Sorenante JoJo? Part One : Ordinary World

Episode 2:Retake 第二幕 開幕


エジンバラに到着した。
ここからは私、ポールがお伝えしよう。

うむ、コホン、改めてエジンバラのウェバリー駅に到着した。
もう既に日は傾いて夕刻と言っていい時間だ。
ここは緑が多いのでちょっとその脇で改めてアイリーにスタンドを展開して貰う。

…ああ、到着の際ルナが危惧したような事は起こらなかった、
流石に仕事が絡んでいる時に本気で寝込むほどジョーン君は油断はしていなかった。
むしろアイリーやケントを起こす時の方が大変だったくらいだよ。

アイリーの「検索」は円周も1メートルほどになり、中の模様も
それなりに何かを彼女へ伝えているようだが、その様子を見てジョーン君が

「時間が掛かりそう?」

「んー、場所は判っているんだけど、さっきと殆ど変わっていないの
 だから出来る限りどんな状態を掴んでおきたいんだよねぇ」

「ホリールード宮殿の寺院跡はルートに置けそうかしら」

それを聞いてウィンストンが

「うん? 観光でもしてーのか?」

「資産がそこにあるの、そこの「柱の中」にね」

その言葉にルナが反射的に

「ああ…金属とかを素早く操れるのは、そういった風に構成分子の判りやすいものへの
 資産の保管とか…訓練が伴っていたって事なのね」

「ええ、石材は産地さえ判れば特にね」

なるほど…ちなみに元素「ストロンチウム」は「ストロング」からではなくて
ストロンチアンと言う地方から産出される石より発見されたからストロンチウム。
そのように、特性のある石は確かに彼女にとっては有益な情報なのだろう。

「歴史的建造物は欧州では守られる傾向にあるから、風化以外では持ちもいいのよ」

「成る程しかし、と言う事は対象の修復工事やそれこそ風化などで
 失った資産もあるのだろうね」

私も口を挟んでみた、ジョーン君はやや苦笑の面持ちで

「ええ…w それはもう仕方がない、諦めたわ」

そこへアイリーが

「うん、見えてきた、地面スレスレというか水面?
 でねジョーン、あっちの方角なんだけど(と、指をさす)
 あたしエジンバラ来た事無いんだ、ついでに寄れるかどうか」

その言葉にルナも続いて

「あたしも来た事はないのよね…地図を頭の中に叩き込んでいるわけでもないから
 正直どう動くと効率的なのか判らない」

「オレもねェーなァー」

「俺は…ガキん頃学校行事か何かで来た事があるくらいだ、正直覚えてねえ」

ジョーン君は知っているだろうが、他は全滅か…

「どのみち公共の交通手段では手に負えるかどうかだし、タクシーでは高く付きすぎる
 私がレンタカーを手配するよ、ジョーン君、細かく道案内が可能だろうか」

それに対してジョーン君は少しばかり考え込み

「開発で変わった所とかがあると…少しばかり怪しいわね、地図を買う事をお勧めするわ
 アイリーの能力をこんな事で消費させるわけにはいかない」

「いやいや、さっきちょっと寝たし、頑張れるよ〜?」

アイリーの言葉にルナが

「いいえ、ジョーンの言う通りよ、貴女はターゲットの詳細をお願い
 アイリー、貴女は我が社の要だわ」

それを聞いたジョーン君が頷く、ウィンストンも頷いた。
私は地図代をケントに渡し、お使いを頼みつつレンタカーの手配だ。

「それで…先程貴女は水面と言っていたわ、もう少し細かい状況を宜しくね」

ジョーン君の言葉にアイリーはそれまでずっとスタンドを展開していたので

「まずねぇ、カプリさんの説明してた風船は既に割れて居るみたいなの
 …とはいえ、どこかにぽとっと落ちて例えば川をどんぶらこって訳でもないし
 狭い範囲をグルグルって…」

「…渡り鳥に絡みついたのかも知れないわね」

ジョーン君の推測だが、地表より下で留まっているわけでもないとするとあり得る事だ。

「かもしれない、ルナ、もっかいメモリーカードの画像見せて」

それを聞いたルナはそのカードの仕様を見つけて

「写真を見るよりもっといい情報があるわ、厚さ1.2ミリ、差し込み口から奥行き35ミリ
 幅18ミリ…ケースはこれにプラス二ミリと考えて」

「む、成る程…そーなると…とりあえず鳥に絡まったのは間違いなさそう。
 紐に結わえられたそのケース…そして中味はまだあるね
 水に濡れちゃってるだろーけど…」

それにはジョーン君が

「大丈夫よ、任せて、鳥は一羽?」

ルナやジョーン君の追加情報や質問に応え円の中のパターンが変わるのが判る。

「ううん、複数みたい、種類は同一だから群れだろうねぇ」

とりあえずそこで我々はレンタカーを配備してくれている所へ赴き
免許など提示して手早く契約をし、スタートだ。
見た目など気にしていられない、六人でも問題なくスペースの確保が
出来るように、ワンボックスカーを手配した。
カーナビ無しで安いのを借りるつもりであったし、ナビはルナが助手席で担当
二列目にアイリーとジョーン君、三列目にウィンストンとケントと…ケージの中の猫君だ。

改めて出発後少し落ち着いてからアイリーに詳しく実況して貰うと、

「…あっ」

全員肝が冷えたに違いない、少なくとも私は冷えた。

「飛んだよっ! 北の方角!」

アイリーは検索しながら後ろを振り返るルナのもっている地図を見ながら

「北の…こっちのほう!」

と、指をさした。

「ピットロッホリーかしら、そこにも休める場所があるし…」

ジョーン君の呟きに、ルナが

「緊急事態発生ね、ジョーンの資産回収は後回しだわ」

「ええ、そうね」

我々はまずそこへ向かう事にした。





夕刻やら宵闇が辺りを覆い始め、地平線ギリギリの部分だけがオレンジに薄く沈殿している。
ピットロッホリー…エジンバラの直ぐ北の位置にある避暑地にやってきた。
…まぁ3月に成り立ての避暑地なんて寒いの一言だがね…

幸いな事にメモリーカードを絡ませた渡り鳥の群れはここでまた羽を休めたようだ。
アイリーに依ると、観光客辺りに脅かされて一斉に飛び上がったのではないかと。
そういう「あせり」があったとのことだった、うむ、アイリー、君は素晴らしい。

「その先の池にいるみたい」

とアイリーに案内されたそこは、池と言うには少しばかり大きい気がする…
まぁ水深が余りないようなものであれば定義としては間違いではないのだろうが。

円に近い形状で、群れの居る場所はこちらから20メートルほど、池の径は
ここからその鳥の群れを結ぶ向こう岸辺りまでで30メートル、
鳥たちを警戒させないよう向こう岸までゆけたとしてもどうだろうか…と思っていると

「うーし、じゃァーいっちょやってみっかァー!」

ケントが張り切りだして、

「フォー・エンクローズド・ウォールズ!」

軽く水音を立てながら、壁が水に浮いている。

「ちょっと試しに渡ってみてくんね? 軽石みたいなのって考えてみたんだ」

ケントがジョーン君に進言している。
ジョーン君は、そんなケントに満面の笑みで

「貴方も、素晴らしいわ」

ケントが照れてる、何というか、落ちこぼれだった学生が恩師に出会っていい大学に
進んだ事を報告した時、みたいな雰囲気だ。
微笑ましいが、そのくらい見た目以上に「経験の差」を感じるやりとりだ。

水を起点として、幅1メートル、長さ2メートル、それが四枚彼の射程一杯に
浮かんでいる、つまり石床と石床の間はおおよそ50cm。

ジョーン君はそこへ乗る、成る程確かに浮力は十分だ。
危なげなく彼女が二枚目まで歩を進めた時に、ウィンストンも

「よし、俺も行くか」

と、同じように…とはいかず、普通に乗るがかなり揺れる。

「お…おい、この揺れ…どーにかならんのか?」

「そこまでは調整出来ねぇーなァー、ジョーンが普通に歩いてるから
 オレも行って鳥のとこまで後ろ一枚消して前に出して…とかやろーと思ったが
 厳しそーだなァー」

「くっそ…ジョーン、矢張りお前はニンジャか」

「日本に行った事はないと言ったはずよ…まぁでも今思えば似たような事はやった事があるかも」

結構危ういバランスながらも、ウィンストンは体を動かす事に関しては
天才的な面もあるので、割と直ぐ普通に進む事までは出来るようになり、ジョーンに追いつく。

ケントが乗ろうか乗るまいか迷っていると

「大丈夫よ、ケント君…ウィンストンの風のフォローも距離10メートルなら
 問題ないと思うわ」

「しかし…こっからどーするんだよ、ジョーン」

ウィンストンの言葉に、ジョーン君が特殊な呼吸を強めに始め、

「アイリー、どの鳥か教えて」

その言葉に「おっ」と気付いたアイリーは急いでスタンドを展開し、

「え、えーと…右から三番目…そう言う言い方は良くないかな…動くかもだし…
 そうだ、羽に他の鳥たちとはちょっと違う模様があるよ、
 三番目の鳥のその特徴を目印にしてね」

ジョーンはにこっとしてそれに頷き、そして彼女は池の水面に足を置いた。

「えっ!? ちょっと、ジョーン!」

ルナが思わず声をあげた。
確かに池の定義だと水深5メートル未満ではあり、足の付く可能性もあるが
私もその時は目を見張った。

…ジョーン君は普通につま先で水面に立って、鳥の群れに向かって歩き始めた。
ケントがその様子に「ここホントは浅いんじゃね?」と池に足をつけ
「つめてぇーーーーー」と膝下辺りまで足をぬらした。
そう、ジョーン君は確かに水面に立ち、歩いていた、そしてその足下には不自然な波紋が。
何が何やらだが、ウィンストンがその様子に

「…思い出したぜ! ジョーン、お前「武道波紋」やってたろ!」

それをちょっと意外そうにジョーン君は振り向き

「「波紋」単体ならともかく「武道波紋」なんてヴェネツィア流派を良く知っていたわね」

「昔知り合いにいたんだ、といって俺がストリートをそろそろ卒業して探偵になるべく
 ポールんトコで世話になり始めた頃の知り合いだが…
 今どーなってるかよう知らんが、昔スタンド使いとか特殊能力持ちが
 寄り集まってトーナメント式の地下試合をやってた事があるんだ、
 そん中に、そいつは居たんだ、2002年だったか3年だったか…」

「あら…、下火になったとは言え、まだまだ受け継いでいる人が居るのね」

ジョーン君は何気に嬉しそうだったが

「まぁそいつもスタンド相手にはどうにも対処できなくてほぼ再起不能だけどよ
 ただ、垂直の壁に道具も使わずへばりついたり、水の上歩いたりしてたんだ」

「…そう、まぁ…波紋は人類の英知の結晶というか…先科学的科学というか
 とにかくスタンドほどの資質は要求しないけれど厳しい修行の果てに
 身につける「技術」だから…理屈抜きのスタンドには弱いかもね」

何気に嬉しそうだったジョーン君は何気に肩を落とした。

「わたしのは、どちらかというとチベットの系譜「仙道波紋」に近いわ
 医療に向いている波紋」

医療と聞けば、なるほど、ケントに対してそれっぽい事をやっていたようだし
ルナの不整脈を整えるにも一役買ったらしいし、それを聞いて
その現場それぞれにいた面々が深く納得したらしい。

「じゃあ、ジョーンはチベットで習ったのぉ?」

アイリーの質問に

「いいえ、まぁこの辺りはまた機会があったら詳しくね
 …さて…ウィンストン、鳥たちが飛び立てないように広範囲で風の防壁を作ってくれない?」

「よっし、そういうの待ってたぜ! オラいくぜ「風街ろまん」!」
「待チクタビレテ眠ッチマイソーダッタゼ!」

ジョーン君が何気に

「前も思ったけれど貴方のスタンドも意思を持っているようね」

「まぁ俺の名乗りや指示に応えるくらいだけどな、お前のスタンドほど個性的じゃあねぇわ
 さて、それよりいくぜッ! ジョーン、あんたも少し歩きにくくなるだろーが!」

そしてウィンストンはなるべく広範囲に上から下へ吹き付ける風を渡り鳥たち中心に起こす!
岸辺のこちらにもちょっとした風がやってくる。
鳥たちはよもやそれが人間の妨害とは流石に思っていないようで、嵐に耐えるが如く
丸まって耐え凌ごうとした。

そこへ近づくジョーン君、ターゲットであるその鳥を捕まえたが、向こうも必死だ
とんでもない勢いで暴れ、出来ればその場で絡まった糸を解きたかったのだろうが
苦痛の顔を見せ、しょうがなくその鳥諸共戻ってくる。

「ウィンストン、今暫く風の壁はお願いね」

そう言って岸まで戻り、

「波紋を使いながら水面を歩き風に耐えて尚且つ鳥と格闘してスタンドまで使うには
 わたしもちょっとなまっていたようだわ…悪いけれど…紐を解くか切るかしてくださる?」

鳥の足とジョーン君の手に絡まったそれはもう既に肉に食い込み鳥の足や
ジョーン君の指は折れているようで、血は出ているわ関節でない妙な部分で
不自然に曲がっているわとなかなかスプラッタだ、アイリーが引きつりかけるが、

「大丈夫よ、痛いけれど、この子も必死なのだわ、お願い」

ルナが恐る恐る、だが確実に少ない手数で全ての紐が解けるようにハサミを入れ
落ちてきたケース入りメモリーカードをケントが「ゲットだぜェー」と受け取る。

「ルナ、もう一度、この子の足とわたしの指にスタンドを…骨部分はわたしが担当するわ」

治療を分担すればその分治りも早い、特に指や鳥の足といった部分は細いので
ルナのスタンドの「浅い部分までの治療」も割合として大きい。

オーディナリーワールドの手がジョーン君の手とは独立して骨の治療を行う、
更にジョーン君はそこでまた「波紋の呼吸」を強め

「だめ押しで自然治癒力を高める…ほら、アイリー」

鳥を片手で押さえながら、指の折れていた方の手をひらひらと動かし
「もう大丈夫」を演出した。

「痛みは少し残るけれど一晩も眠れば完治も同然よ、ルナのスタンドも素晴らしいわ」

「まぁ…確かに皮膚から筋肉までは「任せて」と言えるわ、でもこれでジョーン
 貴女が居れば本当に即死以外のあらゆる状況を越えられそう」

ジョーン君はにっこりと微笑み

「とはいえ、怪我の状況如何では数日寝込まないとならないから、
 わたしのはあくまで補助的なものと思って、無茶をしないでね」

そして、また現場へ戻っていった、鳥を群れに戻して

「お疲れ様、ウィンストン。 もういいわ」

ウィンストンはそれにいちいち応えなかったが、風がいきなりぱったり止む。
件の鳥も、足に絡まった違和感もとれ、快適になった事もあったのだろう、
群れで少しだけ飛んで我々とは距離を置く隣の池でまたくつろぎだした。

ジョーン君は、それを満足そうに見ていた。
私は仕事がどうやらこれでカードの修復のみで済みそうな事に満足だが、
彼女は一羽の鳥を群れから離さずに済んだ事に満足そうである。

ちょっと象徴的な出来事だな、と私は思った。
彼女は今仲間を持ってしまったわけだから。

ここから次の節はまた天の声をあやかるとしよう。





池の岸辺での彼らの様子を遠くから見ていた者が居た。
尾行のスキルが高く、気配を消す事も得意なようで、探偵社の誰もそれに気付く事はなかった。

「数日の盗聴の甲斐あってGB社の重要案件ネタ掴んだはいいが…
 ちぇっ、奴ら零細の癖にやけに有機的に動きやがるなァ…」

そこへ岸辺へ戻ってくるジョーンを見つめ

「…あの女か…見慣れねェが…新入りか…?
 どーもあの女があの零細の今後を握ってやがるなァ…
 …ま、本来の仕事テキトーに済ませてここまで追ってきた甲斐があったぜ…
 「新入りを調べてた」って社への言い訳にもならァな」

K.U.D.Oの面々が車に乗り込み、その場を去った所で「彼」が動き出す。

「さっき傍目にも女の指と鳥の足は折れていたよなぁ…
 ルナ=リリーの能力は知っているが…」

「彼」は隣の池に進み、スタンドを展開する。
「どれがどれやらだ、まとめて調べさせて貰うぜ」

スタンド能力が発動されると、鳥の羽が堅く、縮んで行く。
鳥は当然パニックを起こすが、飛び立てない!

適当に近くにあるボートを拝借し、近づきスタンドで乱暴に捕まえ

「…これでもねぇ…こいつでもねぇ…」

全羽調べたが、どの鳥の足にも異常はなかった。

「治療が能力か? ではあの水面を歩く能力は?
 流石に会話が聞こえるほど近寄れば気付かれただろうし…そこが悔やまれるなァ」

彼が能力を解くと、鳥の羽は元に戻り、一斉に飛び立った。
彼はボートの上でタバコに火をつけ思案する。

「暫くあの女追うか…いや、細けーことはジタンに押しつけるかなァ
 とにかくありゃァ結構な戦力だぜ」

ボートを岸辺につけ、降りる。

「あーダメだ、何かムシャクシャしやがる、
 野良スタンド使い辺り探して軽く戦って気を沈めるかねェ
 登録を済ませてないやつっぽい気配がエジンバラにもう少しってところであった…そいつ探すか」

彼も流石に全てが判るわけではないが、登録済のスタンド使いの
おおよその所在地は頭の中に入っている、それに含まれない
「スタンド使いらしい気配」を感じていたのだ。
彼は、飢えていた。

吸っていた煙草を路上に投げ出すと、その煙草は堅く小さくなって行き
金属音を響かせアスファルトに落ちた。
それは確かにタバコであったのに、その形を留めたまま鉄になっていた。





この節はあたしが…ルナ=リリーがお届けするわ。

カード回収してジョーンが補修しながらでも最終辺りに乗れば
ロンドンには着けそうな時間だったのだけれど、
情けないことにあたしらにはそのお金がなかった。

ホリールード宮殿の寺院跡まで来た頃には、これを更に換金して…
レンタカーもとにかくケチっての契約だったので乗ってロンドンに帰るという
訳にもいかず、諸処の手続きや手間から、今日中にロンドンへ戻る選択肢は消えた。

何より、今回大活躍だったアイリーと、割と持続してスタンド効果を使った
ウィンストンや、やり慣れない「新たな概念」で浮く壁を作ったケントは
もう既にかなりのグロッキー状態。
ジョーンもこういった活動をするのに結構なブランクがあったらしく
少々疲れたと言っていた。

仕方がなかった、ジョーンの資産を回収し、それらを処分し
一晩エジンバラで過ごす事に決定した。
カードの修復が終り次第、あたしはカプリ氏へ連絡をつけなければならないので
あたしはもう暫く動くとして…

それにしても、今回のジョーンの資産の処分は「もうバレているなら」と言うことで
彼女がそこの古銭商にそれでもやはり「初めて訪れたかのように」換金しに行った。

あたしは古銭にも興味があるし、店内で色々見て回りながらジョーンを待つと
(他の全員は疲れたと、店内ではあるが一カ所に固まって魂が抜けかけていた)
小声ではあるが店主とジョーンのやりとりが聞こえる。

「お仲間かね」

「ええ」

「そりゃ、大変だ…疲れておるようだし知り合いの宿を紹介してやろう」

「有り難う、宜しくお願いしますわ」

「仲間は大切にせんとな」

「ええ…」

その、ジョーンの複雑そうな表情が何となく脳裏にこびりついた。
嬉しいような、不安なような、何かしら覚悟を決め込むような。
孤独だったのだ、この女は…一人で何でも出来るような能力であったが為なのか
その理由はわからないけれど。
あたしらはあたしらで正体不明のジョーンという存在に不安や疑問もあったが
それは彼女だって同じ事だった。
当たり前と言えば当たり前のことなのに。

彼女の厳しさも、優しさの裏返しだと言う事が判る、
贅沢が言っていられない時に食わず嫌いや食べ残しなどあってはならないし
そのバランスだってとらなければならない。
スタンドを、成長させなければ越えられない事態に叱咤激励をし
「失敗から学べ」とケントを奮起させた、それも優しさだ。

あたしはコインを眺めているはずなのに、ジョーンの事を考えていた。

そうしている内にジョーンの資産換金が終わったらしい、古銭を眺めているあたしに

「それ…欲しいの?」

と聞いてきた。

あたしが何気に見ていたのは、それこそジョーンが最初に持っていたのと同じ時期の
ダカット金貨やフローリン金貨、そしてジョージ三世のギニー金貨。

ちょっと不意を突かれ、あたしもびっくりしたけれど

「え、…ええ、状態が良ければ500ポンド(十万以上)はするものだし
 おいそれと手は出せないけれどね…イギリス国籍になって何年か経ったけれど
 そう言う記念でジョージ三世でなくとも…イギリスのは欲しいかな」

これは、あたしの本音だった。
するとジョーンが

「ウェールズの辺りにもまだあったはずだわ、今度機会があったら
 持ってきて、差し上げましょうか?」

「それならあなたから買うわよ…相場を調べて…
 貴女の労働の対価なのだから、あたしもその労働の対価で…
 だから、もう少しお金に余裕が出来てからかな」

ジョーンは頷き、微笑みながら全員に声を掛け、店主から紹介された宿に向かう。

着いてみれば、なかなか上宿そうな所だった。
チェックインを済ませ、男性陣はケントが就寝、ウィンストンは
パブで一杯引っかけてから寝るという。

女性従業員で割り当てた一室にとりあえずポールも来て報告など手続きを済ませる。
アイリーは既に泥のように眠っていた、当然だわね、今回の縁の下の力持ちなのだから。
パソコン上でのやりとりもあるため、その電話もあたしが担当し
中味のデータそのものが読み込める状態であることを確認してからカプリ氏に連絡をした。

当然カプリ氏は飛び上がらんばかりに喜ぶ。

「…とはいえ、こちらももういい時間だしエジンバラで一泊しなくてはならないの
 明日朝一には間に合わないから、データの暗証キーを教えて、
 そちらでグループを作成してこちらのPC一台だけを加える形にして頂戴…
 ええ、こちらからはそちらのデータを持ち出せないようにも設定は…
 ああ、そうね、流石にそこに手抜かりはないわね、そちらのグループに入ったわ。
 ではこちらのカードからデータを持って行って」

このパソコンならではのやりとりにジョーンは興味津々のようだった。

「便利だわ」

「うん? そうだね、時代だねぇ」

ジョーンの呟きにポールが応えた。
彼も余りパソコンとかには縁がなく、携帯電話も「通話とメールが出来ればOK」という人だから。

データがカプリ氏に渡り、そしてそのデータが問題なく読み込め専用ソフトとやらで
CADデータ化できたようだ、なんだか何を言っていいのか判らなくなるくらい喜んでいるようだ。
まあ、あたしらでは一生掛かってもお目に掛かるかどうかっていう金額のプロジェクトが
あわやの事態だったのだから、当然と言えば当然だ。
あたしは、カプリ氏の携帯電話がビデオ通話も出来る事を確認し、それにして貰う。
あたしのもそーして、手放しで通話できるようにし、
パソコンのカードリーダー部分にささるメモリーカードを写して

「では、確認宜しくね、…ジョーン、これをゆっくり抜き取って」

不意を突かれたジョーンがびっくりしながらもそれを引き抜く、あたしはそれを
携帯のカメラで写しながら

「データの入っていたカードは確かに今パソコンから抜き取ったわ
 はい、ジョーン、それをへし折る」

彼女はちょっとびっくりするが、成る程信用のための「現物抹消」なのだと理解をし、
ジョーンはその通り、指の力のみでそれをへし折った。
…まぁ本当はこの状態からでもジョーンの能力なら復元できるのだけど、
そんな事は向こうには判らない事情だからね。

「これで引き渡しは終了だわ、ビデオ通話オフで普通の通話に…
 そして所長に代わるわね」

ポールに電話を替わって貰い、報酬面などの調整に入る。

「ああ…折角だから報告書もパソコンで作るようにしようかな」

と、通話の邪魔に成らない範囲であたしが呟くと

「報告書もデジタルに?
 アナログ要素は残しておいた方がいいわ、紙にプリントする機械も揃えてからの方がいい」

ジョーンが言ってきた、うん、確かに全デジタルなんてデータの取り扱いも危なっかしいし
相手にその閲覧が出来る環境があるとも限らない。

「そうね、確かにそうだわ、でも、目標が色々出来るっていい事ね」

あたしが呟くとジョーンが満足そうに頷いた。
ウィンストンがちらっとこないだ言ってたけど、ジョーンは確かに
あたしらの向上心を自らの糧にして、あたしらを一段上に持ち上げる力を持つ…
スタンド能力とかそう言う意味ではなく…そう言う女なんだな、と思った。

ポールの通話が終わる。
あたしに携帯を返しながら

「大宴会を開きたい程の報酬が確約だ、しかし、少々疲れたね」

「そうだと思う、みんな良くやったと思うわ、それぞれの分野で」

ジョーンが言ったので

「貴女もね」

とあたしは返し、

「じゃあ、ポール」

あたしがノートパソコンを閉じた所で意思は伝わった。

「じゃあ、とにかく今日はお疲れ様、ゆっくり休んで呉れ給え」

あたしらも口々に労をねぎらってポールが出て行き、そして眠りについた。
次の節もまた天の声に頼むとするかしらね。




ジョーンは眠りの中にいた。
酷く悪い夢を見ていた…いや、それは「記憶」だった。

自分は12歳の小娘であり、霧の中を逃げ惑うのだ。
その前に色々あったのだが、彼女にはそれを考えて整理するような余裕はない。
今でもない。

ただ夜の闇と深い霧、そして自分の名を呼ぶ狂気に取り憑かれた老人の声
そして何があったのだか、彼女は故郷を捨て逃げねばならなかった。

とにかく逃げろと、そう言われたのだ

誰に?

判らないが追ってくる「それ」は幼い彼女にとってただただ恐怖であった。

逃げなければ
逃げなければ…食われる…


そんな時、意識の遠くから彼女を呼ぶ声がする
「ジョーン」と

そんなはずはない、その名は「今の名」なのだ…あの頃自分は…
そんな彼女に意識が戻ってくる。





おはよー、アイリーだよ。
で…ジョーンがなんだかもの凄くうなされていて、いつもの静かな呼吸も乱れてるんだ。
凄く苦しそうなんだけど、病気とかじゃないってあたしのスタンドは言ってる

「詰まり、彼女は「悪夢にうなされている」って訳よ、ジョーン、しっかりなさい
 朝よ! ジョーン!」

普段通り寝ているならルナが起こすことはなかったんだろうけど、昨日のことがあるから。
ただ、ジョーンの「何かがおかしい」と思ったらルナはいてもたっても居られなかった。

ルナってホントは凄く優しいんだよね、そのスタンド能力からしてもそうだけど。

そしてジョーンはそれこそ「がばぁっ!!」と凄い勢いで起きた。
荒い呼吸が静まり始めると共に、ものすごい汗を滲ませた。

「おはよ、ジョーン、大丈夫? 凄くうなされてたから、ルナ心配しちゃって」

それを言うとルナは顔を真っ赤にして

「貴女でしょ!? 貴女がなんかおかしいって言うから…!」

悪夢から覚めたジョーンだけど、あたしとルナのやりとりを見て
ちょっと弱々しいけれど微笑んだ。

「…大丈夫よ…滅多に見なくなってたのに…たまに見てしまうわね…」

「波紋で夢はコントロール出来ないのぉ?」

「…その夢に関してはできないわ…」

「どんな夢を見たのぉ?」

ジョーンはどう言おうかちょっぴり考えて

「…追われる夢よ…月明かりも満足にささない深い霧の中で…」

「あーそういうのって怖いよねぇ〜あたしもさぁ〜」

とかかつて見た怖い夢の話なんかをすると、徐々にジョーンもいつもの笑顔になる。
ただ、ルナは何か思う所があったんだろうね、眉間にしわを寄せて
表面上の症状というか…心の見える所じゃなくてもっと奥を心配するような
表情になったのをあたしは見逃さなかった。
うん、ルナは優しいんだよ。

「とにかく…ジョーン、凄い汗だわ、シャワーで流していらっしゃい…服は…」

「ええ、有り難う…服は新品同様に戻せるし慣れてるから放置していていいわ」

そう、ジョーンって一張羅なんだけどいつでも新品みたいな感じなんだよね
これも、スタンド効果だったわけだ。

ま、ちょっとすったもんだあったけれど、
午前中はみんなでエジンバラをゆっくり観光した。
ジョーンはいつも通りに優しく、そして史跡なんかを案内してくれた。

あたしこれで面白いと思ったのはルナが何かジョージ三世…何年前のひとだっけ
えへへ…分かんないけどその人の時代でこの建物で誰がどうこう…
なんて歴史の事言い出すと、ジョーンがちょっとそれの裏情報っぽいことを教えてくれる。

ルナによると18世紀の前半と後半でエジンバラって随分変わったみたいなんだけど
ジョーンがそこに「実はそれにはこういう事情があって」という感じ。

学校でちゃんと習ったポールなんかは「ほぉ」と感心しているし
あたしやウィンストンやケントは何だかよく判らないけど「へぇ〜」という感じw

何かちょっとお得な気分でさらっとエジンバラでお昼まで済ませて
さぁ帰ろ〜、という時だった。

ロンドンまで四時間半の旅だしちょっとくつろげる席だったらいいね〜
なんて話してたら、タラップじゃなくて直接電車の壁を透過して乗り込んできたひとが居た!
身に纏うスーツタイプのスタンド…間違いない!

「あ…」

目が合った。
そのひとも「ヤバい」と思ったんだろう、逃げようとする素振りを見せた

「フォー・エンクローズド・ウォールズ!」

ケントが壁を出すんだけど

「それではいけない! 透過されるわッ!」

ジョーンが叫ぶ、案の定、その人は壁を透過する。
うん、ケントの壁は一般の人にも見える実体化スタンドだからね。

「アイリー! 光の線を「糸・縄」だと思って! 彼に巻き付けて!」

え…? え!?
あたしそんな事やったこと…!
と思ったけどみんなの視線が刺さる、とにかくジョーンの言うとおり
頭の中でそう言うイメージをしてやってみた!

「貴女のスタンドは貴女の意思で動くもの! そのまま巻き付けるイメージを!」

ええとええと…混乱しそーなんだけど…
でもなんとか彼の足にあたしのベイビー・イッツ・ユーが絡んで彼は転けちゃった。
何だか判らないけど、ごめんねぇ〜

「ウィンストン、ポール、彼を押さえて、床を透過して逃げないようにもね」

ジョーンの指摘は何から何まで対処が完璧だった。

「線とはいえ、見えるからには太さを持ったスタンドよ、
 物質透過のスタンドというなら、スタンドの糸である貴女なら絡め取れる
 最大射程が13メートルほどのようだから、捕まえる分も入れて12メートル強
 今後、貴女の成長によって頑丈さも、射程も増えるかもね」

ジョーンがあたしに優しく言うと、ケントが

「すっげぇじゃん、オメー特技増えたなァー」

「あ…いやぁ…無我夢中で何が何だか…」

あたしがおろおろしているとジョーンが「その人」に近寄りながら

「今の感じ、思い出せるようにしておいてね」

それにルナも同行しつつ

「ええ、これも経験だわ、アイリー」

「う…うん」

そしてルナが抑え込まれている「その人に」目線を合わせ片膝つきつつ

「…何故いきなり逃げたの」

「…「敵かも」…そー思っただけだよ…」

まだ若そうな…とはいえ学生でもなさそうな二十歳くらい?
の男の人だった、ポールがそんな彼に

「スタンドで無賃乗車とは余り褒められた物ではないね」

「無賃乗車じゃあねー! 俺の切符はちゃんと荷物の中にあるッ!
 そこの…リュックが俺の荷物だ! 調べろよ!」

それを聞いて…ううん、聞く前にジョーンは既に調べ始めていた。

「IDがあるわ、偽造ではない…スウィング=スティングレイ二十歳
 …でもスタンド登録をしていないようね」

「めんでぃーからやってねぇだけだよ!
 頼むよ、俺をこの席で縮こませていてくれ!
 ヤベーモン見ちまったんだからよ!」

ふむふむ、面倒は避けるタイプの人か。

「どう言う事?」

ルナが鋭い声で質問をした。

「何かあったというのかね、順を追って説明して呉れ給え」

ポールが理性的に語りかけたので、スティングレイ君もそれこそ
「話さないともっと面倒なことになりそうだ」と思ったんだろうね、話し出した。

「一時間半ほど前だ、この列車予約してたんだが…ヒマでさ
 もう乗り込んじまったけど発車時間少し前まで散歩でもしよーかなって
 外出たのさ、不用心かも知れないが盗まれた所で俺の能力なら取り返すことも
 簡単だからさ、リュックそのままで」

「線路沿いを歩いてたらよぉ、一キロちょっと進んだトコだったか
 スタンド使い同士が線路を挟んで対峙してたんだよ
 一人はその辺のおっさんって感じだし、漂う迫力みたいなモンも
 そこそこで…もう一人がとにかく「こいつはヤバい」って風で…
 後ろ姿で良くは判らなかったが本体のガタイもいいし、スタンドも強そーだったんだ
 あ、水貰っていいか、もう逃げねェよ探偵バッジつけてるってこた
 探偵だろ、敵じゃねェなら逃げねェからよ…」

ジョーンがスティングレイ君に水筒を渡すと彼はそれをごくごく飲んで

「俺もスタンド使い歴はそんな長くはねェが、対峙すりゃ
 戦うこともままあったし、でもよ、普通悪くても病院送り程度だろ?」

その言葉にルナが

「殺されたって事? この先で?」

「結末まで見てねぇよ…「逃げなくちゃヤバい」それしか頭ンなかった
 ただ…腹か何か貫かれたおっさんの体が…なんて言うンかな…
 小さく金属っぽい物になっていって…
 それがあのガタイのいい方の能力か…!
 と思って…そしたらおっさんが最後の最後に何かしよーとしたらしいんだ
 ガタイのいい方もけっこー焦った所で、俺もヤバいと思って
 逃げてここまでたどり着いたら…あんたらに出くわしたんだ」

「なんか凄そう」

あたしが思わず言うとウィンストンが

「ガタイのいい方ってのは手慣れてるな…能力もようワカランが
 そんな奴が焦り出すよーな反撃を噛ます所だった…
 ジョーン、質問だ、
 人間がよォ、鉄みたいな物にされていったとして生命活動は可能か?」

「「そう言う効果のスタンドだ」とでも言うのでない限り有り得ないわ
 死の間際に発動させ、退かざるを得ない持続力を持った反撃と言う事ね」

「そんな事あり得るのか、死が引き金になるような能力というのが」

「うーん…この場合は現地で実際に確かめなければ成らないけれど…
 六年前よ、イタリアで「死んでから発動したスタンド効果」の例があるわ
 「ノトーリアスB.I.G」永遠に動く物を追い回し食らい尽すスタンド…」

「なんだそれ、そんなモンがこの世に存在してたらヤベーんじゃねェーの?」

ケントが思わず言った、うん、あたしも言いたかった!

「ノトーリアスB.I.Gの場合は、防御力がないに等しいと言う特徴があって
 何か動いている物で誘導して少しずつ削って行けば退治可能だったけれど
 そこまでの余裕が無くて今は地中海を彷徨っているって…
 ただ、波や風、通り過ぎる物の摩擦で削れていったりもしているようだから
 たまたま出会ったりしない限り、平気そう」

「大丈夫なのそれ、どこ情報?」

ルナが思わず噛みつくように聞くと

「五年ほど前にイタリアに行ったのよ…用事があってね
 そのときナポリで話しかけてきた人がスタンド使いでね
 ミスタって若者とその仲間がシチリアまで飛ぶ時に
 遭遇したんですって、まぁ何の縁か話を聞けたの」

それを聞くとウィンストンが

「グイード=ミスタかな…イタリアのギャングにそんな名なのがいた」

「ウィンストン、裏情報詳しいねぇ」

あたしが言うと

「名前だけだぜ、そんなスタンド使いが居るらしい、くらいのよ。
 だってオメーイタリアのパッショーネっつったら
 迂闊に触れたり嗅ぎ回ったりするだけで命が危ないって話だ」

「詰まりジョーンはそう言う人達と知り合って話を聞けたわけだ」

ルナが突っ込む。

「理由があって、わたしの用事がたまたまその組織に関わる事で
 その組織にとってもそれなりに意味のあったことだったからね
 でも、知り合ってみれば気持ちの良い若者達だったわ」

「話しづらい?」

ルナが凄く聞きたいって顔しながらジョーンを横目で見て言うと

「少なくとも、今それを話す余裕はないと思うけれど
 そして、これは流石に他言無用と言われていることも含まれているから
 意味も無く信用を破るわけには行かないわ、ノトーリアスB.I.Gについては
 「死んでから発動する効果」について前例があったから説明に使っただけ」

ルナは聞きたいなぁと思いつつ、でも確かにそんな場合じゃあないと思ったのが見て取れるね

「止めなくてはならないわ、そのスタンドを」

ルナが切り出すとケントが

「どーやって止めンのよォ?」

「行ってみなくては何も判断が出来ないわね」

「どのみち進行方向なんだろ?
 このまま発車して大事故起こす前に何か手は打った方がいいと思うぜ」

「アイリーとポールはここに居て、
 あたしとジョーンとウィンストンとケント…この四人居れば
 現場での対処はほぼ完璧よね、アイリーは電話さえ通じれば幾らでも
 指示は仰げるからね、そしてポール、もし発射時刻に間に合わないとしても
 引き延ばすための弁論を宜しく」

「うむ、任せて呉れ給え」

「大丈夫なの、四人で」

あたしがちょっと不安になって呟くと、ジョーンがあの優しい笑顔で

「前方で何かがあったけど何がどうなっているか判らないでは
 ウィンストンも言ったけれど大惨事になる恐れがあるわ、大丈夫よ
 ルナの言うとおり、四人居れば「現場」での対応は出来る」

「よし、まずちょいとだけ運行を遅らせてやるか」

と、ウィンストンが先頭車両近くまで行って窓から体を半分出してスタンドを呼び出し
「風をあつめて」っていう技を使う、線路脇の木を何本かなぎ倒して線路に覆い被せた。

先頭車両の窓から線路に降りたウィンストンが顔出してたあたし達…というか
ルナ、ジョーン、ケントに向かって「いこーぜ」って感じのジェスチャーしてる。

「…無茶をするわね、あの男も」

ルナが怪訝な顔をしながら降りていった。
既に駅員さんや作業員さんが進行方向でいきなり倒れて線路に覆い被さった木を
どかすのに四苦八苦を始めていた。

あ、ちなみに猫ちゃんはちゃんと居るよ、居るんだけど出番はないんだよね。


第二幕 閉幕

戻る  第一幕へ  第三幕へ進む