Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Nine

第二幕、開幕


休日を挟んで数日後であった。

二班で分かれれば、夕刻前には仕事も上がれる。
(とはいえ、最初の頃よりは遥かに身の詰まった忙しさだが)

ウインストンはケントを伴ってパブに来ていた。
何故ケントを連れてきたかと言えば、まぁ仕事のパートナーになってる
事もあるが、2007年7月から公的な屋内で喫煙禁止になったかと思えば
路上喫煙などは以前と大差はないし、パブも「中で吸わなければいいのだろう」
的に入り口付近で吸っている人も多くその中に紛れちまえば何てことないが
席もキープしておきたいという、完全にウインストンの都合であった。

とはいえ、エールくらいは飲めるようになりたいとケントも思っていたし
鍛えるつもりもあって同行していたのだ。

ウインストンがパブの外で一服していると

「まったく、それはそれで軽犯罪なんじゃあないのか?」

あきれ顔でジタンがやってきた。

「お、なんだよ、最近昼間に結構みるが、まさか暇なのか?」

「違うよ、これから…三時間後くらいに夜勤さ、潜入捜査やってる奴とかの連絡係」

「おお、ああ、そういやそうか、ウチとは仕事の内容がほぼ被らないのは救いだな」

「ああ、救いだ(パブの中を見て)ケントに席取りさせてるのか?」

「イギリス人だもんな、エールくらいは飲めるようになりてぇって」

「ああ、まぁ、そうだな」

ウインストンは携帯灰皿を持っているので(路上は吸い殻が結構落ちているが)
それにタバコを仕舞い、ジタンと共に入店する。

「お、ジタンじゃぁーねぇかよぉー仕事はいいのかよォ−?」

また説明するのか…

「夜勤前に少し時間があるから一本くらい景気づけさ、入り仕事だしいいだろ」

「お前もいつのまにか結構な飲んべえだよな、体大丈夫かよ?」

「ああ、今のところな」

エールを煽りながら。

「君たちは順調みたいだな、見たぜ、三週間前の大捕物、新聞でだが
 その後の記者会見の中継の後ろにちらっとルナも見えたし
 モア刑事とも繋がりが出来たか?」

「ああ、…デパートの窃盗事件通報辺りからだから…そんな付き合いは長くないけどな」

「ふぅん」

「そういやァーよォー、どう言う因果か娘の方とも知り合ったんだよな、オレたち」

「まぁ、実際に先に会ったのはジョーンたちだけどな」

とばかり言った時にジタンが血相を変え、パブを見回した。
ウインストンとケントはかなり驚いた、何か不味い事言った?

「レット・イット・ビー!現状維持!」

「な、な、なんだ? なんだ?」

「…ジョーンを見てて俺にも出来るはずだと思ってな、音の遮断だ」

「え…あの子そんなになにか不味い子なのかよォー?」

そこでジタンは歓喜の表情になる

「違うッ!やったぜ!奴に見つかる前に彼女の運命がジョーンの方に引き寄せられたのか!
 やった!なんていいニュースだッ!Wow!」

ウインストンですらこんな舞い上がったジタンは見たことがないか、ほぼないんだろうなと
ケントは思ったが、その様子から二人が驚いた。

「ど…どー言う事なんだよ?」

「あ、ああ、済まない…つい舞い上がっちまった。
 だが、運命のシャッフルに俺とダビドフは勝ったぞ!」

ジタンはエールを一気に煽り、現状維持を一端解除してパブの親父にもう一本の
注文をした、それを受け取ると再び現状維持を張り(そこはきっちりしてるんだな、と
 ウインストンもケントも思った)

「あの子はかつて俺とダビドフで某国から保護した子だ、彼女の能力は
 味方に力を与え、敵の力を削ぐ能力!」

「はェー…そりゃ、使い方によってはすんげー頼もしくも恐ろしくもあるなァー」

「そんな大事な子の運命をシャッフルに委ねたのかよ? だって恐らく
 プレジデントの奴にとっては喉から手が出るほど欲しい能力じゃあねーのか?」

「流石だな、ウインストン、その通りだ。
 だが「だからこそ」俺とダビドフは運命に委ねたのさ、俺が今なんのために
 BCに張り付いてるのか教えてやる、奴を倒すため、そのための切っ掛けを
 作るため、だ、ダビドフはまたちょっと違うが…」

「運命がミュリエルをジョーンたちと引き合わせるなら「望みアリ」そーいうことか?」

「そういう事だッ!ああ、くそッ!なんで今から仕事なんだよ!サボって祝杯上げたい気分だ!」

ジタンの口から「サボる」なんて単語が出るとは…学生の時でも殆ど口にしなかった
言葉なのに、そんなにあの子は重要なのか…

「モア刑事からたまに近況は聞いていたんだ、余り時間を作ってやれない
 余り親らしいことをしてやれない、そんな愚痴が大半だったから悶々としてたんだよ」

ケントがその嬉しそうなジタンに

「あー、ジョーンとはよぉー、結構いい感じに仲良くなってたぜェー」

「孤独で勉強しかやることがない、というならじゃあ、得意で好きな物にしてしまえば
 いいって感じでさ、ジョーンとルナでなんか色々教えてるし
 そうかと思えばジョーンとクラスメイトの他の子とかも一緒になんか遊んだり
 ジョーンもひょっとしたらあのお転婆娘っぷりを見るからに
 結構楽しいのかも知れない」

「そうか…次モア刑事に会うのが楽しみだよ、きっといい話を聞けるだろうし」

「ミュリエルってどーいう環境で育ったんだ?いくら何でも同年代の子と
 馴染めなさすぎる、ジョーンが率先してお転婆やるから引っ張られて
 少しずつミュリエルもそういう子供らしい遊びもするよーになったが」

「…スタンド能力持ちと言う事で恐らくもっと小さい頃から軍人教育を受けてきた
 そして俺たちが保護するまで彼女は「特殊軍人」だった、それだけだ」

「そっかー…なるほどなァー、オレもちょいと貢献するかなァー」

「パンク聞かせるのはハードルが高いと思うぞ」

ウインストンが言うと

「「ANISON」とかいうのも同じだと思うぜェー?」

「ばっかちげーよ、全然ちげーよ、アニソンは魂の歌だぜ
 超前向きな人間賛歌じゃあねーかよ」

「日本語わかんねぇんじゃねぇーの?」

「…それがあったか…俺も100%わかる訳じゃあないしな」

そのやりとりにジタンは笑いつつ

「ウインストン、10歳くらい若返ってないか?
 まぁ、彼女を宜しく頼むよ、君らなら、彼女を正しく導けると信じている」

激しい喜びの後はしんみりと幸福感を味わっているようなジタン。

「ああ、まぁー運命って奴はともかくよォー、あの子の境遇は判ったから
 やれる事はやるよォ、心細かっただろーからなァー」

ケントもやっぱり結構優しい奴だ、見た目がこれでなければ
スタンド使いなんて物にさえならなかったら、キンダーガルテンの
保父なんかも天職だったろう。
ジタンとウインストンが見つめ合って笑った。



翌朝、夜勤明けのジタンが出社してきたダビドフと遭遇した

「よォ、お疲れさん」

「ダビドフ、引き継ぎだ」

そう言って彼は引き継ぎ事項を箇条書きにしたような結構字数のある
メモ書きを渡した。

「ああー」

受け取りつつ、なんかいつもより文字数が多いというか、行数多くね?
とダビドフが思い、アレコレとメモ書きを見回す、
一行目の頭の文字を縦に読むと、そこには

『彼女は彼女たちと出会った』

と、読めた。
ダビドフは驚愕した。
そして

「おいジタン! ここ不明なんだよ! おいジタン!」

と走り出し、社外の少し賑やかな場所で追いついた、という演出をした

「マジかよこれ!おい!」

現状維持を張りつつ、ジタンは頷いた。

「おい!なんてこった!やったぜヒャッホー!!
 てめぇ、なんでこれを朝の引き継ぎに使うんだよ!
 祝杯上げてぇのに今から仕事だぜチクショー!」

「今夜は非番だから、一端寝てからまた連絡するよ、付き合うぜ
 俺も昨日の出社前にあいつらから教えて貰ったところで
 お前も昨日は社を空けてたし、今のタイミングになっちまった
 俺も祝杯を挙げたいんだ!」

お互いの握り拳を合わせ、笑みを交わすと、彼らもそれぞれの日常に戻った。



ミュリエルと知り合って10日ほど経った。
もう8月になろうとしている。

BCからの突っつきが無い事もあり(この間のビディはBCからの発表もあったし、
 それなりに信用できると思った事もあって、あれは「単独行動だった」と
 K.U.D.O側も理解していた)
順調な日々が続く事は喜ばしいが、何か空恐ろしさも感じていた日曜日の事。

ミュリエルはここに通う事が好きになっていた。
平日もちょくちょくお邪魔していた事もあり、10日の間には「いつもの風景」の
仲間入りしそうな状態だった。

事務所の方へお邪魔してみるとポール以下ウインストン・ケント・アイリーが居て
アイリーウインストンでテレビを見ているほか思い思いに過ごしていたようである。
義務のようには思わず、彼らは歓迎してくれたしポールが先立って紅茶をいれに行く。

「二人は? 仕事なのか」

「ああ、いや、隣には居るのだが…何をしているのだろうね?」

事務所の扉を開放し、給湯室に向かいながらポールが言うと、廊下の奥の方から
音楽が流れてきた。

「ああ、いつものくつろぎタイムなんじゃあないかな?」

アイリーが言うのだが

「でもなんか音の聞こえ方がいつもとちょっと違うなぁ」

壁を伝ってくる音はない、完全に通路だけを通ってその音は鳴っていた。

「ああ、リベラ君が間の出入り口に寝ているね、その隙間から音が漏れているようだ」

「壁の音は遮断してるって事か、なんでそんな事を?」

ウインストンはテレビの音量を下げる。

そこそこの音量で音楽を流している…にしてはスピーカーから流れる音とは
思えないクリアさ、ギター一本の演奏で歌が聞こえるのだが

ポールが

「ショーン=コルヴィンだね、97年だったかグラミーを受賞している曲だ
 タイトルは何て言ったか…」

「ポール何気に詳しいね」

「話の掴みでね、有名どころは押さえるようにしているのさ」

「へぇ」

暫く聞くのだが…

「おかしいな、もう少しバンド然とした…派手ではないが…そういう
 演奏だったように思うのだが…なにかライブ版のようなものだろうか」

ポールの推理に続きケントが気付く

「あれ、これ、ルナの声に似てね?」

言われてみれば…アイリーが耳を澄まし

「…ルナだね」

「っつーことはギターはジョーンか、昨日買ってたもんな」

時々コーラスっぽく声を合わせて歌っているのはなるほど、ジョーンのようだ
ジョーンの歌が上手いのはかつてエジプトで聞いて判っては居たが

「…ショーン=コルヴィンの歌い方というか声の質をちゃんと再現してあるようだ
 意外だね…彼女がこんなに歌が上手いとは」

音程は勿論あっているし、表現力もあるし、ここまでうっすらとでも聞こえる
と言う事は、それなりに声を張って歌っている、小声で口ずさむのとは全く違う

その曲が終わると、事務所にまでは話し声は流石に聞こえないが、何かを話し合った後
ジョーンのギター演奏が始まったと思ったら、またルナなんだろう、歌が聞こえる。

「おっと、今度はビートルズのようだね、「悲しみはぶっ飛ばせ」かな?」

サビの部分で「Hey!」と結構張った声を出す歌であり、そこはしっかり聞こえる。

「…これも…さっきよりは判りやすくルナの声だが、ジョン=レノンの歌い節みたいなものを
 しっかり再現しているよ、いやはや、結構な特技もあったものだね」

オリジナルのこの曲だと最後にオクターブ違いでフルートの演奏が入るが、
そこも二人の口笛でしっかりやっている。

終わった後、笑い合うのも聞こえる、なかなかに楽しそうなのだが…
ケントがそこでいつものお調子者的なノリで、リベラが居座っている
猫用出入り口の所まで行ってその猫用扉を開けながら向こうの部屋に向かって

「おうルナ、おめェー歌上手いじゃん」

とか声を掛けたらそこからが一大事であった。

事務所の方にいても聞こえてくる慌てっぷりで、

「ちょっと!なに?聞こえてたの?ジョーン、どう言う事!?」

ジョーンがこちらに寄ってきたのだろう、

「…壁の音は確かにほぼ遮断したのに…ここ…リベラが猫扉を開けて
 くつろいでいたから音がここから漏れたのね…」

「ああああああああああ!! リーベーラー!!」

多分、ルナは今もの凄く赤面して悶絶し掛かっている
その姿が直で見られないのは残念というか、きっとまた何か可愛らしさを感じるのだろうなと
ミュリエル以外の全員が思った。

「…どうして恥ずかしいのだ?かなり上手いと思うのだが」

ミュリエルもケントの方へ行き、リベラを抱っこしながら素で言った。
アイリーが苦笑の面持ちで

「あたし二年以上ルナと同室だけど、あんな風に本気で歌ったのを聞いたのは
 今日初めてだよ…w 以前だと「そんなキャラじゃなかった」し、しょうがないんだけど」

「前からああいう人物ではなかったのか、今のように変わったと言う事なのか」

「そうだよ、ルナにとって、この半年は大きな大きな転機だったんだ」

「何が切っ掛けだったんだ?」

それを聞いてその場にいる全員が

「ジョーン」

と答えた。
なるほど、あの人との出会いが何気なく大きいというのは判る気がする、とミュリエルが思って
事務所の方へリベラを抱きながら戻ると、顔を真っ赤にしたルナと、ちょっと苦笑の面持ちの
ジョーンが隣からやってきて

「ああ…ミュリエル…こんにちは」

恥ずかしいながらも、ルナがそう言った。

「歌手になろうとかそういう風には思わなかったのか?」

ああ、確かにミュージシャンとしてどうこうはともかく、
金取れるレベルではあるかなとみんなも思ったが

「あたしは自分では音楽を作る才能はないし…歌っていったって
 オリジナルの歌手の風味をそのまんま再現するしか出来ないし、こう言うのは
 歌えるからプロっていうほど甘い世界じゃあないわよ…」

「そうなのか」

「そうよ、プロって言うのはそれほど大変なものなの」

ジョーンも答える、ジョーンにとって芸能は食うための技能ではあったが
それ以上のものでもなかった、というのが大きく関係している。

「…にしても、ショーン=コルヴィンとは、なるほどルナ、君らしいね」

ポールが紅茶を差し出しながら言った。
彼女の作風はロックともカントリーとも言えるような曲調であるし、何より
ショーン=コルヴィンは駆け出しの頃それこそ小さいステージで
ビートルズのカバーなどをやって実力を貯めていったミュージシャンでもあった。

「あたしのスタンド名、彼女のアルバムからだもの…そりゃあ好きよ」

それにしても…という感じでルナが赤面が取れないままソファに座って紅茶を飲む。

「はぁー、何てこと…飛んだハプニングだったわ」

「ルナがハミングしたり小声でサビとか歌い出し歌ったりって言うのは
 あたしも聞いてたけどね〜」

「そう、だから、たまにはこう言うのもと思って昨日わたしがギターを買ったの」

「ギブソンJ-160E…思いっきりジョーンの趣味だけれどね」

「楽器店を見かけるといつも思っていたが、あんなに一杯種類があって
 それぞれに違う物なのか?」

それについてはジョーンが少し考えつつ

「…判る人には判るレベルだけれどね、後は気分の問題もあるわ
 わたしの買ったギターは、ビートルズの…特にジョン=レノンが愛用していたモデルなの」

「へぇ」

ミュリエルは素直に感心した。
そろそろクラスメートとも普通に遊ぶ事もちらちら出来ていたが、
「スタンド能力持ちの心理をはかれるのはやはりスタンド持ち」という事もあり、
みんなも歓迎して迎えたので「余り甘えないように」を心がけつつも、やはり子供、
素直に嬉しいものは嬉しい、ケント辺りが率先して接してくるし、
ウインストンもこう言う時はそれこそクラスの男子のようでもあり、
それでいてやはり大人でもあるわけで、デリカシーのない事は言ってこないし
アイリーも凄く柔らかく、でも、例えばK.U.D.Oでの活躍以上の事は望んでいないし
世間的にスタンドというものがまだまだ稀な現象である以上、どれほどの善行を重ねようと
異能は異能、ということをその振る舞いから見て取れる、テレビが大好きなアイリーは
ミュリエルともたまに一緒に見て「こう言ったものの楽しみ方」みたいなものも教えてくれる。

余談であるが、それぞれの国で見慣れたエンターテイメントというものもやはり
その国にあってその国の「様式美」というか「お約束」のようなものを理解していないと
ドラマにしても映画にしても楽しみ方や、感情移入の仕方なども判りにくいものもある。
最終的に何にシンパシーを感じるも自由なのではあるが、少なくともこういうものには
「お手本回答」みたいなものが用意されているものである。
ミュリエルにとってはそういうものの楽しみ方もまた、勉強になった、
クラスメートたちの話題もなるほど、そう言うものの見方で見た感想を言えばいいのだなと
…こう言う部分ではルナでは逆立ちしても出来そうにない「授業」であった。

ルナやジョーンは近代科学についてを特によく話してくれる。
ミュリエルはちょっと本格的にこう言う道に進むのもアリかな、と思い始めていた。

ポールは「キリの良いところ」を見計らって色々と場を仕切っている。
なるほど、所長というのはそう言う役回りもあるのか、人の上に立つとはそういう事も
必要なのか、と思えたし、あくまで紳士的な態度を崩さない、でも、時々
ちょっとジョークも交えたりして楽しませてくれる。
ミュリエルはちょっとだけ「父もこう言うところを見習って欲しい」思った。



楽しい一日だった、ミュリエルを家に送り返しつつ、全員で街に繰り出したまには
外で食べようとなったことで、全員でミュリエルと街を歩いていた時である。

ルナが

「…さっきから誰かがつけてきているわ」

ウインストンも

「ああ、なかなか尾行も上手いが俺に気付かれるって事はまだ素人だな」

そしてポールも

「身なりからしても私服だが板につきすぎている、公的機関や探偵ではないようかな」

極めつけにジョーンが

「…一人のようね、「誰が」「なんの目的で」…本人に聞いてみるしかないようだけれど」

アイリーとケントにミュリエルを送らせようとしたが

「相手が何モンか…下手したらスタンド使いかもしれねェーのによォー、
 壁も探索もないってのァーちょいときついんじゃぁーねぇの?」

ルナが推理を展開する。

「30メートル以内に近づかない、こちらの射程を知っているかのようだわ、あたしらの情報を何某か
 持っている可能性は否定できないわね」

「BCかな?嫌なタイミングで来るなぁ」

「BC…貴方たちとは競合はしないが貴方たちと同じスタンド使い探偵社だな
 父が言っていた…もし尾行者の「排除」が今必要なら、私に構う必要はない
 むしろ私は貴方たちを支える事も出来る」

「いやいや…ミュリエル、それは行けない、君にもしもの事があったら
 我々の面目も立たないというかね…」

ポールが慎重な意見を言うと

「それ以上に、スタンド使い同士の争いの運命に絡め取られるかも知れないわ」

ジョーンが呟いた、そんな事はあってはならないという強い意志を感じる。

「…いや、それならば…私は立ち向かわなければならない。
 ジョーン、貴女が言ったのだ、積極果敢に不幸に立ち向かうべし、と
 選択と行動は常に自分であると、今ここで争いが生じるというのなら
 それが私の運命だというのなら、それは私が自ら挑まねば意味のないものだ」

一本とられた、ジョーンがそんな顔をした。

「そう…若くして覚悟を得る事は悪い事ではないわ…まぁ…最悪何があっても
 あたしらは貴女を逃がすから…その時はモア刑事にでも連絡してね
 ああ、まだ連絡はしなくていいわ、もう少し事情が判明してからね」

ルナが振り返り、「尾行者」が身を隠した路地裏の方へ歩を進める。
「今」ここで全てをはっきりさせないと何かもっと面倒な事になりそうな
予感がルナにはあった、だからミュリエルは同行しているが
相手の目的がはっきりしない以上、一緒に行動するしかないと腹をくくった。

「気をつけろよ、相手が能力者なのだとしたら射程が判らんのはきつい」

ウインストンがその後ろを歩く、以降ミュリエルを中心にしんがりがジョーン
という布陣で路地裏に入ってゆく。

「…どっちにしてもあたしらの能力的に少なくとも20メートル以内に入らないと…」

ウインストンの基本的な射程が20メートルと言う事もあり、ミュリエルの
フォロー如何ではもう少し伸びるかも知れないが、それが加わっても
ルナのリペアーが10メートル基本でフォロー付き20メートルであるから、
先ず様子を探る点でもア・フュー・スモール・リペアーズの三人を出現させ
斥候に出そうとした…その瞬間であった!

突然沸き起こった謎のスタンドがルナをスタンド込みで後ろから
抱きかかえるようにして路地裏を抜けた裏通りのちょっとした広場にすっとんだのだ!

「!!」

やはり敵か!
全員で捕えられたルナを追ってその広場に出る。
広場は約30メートル四方であり、ルナはその中央より少し奥の方に捕獲されていた。
かなり強い力で締め上げられているらしく、ちょっと苦痛の面持ちである。

『おっと、そこで止まンな』

全員が広場に出た所で声が響く。

『30メートルは俺の射程だ、そしてお前らの射程外だと言う事も知っている
 下手な動きは見せるなよ、風でその辺崩して回るとか、俺の居場所を特定するとか
 …そー言う動きをすると』

謎のスタンドが更にルナを締め上げルナが苦痛の呻きを上げる。

「てめぇッ!目的はなんだ!」

ウインストンが問う。

『ウインストン=ウインフィールド…俺はお前さんの少し後にストリートに出た
 お前さんは既に引退して探偵始めてたからお前さんは俺を知らないだろうな』

「野良スタンド使い…あるいは地下組織を組んだ奴と言う事か…!?」

『あーまぁーその辺は濁すわ、だがそうだな、特定の所属はほぼ無いよ』

「テメェ、最初の質問に答えてねーぜッ!目的はなんだ!?」

『…まぁ、その前に聞いてくれよ、俺は普段は地下に住んでるんだ
 下水ったって場所に依っちゃぁ結構住みいいんだぜ…まぁそこで…
 二ヶ月近く前なんだが…ある日何気なく地下散歩してたらよ…
 なんだか薄気味悪い「元人間」って感じの死体があって
 そいつの鞄にノートPCがあってさ…興味あったから開いてみたんだよ』

二ヶ月近く前…地下の下水道…死体…ノートパソコン…そのキーワードは…

「あんた…中を…見た…のね…ッ!」

締め上げられながらも、ルナが「しまった」という感じで言った。

『まぁ、直ぐ上から誰か来るって感じたからよぉ、「今記録が終わったばかり」
 ってファイルとあと少ししか見られなかったけどな…興味沸いたよ
 あんたら、捜し物だけじゃあないんだな、結構な実力者だ…』

「だから…なんだッ!」

『力試しさ、懐かしくないかい?ストリートファイトって奴だ』

「ストリートファイトと言う事はルールがあるって事だが、
 ルナを人質に取る事はルールなのかよ!」

『俺はね…ウインストン、お前だけと戦いたいんじゃあないんだ…
 何か一人小娘が混じってるが…『お前ら全員』といっぺんに勝負したいんだよ』

「さっきから聞いてりゃぁーよォー、随分好き勝手いってくれんじゃんよォ−」

『いいかい、俺が副所長さんを人質に取った時点で戦いは始まっているんだ
 ルールは…あんたらが音を上げるのが先か…或いは副所長さんを重傷に追い込むのが先か
 …はたまた…俺の課題をクリアーしちまうか…だ』

「どういうこと…?」

ジョーンがそう言うと、どこからかピアノの出だしからの音楽が流れてくる

「おや、これは…」

ポールが思わず「懐かしい」と思った。

『さぁー!これは強制だ!振り付けは知らなくても十分!踊って貰うぜ
 ABBAでダンシング・クイーンだ!俺のスタンド名でもあるぜ!』

往年のディスコソングに合わせて人質になっているルナ以外の全員が強制的に踊り出す。

「な…なんだ…これは…これが…攻撃…なのか!?」

ミュリエルがびっくりしているが、それに対してジョーンが冷静に

「スタンドが出せないわ…いえ…出す事は可能だけれど…」

ジョーンにほぼ重なった位置にオーディナリーワールドが見える、
踊っているジョーンにほぼ重なって…というのだから…つまり…

「うぉ…風街ろまんもだ…!俺とシンクロして踊ってやがる!なんだよこれ!」

「振り付け自体そんなにきつくないけど…これが攻撃になるのぉ?」

アイリーはクラブとかディスコと言った所で踊るのも好きだったし、
(スタンド使いになってからはそう言う場所にもご無沙汰ではあったが)
まだ若いと言う事もあってそれほど深刻にはこの「攻撃」を受け止めなかったが…

『はっはァー!いいぞ、そしてペナルティの話をしておく、
 踊るのは強制だがお前らが「もう体力の限界だ」と思った時点で離脱できる
 離脱したものはその場で動けなくなるだけになる…そして…
 お前らが一人離脱するごとに…副所長さんは締め上げられてゆくぜ…!』

なんと、馬鹿馬鹿しいようで…このスタンド…結構恐ろしい…!
ポールは余り普段動かないのでもう少し息を弾ませながら

「ああ…君の詳しい勝利条件を…教えていただけないかね?」

『まぁ、全員リタイアでも普通全身ボッキボキに骨を折ってやるくらいだから
 よっぽど虚弱でなければ死にはしないと思うぜ、そして俺の勝ちになる
 俺はこの辺りをよく知っているからね、「あんたらに勝った」という
 満足感を胸に、お前らから逃げ切ってやるぜ…なにしろ…
 要のアイリー=アイランドは現状じゃ探索も出来ないし、
 俺は最後まで姿を現わす気もない、逃げ込む下水街には人もそこそこ居るし
 俺は紛れて逃げ切る自身があるぜ!』

「なるほど…」

ジョーンは踊りながら

「案外…厄介な相手だわ…スタンドの特殊能力は…封じられるみたいね」

「ちくしょー!オレでも知ってるぜェーこの曲はよォー!
 なんでこんな誰でも知ってる「往年の名曲」責めなんだよォー!」

『誰でも知っている往年の名曲だから…さ…俺はかつてDJを目指していたんだ…
 俺がその場の空気を誘導しみんなを踊らせる…夢だったね、だが…!
 面接で何て言われたと思う?「お前の選曲は古い」だってよ!
 クソッ!名曲に新しいも古いもあるかッ!さらに…その後俺は
 矢に貫かれたが、そいつにまで言われたぜ!』

「えっ?てことは矢を射った相手には攻撃としてそれ行ったって事だよね?
 クリアされちゃったの?」

アイリーが素で聞き返す

『正確に言やぁそいつには特殊能力封じが一部通用しなかったみたいでな
 変な奴だったぜ、能力を幾つも持っていやがった…流石にあれは不味かったから
 直ぐ逃げたけどな…!』

能力が幾つもある…?
普通なら有り得ない…あり得るとしたらそれは…

「そいつ…ろ…老人…だった?」

ルナが声を振り絞ると

『いんや、若い男だったな、まぁ、いいじゃねーか
 ストリートファイトを理解しない奴に対してどうすりゃいいか
 考えに考え編み出した俺の戦法でもある、お前ら相手に試してやるぜ!』

命も危険も何もないのなら直ぐリタイアすればいい、それを許さないための
人質であり、そしてリタイアするたびにルナが締め上げられるというペナルティ
加えて相手は地理に通じていて、アイリーに探索の隙を見せない…
(声からでも探索は出来るが、その場合相手がそれなりに逃走中も喋っていなければならない)

「おい…ちょっとこっちに…不利が多くねーか?」

踊りながらウインストンはちらっとポールとケントを見た。
(目線やほんのちょっとの首の動きくらいは何とか指定を受けず自由に出来るようだ)
不味い事に、恐らくポールは一曲でもきついかも知れない。

『ああ、お前らに不利かもな、だが俺も地の利やら何やらは
 最大限利用して勝ちに行きたいからな。
 ちなみに言うぜ、何十回でも…そーだな100回くらいはループしてやる
 俺のダンシング・クイーンは勿論俺の精神力で動くスタンドだから
 スタンドから流れる音楽は、俺の気分が持つ限り続くのさ、だから
 気が乗ったら何百回でもループしてやるけどな』

それを聴くとちょっとポールに焦りが見える、ケントもだ、
ケントも案外体力がない…っつかどう見ても鶏ゴボウだからな…
先ず間違いなく最後まで粘れるのはジョーンだが…
ウインストンが懸念してジョーンを見ると

「…同じ事を考えたようね…わたしなら何百回でも付き合うわ
 息も切らさず踊り続ける自信はある…でも…それではダメなのよ…」

「だよな…そのころにゃルナが体力尽きて死ぬ可能性がある」

そのやりとりにルナが

「じゃ…じゃあ…「あたしの事に構わず…本体をやっつけなさい」…と…でも言う…?」

「馬鹿言え、その気があるならもうやってるよ、そして踊り出しちまったからには
 もうそんな事は不可能だしな」

「そう…よね…参ったわ…「相手…の射程と…能力」に…ついて…考えが…甘かっ…た」

「「死に至るかも知れない」…確かに初期型ストリートファイトのスタイルだが…
 ちょっと汚くはないか?」

『そうでもしないとお前ら馬鹿馬鹿しいと放棄するだろ?
 最終的にお前らが早期リタイアで負けを認めるならそれでいい、
 副所長さんも重傷だろうが解放される、それだけさ』

「どうすればいいのだ」

ミュリエルは体力的にもまだまだ平気だが、ポールやケントが二度目の
ループに入った時にはかなり汗を滲ませ息も上がっているのを見て取れる

「…今はもう少し…考えるのよ…何か…何かあるはずだわ…」

ジョーンはまずは大人しくその敵のオリジナル振り付けらしい
ダンシング・クイーンの踊りを踊っている。



3ループ目に突入した時だった。

「す…済まない、ルナ…みんな…」

ポールがその場に崩れ落ちた。
趣味が悪い事にルナを締め上げきしむ骨の音や呻きまで
スピーカー越しに流すような感じでこちらに聞こえてくる。

「…うむ…彼の言う事は…本当だ…動けん…」

ポールが悔しさを滲ませる。

その様子を見て、体力的に限界が近いケントが強迫観念にとらわれる。
心拍数も上がり、呼吸もさらに荒くなった。

「…しっかり…なさい…ッ! 最終的…に…リタイア…だろうと…
 まず…は自分…と…向き合う…のよッ!」

ルナのスタンド「ア・フュー・スモール・リペアーズ」の三人は
「ダンシング・クイーン」の腕に捕えられていて、ルナもろとも締め上げられている。
一度その状態で捕まると、スタンドをしまう事も出来なくなるらしい、
何とか一番力の強いリペアーがもがくのだが、フューとスモールの間に
隙間無く挟まれていて、それもまた力を発揮できない要因になっていた。

ルナの檄にケントは応えようとするのだが…しかし彼もまだ若い
のしかかるプレッシャーには勝てなかった。

「ケント君…無理はしないで…、ルナは「リタイアもやむなし」と
 言ってくれているのだから、もう少し気楽に…それができないなら
 リタイアしてしまいなさい」

ジョーンが言う、冷たくと言うよりは、「もしこの状態を切り抜けたら」その先を
考えているようだった、だが、そんな事が可能なのか…!?

「うー、あー…いやもう…なんつーかよォ−…」

四ループ目に入った瞬間、ケントもまたばったり倒れた。
「まだ続くのか」という絶望感のようなものが地味な精神的攻撃にもなっている。

とうとう、多分ルナの肋骨のどこかが折れたらしい。
ルナが血を吐く。
恐らく肺も痛めたようだ。

「…クソッ…!この人質を取った上での攻撃…かなりヤバい…!」

ウインストンが苦渋の表情だ。

「あー…まずいよ…あたしもあと何ループかされたら…」

まだ軽く額に汗程度だが、軽くアイリーの息も弾み始めた。

「特殊能力封じさえ何とかなれば…」

ジョーンが小さく呟く。

「私の…私のスタンド能力は…こう言う時にこそ活かされるべきもののはずだ…!
 これ以上の…これ以上の負担をルナやみんなに与えるわけにはいかないッ!!」

ミュリエルの体から沸き起こったスタンドは、当然強制的に踊らされるわけだが…

そうしかしその能力は物理現象でもなく、特に決まった射程があるわけでもない
「単純に味方と敵にそれぞれ作用するもの」であったがため…

「お…何かあたし…10ループくらいは行けるかも」

アイリーの動きに少しキレが戻った。

「俺もだ…ほんの…ちょっとなら、ポーズも変えられる…しかし…!
 踊りのワンアクションだけで…くそ…やはり特殊能力までは使えねぇ…!」

ウインストンが色々試した結果、ほんの1秒くらいなら踊りにもあらがえる事が判った
しかしそれにも体力や気力を使う、果たしてミュリエルの底支えがあったとて、
これで反撃など可能なのであろうか…

「一秒ほどの反抗…」

ジョーンはそのタイミングをひたすら待つべく、ひたすら指定される動きを繰り返していた。

「ああ…私の体力も少し戻りつつはあるが…しかし迂闊に戦列復帰などもできん…」

ポールが呟く

「無理はしない方がいいわ、ミュリエルの能力が体力の回復にも役立つというなら
 ポールとケント君は…そのまま英気を養っていて…」

謎の男の声が、少し忌々しげに響く。

『そのガキンチョもスタンド使いか…しかも俺の能力制限を受けないタイプ…
 結構厄介だな…ルナのスタンドの抵抗力も少し上がってやがる…
 まぁ…それでもこのまま押し通せば俺の勝ちは揺るがないがな…ッ!』

勝ち誇る謎の男に対し、ルナが咳払いのように血をその辺の路面に吐き

「よーし…ミュリエルのおかげで…あたしも少し元気が出たわ…度胸も…沸くわ…」

相手のスタンドは二本腕なので(ちょっと外見が初期クイーンのフレディみたいな
 感じに見えるのは、この男なりのジョーク要素なのだろうか…)
ルナの肘から下は割と自由が利いた。
ルナはスラックスのポケットからiPodを取り出し、手首をひねって巻き付けてあった
イヤホンをほどきながら、同様に手の一部だけ自由が利くフューとスモールが
それぞれLとRのイヤホンを手に取る

『…? 何する気だ?』

ルナは僅かに見える手元でiPodを操作してる。

「何って…反撃の…のろしを上げようって…言う訳よ…」

『反撃?反撃だって?どーやって?』

「貴方…言ったわね…?「名曲に…新しいも古いも…ない」と…
 とても正しい…本当にそう思うわ…」

『おお、そうだとも!それを理解しないで流行流行と流行りを求める
 世間にもいつかこの俺のダンシング・クイーンが復讐してやるッ!』

「…フッ…まぁ…行動はともかく…動機は判る…わ…
 今から披露するのは…あたしのスタンドの…ちょっとした『特技』
 ジョーン…の…特技を見ていて…あたしでも出来るんじゃあないかと…
 実戦では役に…立たない…だろーけど…と思っていた…事だけれど…
 まさか…実戦で…これ披露する事に…なろうとはね…」

ルナがまた血を吐く、締め上げられつつ状態で、またどこかがその圧力に負け
折れたらしい。

「おい…ルナ!無茶をするな!動こうとしたり何かしようと身をよじるだけで
 締め上げられる力は変わらずともお前に負担を掛けるぞ!」

「そーだよルナ!」

ルナはそれでもにやりとしながら

「この曲…このバージョン…たまたま手に入れた…時に…は…
 「iPodには…入れては置くけれど…聞く事もないだろうな」…と…
 思っていたけれど…使う事になろう…とはね…」

「ルナ!何をしようってんだよ!?」

「ねぇ…このダンシング・クイーン…正規バージョンよね…
 アウトロ…が…イントロと同じだから…僅かな…カットで…
 無限ループに…なっている…」

『まぁ、俺は原曲をリスペクトするからね、多少の編集はするがね』

「じゃあ…あたしと戦って…もらうわ…はたして…
 原曲をそのまま流すのと…メインボーカル抜きの…カラオケバージョンで…
 歌ばかりはライブで歌うのと…どっちがオーディエンスの心に訴えかけられるか…!」

ルナの親指が再生を押したようだ、そして流れてきたイントロは!


第二幕 閉

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