Sorenante JoJo? part1

第三幕開き

子猫を生むために賑やかな家を避けた。
若い奥さんはそれを知ると家の配置換えをしたいので
手伝ってくれますか? 料金はそのぶん払います、と来たもんだ。

願ったりだ。

ジョーンの持っていた硬貨は「今」ポールが処分しに行ってる段階で
はっきり言って金がない。

家人にばれないようにスタンドを使う。
ケントが「いいよなァー、力仕事のできるスタンドはよォー」とか言うが
時間短縮のためだ、時給じゃあねーんだから当然だろ?

ジョーンを見ると女にしては力持ちだがスタンドは使ってない。
「恥ずかしがって」出てこないのだという。

さっきも思ったが、本体の要請に逆らうスタンドなんて
どういうスタンドなんだ?

俺はジョーンに対して警戒から「知りたい」という興味に
フェーズがシフトしてるのを感じた。

----------------------------------

さて、この頃の私、ポールだが…

皆が出払った後、ジョーンの提示したコインについて
ルナの資料を入念に頭に叩き込み、これがどんなに素晴らしい物なのかを
頭の中に作り上げていった。

それにしても、とふと思った。
「…古代ローマ時代とかならまだしも、なぜこんな半端な時代の硬貨なのかな」

古代のコインを持っていたなら遺跡発掘が趣味(あるいは仕事?)なのだろう、とか
素直に思えるし、今あるこのコインの中に古代の硬貨が混じっていても
同様に思うことが出来ただろう。

ルナが欲しがったフローリン硬貨も…このデュカット硬貨も
時代はほぼ重なる、13〜15世紀ころのものだ。
こっちの銀貨は15〜16世紀。
このフランにしてもマルクにしても18,9世紀のものだ。

他にも幾つかあるがどれも硬貨ばかりで
時代はおよそ16〜18世紀といった感じだ。

コレクターなのか?
…いや…そういった雰囲気は見られない。
むしろ余り頓着してないように感じる。
粗末な袋にそのまま入れていたことからそれだけは感じる。

…やはり判らないな。
彼女の人柄を鑑みるに偽造とも思えないし、重さも確かに
当時の金貨や銀貨と同じ目方を示している。
…本物と見ておこう、何故かは知らないが、ジョーンがそれを持っていた。
もうそれでいい、あれこれ考えても仕方がない。

私はコートを羽織り、事務所を出た。

ロンドンにも古銭を扱う店は幾つかある。
近いとこれから先ジョーンに頼る際「常連」と受け取られる可能性があるし
(値切られる可能性もある)
少し離れた店にしておこう、そう思い、そこまで歩いた先の店の老店主は
硬貨を見るなり拡大鏡で覗き込みながら言った。

「君はジョーン=ジョットの知り合いかね?」

正直わたしは驚いた。
畳み掛けるように硬貨をアピールしようと思っていたのに、言葉を呑んでしまった。

「…ああ、その…うちの事務所で住み込みのアルバイトをね…」

わたしは名刺を提示し、何でも屋探偵の所長であることを示した。
店主はその言葉を聴いたのか聞いてなかったのか、どうでもいいのか、言った。

「…状態もなにも文句の付けようがない。 彼女は幾つに見える?」

「幾つとは…年のことと考えてよろしいかね…?」

「あれはもう何年前だ、わしが店を開き、それなりに順調に経験をつみ
 それなりに収入も安定した頃だ。
 …40年ほど前だったかな。」

「…?」

「そう、43年前だ…やけにきれいなフローリン金貨やデュカット金貨を
 わしの前に置いたその女はジョーンといった。」

「…!!」

「美人といえば美人だが…とらえどころのない穏やかな微笑をいつも湛えていて
 正直、なぜこの女はこんなものを持っているのか、扱いが決して丁寧でもない
 粗末な袋にそのまま入れてあって、わしの目の前に、これを置いたんだ。」

「…いや…その、正直驚きなんだがね…なぜ「この」コインが
 ジョーンのものだったと思うのかね…?」

老店主は私のほうに拡大鏡を向けて硬貨の一箇所を示し、言った。

「…指紋だよ。 彼女の指紋は特徴的でね。」

ルナや私もちょっぴり触れたわけだが、そういえば特に拭いたりしなかった。
そこにちょっぴり自分の不手際も感じたが、拡大鏡を覗き込み
わたしは驚いた。

指紋だが、何かの図形のようでもある。
図形のようでもあるが、やはり指紋だといえばそうだ。

「その後…余り何度も訪れると怪しまれるからだろう、
 市内のあちこちの店…時には郊外の店にも年に一度くらいの頻度で
 顔を出してたようだ、次のわしの店に来たのは15年も経ってからだった。」

わたしは拡大鏡から目を離し、続きを話すよう促すように雰囲気を持っていった。

「驚いたなんてモンじゃあない。
 コレクションやらを手放すのに何度も分けることはあるだろう、
 しかし15年経った彼女は一向に姿を変えていなかったんじゃ…
 初めての来店が20代真ん中だとしたら…?
 40歳か、まぁ余り変化のない女も居るだろう、化け物じみた
 若さを保ってる女は居るもんだからな…はっはっは。」

「…しかし、若々しくは見えても15年の歳月は無視できない…」

「そう、その後もまた15年ほどしてから来店したんじゃ、
 55歳か?
 とてもそうは見えん。
 いつ見ても20代真ん中じゃ。
 初めて来た時にインパクトたっぷりじゃったもんじゃから
 15年経ってようと忘れるもんじゃあない。」

「…言っておくが、彼女から奪ったのではなく、部屋を貸すのに
 受け取った料金であることだけは付け加えておくよ…」

もう私にヘンな申し開きは出来ない。

「お前さんの会社なら知って居るよ、ヘンな会社じゃあない。」

ちょっとほっとした。

「…こんな状態のいい金貨を持ち込む人間はそうは居らん。
 言っておくが、ほぼイギリス全土の古銭商店は彼女のことを知って居ると思うよ」

「…なんと…指紋を拭くだけ無駄な作業か…」

「指紋を拭くなど「もったいない」…彼女は今やわしらの間では伝説じゃ
 あるいは彼女はこの金貨と共に生きた「証人」なのかもしれん…
 騒ぎ立てれば市や政府も何らかの動きをするのかも知れんが…
 …なんとなくまた彼女が現れる気がする、その時に聞こうと思っているんじゃ」

14世紀の硬貨と共に生きた?
それは流石に妄想だろう。
わたしは思ったが

「…それで、その…幾らになるかね?」

--------------------------------------

事務所に俺たちは帰ってきた。

ケントの胸元には小さな命がニャーニャー鳴いている。

子猫は歓迎だが、全部を育てられるほど余裕はない、
4匹生まれると仮定して近所なりで二匹までを預け、
残り二匹を自分の手元に置くことにしていた、と奥さんは言ったんだ。

…子猫は5匹だぞ、どうするよ。

結局あまった一匹を俺たちが引き取る羽目になった。
尻尾が曲がっててかわいくねー。

お代は多めにもらったからそれはいいんだが…

「へへ…オメーも尻尾がカギになってなけりゃー
 俺たちのところにまわされずに済んだかもしれねーのになァw」

…一番不細工をつかまされたってかよ?
ふと思って、ジョーンに聞いてみた。

「…なァ、この尻尾は治せないのか?」

ジョーンは首を横に振った。

「「生まれつき」っていうのは抗いがたいものなの。
 原因と経過と結果がよどみなく判ってるなら対処も出来る。
 …この子の場合、なんとなくわかるけれど、
 この子自体「曲がった尻尾」を受け入れているわ。
 そういう魂に力を行使することは…できなくもないけどやりたくない」

「…案外不便だな、物は治せるのか?」

「物が傷つく過程は単純なものが多いから、物の方が楽ね
 例え見てなくても予想はつくし、大概当たるし
 それに、さっきも言ったけれど、生物の組織は余りに複雑。」

「…なるほどな。 物の方が簡単か…」

話を横で聞いていたケントが猫を「高い高い」しながら言った。

「それならよォー、ジョーンはルナたちのほうに助っ人の方が良くねぇか?」

それもそうだな、と思った。
ふとFAXが入ってるのに気づいた。
ジョーンは俺たちの言葉にどういうことなのかケントに聞いている。

「…おい、応援要請だぞ。 何か手の余ることになってるらしい。」

二人が俺のほうを向いた。

「大勢で動き回るのは何だから一人でいいとも書いてるが…」

俺は迷わず見た、ジョーンのほうを。

「場所を今から教える。」

-------------------------------------

「もう…時期的に夕方はキツイったらないわねぇー」

「あなたもそんな寒そうな格好してないで素直に着込めばいいのに…」

「意地だもん、それにしても応援遅いなぁー、FAXじゃダメだったかしら?」

「携帯もあるんだからポールにでもかけとけばよかったんだけどね。
 場所の指定を文字で書くのが面倒だからってFAXにした自分を恨みなさいな」

「きっついなァー、ルナはぁ」

ここからはあたし、ルナが…なんであたしが…
でもアイリーに語らせると話が横道にそれたりして上手くないから
やっぱりあたしって事になるのね、やれやれって奴よ。

まずいことになってる。

ネックレスの所在はわかったわ。
簡単。
アイリーのスタンド「ベイビー・イッツユー」ならね。
なくしたか盗まれたか、という依頼だったけれど
盗まれたもの。
それが判った。
女二人で盗んだ奴のところに押し込む?
無理無理。
警察にねじ込むにしても「証拠」が必要だわ。
「スタンドで探知した」じゃあなくってね。

そんなあたしたちはアパートひしめく住宅街の路地に
二人で震えてたって訳よ。
そんなあたしらの前に現れたわ。
ジョーンが。

なんであなたなのよ…交渉上手なポールか、普通に戦えるし
結構頭も切れるウインストン辺りが妥当だろうと思ったのに。

「わたしでいいのかしらって何度も言ったのだけれど…」

ジョーン自身も困惑してる。
まぁ許してやってもいいわね。

「でも、ネックレスに傷が入ってるのなら、わたしがそれは何とかできるわ。」

え…? それはいいわね、あたしにはそれは出来ないから。
アイリーもそこんところは喜んでる。
でも今問題なのはそこじゃあないのよ。

「…それはネックレスを取り返してから…ね、問題は
 ネックレスは盗まれていて、まだ盗んだ奴の家にある、ってところなのよ」

「…押し入るってのもねぇ…」

「そーなのよぉー、押し入るにしてもウインストンならなぁ」

「あの人なら確かに「関係ねえ」ってずかずか入っていきそうだわねw」

「そうそうww 頼もしいんだかバカなんだかわかんないんだけど
 証拠も何も残さないから結構こういうのに向いてるのよねぇーw」

「あなたたち…」

あたしはイライラした

「横道に反れてんじゃあないわよ、住宅街に押し込めば
 周りの住人だって騒ぐから「交渉」スタンドのポール辺りが妥当なんだけど」

「…何故かわたしが来てしまった…と」

「そう思ったけど傷が入ってるようならあなたは適材といえるわ
 …問題はそれ以前なんだけれど」

ジョーンはアイリーからどこの家なのかを教えてもらって一考した。
そしてなんと彼女はそのままずかずかと家のドアの前まで行った。

「ちょ…ちょっと何やってンのよ!」

「押し入るの。」

穏やかな笑顔で彼女はとっても物騒なことを言ってのけた。

「わたしはここでスタンド能力を使うわ、
 効果が出るまで時間がかかるから、そこのところはあなたたちに任せる。」

「効果って…」

「とりあえず音がもれなければいいわね、後は相手が盗品なら
 取り上げられても相手は何もいえない。」

「…!」

「オーディナリーワールド!」

彼女が言うが姿が腕とか頭の一部とか少ししか見えない。
部屋に一緒のとき言ってたけどスタンドが恥ずかしがってるって何よ?

「…音が漏れないならあたしたちでもなんとかなるかしらー?」

アイリーの言葉に

「ジョーンが動き出しちゃったからにはやるしかないわ。
 確かに元々盗品よ、音が漏れないって言うなら
 奪い返してやるわ。」

あたしのスタンドは…戦いには殆ど向いてないけれど、
一般市民相手なら…

「…気体を操るのは…流石に難しいわね…」

「でも始めたからにはやりきって頂戴ね。」

「はぁい」

ジョーンがかわいい返事を返した。
チラッとそれを見るけどほぼスルーであたしがノックをする。
もう後には戻れない。

「…なんだい…? 誰だい…?」

「ちょっとしたアンケートよ、開けてくれるかしら?」

扉の奥の男の声には余り元気が感じられない。
具合を悪くしてる?
でも関係ないわ、後ろでアイリーがあたしの物言いに
「それで開けてくれるかなぁー」なんて言ってるけれど、
いいじゃない、開けてくれないならこじ開けるまでだわ。

男が鍵を開けるようだ、あたしはジョーンに聞いた。

「それで、「音」の方はどうなの?」

「…部屋の壁や床、天井付近の物質の振動を制限したわ…
 あと、出入り口付近の空気も。
 まだ完璧じゃあないけれど…8割がた周りに音は漏れない。」

アイリーがそれを聞いて後ろを振り向いて「あーあー」といってる。
なるほど、狭い場所に居るような音の響きになってる。
効果はあるようね、使えるわ。

ドアが開く、具合の悪そうな男が現れた。
彼は依頼者の屋敷に出入りしていたクリーニング業者の人間。
ハゲかかった30代のその男の名はスモーキン=ジョー。
…そんな名前なんかどうでもいいと思ってた。
次の瞬間までは。

男はあたしたちを見てびびってた。
あたしたちの素性は知る由もないはず、そう、男には見えていたのだ
ネックレスの詳しい位置の探索を続けるアイリーのスタンドと
ジョーンのスタンドがッ!

「うぁあああああぁぁぁぁぁあ!」

男は叫んで部屋の奥に。
あたしは男を追って部屋の中に押し入った。
男の首筋に血が止まってる、という程度に新しい傷跡がある、
何かに貫かれたような…

あの傷には見覚えがある…
あたしもかつて付けられたのだ…!
貫かれたのだッ!
あの「矢」にッ!

部屋の中は散らかっている、というよりめちゃめちゃだわ。
具合の悪いのに関係してる?

追い詰められた、と感じた男が目に狂気を湛え

「俺を捕まえる気だなッ! …そうは行かない…ッッ!」

男の背後にそれは見えた。
この男…つい一日前とかそう遠くない過去に貫かれ、
そして目覚めたんだわ…スタンドにッ…!


第三幕閉じ 戻る 二つ戻る 一つ戻る 進む