Sorenente JoJo? part1

Episode1
第二幕 開き

「ちょっと…ちょっとみんないい?」

あれから何日だったかな。
まぁどうでもいいんだがアイリーが事務所に
ちょっと青ざめた表情で駆け込んできた。

俺たち(ウインストン、ケント、ポール)は顔を見合わせた。

「なんだよォー?」

「どうかしたのかね?」

至極普通に二人がアイリーに説明を求めた。

「あれから一週間経ったわ…」

「…?」

ケントが顔をしかめたのでアイリーはちょっと語気を強めて言った。

「…ジョーンが来てからよ…!」

「…ああ、結構たつのな。 何か余り存在感感じないから気にしてなかったな。」

俺は思わず言ったが、仕方ないだろ?
事務所に入り浸るでもない、来たとして茶を勧めに来るときくらいだ。
隣で何やってるかなんて男の俺が
気にしてどうなるモンでもないしな。
アイリーはそんな俺に意を決したように言った。

「…彼女…行かないのよ。」

「………はァ?」

「ルナとあたしでそれなりに彼女の一日をずっと見てたんだけど…
 行かないのよ! 普通の人間ならありえないわ!
 ローマ法王だってありえない!」

「…何言ってんだ? オメーはよォ?」

ケントって奴はストレートな物言いが売りというか
至って単純な思考と言動の奴なのでその言い回しというか…
…まぁ、俺にもわからんのだが。

「まぁ…ゴホン、行かないというは、その…手洗い場のことかね?」

なんとなく女性が言うのをはばかるということでポールは推理したようだ。
そしてなるべく直で羞恥心をあおるような言葉は慎んだ。
こいつは小さい男だがこういうデリカシーだけはきちっと持ち合わせている。
その辺がダメ企業の所長ながら今までやってこられた秘訣なんだろう。

アイリーはつばを一つ飲み込むと頷いた。

「…そぶりも見せないわ、使うのを遠慮しているのかって言うと
 そうでもない、キッチンなんかは普通に使ってあたしたちに
 ご飯作ってくれるし。」

「茶は入れてくれるよなァ? あ、ひょっとしてスコーンとか
 サンドイッチとかもかよォー?」

「…極度に羞恥心がひどくて行くに行けないとか…じゃないのか?」

「…それなら「我慢しているそぶり」は見えるものじゃない、
 あのね、何かの本で読んだんだけど、女は男より
 その辺の我慢の限度値が低いんですからね!」

「…わかった、判ったよ。」

俺は思わず降参だ。

「…体質…ということは…考えられないね…ふむ。」

「…まだあるのよ…!」

「な、なんだよォー、ちょっとしたホラーじみてきたなァ…」

「彼女寝てるとき…ほとんど呼吸をしてないの…!」

何かの気のせいじゃあないのか?
とも思ったんだが何しろ同室で二人でそれを目撃してるんだ、
誇張があったとしてもどこかしら真実が潜んでるんだろう。

「…なんだよ、それ…本当は死人だとかそういうオチじゃあねェーだろうなァ」

「…でもまったくしてないわけでもないのよ…
 死人なら死人だで片付けられるけれど…」

「片付けられるのかよ…」

俺は思わず突っ込んだが、今のアイリーには届かなかったようだ。
ちょっとその場が凍りついたようになった。
そんな時だ。

「それはそれとして、だ。 さて、今日の予定だがね…」

ポールがスケジュールを取り出してきた。
俺たちは激しくずっこける(死語)ところだったが
この男の思考は至って単純だ。
ケントとは違う単純さだが、判らないことをあれこれ悩んでも仕方ない、
ということなのだ。
こいつ、絶対学者とかには向いてないが、生きる心得は良く知っている。

「…ああ、とりあえず仕事だ、片付けちまおう。」

俺もこの場は従っておこうと思った。
アイリーはモヤモヤが晴れないようだったが、
判らないことを考えたって、あれだぜ? 肌荒れるぜ?

「アイリー、君はルナと一緒にこちらに行ってくれ。
 これは結構大きな仕事だぞ。」

ポールが示したそこは高級住宅街だ。

「ほェー…金持ちが依頼かよォー、あいつらんとこじゃなくてかァ?」

ケントがちょっと新鮮に感動しているようだ。

「…おい、危険な仕事なんじゃあないだろうな?」

俺は思わず念を押した。
アイリーの能力は探知、ルナは治癒…とはいえちょっぴり特殊だが…

「大丈夫よォ、あたしだって多少はやれるんだからァ」

「ああ、いや。 内容は探し物なんだよ。」

…そうか、依頼者が一般市民か高級市民かの違いか…

「とはいえ、報酬が弾んでるからね、物が物だけに。」

「何を探すのよォ?」

「ネックレスだよ、ただし時価10万ポンド(約2千万円)するけれどね。」

もう俺たちの頭からジョーンのことは吹っ飛んでいた。
たとえ探し物だってそんなものを探す依頼など今まできたことがなかったからだ。
地味に活動してきたおかげなのか。

「物が物だけに無傷で回収できたなら報酬は
 通常の10倍払ってもいいと言ってきてね。」

ケントとアイリーは喜び合ってるがそこで俺は

「あのよォ…それってあらかじめ持ち主が付けた傷とかは判ってるのかよ?」

皆が「えっ?」という顔をした。
考えてなかったのかよ…

「わからん、俺たちにそんな難癖付けるかわからんが
 無くした物を探すのに条件付けをすることであとで捜査料を値切る…
 いや、0にする事だって考えられるからな。」

喜んでいた三人が一気に不安顔になった。

「…さすがウインストン…考えが黒いぜ…」

妙に感心したようにケントが言いやがった。
考えが黒いって何だよ。

「いや…しかし…その線は考えられなくもないからね…」

皆が困惑するのも無理はないのだ。
ルナの能力が「治癒系」といったが対生物対象だからだ。
物は直せないのだ。

「とにかく行かないと、探さなければそれはそれでケチがつくわ。」

「尤もだ、頑張ってくれ、応援するぜ。」

「ええ、頑張りますとも! あ、ルナ、いくわよッ!」

事務所にルナが現れるや彼女はルナを引っ張っていった。
アイリーの探知能力はともかく、物を直せないルナがなぜ必要かって?
免許はルナが持ってるからさ。
アイリーは立場上あくまで「助手」ということだ。

ポールは肩をすくめ言った。

「…祈るしかないね。」

「そうだな、それで俺たちは一体?」

「君たちはこれだ。」

そんなときにジョーンが紅茶を持ってやってきた。

「ああ、君も二人について探してきてくれないかね?」

「…え?」

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「…まったく、前がインコで今度は猫かよ…」

ケントがターゲットの猫の写真をひらひらさせているのを横目で見ながら

「しょーがねェよ、時価10万ポンドの宝石探しと普通の雑種猫じゃァなァ
 こういう仕事はアイリー向きなんだがなァ。」

「わたしなら猫を取るけれどなぁ、物なんて幾らでもどうにでもなるんだから」

ジョーンがつぶやいた。
妙に深い言葉に感じた。

「時にはよ、金も必要ってこった。 しかたねぇ。」

「今そこにある命はそこにしかなくてはるかに
 短い時間でしか輝けないものなのにね、でも確かに
 社会で生きるためにはお金も必要。」

「そうそう、まーよォ、事故にあってたりしなければ万々歳だよなァ」

「あってたとして重症でなければルナのところにつれてゆけば何とかなるがな」

「オレたちってよォー? ひょっとして役たたねぇ?」

「きっとある、あるはずだ、そう思ってなきゃやってられるかよ。」

ジョーンはただただ俺たちの会話を聞いていた。
…改めて彼女の胸や腹を見てみたが…あ、変な意味じゃあないぞ。
…うん、呼吸はしてる。 ゆっくりといえばゆっくりだが
アイリーが問題視するほどじゃあない。
意識してやってるって風でもない、自然だ。

そんなこんなで依頼者の家だ。
相手は若い一家、旦那は仕事だ、子供がはしゃいでる。
いいもんだ、いつか俺もこんな家庭を持ちたいもんだ。

「写真はお持ちですよね? はい、ああ、これです、そうです、この子です
 この子も大事なうちの家族なんです!
 どうかみつけてください!」

「何か情報はないんスかァ? 最近変わった様子とかァ」

ご婦人は(いや、ジョーンと同じくらいの年だが)ケントの風貌や言動に
ちょっと引いたようだったが、質問は至ってまともだ。

「…そう…最近ちょっと太ったような…」

写真のはスリムだ、なるほど、情報にはなった。

「元々外に出る子だったんですか?」

ジョーンだ。
これも散歩コースなんかがわかれば探すのに有利だろう。
(いやまぁ、心当たりは家族が当たったんだろうが)

「ええ…でもホントに数分から…昼寝でせいぜい数時間。
 お腹がすいたら必ず帰ってきたし…太りだした頃からそういえば長くなって…
 家の中でも落ち着かなくなって…」

「散歩コースは…?」

俺も質問しとかないとな。
地図を頼りに判る範囲で答えてもらったわけだ。
ここもまたアパートというか建物の多い場所で
公園も一戸建て住宅街もちょっと遠い。

大体の心当たりは既に当たったそうだから、まぁこっからは
「腐ってもプロ」の腕の見せ所って奴だな。

「ロンドンは歴史深い街で建物や街の作りも混んでるから…苦労しそうね。」

俺たちはロンドン出身だ。
余り口にしない言葉だが、まぁその通りだ、千数百年の歴史がある。

「そうはいってもよォー、猫だろォ? そんな広い範囲を
 ちょろちょろするとも思えねーけどなァ」

「普通の状態なら…ね」

ジョーンがそう言って散歩コースから少し外れた細い建物の隙間に入っていった。

「…普通の状態ならって…どういうことだ? 太るくらい普通にあることだろう?」

「多分…だけど…」

ジョーンは横になってやっと通れるくらいの細い路地を進む。
路地じゃねぇ、隙間だ。
ケントがそのうち様子をおかしくした。

「なんだ? どうした?」

「シーッ! あれ…」

ひそひそ声のケントが指差す先。
ジョーンの…胸だ。
俺たち男が横ばいになってきっつい隙間にジョーンのけしからんでかい胸は
更にきつそうに壁とジョーンの動きに形を変えてそのタンクトップのよーな
というかレオタードのよーな隙間から胸の先まで見えようとする瞬間がある。
そういやこいつ、でかい。
ミステリアスな女、とかやや警戒を持って接してた俺だったが
流石に目をやってしまった。

不覚だ、そんな軽い男のつもりはないんだが、同じ道を
アイリーが通っても、ルナが通ってもここまで形はゆがまないだろう。
むしろアイリーとかなら自らネタにしてケント辺りが軽口叩いて
「エッチ! スケベ!」とか言って笑い話で済むんだ。

「……今は仕事に集中しやがれ……!!」

余り自由にならない手でケントの頭を叩くと奴も

「…判ってるけどよォー、この隙間にどんな意味があるんだよォー?
 そんな事思いながら言いだしっぺのほうみたらあれだもんよォー」

確かにそうだが…落ち着け…素数を数えるのは…それは違う奴だ…くそ、
なんて物を見せやがる、ケントもケントだが…
ジョーンは理解してるのか?

しばらく目を瞑って落ち着きながら進んでると不意に前を進んでるはずの
ジョーンにぶつかった。

「お…っ? どうした…?」

「…ご…ごめんなさい…これ以上進めない…w」

「………胸がすげぇことになってるな…」

馬鹿、違うだろ俺! なんでそこを突っ込むかな、俺!!

「でも…ホラ…あれ…」

ジョーンの優しさだろうか、それとも酷い仕打ちだろうか、
俺の馬鹿みたいな突込みはスルーした。

二人だけなら優しさだったろうが、ケントが居て
俺をあざ笑ってる。
何だかんだ言って、意識してやンの、みてーな。
くそッ、酷い仕打ちだッ!

いや、そんなことはいいんだッ!
ジョーンが指差した先には倒れた木箱があり、開いた部分には
小さくニャーニャー鳴いてる子猫どもと…写真の猫だ…ッ!

「ジョーン、おまえ…なんで判った…!?」

「太っただけならまだしも小さな子供の居る家庭で落ち着かなくなって
 外に出たってなると…子供産むのかなぁって」

「なるほど…こんなほっそい隙間に入った理由も…頷ける…! がッ…!!」

「す…進めねェーよォーッ!!」

猫は目と鼻の先なのに、しかもこの状況にかなり警戒して
とりあえず親猫は逃げる気だ、そんな構えをしている。

「何してる! ケント! スタンドだァーッ!!」

「うっしゃ! フォーエンクローズドウオールズ!」

猫の木箱の前後を壁が塞いだ、俺はジョーンに説明した。

「こいつのスタンドは壁、「四つの閉じられていない壁」の名のとおり
 四枚までの独立した壁を実体化させる。
 大きさはこいつのテンションで変わったりもするが、
 この場合はいずれにせよ俺たちが保護しなきゃならん。
 余り高い壁に閉じ込めるわけにも行かない。
 1メートルほどの二枚を実体化させた。
 こいつの壁はさすが守ることに特化してるだけあって
 壊すには多分伝説のスタープラチナでも苦労すると思うぜ?」

いや、会った事ないから判らんけどな。

…あとはこの隙間を通ってほんの5メートル先を行くだけなんだが…

「ああ…ダメッ」

ジョーンが何かヘンな台詞はきやがった…!

「な…何だよッ!俺何もしてねえぞ!!」

つい反射で俺が叫んだ…しょうがねーだろ。

「違うわッ! 相手は猫だということよッ!」

地面→木箱→壁の上、猫はあっという間に飛び出しやがった。

「あッッ!! やべッッ!!」

ケントは反射的にそのまま逃げられないように壁を高くした、
5メートルほどか、奴の限界までだ。

「ああ…ッ! もっとダメぇッ!」

「だからおめーよォ! そーいうヤバい台詞吐くんじゃあねーよ!」

俺もつい突っ込んじまう、このとき俺のスタンドが出せてたら
この事件、ここで終わりだったのかも知れん、
何事もなく、何も変わることなく。

だが、慣れない女との行動で俺の判断が一瞬狂った結果、
5メートルまで高くなったそこから建物の出っ張りや
かつて「隣」なんかなかった頃の名残の階段跡に(ぼろぼろに錆びてるが)
猫はあっという間に建物のかなり上まで登っちまった。

「ウインストンよォー、おメーの「風」でどうにかこっちにゆっくり
 落とせねェーのかよォー?」

「…だめだ、風は届くがあの距離じゃあ正確な風圧やコントロールがきかねぇ」

「…でもやるしかないわ、あなたの風でとにかく落として
 こっちに向けて壁に当たらないように何とかコントロールして!」

「な…何とかって…」

「やるしかないのよ、そうじゃなければ任務「未」完了だわッ!
 そしてケント君、あなたは壁で受け止めて!」

「…はァー?」

「判ってるのか? こいつの壁は硬えーんだぞ?」

「硬いばかりが「壁」じゃあないわ、遊戯施設にあるような
 床も壁もトランポリンのようなドーム、あれだって壁は壁よ、
 ケント君の「壁」が「守る」壁ならばッ
 できるはずよッ!
 柔らかいトランポリンのような、でも破れない「壁」って言うのがッ!」

「で…でもオレよォ、そんな事やったことも…考えたこともねェーよ」

「スタンドは自分の困難に立ち向かう精神の表れよ、
 ある程度自分のスタンドのスタンスがあるなら、能力をアレンジすることは
 できるはず、いえ、できるのよ!」

「………!」

ケントは猫のほうを見て決断を自分に課した。

「柔らけェー壁…でも壊れねェ…」

「3枚でいいわ、一枚づつ試すの…破れたらあなたは怪我をするだろうけど
 三枚までなら命を落とさずに済むし、わたしが何とかして上げられるわ…!」

「マジか? 信用していーんだな? よォし! いくぜッ
 フォーエンクローズドウオールズッ!!」

奴は地面1.5メートルから三メートルおきに三枚壁を出した。
見た目はブルーシートにも似た、確かにトランポリンのよーな形状だ。
そして四枚目も出した。
それは猫より後ろの位置で(いや、高さは全然足りてないが)
高さは目一杯奴の射程範囲10メートルの位置だ。

「とりあえずよォー、こいつに「風」反射させれば猫こっち寄せられるんじゃね?」

「お前、何だ、気が利いたな」

俺もやる気が出た。

「風街ろまんッ!!」

「…ヘンな名前だろォー? こいつのスタンドよォー、日本語なんだってよォー」

「あなた本当に日本に憧れてるのね…w」

「いいだろ、別に…」

ちょっと決まりが悪かったが

「じゃあ、行くぜッ! 風街ろまんッ!“風をあつめて”ッッ!!」
「ガッテン ショウチ!」

「…ヘンだろォ、スタンドがしゃべる言葉もよォー」

「うるせえ、日本の江戸時代の庶民の言葉らしいんだッ“粋”だろッ?」

「わかんねぇーよw」

ともかく、俺のスタンドが建物の隙間を縫って上に風を巻き上げる。
細い隙間だ、結構強いが、それだけに猫くらい軽く持ち上げられた。
問題はここからだ、落ちてくる猫が壁に接触しないよう上昇気流を
猫がゆっくり落ちる程度に吹き上げ、ケントの「壁」も利用して
コントロールする、難しいが、ジョーンの言うとおり、
やらなきゃもっと面倒くせー事になる。

こんなに集中してスタンド使ったのは…俺にこんな能力があると
知った頃くらいだろうか…ジタン、あの頃はおめーも俺も
真っ正直に真面目でいつかこの力を世間様の役に立たすと
一生懸命だったな。

ケントの最初の壁に猫が落ちる。
ケントのうめきだ、やっぱり慣れてねぇ事をしてるんだと伝わってくる。

一枚目は破られちまった、ケントのからだから血が噴出す。

「お…おいッ」

俺は流石に気をとられた。

「か…「風」、切らすなよォ…! だいじょーぶだぜェ、オレはよォー!」

二枚目…、惜しかったが、ギリギリで破れた、流石に奴も
傷が深くなって一瞬気を失いそうになったようだが、

「頑張って…ッ! あなたたちの精神力が猫を救う鍵なのよ!」

抜群のタイミングでジョーンが俺たちに声を掛けた。
畜生、そうだ、ここで落ちちまったら全てがパーだよ!

猫は最初こそ暴れていたが、自分に起こっている事態に
だんだん頭が回らなくなったかもう固まっていた。
おとなしくなったところで最後の三枚目…ッ!

ボヨォォーーン

といい音が鳴って猫を弾ませ、二度、三度と繰り返すうちに
とうとうしっかりと受け止めた。
やった、こいつ、やりやがった。

「壁をこっちに傾けて」

ジョーンが言うと、水平だった壁がちょっと傾き、猫が彼女の胸の上
(つーか顔の前)にしっかり受け止められた。

「よしッ!!」

ケントは猫捕獲を確認すると通路をあとずさった。

「あ、おい、子猫は…」

「大丈夫、ちゃんとわたしのスタンドがこっちに引き寄せてるわ」

「マジかよォー、こんな細い隙間じゃァ見えねェー」

「俺にも見えねえ。」

惜しい、何か損した気分だ。
隙間から出たケントはまず倒れた。
次に出た俺はすぐさま傷の様子を見たが、結構深い。
ルナでもすぐに完治させることは難しいだろう。
だが命には別状はなさそうだ。
俺はジョーンが出てくるのを待って言った。

「スタンドで木箱がつかめるなら一発だったろうがよ?」

それを言うとジョーンは首を横に振った。

「この子、スタンドが見えるわ。
 猫がスタンド使いってわけじゃあないけれど、猫って
 たまに「見る」事が出来る個体があるのよ。」

「なるほど、逃げられるかもってわけだ。」

「ええ…」

勉強になっちまった、何かこいつ、俺と同い年ぐらいなのに
まるで何倍も生きてきたかのような経験豊富さを感じる。
ジョーンはまだびっくりして腰が抜けちまってる猫を俺によこし
ケントに近寄った。

「…やったわね、」

「ああ…あんたのおかげだよ、ジョーン! オレちょっと感動したぜェー」

こいつの「ちょっと」は「凄く」って意味だ。
俺らの中で一番の若造でスタンド使いとして目覚めた時期も一番浅い。
自分に成長の「余地」があることなんて今始めて知ったのだろう、
俺も知らなかったが。

「待ってね…今楽にしてあげる。」

「楽って息の根止めることじゃァーねェーよなァー」

勿論冗談で言っている。
ここでジョーンが実はやっぱり敵でした、なんてことになると
目も当てられねーんだが、信用することにした。
信用しないと先に進まないことがある、こいつはついさっきそれを
俺たちに示したんだからな。

「…恥ずかしがって全身出そうとしないわ…仕方ないわね」

ジョーンがつぶやいた。
スタンドが恥ずかしがってるのか?
まぁ、俺のスタンドなんかも意思を持っているといえば持っているが
本体の要請に逆らうようなそれほど強い個性なのか?

「オーディナリーワールド!」

スタンドの両手だけがほぼジョーンに重なって現れた。
へぇ、オーディナリーワールドね。

ジョーン本体の両手とあわせてスタンドもケントの傷口に触れる。
痛がってるが、彼女が撫で終わるとそこの傷はなくなっている。

やはり治癒系なのか?
いや、だが様子がルナとだいぶ違う。

「どういうスタンドなんだよ? 俺たちにもっとも判り易く説明できるか?」

思わず声を掛けた。

「「確率」を実現させるスタンド…まだ御幣はあるけれど…」

「…やっぱり良く判んねェーなァー、ハハハ」

ケントもだんだん楽になってきたか、声に元気が出てきた。
ジョーンは深そうな傷だけを治癒(?)し、後は残した。

「…なんで残すんだ?」

「勲章だもの。それに、ルナの出番も作らないとね。
 わたしのスタンドは「治癒」じゃあないわけだから」

ケントは立ち上がったが、まだ結構痛そうだ。

「大丈夫か?」

「痛ェーけど、何とかよォ」

「完全には治せないってわけか?」

「「ほぼ完治」ならね、ただ、生物の体はとても複雑なの。
 今猫を届けなければならないという制限がある中では完治するまでは無理。」

「なるほど、それはルナにとっては朗報かもな。
 ルナのスタンドは深い傷は治せないが、軽症程度なら即効で治る。
 しかも戦意高揚、というか、やる気まで少し回復させる能力だ。
 ア・フュースモールリペアー(ちょっとした修復)っていうんだがな。」

「頼もしい能力だわ」

「まァー、このくらいならよォー。 後でルナにそれこそ何とかしてもらうさ」

行こうぜ、というようにケントが促した。
こんなに自信に溢れたケントは初めて見た。
ジョーンに嬉しそうに感謝してる。

俺は思った。

不思議な女だ。

そう思った。


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