L'hallucination 〜アルシナシオン〜

CASE:Seventeen

第三幕


電気を消すと何かのほのかな光が通りを彷徨っている。

御園がちょっと気になったように窓の外を見た、そこへソファの間の床で寝ると決めた平塚が

「赤いのはモウリョウ、緑から黄緑のがスペクター、濃い紫のがシャドウ…白っぽいのは
 ウイル・オ・ウイスプだったかな…白っぽいのと赤いのは俺でも倒せるくらいだよ」

「ええと…それらは外道という分類でしたか」

「弥生が経験者でよく知ってると思ったがそうか、公安だしあんたも勉強はしてるよな」

「モウリョウとは戦った事があります、黄緑のと紫のが要注意と覚えておきます」

「ハ、何だかんだあんたも素人じゃないようだしな、俺は安心して眠れるよ」

「あ、でも…大きな魔の接近には気付いてくださいね」

「それは震度四以上の地震くらいには感じるよ、大丈夫さ」

「では、お休みなさい」



寝静まった夜更け…何時かは確認していないが…
少しずつ、少しずつそれらは近寄ってきていた、
薄いほのかな色とりどりの光が強くなってきた。

室内にも間接的では無く直接ほのかな光が差し込んできた…

平塚が飛び起きようとすると頭の上にはテーブルが、がつんと音がして

「いてッ!」

と言った時である。

「うるさい!」

と弥生が声を上げつつ、窓から侵入しようとする外道でも霊体の者達を銃で撃つ、
同時に可成り反射的に出入り口から侵入してこようとする外道達にも御園が銃を数発撃っていた。

その一発一発が祓い弾、ウイスプやモウリョウなどは一発で浄化されて行き、
スペクターには二発、シャドウには三発を要した。

「んー?
 なんか一つ大きいのが来るわねぇ、その気配? ヒロ君」

「やめろその呼び方! そうだ! たまーにだけどでっけぇ怨念見たいのが来るんだ!」

痛がりつつ平塚は机の下から這い出て向かい合ったソファと社長席の間の空間に出た。

「青緑のソイツ…しかも特別デカいソイツ…、ファントム!」

二階の窓からこちらをのぞき込むデカい怨霊、
弥生は寝ぼけ眼ながらもすぐ側に立てかけてあった稜威雌を手に取り、抜刀と共に
ファントムへ切り掛かりつつ飛び出していった!

「お…おい! 天野さんと四條院さんよ! 敵襲だ!」

揺すって起こそうとしたが「触れたらあの世行き」を思い出して一歩退いて叫ぶに止まる。
御奈加達はぐっすり寝ていた。
そこへ弥生が窓の淵に戻ってきつつ

「「それほどの危機じゃない」って事でしょ、眠らせて上げなさいな
 天野と四條院は二人ひと組でないと回復もおぼつかなかったりするようだから」

「いやでもあんた」

「私は大丈夫…おっと(針攻撃を躱しながら)目も覚めてきたわ」

そんな時、物凄い雷撃が弥生を襲った!

「…ッ! 今のはけっこー効いた…益々目が覚めたわ…!」

また弥生が跳びだして行き今度こそはファントムを強制祓いし、取り巻きの外道達に至っては
一振りで全て浄化したようである、

「御園ー戻りながら侵入したヤツ潰すから、中に入ってきたのだけ撃ってね」

「はい、判りました!」

ややもして廊下で色々音や声などがして近づく靴音、
そして入ってくる弥生。

御園がほっとして銃を下げたその時だった。

出入り口の向こうからまた弥生が!?

「御園!」

先に入ってきた弥生が問答無用で御園に斬り掛かる!
御園が一瞬死を覚悟したその時金属のぶつかり合う音!

平塚が鉄パイプでその弥生の刀を横から殴って軌道をそらしたのだ!

「チェい! 俺だって戦えねー訳じゃねぇ、でもドッペルゲンガー…厄介なんだよな…
 相手の上辺だけでもコピーしやがるから」

「ドッペルゲンガー? 魔階報告書には書かれていなかった…」

御園が記憶を振り絞りつつソファを盾に後ろ側に避難しつつ、平塚が

「数が少ないのと…あとは人に紛れて普段何気に過ごしてるから正体が掴めてないんだと!」

そこへ弥生が偽弥生に切り掛かりつつ、

「へぇ、私のコピーねぇ、横からの殴打を受けているようじゃまだコピーは完璧では無いようね」

弥生は戦闘体勢を解きつつ

「いい? 上辺のスペックだけ盗んだってそれは飽く迄(あくまで)もパチモンなのよ
 ほれ、時間をやるわ、私を完全にコピーしてみなさいよ」

弥生に似たそれはにやりとして、弥生の声と何か別の声をミックスしたような声を響かせ

『馬鹿か…?』

「そう、馬鹿なの、ほれ、私の技から何から盗みたいなら記憶も読まないとダメよ?
 ぜーんぶひけらかしてやるわ」

『お前の事は見ていた…お前を完全コピー出来たら…この新宿のトップに立てるかもしれない…』

御園や平塚が弥生に対して「何やってるの!?」という目を向けつつも、
弥生は突っ立ってただドッペルゲンガーのスキャンを受けていた…のだが…

ドッペルゲンガーが頭を抱えて苦しみ出す、

「そんな事でへこたれない! カラビト茸を祓った記憶! 八岐大蛇と戦った記憶!
 ほか今までの人生で戦ってきた記憶の他に、先代、三代、二代の記憶だって
 私には有益な情報満載なんだから、全部受け止めなさいな!」

偽弥生が膝をつき、体が破裂して行く。

『お前…一体…!』

弥生は偽弥生を居合いで真っ二つに切り裂き、鞘に稜威雌を戻しつつ浄化からの消滅に
処せられたそれに背を向けて

「私は二十六歳、でも私の記憶や直系では無くともその血の中には七百年に及ぶ
 祓いの記憶が宿っている、受け止められるモンならそれと戦ってみたかったけれど、期待外れだったわ」

外での戦いで割とダメージも受けた様子であるが、その眼光だけは鋭かった。
この期に及んで本気を出せる戦いが出来るならしたいという欲求、なんて業の深い
戦う事を生きがいとしているかのような弥生。

「あー、流石にふらっふらだわ、クレープ二十枚丸々残しておきたかったけれど少し食べるか…」

弥生がリュックからクレープを一枚取り出して頬張る。
元々回復用だ、そんな美味いとか言う物では無い、微妙そうな表情の弥生だが目を見開いて

「うっわ…すっご…気力が漲ってくる…よし…傷治すか…治してもう一枚だな…
 御園も一枚食べるといいわ、「気疲れ」の素のような物が解消されるわ」

「え、でも祓いも持ってませんし…」

「何言ってるの、これ元々魔術用の物よ? 「祓いにも」使えるってだけだし
 バスタースキルなんて持ってると派手に気力使うらしいけれど、
 連射とかやってると普通に減るみたいだから、一つ行ってみれば?」

平塚がそれに

「まークレープは過ぎたモンかも知れないが、普通に効くぜ」

それでは…と言う感じで一口食べて矢張り微妙な表情をしたかと思うと目を見開く

「効いたみたいねw」

弥生が優しく語りかける。

「すごいですね…気力という物を定量化して居るだけでも凄いんですけど…」

弥生はにっこりしつつ、流石に更にボロボロになった服を着続ける事には抵抗を感じたのか
そして服の痛みを直すにも祓いは使う訳で、直すでも無く窓際に立って

「東の空が白んできたわねぇ、クレープのお陰でとりあえずこのまま寝ないでも行ける」

そしてそのまま弥生は服を脱ぎだした。

「おっ、おい、ちょっ…俺もいるんだぞ!?」

「見たきゃー見なさいよ、何かが減る人も居るし、私は「減らない」人だからさ」

とは言え下着までは脱がない、明るくなってきた空をバックに矢張り見える全身の傷跡。
凄いボディを見た、の後は凄い傷跡を見た、となる。
御園は出雲での事を思い出したが、左足に新たな傷跡…そう、出雲での大蛇の戦いの痕だ。

「天野さんなんかはまぁ見えるところにバリバリ傷跡もあるけどよ…
 スーツ着てれば全く判らないようなあんたでもそんなんなんだな、
 外ってのは結構危ないのか?」

「祓いなんて誰もがそうと知らぬうちに脅威を祓う仕事、
 祓いを持たない人が人生を謳歌出来るように、発展して行けるように裏から支える稼業…
 とはいえ、流石に祓いだけじゃなかなか生きるのは難しいんで私は探偵やってるけどね」

「必殺仕事人かよ…」

「流石に生きた人間はよっぽどじゃないと殺さないけどね、善悪の判定とその裁きその物は
 法に委ねるのよ、それが近現代を駆け抜けた国家のあり方」

「じゃあ、あるのかよ」

弥生はにっこりして

「ヒミツ♪」

怖っ、平塚も御園もひるんだ。

「まー大丈夫よ、もしそうであったとしても今は間に特備…御園のような人が居るからね
 もしそれで殺人許可が下りたのだとしてもそれは「そうして然るべき」という判定を下されたヤツ」

弥生はトランクから櫛を取り出して髪を梳きながら

「ま、無駄話はそこまでよ、スーツはイヤだしやっぱこっちか…」

髪を梳き終わったらリボンで髪の毛を中程で結わえて
衣を取り出し袖を通す。

それは白衣(はくえ)、それ一枚だけを着るようだ。

「結局、そうなっちゃいましたね」

御園がほほえみかけると弥生がシケたツラで

「だってここまで暑いとは予想してなかったんですもの」

帯紐をぎゅっと締め、袴は穿かずに着流しで立ち上がり

「うん、これが楽だわ、稜威雌も紐通して肩掛けにして…と」

朝日が差し込んできた室内に浅黄色の着流しの女、そしてそこには野太刀稜威雌。

「日本人離れした体型なのに、まるでホントにそんな剣士が居たかのようだ」

平塚が言うと御園も

「似合いますよ、着流し」

「四代がね、こんな感じだったらしいのよね。
 詳しい事は玄蒼市から資料届かない事には判らないけれど」

平塚が

「あんた、札幌の人のようだけど、なんで玄蒼市にそこまで関わってるんだ?」

「ふむ…、まぁ魔界都市新宿の人なら言っても大丈夫か、
 札幌は今魔界の誰かさんに狙われているのよ、ただ狙われているんじゃない、
 きちんと日本国内の権力に紛れていつか札幌をひっくり返して
 ここのように、いえ、ここより上手く自らの支配領域として君臨したいようでね」

「え…誰だよ」

「まだ尻尾の先くらいまでしか掴ませてくれなくてね、正体までは不明」

「マジかよ…新宿区なんて東京全体の中でも知れたもんだけど、札幌は広いだろ
 生まれも育ちもここだけど日本地図くらいは見るからな」

「そう…そして札幌だと宗教的な施設にしてもアイヌだと土地その物を伝承で、になるし
 日本の神社とかお寺とかになると明治以降からの歴史だからね、
 寝る前貴方も言った、霊験あらたかと言うには弱い場所…それでいてそこそこ栄えているからね」

「なるほどなーバスターが来なかったのはその…直接かどうかはともかく前哨戦って言うのもあるのか」

「新橋が狙ったのはそれでしょうね、まぁ前例のないことでゴタゴタしたけれど」

そこへ御園が

「あ、新橋警視正は公安特備のトップです、そしてかつては弥生さんの担当でもありました」

「なーるほどねぇ、深く聞けばなるほどって話だな、ま、聞いたからには協力はするよ」

「案外義侠が強いのね、貴方は」

「この裏新宿は一気に魔界都市になったんじゃなくって「このまま放置すると大変なことになる」から
 早めに隔離したんだってよ、で、基本望んで残ったヤツと後から望んで来たヤツで構成されてる、
 今の表新宿が何人住んでいるか知らないが、裏新宿よりは多いだろ
 札幌までそうなるこたーねぇ、それだけのことさ」

ちょっと呆れ返ったように御園が

「なぜ泥棒など稼業に選んだんですか?」

「アウトローに成る程力はねぇが、全うに生きるほど往生際も良くねぇ、ま、悪あがきさ
 いつか痛い目に遭うんだろうって思うよ、でもしょうがねぇ」

「要領よく生きなさい、知は力よ」

自然とさらっと言ったがそれは三代の言葉、ドッペルゲンガーに対して放った
七百年の記憶が刻まれているというのは本当のようだ、今の段階で少なくとも
二代・三代・五代の記憶を弥生は持っている…裏の歴史でも、
戦いの中で果てることを覚悟しながらも、それを誇りに思っている、
祓いの世界にも惹かれる、そんな風に強くありたいとも思う、御園の心は揺れ動く。

「ま、今回はじゃあその情報代って事で手を貸すよ、実は既にあいつらの位置は掴んでいる」

弥生が片眉を上げ

「どこ?」

「太久保小学校跡地、ほぼ中心だな」

「成る程ね、陣を敷いて待ち構えるって事か、上等だわ」

「罠に飛び込むような物ですよ」

御園がちょっと心配そうに言うと

「恐らく、正体不明の大将と残り三体の神将、それに取り巻きがうじゃうじゃいるんでしょうね
 御園は近くで様子見してる? 恐らくもう少ししたら檜上って男から連絡は来るわ」

御園は強い表情で

「いえ、行くというなら行きます、取り巻きであれば貢献は出来ますし…ただ…」

「貴女は弱みなんかじゃないわ」

思っていたことを見透かされる、御園はちょっと俯いて、でも強い意志で顔を上げて

「行きます、行かせてください!」

弥生は微笑みつつ

「あんたはどうする? 平塚、あんたに場所教えて貰ったから私もあいつらの気配は掴んだ」

「ここまで来て水くせぇよ、俺は江戸っ子だぜ?
 ただ武器になるよーなモンは欲しいかなぁ、鉄パイプじゃやっぱ心許ねーし」

「武器屋は?」

「ある、ピンキリだけどな」

「よし、9ミリパラベラムの使える銃がいいわ、調達しましょう」

「カネどうするんだ…」

そこへ割って入ったのは御奈加だった、目覚めたようだ。

「おはよ、大丈夫、こんな事もあろうかと私の分は多めに換金しておいた」

「抜かりないなぁ、流石だぜ」

御奈加が起き上がると、皐月も目を覚ましたようだ、そしてお早う御座います、と声を掛けようとした時
弥生の姿を見て少し息を呑んだ。

「? どーしたの」

クエスチョンの浮かぶ弥生に寝ぼけ眼の覚めてきた御奈加も続いて驚いた。

「うぉっ…弥生かよ」

「私だけど何か?」

「いえ…何と言いますかこう…違う時代から来た人のようで…十条歴代の誰かのような…」

「ああ、イメージとしてはあるんだけど、四代がこんな感じだったのよ、それでね」

「道理で…」

「上着脱いでブラウスだけってのも考えたんだけど、腰と脚蒸れそうでさぁ、
 真夏の救援は真っ平ゴメンだけど、次は生地も素材から考えなくちゃねぇ」

「いやぁ、ビックリしたけど似合ってるわ、あ、おはよ」

「おはよw」

「お早う御座います…、うっすらとは聞こえておりました、場所は私も掴みました、
 恐らくは向こうもこちらを把握しているでしょう」

「ある意味有り難いけどな、昼には終わりそーかな」

「どっちが勝利するかは別でね…負ける気は無いけどさ」

「なーに、どう死ぬかだけが問題さ、いつ死ぬかなんて問題じゃないね」

いとも簡単にそんな会話をぽんぽんしている。

「では先ず…平塚さんの武器を調達しましょう」

御園が出発を促す。



銃を調達すると意外なほど安くビックリする外の一行に

「品質も悪くないんだ、ただ、いい獲物はそこそこしてくれるぜ?」

成る程、手練れ向けとされるそれらは確かに高いのだが、そこまで行くと本当に強いのか?
と言うような冗談みたいな武器もあったりする。

「弓はないのね」

弥生がちょっと残念そうに言うと

「弓は弓屋だな、おう、弾も買ってくれよ」

「弾はいい、これを使いなさい、ただの銃弾よりは効くわよ」

と言ってリュックを渡す、結構な重さに一瞬地に引っ張られる平塚だがそこへ御園が

「弥生さんが作った祓いの刻印入り弾丸なんです、大物相手ですと効き目もそこそこですけど
 取り巻きであれば充分対等に戦えますよ」

「そりゃいいや、俺にリュック全部って事は俺にこの御園ちゃんと共有しろって事でいいのか?」

「お願いするわ、じゃあ…弓の調達ついでにご飯と飲み物がっつり欲しいわね」

「あー、確かに夏の東京は何度来てもクソ暑いな、水分補給はしておきたい」

御奈加も同意する。



朝からやっている食堂で大量のご飯を食べて居る三人を抱える一行、
御園はもう慣れたモノなので自分のペースを保てるのだが、平塚は引っ張られて
必要充分異常に頼んでしまい後悔する訳だが、そこを上手く手を付けず
「贐(はなむけ)だ」と分ければ御奈加辺りが「気が利くな、サンキュー」と笑顔で受け取り
祓いの三人でシェアする。

シェアされた一品料理を美味しそうに頬張りながら皐月が

「弥生様、銃も御座いますのに弓も使われるのですか?」

「うん…弾丸は実体でだけれど、矢は祓いで…と思っているのよね、
 祓いは余計に使うけれど後からコントロールしやすいし」

普通ならこんなコントロールに癖のある空間でそんな賭けは余程短期狙いでないとしない物だが…
御奈加も食べつつ

「そんなに効くのか? クレープ」

「すっげぇわよ、賭けを成立させて勝利に引き寄せるのにはいいアイテム」

「弥生がそこまで言うならなるほど、取り出しやすい場所に潜ませておくのもいいな」

「一気に全快とは流石に行かないけどね、皐月なら尚更だけど」

「でも…(口で手を押さえ食べて飲み込み)ここぞと言う時に大きな力を一回分でも
 補充出来るのだとしたら確かに…(箸でおかずを切り分けながら)いいですねぇ」

「ま…あとはどれだけ引っ張られるか…だけどね、向こうもそれは承知しているでしょうし」

「綱引きの為所(しどころ)だな」

「さーて、大将、お勘定」



小学校跡の門前…、一行が到達する。
ここまで来るのに殆ど戦いはなかった、多くが小学校跡地に集結しているようだった。
余りの異様さで周囲のアウトローや元バスター、あるいは駐在しているバスターまでも見学に来ている。

そして校庭跡には…もっとフィールドとして使い良いように広く踏み固められていてそしてその奥には…

「おいおい、凄いね、こりゃ」

御奈加が呆れたように言う。
いっそう大きな総大将と三人残った神将、それ以外にももう属性にも依らずフィールドに居るのであろう
普通の悪魔やちょっと特殊な悪魔がそろい踏みである。

いよいよお互いの間合いの外ギリギリと言った所で一行が立ち止まり、弥生が先ず

「あのさぁ、先ず戦闘領域を隔離してギャラリーと隔絶してくれない?
 どんなとばっちりがあったもんだか」

総大将が口の端を上げ

『進んで見に来ている人間に対してこちらがそれを守る義務などあるのか?』

「貴方ねぇ、ここに君臨したいのでしょう?
 仏法はいいとしてそれだって元々権威的な物では無いはず、不殺生を解きながら
 従わずんば排除するじゃあ、そんな統治いつまでも続かないわよ?
 ここに居るギャラリー吹き飛ばしたらバスター管理局だって黙ってないでしょうし
 全面戦争でも始める気?」

『それも厭わず』

「「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」って知らない?
 武田信玄の言葉とされるわ」

『しかし彼の者は絶え、結局はその国は飲み込まれたが?』

「あら、結構知ってるのね、でもそれも巡り合わせだわ、信長だって秀吉だって徳川だって
 結局は必要以上に庶民に口出しは出来なかった、
 一揆なんて最後の手段、この日本じゃ民がお上に手紙にせよ陳情だって出来る国、
 人をおろそかにして強権と力での支配なんてこの日本じゃやってけないわよ?」

ギャラリーが湧く、祓い組に力が湧く、厭らしく言えば人心は掌握した。

『しかし力による攻防を求める心があり、この町にはそういう者も多々居るであろう
 儂がその白黒を付けてやる、それではいかんのか』

僅かではあるがギャラリーの中でもアウトロー特化みたいなのも湧く、

「…これ以上言っても無駄か、力の支配の底には人々が居て人々にも事情や限界があるのだから
 どこかで上手くしないと…困るのは貴方達の方だというのに」

『一時的には弱体化もしよう、だがそれでも人はやってくる』

「ま、そーね、(ギャラリーを向いて)言っとくけど貴方達全員を守ることは出来ないからね?
 命が惜しかったらそれなりの回避手段や防御手段は発揮させなさいよ?」

それを受けてギャラリーが戦闘をたきつけてくる。
御奈加がそれに呟く

「全く…いい気な物だな、あいつら」

皐月がそこへ

「それが「人々」と言う物ですよ」

平塚が浮き浮きしながら

「悪くないね、こんな場で多少でも活躍なりすれば株も上がるってもんだ」

「それも一つの動機ですね、否定はしませんが…それなりには働いてくださいね?」

「おう!」

「御奈加さん、弥生様、出来る限りはお守りします、ですが斬り込みに行く場面になったら
 私は蒲田さんと平塚さんを主に守りますよ」

「御園だけは何が何でも逃がしてやってね」

「そーだな、連絡は誰かがしなくちゃならない」

弥生と御奈加の会話に御園は「最後まで居る」と言いたかったが、でも確かに必要なことだ。

「…判りました、でもそれは本当に最後の最後の手段です」

御園が言うと、弥生が

「では始めましょうか!」

こちらの戦意が整って一歩進むと同時に向こうが範囲攻撃を仕掛けてきた、
呪文なり特技なり、それらが一斉にやって来る…が、皐月はその全てを受け止めた!

「厄介ですよ、これを突破となると」

涼しい顔で言う物の、続くと流石に…という気も受け取れる。

「そんな時の…私の矢さ」

弥生が弓を構えると祓いの青い矢が出現する、続けて

「なるべく一気に多くを…と行きたいから…少し持たせてね」

「判りました、大丈夫です、いつでもどうぞ」

轟々と滾る祓いに

「大丈夫かよ、そんないっぺんに」

「大丈夫…少しでも隙が出来たらクレープ咥えるわ」

「そうか、成る程な、それならこっちも…」

御奈加も刀を抜く構えで轟々と赤い祓いを滾らせて行く。

「問題なのはこの次よ…相手がどう言う反撃を仕組んでくるか…
 相手の能力が知れないって言うのはちょっと痛いわね」

「向こうだってこっちを読み切れていないだろうさ、せいぜいそこを突かせて貰う」

「…ああ…それにしましても弓を構えたお姿、矢張り浮かびます」

皐月が少し弥生の姿に見とれる。

「彼女ほど嫋(たお)やかな女じゃないけどね」

そして弥生は目を伏せ、いよいよ集中する。

この間に壁で受ける諸々の攻撃の奥に近寄ってくる悪魔達も居る、
御園や平塚も銃撃を始めた

そして、弥生が矢を射る!
相手の魔法も何も吹き飛ばして一直線に進む矢の先には総大将!
「払い落としてやる」と言わんばかりに総大将が力んだところで矢は四方八方に枝分かれし、
総大将の周りに居る悪魔達を次々と祓ったかと思えば勢いの続く祓いの場合はそこから更に枝分かれして
次々と悪魔達を浄化していった。
「そんな技は見ていない!」とばかりに少しひるんだところを今度は皐月が防御はそのまま
全方位に飛び散る祓いの詞をこれまた当たれば炸裂するように撃つ!

あれだけ居た軍勢が次々と…と、少し呆気にとられた十二神将の一人は次の瞬間には
あっという間に距離を詰めた御奈加に両断され、着地した御奈加は更に悪魔群に分け入り
仕込み刀とは思えないリーチで敵を薙ぎ払う!

と同時に弥生は更に空の悪魔に向け祓いの矢を何度も打ち込み、最初の一矢に比べれば
威力は落ちる物の次々と炸裂する祓いで軍団にダメージを与えて行く!

そして、ちゃっかり隙を見てはクレープを咥えていて回復も平行してる三人。

総大将にも御奈加は切り掛かるが、流石にそれは強力な魔力を帯びたその刀に受け止められる…!

「ハ…! やっぱあんたはひと味違うな!」

『おのれ…!』

総大将は呪文を唱え始め、弥生が

「御奈加! なるべく狭い範囲で身を守って!」

御奈加は左手でサムズアップをして襲いかかる魔法に仕込み刀の刃を向け身を守る!
縦一直線に腰から頭までを完璧に守った代わりに手足にダメージが走る!

「中々厳しいな…この怨の言葉は…気を緩めたら即死だぜ…!」

続いて総大将は御奈加に集中して襲いかかり、

『冥界破!』

全方位に及ぶ武器による攻撃を仕掛けてくる、御奈加はその勢いを受けつつそれを利用して
皐月の守りの範囲内にクレープを咥えながら戻った!

「一個じゃ足んねぇ…!」

貪るようにクレープを食べるとみるみるダメージが回復して行く!
皐月がそれでも心配だというように一瞬御奈加に視線をくれたその時!

十二神将最後の二人と総大将が纏めて呪文や特技をお見舞いする!

「…しまった…!」

皐月が詞を唱えるも、一つの効果を許してしまった!

『死神の鐘…散華…!』

その声は背後から!
いつの間にか背後から出現していたそれ!
一行が大ダメージを食らう!


第三幕  閉


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