Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World

Inter Mission 4

第三幕 開

種明かしからの流れに割と心底ダビドフが驚いた。

「あれっ、俺の能力に覚えがあるのかよ?」

「お前…ひょっとして何ヶ月か前…エジンバラに行かなかったか…?」

「おょっ、なぁーんで知ってやがるんだ? 俺なんか尻尾出すよーな真似したかよぉ?」

ダビドフが俺の顔を伺う

「俺が知るかよ…お前エジンバラに行った時何しでかした…」

「いやいや、同類(スタンド使い)がいたんで勝負してきただけだぜ」

「…そうか…」

俺が呆れたように俯いたのを見てウインストンが

「てめぇか、能力持ちにしても地道に生きてる初老の夫婦を襲ったのは…!」

ちょっと雲行きが怪しくなったか…? やれやれ、どうしたものか…
と、思った時にウインストンへ電話だ。

「…お、何だよルナ……あ? たまにはここで一杯付き合うって?
 いや…いいんだが…いいんだが…今はやめた方が…今俺の目の前にいるのは…」

とばかり話した時に、ダビドフがウインストンから携帯を奪った。

「もしもぉーし、ルナ・リリーさんでいらっしゃいますかぁ
 なぁ、もしかしてエジンバラで列車止まった事件って、解決したのあんたらだったのか?」

ダビドフは全てが解決した頃を見計らって(それまではのんきに観光してたそうだ…)
翌日帰ったらしく、K.U.D.Oの仕事を横取りするつもりがジョーンへのリサーチに替わった辺りで
「もういいや」と思った瞬間、気にもとめない方向で自分のしでかした事で大変だった事も知らなかったようだ。
俺の知る限りダビドフらしいとため息の一つで済ませられるんだが…

とか言ってたら、近くまで来ていたらしい、携帯で通話しながらルナとジョーンがやってきた…
ルナはあの戦いで成長した姿を体現したようにショートカットのうえ
すらっとしたビジネススーツにスラックス、5cmほどとはいえヒールのパンプスまで履いて
一気に「大人の女」になった印象だ。
ダビドフもオーバーオールのルナしか知らないから「ヒュゥ」と口笛を一つ。

ああ、何か最悪だ…ウインストンも奴自身の怒りもあるんだろうが
「ルナがやってきた」これがもう何より最悪の事態になると思ったらしく
俺とウインストンがやや小さくなる格好になった。
ダビドフの前に立ったルナ

「そう、貴方がヒル夫妻を襲った犯人って訳ね」

「あくまで「一般市民」には手を掛けてないぜ、俺は時々そんな風に
 ダムの放水みたいに力解放しねぇと、俺自身がやばいって訳だぁよ」

ルナが俺の方を見た

「俺は直接は見てないよ、ただ、ダビドフの言う「放水」は本当の事だ
 そうしないとスタンドが暴走しかねない、それだけは俺も判る」

ルナは俺の言葉にもの凄い剣幕でダビドフの目を見た、そしてジョーンが

「…いいわ、ルナ、音も光景も殆ど2メートル以上先には伝わらない」

その言葉にルナはダビドフを思いっきり平手打ちした…!
すっげぇいい音しやがったぞ…
ダビドフもまさかスタンド使いの怒りが「全力ビンタ」でやってくるとは思わなかったようで
何だかものすごい「鳩が豆鉄砲食らったような」顔になる。

「自分の力に甘えないで! 貴方はそんな駄々っ子みたいな精神じゃないと生きて行けないの!?
 ダムの放水ですって? そんな風に「八つ当たり」みたいに力を解放してたらそりゃ
 暴走だってするわよ! 誰か他人に迷惑を掛けなくても生きて行ける大人になりなさい!」

ちなみにダビドフは既に三十代…しかしそんな事は意にも介さずルナは彼に

「貴方に必要なのは自分を律する強い心、貴方に必要なのはそれを与えてくれる「誰か・何か」だわ
 何でもいい「心から守りたい何か」を見つけなさい、でないと貴方はいつか自らを滅ぼすわ!」

正直、俺もウインストンも驚いた、それは憎き殺人者を咎める言葉じゃない
まるで母親か「学校の先生」の説教じゃあないか

「あたしには判る、貴方にとって「全てを鉄にする」なんて通過点でしかないと言う事
 貴方の真の能力はこの宇宙で存在しうる最重の元素までの合成と水素までの分解
 単純に核融合のやりやすいのが鉄で打ち止めだからそうしてるだけ!」

流石にこのルナの推理に俺は驚いた、ああ、確かに分解めいた事もやっていた
俺はだが殆ど「合成」の方でしか奴の能力は知らないが、恐らく殆ど当たっている
ダビドフも先の原子炉破壊は最終的に「全力で」「コントロールしながら」だったから
ダビドフにしても自分の真の能力の「到達点」が何であるか(水素まで分解)は
初めて自覚できた事だろう

「貴方が鉄塊に変えてしまったダン・ヒルの死体、部分的にシリコンが混じっていたわ
 シリコンと鉄、その意味はたった一つ、核融合よ、恐らくダンのいきなりの能力解放に
 泡食ったから完璧に鉄に出来なかったんでしょうけどね」

「し…シリコンが混じってたってルナおめージョーン見てーな事言うようになったな」

ウインストンがやっと声を出した。

「シリコンの結晶は特徴的だからね、金属のようで金属じゃない、独特の光沢よ」

ビンタ食らった頬を押さえて未だに固まってるダビドフ。
彼に対し、ルナはとどめに

「あなた、こんな風に怒られるの何年ぶり? 初めてじゃあないでしょ
 今貴方が怒り狂ってあたしを鉄にすると言うならそうするといいわ
 でもね、そんな事をしたら貴方は自分がガキだって事を認める事になるわよ
 「抑えが効かないから解放する、相手は知った事じゃない」そんな子供に
 あの夫婦は恐怖と哀しみのどん底に突き落とされた…なんて事かしら…!」

少しだけルナはダビドフを見つめて

「さ、ジョーン、帰るわよ」

「ええ」

颯爽とルナは去っていった。
ダビドフ憎し、という表情になりかかっていたウィンストンだが、さすがに
今は少し同情の色も見える。

「…いや、正直俺もお前さんみたいな能力持ちだったら…どうだったか判らん」

詰まるところは俺もその感想だ…
しかしダビドフはその言葉を聞いていたのか聞いていなかったのか
しばらく固まっていたと思ったらぽつりと

「…ああ、25年ぶりくらいかねぇ…
 癇癪起こしてその辺の物適当に鉄にして憂さを晴らしてた体もガキだった俺に
 …痛かったなぁ…母ちゃんのビンタはよぅ…」

やや心の戻ったダビドフの目にはなんていうかこう…、去ってゆくルナの後ろ姿に
惚れた腫れたじゃあない、なんていうか「肉親に対する思慕の念」のような光が…

そこからは夕飯時になるまでそれぞれの家庭環境の話とか、なんかマジモードに
なっちまった…

「そういやダビドフ、お前ジタンが何で時々妙に色っぽい所作をするか知ってるか?」

「あ? いや…なんか理由があるのか?」

「やめろよウインストン…結構気にしてるんだぜ…」

「いいじゃねぇか、ダビドフの食らった気恥ずかしさに比べたらそんなもん
 あのな、ジタンの実家は知ってるだろうが、フランスとイギリスにいる
 ジタンの肉親はみんな女なんだよ、姉ばっかり7人、父親は離婚後行方不明で
 実家にはジタンの母と祖母だけ、子供の頃からつまりそんな環境で
 かわいがられたから、と言う事みたいなんだよな、染みついちまったって訳だ」

「へぇ…だが線も細いし、どこかしら「素質」感じるよな」

「やめてくれ…」

何でだからって俺がいじられなきゃならん…

「そういや…ジタンとウィンストン、お前さん達に聞きたいんだ
 人を殺した…「殺してしまった」でもいい、事はあるか?」

俺はウインストンと顔を見合わせ

「あるよ、まだ十代の小僧だった頃に」

俺が言うと

「正確に言えば「あの場にいた全員でそいつを殺した」になるけどな」

「どういう場だったんだ?」

その言葉にウィンストンが

「俺たちとあんたじゃ若干世代違うみたいだが…ロンドンの治安悪いとこの
 一部はある時期から野良スタンド使いのたまり場だったろ、ストリートファイトも
 しょっちゅうだった」

「ああー、なつかしぃねぇ…」

そこに俺が

「ただ暴れて勝った負けたじゃ相対的な評価が判りにくい、俺たちが通ってた頃
 トーナメント形式で大会みたいな事が行われていたんだ、ダビドフはもうBCで
 働いてた頃だと思う」

「へーぇ、まぁ公式にやれるこっちゃねぇだろうから、それも地下トーナメントか」

「そう、ただルールはあったんだ「殺しちゃ行けない」と言うほかに
 「個人的に、あるいは民族や国家間の事情も持ち込んではならない」どうしたって後が面倒だからな」

「まぁーねぇ、そこは能力如何かなーぁ?」

「そこで…心優しいがスタンド使いだった日本人の女が対戦相手に殺された。
 対戦相手はありもしなかった歴史のねつ造で「日本人相手になら何をしても英雄的行為」と
 盲信していた奴だった、殺した奴の能力は、対戦相手の能力のコピー…かなり劣化するが…
 その殺された女の能力、地味に凄い能力だった、いつも抑えてたんだ、これは殺し合いではないからと
 だが対戦相手は劣化コピー能力とはいえ、本気で戦った、当然だよな、そいつにとっては
 憎き日本人を倒す英雄的行為なんだから」

俺がそこまで言うと

「そしてその日本人の女…「若葉 みどり」は俺の当時の恋人だった」

ウインストンが言う、この時ばかりはウインストンの目に本気の憎しみの火が燃える
そして言葉を続けて

「みどりはみんなの人気者だった、ちょいとしたアイドルだったぜ、元々イギリスには
 留学で来ていたらしいが、誰にも優しく、物怖じもせず、手先が器用で
 心配りが細やかで…持って生まれた性格でもあるんだろうが、自虐史観で
 とにかく世界中に迷惑を掛けた、みたいな呪縛が死ぬまで解けなかったな」

で、俺が

「だから、そのみどりが殺されたとき、一人はしゃいで万歳を叫んでたそいつに
 次の瞬間にはその場にいた全員がありったけの攻撃をたたき込んでたんだ
 「当然の報いだ」とあの場にいた誰もが思ったね」

「それでもみどりは死の間際にも「彼を許してあげて」と言ってたんだよな…」

「あ、ちなみにぃーその女の能力は?」

俺はウインストンの言葉を待ったんだが、奴が昔を思い出して感慨にふけっちまったんで俺が

「スタンド名「地球のうた」この地球で起こりうる森羅万象を狭い範囲でだが再現する能力だ
 とはいえ、みどりはその能力をせいぜい北極圏の寒さ雪やダイヤモンドダスト、熱帯地方のスコール
 冬の山の雲側で振らせる豪雪、ハリケーン程じゃない日本の「台風」
 雷も、雹も、オーロラのような本来は恐るべき放射線の効果ですらも
 大体、考え得る最強とかじゃなく、最大威力から半分弱くらいまではセーブしていた
 大事なのはお互いの力をそれと判るよう出し合う事であって、どちらが強いとかではない、と言っていた」

「その女、強いなぁ」

ダビドフが心底驚いたように言った。
そうしたらウインストンも口を開いた。

「そう、強かった、ヘンな自虐史観に縛られてさえ居なかったらもっと心も強かった
 両親の居ない…死因も不明の俺に取っちゃ、年上だった事もあるんだが、少しだけ
 師匠のような、姉のような、母親のような、そういう存在だったよ」

そう、だからこそ、ジョーンの存在はウインストンにとって大事なんだ。
もう流石にティーンエイジャーのガキじゃないから簡単に惚れるのなんのはないが
どこを目指したらいいのか、何を伸ばし、何を抑制すればいいのか判らない
ウインストンには、そういう存在が必要だったんだ。
そのウィンストンのつぶやきにダビドフがしみじみ言った。

「そうかぁ…俺も…もうルナには怒られたくねぇーなぁ…」

しかしちょっと泣きそうでもあるが嬉しそうにダビドフは語った。
俺とウインストンが顔を見合わせる。
おいおい、意外すぎるというか、どうなるんだよこれ?



「ああ…もう、痛いわね…何あの男のひげ、針金か何かなんじゃあないの?」

パブから十分離れた距離になってから、ルナは右手の痛みを訴えた

「…多少右手の平の細胞、皮膚に損傷は見受けられるわね…でもそのくらいなら」

貴女のスタンドで一瞬…と、わたしが言い掛けると

「…いいのよ、平手で彼に痛みを与えたなら、当然あたしも痛い、でもそれでいいのよ」

抑えられない悔しさのような物を滲ませながらルナは呟いた。

「もし、残されたダンの妻が彼を許さない、と言ったならあたしは
 問答無用で攻撃していたかも知れない、でも全てをなすがままにと彼女は言ったわ
 そして彼自身も決して悪意からの行動ではなかった…まぁ余計たちが悪いけど…
 …だから、説教で済ませてやったけど、貴女的には体もそれでぼろぼろにされたし
 何か一撃与えてやりたかった?」

「…いえ、ルナがそれでいいというなら、わたしもそれでいいわ
 わたしより貴女の怒りの方がよほどぶつけ甲斐があるだろうし、もしそれで
 相手が激高するようなら、わたしは貴女を守る為に動いたと思うし」

「はぁー、それにしても、ええ、ウインストンやジタンが彼の能力に対して
 同情を禁じ得ない、という気持ちだけは理解するわ、でも、それではダメなのよ」

「そうね、このままふらっとスタンド使い殺人を起こされてもね…」

「そう、誰でもそうだし、それが「誰か」とは限らず「何か」でもいいけれど
 彼にはこれから先の抑制する成長が必要だわ、どうやらジタンとは仲いいみたいだから
 今後時々会ってやらないとダメかも知れないわね」

わたしは思わず笑いがこぼれて

「まるで生き別れて真っ当に暮らしている妹ね」

「…うん? あんな兄貴真っ平御免よ」

…多分、もし将来フレデリコを倒し、BCが消滅したなら、その時はジタンと共に
彼が精神的に成長できていたなら、彼もスカウトしようとルナは思っているのだと思う。

確かに、細かくも大胆にも自在にストレスなくスタンドを操れるなら彼には
敵ではなく味方であって欲しい、とはわたしも思うから…でも、上手くゆくのかな…

既に買い出し後の1時間程のつもりの外出だったから、
夕食の準備もあるしわたし達はそのまま事務所へ戻った。

…その、階段の前でケント君と遭遇した。

「あら、ケント」

ルナは至って普通、という態度で声を掛けた。
ケント君は平静など繕えるはずもなく、うろたえた。

「あ…よぉーよぉー…お疲れさん」

「何よ…堂々となさい、気になる人が出来た…素晴らしい事じゃあないの」

ああ、やっぱりバレてた、そんな顔をしたケント君。

「でもね、ケント、相手は一般人、そこの所は覚悟なさい、あなたがもっと強くなって
 何があっても彼女を守れるように成長しなさい
 …とはいえ、まだお付き合いOKの返事も貰ったかどうかでしょうから…
 みんなには黙っててあげるわよ」

「お…おう…」

「なによ、しゃんとなさい! ホラ! もうすぐ食事よ、ちゃっちゃと階段上る!」

もう、わたしはあまり厳しい事言わなくてもよさそうかな…
ルナの変わりようにわたしは苦笑しつつ、妙な安心感を抱いた。



なんだかんだジタンやダビドフと話し込んじまった…ああ俺だ、ウインストン
何かあんなもん見せられた日には少し帰りづれぇ気もするんだが…
多分ルナもジョーンもそんなものどこ吹く風って感じに普通に接してくるんだろうなぁ

何て言ってる内に事務所だよ。

ドアを開ければいつもの食卓風景だ、今日はルナもジョーンもこっちにいる。

「ちょっと遅かったじゃない、あなた抜きで食べ始めるところだったわ」

怪訝そうなルナの表情、俺が怪訝だっつの…
ジョーンがここから重くなりそうな雰囲気を察したのか

「とりあえず、オムライス、ポークカツ、エビフライ、ナポリタンと言われているけど
 ナポリは全く関係ないスパゲティ・ナポリタンよ、どうぞ」

食卓に並べられたそれらを見ると…なんだかちょっとあの気まずい雰囲気もなりを潜めた。

「…うん、見た事があるようで何だかちょっと違うものばかりだね…」

ポールには強制なんで気が進むやら進まないやら

「ホントにケチャップだぜ、でも匂いは…んまそーだぜぇ?」

俺が席に座ったら、頂きますだ。

ナイフやフォークやスプーンはあるんだが、箸まで用意されている。
ポークカツなんかはあらかじめナイフを入れてあって改めて切るような事もなさそーなもんだが

ま、いいや、向こうの食い方はよく知ってる。
この場合、オムライスがスプーン、それ以外は箸だ。

くそ、美味そうな料理を目の前にすると…そっちの期待感で妙な気分が吹っ飛ぶぜ

俺がオムライスをスプーンで一口食ってそっちの皿にスプーンを置けば、それ以外の
全ての品目を箸だけで食う、和洋中関係ねぇ、箸で食えるものは箸、マナーだなんだと
うるせぇ所じゃない限り、気取らない店ではほぼ誰もがそうする…と、聞いていた。
既に切ってあるが、そのカツ一切れを更に半分に切って食いたい場合も箸、
(まぁあるいは一切れを半分ずつ食うというのもありなんだが)
スパゲッティだけはフォークを使う事もあるようだが、家庭で食うなら多くは箸、
多少音を立てようと気にしない、エビフライもさっくりしてやがる…美味い、
タルタルソースがこのかりっと揚がったフライの香ばしさに卵や野菜の風味を添える、
やはり今日の俺はこれを求めていた…洋食で大正解だ…

と、そんな俺を全員が見てた。

「な…なんだよ…?」

「ああ、いえ…箸の使用率が高いのねって」

ジョーンもテーブルマナーとかまでは知らないらしく、あっけにとられていた。

「それにしても美味しそうに食べるねぇ、ウインストン」

アイリーもあっけにとられつつ、箸が上手く持てねぇようだ

「スパゲティ、そんな風に食べていいの?」

ルナも不安そうに聞いてくる

「ああ、でもイタリアでもスパゲティを食べる時の音に関しては
 あんまり厳密ではないわよ…人に寄りけりでしょうけど」

ジョーンのフォローに

「ああ…いや、食いてぇように食っていいんじゃねぇの?
 ぐっちゃぐちゃにかき混ぜるとか食い物の見た目そのものをあんまり
 いじらない限りあんまりうるさい事は言わないのが向こう式らしいぜ
 あ、カツやフライは俺は塩を掛けたがソースでもいいんだぜ、
 ソイソースで食う奴も居るらしい」

「そ…そーなのかぁー…奥が深けぇのか浅せぇのかわかんねぇなぁ」

「スパゲティすするのはまぁ良しだが、他の品目含めて口開けて咀嚼するのは厳禁な、
 今は喋ってるから勘弁してくれ、ジョーン、やっぱり美味めぇぜ」

俺もすっかりさっきまでの事は頭の隅のさらにどっかに吹き飛んでた
その様子に安心しきったかジョーンは俺の真似をして箸でオムライス以外のものを食べ出した。

箸を使い慣れない他はフォーク主体、いいんだよ、それでいい。

「あ、でもよ…お前らがもし日本に行く事があっても、素で俺の真似はすんなよ
 俺のは「家庭の食卓」での食い方だからな」

「日本に行く事かぁ…どー〜ぉかなぁ〜」

「この…キャベツと思われる細切りの野菜はどうすればいいのかね…」

「塩なりソースなり掛けて単品で食おうと、カツやフライと一緒に食おうと自由だ」

一緒に食う…そういう概念もそういやあんまりないんだよな、そう言えば。
俺とジタンがかつて「カツ丼」をみどりに作って貰って食った時、カツだけ先に食っちまって
可笑しそうにされた事がある。

「ジョーン、このカツ…カツ丼にしてみてくれるか? タマネギあるか?」

「あるわよ…でも、今からだと少し時間もかかるし…炊いた米はまだあるけれど
 お腹大丈夫?」

「カツ丼こそが「The・日本」って気がする、ちょっと頼むぜ、手間掛けて済まないな」

ジョーンがそそくさと準備に去ってゆくと

「しかし…アメリカ人もイギリス人も人の事は全く言えない民族だけれど、日本人も
 ケチャップの好きな民族だわね…でもこのチープさ…悪くないかも」

ナポリタンを指してルナがそう言った。

「オムライスわるくねぇーぜぇ、俺毎日でも行けそぉーだ」

「うん、オムライスいいねぇ〜、ケントはクレープ巻きのほう?
 あたしのはオムレツ割りだけど、ちょっと交換する?」

端っこ少しを二人で交換してやがる、大人も食うがどちらかというと
イメージ的には子供メニューだって事は伏せとこう。
ポールはうすうす気付いたのか、オムライスが速攻気に入って真っ先に食い終わっていたが

「フライやカツは悪くないね、塩で食べると衣の程よく揚がった食感や匂いがたまらない」

と、あえてそれを外した評価をした。
ルナだけが既存のマナーという概念を打ち崩せず、苦戦していた。

ジョーンが戻ってくる、こう言う時のためにわざわざ買ったんだろう大きめの茶碗にご飯そしてその上には
さっきのカツが縦で細めに切ったタマネギと共に卵で閉じてあり、ミツバだったか
青野菜がワンポイントで添えられている。
ソイソースベースのこの匂い、ああ確かに俺がかつて食ったカツ丼だ

「ああ、これこれ…待っていたぜ、これを上に乗った具と一緒に飯を食う
 こういう「丼物」が日本古来の「ファーストフード」の名残だ」

オムライスもナポリタンもうめぇんだが、俺にはこう言うのが似合ってる気がする。
茶碗もってガシガシ食う俺にまたみんなが俺を見る。

「…いや…だから…これはこう言う食いモンなんだよ…」

「ありなんだ…そういうの…」

ルナが理解の範疇を超えたらしい、

「「ドンブリ」までは今日は使わないかな、と思って茶碗だけれど
 今日の所はそれでいいでしょ?」

ジョーンが言う、俺はもう目一杯カツ丼をがっついてたから食いながら
ジョーンの目を見て軽く頷いた。

「びっくりはするけど…ウインストンの見てたらおいしそーに見えちゃうなぁ」

「おめー地味に探偵よりグルメリポーターとかに向いてね?」

「…言いやがるなぁ、なんだろうな、俺の食いたい食い方にぴったり合うんだよ」

「まぁ…明日はともかく、ドンブリも用意しておくわ…テンプラを乗せた「テンドン」とか
 中華風の具材を乗せた「チュウカドン」とか、丼物にはバリエーションも多いから」

「丼物か…洗い物が少なくて済む…利点はそこかしらね、確かに合理的だわ…」

ルナはあくまで西洋的概念の中で物事を考えていた。
俺は残ってたその他の物を食い進めながら(地味におれはほぼ一皿一人分の分量だった)

「勿論こんなの高級レストランみたいな所じゃ出ないぜ、これは庶民の食いモンだ
 飯の上におかずを乗っけるなんてむこうでだって本来邪道食いだからな」

「でもそのタブーを破って今じゃ国民的メニューな訳でしょ」

「日本人の合理性ってわたし達とはちょっと違うのよね、慣れるまでは
 既存のマナーって概念との戦いになるわね、ルナ」

「たびたび食卓に上るって宣言だわね…」

「だって、ほら…」

ジョーンがケントやアイリーやポールをそれとなく指すと俺のほう…特に
さっきのカツ丼に興味津々って顔をしている。

「…まぁ…サンドイッチもホットドッグもハンバーガーもそういう類の物だけどさ…」

「日本でそのレベルというと「オニギリ」ってライスボールに…概ね三角だけど…なるわね
 チリビーンズとチーズソースをかけたポテトフライ…感覚的にはそっちの方が近いのかも」

「ああ…うん、なるほど…近い例えが出てくると少し納得もできるってもんだわ…」

「とにかく日本じゃ全ては米が中心だ、おかずと米が別な場合、米の盛られた
 茶碗を手に持ち、おかずを食っては米で追いかけ、米を食ってはおかずで追う
 ミソスープで流し込んでは、繰り返す」

「異文化だなぁ、でも結構美味しかったよ」

アイリーがごちそうさまだ。

「そんなしょっちゅう作って貰ってたのかよぉー?」

デリカシーのない奴だな、まぁそこも含めてケントなんだが
流石にルナが「それは今する質問じゃない」という感じで軽くケントをたしなめるんだが

「そんなしょっちゅうでもねぇよ、でもたまにやっぱり母国の食い物って妙に
 食いたくなるモンだろ、アイリーが言うように異文化だからこそ、食いたくなった時の
 欲求も強かった…てことじゃあねーのかなぁ?」

「それはイタマエさんも言ってたわ、畏まった高級レストランなんてやってるから尚更
 丼物やラーメンとかカレーライスとか、気取らない「当たり前」のものが時々無性に欲しくなるって」

「まぁ、あたしもさっきジョーンの言ってたチリビーンズがけのフライドポテトなんて
 無性に食べたくなる時はあるわね、確実に太りそうだから避けてるけど…」

「言ってくれれば時々は作ったのに」

「まぁ、ほんの時々でいいわよ…常食するような物じゃない」

「それにしてもバリエーションが豊かだ…これ以外に純粋な庶民でも食べる和食も
 当然あるわけだろう?」

ポールも質問してくる。

「洋食ですらこれでもほんの一部、らしいぜ、俺も全部は知らねぇ
 鍋とかの煮込み料理がメインになる以外は副菜…まぁ漬け物とか、ちょいとした付け合わせで
 後は焼いたり煮たりした魚とか、ミソスープがあって…そういう世界らしい、
 要するに全ては米が中心なんだよ、日本料理は塩辛いのが多いみたいだが
 それは全て米が中心にあるからだ」

「すげぇ米好きなんだなぁー」

「それでも洋食から本場のフランスだのイタリアだのって料理店が並んで
 そこらへんでパンも安く買えるようになって、マクドナルドやらそれこそケンタッキーやら
 日本でも沢山あるらしいから、米食う量は昔より減ってるらしいぜ」

「日本人ってあと大豆ももの凄く好きだよね?」

アイリーが言うとジョーンが

「調味料なら味噌、醤油、食品になると豆腐、油揚げ、厚揚げ、その加工途中の
 豆乳やオカラ、湯葉…大豆そのものを発酵させた納豆…確かにレシピ本見る限り
 大豆のバリエーションは多いわね」

「とにかく飯、美味かったぜ、毎日とは言わねぇ、週一…いや、月一でもいい、頼むぜ」

俺がごちそうさまをする、喋るのに半分夢中だったルナやジョーンも急いで食ってる。

「皿は…今日は全部俺たちで洗うよ、ルナとジョーンはまだこれから仕事だろ」

俺が言うとケントが意外そうに

「ポールもおめーもよぉ、特にウインストンなんて凄くマッチョな性格してそーなのに
 ずいぶん細やかだよなぁー」

この場合の「マッチョな」っていうのは
「男らしく粗野で働く以外の事は何もしないのに全てにおいて偉そう」
みたいな意味合いだ、つまり褒めてねぇってことだな

「マッチョイズムってのはもう古いぜ、分担できる事は分担する、それが当たり前だろ
 さすがにいつもはさっさとジョーンが食器もろとも下げちまうし、一昨日は
 俺ももう何も考えられねーくらい疲れてたし、だが今日は珍しく俺が先だ
 だから俺がやるよ」

「まぁ…余り余計な事は考えず、食べた順番から洗って片付けてゆく、くらいの方が
 気楽でいいかもしれないね、習慣になってしまえばなんてこともないよ
 だからといって食べる速度を遅くしようなんてジョーン君の料理の前では儚い抵抗さ」

ポールの提案に皆賛成した、勿論時と場合によって例外は生じる事も承知で。

「うー、ふと気付くと結構食べ過ぎちゃったかも」

アイリーが腹をさすってる。

「たまにはいいんじゃね? ここ三日はヤベーくらい動いてたしよ」

「おかげで…今後の普段のペースの一端も見えてきたよ、明日からは
 確実に余裕が出来る、だが、ここがちゃんと動き出した頃より数割多い
 どうやら少しずつではあるが、確実に余裕は出来そうだ」

「じゃあ、明日も頑張るとするかな、とはいえ、早めに上がって
 今日のパブでの出来事みたいなのは御免だが…なぁ、ルナ、あれはたまげたぜ」

「うん? 何かあったの?」

自分の分の皿は洗い、テレビを見ようとソファに座ったアイリーが振り向く

「おいたが過ぎた体ばかりはでかい子供に躾をしただけよ」

ルナは今それを掘り返すか、といった態度をちょっと見せた。

「ウインストンかよぉー?」

「違う、ジタンの方の伝手よ、彼の仕事仲間」

「…それってBCじゃないの? 大丈夫なの?」

「大丈夫だろ…プライベートで来てると言っていたし…あいつお前に
 ちょっと魂奪われてたぜ」

「よして頂戴…ただ、彼は上手く立ち直ればこちらに引き込めそうな直感があったの」

「マジかよ、危険じゃあないのか?」

「今の状態だと論外よ、勿論ね…そういえば…」

ルナは最後まで残ってたキャベツの千切りを口に頬張り、少し手で口を押さえて
もぐもぐと咀嚼をした後

「そういえば、彼の名前何て言うの? あたし何も聞かないまま引っぱたいちゃったからさ」

「うわ…ルナそんな事したんだ…」

「叩きもするわよ、エジンバラでのダン・ヒル氏殺人の犯人だったんですからね」

「引っぱたいてそれで済ませられる事なのかよぉー?」

「スタンド使い同士の争いなんて今の司法じゃどうにもならないわ
 それに彼は悪意ではなく、純粋な…子供じみたムシャクシャを発散してやってしまった…
 それになにより、ダンの奥さんは受け止めると言ってた、なるようになる方に従うとね」

「凄かったんだぜ、俺もジタンも固まっちまった」

「あなたたちもね、悪友が居たなら立ち直らせる努力くらいなさいよ」

「いや、俺今日初めて会ったし」

「持ち合わせた能力と、関わった人物のほんの僅かな差がなければ、
 貴方は同じ轍を踏んでいた可能性があるわ、だから、気をつけなさい」

「…それは…まぁ、俺もそう思うぜ、気をつけるとするさ」

「それで、彼の名は?」

「ダビドフ・マグナム」

「そう、ダビドフね、もし今度会ったら言っておいて
 今後似たような事件が発生した場合徹底的に調査して何度でも平手打ちしてあげるって」

「ご褒美にならなきゃいーんだがなぁー、ひっひw」

ケントが笑うとルナは流石に

「その場合…処置無しだわね…神経だけはまともな事を祈るわ」

いつもよりだらだらめな食事風景だったが、そこで皆食事も終わり
それぞれの余暇なり、仕事なりに散った。



「ひぇーっくしょぉーぃッ!! なんだぁ?」

あれから結局俺は…ああ、ジタンだが…ダビドフと飯を食い、バーにまで来ちまってる。

「誰か噂でもしてるんじゃあないのか? 日本じゃ突然のくしゃみにそういう謂れがある」

「あー、じゃあK.U.D.Oの奴らだなぁー、まぁそれならいいや
 それにしてもいきなりやってきていきなり帰ってったからもー少し話したかった気がするなぁ、
 ジョーンの方は特に俺とはなんにも会話してねーし」

「縁があればまた会う事もあるさ」

「おっ、お前さんなかなか素敵な事言うじゃぁーねぇのさ」

「そういうもんだろ、スタンド使いなら特に」

「だがぁー…そっちの縁だと「敵として」会いそうなんだよなぁ…」

「それでも会話は出来るだろ」

「まぁ…いつかはそうなるのかもしれねぇ…だが…もう少しでいいんだ
 あいつらと話がしてぇ、別に馴れ合わなくたっていい、もう少し何か話してぇ」

「あの中じゃあ特にルナが…ゼファーの奴の最悪な攻撃のおかげで強くなった、
 そしてK.U.D.Oの奴らをぐいぐい引っ張り出した…そしてお前まで変えちまいそうな勢いだな」

「いやぁ…俺はどーかなぁ…でもよぉ…ちょいと頑張りてぇ気はしてるんだ」

びっくりだぜ、こんな殊勝なダビドフ見た事もない。
ダビドフはそしてグラスを揺らしながらちょっと天を仰ぐような感じで呟いた
会話で繋ぐと長くなりそうなんで、俺がかいつまむ。



東ドイツ時代…裕福じゃあなかったが、マグナム一家はそれなりに幸せだった。
父は工場労働者、母も縫製工場での労働をしていた。
ダビドフは一人っ子で孤独な少年時代ではあったが、それでも夕飯時には両親も揃う
休日には半年から年にいっぺんくらいは割といい物も食えたし、旅行も出来た。

両親はスタンド使いではなかったためにダビドフ少年をもてあまし気味だったが
それでも特に母親は彼を見捨てる事もなかった。

先ほどの引っぱたかれた経験もこの頃だ。

もし怒りが両親に直接向けば、母親も父親も為す術もなく鉄塊にされるだろう
そんな恐怖を乗り越えた物はたった一つ「それでも親で、それでも我が子だから」だ。

そんなある日、彼らにとっては皮肉な事に悲劇になる出来事があった。

東西ドイツの統一だ。

多くの若者などは喜んだが、まだ就業年齢には達していなかったダビドフにとっては
それが始まりだった。

まず、容赦のない資本主義の波に飲まれ、父親の働いていた工場が倒産した。
東西の経済格差のあまりの高い壁に再就職…というか共産圏からの移行なので
制度に慣れきっていた一般労働者にとっては「就職活動」というものそれそのものが試練だった。

父親の再就職は上手くゆかず、身を持ち崩して家に寄りつかなくなる。

今でもどこかで生きてるのかも知れないが、そうしてくれて良かったと思う、
そうでないと飲んだくれて荒れる父親を殺していたかも知れないとダビドフは呟いた。

残された母はダビドフを何とかよい学校に通わせるべく無茶をして働いたし、
ダビドフも学業の傍らアルバイトをして何とか母の負担を減らそうとした。

しかし、運命とは残酷な物だ、
母は倒れ、そしてあっけなく帰らぬ人となった。

この時まだダビドフは二十歳になるかならないか、
母が必死で支えていたからこそ能力の暴走もせず、自分の能力がなんなのかを
客観的に知識として知る事もダビドフには出来ていたのに…

当然、ダビドフは荒れた。
共産主義がいいとも言わないし、資本主義は確かに色んな物をもたらすかも知れない
だが、彼はそれで家族を失ったのだ。

何とも言えない誰にぶつける事も出来ない怒りを抱きながら、彼は働いた。
そのうち、渡っていたハンブルクの溜り場でイギリスのロンドンの一部では自分のような能力者が
多数集まっていて、力試しをしている事を知るに至った。

能力持ちというのは珍しい現象ではあるが孤独な現象でもないのだ
いや、正確に言えばハンブルクでも2,3人は能力者も居た
しかしその能力的にもロンドンの話を聞いた後では「ここじゃダメだ」としか思えなかった。

そう思うと…これが母の存命中なら純粋な「生きる励み」となっただろうが…
彼はその時に誓った「この能力で能力者の天辺に立つ…! そしてその名が
 轟くようになれば…このどん底の人生を逆転させてやるッ!」

彼はそれはもうなけなしの金でイギリスに渡った、始めは観光ビザで…

彼の能力は当時のロンドンに集まった能力者の中では勿論最上級だった。
当時は終始ストリートファイトだったので、相手を殺す事もままあったし
彼の能力は相手を鉄にしてしまえば証拠らしい証拠など残さない点からも
(変わった調度品、と言う認識に一般人は見てしまう故だな)
彼の精神は少しずつたがが外れていったのだ。

そんな折、ストリートでいっぱしのチンピラ風情になっていた彼の前に
一人の若者…と言っても30歳ほどのスーツを着た男性が現れ彼をある企業にスカウトした。
BC/LM探偵社である。

当時暗殺業なども請け負っていたこともあり、つまりそれは逆に手玉を失うリスクも高く
こう言う場所にたむろする能力者をスカウトする事がままあったのだった。

チンピラのままで最強を保持するのもまぁ、賭け金などで生活は出来なくもなかったが…
そのスカウトマンは自分を役員だといい、そして、スカウトした仕事内容のリスクも
きっちり提示した、その代わり生き残れば多額の報酬を得る事も。

オールオアナッシング、その響きは彼を魅了した。
強ければ、最強でさえあり続ければあらゆる意味で天辺であり続けられる…

ちなみに…俺…ジタンやウインストンが去った後の現在のロンドンのでは
この「野良スタンド使い」の集団は更に巧妙に地下…語弊があるが…に隠れている。
組織化までは行かないが、確実に彼らだけの生存を全うするような
コミュニティになっているのだ。
なので現在は、そのようなスカウトもない…

BCに就職し、色々な面倒な手続き(就労ビザ→帰化などだ)も社は滞りなくやってくれた
仕事は確かにハードだし、そして報酬も確かに良かった。

しかし…どこか彼の心は満たされなかった。

それがなんなのか判らないまま…時々抑えられなくなる感情を…一般人は明らかに
不味いので同類…つまりスタンド使いを捜しては時々解放するに至っていたわけだ…

「…そんな時…現れたんだ…あの女が…」

あの女…ルナだな…

「俺はあの女がK.U.D.Oに転がり込んだ時にまぁ、一通り調べたよ
 取るに足らないスタンド使いとしても、一度躓いた経歴から心の傷が
 深いんだろうがそれで近寄りがたい…だが何てことない…ただの女だった…はずなのに」

「人は変われる、成長できる、そしてその影響で周りにまでいい影響を与えられる
 そんな風に、人は変われるんだと思ったね、問答無用で俺を殺しにかかり
 最初の一撃のイニシアチブをあの女が握ったなら、俺は多少のお返しは出来ても
 俺を殺せるくらいの力を感じたよ…そしてそんな強い女が何だって?
 俺に平手打ちだとよ…痛かったぜぇ…そして懐かしかった…」

「…俺の…満たされなかった「何か」を…あの女が持っている…だから
 俺は…もう少し、あの女と…あとあのジョーンって女とも話がしてぇ…」

とんでもなくそれはダビドフの本音だった。
直接会いに行けばいいさ、と言う事も出来るし、それも不可能じゃあないだろう
その気になればいつだってその機会は持てる。

…しかし…そうじゃない、それだとまた「何かが違う」のだ。
だから、それには「運命」…というよりはもう少し軽い…「縁」という
人を結びつけたり、引き離したりする「力」の関与が必要なんだと
俺はそう感じたし、ダビドフも思ったようだった。

第三幕 閉

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