Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Five

第三幕 開き

ジョーンが出かけてから何十分経った?
一時間近く帰ってこない。
ああ、俺だ、ウインストン。

…確かにおかしい。
片道15分ほどの距離で買い物に10分ほど迷ったとして
…40分…

まぁまだ「迷ってる」範囲内かもしれないが…
ルナが落ち着かない雰囲気丸出しにしてる。

一分が長く感じる。
一秒を刻むリズムがやけにもどかしい。
…なんだかな…俺にまでムズムズが伝染ってきたぜ…

「おい、アイリー。 念のためだ、念のためジョーンとケントの奴を
 モニターしてみてくれないか?」

二人の普段の行動を信じるという点で、というか全員の
行動を信じるという点でアイリーはめったに
身内はモニターしないって事になってる。

…それも今は「お互いの無事」を確認するために
破られつつある約束かも知れねぇな…

「おっけぇ…」

居る範囲はおおよそ特定できる。
だからアイリーのベイビー・イッツ・ユーは
最初から複雑で模様の込んだ円を組んだ。

「…この先…一キロ弱…かな。
 ああ、ウインストン、地図はいらないよ。
 この辺りの地形はよっぽどの裏路地以外全部頭に入ってるから…」

ポールも…何よりルナが鼓動の音も聞こえそうな面持ちで見守る。

「…これ路上だよ…この先のビジネス街…
 生きてるけど…動いてない…ジョーンとケントの位置は
 数十メートル離れてる…」

動いてないって一点で暗雲が立ち込めるんだが

「…すれ違い様にジョーン君が買い物の指定など
 ケントにしている場合も考えられる…
 これだけでは「すなわちピンチ」とは言えないね…」

ポールの冷静な分析。
俺もそれに乗っかってみる。

「…確かにケントは道すがら野良猫とか構って
 時間つぶすことはある、時間的にありえない状況じゃあないんだが…」

ルナが立ち上がる。

「…疲れたの何の言ってられない…着替えてくる。」

やっぱり心配派のルナだ、だがここで
「もし」買い物の量が多くてジョーンもケントも
戸惑ってるのだ、という可能性を考えたとして
人手はあった方がいいだろう。

「…あ…あたしも出かけた方がいいかな…?」

アイリーの不安そうな声に。

「お前はここにいろ、ポールもな、俺とルナで行くよ。」

俺たちのただならない雰囲気にリベラの奴も何だか
落ち着かない様子だぜ?

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スティングレイだ。

やべーって…
加勢に入ったら俺が足手まとい確定かよッ!

下をチラッと見ると路面にへたり込んで壁一枚で
あの水分野郎がスタンドで襲いかかろうというのを
防ごうとしてるケントが見える…

ジョーンの奴は…ぶっ倒れてるぜ…
こっからじゃあ良く見えねーが怪我は悪化したろーぜ…
一人ぶっ飛ばして倒れたんだ、そこに敬意は払って
あいつには「あんなところに倒れやがって」とは考えねー。

「…正直物質透過なんて俺にとってかなり厄介な
 相手が加勢に加わったことでかなり工夫した戦いが
 必要になるかと思ったんだがな…
 …所詮はチンピラか…」

「…テメー…俺があいつらの身内じゃあねーと知ってるよーだな。」

「…応える必要は無い…が…知っているとも…
 …チンピラは知らんがね…」

俺がケントやジョーンを見に目をやるのは奴も気に止めないが、
俺がちょっとでも何か手はないかって目をやろうとすると
ライフルのトリガーに掛けた奴の指に力がすこし入る。

「…名もなきチンピラにとっちゃ…軍人崩れらしいオメーも
 どーでもいーんだが…探偵バッジ(探偵には義務)はつけてねーな…
 会社同士の争いって言うよりは…暗殺指令ってとこか…?」

「…それこそ…応える必要は無いな…そろそろ終わりだ。」

くっそ…頭蓋骨の一部…弾が脳天を貫く最後の1cmくらいだけ
透過をとき…弾をそらすか…?
いやー…口では言えるが、初速に近い速度のライフル弾なんて
俺の動体視力や反射神経で追えるもんじゃあねー…

死ぬのはゴメンだが死なせるのもゴメンだ…どーする俺ッ!?

ピンチの俺の下でケントの奴の状況だ…

「最大の力で殴ったその場所に水の分解で起こした爆発を重ねれば…
 お前の壁も破れるかもなァ…四枚しか出せないよーだから…
 最後の力を振り絞って四回繰り返せばいいか…?」

水分野郎はペットボトルの水をケントの壁にぶちまけた。
ケントは黙ってる。

「…ブルって声も出ないのかねェ…まァいいさ…
 俺のスタンドの殴る力は強いんだぜェェーーーーッ!!!」

奴のスタンドの拳が渾身の力で振り下ろされる!

グニョォォ〜〜〜ンって音で壁に拳がめり込んだ。
水分野郎がちょっとあせる。

「さっきはよォ…壁のこっち側に拳めり込ますなんてのは
 角度によっちゃ俺に当たるかもしんねーって警戒したから
 ただの「硬い壁」だったんだぜぇー…
 (上と後ろを見ながら)
 スティングレイの奴うごかねーンだよなぁ…
 倒れたジョーンと弾丸野郎と一直線上に並んじまった?」

「う…ぬ…抜けねェーッッ!!」

水分野郎のスタンドが拳を抜こうとするがめり込んだ状態で
しっかりとまた硬化させたようで、抜けねーらしー。

「ジョーンがオメーをここまで吹っ飛ばしたのも…
 オレに「こいつを利用しろ」って事だったのかもなぁー
 やっぱよぉ…オレにとってジョーンは…師匠みたいなもんだなぁー」

ケントが斜め上向きの一枚の壁で奴のスタンドの拳を斜め上から受けた状態。
水分野郎はあせって能力を使おうとした。

「…おっとぉ…「状況」…変えなくっちゃぁなぁ…」

路面の「壁」の接地面からもう一枚の壁が出る。
当然拳のめり込んだ水分野郎のスタンドは上に持ち上げられる。
そして…

「もう一度…ふっとばされなよぉーーッッ!!」

ケントが下からの蹴りと共に硬化させてた壁をまたゴム化した。
奴の…水分野郎のスタンドのA評価の拳の威力がそのまま奴に返る!

「おぉ…あぁぁあぁあああああーーーーーーーーッッッ!!!」

水分野郎がビルの上の方まで押し上げられた

「スティングレーッッ!! プレゼントだぜぇーッッ!!」

その言葉と「贈り物」、確かに受け取ったッッ!!
奴の指の速さと俺の行動との…勝負だッ!!

屋上近くまで昇ってきた水分野郎の胸倉を掴んで俺の位置まで持ってきて
弾丸野郎のほうまで投げるッ!!
流石に奴も味方が突然現れたことに一瞬指がひるんだぜッ!

「ディ…ディーン! テメーッッ撃つななァァーーーッッ!!!」

「お前こそソブラニー!! ロッキー・ラクーンを引っ込めろォォォーーーッッ!!」

俺はチラッとそのやり取りを見るが、
透過を調整してエレベーターくらいの速度で下に降りる。
終わりだ。

二人の叫びと、発砲音+五回の攻撃…いや…三回くらいで止まったかな。
そして、いやーな破裂音…爆発音までしなかったな。

見るまでもねぇ。
血とか骨のかけらのついた肉片とか俺がビルから降りる間に下に落ちてったからな。

下まで降りるとへたり込んでるケントが居やがる。

「なんだよ、オメー…硬いだけの実体壁じゃあなかったのかよー」

ケントが答える

「ちったぁ修行してるんだぜぇー」

「そのよーだな…次加勢することがあったらよー。
 その辺のこと考えて加勢するわな、
 透過しようと思って壁に激突なんざ目も当てられねー。」

なんかよー、おかしくなっちまって、二人でヘラヘラ笑ったんだが…

「そ、そーだ!ジョーン!!」

俺もケントも気付いた!
やべーって!!

俺たちがジョーンに駆け寄ると、ジョーンはうつぶせに倒れてて
腹の辺りからえれー出血が…
右足首もまた折れてるし、…なんだよあいつ、左腕一本犠牲にして
胴体守ったって事かよ…

「おい、ジョーン!」

ケントが肩をゆすると。

「………水分解の彼は「ソブラニー」で……
 …スタンド名は…「ロッキー・ラクーン」……ね…」

なんだよ、あの距離で聞こえてたのかよ…なんて奴だ…

「しっかりしろよぉー、今事務所につれて帰るからよぉー!」

「…充分ここから離れたら…一応救急車で彼らの方の手配を…」

「な…何言ってんだテメー!? テメーを襲った奴らだぜー!?」

俺が思わず突っ込むと

「…違うわ…ビルの…風評に……ケチがつく…でしょう…?
 「仲間割れ」で殺しあったのだ…としても…」

ビルの風評だと? あっけにとられた。
いや、確かにちげーねーけど。
なるほど、あいつら二人の能力で最後の一撃は決まってる。
「仲間割れ」に見えるわな…こいつ…優しい顔してこえーな…

とりあえず俺とケントでジョーンを肩車しようとしたんだが

「…あ…あ…ダメよ…」

えれー台詞はきやがる…!

「腸が…出てるのよ…出来れば…仰向けに…」

えれーモン見せやがるぅぅぅーーーーッッ!!

ジョーンはその場を離れる際、力を振り絞って
オーディナリーワールドで路面を殆ど元に戻した。
血痕は残さねぇってことだな。
(後で聞くところによるとほんの一滴残った状態らしい)
再び泣き別れた右足首と左手首を仰向けにしたジョーンの体の上に乗せ、
ちょっと手間どう手で皮膚や筋肉や骨の一部も拾って俺が上半身側
ケントが足を持って運ぶんだが…
重めぇーーーー!!
見た目細いくせしてこいつ筋肉の固まりかよッッ!!

出血が殆どねぇのは前聞いた「波紋」って奴だな。
こいつ、ぜってー過去はかなり黒いモン背負ってるな。

ビジネス街を抜けたあたりだろーか?
ウインストンと、ルナたっけ、こえー女。
あいつらがやってきた。
「虫の知らせ」って奴だろうが、ちょっと遅かったな。
こえー女は今にも泣きそうな勢いでジョーンにすがってる。

逆にジョーンが慰めてるくらいだ。
なんだ?
前もルナが泣いてジョーンの傷を直してたがよ、
こいつ、ジョーンにだけは素直なのな。
ケントには厳しいのにジョーンもルナには優しい。
なんなんだ? こいつら。

さて、ウインストンがジョーンを担ぐのにスタンドと共に
加わったことで俺はフリーになった。
ジョーンが言ったとおり、電話かけるか。

事務所の奴らにはかけさせない、疑われるからな。
ライバルってBCだろ?
あそこは有名だからな。 いろんな意味で。

公衆電話の緊急ダイヤルにかけ、
事件現場を遠くで見ていてビルの上で誰か
二人で争ってたようだが、発砲音とか破裂音と共に
静かになった…ってな。

事務所の手前で全てが終わった。
通りの遥か向こうで救急車の音が聞こえる。

「んじゃー、俺は帰るぜ?」

ジョーンも重傷の割りに命は大丈夫そうなんで
あんまり深く関わると俺もヤベーからな。

ケントの奴は「ここで帰るのかよ」って顔したが、

「…ええ、有難う…貴方が来てくれて本当に助かったわ…」

ジョーンは素直に見送ってくれるよーだ。
ウインストンやルナも俺に「行けよ」って目配せした。

「んじゃー…また縁があったらな。」

「おい、ちょっと待てよぉ!」

「何だよケント…」

奴は携帯電話をアイリーだったかに持ってこさせ

「番号くらい教えろよぉ」

やれやれ、教えてやってもいーが…あんまりくだらねーことで呼び出すなよ?

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救急車に回収された二人。
虫の息だが、二人ともギリギリで生きていたようだ…。
市内の救急病院に搬送される途中だった。

ソブラニー…水分を操る彼に救急隊員が語りかけた。
ディーンこそ虫の息も後一歩で話が出来そうな状態ではない。

「やれやれですね…「任務」に失敗したばかりでなく
 止めをお互いで刺しあってしまうとは…」

「…だ…誰…だ…」

「まぁ元々…この任務につく時点で一応は社を除名扱いに
 なってるわけですから…社にダメージがあるわけではありませんがね…
 しかし…このまま生きていてもらっても…困るわけですよ…」

救急士を装った「彼」の背後にスタンドが…
スタンドの拳が光を放つ。

「…お…お前…まさか…!!
 や…やめろォォォオーーーーッッ!!!」

救急車の側面に二つの大きな穴が開いた。
一人が飛び降りると、救急車は街灯にぶつかり、炎上した。

救急隊員の服を脱ぎ捨て、彼は路地裏に消えてゆく。

「…本当にやれやれですね…次は私ですか…本当に…やれやれです…。」

路地裏の向こう、暗がりから光が飛んできて脱ぎ捨てられた
変装の服を一瞬に消してしまった。
付近住民が騒ぎ出した後にはここで一人が脱出したなんて
痕跡は一切残っていなかった。

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ルナよ。
最近話の〆はあたしってパターンね…

あれから…大変だったわ。
ア・フュー・スモール・リペアーでは
治せない箇所が殆どで、結局あたしは徹夜で
オーディナリーワールドと組んでジョーンの治療に専念した。

ジョーンに一番なついてるリベラがジョーンの傍らにずっと
心配そうにジョーンを見てたけど、ジョーンが目を覚まし
右手で頭を撫でてやると、安心したようにその場で
ジョーンの腕に抱かれながら寝たようだ。

最初アイリーがパニクりかけたけど、あたしが檄を飛ばしたのね。
「しっかりなさい! これから貴女はこんな光景を
 いやでも通らなくてはならないのよッ!」
発作を起こしかけつつも、アイリーは何とか精神を安定させた。

そう、そんな風に、皆で気を引き締めていかないとね…

ジョーンの次に紅茶をいれるのが上手いポールもほぼ起きてた。

朝方前まで事務所で治療し、何とか動けるようになったジョーンは
明日の仕事を考え自力で女部屋まで戻り、続けてあたしと
オーディナリーワールドの「治療」で過ごす。

ジョーンったら、あの状況でも二リットルくらい
水を持って帰ってきたのよね。
おかげで助かったんだけどさ。
でも調理までは出来ないから、けっきょくは腹ペコよ。

朝になったら、ジョーンってば痛みの残るおぼつかない足と左手で
キッチンに行き、調理を始めた。
あたしがちょっとうとうとしてる間に。

飛び起きたあたしにはあたしのガウンがかけてあった。

「ん、もう! 何で動き回るのよ!」

「…またケンタッキーで…しかも朝食を過ごしたいの…?」

「………」

仕方ないわね…

「…何かあたしに出来ることは…?」

ジョーンは微笑んだ。

「ああ、アイリー! 起きたならあなたも手伝うッ!」

ジョーンが本当におかしそうにクスクス笑った。

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その日と次の日は大事をとって簡単な仕事以外は
日数を貰っておとなしく過ごすことにした。
簡単な探し物の場合も必ず「戦える」ウインストンが同行した。

いやな感じよね…
仕方ないのだけど…

いいから働くというジョーンを何とか押さえつけて、
諦めたジョーンはなにやらノートし始めた。
あたしのPCも使ってる。
…まぁ、前に比べたら早くなったわね。

あたしも仕事で外に出たりなんだり。

二日目はそんな感じで結構忙しくて、昼下がりになって
やっと一息つけた。

つい二日前の…夜中の出来事だって言うのに
嘘と思えるくらい静かな空気だ。
春も盛りで暖かい。

ポールに経過を報告した後、テレビを見るという
アイリーは置いておいて、あたしは女部屋に戻った。

気を抜いたわけではないけど、アイリーも緊張のし通しでは
持たないだろう、努めて普段どおりにしている。

あたしもなるべくそうしよう。

ウインストンもポールもそーしてるわ。

ケントだけは裏路地に回って修行してるようよ。
ケントの「壁」が今回の事件のキーだったわけだしね。
気合も入るって物よ。
これに関してはいいことだわ。

戦いには向いていないあたしのスタンドだけど、
怪我の場合を考えるとあたしも結構出撃率が高い。

…ちょっぴり疲れたのだけど、廊下でため息を一つ、
ジョーンの居る部屋に入るときはもう少し元気出さないとね…

ただいま…と言おうとして女部屋のドアを開けた。

微かにジョーンのメンソールのタバコの匂い
窓は開いていて、窓枠にジョーンが座って
タバコをふかしていた。
まだ僅かに痛みの残る右足が上になるように足を組み、
左手は力なく部屋側にたらしてある。

アンニュイな遠い目だ…
どこともつかない中空を見つめ、揺らめくカーテンに
タバコの先から踊る煙。

…なんだろう…あたしは…「永遠」を見た気がした。
重い重い…長い年月を見た気がした…

ジョーン…あたしに気づいてないみたい。
いつもなら…廊下を歩く音だけで気付くのに…

リベラが興味ありげにジョーンの座る窓枠の
腰と窓の隙間から外を見て、ベランダに出、
外からジョーンの腰の位置に回りこみ腰に乗るけど
そこは怪我をした場所でジョーンも痛がると判ってる。

だからリベラはすぐジョーンの胸の上に飛び乗って、
そしていつもの定位置、肩の上に乗った。
ジョーンは何のリアクションもしないし、
リベラも求めることなく、二人で外を眺めていた。

…ホンの一分ほどだっただろう、でも長い時間見た気がした。

ドアを閉めたら、そこではじめてジョーンはあたしが帰ったことに
気付いたようだった。

「…あ…ああ、ルナ…お帰りなさい。」

「…ただいま」

貴女らしくないわよ、そんな気持ちを込め少し微笑んで
入室すると、ジョーンは感情が戻ったように少し慌てて

「…いけない…煙…」

オーディナリーワールドの手が出てきて、煙を操ろうとした

「…いいわ、別に…たまの一本くらい、気を遣わず吸いきっちゃなさいな。」

「…でも…」

「あたしがいいという時はいいのよ…」

リビングの椅子に座り、報告書の製作を始めるあたし。
ジョーンは少し迷ったようだったけど、甘えようと思ったらしい。
でも、一口を大きく吸って、煙は外に吐き出すようにした。
(タバコの煙の何が問題って、フィルター越しの
 吸った煙じゃあなく、火の先の今正に燃えてる煙が
 リスクの塊だからね。)

なんだかんだ、気は遣ってる。
ジョーンらしい。

「…わたしったら…命を狙われたって言うのに、窓枠なんかに
 腰掛けて…あなたが帰ったことにも気付かずにボーっとしてたのね…」

数分が過ぎた頃、ジョーンがつぶやいた。
いつの間にか二本目に手を出してるけど、その煙は
きっちりオーディナリーワールドで操ってる。

判ってるじゃない? ジョーン。
あたしが許可したのは「一本」だからね。

「…気の抜けたあたしはいざ知らず、殺気に気付かないほど
 貴女は腑抜けたりはしないと思うけれどね。」

報告書を一つ仕上げ、とりあえずプリントする。

「…どうかな…結構絶好のタイミングだったかも…」

つぶやくジョーン、あたしは報告書のチェックをしながら応える

「…大丈夫よ、貴女の深い意識…オーディナリーワールドは
 いつだって貴女を守るわ。」

「そうね…もう…600年近い付き合いになるのね…
 名前をつけて上げられたのはついここ10年ほどだったけれど…」

「…そんなに長い間名無しだったの…?w」

流石に少し呆れて思わず笑っちゃうと

「18世紀辺りまではスタンド名には神の名を用いることが
 標準だったようよ、人外の力、その能力に沿った
 神の名前…火ならバルカンとか…地方によって
 違う神だから…時には精霊とか妖精とかの
 名前もあったようだけれど。」

「なるほどね…オーディナリーワールドにふさわしい名前が
 見つからなかったわけだ…そうよね…火でもあり氷でもあり
 風も起こせるし、土を操ることも出来る。
 といって「エレメント」というくくりも狭い…
 確かに、ここ十年でやっと付けられたっていうのも頷けるわ。」

ジョーンの能力は宇宙を現す壮大な力のようで、
でも人智を超えた能力は発揮できない。
「ありふれた普通の世界」
ジョーンらしい控え目な、でもその意味は結構深い。

「以前…貴女が寝ぼけたとき…オーディナリーワールドは
 貴女を「ジョジョ」って呼んだわ、
 やっぱりそれは各地を点々として名前は変えるけど
 いちいちその名を覚えるのもきついって事なのかしら。」

「ええ…w
 最初は偽名で呼ばれたけれど…うっかり前の名前とか
 言っちゃう時もあったのよね…
 ある日「混乱するのでジョジョでいいですか」…って…w」

「ふっ…w 可愛いじゃない? オーディナリーワールド。」

ジョーンの右手から少し見えてたオーディナリーワールドの手が
少し反応してよりジョーンに近い位置にすぼまった。
恥ずかしいのね…ふふ。

「なるべく「ジョ」で始まるようにしたのだけどね…
 思いもよらずロンドンには長居したから…
 流石に「ジョーン」って名前は定着したようだけれど。」

「それはあなた自身も「自分はジョーンだ」っていう意識が
 強まったって言うことね。」

「一つの土地に40年以上居たことは…ベネツィアの他にはなかったから…」

「当時の名前は?」

「本名…というか最初の名前ね…ジョセッタ…。」

「…もう…流石にその名で呼ばれても…?」

ジョーンは首を軽く横に振った。

「わたしはジョーン。 ジョーン=ジョットよ…」

ジョーンは立ち上がり、キッチンに向かった。

「…そろそろ夕食の準備を始めないとね。」

アイリーも戻ってきた。

「ジョーン、ジョーン、そろそろご飯…、あ、作ってるんだ?」

あたしはちょっと呆れたように「仕方ない子ね」って感じに苦笑して

「あたしも手伝いたいけど、報告書の作成が多くてね…
 アイリー、手伝ってあげて。」

アイリーらしい、ちょっと大げさにむくれたような表情

「むー、ずるいな、ルナはぁ。
 でもパソコン使えるのルナだけだから、仕方ないなぁ。」

貴女に「仕方ない」言われるの?
…まったく、やれやれって奴ね…

こんな穏やかな日を…何日迎えられるだろう。
皆で…どのくらい過ごせるだろう。
…長く…出来るだけ長く…この時がありますように…

辛く激しい戦いの果てに…あたし達はきっと勝利を掴んで
…末永くこの時を過ごせるように…

神じゃない、神の化身といわれたスタンドに。
それぞれのスタンドにあたしは祈った。

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