Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World

Inter Mission 4

第四幕 開

そんな幾日かが過ぎ、日曜日…
午前中に先にルナと話していた「尾行」についての講義を…わたしが行った。
単純に「二度と同じ過ちを繰り返さないように」という名目で。

皆まで言わずとも、ケント君はその意図が理解できたし、彼は必死になって
わたしの話を聞いたし、実践しようとした。

…勿論これだって毎週、数ヶ月は講習が必要だと思う。

ポールはああ見えてキャリアは長い、目的はスタンド戦でなくとも
技能は積んでいるのでほぼ問題はなかった。

ルナが特殊だった、本人はまるで別な場所でまるで別な何かをしていても
スタンド(フューがそれに特化だった)で最大500メートルもの尾行が可能だったし
そのフューも殆ど出現にはルナのパワーを必要としないために
常に「後ろにも目がある」状態も可能だった、「尾行されている」という
感覚を身につけるのも早かった…
ただ、スタンドを封じられた状態…あるいは何らかの事情で
大きく制限をされている場合は想定しなければならない…やはり本体の技能向上は必要…

ウインストンは尾行「されている」のには非常に敏感だったし
する方も…まぁ、相手が素人なら大丈夫でも、相手がプロだった場合となるとやはり
幾度かは講習が必要になるでしょう…。

アイリーやケント君には…まだまだ時間が必要…ただし
「気付く」方だけに特化できればケント君には壁があるし、アイリーには
逃走経路を検索する能力がある…
まぁ…二人はその前に免許もないし、特にアイリーは誰か免許を持っている
メンバーと一緒の事が殆どだから…何とかなる…何しろ誰もが認める
K.U.D.Oの要なのだから、アイリーはそれに甘える事はないし、
身の程は知っていた、だから一生懸命。
ケント君も、好きな人のために、一生懸命。



そんな午後…わたしはルナに博物館へ誘われた。

スーツと自信を身につけたルナの変わりように顔なじみらしい学芸員さんは
「すっかり立派になって…」と喜びながら、そしてわたしの顔を見て驚いていた。

「信じられない、まるで生き写しだ…! なぜって…ほら、この絵ですよ
 この女性…まるで貴女を見て描いたかのようだ…!」

彼は感動したように派手な身振りで興奮を伝えつつ、
「他にもお見せしたい物が…」と言った時に他の学芸員に呼ばれたので
少し外します、といって足早に去っていった。

「これが貴女の人生最大のミスよ『ジョゼ・ジョットの肖像』」

ルナが苦笑しながらその絵を直にわたしに見せてくれたのだ。
わたしも苦笑が漏れる

「まるで生き写しで貴女を見て描いたかのよう…そりゃそうよね
 その当時生きていた貴女を見て描いたのだから」

ルナの言葉にわたしが

「そしてジタンがこれを発見して…」

そしてまたルナが

「彼はほぼ全てを掘り下げたけれど、結局殆ど関連性も判らない振りをして
 報告したら、逆に相手の興味を刺激して、あんな目に会うハメになったのよ」

「本当に、最大の誤算ね…わたしにそんな記憶に残る印象があったなんて」

「多分…これは多分だけれど…東欧からイギリスに渡った辺りで貴女には
 正確には貴女とオーディナリーワールドには「世界」が…国という意味ではなく
 この宇宙という存在が見え掛けてきた…その喜びと新たな知識に触れる事に
 きっと、輝いてたのよ、魅力的だったのだと思う」

「そうなのかな…まぁ確かに…あの頃、色んな事に期待が高まっていたわ、それは事実」

学芸員さんが戻る

「やぁやぁ…お待たせしました」

小走りで軽く息も弾ませながら、この人は本当にこの仕事が好きなのだなと
その所作の一つ一つで判る、きっと、そんな彼も見る人によっては魅力的に
見えるのだろうとわたしは思った。



そして、学芸員さんはわたし達を整理中の遺物などの置いてある部屋へと導いた。

「これなんですけどね…歴史的にこう言うの…どう判断したものだか…」

彼が未整理の箱から割と大きな布に包まれた物を取り出し…とはいえ
大きさの割りには軽そうな…そして布を丁寧に取り外しつつ…その時にまた
彼は呼び出しを食らって

「あ…自由に見ててください、出来れば戻った時に見解をお願いしたいのです、
 つい一ヶ月ほど前なのですが、エジプトでかつて港町があったとされる場所の
 500年ほど前と思われる砂の中の遺物群から出てきたんですよ〜」

と言いながらまた足早に去っていった。

布を外しながらルナは笑って言った

「何が「こんな所でたった一本作ったフォークギターなんて直ぐ埋もれる」よ…
 見事に掘り返されちゃったじゃないの…w」

そう、それはわたしが今の外見になる切っ掛けの事件の前に…わたしが作ったあのギターだ…
フォークギターは20世紀になってからのものだけれど、あるいは偶然にも
それに似た形のものはあった可能性くらいはある…でも500年ほど前、
そして「ギブソン・テキサン」に似た形状…間違いなく、それはわたしの作だわ…(苦笑

「まさか掘り返されるとは…考古学者や研究者の過去への探求心って凄いわ」

「彼らはロマンティストじゃあないからね、限りなく現実路線の実証主義者達よ…
 感心してないで…どうする気?」

わたしはギターを手に取り
そしてオーディナリーワールドの指先をギターのホールから内部に入れた

「…確か…この辺りに…」

「なに貴女銘まで掘ってたって訳?w」

「大丈夫よ、そんな物はなかった事に「今」なったわ…。
 放射線年代測定やX線での科学検査は行ってなかったみたいだからギリギリセーフね」

「指紋その他残ってない?」

「…大丈夫みたい」

「新品同様まで戻せばもうそれ以上の追求もないだろうけど
 さすがにそれは発見時とここでの保管時での記録と合わないでしょうし
 そこはまぁ、仕方がないわね…さて…」

ルナは言い訳を考えているようだ。
そんなところへまた学芸員さんが足早に戻ってくる

「やぁやぁ…はぁはぁ…リリーさん、どうですか?
 どう考えてもおかしいですよね? 500年前のフォークギターなんて」

ルナは考え込みながら…そしてやや大げさに一言

「説明がつかないわ、ミステリーね!」

「やはりそうとしか言えないですよね! いやぁ…これで謎が深まった…
 色々検査して貰わないとならないなぁ…」

「年代測定で「確定」が出ないと何とも言えないし、一点物で「たまたま」
 似たものかも知れないけれど、ギブソン・テキサンにそっくりじゃあないの!
 「たまたま」誰かがそこにギターを置き、「たまたま」地下の空洞などが崩れ
 砂がギターを巻き込み「たまたま」500年ほど前の遺物の中にとどまってしまった…
 現実路線で考えるならそれしかないわ、「地層でない」のが痛いわね」

「そう、砂なんですよね…ただ…「たまたま」が多すぎる気がしまして…
 弦は確かに腐食してましたし…他の遺物は確かに500ほど前を指していたし…」

「「たまたま」そこだけに水分が多い領域があったのかも…
 億年単位昔の地層からコーラの瓶が出てきたような奇妙さだわ!
 だから「ミステリー」そうとしか言えない、また何か判ったら連絡頂戴」

「ええ、続報をお待ちください!」

わたしはそのやりとりで笑いをこらえるのに必死だった。

博物館の出入り口まで学芸員さんは見送ってくれて、わたし達はそこを後にした。
そして適当なカフェでお茶を飲みつつ

「ルナ…あなた、笑わせないで…w」

「だってもうしょうがないじゃない、あたしこれから先
 あのギターについて何か判明するたびにすっとぼけ続けないとならなくなったわ」

ルナは少し考えて

「種をここまで持ってこられたのだから既にリアルはほぼ確定していたけれど
 貴女の作ったギターまで発掘されたとあればもう完全にあれは現実だったのね
 ほんの僅かに残されていた「貴女の記憶が強固だからこその限りなく現実に近い仮想空間」
 というあたしの仮説は完全に崩れた。
 「たまたま」似ていた人達なんかじゃあない、「あたし達は貴女に会う運命にあった」
 未来から過去へ、伝えなければならない事があった、そしてその未来からの情報も
 過去の貴女の体験がなければ培われなかった。」

「そして、貴女をとことん追い詰めてもしまったわね」

「前も言ったでしょう、感謝してるわ、スタンド使いの戦いに司法は手の打ちようがない
 命の取り合いだというなら、あたしらをとことん追い込みたいというなら
 それはやはり何であれ必要な事だったのよ、そうでしょう」

「ええ…」

「だからね、ジョーン、貴女の魂が探している答えがいつ見つかるか
 それはあたしにも判らない、でも、時間があるのだとしたら、ある程度
 科学技術の進歩を見なくてはならないようなら
 あたしの側にいて、あたしを助けて頂戴」

わたしは、ちょっと言葉に詰まってしまったけれど大きく頷いた。
わたしは今までの人生でどこか…こう言う人の元で働きたいと思っていたのかもしれない。
わたしの何もかもを知りつつ、だからこそ必要だと言ってくれる人が。

それが…わたしの運命だったと言うならば…もうすこし、本来の目標には
迷っていてもいいかな…とさえ思った。

600年近い年月を経て…わたしはやっと「ここがわたしの居場所だ」という場所を見つけられたから。



さて、あたしらは買いだしの後事務所に戻る…ああ、ルナよ。
今晩はいつも通りの夕食…と、言いたいけれどやはりある程度リクエストがぽろぽろ入る。
あたしもロシア料理が気になって仕方がなかったのでつい頼んでしまった。

でもジョーンは「手伝ってくれるなら」と喜んで引き受ける。

ジョーンにとって、今が幸福なのだと言う事は判る。
でもあたしは、本音のどこかでジョーンの長い長い旅を終わらせてあげたい気もしている。
一体、オーディナリーワールドの「本当の能力・意味」とは何なのだろう…
多分、既にヒントは出ていると思うし、でも何かが足りない気もする。

だとしたら、ジョーンの能力を補完する別の能力が必要と言う事になる。
ただ、悔しい事にそれはあたしの能力ではない。

下準備を手伝って調理に入るとあたしは少し余裕が出来るので
事務所の方で食卓を整える為に事務所に向かうと、既にそれも終わっていた。

ふっと少しだけ笑みがこぼれて和んでいると、ふとポールがあたしに疑問を
ぶつけてきた。

「なぁ…ルナ、私達はジョーン君の歴史をつぶさに見てきた…
 並みの人間では耐えられない苦労を背負い、そして少しずつ科学技術の観点からジョーン君が
 オーディナリーワールドを熟知してきたのかも判った。
 だが…だとしたらどこが彼女の到達点なのだろう?」

どうも、あたしらが居ない間にそんな話の流れになっていたようだ。

「…偶然ね、あたしも今ふとそんな事を考えていた所よ」

あたしがそれを言うと、ウインストンが

「っつーとこは、ルナですらやはり判らないって事になるのか」

「ええ、あたしにも判らない、ただ…これはヒントにはなると思うのだけど…
 憶測に過ぎないにしても、なぜあそこまでオーディナリーワールドの能力が
 当初もの凄くぼやけた力になっていたのか、と言う事なら」

「それは、科学技術が未熟だったからではないのかね?」

「勿論それもあるわ、でもそれだけじゃない
 初期のオーディナリーワールドは明らかに「何も見えていなかった」気がする。
 その象徴が目を覆う甲冑のイメージなのでしょう」

「じゃあーよぉ、それはどーいうことだよぉ?」

ケントも割って入る
あたしはちょっと肩をすくめ

「でも、またなんだって今そんな話を議題にしていたの?」

「いやぁ…だってさー…ジョーンの旅が永遠に終わりそうにないなら
 可哀想だし…と言って目安がつきそうなら、折角ここまで仲良くなれたのに
 寂しいというか残念だなって」

アイリーの言葉に、あたしは一瞬穏やかめに微笑んで「何言ってるの」とでも
気休めを言おうかとも思ったけれど、それではみんなも納得しないだろう。

「あたしの…憶測よ、オーディナリーワールドとジョーンについて」

一呼吸置く、みんなも固唾をのむ感じで集中している。

「…多分ジョーン…いえ、ジョセッタは「生まれられなかった命」になるところだった…
 アレサの胎内に宿った命は、同時にスタンドも芽吹いたけれど、その途中で
 その命の火が消えそうになった、これは科学技術が進んだ現代だって抱えている事
 増して当時アレサは農夫の嫁として肉体労働もしていたのでしょうから…
 何か事件があったのかも知れないわね、流産寸前の何か…」

更に一呼吸

「宿った命に宿ったスタンドには意思はまだなくとも明確に目標があったのだと思う
 ただ、本体であるジョセッタがまだ人の形も不完全な状態で死に行こうとしている
 目標が遂げられなくなる、察知したスタンドは、その形成途中にある力を
 ジョセッタの救命に注いだ…結果「ジョーンの魂の保持」に最も特化した力になってしまった」

誰も何も言わないので

「しかし本来持つべきだった力も取り戻さなくてはならない…とはいえ、形勢途中の
 不完全な力を注いでしまったが為に決定的に欠けた能力も出てきてしまった…
 そこからはあたしらの見てきた歴史の通り、取り戻せる物は取り戻している状態…
 ただし、もうオーディナリーワールド自身にも「そもそも何のために宿ったのか」
 手探りになってしまっている…」

ここでやっとポールが

「…では、ジョーン君が今の状態で取り戻せる力を全て取り戻したとしても…
 「欠けてしまった」その力は誰かが保持した上で彼女の力となる存在として
 現れなければならない、と言う制約がある事になるね」

「ええ、そしてきっぱり言うわよ、この中に…今まで出会った敵の中にもそんな能力者は居ない
 …勘だけれど、何故か断言できる。
 ジョーンが…オーディナリーワールドが本当に必要としているパートナーは居ない」

それは、このあたしすらも否定する事になる、正直悔しい。
あたしのその僅かな感情の揺れを感じたんだろう、アイリーが

「そ…それじゃあ、ジョーンは当分側にいるって事だよね?」

「明日かも知れない、1年後かも、100年後かも…それは判らないけれどね
 …ただ…そんな能力者…相当強い魂を持つ事になる…おいそれと出現する
 存在とは思えないわね…あるいは、オーディナリーワールドとしての能力が
 ある程度頭打ち…あるいは魂の保持と同様くらいに普段見せる能力が強化されれば
 …その時が合図かも知れない」

「まだその時は?」

「オーディナリーワールドにとっては…残念ながら来てないと思うわ、
 現代科学なんてまだまだ手探りもいいところだからね」

「あ、あーよぉー、ジョーンの対ってーならフレデリコは?
 ジョーンはどっちかってーと「作り上げる」方で
 フレデリコは食ってく方だろぉー?」

「その可能性はあたしも考えた、でも、あり得ない…
 フレデリコのスタンドはむしろ…「天敵」…
 背中合わせの存在かも知れないけれど、正面向きでなら最も遠い存在」

ウインストンが

「俺たちはどうすべきなんだろうな」

「どうもこうもないわ、あたしらは結局は外野なのよ、ジョーンの欠けた能力に対し
 思いを巡らせ、ペアになるべき力の持ち主を捜す事くらいは出来るかも知れない
 …でも、外野がそれこそ外野でやいのやいの騒いだところで
 来るべき時が来ればどういう形であれ、現れるわ、そのための「法則」でしょ」

「…あ、なるほどな…俺個人の見解だが…当分…10年やそこらじゃその時は来ない気がするな」

「断言は出来ない、でもあたしもそんな気はしてる
 それは…あたしらにとっては…そしてジョーン個人としては幸いだと思う」

するとポールが

「だが…オーディナリーワールドにとっては…?」

「オーディナリーワールドもまだまだ手探りでしょう、もし、明日ペアになるべき
 スタンド使いが現れても…まだ準備不足…と言う事になると思うわ
 それに…あたしさっきフレデリコをジョーンの天敵と表現したけれど
 つまりそれも排除しないと、排除してからが「法則待ち」になると思うわ」

ソファーに座って横で寝てるリベラを撫でながらアイリーが

「そっかぁ…でも、じゃあ倒すの先延ばしにしよう、何て言えないね」

「でも、じゃあ今すぐ乗り込んで戦うのか?という話にもならないわ
 全ての事象にはタイミングがある、それはフレデリコも重々承知してるでしょう
 だからこそ総攻撃は行ってこないわけだし」

ウインストンが納得したように

「なるほどな…」

「さて、そろそろ何皿か出来た頃かしら、行ってくるわ
 どのみち、出会えばいつか別れるの、万物皆そう、だから余り気に病まないで」

「そう言いながらいつも頭のどこかでルナはそれ考えてそう、ルナこそ余り気に病まないでね」

リベラを「高い高い」しながらアイリーが言った。
そしてあたしを向いて

「ね?」

元々「探る」スタンド持ちのアイリー、流石鋭いわ…図星を突かれて固まりかける、
でも…悪い気はしない、その通りだわ、小難しい理論だの理屈だのじゃない
努めてにこやかに微笑むようにして

「ええ」

その後はまた、いつもの夕食だ
「考えても仕方のない事」をいつまでも気に病む事はやめよう、みんなそのように
テレビだの映画だの、何てことのない普通の会話が食卓を満たした。

第四幕 閉

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