Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World

Inter Mission 4

第二幕 開き

食事の後はお風呂も何もみんな存分に入って、ルナとジョーン以外はバタンキュー
(流石にいつもはお風呂の早いウィンストンもゆっくり入ったんだって)
…あ、あたしアイリーね。

ルナとジョーンは夜中まで起きてたのは時折目を覚まして知ってたし
すっかり冷めきってたコーヒーや紅茶をあたしが入れ直したりしたから、大変だったのは知ってる。
でも二日目の朝もきっちりルナは起きてきてバリバリ働く気なのよね。

そんな感じで二日目は税務署関係の報告とかでジョーンがそちらへ
それ以外の普通のはまたあたし・ケント・ウィンストンの三人で動く。

今日は夕方までは特に何もなかった。
ジョーンのリクエストメニュー聞き取りがあって
ウィンストンは昨日のポールのメニューが懐かしかったのかそれで
(でも肉は多めと言ってたw)
あたしは基本お任せだけど1,2品中華で(中国人がやってる
 安いチェーンの奴くらいしか知らないけど、なんとなく)
ケントは今日もステーキ!とかそんな感じ。一応ポールのもあたしらで確認したら
今日は北欧料理ですって。

何かちょっとジョーンに悪いかな…配膳やるルナにも悪いかなーと
思いつつ、実働隊であるあたし達優先、ということで甘えさせて貰った。

特筆するよーな事は何もないって、でもいい事だよね。

もうルナから追加の仕事があっても、ウィンストンが
「多少戻ってでも消化できそうな物があったら回してくれ」とか
強気な事も言ってる。

まぁ、三日も四日もこのペースじゃ持たないから、っていうのが大きいんだけど
ルナの仕事の方が大変になっちゃうんだよねぇ、バランスって難しいねぇ

というわけでまた午後六時半になって事務所に戻ると
やっぱり帰るタイミングにぴったり合わせてルナが配膳しながら

「おかえり、だいぶペースも良くなったわね、昨日はA〜Nまでの
 14件だったけど、今日はTまで20件よ。」

「んで、明日はどうだ? 予定の範囲では」

今日も疲れたって態度はしながらも、まだ余裕は感じさせる風体でウィンストンが言った。

「今日のペースなら午前中いっぱいで終わる感じよ。
 明日も依頼は来るでしょうから…それでも受付が16時まで(勤務時間終了は基本18時)
 だし…上手くすれば昼に2,3件こなせば解放されるかもね
 ゆっくりやれば余裕もって休憩挟みながら一日分って所かしら」

「よしよし…そのくらいのペースがありがてぇぜ」

「ええ、よく頑張ったわ、仕事もミスや失点のクレームはないし満点よ」

「税務署とか王室の方とかどーなった?」

「…ま、ジョーンが言うには王室はともかく、税務署の方は時折
 依頼も飛び込みそうだって言ってたわ、そっちの方もいつか
 全員で担当してみたいわね、こう言う経験をジョーンにだけ
 積ませるわけにも行かないわ」

「それもそうだな…」

「じゃあ、ホラ、ケント、レコーダー」

ウインストンとルナのキャッチボールで不意を突かれたケントだけど

「ん、あ、あぁー、今日も大変だぜぇー?」

「判ってる、でもあなたたちが辛い事は先になるべく詰めておきたいというなら
 あたしもそうするわ」

「んじゃ、今日もルナとジョーンはあっち(女部屋)で食事かぁー」

「昨日もそう言ったでしょ、いいのよ、それはそれで」

疲れは見えない、ルナの微笑みにはこなせばこなすほど積み重なる自信のような
ものが満ちあふれていた。
ウィンストンがふっと思い出したように

「あ、そういやポールの方は交渉成功したのか?」

「ええ、成功らしいわ、結局スタンド能力は一切使わず相手にYesと言わせたらしいわ」

そこであたしが

「ポールも地味に乗ってるねぇ〜」

「まったく、ね…さて、そろそろジョーンも何皿か出来たかしらね」



ポールは明日からは事務所で通常業務に戻るらしいから、明日は二手に分かれるなりで
もうちょっとペースも良くなりそう。
食卓でそんな話をした後、カートに沢山乗ったお皿見てて

「お皿洗うのくらい手伝おうかなー」

と、あたしがぽつりと言うと

「む、それではこの部屋にあった皿はこちらで洗うとするよ」

とポールが言った。
今日は昨日に増して皿数多かったから女部屋にあるのだけじゃ足りなくて
事務所側からも結構使ったみたいで、より分けたら半分以上男側が洗う事に。

「後片付けまでが、食事だよ」

ポールはそう言うとウインストンやケントも巻き込んで台所に。
ポールも昨日はやらなかったけどねw

んで、あたしが残ったお皿をカートで運んで女部屋に戻ると…

蝋燭の火くらいしかない灯りの中で、ルナとジョーンが食卓を囲んでいた。

「あら、食べるの早かったわね」

ルナはもうちょっと食事もゆっくり、あるいは食後まったりした後で
あたしが戻ってくると思ったようだ。

「何食べてるの?」

食卓をのぞき込むと、赤い色の一切見えない料理。
パスタも、スープも、パイもどこかもの凄くシンプルだった。
パンも凄く堅そう。
しかもそれを二本爪フォークか、あるいは手で食べていた。
ルナはジョーンをちらっと見ると、ジョーンが頷いた。

「これは晩餐よ、ジョセッタ・ジョットの最後の晩餐」

あ…「あの夜の」メニューか

「でも…またなんで今夜?」

「昨日は仕事のペース配分もつかめなかったから本当にサンドイッチ程度だったけど
 あたしのリクエストなの、あの日のあの夜で、ある意味ジョーンの
 何かの時計が止まってしまった、それをもう一度進めるにはこのメニューかなと思ってね」

「半分も食せなかったのよね…だからある意味、嬉しいリクエストだわ」

ジョーンがぽつりと言った。
一人で居た時に再現は出来るかも知れないけど、「誰かと食べる事」が大事なんだと
それはあたしにも判った。

「なんでこれみんなで食べようって言わなかったのぉ?」

「正直言って辛気くさいじゃない、その意味合いからしても。
 あたしはこれを…純粋に歴史的な興味もあって食べたかったけれど
 みんなは食事が義務みたいに感じられたら美味しくないでしょ、それに…」

「どしたの?」

「一口くらい食べてみる?」

あたしお腹をさすって

「うん、あたしも食べる!」

椅子を持ってきてあたしも食卓に着いた。

「まぁ元々二人分だから余り分けられないわ、はい」

一口食べて…

「塩味しかしない…」

「そう、決してがっつける物じゃないでしょ」

ルナはでもそれを着々と、でも味わって食べている。

「トマトもトウモロコシもジャガイモも、鷹の爪も、全部
 あの戦いで言うエジプト以降くらいで広く出回ったものなのよ
 だから、パスタもせいぜいチーズとか
 調味料と言えるのは塩くらい、農民としてはこれでも贅沢な方」

と、ジョーンが呟いた、そして

「改めて一人で味わいたいとは…正直わたし自身も思えないシンプルさよね」

あたしはついさっき二品くらい中華も食べた。
あれなんかもう調味料一杯使ってる。
あの当時、胡椒なんかも贅沢品だった、みたいなのはテレビで見た事もある。

「それでも15世紀、もうそろそろ中世も終焉に向かう頃だもの
 これでもいい方だったのよ」

ルナが補足した。

「魚の入ったパイのシンプルさはなかなかいい感じだわ、ソースのない料理っていうのも悪くない」

ソースってかかってて当たり前、見たいに思ってたけど、ルナは
ちょっと新しい感覚でそれを食べている。

「まぁ、そう言う物はちぎってスープにつけたりね」

ジョーンはそのように食べている。
今の常識から考えたらちょっとワイルドな風景だけど、それでも多分
ジョーンの食べ方でも当時では上品なんだろうなぁ。

「そういえばさ…ジョーン」

あたしが切り出す。

「…ん?なぁに」

「あの村の人の中でジョーンのお母さんは結構背が高かったんだけど
 結構身分の高い人だったのかな?」

100年前までは世界中がそんな感じで偉い人だけ大きいとかいう感じだったと、
これもテレビからの情報だけどねw

「農民ではなかったようだけれど…さぁ、あまり母はそういう事は
 話してくれなかったわね、あるいはそうだったのかもね」

「それにあの村自体結構裕福な村だったと思うわ、土壌が良かったんでしょうね」

ルナの補足、ジョーンはちょっと考えたけど

「そうかも知れないわね、確かにメニューの固定くらいはあったけど
 食べるのに困ると言うほどでもなかったし」

「それに民族的な特徴とか、個人差も絡むからね、何とも言えないわね
 ただ、食べるのに困りさえしなければ大きくなる訳じゃない、とだけは言えるから
 少なくとも大きくなる素地はあったんでしょう」

「ああ、そういえばブドウあんまり甘くなかったけど美味しかったよ〜」

あれ、あたしの話題飛びすぎたかな?
ルナがあたしの方を見て固まった。

「あれは元々ワイン用だから、当然と言えば当然かもね」

ジョーンが優しい顔で言った。

「ああ…そうだ…これ…」

ルナが服のポケットからハンカチを出すとそこには「種」が幾つか包まれていた。

「ブドウとオリーブの種よ、中庭に埋めて育てない?
 勿論農業としてではなくてほぼ観賞用になるけど
 あなたならこれを発芽寸前の状態まで持って行けるでしょ」

「あー、あたしらには皮も種もかみ砕く勢いで全部消化しなさいとか言って
 ルナそんな事考えてたんだ」

「ええ、それはもうエジプトの時ジョーンがお土産で貰ったのを聞いてから
 ずーっとそうしようと考えてたわ」

ジョーンはその途絶えた時間を再び進めようというルナの心意気に微笑みながらも

「…育つかしらね、ロンドンで」

「問題はそこよね…」

「まぁ、折角の種だもの、有り難く植えさせて貰うわ、有難うルナ」

ルナはあらかた食べ終わったら

「ごちそうさま」と言ってあたしが持ってきたカートに今自分が食べた皿も積んで台所へ。

「ああ、ルナ、わたしが洗うわ、あなたにはまだこれから書類作成が…」

「…そうだった、昨日の何割増しかあるのよね…はぁ、やれやれって奴だわ」

「あ、そだ、あたしお皿洗うのに戻ったんだった!
 ジョーンもルナのお手伝いするんでしょ? いいよいいよ、あたしがやるよ〜」

「じゃあ、お願いするわ、わたしもルナも早く仕事が上がる事には越した事がないから」

ジョーンは満足そうに微笑んだ。
ああ、何か凄く大切な物が戻ってきた、あたしはそう感じたし、多分それはルナが
この「晩餐」だけじゃなく、初日にどうにかしてたぐり寄せたんだと言う事もよく判った。
魔法がかかったみたいに、ジョーンは前よりも演技ではなく心から柔和になったのが伝わる。

「そう言えば明日はポールここにいるって言うけど、あたし達どういう割り振りになるの?」
 
流し台にお皿を置きながらあたしはキッチンから顔を出す。
仕事の準備に先ずケントのレコーダーの音声データをPCに移しているルナが

「ジョーン独占して悪いけど、あたしとジョーンを二人で行動させて、
 午後に寄らなくてはならない所があって」

「うん、いや、物を探すって事ならスタンドのあたし組と経験のジョーン組で
 別れるんだろうとは思ったから、それはいいんだけど何か用事があるの?」

「ゼファー事件であたしらが二手に分かれさせられた発端はどうやら以前
 あたしとあなたでその依頼人…ロキシー・ロンソンの所に以前赴いた際、尾けられていた事が
 原因みたいなの…彼女には全く落ち度もない訳だから、謝罪にゆこうかとね」

「それならあたしとルナでゆくのが筋じゃない?」

「というか、これは調査員個人の責任としてではなくて、我が社の落ち度として
 自発的にゆくのよ、ポールは明日昨日今日ほどではないにせよ、電話対応とか
 忙しいだろうからね、ポールの許可を貰って…副所長としての対外的な初仕事って訳」

「ジョーンが一緒にゆくのは?」

「午前は行動共にするし、ジョーンは直接ロキシーに関わってなくとも「当事者」だからね
 個人の責任でないとは言ってもチームが一緒だから、そこはわざわざアイリーまで来る事もないわ」

「明日午後にいる保証はあるの?アポ取った?」

「ええ、ぬかりなく。 彼女は大学生だし、時間帯も問題ない事は確認済み」

「やる事ちゃんとやってるねぇ、なんかもう流石ルナだなぁ」

この会話の途中には既にルナは報告書とかの作成を始めていて
(ケントの音声はイヤホンの右耳で確認しながら左耳は解放していた、これは
 あたしと会話するだけじゃなくて、普段からそう)

ジョーンはその音声のもう片方を聞きつつ、請求書の作成に必要な仕事内容による
料金を手書きでメモに書き込んで行ってる。
(追加があるかも知れないから合計額は最後に出す)

「…今までと違って責任ある立場になったからね、そしてあたしはその責任を
 喜んで引き受けたのよ、謝罪も経験の内よ」

強くなった、本当に強くなった、だからこそスタンドも進化したんだろう。
ちょっと羨ましいかな、と思ったら。

「重要な戦いの時はまた弓、お願いね、あれがないと殴る力は人並みだから」

見透かしたようにルナが呟いた。

「うん、もうちょっと瞬間的に作れるよう練習する」

「心強いわ」

「二人とも飲み物は?」

「ああ…あたしはコーヒー、砂糖は一さじ、ミルクは少し多め」

そこは変わってないなぁ〜

「わたしはミルクティで、砂糖はアイリーの気分に任せるわ」

「あたしが決めちゃっていいの?」

そんな事は今までなかったから。

「お任せするわ、お願いね」

あたし自身は甘党なんだけどね〜まぁジョーンはさじ一つか二つと大体判ってるから



場所は変わってここは俺のアパート…ジタンだ。

正直社から何らかのペナルティは覚悟していたし、最悪食われる事になるのか
(そうなったら何が何でも逃げるつもりだったけどな)
と、危惧していたんだが、プレジデントは俺へのペナルティは役員どもから
突かれつつも、週一杯の謹慎ということで済ませた。

正直、奴にとって俺の価値はこの「クソ真面目さ」なんだろうから
ゼファーとジョーカーを使ってK.U.D.Oの奴らを襲うなんて言う事態に
動かないはずはないと言う事は承知していたようで

「いや…全く君らしいと思うよ…実際それで巻き込まれたのだしね
 ただ…それで仕事に穴を開けたとあってはけじめが必要だからね…」

それだけだった。

ダビドフの奴に出会い頭でヘッドロック食らったくらいだ、
分かりやすいペナルティなんて。

「おめぇーなあ! 俺に報告書添削させるってどういう了見だよ!
 俺が今抱えた仕事終わったら呼び出しに応じて俺に一杯おごれよ!」

まぁ、その程度なんだが。
ただ新人連中には恐ろしいやりとりに見えたそうだ。
普段のダビドフは事の些末さに関わらずこういう「貸し」に対して
一杯おごれで済ませる奴ではなく、かなり恐怖の対象だからな。

相対的に俺への警戒感というか畏敬の念のようなものが増すわけだが…

出かけたい場所なんてないし、昼間から飲んだくれて二日過ごしたわけだ。
そういや、こんなだらしない生活も久しぶりだ。

…先のゼファーの件ではゼファーの死体は確認したし、ノートパソコンも
確認した、俺の知る限りのK.U.D.Oで人間をここまで破壊できる能力持ちは
いないわけだが、ルナの能力が増したのなら、体を内側から燃焼させるのは
可能だろうし、俺の予想が当たった、とも思い
「さて、どこの飯を奢って貰おうかな」
とか悠長な事を考えたんだが…

全てを塵に返してから、俺は一点だけ気になった事があった。

ノートパソコンが鞄から取り出されディスプレイ部分はたたまれてはいたが
電源は入ってたようだった…

ノートパソコンのあった位置は、奴が抱えていたとも言える距離だったが
だとしたら奴の体液などが付着しているはずだがそれもなかった。

…誰かが「原点」を知っていて(つまり、ジョーンとゼファーの二点原点だな)
現代に戻ってから俺が到着するまでのほんの数分の間にチェックした?
奴はWifiといったものは利用していなかったので(電波検索を警戒したんだろう)
自動的にプレジデントへ…というわけではないようだし、あのデータ量を
タイミング良く全コピーできるとも思えなかった。

しかし…やはり「誰かが見た」という可能性だけは排除できない…

盗難はされていなかったわけで、つまり限りなく「行きずり」の可能性は低いわけだが…
しかしたれ込みもなにもないようだし…あったら社の動きが変わるはずだ。
一体誰が、何の目的で…昨日は酒をあおりながらいつの間にかソファーで寝ていた俺だった。
今日もうとうと仕掛けたんだが、そこへ俺の携帯にダビドフからの着信だ

「…仕事に目処がつきそうなのか?」

『「どうした、何か用か」くらいの段階は踏めよ、冴えすぎてるのも困りもんだなぁ』

「ははは、済まなかった、それで、何時にどこだ?
 そのくらいの事でプレジデントも咎めはしないだろうし」

『午後三時だな、場所はオメーさんの馴染みでいいよ』

「午後三時かよ」

『午後三時だ、いいじゃねぇか、エールの一本や二本』

「まぁ…あっちも忙しいだろうから鉢合わせる事もないだろうし、いいんじゃないのかな」

『よォーし決まりだ、忘れんなよ、現地集合でいいけどよぉ』

「いつの間に調べたんだよ」

『そういう質問は愚問って言うんだぜ』

「そうだな、どうでもいいことだな…」

『ちなみに俺としては鉢合わせてみたい気も少ししてるんだぜ』

「止してくれ…何が巻き起こるか予想不可能も甚だしい…」

『テンションも低いっつーか眠そうだな、あんまり飲んだくれて明日遅れるなよ』

「ああ、ちゃんと行くよ、そして確かに限界だ、寝かせて貰うぜ」

と、同時に俺は意識が飛んだみたいだ。
翌朝起きたら、携帯の充電は切れていた。



三日目、まぁあたしのスタンド組はメンバー変わらず。
ああ、またアイリーだよ。

ウィンストンはでも朝から飛ばしていた。

「昼の依頼も入って速攻片付けて午後三時くらいには解放されてぇ」

と言うのが理由だって

「解放されてどうするのさぁ?」

「エールの一本くらい煽りてぇんだよ…公共の場での喫煙は7月から禁止になっちまうしよぉ」

「家で飲むって選択肢はねぇーみてぇなんだよなぁー、面白れぇ奴っつーかよぉー」

「お前やポールも居るしなぁ…そーだな、一人部屋になれるんならそういう選択もありだぜ」

「そういや、そんな話ポールしてたね」

「女部屋は窮屈じゃねぇーのかよぉ?」

「んー…特に不便は感じないなぁ、まぁ気を遣わないと言えば嘘になるけど
 多分ジョーンが来る前なら、一人一部屋に賛成してたのかもねぇ
 なんか…不思議なんだけど、ジョーンがいるとうまく気遣いのバランスが良くなるみたい」

「男部屋の方にあいつがいたと思うと俺たちにゃ無理だな…そういやアイリー達三人で
 「仲良し三人組」って感じがするから、今丁度それが楽しい時期なのかな」

「どうなんだろうね、未来は判らないのは誰でもそうだし、んまぁ、当分三人一部屋でいいや」

「とりあえずよし、そこで適当に昼食うぞ、そういや今夜はリクエスト利かねぇのかな」

「こっちから言えばある程度考えてくれると思うよ? 何か食べたいメニューあるの?」

「あの大変な事件の前だから何か記憶曖昧だが…、ジョーンの奴日本食も
 勉強したとか言ってなかったか? だったら食いてぇ」

「あー? どうだったかな?」

「あ、俺覚えてるぜぇー要人警護の時だ、ただよぉー、
 興味はあったとは言ったけどよぉ、マスターしたとは言ってなかった気がするんだぜ?」

「あー、そうか…聞いてみっかな」

ウィンストンは携帯を取りだし、ルナに電話した。

「ジョーンも携帯自体使えるんなら、持って欲しいところだけどな…」

ルナに電話する…というのが何だか高い壁のように感じるってw

「あ、よぉ、お前らも昼飯か? …そうか、そりゃ良かった。
 んでよぉ、ちょっとジョーンに替わって欲しいんだが…ああ、お前の想像通りだよ」

「あー、ジョーン、お前今日もリクエスト受付けてるか?
 そう、夕食の、む、希望があれば聞くってか、よし、
 先ずお前らリクエストあるか?」

色々考えたけど、まずあんまりよく知らない料理だし、あたしが

「日本食ってあのレストランみたいなのかな?」

「先ずそっから聞くか、ああ、ジョーンお前日本食ってどの程度作れそうだ?
 あのレストランみたいなのは…そこまではまだ、か…残念だな…」

そこであたしがテレビで見た豆知識というか

「でも日本人って、海外の料理何でも取り込んでローカライズするんでしょ?
 オムレツを知ったらオムライス、とかクロケットを知ったらコロッケとか」

「…そっか、じゃあ、日本の「洋食」ならどうだ?
 お、そっちなら行けそうか、じゃあ、どんなのがあるかまでは俺も良く知らねぇが
 適当に4,5品頼むぜ…あ? ちょっと食い過ぎか…?
 ああ、なるほどあっちで洋食は一皿でほぼ一食なのは確か昔聞いたな…」

「じゃあ、あたしもケントもそうしよう、それなら小分けで4,5皿とかいけるんじゃない?」

「あー、オレもちょっと「いつもと違った知ってる料理」ってのもいいかなぁー」

「よし、じゃあ、総量は任せるが俺もアイリーもケントもメニュー自体は統一してくれ
 ああ、頼むぜ、ルナに替わってくれ」

「つーわけだ、お前もそうするか? その方が用意も簡単だろ?」

ここでルナがどうやらジョーンと小会議に入ったらしい、ちょっと待たされる。
日本仕様にローカライズされた「洋食」とはいかなる物か…
結局はそれで行きましょうとなったようで、ポールも連絡はしてないけど強制だってさw

「じゃあ、よぉ、昼に1,2件入れたら俺今日は3時には上がりてぇんだ
 用件? パブで一杯引っかけてぇだけだ」

ウィンストンの携帯の奥からルナの『だから何でそれを先ずあたしに言うのよ?』
が聞こえてきたw

「何かお前には一言言っとかないとならない気がするんだよなぁ、おれも何かおかしいかな
 ああ、判った判った、ポールにも連絡しとくよ、じゃあな、ん?
 いや、一杯引っかけるったって飯時には帰るよ、ああ、じゃあ」

「正直あたし、テレビで見てオムライスは食べてみたいと思ってたんだ、ちょっと楽しみ♪」

「それってなんだよぉ? ライスプディングとは違うのかぁ?」

「あれはデザートみたいな物じゃない、オムライスは日本のケチャップで炒めた
 「チキンライス」っていうピラフみたいなのにオムレツを被せたものだよ」

「…想像できねぇ、うめぇのかな?」

「日本の洋食屋とか定食屋では定番物みてぇだから、日本人の口には合うんだろうな
 なんかそのチキンライスをクレープ状に焼いた卵で包むのが「昔ながら」で
 柔らかく半生のオムレツを被せて割るスタイルが今は流行りみたいだ
 ジョーンの話じゃ、オムライスの専門店まで日本にはあるらしい」

「あ、あたしテレビで見たのオムレツを割る方、そういやジョーンどっちで作るんだろ」

「言えば対応してくれるんじゃね?」

「それもそうだね〜、ああ、こんな風に一人一人指定したらまたジョーンに手間だなぁ(苦笑」

「全く別メニューを各人が頼むよりは遥かにいいだろ、よし、行くぜ」



そして午後二時五十分に「今日の分」を終えたあたしのスタンド組

「よっし、かなり仕事コントロール出来るようになったぜ」

「それはそれで結構凄い事だよね、依頼内容とその難易度は特に動物だと
 その時その時で違うのに、結局帳尻合わせちゃうんだもん」

「まかせろ、一杯引っかけてぇ俺の欲望は強いぜ」

「もー、なんだかなぁw」

「んじゃぁーよぉ、現地解散?」

「うん? ウィンストンは別行動とはいえ、ケント事務所に戻らないの?」

「い…いや、オレよぉー、ちょいと見てぇ映画があってよぉー」

「ふーん、いいんじゃないのぉ?」

「だがアイリーを一人で帰すのは流石に気が引けるな、よし、じゃあ
 事務所の前までは俺と行こう、パブなら近いし」

「そう? じゃあ、お願いね、流石にウインストンやケントみたいに
 襲われても大丈夫、とはあたし言えないからなぁ」

「んじゃぁーよぉー、オレはここで!」

ケントが足早に去っていった。

「なんなんだろ?」

「あー見えてラブロマンスが好みとかか?」

「っていうかケントあんまり映画そのものを見ないような…
 今この辺りの映画館で何やってたかなぁ〜?」

「あいつああ見えて微妙に泣けるSF映画とか好きではあるけどな、タイムマシンとかよ」

「あー、あれはあたしも好きだなぁ、でも作品そのものよりルナの感想の方が面白かったけど」

「なんてったんだ?」

あたし、ルナの真似をしながら

「『苔の一念岩をも通すって奴だわね』だって」

「はは、あいつらしい感想だな」

「しかもその通りだからねぇw」

まぁ、それであたしは事務所に戻って、ウインストンは飲みに出かけた。



「…それじゃあ、今夜はどうしようかな…オムライスは決定として…他に
 彼らが喜びそうでかつ「日本の洋食」となると…ああ…あの辺はどうかな…」

「レシピ本でも買えば?」

「それがねぇ、イギリスでも確かに出版されているけれど、どうもイタマエさんの
 話によると「ちょっと違う」らしいのよね」

「でもそれあなたが通っていた頃の話でしょ? 今ならもう少し理解も深まったろうし、
 材料も手に入りやすいと思うわ」

「そうかしらねぇ」

「そうよ、じゃあ、帰りにまず本屋だわね、あなたが日本語を読めるなら輸入本でも」

「無理よ、言葉として覚える日本語は挨拶程度から少しはあの時覚えたけれど
 「読み書き」となると次元が違うわ、漢字には同じ字に読みが何通りもあったり
 平仮名に片仮名…発音そのものもフランス語で言うリエゾンぽくなっていたり
 そうかと思えば字に忠実だったり…」

「それもそうか、まぁ英語の割と正確なレシピ本くらいならあるでしょ、こちらで日本人男性と
 結婚したイギリス人女性のための…みたいのとか」

「ピンポイントな気がするわ…」

「ただ、なぜか日本が絡むとそのピンポイントが成立したりするのよね、面白い民族だと思うわ
 食べる事に関してはかなり享楽的というか、妥協のレベルが高すぎるというか」

「妥協のレベルが高いのはイタマエさんも恐縮しつつ認めていたわ」

「とりあえず、それはここの件が終わってからにしましょう」

午後二時五十八分、あたしらはロキシー・ロンソン宅前に到着した。
二分前到着か、1分半くらい早かったかな、と思いつつ、ドアの前で待っていたら
それはそれで怪しいのでノックをする。

家の奥から、確かにまだジョーンが来ていなかった頃一度聞いた女性の声がしてきた。

「先日、いたずら電話の件でご迷惑をお掛けしました、K.U.D.O探偵社の者です
 ご迷惑をお掛けいたしました件で謝罪にお伺いしました」

ちょっと畏まって敬語口調で喋ってみた。
中からドアののぞき穴から確認しやすいように探偵免許(顔写真あり)を提示する。

するとドアの奥から

「あら? でも今…あ…え…!?」

と、困惑する彼女と、驚愕する彼女の声が聞こえてきた。
ドアの奥から何やらドタバタと慌ただしい音も聞こえてきた…!
もしや…既に先手を…!?

彼女が鍵を解放したようなので急いで部屋に入る、
「対象」が窓を開けてそこから逃げ出したのは音から判っていたので、とりあえずベランダへ。
ここは8階のはず、なかなかの実力者のようだわ!

…と、数回の「壁によるバウンド」で衝撃を和らげつつ下まで降りて慌てて路地裏に逃げ込む
モヒカン頭が見えたんだわ。

「…咄嗟に8階の高さから降りられるようになったって、ケント君も成長したわね」

正直とても気の抜けたあたしらだったけど、ジョーンは努めて前向きな感想を言った。

「…やるわねぇ」

振り返り、ロキシーへ向き直って。

「どうやら彼は個人的に謝罪に来たようで…まだ社内報告もままならないという
 失態を見せてしまいました…、改めて、先のいたずら電話の件…」

あたしとジョーンで深々と頭を下げ

「あなたに非のない出来事に巻き込みました事をお詫びします」

「ああ…その…ええ、まぁでも…あれから特に何もないし…」

とりあえず以前依頼を受けた時に、彼女の好きそうなメーカーの紅茶や
コーヒー豆の銘柄は何となく覚えていたので、それを手土産に。

「正直、自分のような未熟で地味な調査員の端くれが尾行されていて
 後に利用されるなど思っても見ませんでした、そこもまた未熟であるが故です」

「…え、あなたあの時来た…そういえば…でも何かこう、印象が…」

その言葉に、名刺を取り出し(昨日急遽つくったって訳よ…)

「先日副所長を命じられ、流石にオーバーオールはないだろう…と「それなり」の服装を」

「あの…それにしても彼…ケントは大丈夫なんですか?
 これから少しだけ用が…ああ、この事ですけど、その後映画でも…って」

「ああ…そりゃ悪い事したわね…」

顔を背けて思わずいつもの口調で呟いた、勿論それはケントに向けての物だったのだけど。

「…では…早々に退散しますので、改めて連絡など彼にお願いできます?」

「あ、ええ…で、でも折角ですからお茶でも…」

「貴女の意思までは存じないけれど、それは流石に野暮って物だわ…w」

流石に丁寧語も崩れた、丁寧語で話すような内容じゃないw
彼女はあたしの言葉にそれが何を意味するかが判ったようで、赤らみはしなかったけど
微笑みたいような、ちょっぴりばつの悪いような表情を見せた。

「…個人的な彼への評価だけれど、見た目はパンクスでも、彼は結構真面目だから
 できれば中身勝負で宜しくね」

ちょっと返答に困ってる彼女にあたしとジョーンでもう一度お辞儀をしてから
とりあえず彼女の部屋は去った。

エレベーターまで歩いてから

「まだ夏になりきってないというのに、春が来た物だわ」

「大丈夫かしら…どう見ても彼女は一般人…」

「危惧するのはそこよね…ジョーン、今度いつでもいいから尾行を見破る方法とか
 逆に尾行をするとか、そういう講習開いてくれない?
 流石に二度同じ過ちを繰り返し、一般人を巻き込むわけには行かないわ
 人の恋路は邪魔しないけれど、その自覚は必要」

「そうね…」

エレベーターの中で、あたしら二人は複雑な、でも、それもまた良い事なのだろうと苦笑し合った



午後三時、行きつけのバーに行くと、俺の指定席に奴は居た。
まぁ、店まで突き止めたなら席くらいついでのついでだよな…

「いよーぅ、きっかりだな、流石だぜ」

「酔いつぶれて寝たとは言え、約束は守るさ…」

そこでお互いエールを注文してダビドフと俺のいない間の二日間の話を
聞いてたりしたわけだが…
そこへ来るはずがないと思っていたウインストンが現れやがった…

「お、よぉ、ジタンじゃあねぇか、そちらは?」

ダビドフを見ると心の底から嬉しいって感じの俺も今まで見た事ないような満面の笑みで

「ダビドフ、ダビドフ・マグナムだ、まぁ、ジタンの「悪友」って奴だ、宜しくな」

握手を求める、ウインストンも「へぇ、俺はまぁ「腐れ縁」って所かな」などと
ちょいと照れ隠しを感じる表現で握手に応じた。

ちなみにダビドフは旧東ドイツ出身、統一後身一つで貧乏だったどん底からイギリスへ渡り
腕一本でのし上がろうって時にプレジデントに拾われた、今でもその名残で体はえらく
鍛え上げられていて、ウィンストンと同じくらいの身長だが、ウインストンよりも体格はでかい。

「ジタンのヤローが今日はあんたは忙しいだろうって言ってたからよぉ…
 正直一度会ってみたいと思っていた所なんだ、嬉しいねぇ」

「…俺もちょいと意外だったよ、ウインストン、二日仕事が止まってた影響はなかったのか?」

「あったよ、あったが、ついさっき片付けてきてやったぜ、タバコでも吸いながら
 一杯引っかけるなんて7月以降できそーにねーからなぁ」

「そういや公共の場での喫煙は禁止になるんだったな」

「冗談じゃあねーぜ、全く…」

「同感同感」

ウインストンのぼやきにダビドフも同調した。

「んでそのダビドフはどういう伝手の悪友なんだ?
 どう考えてもジタンに遊び回るよーな余裕はないと思う…ん…だが…」

ウインストンは言ってて気付いたんだろう、緊張が高まるのが俺にも判る。

「勘がいいなァ、そうだよ、でも俺は今お前と同じ時間外だ、ここでの事も仕事に持ち込む気はねぇよ」

「悪友ってのもマジだ、あの会社じゃお互い別の意味でちょいと浮いているしな」

ウインストンは警戒心を全て解くわけではなかったが、俺が特に何を取り繕うでもなく
普通にしているのを見てとりあえずは納得したんだろう

「悪りぃがくそ真面目タイプには見えねぇしな、どういう浮き方してるんだ?」

ダビドフは大笑いした、

「ダビドフは色んな意味で桁違いだからな」

俺が注釈を入れると、ウインストンが

「なぁ、教えてくれるとは思ってねぇが、お前は俺の能力も知ってるんだろ?」

「あぁ、知ってるよ、いいぜ、俺のも教えてやるよ。
 「嘘は言ってない」って事はジタン見てりゃわかるだろう
 いいか、俺の能力は基本的には「全てを鉄にする」能力だよ」

「…全てを鉄に…?」

ウインストンのその一言と表情は、何か関連する出来事があるような気がして
必死に推理してる顔だ。

第二幕 閉

戻る 第一幕へ 進む