L'hallucination 〜アルシナシオン〜

CASE:TwentyOne

第三幕


それから二ヶ月ほど、十二月中旬。
割と大きな事件があり、弥生と葵の他は光月と子に手伝って貰ったが
他、裕子や蓬、丘野と言った高校三年生メンツは「連絡あるまで待機」状態で
拘束まではせずに事件そのものは終了し、事後処理に入った。

「金沢、礼状は申請してある、降りたら持ってきてちょいと手伝ってくれるか」

『判りました、今警部と警部補は二手に分かれていますが落ち合う場所を決めましょうか』

「こっからだと…よし、学園都市線篠路駅近くの創成川通り沿いにさ、
 芳野屋とかケンチキある辺りで俺と富士がそれぞれ行くわ」

『その指定は有り難いですね、では、確認取れ次第向かいます』

「頼む」

事件は最初一カ所だったが相手が複数だったことなどで二手に分かれてしまい、
北区の創成川通りを挟んでおおよそ等距離の屯田町と、篠路町拓北に分かれていた。

「それでは、私は任務が終わりましたので帰還いたします」

その二派の内の一派、本郷・弥生組にもう一人…現代日本ではおおよそ考えつかない
武装をした者が含まれていて、その傍らには女神の分霊がいた。
そう、これは魔階絡みよりもう少し進んで魔界との接触を「誰かが」謀り
繋がって呼び寄せられた悪魔に即応するため派遣されたデビルバスターだった。

まだ若そうだがスーツに、顔半分を覆うVRメガネをもう少しスッキリさせたような
ヘッドセットを被り、口調は丁寧だが逆を言えばやや何を考えて居るのか
少し測りかねる感じの雰囲気だった。

「団…銀水とか言ったか、済まなかったなぁ、札幌は札幌でもこんな端っこでよぉ」

「いえ、ただ一つ…、凍りかけた地面は厄介でした」

そこへ弥生も辺りの様子を探りつつ

「まーねぇ、本州の人だと足下おぼつかないかも知れないわね」

「道民だってひと冬あれば二三度は転ぶしな」

「そうなんですか」

「増して中央区大通とか札幌駅周辺でもないから歩道も解かしてないしね」

「同じ日本でも、やはり違う物ですね、外での任務は初めてだったのですが
 丁度手が空いていたので同じA級からの要請で参りましたが」

「A級か…あの女だったりして、百合原 瑠奈」

「百合原さんをご存知ですか」

「やっぱりあの女か…、どうあってもすれ違いの運命だわねぇ
 なに、玄蒼市は玄蒼市で今大変なの?」

「「いつものこと」の範囲ではあるのですが、多少大きめ、広めでしょうか
 私は市街地を拠点にしていませんので、それで声を掛けられました」

「いけねぇな、こんな無駄話してる場合じゃあない、引き留めて悪かったな、ご苦労さん」

団銀水と名乗ったその青年未満のような、でも妙に落ち着きを持ったデビルバスターは
一礼と恐らく瑠奈越しに大使館へと知らせを付けて、その辺の倉庫などの壁が
空間に穴が開いたような感じになり、そこを通り帰還した。

辺りはすっかり真っ暗だがまだ午後七時と言ったところ。

「こっち側で押さえるべき映像は少ないわ、なるべく裕子のやってたことに
 近い障壁も作ったからちょっと南にあるサイコーマート、ちょい北の
 イーブンとサイコーマートの三軒くらいかな」

「一般市民の皆様は…大丈夫か…何もねぇし、ここ、咄嗟にカメラ向けた分は
 祓いで邪魔したって事でいいんだよな」

「ええ」

「んじゃ、こっちは二人で取りに行くか」

「向こうも大した怪我はないし、子の力の範囲内だって言うからそうしましょう」

本郷の車に同乗し、本郷が車を走らせ

「そういや、何日前だったかな、大宮珠代が手続きに来たよ
 何で役場じゃなく警察署なのか、とは思ったそうだが、特に突かれなかった、
 お前さんが見つけた引っ越し先近くのアパートで復学に向けて通いでリハビリだと」

「ん、前には進んでくれているか、それならいいわ」

「何処まで話したんだ?」

「判明していない黒幕以外全部よ」

「そーか、まぁ…あの惨状を途中から見ていて生き残って記憶もそのままを望んで…
 というならそうするしかないわなぁ」

合流地点で金沢から記録映像の差押令状を受け取り、おおよそ見積もった範囲で
手分けをしつつ、今度はあやめと合流した弥生。

「いやぁ、光月ちゃん強くなりましたねぇ、助かりましたよ、結構な数でしたからねぇ」

「公職適用時証明書も発布したんでしたっけ」

「光月ちゃんと子ちゃんについては、はい、まさか警察官志望とは」

「いいわね、時代に合わせてどんどん変わって行く、それでいい
 じゃあ、私彼女達に合流して早速こっちの方も手伝って貰うわ」

「はい、そうしてください、あ、そちらのバスターさんお帰りには?」

「帰ったわ、そっちの岸岡とかいうネコマタ連れの人は?」

「お帰りになりましたよ、いっやぁ、やっぱり強いですねぇ、銃を使う
 バスターさんは魔法とはまた違う強さですよ」

「こっちの団銀水ってのもやっぱ強かった、
 祓いで言う上級みたいなのがうようよ居る街なのねぇ、ハードだわ」

「弥生さんから見てどうです?」

「んー、強いと思うんだけど、向こうには向こうのバランスと制約がある、
 代わりに長期戦でも対応出来る技術があってさ、戦場違えば
 戦術の基本も違うって言うのを感じたわね」

「そうですかぁ、じゃ、お願いします」

「おっけぇ」



そして久しぶりのそこそこの規模で火消しにも走り回った後、篠路駅に集合し

「お疲れさん、さて…結構な時間になっちまったが…飯でも食いに行くか?」

「本郷さん、打ち上げはいいとして本郷さんはそんなことやってて良いんですか?」

あやめの指摘に思い出してその場を離れつつ

「ちょ…ちょっと電話してくるわ」

可笑しさを堪えた弥生が

「まぁ、近くに「とんでんへい(和風チェーンレストラン)」があるからねぇw」

「午後九時…お腹は空いたねぇ〜」

葵が言う、光月や子も

「はい、あの、お金はありますからそこ行きません?」

「だ〜いじょうぶ、経費の範囲でって今本郷が戻ってくるわw」

弥生は流石に判っている、「わりぃな」とか言いながら戻ってくる本郷

「おし、行こうぜ」

「軽くならOKって?」

「なんだよ、盗み聞きかよ?」

「秋葉ならそう言いそうかな〜って」

「流石中学以来の友達だなァ、食べ盛りの子も巻き込んでるんだからって事で、
 さ、行こうぜ、「とんでんへい」で食って行こうや、予算はこっち持つからよ」

弥生と本郷の付き合いも七年ほど、成る程という感じで光月や子も感心している。

「おとーさん、何食べる?」

「んんー? そーだな、とーさんは車で飲むわけにも行かないし
 取り敢えず米は食えねぇやなぁ、どうしたって本気食いになっちまう」

すっかり葵は気の抜ける瞬間には本郷をそう慕うようになっていて
本郷もまた「いつか」のために乗っているような、
そのやりとりがまた微笑ましさを周りに与えた。



「それにしても…また今回も実験なんだろうな…と思うと癪に障るわ」

珍しく弥生が食事中にも関わらずしゃべり始めた。

「しかも多分今回試されたのって私達札幌側じゃなくて玄蒼市側ですよね」

あやめもフライ物の定食に単品一つくらいに結構注文して食べつつ。
そのあやめの言葉に若い衆が「えっ」と声を上げる。

「だって結構な規模でしたよ?」

子は並の女の子2.5人前くらいは注文していて食べつつ思わず言った。
弥生がそこへ箸を置き、人差し指を立てて

「でも場所が問題、あんな所で騒ぎ起こしたってこっち側にしか利点ないもの」

光月も三人前くらいは食べつつ

「言われてみればそうですね、連絡も玄蒼市側からでしたっけ」

「そう、団ってこっちに付いてきたバスターによると、玄蒼市でも今
 手広く騒ぎが起きているらしいのよね、つまり、
 「いざ事を起こしたとしたらバスターによる介入はどのくらい正確に
 戦力等も見極めてどのくらい迅速に駆けつけられるか」って言うさ…」

無論葵は五人前くらいを食べ進めつつも

「そっかぁ、なんか振り回されてるね」

そこへ時の魚のフライなどちょっとした物を突きつつ、本郷も

「しょうがねぇな、どうしたって魔界とやらが関わる以上は玄蒼市が本場だし
 こっちは受け身にならざるを得ない部分がある、
 今回は察知も派遣もこちらへの要請も早いほうだったと思うぞ」

「そうよね、団銀水もあの女から要請受けてって言ってたから
 向こうで多少のゴタゴタがあって多少のタイムラグがあっても何とか
 回せるって事は証明してしまった事になる、詰まり…
 サイレントに道庁とかそういう所を少数で制圧しようとしても
 そこは失敗か未遂に終わる、って事ね、小さく攻めることは不可能、
 と向こうも学習したことでしょう」

あやめが難しい顔で頬張り食べて噛み飲み込んで

「魔界の門側だったこっちに残った岸岡さんは何も言っていなかったから
 普通に声が掛かったんでしょうかねぇ、ネコマタさん少し寒そうで可愛そうだったなぁ」

「ネコだからねぇ、神社の狛江さんも朝霞も今は流石に可哀想で家の中よ」

そこへ葵が

「朝霞さんって凄く固くて分かり難い言葉遣いの割りには結構普通の鳥っぽい
 行動とかするよね」

「使いであって神そのものって程高位ではないからなのか…、
 時々悪戯したり一人遊びしてたりするのよね」

「何かその姿見てみたいかも」

あやめがぽつりと言う。

「萌えそうですよね」

子も言った。
本郷が「うーん」と唸りつつ

「やれる、確かにこのままなら大規模な侵攻が無い限りは絶対守れる
 確信はあるんだが、なんだろなぁ、そこはかとな〜〜く不安もあるなぁ」

弥生が食事を再開しつつ

「私もそれを感じる、順調なだけにね、何かが備え足りないような、そんな気がね」

「四條院皐月さんも仰ってましたねぇ、何か巡り合わせが変わるか
 戦いが激しくなるかはあるかも知れないって」

「単純な威力や多少の数って言うくらいじゃあもう私達は揺るがない
 でもそこじゃない何か泣き所があるような気がして…」

「弥生さんも判らない?」

葵の真っ直ぐな疑問に

「判らない、何が抜け落ちているんだろう、いえ…
 抜け落ちている…というか…思わぬ隙がありそうな…
 ああ、だめだ、今考えて閃かないモノはどうしようもない、食う食う!」

弥生はウン、と頷いてがっつき始めた。
因みに弥生は定食物二つに単品二つの四人分だった。

そこへ光月が、思い出したというように

「そう言えば丘野論文書くとかで結構弥生さんのところに通っているらしいですね」

「そうなのよね、祓いや魔には触れずに、或いは物凄くボカして
 「ある野太刀に纏わる来歴」として明治までの事を書くみたいね
 幾らか原本のコピーや稜威雌の写真も撮ったのよね、
 四代で苦戦していたけれど、最近マルの所に入り浸っているようだから
 四代の方もそろそろまとめ終わったかもね」

あやめがその話題に食いついて

「じゃあ、四代さんもそろそろ聞けますかね?」

「うん、ただ時期が時期だからねぇタイミングが難しいというか」

「ああ、そうですねぇ…クリスマスも何か色々悪い感じがするし
 年末年始はそれぞれ家のこともありますからねぇ」

「ウチはクリスマス関係ないですけど、子の所が凄いことに…w」

光月が言うと、子がちょっと申し訳なさそうに

「蓬さんとか裕子さん、丘野さんもヘルプに入ってくれるんですよね、
 奈良にいた時からこの時期は外せないですから」

「一般的にはそうよねぇ…」

弥生が言う、あやめがそこへ

「弥生さんはデートとかしないんです?」

「あんまり札幌離れるわけにも行かないし、仕事があったりもするし、
 まぁケーキ食べて雰囲気だけって事多いかなぁ」

葵もモグモグと食べて

「そうだねぇ、仕事は基本的に時期なんて選んでくれないからね」

本郷がそこへ

「お前偉いなぁ、「ボクと仕事とどっちが大事なの」とか言わないわけ?」

「言わないよ、大体ボクも一緒に行くし」

「ああ、そっか、お前助手でもあるからなぁ」

「それにさぁ、迂闊に浮気調査なんて入れちまった日にはカップルとか
 行き交うようなクリスマスイブの寒空に尾行とか
 証拠写真だの動画だの精神的にも寒いことしなくちゃならないのよねぇ」

弥生のぼやき、うん、それはぼやいていい。

「でも、今探偵業って言うとそういうのも多そうですけど、今は受け付けてない
 みたいですよね、大丈夫なんです?」

「流石にそこはねー…同業他社にそういうの大ッ好きなのが居るから
 そっちに回してるのよねぇ」

「それも愛人さんです?」

あやめは普通に聞いたが、中々場の凍り付く質問だ、弥生ですらちょっと固まった。

「…大学三年の時だったか、そろそろ探偵業のことも考えないとなぁ
 と色々やってた時にかち合った同業の新人で働いてた…少し上の人、
 まぁ…「こっち側」に引き込んだのは…私です」

弥生が頭を下げる
葵はでも何とも思っていないのか

「あのちょっと派手な感じの人だよね、ちょっと前に独立したみたいで
 弥生さんが都合付かない時にそういうのどんどん回してって言う人なんだ」

「で、引き込んだのは私なんだけど、彼女攻めがいいみたいでほぼ一回こっきりかな」

「ちょっとでも霊能が被りそうな匂いのする物は渡してないんだって、
 だから住み分けは出来たって感じでそれで時々電話で話するくらい?」

「ええ、好みも違うし余り深くは関わらなかったのよね」

あやめはごく普通に

「弥生さんほどの強い巡り合わせの中でもその外側近くのヒトって中々珍しいですね」

「そこはせめて余り巻き込みたくなくてねぇ」

本郷が何だかなぁ、と思いつつ

「つか富士もよぉ、クリスマスとか何も考えてないわけ?」

あやめはきょとんと

「だって縁も何も無いですから」

そこへ葵が

「じゃあもし何も無かったらさぁ、25日一緒に時計台行こうか」

「え〜、悪いよ、デートでしょ?」

「それもないでもないんだけど、こないだちょっと時計台の話になって
 よく日本の観光ガッカリポイントとか言われてるけど、時計台を語るなら
 中を見てからって弥生さん言って、そういえば中入ったことないなぁって」

本郷がそれに

「そういや俺も中まで入ったことはねぇな」

「以外とそんなもんなのよ、学校行事とかそういうのでも無ければ尚更でしょ」

「だなぁ、お前地味に時計も拘ってるからそういう所もうるさそうだなぁ」

「いやぁ…時計は趣味としては新しい方かな、社会人になってからだし
 それにあくまで実用品としてしか向き合っていないしね
 …因みに私の腕時計は1930年代のもの、マルからのプレゼントなのよね、
 で、彼女の持ってる懐中時計が私からのプレゼント、19世紀の物
 年代は古いけれど、そんな物凄いアンティーク価値があるわけでも無いのよ」

「余り正確な時間って気にしない方です?」

「そういうのはケータイで、こう言うのは大体の時間とかタイミングね
 リズムを掴む時のガイドみたいな物」

そこへ葵が

「こないだの大宮さんの時みたいな?」

「そう、これだって大まかとは言えほぼ正確なリズム刻んでいるわけだからね」

「ああ、大宮さんと言えば…」

「それは俺がもう言った…が、葵は知らないか」

いつの間にか「かわいい」呼びでは無くなっていた。

「ん、いや、あの人は大丈夫だと思う!」

葵の強い言葉に弥生は微笑んで頭を撫でつつ

「じゃあ四代についてもどこか近いうちに皆で集まる?」

あやめは速攻で

「私もう警察官ですし、実家には顔を出す程度でもいいって言われてますから
 実質いつでもいいですよ」

本郷が汗して

「お前…結構軽いって言うか、まぁ警察に年末年始は関係ないから心がけは正しいけどよ」

「兄って実例がいますからねぇ」

「自衛隊か、まぁー確かになぁ、俺はいいんだけどアイツがなんてかなぁ
 まぁアイツも警察官だけど」

そこへ弥生が箸で次に食べる物を探しつつ

「秋葉の方は挨拶くらいは行った方がいいわよ、親って言うより秋葉がうるさいから」

「流石、参考になるぜ」

「任せて、今後も彼女の性格から来る選びがちな選択とか教えるわよ」

「頼むわ、クリスマスとかは?」

「残念ながらそこは私も判らないんだな、浮いた話一つ無かったからね、秋葉は」

「まーあれじゃあなぁ、俺も何か奇特というか、でもしょうがねぇよなぁ」

「けっこーお似合いだと思うわよ、そういう人も必要なのよ、応援する」

弥生は一代限り、その周りの…特に愛人関係は言わずもがな、
時代をつむいで連続した歴史を伝える役目は絶対必要、弥生の本音であった。

「そーいうバランス意識ってワケじゃあねーけどな」

さてそろそろ食べ終わる頃、

「丘野にはじゃあ光月が都合聞く?
 私はそういう訳でほぼ何処でもいいのよね、元日のどこかで詞捧げたいくらいで」

それを聞くとあやめが

「あー、立ち会いたいなぁ、初詣も稜威雌神社がいいかも、
 もうそこに深く関わってるワケですし」

そう言われるとここに居る全員がそうである。

「それ言われるとオレもアイツも金沢も家庭行事としてはともかく
 お参りしとかねぇとなぁ、特備でも置くか?
 子安新警部補を祀ってさ」

「元祖特備、それもいいですね」

あやめも乗る。

「神棚置くなら詞捧げには行くわよ」

弥生も異論は無い感じで言う。

「そうすっかぁ、特備の方はなるべく近いうちにやっておくわ」

「もし何なら後~会繋がりで神棚は作って貰いつつ、中の札はこっちで用意するけど?」

「そうするかぁ、地味に遺品も見つけちまってさぁ、サーベルだけどそれ本尊にして」

「へぇ、手入れとかは?」

「してなかったみたいだな、だから幾分錆びてるよ」

「それは…住んでいたところとかから?」

「当時署長として赴任した後退官した時に返納したのがそのまんま…
 建て替えや移転でも忘れ去られはしなかったが、
 といって丁寧に保存されていたわけでもなく…って感じかなぁ、
 古い資料やらあれこれ探ってて出てきたんだが、特に思い入れもないみたいだから」

「そう…それも巡り合わせね、それ今度貸してよ、稜威雌の手入れしてる所で
 多少細くなっても研いで貰うからさ」

「あー、そういう繋がり俺持ってねぇし頼むわ」

「判った、じゃあ、今日の所はこれで解散しましょうか」

「そーだな、じゃあ皆お疲れさん」



年末に向けて誰も彼もがバタバタする中、
「なんとなく開くのはクリスマスの後26日から28日くらいまで」という認識で
方々に連絡も取り始めた。

勿論その間にも弥生で言えば探偵仕事や、特備も大きくは警備課な訳で
あちこちのイベントに纏わる警備などで師走らしい忙しさである。

特備にも神棚が置かれ、研ぎ終えた子安新警部補のサーベルと共に
弥生がキッチリと詞を捧げ、警備課の人が何だ何だと見学に押し寄せる中、
特備も特備として新たな一歩を踏んだ。

因みに秋葉は警務課のままであるが、割とフレキシブルに特備への応援には入れるように
配慮が為されるようになっていた。

根岸女学校の寮も冬期閉鎖期間と冬休みがキッチリとその初日からと決まり、
年末に向けて慌ただしい日々を送っていた。

「だいぶいい感じに写るようになってきましたよ」

「うーん…でもやっぱりちょっとノイズ入るわねぇ…なんだろう…何処だろう…」

丁度志茂の都合のあった日の祓いの仕事の後にカメラチェックしながら弥生は考えて居た。

「って言うか残像凄いね」

横から見に入った葵が思わず言う。
志茂がそれに優しく

「これは今持ち歩き用のノートで見てるからね、弥生さんのところのメインPCか
 ウチで見れば…まぁそれでも葵ちゃんの瞬間最大とか弥生さんの抜刀術は
 捕らえ切れてないと思うけれど…」

「もうそこは一秒間千コマみたいなのになるわね…でもいずれそういうのも
 撮ってみたいわ、ほんのちょっとした修正点も見つけられるかも知れない」

「ボクも自分の動きを外側から見て見てみたいなぁ」

志茂に戻って

「うん、いいと思う、でも…1/1000秒でも例えば稜威雌の刃先とかは
 捕らえきれるか微妙だなぁ」

「ああ、刃先はねぇ、増して野太刀だし」

色々火消し手配に回っていたあやめが合流して

「あ、海の頃に比べたら可成りキッチリ写ってますね、資料としてはもう充分ですよ」

志茂が苦笑気味に

「でも、弥生さんが納得してないんだなぁ〜」

葵も画面を見ながら

「弥生さん凝り性だからね」

弥生もため息をつきながら

「しょうがないのよね、一端始めたらちょっと高いところに妥協点置きたくなる」

あやめに戻り

「何代さんでしたっけ、伊達も極めたら一端の道に…って評されていたのw」

「何代だったかしらねぇ…でも、それに一番似合うのは四代なのよね」

「そうなんです?」

「稜威雌からの話で知っているだけでも「この人一体何になりたかったんだ」
 ってくらい色々なことを少なくとも人に教えられるレベルまで持って行ってたのよね」

「うわ…初代さんも何気に笛や弦楽器出来ましたしねぇ…弥生さんは?」

「うん、やっぱ若い頃って音楽を演奏する側って言うのに憧れたから
 ちょくちょくはやってた、でも教えられるほどのレベルかと言われるとどうかなぁ」

葵が何気に

「歌は上手いよね」

「声の使い方の意味もあるからそこは割と本気で取り組んだのよ、うん」

「なるほど」

葵とあやめと志茂が声を揃えた。
あやめがそこへ

「全員の都合付きそうです?」

「どうしても私達は事件に対して基本受け身だから絶対とは言い切れないけど、
 概ね予定通りに進めそう…だけど女子高生組にはキツいかもなぁ」

「ああ、クリスマスの緊急バイト直後になりますね…(汗)」

「でも、そこ逃したら確かに何ヶ月も全員となると判らないからって
 皆気合い入ってるのよね、京都組も三年で進学するようだからさ」

「受験生って大変なんだね」

葵が他人事のように言う、まぁ確かにまだ中二と言えばまだ中二だ。

「葵クン、大学より早く私の正式な助手として働きたいって言うのよね」

弥生がちょっと困ったように言う。

「ボクには学歴要らないし」

「でももし探偵業廃業なんて事になったらさぁ」

「それが二十代の早い内ならボクも警察になるよ!」

「うわー、頼もしいんだけど、大丈夫かなぁ」

あやめが汗する、志茂が細い眼で笑い

「葵ちゃんの場合はまだ時間があるよ、あと三年くらい、じっくり考えるといいよ」

「ん」



そしてクリスマス後、大晦日を挟んだ僅かな日程の一日、夕方に
弥生宅へまた入れるだけ入った感じの人数、ただ市ヶ谷は初代の重さだけで充分と
今回は遠慮し、札幌の祓いとその弟子と言えどレストラン組からは矢張り子のみ、
それでもあの夏以来揃った。

面白いのは、竹之丸繋がりで例の看護師と研修生君も同席していること。

ここまで来たら何がどうなのかをちゃんと知りたい、と言うわけである。

丘野が膨大にあった記録の中からそれでも半分未満にしたという量を前に
順番の確かめをしながら

「あの…お話しする前に皆さんに言っておきます、
 ちょっと刺激的な場面もちらほらあります…でも、そういった所で
 結構見えてくる場面もありますので読みますね」

中学生ズの顔が赤らむ、初代や五代も結構困っていたがそれどころではないらしい。

「ああ…久しぶりにひと息付けますわ…またすぐ怒濤の日々になりますが…」

竹之丸がそこへ軽く飲んでいて裕子の肩を軽く叩きながら

「まぁまぁ、入ってしまえば後はサボらなきゃ、ちゃんと吸収して行けば行けるって!」

「はいぃ、先ずは試験突破ですわねぇ」

「蓬ちゃん、後で薙刀使って手合わせ願える?」

弥生の言葉に蓬が

「えっ、いいですけど、でも」

「いいのいいの、ただ、光月の時も言ったけど、殺す気でお願いね?」

物騒な世界だが、高校生組はそういう所まで来ている、
中学生組は息をのみ、

『蓬は武器に祓いを載せるのが結構良さそうだからなぁ』

常建の呟きに

『お前はそういうトコちゃんと見てるな、感心するよ』

姉の御奈加が応える。

「では…読みますね、裕子さんが東京の十条から受け継いだ最初の資料と、
 本人の回想録や日記、フィミカ様の書いた物が所々で混じります」

そして歴代としては最後になる四代の始まり、それは江戸時代中期は宝暦から
話は始まるのである。


第三幕  閉


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