L'hallucination ~アルシナシオン~

CASE:TwentyFour

第四幕


「…人間がその資質と死を賭した技術の磨き上げでここまで来られるモノなんだな…」

閲覧一番口を開いた真美が呟いた。
真美もかなりの使い手だろうというのは判るが、そんな彼女でも何か物凄く
思い知ったモノがあるらしく、フッと

「無用な手出しは要らなかったのかも知れない」

彼女の呟きは無意識だった。
えっ、と言ったのは周りの裕子や高校生組で

「待ってください、今のお言葉…」

「…ん? 私は今なんて言ったのかな」

「貴女が現れたあの日、空が魔界と通じる裂け目と共に悪魔が「人に取り憑く事を前提に」
 沢山降り立ってきたのです、それに対し対処を始めたわたくし達の側で
 もう一つの裂け目が現れ、最初の裂け目からの悪魔を止めるかのように動いたのです
 貴女は今仰いました、無用な手出しは要らなかったのかも、と」

真美は記憶を手繰るのだが上手くない、眉間にしわを寄せ考え込むが

「…判らないな…そんな事を呟いたのか…と言う事は私は…」

「はい、少なくとも攻め込む方では無く「それを止めようとした」勢力の一人
 だった可能性があります」

真美は思い出す事を諦め、机を見回し煙草に目を付け

「これ、貰っていいかな」

「ええ…どうぞ? わたくしや葵クンは叔母様で慣れていますので…あ…」

「あ、ウチも平気だよ、ウチの母親売りはやってないけど夜の女だよ?w」

優が言うと、周りの高校生組も

「ウチもとーちゃんがベランダとかで吸ってる、臭いは知っているし
 別に俺は構わないけど」

中里君が言うと

「地味にさ、結構吸ってる人居るよね」

里穂も言う、里穂は両親とも吸うそうで空気清浄機様々だと言った。
南澄がちょっと苦手そうだったが

「でも…弥生さんのそれだけは、慣れました」

「ごめんねぇ、弥生さん物事の区切りには必ず吸いたくなる人だから」

葵が謝ると困り笑いながらも

「ウン、だから「何か儀式の一つ」みたいな感じで、慣れちゃったw」

咳き込む事も無く初めてだろうに、少なくとも記憶には無いだろうに
結構味わって真美は弥生御用達の煙草を吸い、引き出しなどをチェックしながら

「…勿体ないな、溜め込んであった分、貰うよ、いいかい?」

「どうぞ、わたくしは法律上まだ吸ってはいけない年齢なので吸わないだけですので」

葵は驚いて

「おねーさん煙草吸うつもりなの?」

裕子はニコッと微笑んで

「あやかれるモノは何でもあやかりたいのですw」

「そこ法律守るって若い頃の弥生さんみたいな拘りだなぁ」

「うふふw やっぱり、叔母様の事ですからそういう「縛り」入れていたのですね」

「ボクは吸うつもりないけど、まぁボクは構わないよ?」

「有り難う御座いますw」

真美が一服目を終えた頃には裕子は用意良く弥生向けのエスプレッソを真美に差し出し、
調味料なども各種取りそろえ「どうぞ」と真美に差し出す。

「用意いいな…君は本当に良く気の利く人だ」

実際に口に含んでみて味を調整する真美。
勿論裕子はそれを見逃さなかった。

「…とりあえず、奈良組の祓いを含め、今この札幌の祓いの状況は掴んだ。
 どう言う相手と戦っているのかも…貢献出来ると思う、祓いその物には
 貢献出来ないけど「戦いの場」にならいつでも呼んで欲しい」

「お願いしますわ」

「うん、真美さん強そう」

「あとは…これは私の剣の使い方には貢献しないだろうけど、
 祓いの歴史の一端を知りたいな…、歴代の話を聞きたい」

裕子はそこで葵を促しながら

「それには丸一日以上…週末潰れてしまう可能性がありますので、
 先ずは皆さん、ウチで食べて行きます?」

言われると、腹も減った、昼を過ぎていたし夕飯には早いが家に帰ったとして
最近目覚めた祓いの影響なのだろう、きっと夕飯もキッチリ食べられる。
里穂達五人は恐縮しつつ御相伴にあずかる事にした。



あっという間に週末は過ぎ、また忙しい週明けからの学生生活を送る裕子と葵。
普段遅く帰るのは裕子の方なのだが、この日は午後から休講になり、
竹之丸からの宿題を貰いつつ家に帰る事にした。
「帰るコール」をしてから家について未だ休業状態である事務所側に籠もっている
真美に挨拶をしようとドアを開けた時である。
暗いままのカーテンを閉じきった部屋でPCとスタンドの明かり一つで
煙草を吸いながら黙々と弥生の活動記録や「仕事」についてを調べつつ
時には蔵書を読みあさり、もうまるで弥生の仕事机が「真美の巣」状態。

流石の裕子も圧倒され、一瞬空気を飲んだ、確かに病室の時もそうだったが
あの時のような散漫さは無い、かなり真剣になっているのが判る。

空気清浄機を動かしつつ、裕子が

「そんなに根を詰めなくとも…珈琲はご自分でやっておられるようですから、
 お昼温め直すついでに何か作りますね」

「…美学を持ち貫くという事は、時に愚か、しかしやり遂げれば美しいモノだね」

土日にかけて朗読を稜威雌を側に聴いて、そして弥生の活動記録などを警察の方からも
回して貰って閲覧し、判らない語句や表現などはPCで調べたりしていた。
特に事件場所が何処で始まり何処で終わらせたのか、などを3Dマップで確認したり
かなり「弥生の動き方」を研究していた。

「貴女には貴女の道があります、叔母様のはあくまで一例として
 真美さんは真美さんのやり方を…言われなくても持つでしょうけれど、そうですね…
 時に何か拘りを持って、貫くのもいいのかも知れませんね」

集中するが余り大半ただ灰になってしまった煙草を吸いきり、真美はそれを消しながら

「もう一つ如何しても知りたい事がある」

「なんでしょう、資料が必要であれば…」

と言った頃真美が立ち上がり、裕子の胸の上に指を立て

「君を知りたい、剣技などは私は何も引き継がなかったが一つだけ継いだモノがある
 君が欲しい」

こんな昼間に…と思いつつ、事務所は暗い、しかもソファはベッドにもなる仕様。
一気に高まる裕子の鼓動。

「お礼という意味でなら、宜しいのですよ」

「違う、君という人が側に居てくれると、私が何かを得られる気がする」

真美は裕子をソファに寝かせあっという間に脱がせ自分も脱ぎながら。

「こう言う事は全身で触れあう事が大事だと、それだけは受け継いだ」

もうその後は、数時間たっぷりと存分に真美は裕子を知り、裕子はただ身を委ねた。



葵が優と戻ってくると状況を把握した。
もう裕子は夢見心地で果てかけていた、優は顔を赤くしつつ

「そういや私、こう言うところも継げなかったんだよねw」

「うーん、お姉さん、これは今日いっぱい動けそうに無いねぇw
 ボクが夕飯作るよ、買い出しはおねーさんがしてくれてたから少し待ってね」

圧力鍋などを使った短時間料理で昼ご飯兼夕飯を作っている時にそれは来た。
事務所に電話が来て葵がすっ飛んできて電話を取る

『ん、よぉ葵か、来たぞ。』

「どこ?」

『桑園だ、練習中の馬や騎手に憑きやがったらしい』

「裂け目は感じなかったなあ」

『その辺は判らねぇな、実況見分かねないと』

「あ、それ私行っていいですか」

優が会話に割り込む

『おいおい…いや、確かにお前も中級に上がってそれなり力を増したと聞く
 この際お前にも公職適用時証明書発行するか、学生証スキャンしてこっちに寄越してくれ』

「判りました!」

優の作業の間烏の行水でシャワーを浴びた真美が服を着ながら

「私も行きたい」

「えっ」

『おいおい、裕子や山手の先生の伝手があるから資料は渡したが…』

「じゃあ、いつになる、基本受け身というのでは私も自分が何処まで戦えるのか判らない、
 ある意味私「も」死中に活を求めないと自分が判らないままさ」

『…判った、葵、今回は木下の後見人の立場でな』

「え、う…うん、判った」

そこへ優がメールの送信を終え

「警部さん、特備宛に送りましたよ」

『おし、現場は目と鼻の先と言えるだろ、よろしく頼むぜ』

「判った、急行するね」

真美は未だ余韻を引く裕子に軽くキスをして

「じゃあ、行ってくる」

「はい…行ってらっしゃいませ…」

軽くシーツを掛けただけのあられも無い姿の裕子を残し、全員ベランダに立つ。

「あ、そう言えば真美さん」

葵が何気なく聞く

「うん? いや、だって飛ぶんだろ? コツは忘れたが飛べる気がする」

「だ…大丈夫かなぁ…」

「いざとなったら助けてお呉れ」

と言って真美がベランダから飛び出す、迷いも無く。
少し自由落下したが、なるほど、飛べるらしくしばらくして風を捕まえた。
優が詞を唱えながら

「益々何者なんだろう、でも、心強い」

「う…うん」

二人もベランダを飛び出した。



速度はそれほど差もなく桑園の競馬場内を見ると…なるほど…
恐らく競馬そのものでは無く何か催しか何か…とにかくレースの次の日に
厩舎から連れ出し歩き回ったり軽く運動させたりしていたようだが…

「見覚えがあるような無いような…しかしかなりグチャグチャだな…」

「馬関係は聖獣・神獣・妖獣・人関係は…色々だね、日本由来の物も多いかな…
 騎乗しているのは堕天使エリゴールとベリス…
 あとひときわ異彩を放っているのが…ペイルライダー…!
 ボク一回戦った、かなりキツい相手だよ!」

流石にもう何年も悪魔図鑑に目を通している葵は直ぐさまそれらを特定して行く。
そんな時、特備の二人が場内に入ろうとした時だった、真美が叫ぶ

「二人とも! 場内には入るんじゃないッ!」

「えっ! どういう事です…!」

「罠だ…罠があちこちにある…くそ…今の私には何処にどんな罠があるかも判らない
 だが仕掛けられている!
 彼らはそれを踏んで小規模な魔法陣から乗っ取られたんだ!」

真美の言葉に、葵が全神経を集中する、優も詞で「何か違ったところ」を探す

「…確かに真美さんの言うとおりにあちこちに地雷のようにあるよ!
 確かに危ないよ、二人とも先ずは入らないで!」

「葵に優、君たちなら陣を破壊する事が出来るはずだ、先ずはそれを頼む!
 もし特備の人に目を分けられるなら渡してやって罠の解除を先にしてくれ!」

優が率先して特備の人へ詞を掛けて行く

「おい、何だよこれ、えげつねぇな」

「弥生さんに使った罠…待ち伏せタイプ…これなら大きな裂け目を作る事も無い…
 相手もかなり学習してきてますね…」

「弥生がこの件に関しては応援要請しなかった理由はこれか…!」

敵をよけながら、先ずは地雷原のような陣を破壊して回った。
その中でペイルライダーが周りの仲間とも言える悪魔達を食い吸収している。
真美はその前に降り立った。
葵は敵の攻撃をよけながらも陣を破壊しつつ、真美に叫んだ。

「真美さん! それだって元は…!」

「コイツはもう無理さ、周りの悪魔化した者を食いって吸収してもう完全な悪魔だ」

本郷が苦渋の表情で

「こないだからあいつらも無理に強いのを一気に出すので無く弱いところから
 強いのを作り上げる「探知しにくい」方向に舵を切ったか…!」

あやめも少しずつ歩き回れる範囲を広げながら

「敵も学習してますね…当然と言えば当然ですが…」

粗方罠を解除した頃、志茂がやって来た。

「弥生さんから至急様子を記録してくれと…!」

「あ、ユキ! まず、今から破壊するけどこの陣を撮って!
 後で玄蒼市の方に解析を頼むから!」

「オーケイ…カメラ越しだと良く判る…、いいよ!」

あやめが容赦なく陣を銃で破壊し、幾つかそれを繰り返すともうほぼ競馬場全体が
フィールドとして使えるようになっていた!

「ペイルライダーか…おねーさん居ないのキツいな…」

「あ、そうだ、マハムドオンとやらをやって来るんだっけか、やべーな」

真美はちゃっかり持ってきていた煙草に火を付けつつ

「ペイルライダーとはなるべくサシでやろう、ただ、時々銃で牽制頼む
 裕子印の祓いが乗っているんだろう?」

「判ったが…」

と本郷が言うやいなや真美は物凄いスピードでペイルライダーに突撃技をくわらせ、
追い打ちで更に追い打ちを両手の剣で叩き付けている。
矢張り日本刀とは違う、「叩き斬る」という感じだ。
まだ戦いは始まったばかりで真美の実力の程は判らないが、ダメージを与えている。
優が葵へ

「取り敢えずこれ以上ペイルライダーに強くなられても困る、葵、
 周りの悪魔達、浄化しまくろう!」

「うん、判った!」

死線をくぐり限界まで戦って入院した後の優は確かに一段上がっていた。
太刀を鞘に収めたまま、ある程度のダメージに祓いを乗せ、確実に悪魔だけを祓う。
葵も心強くなって祓いの掌底で取り憑いた悪魔だけを押し出し祓って行く。

「木下も中々やるが…矢張り援護も必要だな、あー、講習の成果を発揮する時が
 来ちまったか、ヤレヤレだ」

「全くですね…使わずに済めばそれに越した事は無かったのに」

本郷とあやめが観客席というかなり間合いの遠いところから何かしら小型の機械を
装着した上でペイルライダーに向かって拳銃では有り得ない射程に威力で牽制を始め、
そして二人つかず離れず、確実に相手の攻撃の範囲外から銃撃を加えて行く。

葵が気付いて

「凄い! それ翻訳版バスターの技?」

あやめがそれに以前借りた小型のCOMPのような物を示しながら

「そう、これがまた結構習得キツかったんだ!」

本郷もそれに

「勉強嫌いの俺がだよ? 呪詛魔法だの躁魔だのと言った翻訳版勉強してさ
 後はひたすら訓練訓練でやっと習得だよ!」

「「魔弾の射手」クラス二、ランク五で習得「腕部狙撃」!
 まぁ腕部とも限らないんだけど通常相手の範囲外からの狙い撃ち技能なんだ!」

「すごいや! 心強い!」

「ありがとうー! でも、やっぱり一助にしかならないなぁ…後精神疲労も半端ない」

「百合原 瑠奈のメギドラオンですら余り効率よくなかったくらいだからなぁ」

翻訳版簡易COMPからアイテムを具現化させ、それを頬張りながら

「クレープみたいな過ぎたモノじゃねぇし魔階ほど効きは良くないが、
 俺達はこっから移動しつつチマチマ行くから、葵も優も、先ずはペイルライダーに
 これ以上餌を与えるなよ!」

「判った!」

「判りました!」

そこへペイルライダーの声が響く

『おのれニンゲンめ、小賢しい… 現世まで侵攻してきたと言うのに…』

「…何故そこまでこの現世に拘るんだ…お陰でこっちはとばっちりを受けたようでね」

ペイルライダーの大鎌を振り回す攻撃、氷結攻撃、突撃技、しかも何らかの
特殊効果を持つらしい攻撃、真美は躱したりもするが真正面で受け止めつつ
一つ一つ思い出すかのように戦っていた。
まともなら既に死んでいてもおかしくないのに、何か「見えない防御力」のようなモノか
かなり割り引かれていたし、傷の治りも尋常では無かった。
やはり「合成魔人」の一種のようだが…

「ふふ…「惑わし」も「石化」も私には効かないようだ、残念だね」

真美は不敵に微笑むが、何らかの異常状態で汗を滲ませて深い息をする。
あやめが簡易COMPから

「「状態:猛毒」になっています…、でも…、減った体力の大半を回復してる…」

「暫定味方…って事で受け入れていーのかねぇ」

そこへ電話が掛かってきた、弥生からである

「よう、どこかで戦いを見ているな?」

『勿論じゃないの、彼女の価値観は多分人間のそれをかなり逸脱してる面があると思う
 でも、敵にはなり得ないわ、それだけは言える』

「理由は?」

『裕子に惚れたみたい、で、裕子も一目惚れみたい』

「あーなるほどな…何処までも裕子中心…か、それは確かに手放しで喜べないが
 確かに敵ではないとは言えるなぁ」

『多分これから探偵仕事も引き継ぐと思う、その働きぶりを見て
 そっちが全う…或いはスマートであるようなら私と同じ権限あげてよ』

「それはもう既に警視正殿に注進済みかよ?」

『いいえ、貴方に任せる』

「おーけぇ、確かにまだ日が浅い、強いが底知れない、お嬢ちゃんと結ばれてる
 っていうならまず間違いなくこっちの不利益にはならんだろう…よし判断しとく」

『頼むわね』

「ああ、まぁ招待状なんか出せっこないし式自体短めにするけど、
 アイツと俺結婚するからもうすぐ」

『あら、おめでとう』

「ま、近況報告までにな」

『そうよね、私自身に時間の感覚はなくなっても時は過ぎるのよねぇ』

「そういう訳で本腰入れるからよ」

『判った、じゃあね』

通話を終え、ペイルライダーの射程外からの射撃を再開しながら

「…実感沸かねぇなぁ、何気なく連絡入るしよ」

あやめも流石に少し胸を締め付けられたような表情になり

「…ホントですね、でもほぼ毎日メールか電話くれるんです、
 前はそこまでマメじゃなかったのに、あの人は本当に、今実体としては
 存在しないんだなって事も伝わるんです」

本郷は少し考え

「…アイツはやっぱり罪なヤツだ」

あやめも今この事態になると以前は判らなかったが判る。

「…本当ですよ」

そうは言いつつも正確な射撃によろう援護は続けた。

『お前は人か、人に混じった何かか…』

「混じった何かのようだよ、でも君には同情出来ないね」

『何故だ』

「惚れたのが人だからね」

ペイルライダーは怒り、大鎌を振り回し、もうそろそろジワジワと
体力も削られつつあるこの状況で怨の呪文を唱え始めた!
葵がそれに気付き、優に飛びつき抱きかかえ跳びながら

「来る…! マハムドオンとか言う強烈なのが…!」

優の鼓動が上がったのを葵は感じるが、「危機」としてのモノと受け取った。
実際優も

「そんなにヤバいの!?」

「まともに食らったらボクらでも危ない、そして、即死の可能性もあるんだ!
 前に一度本郷さんが喰らっちゃって! あの時に百合原さんが、その相棒の
 アイリーちゃんがいなかったら生き返る事もなかったんだ!」

「でも、じゃあ、真美さん!」

優の叫びに、呪文詠唱中でも攻撃をやめない真美が
心底戦いを楽しむように口の端を上げつつ

「だから?」

そして放たれる呪詛の最強呪文が辺りを吹き荒れる!
芝生も何も荒れ果て枯れて何か物理的な何かではないけど物理的なダメージも
割と広範囲に吹き荒れた!
葵と優はギリギリでその範囲を抜けていて丁度良いので戦場をずらして
祓いによる悪魔落としを続けつつも、真美を見た。

服はボロボロになっているし、体中に怨嗟によるダメージが走っている物の、
真美はしっかりと立っていてペイルライダーは驚いていた。
予想したダメージるより遙かに低いダメージしか入っていない。

「躱しても良かったんだけどね、自分の状態がどんな物か測ってみたかったんだ、
 良かったよ、君如きでは私は倒せないらしいと判った」

そして真美の怒濤の反撃が開始された、とても素早く、両手の剣で電光石火の
複数回攻撃、そして何より…モニタリングしつつ援護していたあやめが

「凄い…リミットブレイク(通常、これもかつての均衡のために設けられた攻撃の上限、
  これを越える攻撃をリミットブレイクと呼ぶ)発動半端ないですよ」

「どーやら…普通にバスターが捕まえたりするよーな「分霊」よりはかなり
 「本霊」に近い何かが降り立ったようだな…、これでまた読めなくなった、
 祓いや俺達は確かに備えているし、弥生も抜け目なくあちこちに連絡を付ける
 それに本格的な進行には例え同罪になろうとそれをやめさせようとする勢力もある…」

「待ち伏せ型罠も一旦見破られたらそう何度も使えない事も判ったでしょうし、
 一番の誤算は木下さんの参戦ですね」

「ああ…おい、美味しいとこごめんな!」

特備の二人が同時に銃を撃つとそれがトドメとなり、ペイルライダーは雲散霧消して行く。

粗方憑依された悪魔の方も祓い終えた葵が真美の所へやって来て

「大丈夫? 怪我は…」

服の裂け目からは血が沢山出ていて白いシャツに滲みまくっている。
葵が触れる祓いで「四條院のように」と力の出し方を調整し、それらを直して行く。

「…凄いんだな、失血も清められ元に戻り…服も直って行く…」

「おねーさんの方がもっと上手く出来るよ」

「君も…気になる子ではあるんだよね、ただ…裕子とは違って…
 君には何か戦いで奮い立たされるモノがある、これも残された記憶のカケラなのかな」

「ボクには判らないけど…でも、真美さんがおねーさんやボクと一緒に戦ってくれるなら
 ボク達は心強いよ!」

真美が葵の頭をなでた、葵は少し顔を赤くするけど、それは「嬉しい」という素直な気持ち。

「さーてお疲れさん、この辺のカメラは全部一時的に弥生が止めた、
 糸目のねーちゃん以外はな。
 多少死者や怪我人が出たが…まぁ考え得る限り最小だろう、諦めも肝心だ」

あやめは病院へ連絡を付けていて

「では…ちょっと結構な数になりますが急患入ります、何か「取り憑かれた痕跡」
 のようなモノがあればそれを逆手に裕子ちゃん辺りに細かく探って貰うか…」

『…弥生に探って貰うか…』

「はい、獣医学部の人も確保願いますか、基本的にやる事はそう違わないと思うので…」

『当直が誰かによるなぁ…、まぁ当たってみるよ』

「お願いしますね」

本郷がセブンスターに火を付けつつ

「じゃあ、外で待機してる緊急車両その他中に入れようか」



数日が経ち、真美は探偵仕事も始めていて、目立つ目立たないはまた少し別だが
かなりスマートに事件を解決して見せたりした。
報告書などは裕子の役目で、ついて行ける時はどちらかが付き目立ちすぎるやり方は
「少々回りくどくとも…」と真美に進言した。

「やれば良いってモノでもないか…面倒くさいね、人間の世界は」

「少なくとも…あの事件ですら真正面で受け取れている人は少ない状態です
 何か集団ヒステリーのようなモノだったで片付けようとしていますよ」

そこへ葵も

「空間の裂け目の方も科学的に気象現象でどうにか~とかやってるね」

食事時に今日は裕子の食事でご馳走が並ぶ席、黙々と真美は食べながら」

「同じ食事でも裕子のと葵のとは違う…これも不思議だな」

「ボクのは食費もなるべく浮かせて割とフツーの家庭料理、
 おねーさんのはもう少し上行って或いはレストラン並み」

「その分わたくしの食事はどうしても食費が掛かってしまいます」

「どっちがいいとかでもない、なんだろう、どっちもいいものだね
 食べるって事も実は良く憶えてなくて…少しずつ味というモノを憶えつつある」

「ゆっくり慣れていってください、仕事の方も、仕事の方も…
 この間は桑園でしたからわたくし共が一番近かったわけで有無を言わせない状態でしたが」

「…報告書によるとデビルマン…人間の方も自ら望んでそうしたと言う事が
 しばらく続いていたようだけれど…何故方向性を変えたんだろうね…不思議だ
 成功率も下がるというのに」

「そこは矢張り…「人間の魂を盾にする為」でしょうかねぇ…」

「…その内殺さない事にはどうしようもない場合も出て来そうだ、
 君たちも覚悟をした方がいいよ」

裕子も葵も確かに考え得る事態の予想に少し頷き

「うん、でも、出来る限りは人が助かる道を探したい」

「助かったところ感謝されるとも限らない訳だけれどそれでも?」

葵は少し言葉に詰まった、悪魔に取り憑かれるという事はそれなりに隙もあると言う事。
或いは半ば望んでそうした場合も…それからは出てくるだろうからだ。

「そこは…人の意識が残っているかどうかで判断致しましょう、
 今までであったデビルマンは少なくとも自身の意志でそうなった方々でした」

「そうだね…愛宕、氷川、よしお、カズ君もある意味見込まれてたようだし」

葵が裕子の言葉に続くと真美が食事を続けつつ

「二人にいざという時の覚悟があるならそれでいいよ」



四月某日、本郷と秋葉は結婚した。
一応全員を呼んで神前式に望んだ、秋葉も本郷も最初は普通に結婚式場で…
と考えていたらしいが、この二年ほどの間ですっかり神道式にしないと不味いかなと言う
思いもあっての事だった。

この時ばかりは出席者皆未来を願った。
真美ですらも、同性を愛する事に決めたわけで女の体をして居てもそこから
子を産むなどと言う事はないだろう、こういう役割は必要なのだと納得した。

そうした式も懇談に移ろうという時に、あやめに電話が来てあやめが本郷と秋葉の方に
スマホの画面を向け、そして周囲のスピーカーを乗っ取ったか、
その画面にはケータイを持つ弥生の姿。

「これだけは持ってたのよねー、おめでとう二人とも! いい子を作って育んでね!」

と、言いたい事を言ったら速攻電話も切れて光がまたあちこちに動く様が見えた。
「この時のためだけに」危険を冒してやって来たらしい。

「弥生さん、ケータイ電話のデータだけは持ち歩いてたんだ…」

あやめが言いつつ、そこへ葵が

「だからか…時々写真も撮ってるみたいだったんだよね」

「んじゃ、今の俺達の呆気にとられた顔も撮ったって事かよ」

本郷が締まりない表情をすると秋葉も同じように

「「ハイチーズ」の一言でもくれればいいのに、ヘンな顔撮られちゃったかも」

亜美が微笑んで

「生のリアクションが欲しかったんでしょうね、貴女達の見た事もないような顔を」

「なるほどなぁ、まぁ確かにそうだ、あんな顔撮られることもう一生ねぇだろうなぁ」

「弥生って、時々悪戯好きだよね」

「そう、でも、決して後味の悪くなるような事はやらない、
 弥生が復帰した時笑えばいいと思うのよ、おめでとう」

亜美が改めて言い、短めとはいえ披露宴というか祝賀会を執り行った。


第四幕  閉


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