L'hallucination 〜アルシナシオン〜

CASE:TWO

第四幕


…実はもう余り語るべき事も無いのだが、
その後、なる程科学教師「御徒 央夫」の財産は何故かほぼ根こそぎ消えていて
そして行方不明児童と思われる防犯カメラや銀行での目撃情報も出てきた。
弥生はその展開全てがしゃくに障ったが、ただこれで
無策に飛び込んではいけない何かが始まった事も確信した。

面倒なことになりそうだな、と思いつつ、さてこれをどう渡り歩いて
事件を曝こうか…とも思っていた。

百合原瑠奈が用意した偽のオカルト論文は本物と差し替えられ、
本物は弥生立ち会いの下、シュレッダーに掛けられた上、焼却された。

そんな金曜日を過ぎ…

土曜日、休日出勤していてやっと「カズ君事件」の後片付けの法的処理終わったかどで
本郷は弥生を中央警察署屋上に呼び出していた、今度は葵も一緒に。

「ガッコの事件の方はアイツによると「事故」として処理せざるを得ない現状
 って事のようだな、ちょっとしゃくに障りますってプリプリして
 消防とか学校とかに昨日連絡してたわ」

お、なんだ結構似たツボ持ってるンじゃんと弥生がちょっとほくそ笑むと、本郷が

「…癪にゃぁー障るが…まだアイツにあんまり深いところ潜らせるなよ…
 今回はまぁ、お前がやるべき類推をアッチの同業者とやらが全部一気に
 曝いちまったから全部アイツも知ったことだけどさ」

「面白いんだよ、百合原さんって言うんだって、担当した人
 ボクの通ってる学校じゃんって感じw」

葵がまた屈託無く受けてた、なんか彼女のツボにはまっているらしい。
弥生は葵を撫でながら

「今回はその「百合原瑠奈」ってオンナに文句言ってやってよ、
 私はそれなりに段階は踏むつもりだったんだからさ」

はーっとタバコの煙を上向きに吐きながら本郷が

「そーしてやりてぇが、そんな「余計な一言」のために回線割けないって言われるオチだぜ」

「言ったのね」

「ああ、断られた」

「結構部下思いじゃん」

「当然だろ、キャリアから現場で揉まれたいとか奇特なお嬢ちゃんだな、と来て
 まぁお前に会わせたら逃げ出すかなくらいで思ってたんだが
 案外芯が強くで意地っ張りで根性だけはあって…育てたくなるじゃねぇの」

「じゃあ、私に文句言わないでよ」

「言いたくなる事くらいあるだろっていうか、釘刺しとこうと思ってよ」

本郷は…少し考えて

「アイツ、好みか? 抱きたいか?」

「あっ、それおっとい(一昨日)ボクも聞いたぁ♪」

「そうか、聞いたか、じゃあ、いいや、野暮なこと聞いた」

「えっ、ボクいけない事弥生さんに聞いちゃったかな?」

「ちげぇよ、同じ事二度言わせるなって奴だ、俺はその答えがなんであろうと
 別に「ああ、そうか」って思うだけだ、関心がないって意味じゃねェが
 どっちに転んでもどーでもいいことさ
 ただ一つ」

「何よ?」

「上手く付き合っていって欲しいなァ、と思ってね」

「それは、お互いが善処し合う事だわ、私だけの問題じゃない」

「…と言わせるほどにはアイツも距離詰めてきたって事か…判った
 アイツにも釘は刺しとくわ、墜ちると落ちる、飛ぶと跳ぶは違うってな」

葵は本郷の考察力に感心して

「ほんごーさんダテに三十三歳じゃなーい」

「すげぇだろ…って年は関係ねぇだろが…
 ま、十条弥生と日向葵のコンビ担当なんだって事をさ、
 前向きに受け取って進もうとしてるのは見て取れるんだよな、
 アイツがオンナでそれなりにべっぴんさんでお前が好き者のレズビアンじゃなかったら
 もうちょっと話は単純だったんだろーが」

「そんな事私に言われてもねぇ」

「だよなぁ、お上に言うべきか運命を呪うべきところだよなぁ、
 いかんいかん、愚痴っぽくなってイカン、
 すっげぇモヤモヤするカズ君事件の後処理のせいで落ち込みムード満点だわ」

「…彼女まだ目が覚めないんですって?」

「…ああ、親の財産やら、あの地域壊滅で浮いて…まぁ国庫にナイナイされる
 財産やらで一応結構な年月ケアは出来るんだが…
 なぁ、そういうの、お前どーにかできねーの?」

「やっても良いけど、賭けよ、帰って来たくないってもの
 無理矢理引っ張ってきたってロクな事にならないわ、ヘタしたら一生廃人よ」

「…じゃぁーしばらく様子見だな、それならそれでいいさ、一応予算は回してある」

「何であんな事になっちゃったんだろーねぇ」

二人のやりとりに葵がぽつりとキモチを挟んだ

「別々の純粋さが出会うと、時々どうしようもなく混沌になるのよ。
 赤・青・黄色の絵の具テキトーに混ぜたって綺麗な色にはならない
 人の心はそのくらい、本当は枠にははめられないものなのよ
 不用意に相手の深いところに入り込むと、キッタネェ色にしかならないの」

カズ父の思い、カズ母の思い、カズ本人の思い、召喚された悪魔の思い

「フんッw お前が「キッタネェ」とからしくねぇセリフ言っちまうほどに
 混ぜるな危険の集まりだったってこったな」

二人の言葉に葵が

「しばらくあの辺り寄りたくないな」

「そうね…救われたい「逝けない」霊で溢れてるわね、
 他の地域からも吸い寄せられる」

「…マジかよ…オレ事後処理で何度か足運んだぜ」

「大丈夫、アンタは「連れてこない」体質してる」

「おう、そりゃ良かった、安心だぜ…で、お前らはそう言うの供養してやんねえの?」

「そのうちに自然に昇華するのよ、大部分はね、余計な手出しなのよ、ある意味。
 死に方に納得はできなくても、どうしようもないと諦めて次に向かう瞬間は来るモノ」

「…なるほど、どうしても納得出来ねぇって暴れるヤツがお前らに「祓われるべき」悪霊
 って訳だな、なるほどなるほど」

「昔それ説明しなかった?」

「覚えてねーなぁ、また何年後かに聞くかも知れねェが宜しくな」

しょうがない人だな、と弥生も葵も苦笑した。
でもこの男のこのテキトーさが事の深刻さを大分軽くしてくれて居る事は二人には判っていた

葵が

「そういや、富士さんは? 今日はお休み?」

「ああ、とーぶん俺と同じシフトだからな…何でも関東に住んでる親戚…従姉妹ったかな
 …が、遊びに来てるとか、明日まで」

「へぇ、富士さんの従姉妹さんかぁ、ドンな人なんだろうねぇ、
 派手じゃないけどやっぱり結構出るとこ出てる美人さんなのかなぁ」

「…なんだよ、お前弥生オンリーでぞっこんかと思ってたけど、お前もつまみ食い体質かよ」

「富士さんは、特別かなぁ、可愛い人だなって思う」

本郷は思わぬ伏兵登場って感じに弥生を見た、弥生はそれに対して

「違う違う、アッチの意味はそんなに含んでない、純粋に仲いいのよ」

「ちょっとは含んでるのかよ」

本郷のツッコミに

「成り行きには任せるつもり」

葵がそのぷっくりした赤い頬を大きな笑顔で更に膨らませて言った。
本郷はちょっと窘めるように弥生を見た

「葵クンの自由でしょ」

「全くお前らと来たらよぉ…」

「弥生さんが富士さんとの関係を大切にしようって思ってるから
 ボクもそれに乗っかって大切にしようと思っていまぁす」

「おう、台無しにはしてくれるなよ…、あ、昨日の朝の一言目はそう言うことか」

弥生がそれに

「彼女何か言ってたの?」

「「いやぁ、立て直せて良かったです」って言ってたんだよ、事件のことかと思ったが
 事件はモヤモヤ解決なんだから、そうだ、あの言葉の前段は
 「グラッと来ちゃいました」だったはずだ、ヒヤヒヤさせやがるぜ…」

「ちょっと距離は考えないとかもね」

「だが…お前らとアイツはなかなかイイコンビネーションを発揮しそうなんだよな
 俺も火消しに専念できるしよ…まぁ各自適切に頼むわ、アイツにも言っとく。
 「善処します」はナシな」

「判ってるわ…」

弥生は不穏と安堵が一気にやってきた最近の展開を思い返し苦笑した。


第四幕 閉


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