Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World

幕間 一:Remake 第二幕 開幕


小一時間ほどだろうか、ジョーンはそれから一本も煙草は吸わなかったが
逆にかなり飲んだ、潰れかけている。
ジタンが流石にレフェリーストップを掛ける

「おいおい、勢いに任せて飲ませすぎじゃあないのか?」

「そうだなぁ…かもしんねぇ
 余り飲まないと言っていたが、飲み出すと歯止めが利かなくなるからなのかなぁ」

「俺はそろそろ引き上げるぜ」

「あ、待てよジタン、俺ちょっとこれヤバいかもしんねーと今思った」

ジョーンを担ごうとしたウィンストンの表情が「重い」と言っている。

「まぁ…身長もそれなりあるしそんな立派な体じゃあな…
 おい、歩けるか?」

ジタンの呼びかけにジョーンが

「うーん…どうかしら…折角だから酔っていたいし」

『スタンドや波紋で気付けも出来るが酒を楽しみたいってところか…
 酒場連行に対する意趣返しでもあるのかな』

結局、ウィンストンが基本背負うのだが、ずり落ち掛けるのをジタンが支える形で
パブを出る事になった。
常連客は羨ましいねぇなどとウィンストンを囃したが

「この額の汗を見ろよ…こいつの筋肉見ろよ…重てぇんだぞ…」

さながら苦行のようなその有様に常連客もそれ以上はからかえなかった。

K.U.D.Oへの道すがら、ほとほと思い知ったかのようにウィンストンが呟く

「参ったなぁ…人生経験の長い奴だからもうちょっと計画性のある奴だと思ったが…」

ジタンは苦笑の面持ちで、心の中だけでそれに応えた
『タバコの件を見ていれば、それは証明出来ているだろ、
 これはお前への意趣返しなんだよ』
その物思いは胸にしまい込み、ジタンは

「常連の連中じゃあないが、それでも役得じゃあないのか?」

「かもしれねぇが、俺もちょい酔ってる訳だから役得だなんて思う前に重てぇし」

「はっはっは」

「あーこいつぜってぇルナやアイリーの体重倍あるぜ…
 なんてか…前からちょくちょく思ってたが、俺にとってこいつは
 手に負えない姉のよーな存在だぜ…」

「姉か…失礼でなければ…と、ジョーンは今無理か
 ウィンストン、彼女は幾つなんだい?」

「「公式には26歳」俺より下だが、本当のところは判らん
 100年以上生きているらしいが」

「100年!?」

ジタンの酔いは吹き飛んだ、ジョーンの顔や見えている肌をまじまじと見る。
どう見ても…その「26歳」という所が正確な着地点に思える。
もの凄く肌の状態も良いのでもう少し若くも見えるが、貫禄をプラスして矢張り二十代中程…

「一体どう言う能力なんだ、波紋だけじゃそんな年齢をこの見た目で保つ事は出来ない」

ジタンはストレートに疑問をぶつけてしまった。
その言葉に、まぁやっぱりBCからの下調べ依頼も兼ねてたよな、とウィンストンは思いつつ
ついつい彼も本音が出てしまう。

「それがよぉ、俺宛の説明だと「おおよそ何でも出来るが時間と手間が掛かる」
 なんだけど、ルナ用の説明じゃないとお前さん納得しないよな、
 波紋についても…何か凄まじい事情があったよーで、余り俺としては
 突きたくないんだよな、アイツ何てったっけ、
 ストリート時代に関わった波紋使いの」

「なんて言ったかな…彗星の如く現れて「おっ」と思ったら退場してたからな…」

「そいつは武道波紋をまあ完全に「体術・技」として修行してたって言うが
 どうもそんな生っちょろい理由じゃあないみたいなんだ、俺チラと聞いたが
 ジョーンの新情報は頭の中で色々整理しねーと理解出来ん」

「おおよそ何でも出来るが時間が掛かる、か、タバコの火を例にすれば
 「なるほど」と思える部分もあるな」

「何なら事務所まで来いよ、まだみんな起きてるはずだしよ…
 ルナならきちんとお前にも理解できる説明すると思うぜ」

ジタンは苦笑した

「おいおい、俺は競合会社に引き抜かれて行った…言ってみれば裏切者だぜ」

教えるはず無いだろ、とジタンはそれを敢えて言わなかったが、ウィンストンは理解した

「戻って来いよ…こいつが来てから明らかにK.U.D.Oは上向きだぜ
 もうお前という宝の持ち腐れはさせないさ」

「…それについては、今は無理だね、まだそれなりに向こうでのやりがいもあるし
 …だが…そうだな…様子は見させて貰うよ、いつかそんな日も考えて…」

とまで言った時に、泥酔に近いジョーンの指先がジタンの頭に寄っていた事に
ジタンが気付き、言葉が詰まった。
ウィンストンが

「どうかしたか?」

と振り向くんだが、ジョーンが

「ああん、動かないで…ジタンも…さっき見落として居たの
 ジタンの頭髪にテクネチウム99が…ごく少量だけれど、
 頭皮というか脳に近いのはまずいかなって…」

「問題なのか?」

ウィンストンが聞くと

「放射性元素よ…極端に強烈なものではないけれど…念のため」

「マジかよ大丈夫かよ、ジタンもそーだが俺達も大丈夫かよ」

「わたし達まで離れていれば無問題だけれど、ジタンに万が一よ…」

そこまで聞いて、ジタンはスタンドを展開し

「どの辺りだ? 君の力を使うまでもない、大丈夫俺がなんとかできる」

ジョーンの言葉に従って、成る程ジタンのスタンドの指先は
その「不安の種」を感じる。

「これか…"speaking words of wisdom"」

「あら」

効果があった事をジョーンが確認したようだ。

「俺のスタンドは「レット・イット・ビー」
 現状を維持するか、劣化させるかと言うスタンドだよ。
 何になったかは知らんが無毒な物質に「劣化」させた
 能力が二つある訳じゃあなくて、ルナ充て説明風に君が言うとするならば
 「熱力学」には逆らっては居ないだろ?」

「そうね、現状維持は範囲内だわ、わたしのスタンドに似ているし…
 理解も早いわ、貴方も聡明な人なのね」

「俺にはやっぱルナ向けは判らん」

ウィンストンがこぼす

「テクネチウム99は使用済核燃料に含まれるわ、矢張りその工場、黒ね」

事務所のあるビルまで三人が到着する、まだ事務所の灯りが付いている。

「上がってくか?」

「冗談止せよ」

「ここが一番の難関なんだぜ、頼むよ」

「だったら「上がっていくか?」なんて聞くなよ…」

結局ジタンは事務所の前まで来るが、ウィンストンが一瞬でも片手を解放できるとは思えない。
そのくらいジョーンという重たい荷物に「もうすぐ解放される」希望だけで耐えている。

仕方なく、ジタンが事務所のドアを開けた。

「やあお帰り…おや、これは珍しい」

ポールがジタンの来訪に驚く、続いてアイリーが

「あーん、ジョーンが酔いつぶれるまで飲むなんてと言おうか
 ジタンがキターと言おうかで迷っちゃったぁ」

ルナが思いっきりそれに呆れて

「今ジョーンを先に言ったじゃない…それにしても「何の用?」と
 言いたいけれど、その様子じゃあ…わざわざごめんなさいね」

そんな時、猫が帰ってきたジョーンにテンションが上がってテーブルの上の
カップを一つぶちまけながらジョーンの側に駆け寄って行く。

「ああー!」

ケントが叫ぶ、まだ中味の入っていたティーカップは幾片かに砕け、
紅茶も床に広がる。

「猫まで飼ってたのか」

ジタンがウィンストンに言うと

「まぁ、報酬の一部だ」

「あらあら」とジョーンはウィンストンからずり降りて、
リベラと名付けられたその猫を肩に載せヨタヨタとティーカップが落ちた現場に着く。

「オーディナリー・ワールド」

酔った気の大きさもあるのだろうか、いつもよりほんのちょっと全容が判りやすかった。

「ちょっと、ジョーン!」

ルナが釘刺す、見せる気なのかと言う感じで。

「いいじゃない、彼のも見せて貰ったし」

「良くないわ、あたしらの安全が減る可能性がある!
 今まで貴女に言わなかったしそう頻繁でもないけれど、
 BC職員からは嫌がらせも受けてるんだから!」

それを聞くとジタンがちょっと怒りの表情で

「なんだ、あいつらそんなせこい事やってたのか…俺がシメとくよ」

「すれ違いざまにスタンドで殴りかかるとか特殊能力無しでだけれどね」

「シメとくよ、仮にも俺が働いてた場所にそんな侮辱は許さない」

「まぁ何があってもわたしが守るわ…
 ではいいわね? いくわよぉ…ケント君受け皿構えて」

ちょっと酔い加減のジョーンはゲームでも楽しむが如く拳の位置を調整し、
そしてスタンドでその破片を殴り抜けた!

どうも波紋も併用していたらしいその一撃は火花のような光を纏い、空中で破片が幾つか組み上がり
そしてこぼれたはずの中味も空中での回転の中上手い具合にカップの中に入って行き

「うぉお! キャッチィィイーーッ!」

どう見てもカップに液体をもう注げないと言うレベルで幾片かに砕けたそれは
中味もほぼ完璧に元に戻り、ケントの受け皿の上に着地した。

「うん…」

ジョーンが床をまじまじと見て指先で何かを拾い、もう片手の指で床に落ちてた水滴を指し

「カップは砕けたし、中味はこぼれたのよ、私はその結果を調節できるだけ」

ジョーンの指先には成る程、ホンのひとかけらのティーカップの破片があるし
床の水滴も多分紅茶なのだろう。
ジタンは思う
『似ている? 俺のスタンドと似ているだって? ベクトルが俺より一軸多いじゃあないか
 俺のは「そうだからそうなのだ」というスタンド効果で彼女のは全く異質…』
魂の抜けたように、ジタンは驚いていた。

「あーあ、たったこれだけも、ジタンはきっとほぼジョーンの能力を悟ったわよ」

ルナがこぼす、アイリーやケントがそれに続き

「ジタン頭いいからねぇ」

「頭良くて顔良くて性格良くて、いいよなァー、天は何物与えるんだよォー」

ジタンはルナにそう言われたし、理解したのかも知れなかったが
何かついて行けなかった、ウィンストンがそう言っていたように
判ったはずなのに、判らないという訳のわからない状態だ。
それに、彼女は「みんなを守る」とも言っていた。
大変な自信と共に、大変な責任を彼女は背負っているとも理解した。
もの凄いお人好しな、悲しいほどにお人好しな人格をしている
ささやかな事にだけ能力を使いたがるその性質も、理解した気がする。
何だか全てが一気にやってきて整理が追いつかない。

「判ったような…判らんような…ともかく…いきなりやってきて済まなかった
 あいつらの嫌がらせについては俺もシメとくが、君らも成長して
 見返してやってくれ…」

どことなく「理解の整理が付いていない」様子を滲ませながら、半分上の空でジタンが言うと

「ああ、ジョーン君が手間を掛けさせてしまったね、有り難う」

ポールが自分の席から立ち、わざわざジタンの側に歩み寄り握手を求める。
ジタンはそれに応えた。

「もし、彼女の事を報告するなら、断片的な方がいいと思うよ」

ポールは言った。
しかしこれは皮肉ではなく、今のジタン自身の心境を思えばこその心からの忠告だった。

「ああ…済まないな…俺も仕事だから…とはいえ…なんて言えばいいんだ」

「後は君に任せるよ、ただ、手加減はして呉れ給えよ」

ポールがにこりとして言うと、ジタンは軽く礼をして、そして事務所を去っていった。

「それにしても彼の考える姿はいつ見てもどことなく色っぽいねぇ」

十分間が開いてからアイリーは一言こぼした。

「でも考えや行動そのものは男なのよね、彼も不思議な人だわ」

ルナが言うと、ジョーンが続いて

「面白そうな人よね…さて…ではわたしは寝るわ…明日は何もしないから、
 食べ物とかは各自お願いね」

「ええー?」と特にケントやアイリーの声が響く。

「すげぇ飲んだからなぁ…」

「飲めないわけでないならエール程度のアルコール度数で急性アルコール中毒
 と言うわけでもなさそうだけど…まさか調整も何もせず二日酔いに移行するつもり?」

ジョーンはそれに手のひらを振る事で応え、よろよろと隣の部屋に引っ込んでいった。
リベラはそれを追いかけていった。

全員が顔を見合わせる

「まぁ、彼女がそうしたいというなら、そうする他はないかね」

ポールがあきらめ顔で呟くと

「案外子供っぽいと言うかきっちりしてるんだけどきっちりしてないというか…」

ルナがこぼす、そして何か思い立ったように

「あ、そうだわポール、大事を取って明日一日休暇くれない?
 治療とかは連絡入ったら向かうから」

「構わないが、何か?」

「いえ、たまには博物館とか行きたいなって、休日も何だかんだ
 ここに居ると事務仕事に手をつけてしまうし」

「うん、いいんじゃあないかな、明日予約分はないし
 では「もし」どうしてもと言う場合だけ頼むよ」

「ええ、そうね、あたしも寝るかな…病み上がった状態はやっぱり疲れるわ」

そうして、お休みと言い合い、残りのメンバーも小一時間ほどで解散となった。
さて、次からまた一人称実況に戻ろう。





俺はプレジデントに連絡をつけた。
急ぎ聞いて欲しいと言うか、頼みたい事もあったのだ。

ああ…ポンと現れていきなり実況とは痛(いた)み入るが、ジタンがお送りするよ。

「…ふむ…「何でも出来るようだがよく判らない」と…」

「はい…、物質そのものを操るわけではないようです、なので
 非常に面倒の掛かる能力…と思われます
 水面に立つ能力は波紋かと思われましたが…私の記憶と摺り寄せが出来ない部分が
 ありまして…ついては…」

「ん…皆まで言わずとも判るよ、詳しく調査をしたい、と言う事だね?
 波紋と言うと…ベネツィアか…イタリア政府からパッショーネに向けて
 了解も得なくてはならないかもしれないね…何しろあそこは危険だ」

「畏れ入ります…、あと…件の工場の件、彼女に指摘を受けた通り
 先程夜勤の科学班に鑑定をさせましたが、その通りジルコニウムとハフニウムが
 独立して僅かに付着…β線やγ線の影響と思われる衣服のダメージもありました…
 件の工場に関して、高い確率で「黒」と断定できます。
 これについてはイギリス政府の一存では先の決定は難しいでしょうから…」

「そうだね、然るべき処断が下るまでは様子見だ…
 ふふ…それにしても恐らくは君が「調査員も兼ねている」事が判っているはずなのに
 随分大盤振る舞いなおせっかいを焼くものだね、ふふふ…」

俺はその時、ジョーンの「勿体ないわ、貴方のような人を、そんな事で失うのは余りに損失」
と言う言葉が渦巻いた、仕事に私情は挟むべきではないのに入り込んで来やがる。

俺の様子に、プレジデントが

「時に…その女…何と名乗ったのだね」

「あ、はい。 ジョーンです」

プレジデントはちょっとしたジェスチャーで「半分から右」というような手つきをした

「申し訳ありません、ミドルネームは無し…あるいは名乗りませんでした
 ファミリーネームは…何と言ったか…確か宗教画にそんな画家が居たような」

薄暗い中でプレジデントが大きく「ニヤリ」としたのを俺は見逃さなかった

「ジョット…かな」

「そうです、良くお分かりになりましたね」

知っているというのか?
プレジデントは笑い出した

「そぉうか…クックック…はっは…
 どう言う事なのか…私も大変に興味が湧いてきたよ…ゴロワーズ君、いつ出発したいかね?」

ただ知っているというわけではない、何か、多分これから俺が調べる事の
幾らかは彼にとっては当然の結果になるんだろうと俺は思い、軽く恐怖した。

「…これから…まず知り合いが博物館に勤めていて今夜は夜勤のはずですから…
 そこから調査を始めたいと思います…それから、直ぐにでもイタリアでも…」

「そうか…うむ、頼むよ…
 経費はそれなりに掛かろうとも構わない…ああ…出来れば君…
 エジプトにある…最近発掘が始まった遺跡があるのだが、そこについても
 「関連する事項がないか」調べてくれないかね」

「エジプトですか? 発掘…?」

「うむ、元港町で…近隣に古代の遺跡のある場所なのだ
 そこの痕跡は「ジョセッタ=ジョット」のはず…」

「名前が違うのですか? ですが、判りました…」

「訳がわからないだろう? ゴロワーズ君」

俺は正直に

「はい…」

「今の私にもさっぱりなのだ…だが「ひょっとして」という勘があってね…」

「なるほど、確かに承りました…巡る順番は私が自分の意思で決めて良いでしょうか」

「いいのではないかな…痕跡なんてそれ自体が逃げ回る物でもなし…ふふふ」

謎が謎を呼ぶ、俺は一礼をしてプレジデントの私邸を去り、街に出る。
日付が変わるかどうかって時間帯だが、その足で一番近い博物館を目指す。



そんなご大層な博物館じゃあない。
まぁ以前ちょっとした依頼の角で行った事がある事と、学生時代は
結構通っても居たんだ、ここは、展示されているものもは勿論あるのだが
未整理の遺物などを大量保管している場所でもある。

今夜宿直している学芸員も学生時代からの知り合いだ、
ああ、ちなみにルナとも知り合いだ、あいつは歴史が専攻なんだから当たり前だよな。
ただ俺と彼女は学年は一緒だが、学校も違うし俺は歴史を専攻していたわけではないので
俺とルナは古くからの知り合いというわけではない、ただ彼女の歴史を専攻してた時の
研究論文なんかは見た事あるし、知っていた。

あんな事さえなければ、彼女もきっと今頃はこう言う所で働いていたか、
それなりに発掘調査に赴くような学者になって居たんだろうな、
「あんな事」については俺は説明を控えさせて戴くよ、彼女の名誉に関わる事だからな。

「ファーストネームの最初が「ジョ」で始まったジョットという女性ですか?」

「…ああ…漠然としすぎているよな…待ってくれ…」

俺は考えた、彼女の科学的な知識に思い当たり、しかし俺はここで何を思ったか
例えばマクスウェルとか19世紀の偉人を失念していた、つい言葉で出てきたのが

「そうだ、イギリスなら18世紀…ヘンリー=キャベンディッシュ辺りの関連ならどうかな」

「キャベンディッシュですね、判りました…女中辺りですかね、その人」

俺は言ってから後悔の臍を噛んだ、20世紀初頭のラザフォードとかもっと
「彼女らしい」学者も居るじゃあないか、と。
しかし彼は言われるまでもなくそのような雇用票とかそう言ったものを探し出す。
キャベンディッシュは大きな発見こそはあまり無いが、後から調べたら
結構な発見をしていた人物で…空気中に1%あるアルゴンを最初に発見しより分けたが
それについて研究を深くせず、結果アルゴンはそこから一世紀以上経って
再発見されるに至る…などなど、地位も名誉も持つ「趣味人」研究家だった人物だ。

まあなので論文やノートなどがあればそれは学術的にも価値はあるだろう、
展示されるだろう、しかし女中の誰を雇ったのと言った記録など大した価値はない、
そう言うのが眠っている博物館なのさ。

俺も一緒になって色々書類を探すのだが、そのうち彼が興奮したように

「あった! ありましたよ、ご所望のものが!」

女中に関しての簡素な記録だった。

「1770年、ジョゼ=ジョット…
 なぁ、この近辺の時代の他…そうだなウィリアム=ハーシェルとか
 …天文学は違うかな…とにかく科学者の女中に関する記録にもっと無いかな」

俺が言うと、何か彼の探求心に火が点ったらしく、凄い勢いで探し回り

「嗚呼…居ました、こちらにも…ハーシェルの所にも、ジョゼの名が
 年代的には一番キャベンディッシュと長く関わっていたようですね
 1809年で退職になって居ます」

と彼が言っていて

「あれ、待てよ…」

と呟いて、彼は非公開分の絵画などがある場所に行き何かを探し始める

「どうしたんだい?」

「いえね…以前ジョゼなんとかいう女性のなかなかいい絵があった事を思い出しまして」

「それも18世紀なのかい?」

「ええ…年代的には…ここは無名画家やそれなりに名があるとしても流石に
 公開がはばかられたりするような物の保管場所で…あった!」

彼がそれを誇らしげに取り出し、俺に見せてくる、
俺に衝撃が走る、もしこれが不用意に、あの酒場での出来事ももっと半端な
事務所でのやりとりも簡潔だったなら、俺は気が狂っていたかも知れない。
学芸員はちょっと裏情報的に俺に付け加えた。

「実はこの女性、スパイだったらしいんですよ、当時の権力者の…」

「本当か…?」

「ええ…ええとですね、直接ではないんですが、調査依頼者から仲介者
 そして彼女…とこう言う場合に仲介者の方に記録がありまして」

「誰だ、その仲介者…」

「これです! ヘンリー=キャベンディッシュ! …あれ?」

調査仲介のための書類と思われるものを差し出しながら誇らしげな彼が一瞬固まった。

「このジョゼの肖像…1794年なんですよ、ホラここにサインが…
 で、…名前だけなら一致もあるでしょうけれど…私外国の名前にちょっと疎くて
 今確認したら…ファミリーネームがジョット…とあるんですね」

俺は俺の衝撃より、彼の気が狂わないかが心配になってきた。
俺の中で「結んでは行けない糸が結ばれた」気分になった…

「この女性…二十代中頃に見えますが、混血のようですし…
 1770年から94年の24年間…どうなっているんでしょうね」

「まぁ、生まれてから間もなく親が女中の契約をして小さい頃からって例も
 あるんじゃあないのか?
 94年のそれは、若く見えるだけで実年齢は30過ぎとか…有り得なくはないよな」

彼の精神が心配で俺は本当にそういう例があるのかは知らんが適当にフォローを入れた。

「そ、そうですねぇ…」

「それで…ちょっとお願いがあるんだ、明日に連絡して欲しい所が…」

「あ、はい」

俺はそれを言付け、博物館を飛び出しヒースロー空港へ向かう。
いてもたっても居られなかった。
ひょっとしたら俺の系譜にも彼女が居るかも知れない
俺の祖母の恩師…彼女の名はジョアンヌ、混血女性で博識、優しくも厳しい人だったと
俺はその思い出話を何度か聞いた事があるッ!

パリ行きの便は朝イチになるんだろうが家で大人しく寝ていられるような精神状態ではない
調べなければ、俺はもうそれだけだった!





翌朝、宣言通りジョーンは二日酔いだわ。
きっちりしてるやらしてないやら…ああ、あたし、ルナよ。

「「酒場に無理矢理連れて行くなら帰りは保証ね」という意趣返しなんて
 ウィンストンに判るはずないんだから、治せばいいのに」

「うん…でもたまには具合が悪いのを放置して身を任せるのもいいかなぁって
 放っておいても波紋は体を整えるわけだから、そう長い時間は浸っていられないわ」

「二日酔いに浸る、なんて貴女も酔狂だわね…一人暮らしの時もずっとそうだったの?」

「まさか…w」

「甘えん坊なのね、もう…」

呆れるんだけど、でも何となく今まで経験してきたこの女にまつわるあれやこれやが
結びついてくるのを感じる、ジョーンはある部分では成長の至らないまま
それでも泰然自若と「構えてなくてはならなかった」そして今仲間を得て
やっとそんな緊張を少しほぐせるようになったのだ、と言う事を。

「今から博物館行ってくるけど…何か欲しいものある?」

「レモネード」

彼女は即答した。
スッキリとした物が欲しいと言うくらいなら治しなさいよ…ともう一度思いつつ

「わかった、とにかく今日は仕方ない、明日までには復活してなさいよ」

「はぁい」

どことなくジョーンが可愛らしく返事をした。
なんていうの…あたし甘えられてるのね、何とも言えない気分だわ…
女性従業員部屋を出て、事務所にも顔を出す。

「じゃあ、午前中一杯くらいは行ってくるわね」

「おォー、行ってこいよォー」

「たまにはゆっくり好きな事をして来給えよ」

「無理しないでねぇ」

「博物館なんて学校行事以来だぜ、良くああいう所で時間つぶせるよなぁ
 大したモンだぜ」

最後のウィンストンの言葉に

「あたしにとって貴方のパブ通いが「大したモン」だと思うわ
 まぁ、それにさっき知り合いの学芸員から電話入ってさ、何か新しい展示もあるからって」

「はは、何か図ったようなタイミングもあった物だね」

ポールがにこやかに言うと

「ホントそうね、では…」

あたしはたまたま近くに居たリベラの頭を指先でちょんとつつき

「行ってくるわね」



歴史的展示物はそれほど多くないけれど、ここはあたしの馴染み。

とはいえ、…そうか、二年ぶりくらいかな。

さて…知り合いの学芸員が言ってた新たな展示物って言うのは…
ふむ、このコーナーを曲がった突き当たりか…
矢張り紫外線対策なのか少し薄暗いそこに慎重に紫外線を含まないLEDライトで
やんわりと照らされたその絵に遭遇した、撮影禁止と掲げられたその絵…
作者名と共に掲げられたそのプレートに

1794年「ジョゼ=ジョットの肖像」

あたしは全身が凍る思いをした。

ロングドレスなんだろうゆったりとした服のバストアップの絵
体つきはなので判りにくくはなっているけれど、胸のサイズ
肌の色、混血なのに顔つきそのものは西欧人という矛盾
優しくカーブを描く目に黒い大きな瞳、厚めの唇にも微笑みを湛えて

髪の毛をアップにしていて軽めにウェーブが掛かっているところや
その髪の毛に不自然に金髪が混じっていたり、相違点も少しはある

でも…それは…!

そこへ馴染みの学芸員が来た。

「やぁやぁやぁ…お久しぶりです、これ、なかなかいい絵でしょう」

いつ会っても、明るく、そして歴史的遺物が好きなのだなと言う前向きな物言い
…いや…そんな事はどうでも…

「これ…」

あたしは言葉に詰まりつつそれとなく察した彼が

「昨晩ですねぇ私宿直でして、ああ、そう言えばあの方も
 以前貴女と同じ職場でしたっけね」

なるほど…見えてきた…!

「ジタンね、彼とはほぼ入れ違いよ、でも彼がこれを?」

「ええ、いきなりジョで始まるジョット姓の女性を…とかで」

「…何故彼はいきなり」

「判りませんけれど、この女性なかなか興味深いんですよね
 私も今回ジタンさんが関連づけるまで単にこの女性、当時の為政者直属の
 スパイだったという間接的な記録がある、的な事しか知りませんでしたし」

「ひょっとして…ヘンリー=キャベンディッシュやウィリアム=ハーシェルとか
 スパイの傍ら科学者の元で働いた記録があった…?」

「あれっ、なんで判ったんですか? まぁ同姓同名って可能性もありますけど
 写真があったわけではないのですから、それにしてもびっくりしましたよ〜」

なんて爆弾をいきなり落とすの、ジタン!
ええ、確かにあたしも彼女は18世紀には存在し、イギリスに関わり
幼かった頃の故郷の出来事も考えたら下手したら300年近く遡るとは思っていたわよ!

あたしはそれも追々と、彼女が語りたいように語ればそれでいいと思っていたのに…!

「いやぁジタンさんもお疲れでしょうに私にこの絵の展示と貴女への朝イチの連絡を
 頼まれたらヒースロー空港まで一直線ですよ、何が何やらですが
 …それにしてもこの女性、まぁ確かに美しくてミステリアスではあるんですが
 それにしても大きく歴史に関わっていると言うわけでもないのに、
 何か特別な意味でもあるんでしょうか?」

「あ…ッ、いえその…知り合いに似ていた物だから…」

何ストレートに応えてるのよあたしィーーーッ!

「そうですかー、いやあ無名画家とは言え、なかなか上手い人なんですよね
 しかし何とも絶妙過ぎて怖くなるほどの混血加減ですなぁ」

ジタン…貴方後悔するかもよ、気が狂うかも知れないほどに。
彼の性格からこれは彼自身の好奇心だと判る、
無理矢理掘り返して、それが理解を超えていた記録の可能性は高い

「…ちょっとお願いがあるのだけどいいかしら」

「はい、リリーさんの要望とあれば多少の事は」

これほど大学時代真面目に研究として通って良かったと思う事はない、
あたしはその用事を済ませ、挨拶もそこそこに博物館を飛び出した。



出掛けて物の一時間弱、あたしは事務所に戻る
…レモネードの事なんて頭からすっ飛んでたけど当のジョーンの所望だもの
思い出してしまって結局それも買ってきてしまったわ!

「おや、ルナ早いね」

ポールがびっくりしてる

「どーかしたの? 凄い剣幕だよ」

アイリーもびっくりしてる
あたしはそこにウィンストンが居る事を確かめ

「ウィンストン、ジタンのメルアド判る?」

「判るが…どーする気だ?」

「野暮すぎて腹立つくらいの野暮用だわよ!」

ウィンストンの表情が「何こいつプリプリしてんだ」という表情だけど
メモ用紙にアドレスを写し、あたしに寄越す

「ありがと」

あたしはそれを手に事務所から出て隣へ戻る。
みんなは「訳が判らない」という表情をしていたけれど、今は話す余裕はないッ

部屋に戻ると、ジョーンはまだ寝室の向こう側のようだ。
あたしはどっかりと椅子に座りジタンにメールをする。

『やめときなさい』

直ぐ返信が帰ってきた

『ダメだ、もう止められない…第二次世界大戦辺りはフランスで確定だ』

もう偉い勢いであたしの親指が返信を打ち込んでる

『ええ、1700年代まではそんな感じで事実を確認して回るだけでしょうよ
 でも多分彼女の抱えた物はそんな物ではないはずよ
 やめなさい、貴方の気が狂うかも知れない』

『耐えられなくなったら一度戻る』

『とりあえず、貴方の事だから心配はしていないけれど
 ヘンに全ての情報を一本の線に繋がない事よ!』

『ああ、矢張り君はそこを心配してくれるのか』

『当たり前でしょ、こっちだってジョーンの口から直で聞く選びに選び抜いた
 僅かな話せる範囲の情報だけで十分混乱してるんだから!』

『忠告は聞いておくよ、その通りだ一本に繋げる必要なんてないものな
 まぁ…さっきも言ったが疲れたら一旦帰るよ』

あたしがこの返信にどうしようどうしようと考えて居ると…
いつのまにか背後にジョーンが居た!

「あッ! ちょっと…! どこから見てたの!」

「戻ってきたはずなのにレモネードが来ないなぁって」

「あ…ああ、レモネードね、はい」

あたしがそれを渡すとジョーンはもの凄く「これが欲しかった」という感じで一気にあおる。
そして少しスッキリしたかのように「ふーっ」と一息つくと

「…まぁ、そうよね、300年くらいはどうしたって遡ってしまうわよね
 貴女やポールはそこまで考えを巡らせていたでしょうし」

なによそれ、ほぼ最初っから見てたって事じゃあないのよ

「今のあたしもそうだけれど、あなたも迂闊が過ぎるわ
 結構記録に控えられてンじゃあないの、絵まで描かれて」

「素描でいいと言うから受けたのよ…写真という技術が確立してからは
 流石になるべくそう言うのは避けたわ、文字だけの記録なんて
 何とでも言えるし、科学捜査が立ち上がった頃にはそう言う業界からも
 足を洗っていたしね…」

「素描…ね、貴女は自分が他人に与えるインパクトという物を甘く見ているわ」

あたしはメールのやりとりを諦め、さっき博物館でお願いしたもの…
それは撮影禁止のはずの「ジョゼ=ジョットの肖像」を写真に撮らせて貰ったものを
画面一杯に出してジョーンに突きつけた。

ジョーンが呆気にとられた。
「まさか油彩でしっかりと仕上げまでしているなんて」
そう彼女の顔は言っていた。

「貴女、余程自分なんて大したものじゃない、森林に紛れた木一本に過ぎないと
 思っているんでしょうね、 大 間 違 い よ、
 絶妙な混血具合、凸凹しているのに整った姿態に美術品のような筋肉
 ちょっと貴女の最初の頃の微笑みにはアルカイックスマイル的な物もあったわ
 判る? 貴 女 は と て も 美 し く て 目 立 つ の!」

彼女の思考が真っ白になったのが判る、矢張り自覚がなかったのね

「か…体については確かに…なんてこの人は美しいのだろうという人の物だったけれど
 それもその後、左足や左手や左頬から頭皮に掛けて入れ替えたりしたし…」

「ちょっと待って何だその情報はァァアアアーーーー!」

さらっとスゲー事言いやがったこの女!!
ジョーン自身も今の物言いはホラーが過ぎると思ったのだろう、
あたしに「ちょっと落ち着け」って感じのジェスチャーをしながら言葉を選んでいる

「とにかく、落ち着いて聞いて。
 そう、わたしは始めはただの田舎娘だった、白人のね、ローマより南だけれど
 母が北方系だったらしく彼女の血が強く出て、それでもわたしはイタリア南部の
 豊かとは言えない村のただの娘に過ぎなかった。
 ちょっと飛ぶわね…その後…エジプトで初めて自分以外のスタンド使いと戦う羽目になって…
 体を切り刻まれまくったの、でもわたしは死ななかった、死ねなかったの
 それで…どう言う偶然か一応その戦いが終わるって時に神殿跡かしらね
 そこの台座の上に、死体があったの、今死んだばかりって感じの…」

あたしは一生懸命頷くしかなかった

「当時のわたしには科学なんて判らない、そんな素地もない
 とにかく、死ねないなら生き延びなければならない、
 それで…自分のアイコンである顔だけ目印に魂ごと移植して
 体を入れ替えたのよ…それが最初」

「…魂の移管なんて貴女の能力に含まれるの?」

「わたし自身に限って有効なの、どうあっても、わたしは死ねないのよ
 それでまた時代が飛んで…冬の東欧で戦いの中で火にあぶられる羽目になったのね。
 その戦いは何か相手の不都合があったのか勝てたのだけど、
 その為に主に左半身が…これも当時のスタンド能力ではどうにもならないというか
 出来たとしても数年がかりの修復…仕事でその戦いにもつれ込んだのだから
 報告などの関係でそんな悠長な事も言っていられず、
 当時は冬に凍死する人も結構居たから…その中から年代や体格のある程度合う
 女性の死体を選んで…入れ替えて…余りにちぐはぐなわたしの成り立ちで
 バランスばかりは気にしたけれど…見世物小屋行きになっては元も子もないから…
 まさかそんなインパクトがあるなんて…」

あたしはその言葉に

「自家製フランケンシュタインか…」

「うんまぁ…そういう事なのよ…顔面だけがわたしのオリジナルパーツ…」

「ヤバいわ、やっばいわ、あたしなんて事聞いてしまったのかしら」

「厳密にはね、死ぬ事は出来るのよ、でも…
 そう、最初の切り刻まれた時の戦い…「アヌビス神」の暗示を持つスタンド使いでね
 刃物に宿っているスタンドなの、それで持つ相手の精神を乗っ取って
 ただただターゲットと定めた人物を切るだけの…
 そして物質も透過して斬りたい物だけを斬れるスタンド
 しかもこちらの反撃を「覚えて」次にはその反撃も利かなくなる
 
 その時ばかりは恐怖したわね、そして絶望したのよ
 それまであれだけ「死にたい」と思っていたのに、
 切り刻まれて逃げ惑ううちに「死にたくない」と思って逃げていた…
 その「死にたくない」という本音がある限り、わたしはどうあっても死ねない
 生きるしかないのだとその時悟ったわ」

死にたいと思っているはずなのに死にたくないと気付いた瞬間が絶望か…
あたしもその気持ちはわかる、でも、正直ジョーンの抱えた物に比べたら
あたしの身に起こった出来事なんて、どれどほ小さな事なのだろう。
もの凄く、あたしは身につまされた。

そんなあたしにジョーンは

「「今のわたしの体」のベースになった人は確かに美しかった
 なんていう名前だったのだろう、もう判らないけれど。
 さっきも言ったけれど、わたしのオリジナルパーツは顔面だけ
 肌の色は全体色に合わせて馴染んでしまうから、本当に顔面の形だけね
 その美しい人の顔面も奪ってしまったし、その綺麗な体は波紋効果などで
 自動的に鍛え上げられてしまう、まさかわたしがそんなインパクトを持っているなど…」
 
あたしはジョーンの顔を両手で挟み、それを奥にやってジョーンの
あの優しそうな瞳を含めた顔がちょっと横に延びる。
ジョーンはそのあたしの行動にちょっとびっくりした。

「貴女のその顔も、矢張り美しいのよ」

あたしは再び折りたたみの携帯を開きメール画面にする。
そしてジタンに対する返信

『ジョーンに見られてた、色々ぶっちゃけられてもう大概の事では驚けない
 その程度と言えばその程度なのかも知れない、とにかく悶絶したいなら一人でしてなさいな』

それを見ていたジョーン

「ちょっと突き放し過ぎじゃあない?」

送信完了

「お互い様だわ、ジョゼ=ジョットの肖像は彼の誘導で見させられたんだもの」

「彼…聡明な人だけれど、大丈夫かしら」

「耐えられなくなったら戻ってくるって言ってるのだから、大丈夫でしょ
 …それにしても、そうか、貴女は元々はイタリア…おっと…イタリアは
 時期によってかなり勢力図が変わるから、イタリア半島の人なのね」

「ええ、それに子供の頃なんて今いる所が誰の領土でなんて気にしても居なかったわ
 ただの田舎娘よ…ただ、ヴェネツィアはね」

「そうね、ヴェネツィア共和国ね、はぁ、そうか、なるほどなるほど…」

妙に色々納得したけど、これからこの情報を反芻しなくちゃならないわ
そのくらい、ストレートに全情報なんて受け止めきれない。

「どんな子供時代だったのかしらね、貴女は」

「お転婆だったわ」

「ホントに?」

「ええ」

「あははっ、ああでもなんか今でも面影はあるのかもね、あはは」

昨夜の騒動なんかも思い出し、思わず笑ってしまった、心から笑ってしまった。
あ、何か凄くあたしもヤバい物見られてしまったという顔になったと思う。
ジョーンも「いつもの」ではなく、もの凄く満足そうに微笑んだ。

あたしは赤面した。



ジョーンの気分が戻った所でジョーンが結局夕食を担当する事になった。
そしてそのジョーンが調理中、夕飯を待つみんなに衝撃的な部分を除き、
少なくとも300歳以上確定と言う事を告げた、ジョーンが話してもいいと言うからね。

少し覚悟してたポール以外は流石に混乱の渦だわ
そう、あたしらは大変な人を招き入れたのよ、そしてそれを越える努力をしなくてはね。

混乱するみんなを余所に、でもあたしは何だかジョーンがちょっと身近に感じられるようになった。
笑った顔も見られたしね、次はあたしの番なのだとちょっと緊張もする

ジョーンの前ではちっぽけな出来事かも知れないそれは、
でもあたしの人生を左右するのには十分だったのよ。

ま、次の機会に譲りましょ。


第二幕 閉幕

幕間 一  終り。

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