Sorenante JoJo? Part1

episode2

第二幕開き

9時43分、客が来た。
って言うかよォー、オレがしゃべっていいわけ?

…いや、いいならいいんだ、オレもチョットこういうのやってみたかったしよォ。

そーとーテンパってるぜ、こいつ。

事務所には今ポールとルナとジョーンがいる。

オレとウインストンとアイリーは隣の部屋で様子見てんだ。
ファッションパンクスなオレは言うまでもねーし、
アイリーも服の趣味わかんねぇーし
ウインストンはかなり威圧的だからなw

それで逃げた客もいるんだぜw
いてッ、なにすんだよォーウインストン。
あぁ?ちゃんと話進めろだぁー?

…判ったよォ。

二度目になるけど、こいつそーとーテンパってるぜェ

ジョーンに乗せられたとはいえ重要な会議断ってまで来たらしいや。
こりゃ、大事かもな。

「…私はゴールデンバット・カンパニーのカプリというものです…」

名刺をポールに手渡したらしいや、ポールはそれを見ると
ジョーン、ジョーンが見るとルナ、で、ポールの目の前にまた置いた。

「…結構な大手ですな、科学研究所で最近は半導体にも目を向けていらっしゃる」

ポールはよォ、自分のところにきそうもない大会社の情報もそれなり集めてンだ。
役に立ったな、おいよォ。

「…それでその、依頼なんですが…」

カプリとかいう野郎、玉のよーな汗かいてるぜ、季節は春なんだからよォ、
それは暑いからじゃあねーぜ。

「おっと、その前に…、貴社のような会社ならば専門の会社があるか、
 BC・LM社(ライバル社)のようなところがふさわしく思うのですが、
 失礼でなければ「訳」をお教え願いますかな?」

命に関わるような事件ならよォ、俺たち捨て駒にされるかもって事だからなァ。

「…はぁ、依頼はその辺りにも関係します。
 BC/LM社を信じないわけではありませんが、
 なにぶん、大きな機密が関わってることでして…
 BC/LM社を通じてもしそれが洩れたり悪用されたりされたとなると…」

BC/LMはやっぱ「やり手」なんだけどよォ、
依頼者側のリスクも大きいって有名なんだよなァ。
報酬だったり、それこそなんかの特許だったり、あそこから洩れたんじゃねーかっていう
機密の噂を聞いたことはあるんだ。

「…こう考えてよろしいですか?
 つまり今回の依頼は貴社を通じて起きたものではなく、
 あなた個人の過失によって起こってしまったがために、大々的に捜査が出来ない。」

ジョーンがものすごく痛てートコ突いたらしーや、そいつ、顔面蒼白。
なるほどな、金もかけらんねーし、秘密裏に行いたいって訳だ。

「……その通りなんです。
 私は設計でして、図面やプロセスなどを納めたメモリーカードを…」

「…紛失に至った経緯など教えていただけるかしら?」

ルナはなんてーか「出来るオンナ」の見本のよーな態度だ。
実際出来るオンナなんだけどよォ、疲れねーのかねェ?
いつもあんな調子でよォ。

「…先日です…家族を連れ市内を回っていました。
 ブルトン通りだったか…セントジョージ通りだったか…
 ともかくそのあたりでした…。」

「…はっきりしませんな。」

「その仕事は明日の会議で提出の予定のものでした…
 だから期限は明日です…朝。
 ギリギリの予定だったんですが、思いのほか早く上がりました…
 社に残しておいては安心できません…私はメモリーカードにデータを移し、
 元データを消した上でメモリーカードにも暗証番号をつけ、データも暗号化しました。」

「…まぁ見つかってもそれなら…」

「甘いわ、ジョーン。
 暗証番号も暗号も、専門家の手に渡ればないも同じ壁よ。
 下手に拾われて下手に「使えないから」といって破壊する素人も可能性あるしね」

「そうなんです…ッ! まずいんですよォォォォおお!」

半泣きだぜ、こいつ。

「何がまずいって、私、自分の上着のポケットとかそういう場所はヤバイと思って…
 子供の風船の紐に特殊なケースに入れて結わえたんです…!」

「…あぁ…その…つまり」

「落としてなくしたのではなく、飛んでいってしまって失くした…と。」

ポールが言うと絶望感に襲われるからとためらった言葉をジョーンが言ったw
ジョーンってあれだな、おとなしそーな、穏やかーな顔してるくせにきっつい事言うよなw

「浮く風船ということは中ヘリウムよね…一日経ってるのよね…」

ルナもそーとー呆れてるぜw
いや、笑いごっちゃねーんだけどよ、オレ達がそれ探す羽目になるんだからよォ

カプリはでもそこで

「いや、しかし! まだケースを開けられてはいない、ということだけは判るんですッ
 これを…(と、いいながら奴はノートPCを開けた)
 このソフトで「最悪の事態」だけは判るようにして置いたんですッ
 ケースが開けられカードを取り出した時にだけ反応するんですッ」

「依頼者を相手に…失礼なことを言うわ。
 それならなぜ単純に追跡できる装置をつけなかったの?」

ルナの眉間のしわがよォ、
「今にも切れそうだわ、あたし」って感じなのな、
おっかないぜェ?

「…あ…」

考えてなかったらしいぜ?
頭いい奴ってどこかしら抜けてやがんのかな?

ポールが隣の部屋のオレ達…っつーかアイリーに目をやった。
この事務所、まったくアイリー様様だぜ?
アイリーは握った手の親指を立てるポーズをとった。
「まっかしてよぉ!」
つまりそういう意味だ。

「…お引き受けしましょう、その依頼。」

ポールが言った。

「ほ、ほほ…本当ですかッ?」

「お任せください、ただの大風呂敷ではありません、必ず見つけ出す自信があります。」

呆れてたルナが言い出した。

「引き受けるけれど、その「最悪の事態探知ソフト」は使わせて頂戴。
 …ああ、そのPC貸してといってるんじゃあないわ。
 ポール、先日の報酬やら何やらあるんでしょ?
 500ポンドほど都合して頂戴。」

「ごごご…500?」

ポールがたじろいだ。

「…なにいってるの、ラップトップ(ノート)型PCで500なんて安いほうよ。」

「………」

客の手前、零細企業だなんて口が裂けても言えねぇ、
必要経費だと請求するにも不自然だし、ポールは引き出しから金出して
数えてルナに渡した、んでルナの耳元でこう言ったらしーや

「この出費でこの依頼が解決できなかったら…
 …電気ガス水道全て止まると思ってくれたまえ…」

「…あなたね…」

ルナはまだまだ文句を言いたそーだったがよォ、とりあえず依頼人に言った。

「そのソフトも何らかの特許というか秘密があるんでしょうから、
 これから購入するまっさらな状態のPCに対してメモリーカード越しに
 読み取りアクセスしか許可しない形でプロテクトをかけて頂戴。
 勿論そのプロテクトを施す過程はあたしたちは見ないわ」

これも「信用」のうちってことかねェ?

「…判りました……ではよろしくお願いいたします、報酬は…」

といって奴は小切手を取り出しやがったよ。

「これは私にとってはとても大きな事件です、明日の朝までに
 無事に私の手元に届いたなら…5000ポンド以上はお約束いたします…」

5000!(日本円で100万円チョット)
…でもまぁ重要機密とか個人で出す金額ならこの辺が妥当なんだろうな。
オレ、良くわかんねェーけどよォー。
あいつら(BC/LM)ならどんくらい吹っかけるんだ?
チョットその辺興味あるよなァ。

ルナが俺たちに目配せして「行くわよ」って感じの動き。
空飛ぶ風船にオレの壁が通用すンのか判んねぇーけど、まぁ
何があんのかそれこそ判んねぇーからなぁ。

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交代だ。
ホラ…あれだ、オレだ。ウインストンだ。

ルナはいくつか店を選び、買うPCも選んで一つ手に取った。
店の人間にコンセント貸してもらって早速起動する。

そして、依頼者のPCに入ってるソフトをこれまた予算で買った
メモリーカードを差し出し、コピーさせ、そして
それが不正に利用されないよう、依頼者にPCごと渡してプロテクト作業を
施してもらった。

その間俺たちは後ろを向き、見ない。

俺はルナに聞いた。

「…ここまでする必要あんのかよ…」

「…ないかもしれない、でも、あったかもしれない。
 本当の評価は見えないものよ。」

「…いいことだと思うわ、それにしてもPCってなんだかややこしいのね。」

ジョーンが言った。
やっぱあれか? 年のせいなのかこういうのには疎い?

「ルナさぁ、最初から買うPC選んでたでしょ? 値段じゃあなくってさぁ」

お、アイリー、お前も気づいてたか。

「これはあれね、ウインストン流に「ゲンをかついだ」って奴よ。
 PCの世界じゃI社がダントツでPC関連会社のD社ではそのI社製の
 プロセッサしか使ってなかったんだけど…ダントツで万年二位企業の
 A社が性能も何も伸ばしてきて無視できなくなった。
 D社は長い慣例を捨ててA社製のプロセッサ搭載PCを売り出したのよ。」

「…自分たちの躍進も願って、か。 なるほど、ゲンがいいかもな。」

「んじゃぁよォ、オレ達も今までのよーにダラダラしてらんねーってことだよな?」

ケントもなんだ、ちょっぴりづつだが大人になってきた見てーだな。

「…ダラダラしてたつもりはないけれどね、
 でも大きな依頼が舞い込むようになったからには、あたしたちも
 上を目指せるようにならなければならないわ。」

俺たちのやり取りをジョーンは満足そうに聞いていた。

「…プロテクトをかけました、それではよろしくお願いします、
 …重ねて言いますが、期限は明日の朝です。
 連絡先はPCの中に携帯電話のアドレスを入れておきました。」

「判りました、お任せください、必ず依頼は成就いたしますわ。」

ジョーンが彼に握手を求める。
カプリもそれに応えた。
紙に書いた契約とかそれこそ電信で契約するとか、そういうのも大事なんだが
「握手をする」
これが重要な「契約の証」なんだ。
ルナなら「任せて頂戴」の一言ですぐ捜査開始だったかもしれない。
時間的にはそれでいいんだが、形式ばっていても、こういうことも大事なんだ。
ジョーン、お前はやっぱ大人だな。

依頼者は社に戻り、俺たちはまずセントジェームズパーク(公園)に。

木陰が多い場所がいい、これからアイリーが探査を始めるが
一般人には「頭の可哀相な子」に見えるかも知れねえし
うかつに他のスタンド使いに出会うわけにもいかねえ。

「風船かぁ…デザインとかは写真残してってくれたから判るけど
 写メじゃあ解像度荒くてなァ」

アイリーがぶつぶつ言いながら光の糸を出す。
そしてほぼ真円で模様も何も殆どない大きな輪を作った。
アイリーのスタンドはまずこうやって「大まかにどこにある」というのを調べ
その場所に近づきながら徐々に小さくて模様の複雑な図形から
場所や位置の特定をしていくんだ。
模様の意味は俺たちには判らんが、模様が細かくフクザツに、
そして結果的に円の直径も小さくなってゆく。
理屈はわかる。

でもなんだ、今までに見たどんな「漠然とした」円よりでかいし
ホントに模様なんてモンじゃない、ほぼ円だ。

「…決め手は…風船の紐に結わえた「ケース」…このデザインを備えた風船は…」

アイリーが奮闘している間、ジョーンがかなり興味深げにそれを見ていた。

「…あった」

皆がアイリーに注目した。
だが当のアイリーが俺たちを見てものすごく言いにくそうにしてる。

「…どうしたの?」

ジョーンが素で聞いた。

「…あったんだけどさ…うん、まぁ、海じゃなくて良かったって言うべきねw」

それを聞いてルナが覚悟を決めた。

「どこ?」

「…おおよその位置ね、あのね…エジンバラ。」

「……」

全員黙った。
ロンドンはイギリス全土から見ると南東の位置にある。
エジンバラはそのほぼ真北、やや西より。
電車で約5時間…
いや、時間は問題じゃあねえ。

「…行くわよ。」

ルナの決断は早かった。

「…しょうがない、あたしの僅かな貯金はたいてでも行くわ、
 …どうせあなたたちは貯金ないでしょ?」

アイリーやケントはばつが悪そうにとぼけて見せた。

「…む、ウインストン、あなたお金持ってるわね?」

「…さぁな、何のことだ…判らないな…」

「あなたもジョセフ=ジョースターの孫の真似なんかしてないで、
 持ってるなら出しなさい!」

「ダメだ、これはオレの将来のために貯めてるんだ、幾ら重要な仕事でも、切り崩せねえ」

「〜〜〜〜〜…あなたねー…」

その様子にジョーンが助け舟だ。

「…まぁ…その…エジンバラの辺りにもお金保存してあるから…ね、その…
 また換金しなくちゃいけないわけだけど…それだすから…」

「…ジョーン…あなたは本当に優しい人だわ、でもね…将来のお金を
 切り崩すって言うならあたしだってそうなのよ、自分のためだけに
 切り崩しを拒否するなんて許されないわッ!」

「とりあえずここは我慢して頂戴、いい、ルナ。
 まずは素早くスコットランド方面に行くことが先決だわ。
 わたしの持ち合わせもそこに行かなければどうにもならない。
 何より、エジンバラまで行くとすぐ東が海だし、チョット北に行けば
 もう後は海になってしまう、そうなっては全てが遅いわ。
 行きはあなたが出して、帰りは行きの分を含めわたしが出すわ。」

ジョーンがおごるってよ、ラッキー…と思ったら。

「…勿論立て替えた分は後でお給料から引かせてもらいますけどね…w」

「ひでー…」

ケントが思わず言った、俺も言おうかと思ったんだが、ルナに噛み付かれそうだからな。

「…当然よ、最初に出した硬貨だって、これから取りにいくお金だって…
 わたしが命をかけて稼いだお金なのだから…ね?」

ジョーンってさっきも「命を懸ける」という台詞使ったよな。
伊達で言ったんじゃねェと俺には伝わった、皆にもか?
こいつってやっぱ相当激しい人生歩んだらしい。
こうまで表面が穏やかな無味乾燥になるには…こいつ相当苦労してんな…
500歳はまだしも…70歳じゃきかない人生なのかも知れん。

皆もそれを感じたんだろう、文句は言わなくなった。
俺も言えねえ。

ルナがアイリーに電話をかけさせた。
ポールも同行させるという。
まぁそうだな、相手が空飛んで自由だとしても人間にとっては
何かしら出入りするための「許可」が必要な場所に行くことになるかも知れん。

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まったく気が晴れないわ、ああ、あたし、ルナよ。

ロンドンを電車で出てエジンバラへ。
最後尾の車両に乗り込んで一番後ろのデッキでアイリーが少しづつ
範囲を絞りながら探索を続ける。

外は寒いんだけど、ジョーンが付き添ってアイリーの周りの空気を
少し振動させることで気温を上げてるみたい。
便利だわ。

物理的な効果としてはオールマイティーなのよね…

ただ重大な弱点は「彼女が操る物質の組成や仕組みを知ってなくてはならない」
ということ。
理屈ぬきで発現するあたしや…というか他の殆どのスタンド使いには
無用な手間が彼女には掛かる。
操る対象を知らなくても操ることは出来るけれど、それには多大な時間がかかる。

例えば先日のスモーキン宅での「音の遮断」だ。
空気は78%の窒素と20%の酸素と後は僅かなアルゴンや二酸化炭素、
ロンドンだから車の排ガス、生活上の排気ガス、そのほか希ガス。
0と100以外のパーセンテージのほかにそれぞれの気体などを知らなくては
素早く操作は出来ない、玄関の石、扉、外壁、内壁、窓枠にガラス、天井に床。
…だから彼女は99.9%の音の遮断が精一杯だし、それにも時間がかかった。
(彼女はだから精一杯の状態が99%でも「完了」と言ったのだ)

…どんな人生を歩んで…どんな知識を身につけてきたのだろう。
20世紀初頭といえば科学技術的に萌芽状態で時代が動きまくった時だ。
オーディナリーワールドの「力」がどんなものなのか、
彼女自身たくさん勉強したのだろう、そして何か役立てられないかと
奔走したのだろう…ただ、歴史が示す事実は…

どう考えても…スタンド使いとして幸せだったとは思えない。
年をとらないというのなら…彼女が望んでそうしているなら
それはまぁ最終的に一人になってしまうのも頷けるのだけれど…

…もし…彼女が彼女の意思に関わらず生かされ続けているのだとしたら?

…もし…強い意志を持つスタンドに生かされ続けてるのだとしたら?

……ただ、彼女はあたしたちに言ったのだ。
どこにあるとも知れない暗闇の向こうに小さく光る希望を目指せと。

…悲しすぎる。
耐えられない、あたしならそんな人生。

…まぁ今気分がすっきりしない状態であたしが勝手に考えた想像なんだけど。
…ひょっとしたら今のあんな感じで飄々と生きてたのかもしれないしね。
…むしろそうあってほしいというあたしの願いだ。

ウインストンも同じことを考えてるようだ。
ふと目をやると彼もジョーンを見てる。
彼とは根っこのところでそりが合わないから対立もするんだけど
物事を筋道だてる経過は似てることが多い。
だからなんとなく判る。

「…アイリーは苦戦してるようだね」

ポールの一言があたしやウインストンを物思いから引き戻した。
ケントは寝てるわ。
いいのよ、別にね。

「…そりゃまぁ…漠然とエジンバラってだけだからなぁ…
 それにこの間にも海か…もっとスコットランドの奥に行く可能性もあるんだ」

ウインストンが言うと、扉が開いてジョーンが戻ってきた。

「…保障しかねるけれど、とりあえず大丈夫なようよ。
 この三時間ほどホンの微妙にしか動いてないみたい。」

電車に乗って三時間、どういう状態なのかは判らないけれど
どこかの林の中の木にでも引っかかってるなら話は早そうだわ。

「あと…一時間ほどで着くわね、ごめんなさい、少し寝かせてね。」

ジョーンはそういうとあたしの隣に座ってそしてものの数秒もしないうちに
深い眠りに入ったらしい。

あっけにとられたけど、ポールが言った。

「どの分野の効果も一流にこなすが故なのかもしれないね、
 3時間空気を操り続けて疲れたのだろう。」

…なるほど…精通はしてるが「専門ではない」ゆえに疲労も激しい…
まぁ三時間も能力使ってられるのはそれだけで凄いんだけど。
アイリーも良くやるわね、わが社の要だから気合入ってるんだろうけど…

あたしはデッキに出た。

「アイリー、あなたも少し休みなさい。
 大丈夫よ、あなた一人があんまり頑張らなくても、
 ちゃんとあたしたちが何とかするから。」

やっぱりアイリーも無理してたんだろう、

「そ、そう? ジョーンも言ってくれたけど、あの人優しいから
 ルナもそういってくれるならやすもっかなー」

ベイビー・イッツユーが消え、チョットふらつきながらあたしにもたれて
アイリーは戻ってきた。
ウインストンがやたらあせってる。

「お、おいッ 何そんなくたくたンなるまで頑張ってんだよッ」

「いやぁ…だってジョーンが頑張って寒くならないようにしてくれてるから
 あたしもそれに応えないとなーって…たはは…w
 でもジョーンに勝った…かなw」

「勝った負けたって…そういう問題じゃあないでしょ?」

あたしは呆れてついいった。

「そりゃーぁさぁ、ジャンル違うから…だけどさぁ
 越えなくちゃいけないんだと思うんだよね、ジョーンをさぁ。」

その一言はあたしやポールやウインストンをドキッとさせた。
そうなのだ、今すぐとは言わずとも…いや、そのくらいのキモチは
必要なんだ…あたしたちよりこの子の方がよっぽど先を見ている…んだけど

「…でもそれはスタンドの効果時間を張り合うってことじゃあないわ。」

「あっはw そーだよねーw またバカやっちゃったよーw」

あたしが座ってた席にアイリーを座らせた。

「…しかしまぁ、アイリー。 お前今結構輝いてたぜ?」

ウインストンが言うと、その言葉はクサいとか、そういう感想はともかく
あたしもポールも頷いた。
抜いた抜かれたは気にしてなかったけれど、今チョットアイリーに先を行かれた
気分になったわ。

アイリーはにっこり笑ってやっぱり寝てしまった。
ジョーンにもたれて。

…やだ、ちょっと思い出しちゃった。

「ほほえましい光景だね」

ポールが感想を言うと、あたしはつい言ってしまった。

「…ジョーンまた寝ぼけてアイリーにキスしないでしょうね…」

その言葉にウインストン。

「な…何ィィイィィィイイイ!?」

あたしはヤバイと思ったんだけど、とりあえずウインストンを抑えるのに必死。
知ってんのよ、ウインストンはアイリーにちょっと気があることはね。

とりあえずあたしは今朝の出来事を話して聞かせた。

そしてさっきの物思いを含め、なんであたしがジョーンをフォローしなくちゃ
なんないのかちょっとわかんないけどフォローしたわけよ。

「彼女が実際どのくらい生きてるかは判らないけれど…相当長い間
 オーディナリーワールドと「二人きり」だったのは間違いなさそうなのよ…
 ひょっとしたら彼女が「仲間」なんて持ったのはこれが初めてかもしれないわ
 …だからアイリーも気にしてないって言ってるし、許してあげなさいよ。」

ポールがおかしそうにしてる。
なんだかんだでジョーンを含め6人の仲間になったのだな、
という気持ちになったんだろう、いいんだけど傍観しないで頂戴よッ

「…とりあえずジョーンが油断ならねえって言うのは理解したぜ…」

「…まぁスタンドとはいえ女性相手に「おはようのキス」してたんだからね」

「よし、今度からオメーが起こせ」

「なッ…何言ってんのよッ! あたしが人身御供って訳?
 だったら起こすときだけ部屋に入るの許可するからあなたが起こしなさいよッ!」

アイリーに気があるとはいえ、ジョーンの過失でキスされるんなら
悪い気もしないでしょッ? まったく。
でもウインストンは真剣に考えていった。

「…いや、別に嬉かねェなぁ。」

「なによ、推定70歳だから?」

「…そうじゃあねえんだ、なんてぇかな…やっぱ見た目のせいもあると思う
 妙に近くにいる雰囲気とか…建物の細い隙間を胸きつそうに進むのを
 本人全然気にしてなかったりとかよ…なんかそういうの見てたら
 …頼りないんだが…でもやっぱりしっかりしてる「姉」のような存在ってーか」

「ああ、それはちょっと判る気がするね。
 わたしの場合「妹」か「姪」と言った感じだが」

ポールも言った。

「でもわかんねェ奴なんだけどな。
 こんなに近くにいるのに、凄く遠い世界にいるような。」

「…そこんとこは同感だわ、そう、男連中はジョーンに肉親的なものを感じてるわけだ。」

「オメーだって、兄貴がいたとしてキスされんのどうよ?」

「…肘打ちくれてやるわね」

「肘打ちまではくれないが決して嬉しくはない、
 オレにとってはジョーンはそんな感じだな、というわけでオメーに任せる。」

「…あなたね…まぁあたしは抵抗するからいいけど。
 でもアイリーが起こすって言うのはあたし止めないわよ。」

「なんだよ、友達だろ? 助けてやれよ。」

「命に関わるなら考えてやってもいいけど、キス一つで身を挺するのはゴメンだわ。」

「まぁまぁ…もうそろそろエジンバラだよ、二人とも、荷物は大丈夫かね?
 ルナ、ソフトに反応はないかね? ログも確かめたまえよ?」

また絶妙にポールの「ハイ、そこまで」が入った。
あなたあれよ、レフェリーになるとちょうどいいかもよ?

まぁいいわ、大丈夫、まだメモリーカードは無事みたい。

郊外からだんだんエジンバラだなって風景に変わってくる。
ジョーンとアイリーの二人は…後5分くらいは寝かせてやろうかしらね。


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