし、エジンバラでルナはわたしにピンポイントで
持っていた金貨と同じ年代のイギリスの国情について観光案内のように語っていた。

恐らく、彼女やポールは薄々気付いている。 少なくとも、
270年は遡れると言う事を…頭の中でそれを受け入れるかどうかは別で。

…今日はいい天気で…ウィンストンがアイリーとケント君を引き連れ仕事。
ポールは先の高額報酬のおかげでかなり内情も良くなり、今まで滞りがちだった
ものをスムーズにするため、かつ、大家さんにもその旨を伝えに行くそうで留守。
(依頼は…先のわたしの芝居は余りにハラハラするとのことで、直通で
 彼の携帯電話へ転送することになって居る)

ルナは、体調を崩して休んでいる。
精神的に大きな穴を抱えたまま気を張り続けていた彼女に対して
わたしの無茶な作戦のせいで、女性特有の理由とは言えアイリーも
「ここまで重くはないはずなんだけど」と心配していたけれど、
ちょっとそれで寝込んでしまっている。

オーディナリー・ワールドは…今やっとパワーが戻ってきた状態。
「あれ」にはどうしてもパワーを使いすぎてしまう、でもそうしないと
あの場は動ける状態まで持って行くことすら出来なかった。

なんだか…
わたしも初めて仲間と呼べそうな人達と関わるようになって…
加減が判らないと言うのか…困った物ね…

柔らかい日差しの事務所のソファにわたしは座り、膝の猫ちゃんを
撫でながら、ただただゆらゆらキラキラ舞う埃を見ていた。

物思いが過ぎて止まる手に、猫ちゃんは「もっと撫でてくれないの?」という
上目遣いでわたしを見る。
この子も…ケント君は乳飲み子の段階だと結構面倒を良くみてくれたけれど
それなりに自立心が芽生え、猫ちゃんが自分で行きたい所に行き、
やりたい事をやるようになると構いたい時だけ構うようになってきた。

事務所内はいつも小さくラジオやテレビの音が流れているのだけど、
ルナが寝込んでいる事、昼間の環境音があるとは言えこの辺りは住宅街で
昼間はかなり静かなのでルナにストレスを与えないためスイッチを切ってある。

動くのは、猫ちゃんとわたしの手だけ。
生後一ヶ月にもなればちょっとやんちゃになってくる。
この子は女の子だけれど、まだ上手くジャンプしたり出来ないのに
精一杯それをやろうとするし、最近世話係に回る機会の多くなったわたしを
精一杯慕ってくる。

可愛いけれど、手の掛かる子だわ。

…お昼にはあと一時間と少し、そう言えばみんな戻ってくるはずね…
献立、今日は何がいいだろう…

と思っていた時に、隣の部屋のドアが開く音がして、少し引きずるような
スリッパの音、そして中の音を確認するようにしてドアを開けた。

「…あら、ジョーン…貴女もまだ調子が戻らないの?」

わたしの場合は単純に「スタンドパワーを使いすぎて数日元に戻らない」
とだけ説明していた。

「貴女こそ…起きて大丈夫なの? ルナ」

「…ひと眠りして起きたら、ただ寝ているだけって言うのも苦痛で…」

ルナはわたしの斜め向かいのソファに座りながら大きくため息をついた。
まだ結構具合が悪そう、そして彼女が

「それならここで留守番しながら居るのもいいかなって思ってさ…
 それで…スタンドの力が戻ったなら…これ(下腹部を押さえながら)
 どうにかして貰おうと思ってたのだけどね…」

「それをやっては、リズムも狂うし使いすぎると機能そのものを失うリスクがあるわ」

「…別にそれでも良いけれどね」

普通は良くない、良くないと言いたい、彼女は明言したわけではないけれど
でも彼女が「別にそれでも良い」言う理由と原因も想像は付く…
彼女が話せるようになるまで待とうとは思うけれど

「波紋ではダメ?」

「波紋でも調子は戻るのだろうけど…何となく「そうなりにくい」
 体質にして欲しいと言うかね…こんな事言ったら怒られるかも知れないけれどさ…
 …貴女に恋愛が無理というように、あたしにも事情があって無理だから」

困ったなぁ…

「人生、何が起こるか判らないわ…
 スタンドパワーは回復しつつあるけれど、今回は
 波紋で緩和しつつちょっとだけスタンドで調整もする、それでいい?」

ルナは微妙に納得いかないようだけれど

「ええ…お願いするわ」

猫ちゃんを左手に抱えたまま、わたしは席を立ちルナの隣に座り
波紋の呼吸を強め彼女の下腹部辺りに手を寄せる。
彼女は自分で望んだ事とは言え、矢張りまだ恐怖心があるのだろう
目を瞑って上を向き対処を受け入れている状態。

確かに触れた感じ、なかなか波紋による調整は…日に二度くらい
やっていたのだけど、余り芳しくない。
肉体は、精神にかなり引きずられるので矢張りどうしても
精神的なものを整えてからでないと上手くない、そう言う意味では
たしかに強制的なスタンド効果の介入は必要かも知れないな…とわたしは思った。

「ああ…やっぱりスタンドの調整が入るといいわ、波紋は楽になるけれど続かないし」

どう言った物かと思ったけれど、彼女ならストレートでいいだろうと

「精神的な不調…というかそちらが大きくて波紋だけでは不十分のようだわ」

「ん…「病は気から」…真理よね、ああ、先日の貴女の無茶苦茶な「対処」の
 事じゃあないわよ、あれはあくまで切っ掛けの一つでもっと…」

とまでルナが言った時、わたしは右手の人差し指で彼女の唇を縦で閉じ

「ホットミルクでも要る? 治療は終わったわ」

もうちょっと心の整理がついた時でいい、というわたしの意を汲んだのだろう

「…丁度そう言うのが欲しいと思っていたところよ、ありがと」

先程に比べたら顔色もだいぶ良くなったルナがちょっと複雑そうな表情で
でも努めて笑おうとして応えた。

わたしは猫ちゃんを膝から下ろし、キッチンに向かう。
彼女はきょとんとするけれど、

「ごめんなさいね、貴女のベッド奪っちゃって」

ルナがそう言いながら軽く撫でると、ルナの少し具合の悪そうな雰囲気を
察したのだろう、ルナの膝に移り…とは行かずその場で丸くなって寝始めた。

「…ところでこの猫、なんて呼んでいるの?」

わたしはキッチンへ戻りながら

「…わたしは「猫ちゃん」って」

ルナの分とわたしも自分のホットミルクを用意し、ルナに渡しながら向かいに座る。

「名前…あたしは知らないし、誰かつけてないのかしらね」

「…さぁ…わたしも余りネーミングセンスがあるとは言えないし
 名前は誰かがつけるといいと思っていたわ」

ホットミルクの入ったカップを両手で持ち少しずつ味わうようにルナは飲みながら

「そういえばオーディナリー・ワールドって」

「ええ、1994年になってやっとつけられた名前」

「…うんなるほど…、名付けは大事だと思うが余り…って所かしらね
 増してスタンドはねぇ…」

そんな時に、外の階段から二階へ上がってくる三人分の足音と会話が漏れ聞こえる
賑やかな明るい声と口調はアイリー
軽口で特徴あるしゃべり方のケント君
そしてドアの向こうだと声が低くて何を言っているのかよく判らないのは
間違いなくウィンストン。

そして、ドアが開く

「たっだいまぁ〜、あ、ルナ大丈夫なの?」

「ジョーンのスタンドがほぼ復活したみたいだし、あたしの体調は
 どうにもならなかったからスタンドで調整して貰ったわ、だいぶ楽よ」

「お、ホットミルク、いいねぇ〜」

その言葉にわたしが

「アイリーも飲む? そう言えばもうそろそろお昼ね…
 ルナとわたしは軽くでいいとして、みんなはピザでもどう?」

その言葉にウィンストンが

「俺はいつもの備え付けの茶でいいわ自分で煎れる、ピザは賛成」

「あ、オレもだぜェー、トッピングは任せるけどマルゲリータはシンプルすぎて
 何かちょくちょく載せてくれるとありがてェー」

「判ったわ、仕事はどう?」

「ああ、まぁこないだのに比べたら雲泥の差だぜ、あ、ジョーン
 (買い物袋を探りながら)ホラよ、頼まれものだ」

ウィンストンがわたしに投げて寄越したのは

「あらジョーン、貴女喫煙者だったの? ちょっと幻滅だわ」

ルナは嫌煙者、この会社ではウィンストンが喫煙者だったけれど
ここに来たばかりの頃なけなしの私費のはずなのにタバコを買うウィンストンに
「いい機会なんだからやめればいいのに」と眉間にしわを寄せながら言っていた。

「吸わないで居ようと思えば居られるけれど、これも
 わたしなりのリセット方なのよ、勿論煙分子一個貴女に近寄らせないし
 わたしにもその痕跡は分子一個程度に留めるから」

「…分子一個…まぁそんな厳密でなくてもいいけど…」

わたしがそう言うからにはわたしはそうする、と言う事をルナは判っている。
匂わせないし、痕跡も極限まで残さないまで言われたら、彼女も反対のしようがなかった。
彼女は感情的な嫌煙者というわけではないと言う事は、わたしが判っている。



わたしが実働組の昼食にピザと、そのトッピングの余りで作ったスープを
わたしとルナ用にして事務所まで持ってきて振る舞いながら

「そういえば、三人とも猫ちゃんに名前ってつけてる?」

と切り出すと、勢いよくピザにがっつき始めるケント君とアイリー
そして手を合わせ「戴きます」と日本語で一言呟くウィンストンが

「「「えっ」」」

三人でシンクロした。

ルナは思いっきり呆れたような表情で

「ここに来てもう二十日近く名無しだったのね…」

「いやぁー、だってケント最初凄くお世話してたしぃ」

「それホンの何日かだろォー離乳から先は食事係のジョーンが
 何となく全部やっちまってたからよォー
 オレてっきりジョーンが名付けてるモンだと思ってたぜェー」

「ポールもそいつ(再びわたしの膝にいる)には「猫君」と呼んでたな、そういえば」

ウィンストンがそう言い、改めてピザを食べ始めながら

「必要ならジョーン、お前がつけるといいよ、誰も異存はないと思う」

「異議なーし」

「おう、名付けるんならよォー今つけてくれ、呼びてェし」

ルナがさっきの会話から「わたしに名付けのセンスは皆無に等しい」と
フォローを入れたかったのだろうけど、三人の空気に押されたようで言えないで居た

わたしは必死で考えた。

「そうねぇ…ぴょんぴょんと飛び跳ねたり歩き方のまだ少しぎこちない所が
 踊っているようだし、踊り子的なイメージでジタンとかどう?」

「没」

ルナが一言、そんなぁ…

「あー、名前のセンスがどうこうとかじゃないんだよ〜」

「そーそー、ウィンストンのダチに居ンのよォ」

「あら、では女性?」

わたしが首をかしげると、ウィンストンが

「いや、男なんだけどな、一応。
 一応ってつけるくらい見た目中性的なんだが」

「そして、元ここの従業員、今は引き抜きでBCに居るわ」

ルナが特に感情を込めないで言った、事情がありそうなのはわたしにも判った。

「そう言えば彼最近見掛けないねぇ、元気なのかなぁ」

事情はありそうだけれど、アイリーが屈託無く言う。

「アイツはあっちの看板になるような仕事やってるからな、元気だろうさ」

興味が湧いてきた、ライバル会社に移籍したウィンストンの友達

「どんな人なの?」

「どんなって…あたしが言っても仕方ないか」

ルナが口を開こうとしてウィンストンに譲った。

「ジタン=ゴロワーズ、フランス系イギリス人でスタンドは生まれつき。
 俺とはその生まれつきの能力が縁でその後腐れ縁ってトコだな
 女のよーな名前は偉く気にしてかなり態度や口調は男っぽいんだが、
 何しろ見た目もそうだし、声も男にしちゃ高いが女だと低い…なんてゆーか
 「奇跡的だよなぁ」と思うぜ」

「そうそう、ジョーンみたいな色っぽさとは違うんだけど、なんて言うかなぁ
 クール・ビューティって感じの!」

「ああ、そうね、クールビューティだわ、彼は」

アイリーの例えにルナは思いっきり肯定した。

「ウィンストンの三個下だっけかよォー」

「ああ、出会いは二十年近く前か、奴はその女みたいな外見とちょっとした仕草と
 英語があんまり上手くなかった所でいじめられ掛けたが、そんな事で
 大人しくしてるアイツじゃあねぇ、スタンドでそいつらボコボコにしてる
 ところに出くわしたんだよ、初めて自分以外の能力者を見たし
 俺はその「殺す」って勢いを止めるのが精一杯だった」

ふむふむ

「当時は俺もジタンもそんなはっきりは像も出せなかったが、とにかく
 ジタンのスタンドは見える、そんな使い方してたら碌な事はねーぞと
 言ったら、アイツ、俺に向かってもスタンドの拳かましてきてよ
 んでこっちもスタンド出してガードしたら
 「君も仲間か」アイツはそう言って、それで溜飲を下げてくれたよ」

「へぇ…」

わたしは心からその言葉が出た。
そんな風に出会い頭で拳を納めるような、そんな出会いもあるのだなと。

「同じ能力者で年は俺が上だが、頭の程度は向こうが上でさ、
 何か急に仲良くなったんだよ、そんな出会いからどのくらいだったかな
 一年経ったか経ってないかだと思う、ポールと出会ったんだ」

その話はみんな知らなかったらしく

「初耳だわ、そんな古くからポールと知り合いだったの?」

とルナが言った時、ポールが帰ってきた。

「やぁ、皆勢揃いだね、ルナの加減はどうかね?」

ポールはお昼は外で済ませてくると言っていた。
なるほど、ケンタッキー・フライドチキンかな、と言う残り香。

「ええ…ジョーンが復活してくれたおかげでかなり楽よ
 それより、貴方随分古くからウィンストンと会っていたのね」

「む、古い話を、なぜまた?」

「ジタンの話になってたんでな」

「成る程、わたしが二人に出会ったのは17年ほど前かな?
 「スタンド」の概念が広まり「その筋」というのが出来上がりつつあった頃だよ。
 河川敷で二人が模擬戦というか訓練をしていた所に出くわしたのだ、
 私もスタンド使いになって間もなかったが、正直その頃
 「マインド・ゲームス」の使い道に痛く悩んでいてね、
 「ああ、こんな殴り合いの出来るストレートな力だったら
  まだ幾らか道も見えやすかっただろうに」
 そう思いながら見ていたのだ」

言いながらポールは自らの紅茶を注ぎ、ウィンストンが続いて

「ジタンの奴がそれに気付いてな、ポールに近寄って
 いきなりスタンドのパンチをお見舞いしたんだ」

「子供らしいし荒っぽいけれど確実な手段だわ」

わたしが思わず言うと

「今でも迷わずそうするわよ」

とルナが言った。

「今でも彼、初めて対面する人にはそうやって姿やおおよそのパワーを試してるわ」

「うん、結局それが一番早い、そういう事なのだろうね。
 マインド・ゲームスははっきり言って弱いが、パンチを何とか受ける事は出来た
 そして「君は随分と直球だね」と言ったんだよ、
 ジョーン君が言ったように「だが確実だ」とも」

「そして当時から紳士を気取ってたポールが言うんだ
 「君たちは、その能力を磨いて将来どうしたいのだね?」」

ウィンストンがポールの口調を真似た、結構似ていて少し可笑しかったのだけれど
何とか我慢した。

「私も迷っていた、あれは自問でもあったのだよ、うん。
 ウィンストン、君が言ったんだったか
 「悪い事なんかバレなきゃ幾らでも出来る、でもいつかバレる
  だから役に立つ事を考える」と」

「ジタンの奴も気持ちは同じだったよ、能力の暴走とかヤサぐれたって
 一時いい目をみるだろうが後にあるのは惨めな破滅だろうからな」

「私はそこで、何とかこの能力を活かせる気がしてきた。
 そう、この口先八寸の能力を使う道はあると」

「んで、こいつ俺達に向かって
 「では、いつか君たちは成長し、その能力で人々の役に立つのだよ?
  "Yes, is the answer"!」

「言わされたのね…w」

わたしもつい笑いがこぼれた。

「ああw 言わされたw
 だがあれは契約遵守を確かめるだけの能力であって拘束力はないけどな」

「ではお互い成長したらまた会おう、とその場はそれで別れたのだ。
 私はこの「会話を誘導し」「Yesと言わせる」だけの能力で
 ルールある社会の中で活かせる道を何となく見つけて勉強したのだった」

「ポールのスタンドはでもいいスタンドだよね」

アイリーが会話に加わった、彼女はポールの事を尊敬しているというのは
今までもちょっと滲み出ていたし、慕っていた。

「ま、戦うという点では役立たずだし、交渉なんてかなり限られた場面だがね」

「気にすンなよォ−、オレのだってそーいう意味じゃァ壁にしかなんねーんだから」

ポールはアイリーやケントのフォローを嬉しく思ったのか微笑みながら

「そういえばジタン君と言えば先程道すがらに出会ったよ
 なんでも海外出張に行っていて近々また海外出張になりそうだということだ」

「優秀なのね」

わたしが言うとポールが

「そう、彼は優秀だ、こんな零細企業にいる玉ではない、
 彼もそう思っていたから、BCからの引き抜きに応じたのだ。
 BCはかなり汚れ仕事も請け負うし、その全てを肯定はしないが
 それでもスタンド使いとしてやれる事を精一杯やりたいとね」

「そう…でもここのバランスはいいし、事の大小はともかく
 ちゃんとやれて居ると思うけれど」

わたしが言うと

「それも…あんたが来てからだ、ジョーン
 歯車がやっと噛み合った、そんな感じだよ」

ウィンストンがそう言い、続けて

「ジョーン、後で一杯付き合え」

「えっ」

戸惑うわたしにルナが

「諦めなさいジョーン、三週間近く声が掛からなかった方が不思議だったわ」

「と言うと皆も?」

イギリスでは飲酒は18歳から、みんな年齢的にはクリアできている。
…まぁ、法令遵守していれば、だけれど…

「あたしらはみんな「嗜み程度」って奴でウィンストンほど飲まないし
 「酒飲み友達が欲しい」という要望は無理」

「え、ええと、わたしも余りお酒は」

「何言ってんだよ、100年くらいは生きてるんだろ? いける口なんじゃあねーの?」

そこへポールが

「まぁ、酒飲み友達はともかくだね、飲めないわけではないのなら、
 今夜は行ってみるといいかもしれないよ、ジタン君も馴染みの店だし
 今日も行くようだったから」

「そ、本来彼こそうってつけの飲み友達だったからね、
 流石にライバル会社というか競合会社に移って飲み友達ってわけに行かないし
 それであたしら順次一度は連れてかれて、ジタンの「挨拶」食らってるわ。
 アイリーくらいかしらね、最初にウィンストンから「挨拶の免除」要請入ったのは」

「んーまぁ本気であたしのじゃ受け止められないからねぇ」

うぅん…興味はあるかな…

「んでよォー、猫の名前どーすんだ?」

「あ…」

「すっかり話題から漏れてたわね、しっかり考えなさいな、この際だから」

うーん…うーん…長い沈黙の後、わたしがやっと導き出したそれは

「猫と言えば…で、女の子で…エスペラント語から「リベラ」如何かしら」

ルナがもの凄く「お疲れ様」という表情で頷いている。

他のみんなは早速「リベラ」と名付けられた彼女に声を掛けるけれど
いきなりの「名前」に彼女は戸惑っているようだった。

次の節は、天の声に委ねるわね。





「よぉージタン、お疲れさん、お前さんはK国出張だっけか」

ビジネス街のちょっと裏手にあるBC/LM社の社屋前で二人は鉢合わせた。

「ダビドフお前…俺にその出張押しつけるなよ…エジンバラに行ってたんだって?」

「ああ、詳しい経緯は既に報告済で二度言う気はねェが、お前さんは知らないか
 教えてやるぜ」

社屋内廊下を歩きながら

「何かあったのか?」

「聞いて驚けよ、俺はまぁゴールデン・バット社の機密狙ってたんだが
 それよか面白いネタ見つけちまったんだよ、お前の古巣にさ
 何と! 新人が一人入ったんだ!」

「「何と」とか言うほどのネタとは思えないんだが」

「あの女、ただモンじゃあねーぜ、エジンバラの北でGB社の仕事を請け負ったんだろう
 奴らを見掛けたんだが、水面は歩くわ骨折は治療できるわ」

「水面を歩くだって? 波紋使いかな」

「波紋使い?」

「呼吸法の一つで、修行如何でそう言う技も使えるようになるんだよ
 …だがなるほど、それはちょっと興味沸いたな」

「まぁ何だか良くわかんねーけど、古巣の調査ならお前さんだと思ってな
 俺は調査そこそこでそっちは切り上げて来たんだ」

「…それにしちゃタイミングおかしくないか?
 お前エジンバラで何かやらかしてきたな?」

「まぁーいーじゃねぇの、それはさぁ」

二人がデスクに戻るとジタンには今度はデスクワークが待っていた。
BC/LM社はとにかく「強力なスタンド使い」であることが第一義なため
事務能力については壊滅的な人物も居たのだ。
それを、整理し提出する役目も彼は負っていた。

何とか仕上げられそうなものもあれば、これではさっぱり判らないというものもあり
そのたびに彼は社にその人物が居れば改めて聞いて回り、居なければ電話で確認

ただ、彼が通常の調査の他にこう言った事も始めたおかげでBC社の格は一段上がった事も
また事実であった、スタンド使い以外の一般事務員では矢張り限界があった。
そう、この会社はエージェントはスタンド使いである事が前提だが、
それ以外の事務員や連絡員は必ずしもその必要のない会社だ。
分業である事で規模を大きくも出来たが、分業であるが故に
「どうしても伝わらない・伝わりにくい事」をジタンが入ったため
上手く潤滑するようになった、ジタンは引き抜きで若い事、見た目の
中性っぽさで舐められ加減からのスタートであったが、そのスタンドは強力であるし
何しろエージェントとして有能と言う事で引き抜き二年ほどだが既に
「表に出しやすい仕事」を請け負う看板エージェントになって居たのだ。

スタンド能力が絡みに絡む特殊な事例の報告書は彼が直々に幾つか束ね
直接社長の下へ届けるのもまた、常であった。

今日もそのように、自分のものと一緒に幾つか持って、社長室のドアをノックする。

「ゴロワーズです、入ります」

社長室は、いつでも暗かった。
ブラインドから僅かに漏れる光や、かなり光量を抑えた電気スタンドから
ほぼシルエットの社長…プレジデントと呼ばれる彼が居る。

ジタンはいつも、それを何故だろうと思っては居たが、おくびにも出さず
ただ、その席のプレート「プレジデント・フレデリック=F=フェルナンド」
という名前を何となく確認していつも通り提出するのだ。

「ああ…お疲れ様」

矢鱈と渋い声で聞こえる。

「私の…NK国の秘密工場ですが、戴いた期間では短すぎますね
 彼らも狡猾です、そしてなかなか隙もない
 判った範囲から、かなり疑いは濃厚と思えますが…一人では難しい仕事かと存じます」

その秘密工場は核関連施設なのでは…との事だったのだ。
持って行った測定器などから確かに空間放射線量の高めな地域ではあったが
地球規模で有り得ない線量でもないために確定出来ず、一人では潜入調査も
難しそうだった、と言う事だ。
ただ、それが「何のための工場か」をギリギリまで調べて行くと疑いはぬぐい去れない。

「そうか…ではまた予算と期間を貰い、今度こそはダビドフ君にも参加して貰おうか
 核関連だと矢張り彼以上の人物は居ないわけだしね…ふふ…まぁ厄介な元野良だが」

ジタンはダビドフの能力を知っている、確かに恐ろしい能力だし、敬意を払っているが
そんなダビドフを「元野良」と表現しつつ、彼はほぼそれを意に介していない迫力を
持っていた、プレジデントもスタンド使いである事は判るのだが、能力までは知らない
しかし、その能力はきっとその「どんな能力も意に介さない」確かな礎になって居る。

ジタンは身の引き締まる思いがした。

「そういえば…ダビドフ君から話は聞いたかね?」

「ええ、K.U.D.Oに女の新人が入ったらしいと」

「ただ者ではないようなのだが、君の古巣だけに君に調査続行をお願いしたいと」

「ええ、聞いております、話を聞く限り興味を持ちましたし、承ります」

「…まったく、君が来てから情報局からの信頼も厚くなったし
 君もよく働いてくれるし、あの会社もとんだ逸材を逃したものだよ…
 まぁ仕方がないと思える惨状ではあったがね…」

「全てはプレジデント、貴方の聡明な判断です、私は私の仕事をこなしますよ」

ジタンは一礼して社長室を出て、デスクに戻り、提出するには間に合わなかったその他の
エージェント達の報告書まとめをまた始めた。

『今日戻ってきた所だってのに、いつまで残業だよ…』
そう思ったが、
『そういや…道すがらポールと会ったな、やっと良い収入を得る事が出来たと
 金回りが回復したなら、ウィンストンの奴その新人の女をあのパブに
 連れて行くはずだ、ルナやケントやアイリーの時も一度はそーしたよーに』

それを思うと、こんな肝心なピースが欠けたジグソーパズルのような
不完全な報告書にいつまでもかまける時間はない、と彼は奮起した。

行く時間は何時頃がいいか、夜八時頃か、彼は目処をつけ、
滅茶苦茶な報告書を出した者達への強気の質問を開始した。





同日夜七時過ぎ、彼は仕事を終え、もう一度プレジデントの元にそれを提出して仕事を終えた。
この時間プレジデントは上階にある私邸におり、直接会うわけではなく社長室の
ポストにいれるだけであるが。
ダビドフは定時上がりしていたし、他のメンツも昼勤は居なくなっていた。

「まったく、いい気なモンだぜ…」

くそ真面目な性格に育った事は自分の育つ基礎を作ってくれた祖母や、
スタンドの片鱗を持った理解者である二人の姉、そしてウィンストンのおかげであり
結果そうなった自分の性格に異存はなかったし、おかげで社での格も上の方にあるのだから
有り難い事と言えば有り難い事なのだが、何となく、損をしている気にもなって居た。

夜勤に引き継げる部分は引き継ぎ、ジタンは社を引き上げた。

「…さて、既に居るか、どうかな」

ジタンの行きつけのパブ…ウィンストンの行きつけでもあるが
ジタンの来訪と共に、そこの店主が

「よう、最近忙しいようだな」

「ああ…おかげさんでな…いつものを」

ジタンはエールを煽りつつ、

「そういえば…最近あいつのところに新しい女が入ったようなんだ、
 まだウィンストン恒例の「ここへの連行」はやってないよーだし、何か知ってるかい?」

このパブはBC社よりは遥かにK.U.D.Oの方に近かったのでジタンは質問してみた。

「あー、確証はないがそれっぽいのは最近見掛けるぜ」

「へぇ、どんな女なんだい?」

「買い出しの時にね、見掛ける事があるんだ、スーパーとか。
 で帰りはあのアパートだし、最近になって見掛けるようになったし。
 年の頃は20代半ば、混血みたいでな、色は黒いんだ
 それよりも端から見て体脂肪率が部分的に低そうなくらい筋肉が凄くてなぁ」

情報が断片的すぎてジタンは何を思っていいのか判らなかった。

「ま、今日ここへ来るならラッキーと思っておくか、もう一本くれ」

エールは基本的に瓶一本でもそれほどの量はないので最初の一本を直ぐ空けると
新たな一本を片手にいつもの「指定席」へ向かっていた所だ。
店主が

「おお、ウィンストンじゃねェか、久しぶりだな」

その声にジタンが反応し、入口に振り返る。
ウィンストンの斜め後ろに「女」はいた。
なるほど、「部分的に」体脂肪率が低いというのが分かる。
凸凹したその体の腕や腰、少し見える足などは筋肉が良く見える。
なんというか現実的にそんな鍛え方はあり得るのかというほど
グラマラスな体に引き締まった筋肉が映える、そして「混血らしい」その顔
正直ジタンは美しいと思った、ただしそれは美術品のような感覚で。

「よォ、ジタン!」

ウィンストンが嬉しそうに俺に声を掛ける、ジョーンはウィンストンの一歩後ろでジタンに軽く一礼をした。
「軽く」ではあるがそれはかなり正式な場でも通用するような礼だったので
ジタンもそれに合わせて略式とは言え礼を返す。

ウィンストンはジタンのそんな畏まった態度は依頼者相手とかでしか
見た事がなかったのでちょっとジタンとジョーンを見た。

「まぁいいや、とりあえずここで一番のを五・六本持ってきてくれ!」

ウィンストンが言うとジタンが呆気にとられ

「何だよ、ポールがいい報酬入ったとかは言ってたがそこまでなのか?」

ウィンストンは自慢げに運ばれたエールを煽りながら

「おう、臨時ボーナスが出るほどにな!
 あの一本のエールを二人で分け合ってちびちびやってた頃とは訳が違うぜ、
 やっと歯車が噛み合った気分だよ」

「良かったな…というか、お前も紹介くらいしてから調子に乗れよ…
 話には聞いていると思う、ジタン=ゴロワーズだ、宜しく」

ジタンが改めて手を差し出すと、女はそれに応えながら

「ジョーン=ジョットよ、宜しくね」

物腰も柔らかく、聞く限り英語も完璧、波紋使いらしい、
成る程、ちょっとずつ見えてくれば来るほど、興味をそそる。
ジタンはそう思い、握手をしたまま「いつものもう一つの挨拶」だ。
女だからと言って油断をしていると痛い目を見るのがスタンド使いの世界だ。

ジタンのスタンドがわき上がりその拳を振るう!

「わたしが珍しいのか、ウィンストンが久しぶりだからか、
 他の常連さんからちょっと注目されているけれどいいの?」

ジタンのスタンドの拳がジョーン手前で止まる。

『確かに…常連にスタンド使いが居ない事くらい判ってはいるが
 ヘンに不自然に女が吹っ飛んだりする(或いは反撃を食らう)のは今は不味いか…
 それにこの女、流石に殺す気で殴る訳はないと判っていたのかスタンドを
 ちらりとも出さなかった…』

ジタンは「この女、できるな」とも思いスタンドを引っ込める。
…と、ジョーンは握手しているそのジタンの袖に目を近付けた。

「貴方、海外出張って…結構危険な所に足を踏み入れているのね、やはり優秀なのね」

「は…?」

ポールには「海外出張」としか言っていないはず、ジタンがちょっと驚くと
ウィンストンが

「お、何だよ、どこ行ってきたんだ? って、仕事内容を教えるわけもないか」

「ああ…全部は教えられないさ、まぁ某国の秘密工場と目されたところで…」

「核関連施設?」

ジョーンのストレートな物言いに今度こそジタンは驚愕した。

「なぜ…それが判った? いや、俺は今回の出張では期間が短すぎて確証が得られなかったんだ」

「…これ…どこまで近付けたの?」

「中には入れなかった…だがまぁ外観で触れられそうな範囲は何とか」

「そう…結構ずさんな管理のようだわ…もしまた行くなら危険が伴いそう」

「俺の最初の質問に応えてくれ、何故判った?」

ジタンはもう訳がわからなかった。

「ジルコニウム・ハフニウムが独立したコロイドで僅かに付着しているわ
 制御棒などを運び込んだ場所に近かったのかしらね」

「コロイド(小塊)…?」

ジタンは握手を解いたその袖をまじまじと見るが

「見えないと思うわ、マイクロメートルからナノメートルの境界辺りの塊だもの」

ウィンストンが暢気にエールを煽りながら

「お前本当に分子一個でも見えそーだな」

「ええ、まぁ、その色々見方を変えれば原子核の中でも」

ジタンは驚愕した、それはもうピコメートル(ナノの千分の一)やフェムトメートル(更にその千分の一)
と言う世界だ、電子顕微鏡は疎か、走査型トンネル顕微鏡でだってそんな世界は見えない。
そんな世界が間接的にも見えるのはCERNなどの大型粒子加速装置を持つ施設だけだ。
そんな世界が「見える」とはどう言う事だ、ジタンは驚愕と同時に少し恐怖した。

「とはいえよぉ、ジタン、なんかその…アブねーの持って来て大丈夫かよ」

「大丈夫よ、流石に体中に大量に浴びたとかではなく付近に散らばった埃みたいな
 大きさのものだし、被曝量としては大したことはないわ、問題なのは
 これからその中に調査に入った時よ、何かしら防護策を講じた方がいいわ」

ジタンはネタ晴らしになるな…と思ったが、このジョーンという女、
ジタンを結構本気で心配しているようで「無用な心配をさせたくない」という
思いをついジタンは抱いてしまった。

「…俺の能力は、そう言う防護に向いているから、大丈夫だよ、心配ご無用だ」

「あーそういやジタンの能力は「何でも防御」だからなぁ」

少し酔っ払い加減になったウィンストンが言った。

「そう、それならいいのだけど、とりあえず袖のジルコニウムもハフニウムも
 放射性同位体ではないわ、同族元素で分離が最も難しいとされるその二つが
 独立して付着してるから、その二つの共存というと核関連施設かなと思ったのよ」

「…成る程…助かったよ」

「恐らく、施設の外にはぎりぎり漏れを防いでいても、中は…そして核心部分は
 通常の原子炉…或いは濃縮ウランの製造工場なのだとしてもかなり杜撰な管理状況が伺えるわ
 …服にはもう余り付いていないけれど…すこし放射線の影響かなと言う僅かなダメージが」

言いながらジョーンはちょくちょくエールを煽っていた。

「…判った、次行く時は気を付けるよ、だが同行する奴が割とその辺得意な奴だから
 そいつの指示もちゃんと仰ぐさ」

「そうして、勿体ないわ、貴方のような人を、そんな事で失うのは余りに損失」

少し興に乗ってきたジタンもエールを煽りながら

「ふふ、君は反原発主義者とかかい?」

「いいえ、きちんと管理すべきだと言っているのよ、健康に大きく問題のない
 範囲での運用は不可能ではないはず、でもその威力に酔って結果を急ぐと
 あれほど悲惨なものもないわ…」

「うん…確かに、君の言うとおりだな、ただ、仕事内容はそう言う告発ではないんだが…w」

「判っているわ、スタンド使いが派遣されるのだもの…まぁ能力如何でしょうけれど」

「おいおい、しけたはなししてんじゃねぇーぜ!
 飲むぜ!、親父! もっと追加だ!」

話に付いてこられないウィンストンがクダを巻きだした。

「ジョーンのおかげで捜査が進展しそーなんだから、ジョーンに感謝しろよ?」

「気にしないで、見えてしまったものは仕方ない、気になったんだもの。
 それにしてもエールもなかなかおいしいものなのね」

ほろ酔いの彼女は、一本飲み干しまた新たに栓を抜き、ウィンストンや
ジタンに乾杯をしながらなかなか上機嫌にエールを楽しんでいる。
そして何かに気付いて

「ジタン、貴方禁煙者? 喫煙者?」

「俺自身はもうやめたが、目の前のウィンストンが吸うんだぜ?
 気になんかしてないよ、吸いたいならどうぞ」

ジョーンは先程ウィンストンに買ってきて貰った新品の箱のビニールを解き
底を叩くとせり上がった3,4本から一本を口でくわえて引き抜き、
『こんな細いタバコあったんだな、6mg/0.6mgか…』とジタンが何気に観察している側で
ウィンストンがライターを渡そうとすると、彼女は軽く断り、普通にライターで
火を点すが如く左手で風よけのようにタバコを覆い右手の指を近付けると…

ジタンには見えた、その身手の指先の更にホンの少し外側にスタンドの指先が現れ
そしてタバコの先に火が着いた。

火を発生するスタンドではない、多分空気かタバコの分子振動で熱を発生させたのだ
ジタンは思った。

『個人的な感想だが…凄くとんでもない事が出来そうなのに、随分とささやかに
 能力を使っているんだな…今の一連の動作も凄くやり慣れてるって感じだし…
 これからの時代肩身は狭いだろうが…かつてはウィンストン流に言えば
 「粋な女」って奴だったんだろうな』

そのもの思いに被さるようにウィンストンがジョーンに

「お前、スタンドが健康管理してるならそーいうの嫌がらないのか?」

「ええ、そうね…あまり吸って欲しくないって。
 ルナにも言ったけれど、でもこれももう結構長いリセット方だからねぇ…
 ひと箱消費するのに半月くらいかな」

「一日1,2本か、逆に良くそんな管理できるよなー」

ウィンストンは吸わない時は吸わないが、吸う時はスッパスパ連続で吸うのだ。

「あ、ねぇ、ウィンストン」

ジョーンがタバコの煙で輪を作った。
煙を口から放つ時に少し火花のようなものが走ったのをジタンは見逃さなかった。

「この輪の中を…壊れにくくしたわ、貴方のタバコの煙でダーツできる?
 スタンドありよ」

「お、何だ? やったこたないがやってやるぜ、よぉーし」

ウィンストンは軽いゲーム感覚でそれに乗ったが、ジタンは気付いた
『風使いの力量検査及び、ゲームを修行に使おうとしているな』
ウィンストンが煙をとがらせ輪を通過させるが、外周に近い、ジタンがそれに

「ダーツなら一桁点って所だな、お前もまだまだだ」

「ダーツならよー、漠然とした円じゃなくパターンがあって点数決まってンじゃねーか」

負け惜しみの強い奴なのだ、ジタンがそんな「やれやれ」という顔をしたのを
今度はジョーンが見逃さなかった。

「では…輪を三重にするわ」

ジョーンの見事な呼吸の調整で本当に空中に三重の輪が出来る。
ジタンは感心を通り越して少し呆れてしまった。
『スタンドにしても波紋にしても、ちょっと無駄遣いが過ぎないか?
 いや、しかしこれはウィンストンを完全に釣っている
 ウィンストンの釣り方を心得ているというか…負け惜しみの強いアイツの
 気持ちを焚きつけて修行をする気か…上手いな』

何度か挑戦するが、微妙だ。

「ジョーン、ここじゃあなんだ、今度どっかできっちり決めてやるぜ」

「程ほどにお願いね、オーディナリー・ワールドにも流石に怒られてしまうわ」

ジタンが思う、
『オーディナリー・ワールドというのか…「なんて事のない平々凡々な世界」…
 だが彼女の本気はこんなものではないはずだ…強い自制心と、そして
 人を導く力…成る程、確かに彼女はK.U.D.Oの救世主かもな』

「ともかく、俺としては調査の助言、助かったよ、スーツは後で鑑定に回すとして
 俺からの礼を受け取ってくれ」

ジタンが注文したエールをジョーンに差し出す。

「ささやかだが、有り難う」

「有り難く頂戴するわ」

「いいな、しかし流石だぜ、ジョーン」

もう少し、宴は続きそうだな、ジタンは思いエールを煽った。


第一幕 閉幕

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