Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World


Episode 1:Retake 第二幕 開幕



「オレが成長すればってどーいう事だよォ−」

「策」があることは喜ばしいが、余りに未知数な前提にケントは困惑した
ジョーンは真剣にケントに告げた。

「貴方の壁…柔らかくできるはずだわ」

「はァー?」

「こいつの壁は見た目のビジョンが石だぜ?」

ケントもウィンストンも「4EW」は「堅い守りの壁」という意識しかないのでつい言い返してしまった。

「いいえ、「守りの壁」だというのなら出来るはずだわ、遊戯施設にあるような
 空気で床も壁もトランポリンになっているような物を考えて、あれだって壁は壁
 しかも子供が怪我をしないような「守りの壁」でもあるのよ…!
 ケント君は今! その「柔らかい壁の概念」を会得しなくてはならないわ!」

「で…でもオレあんま気ィ緩めたらよォ…」

「ああ、一回壁一枚壊しちまったことあったんだよ、暴走車止めるのに
 固い壁だと運転手お陀仏だし、まぁ結果大した深手ではなかったから
 ルナの「ア・フュー・スモール・リペアー」で治せたんだ、
 ルナのスタンドは筋肉の外側くらいまでしか治せない、
 今ここでそれに近い事をやって壁使い切ったらこいつ死ぬぜ…!」

「つまり一枚でも残しておけば死にはしないと言う事ね、チャンスは三回あるわ」

『こいつ…鬼だ…』とウィンストンは思った。
ケントもイヤな汗を流している。

「スタンド能力として一瞬で傷を治すことは出来ない
 でもわたしも同じようなことが出来るわ、骨が砕けようと、内臓が破裂しようと
 即死でない限りは対処が出来る、保証するわ」

「お前さっきスタンドで光を発してたよな…、お前の能力はどう言う能力なんだ?」

「とりあえず「時間が掛かるけれど治すことが出来る」と思っておいて、今はそんな暇はないわ!」

上にいる猫は更に上に行くべく足場を捜している所だ、確かに屋上に出られては今この状態から
追いかけるのに余りに不利になる、しかも目の前に子猫も居るのだ!
ウィンストンは腹をくくった

「よぉし、ケント! 一か八かやるしかねぇぜ!
 俺が突風を仕掛けて猫を落とす!お前が射程と伸縮距離最大にして待ち構えてくれ!
 落ちる速度くらいは下から風吹き上げて調整してやるけど余り調整に気を捕られると
 ポイントから外してあらぬ所に猫を落っことしちまう可能性もあるから
 お前の壁だけが頼りだぜ!」

ケントがやろうかやらまいか呼吸を荒くして猫を見据えている

「…わたしを信じて、壁三枚でやり切って。
 最初の一枚は受け止めると言うより敢えて破らせて勢いを殺すくらいの気持ちで
 3kgほどの猫の感触を覚えて、二枚目以降からが本番よ…!」

ケントの目が見開かれる!

「うぉぉぉおおおお! フォー・エンクローズド・ウォールズゥゥゥウウウーーッ!」

高さ10メートルと少し、猫の真下と思える位置に壁は出現した、

「見た目は石でも、それはトランポリンのようなもの、猫を守る壁だと思いなさい!」

少し下がって居たウィンストンが

「よーし、ここからなら狙えるぜ、ギリギリ20メートル、高さは真下まで17,8メートルって所か!
 「風街ろまん」! 行くぜ!」
『ヨォーシ、オイラノ出番ガキヤガッタゼ!』

ウィンストンと「風街ろまん」と呼ばれたスタンドが慎重に狙いをつける

「「風をあつめて」ッ!」

圧縮空気の如くな気流が猫のいる朽ちかけた階段跡を少し崩し、猫はバランスを崩し落ちてきた!

「よぉーし!次!」

ウィンストンは結構慎重に威力を抑えて同じ技を猫に当て、定期的に落下速度を緩めさせた。
壁まで残り2,3メートルと言う所で

「これ以上はケントの壁に隠れるぜ! 頼む次ッ!」

一見余裕っぽくウィンストンは言うが、狙いを射程いっぱいで構え、猫のような大きいとは言えない
ターゲットを怪我などさせないように風で落下速度を緩める、
などという芸当は矢張り余りやり慣れていないようで
大きく肩で息をしているウィンストンをジョーンは見逃さなかった。

また少し猫の落下速度が付いてきた所でケントの壁が受け止める!
…と良かったのだが、それはまるで豆腐に鉄の玉を落としたが如く貫かれる

「うぉぉおおおお!」

ケントが叫び、体に裂傷が幾つか走る

「今の失敗の感覚を思い出して!もう少し、もう少し堅く!」

「おぉぉおおおおし!こぉぉおおい!」

数メートル下で待ち構えていた二枚目の壁が猫を受け止める…が!
少しトランポリンのような粘りを発揮するも、ギリギリで破られてしまった!
裂傷も増え、流石にケントも気絶しかける。
そんな時、ジョーンが特殊な呼吸を始め、不自由な体勢ながらも
右手指先と左手指先をケントの体二箇所に触れた!

「しっかりしなさいッ! 止血と気付けの応急処置よ! もう少しだわ、貴方なら確実に
 あの猫を守ってあげられる!」

少し離れて見ていたウィンストンにはそのジョーンの指以外にスタンドも手だけ現れて
ケントの傷口を少し塞いで行っているのが見える、確かにルナの能力だと
「浅い傷しか治せない」が、その効果は一瞬なのに比べたら明らかに遅い…
いや、そんな問題ではない、彼女は能力を二つ同時に使っている、それは間違いない
そんな事はあり得ない、応用の形で二つ以上の能力があるように見えるスタンドはあるが
ジョーンは今、明確に能力を本体とスタンドで別々に、似たような補完し合うような
形で発動している、彼女は何者だ?

ジョーンの言葉にケントは奮起し、失敗から「足りなかった配慮」を思い出し
最後に待ち構えた3メートルほど上の壁で猫を受ける!
この瞬間は流石にウィンストンも手に汗を握った!

堅そうな見た目と裏腹に柔軟性のあるその壁に猫はパニックを通り越して固まっていた。
ボヨヨォォオーーーーーーン
と音がしそうなキャッチを二度ほど繰り替えし、一番下まで壁が延びた瞬間

「壁を消して、お疲れ様ケント君」

延びきった瞬間で壁が消えた為、もうそれは2メートルと少し、待ち構えていたジョーンがそれを
優しく受け止めた。

「怖い思いをさせたわね、ごめんなさい」

猫を撫でながら

「ケント君、もう一仕事、子猫側の壁を使って優しく子猫の入った箱をこっちに寄せられる?」

怪我で結構フラフラ…というかあまり血を見慣れていないようなケントだが

「あ…あぁーそれならまだ簡単だぜぇー」

奥の壁を一旦消し、地面にほぼ水平で短い壁を出現させ、それを伸ばすことで要求に応えた

「いいわ…素晴らしい、もう大丈夫よ、後はわたしが何とかするわ、路次まで出ましょう」

ウィンストンが先に路次まで出ると、ケントをリードし、出た瞬間ケントは壁にへたり込んだ。
割と明るい所まで出ると、結構な出血量なのが判る。
次にダンボールを抱えたジョーンが出てきた。

「上蓋さえしっかり管理すればあとはテープで補強してある箱だから、ウィンストン、見ていて」

ウィンストンが猫の入った箱を受け取ると、ジョーンは片膝をついてケントの治療を再開した。
ジョーンの指先が再び光ると同時に、今度はスタンドの手はケントの服をなぞり始めた。
…血が…消えてゆく?

「さっきもちらっと思ったんだ、ジョーン、お前は一体何なんだ…?
 今お前は明らかに違う能力を同時に使っている、スタンド能力二つ以上持つ事はあり得ない」

ジョーンはそれに関してはちょっと説明しにくそうだった、タブーに触れると言うよりは
どう説明すればいいのか、と言う所で悩んでいるようだった。

「…機会があったらきちんと教えるわ、今はそれより、ケント君良くやったわね」

「あー、あんたのおかげだぜェー、オレ、ちょっと感動したよォ」

ケントの「ちょっと感動した」は「かなりキテる」と言うことなのをウィンストンは知っていた。

「徹底的に楽にするには時間が掛かるから…服から搾り取った血でちょっと強力な
 かさぶたにして大きな傷口は塞ぐわ、痛みは残るけれど、ルナが治せるというなら
 彼女に任せるわね」

「はは…楽にするってとどめ刺すって意味じゃぁーねぇーよなぁーははは、冗談だよォー」

ケントは余程嬉しいのか冗談も嬉しそうだ、ジョーンは「何を言ってるの」と微笑みかけている。
確かに、敵か味方かよく判らない女なのだが、少なくともウィンストンはこれだけは確実だと思った
『この女は、人の向上心を糧に周りを引き連れて一段一段高い所へ登らせるような、そんな女だ』

立ち上がれるようにまでは回復したケントには、血の跡ももう目立たないほどになっていた。

「おう、じゃぁーウィンストン、行こぉーぜぇー」

二人は表通りに向かって歩き出す。
それを尻目にウィンストンは思った、

不思議な女だ。
彼は、そう思った。





猫は子を産む為に賑やかな家を避けた、
依頼者である奥さんはそれを聞くと、家をもっと猫と子供とで
分けていられるように家具を配置換えしたい、その分の料金は上乗せする
とのことだった、元々ルナ組に比べ、もしあちらが提示された料金を100%払うとなれば
間違いなくこちらの方が報酬が低い事もあり、ウィンストンはそれを二つ返事で引き受けた。

勿論バレないようにスタンドも使う。
この場合の「バレる」は明らかに二人で運んでいるように見えて一人しか見えないような
「不自然さを見せない」という意味である。

ケントは怪我もあるし、小物担当で、ジョーンはスタンドを出現させていないのに
かなりの力持ちであった、ひょっとしたらウィンストンと同等かそれより上くらいの…

家人に聞こえないようにウィンストンがジョーンに聞いた。

「なんでスタンドを使わないんだ? いや、それ抜きでも力持ちだが…」

「恥ずかしがって出てこないわ…許して頂戴、とても奥手なの」

「スタンドが恥ずかしがる? そんな事あり得るのか?」

「あり得るわ、わたしのスタンドがそうだもの」

「本体の要請を断るスタンドなんて余程自我が強いんだな」

「そうね、それはあるかも知れない」

「名前はなんて言うんだ?」

「オーディナリー・ワールド」

「へぇ…」

「そう言えば貴方の「風街ろまん」というのは?」

二人の会話にちょこちょこ小物を移動させていたケントが応えた

「日本語なんだってよぉー、ウィンストンは日本が好きみてぇーで」

「ああ…間に「の」を挟めば言葉っぽくなるわね」

「うん? 日本語知ってるのか?」

「少しだけね」

「あ、じゃあよお、お前日本の古銭は持ってねぇの?」

ウィンストンの目がちょっときらめく、本当に好きなんだなとジョーンは微笑んで

「ごめんなさいね、ロンドンに居た日本人の「イタマエさん」とちょっと知り合いだったことがあるだけ
 行ったこともないし、遠い不思議な国ってイメージしかわたしにはないわ」

ウィンストンは判りやすくがっかりして

「そっか、しょうがねーな、じゃ、スタンドの能力は?
 もう一つはいいよ、お前が話したい時でいいからさ」

ウィンストンが「知りたい」と思うのは当然だとジョーンも思い

「物理的に起こりうる現象をその可能性にかかわらず実現するスタンド
 或いはその「可能性」を入れ替えることが出来るスタンド…と言って判る?」

「…判らねぇ」

「うん…では、事務所に戻るまでにもう少ししっくり来やすい言い方考えて置くわ」

「すまねぇな、真面目に勉強もしてこなかったし」

「いいのよ、これはわたしの力量不足だわ…というか…
 わたし自身まだ自分のスタンドを100%操れているとは言えない状態なの
 「恥ずかしがり」という性格以外でね」

「なんかめんどくせぇんだなって事はよっく判ったわ」





一方少し時間を前後することになるが、三人が出掛けた後、
ポールはジョーンの渡した金貨や銀貨を見て軽く悩んでいた。

ポリシーとして結論のでない考え事はしない積もりではあるのだが、
目の前の金貨銀貨は直ぐそこに答えがありそうな予感がする。

事務所としても古銭を探すなどの仕事も今までなかったわけでもないので
(今手元にある物とは違う、もっと古銭然とした古代ローマ時代の物の捜索)
ヨーロッパの古銭の本や図鑑も取りそろえては居た。

ルナが言ったとおりそれは主にオランダやイギリスの金貨や銀貨であり
年代はどれも18世紀中盤から後半のものであった。
答えが直ぐそこにありそうなのに、手が伸びない。
頭がそれを拒否している。

自分で言った「酔狂な取引」…古銭で仕事を請け負ったのだと言う事にしたい。
しかし、これには何かとてつもない意味がある…そう思ってジョーンが来て
三日ほど古銭を処分にいけなかったのだ。

意を決し、彼はコートを羽織り外出した。
古銭を扱う依頼の時に以前世話になった多少曰く付きでも大丈夫な古銭商に
それを持って行ったのであった。
どういう由縁であれ、それらを処分しなければならなかったのだ、
実は懐事情がかなり悪かったのだ。
彼はそう言う意味では純粋にジョーンの来訪と定着を歓迎していた。
このままの経済状況なら、もしまだ彼女にこう言った資産があるなら
頼ることもあるかも知れない、そう言う状況から抜け出せそうな
カサブランカ氏からの高額依頼であるが、ウィンストンやルナの指摘で
どうにも雲行きも怪しい、上手くゆくことを祈るしかないのは歯痒いが
今はジョーンの資産にすがるほかは無かった。

やや暗い雰囲気の店内、ここへ来たのは何年ぶりか、まだ従業員が
ウィンストンと彼の幼なじみの二人であった頃だ。

老店主はポールを覚えて居て、その後古銭にまつわる依頼はないのかと
少し世間話をした後、ポールは換金して欲しい古銭をその老店主へ
差し出すと、彼は一応それらの目方や拡大鏡での鑑定をするのだが
そのうち何を思ったのか指紋の採取までし始めた。

ポールは内心肝を冷やした、何をしているのだ

「…所長さん、あんたジョット女史と何か繋がりがあるのかい?」

冷えた肝が潰れる思いだ、彼女ひょっとして何かとんでもない大悪人?
あの妙に落ち着きがあり、無害そうな雰囲気もアイリーのスタンドですら
剥がすことの出来ない仮面だったというのか。

「いえぇ、その、ちょっとした縁で社に住み込みを始めましてな…」

ポーカーフェイスはお手の物のつもりだったが、流石にこの時ばかりは
表情にかなり染み出ていたと思う、まだ修羅場を踏む数が足りないか
もう探偵業そのものは20年近いが、かなり零細で経験も結果的に少ない。
ポールの憂慮とは裏腹に、店主は言った。

「…羨ましい、彼女は今幾つに見える?」

羨ましい? ポールの中に疑問の種がまた一つ増えたが、その解決には
会話が必要だ、ポールは静かにスタンドを呼び出し、事の成り行きに
言葉の選択肢を並べさせ、会話の有利を図ろうとした。
それが彼のスタンド能力なのだ、まるでアドベンチャーゲームのように
目の前の展開に対し、選択肢が用意される、どれが有利になるかは
本人の意思に委ねられるが、その選択を誤ることはまずない、
彼の二十数年のスタンド歴から既に成功率がかなり高い物であったのだ。

「二十代の…半ばほどに見える、IDカードを見ても26歳…そうあったよ」

ここは、店主の話をとにかく聞くこと、信じられなくとも質問は返さないことだと
ポールは判断した。

「…あれはそう、1960年代の始めの辺りだったか、ビートルズが熱狂的に
 流行りだした頃だ…彼女はやって来た」

ビートルズのデビューは1962年だが、爆発的に流行ったとなると63年か4年のはずだなと
ポールは思い、既に年代が合わないのだが、その疑問は挟まず店主の話を続けさせた。

「当時から彼女は二十代後半だった、身分証明を見ても少し年代はずれていても
 …まぁ確かに混血らしいその姿はわしらには見分けがつきにくいかも知れないが」

ポールはとにかく店主の話に頷き、続きを促すようにだけした。

「エキゾチックな雰囲気を纏いつつ、西洋での振る舞いも完璧…英語も完璧
 そして持ってきた古銭はどれも非常に状態が良く、最古の物で15世紀
 一番新しくても19世紀、記念コインの類はない、何者だと思ったね」

店主は話を続ける

「その後古銭商の個人的ネットワークがあるんだが…「彼女」が話題に上り始めた。
 後ろ暗い由来は見付からず、真っ当な古銭なんだが、状態が良すぎること
 いつ来てもその外見が二十代中程から後半であること…
 そのうちわしらはその古銭のうち一つは売りに出さず持ち続けることにした。
 指紋は「それが彼女である」事の印、彼女はいつだって初めて来たかのように
 振る舞い、身分証明を出す、いつでもそれらは適正と思える年代になっていた」

「彼女はそのネットワークには気付いておるのですかな」

これは聞き返されたいはずだ、と思いポールは聞いた。

「いや…我々仲間内だけが知ることじゃよ、1960年代始め、うちに初めて来てから
 60年代は余り来ることもなかったが、70年代、80年代、90年代、そして
 最後の換金は2004年じゃったか、彼女も気を使うのか方々別々の古銭商に行くし
 ネットワークに属していない店もあるでな、全部の記録ではないじゃろうが」

「興味深いですな、彼女は十何年に一度くらいの来店なら覚えてないだろうと
 思っているのですかな」

店主はにこっともにやっとも付かない笑みを浮かべ

「彼女は何も気にしていないじゃろーね、見給えよ、これを」

拡大鏡と、指紋を浮かせる粉末をまぶした古銭をポールに寄越す。
そこには金貨に触れたルナと自分の…というかどっちがどっちかは判らないが
「普通の指紋」の他に、もの凄く特徴的な指紋があった。

「これは…」

店主は何故か凄く自慢げに

「「彼女の指紋」だ、「生命の花」のようだと思わないか?」

占星術というか神秘学というか…ちょっと探偵の領分からは外れるが
幾何学的な意味合いでも持ち出されることがある、円と円の重なり合いを
一定に繰り返し、花のような模様を象ることからのものだが…
人の指紋がこれに似るなどあり得るのか。

「…驚きだ…彼女は一体…」

思わず疑問を挟んでしまったが、店主はこれを狙っていたようだ。

「お前さんなら、その答えを見つけられるかもしらんよ
 彼女はずっと一人暮らしであったようじゃが、何の気紛れか
 お前さんの会社で探偵として働くなら、いつかね」

店主はその指紋を浮かべた金貨を何か特別な引き出しの中に入れて
(既に数枚あるのはやはりそれらもジョーンの持ってきた物なのだろう)

「時折、進捗を教えてくれんか、何、妙な所に連絡などしない
 言ってみればわしら古銭商ネットワークは
 「ジョーン=ジョットファンクラブ」みたいなものじゃから」

「…彼女は少なくとも70歳…と言うことになるのか…」

「古銭商と言っても単に商売でやっている者も居れば、その一つ一つの由来に
 謎や歴史を感じるロマンチストもおる、わしも、その一人と言う事じゃ」

なるほど、大変合点がいった。

「まぁ…彼女がどこまで我々と馴れ合うか、いつまで居るのかは判りませんが
 承りました…またお邪魔することもあるかも知れません、その時にでも…」

「お前さんも、もうちょっと気を入れて仕事をいつまでも低空飛行させるんじゃあないぞ
 折角捕まえた妖精を逃がすような愚行じゃよ」

ポールは幽霊だ妖精だと言った物には懐疑的なのだが、しかし店主のその表現は判る気がした。
ジョーンは、逃してはならない幸運のような気がしたのだ。

「はぁ…身につまされますな、それで…」

ポールはそれまでのことをすっかり脇に置いて

「その古銭、いかほどになりますかな?」





生まれて二十日弱…って感じの子猫がケントの手の中にいた。
彼ら三人は事務所に戻ったがまだポールは戻っていないようだった。

先の猫騒動…依頼者は子猫は歓迎だし、友人などに子猫が生まれたら的に
二件は譲渡先を決めていて、自分も子猫二匹なら…と思っていたという。

子猫は五匹居た。

「へへ…オメェーも尻尾が曲がってなけりゃぁーオレ達の所に来ることも
 なかったのかもなァー」

まだ目が開いて間もないその子はミィミィというかミャオというかポミィというか
とにかく鳴いていた。

「保健所で処分も三匹育て情が移ることも不可っていうんじゃあ引き取るしかねーって
 いうかよ、ちゃっかりそれでも選んでやがるのかな」

ウィンストンがその尻尾の曲がった子猫を「外れ掴まされた」的に言うと、
ふと何かを思いついたようにジョーンに聞いた。

「なぁ、骨が砕けようと治せるってこた、この子猫の尻尾も治せるのか?」

「能力的には可能だけれど、人間でも何かの記念とまで言わなくとも
 自分の特徴、戒めとして傷を敢えて放置することがあるでしょう?
 「その魂が受け入れたもの」というのはやりにくいわね…
 この子が将来大きくなってその尻尾が気になるようなら…
 元に戻してあげるのも悪くないのかも」

「どーやってそれを知るんだよ、猫の言葉がわかるのか?」

「何となく程度なら…あ、ケント君、これ…」

併せて買ってきたほ乳瓶に猫用のミルクを入れて、彼女のスタンドがうっすら見えたかと
思ったら少しの間それを握り、ジョーンが受け取ってケントに手渡した

「お、あったけェー、猫の体温的にこれでいいのかなァー」

「うーん、わたしの経験上という感じで正解かどうかは判らないけれど大丈夫だと思う」

そこへウィンストンが

「今ミルク温めたのもスタンド効果か?」

「ええ、そう、さっきから考えていたのよ、こう言う言い方ならどうかしら?
 スタンド効果は「おおよそ何でも出来るけれど、時間と手間が掛かる」と思って」

「なるほど、それなら俺にも判りやすい、しかしそうなると
 実戦にはあまり向いてなさそうな感じがするな」

「そこは経験と状況だわね…あ、ケント君、飲み終わったら暖かくしてあげて
 濡れたタオルなどでお尻を刺激してあげてね、自力でまだ排泄が出来るかどうかだから」

「おう、まかせとけよぉー」

以外と、ケントは面倒見が良かった。
ウィンストンが考え事をしていて

「おおよそ何でも出来るのなら、貴金属宝石の類なんかどうだ?」

「粉々に砕けたとか完全に鋳溶かされたと言うのでもない限りは
 生命体を「治癒」するよりは遥かに簡単ね、特に宝石は結晶構造
 金属なら純度は、合金として加えられた物は何か、だけだし」

子猫を高い高いしたあとミルクを飲ませているケントが何気に

「それならよォー、ジョーンはルナ組のヘルプのがいーかもしれねェーなぁー」

「そうだよなぁ」

ルナ組の仕事内容を良く知らないジョーンが

「何か問題があるの?」

「ああ、それなんだが…」

ウィンストンが経緯を説明しようとした時に、事務所の電話が鳴る
ディスプレイに表示されている番号からするとポールの携帯のようだ。
ウィンストンが電話に出て少しのやりとりの後、電話を置き

「おい、ジョーン、ルナ組からのヘルプで俺…と言うことなんだが
 ポールと俺からの推薦だ、お前が向かってくれ」

「…え?」

「合流場所を言うぜ」

古銭商から戻るポール、そして今さっきの体験や話を聞いたウィンストンは確信していた。
今、ルナ組の事態に必要なのはジョーンなのだと。





「ん〜〜〜〜日が傾いてくるとやっぱちょっと冷えるねぇ〜〜〜〜」

アパートと言うよりは狭めの集合住宅という趣の棟々が並ぶ住宅街の向かいにある
細い路次で女二人がちょっと寒さに震え始めていた。

「貴女ももうちょっと着込めばいいのに、キュロットにニーソックスとか
 見てるあたしの方が凍えてきそうだわ…」

「いや〜〜もっと若い頃なら平気だったんだけどあたしも年かなぁ〜」

「まだギリギリ十代でしょ…貴女で年ならあたしはミイラかしら」

「いやいや、ルナはルナ、でもルナもちょっと寒そうだねぇ」

「アメリカ南部の生まれだからね…こっちに移り住んで十年くらいだけど
 未だに冬は慣れないわ…」

「それにしてもウィンストン遅いねぇ〜〜」

と、そんな所へ現れたのが…ジョーンだった。

「わたしでいいのかと何度も聞いたのだけれど…」

ちょっと申し訳なさそうだった。

「…まぁ、事情もまだよく判ってない貴女一人で来させたのは
 ウィンストンの采配ミスだわ、貴女が責任感じる事じゃあない
 というか、別にウィンストンと一緒に来たって良かったのに何故また」

「要請を受けた段階でポールが外出中だったので免許持ちのウィンストンは
 大事を取って残る、ですって、それで…」

ジョーンは仕事の内容に取り掛かろうという姿勢を見せた、
まぁ今ここにウィンストンが来ようともここまでの経緯は説明しなければならない

カサブランカ邸で無くなったネックレスの写真を見せて貰い(なるべく多くの角度で)
金庫にしまったはずで、その金庫が破られたわけでもないのに無くなっていた、というのだ。
スタンド使いに違いない、そう思ったが、そこでヘルプ要請を出すにはまだ早い。
怪しいかどうかはともかく出入りした人物等を聞き込むと、
無くなったのはつい先日で、出入りは使用人や取引相手の他
ハウスキーパーが浮かんできた、彼は非常に具合が悪そうだったという、
早上がりして貰っても構わないと告げようとした所姿が既に無く、その後
金庫を開ける用事があり開けた所、ネックレスが消えていた…と言うことだった。

「具合が悪そう…」

ジョーンが呟いたのをルナは聞き逃さなかった。
アイリーは寒さに抵抗すべく飛び跳ねていた。

「調べたわ、出入り業者のハウスキーパー。
 スモーキン=ジョー
 年齢30歳、勤務態度も真面目で今まで無遅刻無欠勤
 技能も高く、信用も厚かった、そのため本来数人掛かりの
 カサブランカ邸も一人で担当していたのよ
 それが先日具合を悪くしてやって来て居なくなった後は
 連絡も付かず電話にも出ない」

「スタンド登録は?」

説明せねばなるまい、イギリスでは21世紀に入ってからではあるが、
「スタンド使い」という存在を公にはしていないが行政的には公式に認めた。
能力に個人差があること、いつ、どのような切っ掛けでそうなるのかなど
色々研究してきた上で21世紀になってからそれを始めたのだ。
登録した所で普段どうということはない、犯罪が起これば登録者はもちろん
その登録から調べられるわけだが、真っ先に候補から外す為の物であるし
スタンド使い同士の繋がりを利用し、政府管轄の登録をするよう促していた。
軍や警察にスカウトされることはあるらしい、既にそういう経緯で
警官になったスタンド使いすら居る。
勿論K.U.D.Oの面々は全員登録を済ませていて、ルナは今現在英国籍である。
スタンド使いは警官や軍人、探偵業と言った物の試験に少しだけ
アドバンテージがある事も、ルナが若くして探偵免許を取得した事に寄与していた。

「既に問い合わせた、彼の登録はなかったわ」

「と言うことは、野良スタンド使いと言うより…」

「貴女知っているのね、「スタンド中毒」」

「「矢」によって試された者になる事がある症状、
 今まで数えるほどではあるけれど何例か見てきたわ」

「そう、あたしもアイリーも、ケントやポールも「矢」組でね
 その中でもあたしとアイリーはその酷い有様を見たこともあるわ
 …その様子だと貴女は生まれつきなのね」

「ええ…」

「何例か見てきたと言う事は、その矢を放った奴のモンタージュは?」

「ごめんなさい、わたしの見た例はイギリスではないし、個人の諸行ではないのよ」

「個人じゃない?」

「大丈夫よ、そっちに関しては終わっているわ、なので、今この件に関しては
 わたしは素人、仕事の話に戻りましょう」

なんだか、上手い具合にはぐらかされた気がしたが、確かに
今「誰が矢を放ったか」は問題ではない、いや、最優先ではない。

「アイリーのスタンド能力でネックレスがここの路次の向かいの家にある事は
 掴んでいたし、その家主はスモーキン=ジョー、もう確定よね、
 問題なのが、あたしはほぼ戦闘には向かないスタンドだし、
 アイリーも戦闘能力はないって所なのよ、だからウィンストンを呼んだの」

「そこへ、何故かわたしが来てしまった」

「ポールやウィンストンが貴女を指名してきたって事は何かあるのでしょう?」

「そうね…とりあえずネックレスに破損があっても「ほぼ」完全な修復が出来るわ
 …時間が少し掛かるけれど」

「へぇ〜そりゃぁ〜便利、この仕事にぴったりだねぇ」

アイリーが飛び跳ねながら言うと、ルナは冷静に

「そういえば貴女の能力を全然知らないわね」

「さっきウィンストンにも言ったわ、「おおよそ何でも出来るけれど、時間が掛かる」
 と言う風に理解しておいて」

「あたしこれでも修士号は持ってるのよ、…とはいえそれは主に歴史や考古学でだけれど
 もう少し込み入ったウィンストン用でない説明が欲しいわ、何しろ今から
 ちょっとゴタゴタがあるかもしれないわけだからね、貴女の言った「ほぼ」
 という制限事項が気になるの、話して頂戴」

修士の学位を持っていて、全てストレートだったとしてルナの現在の年齢は23歳…
いや、彼女は誕生会を拒んだが最近24歳になった。
修士には最短でも22歳である、ジョーンはルナは優秀なのだなと思ったし
なるほど歴史を主に専攻していたなら自分の持っていた古銭に詳しいのも頷けると納得した。

「この世で物理的に起きうる現象を、その確率にかかわらず実現、あるいはその確率を入れ替える
 能力よ、ただし熱力学には根本的には逆らえないわ、
 「壊れた」なら「どの程度」を調節できるけれど「壊れた」という事実は覆せないの」

それを何気に聞いていたアイリーは

「あーあたしウィンストン用の説明でいいや〜〜」

ルナは少し「やれやれ」という表情をしつつ

「時間が掛かるというのは?」

「その物質そのものを操るわけではないからよ」

「なるほど、合点がいったわ、じゃあ掛かる時間は置いておいて、
 骨折だろうが内臓破裂だろうが即死以外は対処可能、と考えていいわね?
 能力で完全に治すことは出来ないけれど、骨ならちょっとヒビ
 内蔵ならちょっと内出血とか、そう言うレベルまで「状態を変えられる」
 そう言う理解で百点中何点?」

「百点満点よ」

「OK、貴女が来た理由がよく判った」

「普通の能力者ならウィンストンでも良かったんでしょうけれど
 相手の状態が不明、何が起こるかも不明というのではね
 彼、いい勘しているかも」

「彼の本能的直感はあたしも認めているわ、頭でっかちなだけじゃ
 世の中渡れないって事もよく判ってるつもり」

「素晴らしい、貴方たちと出会えて良かったかも」

「感動するのは「対処した後」でお願い、で、ここからどうする?」

三人で作戦会議に入ろうとしたルナ。
アイリーがつま先立ちで寒さを堪えながらクルクル回りつつスタンドを展開していて

「ネックレスの位置がちょっとおかしい気はするけど動いてない
 スモーキンは…何か部屋の中をうろうろしてる見たい」

「素晴らしい能力だわ」

ジョーンが改めてアイリーの能力を賛美した後、彼女がスタンドの名乗りを上げる。

「オーディナリー・ワールド」

ほぼジョーンに重なった位置で出現したスタンド

「? 何をするの?」

ルナがいぶかしげにするとアイリーが立ち止まり

「お、寒くなくなってきた」

ルナもそういえば…と、一桁台前半の摂氏が徐々に+10℃くらい上がった体感だ。

「体が硬くなってしまっては元も子もない可能性があるわ、ほぐさないとね」

「空気分子の運動を調節した…と言う事ね、急には暖かくならない所も
 なるほど、貴女の説明を裏付けている…しかし便利ね」

「ここまで来るのに大変だったわ」

ジョーンの何気ない呟きだったが、物質そのものを操るわけでなく
間接的に周りの物質を操るわけだから、なるほど、それには
多大な理屈を積まなければならない、ルナはジョーンが何者かと言うより
ジョーンにもの凄く深い孤独を感じた。

「とりあえず感謝するわ、じゃあ、作戦練りましょう」

ルナが思いを切り離し、事態に直面する為の口火を切る。

「とは言ってもなぁ〜…あたしが出来ることと言えば
 玄関から先、暴れた影響か多少物は散乱してるけど元々きれい好きなんだね
 動くには差し支えないし、玄関背にしておくようにしておけばいざという時の
 逃げ道も確保できる、ネックレスの詳しい位置は…これちょっと
 実際行って部屋見てみないと」

アイリーが言うとルナがそれに続いて

「とりあえず、スタンド中毒らしいけれど命の危険が直ぐあるほどに
 耐性がない訳ではなさそうよね、理性を保っていてくれるなら
 こんな楽なこともないかも知れないけれど…」

「そうね、矢を放たれて丸一日治療無しで居られているわけだから
 少なくとも最終的に矢に選ばれる可能性は割とある」

ジョーンがルナの仮定に応えるが…
とはいえ、踏み込んでみなければ判断のしようがないことが多すぎる、
そしてその決断をするにはルナはまだ、若いようだった。

ジョーンが通りへ出てつかつかとターゲットの家へ真っ直ぐ向かった。

「え、ちょっと!」

「どのみち対面しなければ先へ進めそうにないわ」

たしかに…その通りだ、ルナは己の未熟さを少し悔しく思い、
ジョーンに続く、アイリーは最後尾でモニターは続行していた。
そして玄関の前に立ち、改めてスタンドが軽くアクションをとる。
ジョーンが小声で二人に言った。

「…少しの間時間稼ぎをしてくれないかしら、この家の玄関、
 そして部屋の中まである程度防音処理をするわ、時間が掛かる
 本格的にこう言う能力を使うのは久しぶりだから勘が狂ってるかも…
 光学迷彩的に私達の姿が外から分かり難いように
 することも出来るけれど、防音までの時間が余計に掛かるわ
 といって玄関前に不審人物三人いつまでも居る訳にいかないしね」

「…分子の振動の向きを反転させることもできるのね
 光の屈折調整も…探偵っぽい事をちょっとやったことがある
 なんてレベルではないわ…まるで本物の…」

ルナは色々目の毎に渦巻く物を探りたくなったが、先ずは仕事だ。
アイリーは道路に向かって「あー、あー」と声を出してみて

「すごいや、狭い所にいるみたいな響き」

「よし…では…」

ルナがスモーキンの部屋のドアをノックする。
聴覚や意識そのものがあるなら、反応できるはずだ。
玄関の向こうから酔っ払いのような足取りの足音が聞こえ
ドアがちょっぴりだけ開いた。

「…どなた…」

具合の悪そうな男がスキマから据わった目でこちらを見てくる。
ルナは探偵免許を提示しながら

「K.U.D.O探偵社の者よ、先日のカサブランカ邸での
 盗難騒ぎに関して貴方に聞きたいことがあるわ、協力をお願い」

とりあえず話が通じることを願ってルナは正攻法でスモーキンに話しかけた。

「盗難…? 盗難だって…?」

スモーキンは言葉が聞き取れるようではあるが、多少意識が混濁しているようで
他人事かのようにぶつぶつと呟く。
その時に、彼は首筋が痛んだようで、右手を傷口に触れた…その手から見える傷の形は…

「矢を放たれたのね、矢張り貴方…!」

「矢…矢…うわぁぁあああああああああ!!」

スモーキンの半分混濁した意識が何を思ったかは判らないが、彼はそのまま部屋の奥へ
逃げ込んで行ってしまった!

ルナ・ジョーン・アイリーの順番で家に押し入る。

「来るな…! 来るな! 来るな来るな来るなァァアアーーーーーーーーッ!」

スモーキンの背後に人型だが腕の長いスタンドがわき上がる…しかし
まだコントロールしきっていない為か、像がはっきりせず、
このような状態では本来持つべき能力を超えてくるかも知れない、
能力が確定するまでに、スタンドは射程が変化したり、能力に
変質があったり(成長とはまた違う)安定しないのだ、そして何より
道理が通じるとは限らない、これが「スタンド中毒」なのだッ!

「エブリバディーズ・ガット・サムシング・トゥ・ハイド・エクスペクト・ミー・アンド・マイモンキー!!」

長ッ!
ルナとアイリーが思わずあきれ顔になる、しかしその横でジョーンが愕然とした表情になった。

スモーキンのスタンドが手にとったもの、それはジョーンの服に飾られていたアクセサリーだった。

「ああー…かなりの純度だ…大胆な女だなァ…こんなけしからん物をちゃらちゃらつけて…」

「え…そのアクセサリー純金なの?」

アイリーが思わず聞いた。
ジョーンは「ええ…」とだけ短く答えた。

「…今の攻撃…6メートルほどを一瞬だった、早いとかじゃあない…そう言う射程なんだわ…」

ルナも玄人感バリバリ漂わせるジョーンですら欺くその能力に時間差で愕然とした。
しかも、ピンで留めているアクセサリーのようなのに
「引きちぎった物ではなく、手にとりたいと思った物を手に取れる能力なのだ」と理解した。

「でー…あの…何だっけ…盗難…盗難」

混濁した意識というのがまた実に厄介だ、思った以上の危機的状況…!

「…せめて目に見える位置にあのネックレスがあってくれれば奪取して
 距離を置き今度こそウィンストン召還を要請する事も出来るのに…」

「ああーーー?」

ルナの呟きにスモーキンは激高し、再びあの長い名乗りを上げると
その手には携帯電話が二台握られていた。

「あッ! それあたしのォーーーッ!」

「あたしのも…! 見えていなくても取れるって訳!?」

「れれれれれれれ…連絡なんてさせない…あれを手にとってみたかっただけなんだ…!
 邪魔をする奴は…する奴はァァアアアーーーー!」

二台の携帯電話を握りつぶし、こちらに投げつけながら、スモーキンのスタンドが次に手にした物…!

「え…あれ…」

アイリーが愕然とした、それは脈打つ心臓であった。
スモーキンのスタンドがグニグニとそれを握ると

「う…ッ!」

ルナが胸を押さえてうずくまった、それはどう言う理屈かまだ体の中と
繋がっている生きた心臓だったのだ!

「…ア・フュー・スモール・リペアー…!」

人為的に不整脈のような状態を起こされて苦悶の表情のルナがスタンドを呼び出す
それは「フラットウッズ・モンスター(画像検索などして戴ければ)」をもっと
細くして長い髪の毛を生やしたような、仮面のような顔には目に相当する物が
右目が二段、左目は一つ、という不気味な外見であった。

「なんだなんだ…お前のそれは…見た目がコワいだけでひょろひょろして弱そうだなァ…」

絶対的優位に立った余裕なのか混濁しながらもスモーキンは挑発してきた。

「ルナ…! ルナぁああーー!」

アイリーが取り乱しかけて部屋に乱入しようとするが、ジョーンの腕が
それを阻んで決して許さなかった。

「もう…こうなっては…あたしの命運はここまでかもしれない…けれど…
 せめて貴女たちだけは…一旦退いて! ここは…あたしが…!」

「物を取る」能力を使わず、スモーキンのスタンドが心臓を握っていない
もう片手でルナのスタンドに手刀を振り下ろす!

アイリーの絶叫が響く、防御もスピードも力も並み以下(EやD評価)らしく、
制御し切れていないリミットの外れたスタンドの一撃はルナのスタンドごと
ルナの胸元から腹の辺りを引き裂く感じで裂傷を与える!
ルナは血を吐いたり骨の砕ける音がしない事や、
内臓が飛び出たりはしていないことから傷そのものはそれほどは深くないようだが
心臓を握られ、意識も飛び飛びになった状態ではただただ崩れ落ちるしかなかった。

もう、ルナに抵抗する力はないとスモーキンは判断したのだろう、
その据わった目をジョーンとアイリーに向けた。
アイリーは半狂乱を通り越し、ただただ怯えて震えていた。

スモーキンがよたつく歩を一歩ジョーン達に向けた歩いた時、
ルナ本体とそのスタンドの手がスモーキンの足を握る。

「なんだァ…? まだ抵抗するのか…?」

足下のルナを見下すような目をしてスモーキンのスタンドが
とどめを刺すかのような素振りを見せた時だった。

「…やっと…防音に続いて防振がほぼ完了だわ…」

ジョーンが一歩を踏み出す、そしてスモーキンに向けて歩き出した

ルナが叫ぶ

「何やってるの…! そんな工作は…もういいのよ! とにかく今は…
 逃げなさい……ッ!」

「遅くなってごめんなさいね、でも、これからちょっと大きな音と衝撃をだすから…」

倒す自身があるのか、それなら命と引き替えにジョーンに勝利をもたらすのも
悪くないかも知れない、ルナはスモーキンの足を掴む手に最後の力を込めた。


第二幕 閉幕

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