Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Six

第三幕 開き

「…えっ…それって…?」

ジョーンが聞いてくる。
ああ、引き続きルナよ。

「…これは覚えておきなさいよ…あなた自身には用は無くとも
 病気の緩和にも使えるものなんだからね…
 どこかで使う場面があるかもしれない。」

オーディナリーワールドの右手の中にそれは出来てゆく。

「…扱いには気をつけなさいよ…
 ああ…気泡を適当に混ぜ込んで…温度は10度以下…
 気温で上がる分を入れたら0度未満がいいかしらね…」

ジョーンはあたしを介抱するようにしながらも、
密かにそれを作っていた。
あたしらも勿論ひそひそ話だ。

「…こんなものが…」

悪い意味じゃあなく、純粋に「知らなかった」っていう顔で
ジョーンはつぶやいた。

「そう…よ…本当ならそれなりに手順が要るけれど…
 貴女なら簡単に…出来る…まぁ…病気の緩和の際は…
 その組成が丸々必要って訳じゃあないけれど…」

痛みが…本格化してきた…まずいかも…

「用意は…いいかしら…? ジョーン。」

「…ええ…早めに決着をつけましょう」

ジョーンが突然立ち上がる。
そして作り上げた化合物の球を投げる構え!
ブロムナードはウインストンから一瞬目をそらす!

「ちゃあんと…ど真ん中狙いなさいよ! ジョーン!」

あたしの檄に左腕のない分バランスに気をつけながらも
ジョーンは思い切りそれを投げた!
あたしはね、アメリカ出身だからね、ベースボールも
よく知ってるわ、ええ、ジョーン貴女…いい肩してるわよ?

ジョーンがそれを投げた瞬間に。

「ウインストン!「風をあつめて」で「あれ」をコントロール!」

「お? お、おうッ! いくぜ!」
「来タゼ、ボウヤ! コレガ分相応ノ意味ダッテンダイ!」

急に違う言葉喋るようになった風街ろまんに違和感を覚えつつ…

ブロムナードは一瞬驚いたが

「…一体何を投げたって言うんです?
 …そんなものはこのアルベド0.39の前では無意味ッ!!」

ウインストンの「風」で操る「それ」は軌道を読みにくくしてある、
つまりなるべく近くまで引き寄せないと破壊できない。

「そしてウインストン! あれが決まったら…
 「風をあつめて」とか「むささび変化」とかじゃあないッ
 貴方の最大火力を出して頂戴ッ!!」

「…「決まったら」…何を言ってるんですか貴女はッ!
 決めさせませんよッ!!」

アルベド0.39が普通に直接拳を振るって…つまり彼本体より
せいぜい一メートル少しって位置で拳を振るう!

…ふっ…貴方の負けよ…!

多少は瞬間的に蒸発もしたろうけど、それは結構な爆発を引き起こした!

「ぐぅぅぁああああああああッッッッ!!!!」

拡散する爆発の威力やエネルギーばかりは…どうしようもないわよね?
彼も流石に大怪我をし、スタンドもろともかなり弱った…!

「ウインストン!!」

「…あ…ああ…くっそ、いくぜ風街ろまんッ!!
 ルナもジョーンも…しっかりどっかに捕まっとけよ!
 封印技なんでなァッ!!」
「イックゼ!チキショウメェェェェエエエエーーーーッ!!」

え、なに? そんなヤバイの…?
言ったあたしが一番後悔したかも…

「颱風ゥゥゥウウウーーーーーーーーッッッッ!!!」

ウインストンの中心、二メートルほどだけ「静かな」領域として
ハリケーン並みのどえらい風をあたりに起こした…!
…なるほどこりゃぁ封印技だわ…!

痛みがあるあたしの足だけど、もう何も考えられない、
焼けとんだあたしの足とジョーンの左手をオーバーオールに突っ込んで
両手で広場と通路(隙間?)の境目の壁に手を掛け、必死でその風に耐える。

爆発に巻き込まれたブロムナードは壁に叩きつけられたようだ、
スタンドも引っ込んでしまった…
…ちょっと予想外の風量だけど、ジョーンはかえって好都合とばかりに
その風に乗った!

…ある意味計画通りなんだけど、大丈夫かしら?

なんて心配をするまでも無く、体術では事務所の誰より…
いや…あるいは世界を相手に出来そうなジョーン、
風に乗った勢いでブロムナードに迫り

「オーディナリーワールドッッッ!!」

右手だけのジョーンとオーディナリーワールド、
風に飛ばされ、その勢いのままブロムナードに
片手づつ両手分のラッシュを繰り出した!

ウインストンの風が続く限り、何十発も…百発以上は
食らわしたわね…
風が切れると、ジョーンは着地し、一呼吸置いて
気合と共にオーディナリーワールドとシンクロして
ジョーンは右足を軸に左足を、
オーディナリーワールドは左足を軸に右足を、
回し蹴りで喰らわせた!

爆発にあい、風に叩きつけられ、百発以上のラッシュを食らい、
そして今二人分の回し蹴りを食らった彼…
その叩きつけられた壁にひびが入る…
そしてジョーンがつぶやいた

「…Just Blowing Away…(ただただ…吹き飛ばされてゆきなさい)」

ジョーンがこちらへ振り返り歩き出すと、壁は崩れ、彼は無人の建物の中へ…
残った右手でやや乱れかけた髪の毛を戻す仕草…
なんていうか…いちいちセクシーな女ね。
…それが似合う女でもあるんだけど。

ブロムナードは…生きてるのかしらね?
崩れた壁の向こうじゃあ判らないけれど…
生きてたとして時間の問題でしょうね…

ウインストンがあたしに駆け寄ってくる。

「おい…ルナ、大丈夫かよ?」

「…ふぅ…とりあえず危機は去ったようね…
 貴方の大技はかなり危険ね…」

「有効範囲もきっちり20メートル…街中じゃあ使えないんでな…」

「…まぁ…おかげで助かったわ…ああ…やだ…傷の痛みが…」

「ところでよぉ…お前ら一体何してジョーンは一体何を投げたんだ?」

「…適量を医療に使えば狭心症の発作に役立つ化合物よ…わかる?」

「…俺の周りにゃ心臓病んだ奴はいなかったんでな…」

「そう…」

あたしがそればかり言うとジョーンがあたし達の元に。

「助かったわルナ…でも…やっぱり使いどころは考えないとね…」

「…そうね…」

「いや…それでな…」

ウインストンが聞こうとするとジョーンが

「…C3H5(ONO2)3…」

「…あ?」

「炭素三つと水素五つの中央から窒素を中心に酸素が一つが二つ、
 ひとつが共有結合をしたもののグループが…
 三つくっついた化合物よ…」

「いや…噛み砕いて言われても俺にはわかんねえ…
 それはだからなんなんだ?」

「ダイナマイトの原料…」

ここまでのジョーンとウインストンのやり取りにあたしが

「…ニトログリセリンよ…」

流石のウインストンだって知ってるでしょ。
ウインストンはちょっと息を呑んだ。

「…ありふれた物質で作れてしまうのね…わたしなら特に…」

「だからジョーン、これは狭心症の発作にもつかえるって…
 …まぁ…重要なのはNO(一酸化窒素)であって、
 ニトログリセリンそのものじゃあないんだけど」

アイリーからウインストンに電話だ。

「…あ、よぉ…ああ…ちょっと…やばいかもな…
 …あぁ…いや…もう終わったんだ…終わったんだが…
 このままじゃあ歩いて帰るわけにもタクシー拾うわけにもいかねぇ…
 すまねぇが…ポールにレンタカーで迎えに来てもらえないかな…
 …いや…大丈夫だって…命はあるよ…え?
 …ああ…いやその…」

ウインストンの説明が下手なのと二メートル近く離れた
あたし達にまで聞こえる、アイリーの必死な声でのまくし立て。

ジョーンとあたしは苦笑の面持ちで見詰め合って、
ジョーンがウインストンから電話を代わった。

「…わたしよ、ジョーン…。
 結論から言うわ…、戦いは終わっていて、わたし達は全員生存してる。
 ただし、ルナは意識ははっきりしてるけれどかなりの重傷よ。
 わたしも左腕を吹き飛ばされてしまったし…
 ウインストンの帽子も吹き飛ばされて初めて頭頂部がどうなってるのか見たしね。」

あまりに淡々と、そしてきっぱりと、何より最後にオチを設けてあって、
あたしはさっきを思い出してつい吹き出して笑ってしまった。

「な…べつにおかしかねーだろ!?」

ウインストンが突然自分に話題を振られた挙句あたしに笑われたんで
あせって返答した。

そのやり取りは電話を通してもアイリーに聞こえたようだ。
アイリーも落ち着いたよう。
そう、ジョーンがいれば、このくらいの覚悟は出来なくちゃね…

あたしが電話を代わってもらって

「アイリー、ええ、まぁ痛いんだけどね…ジョーンのおかげで
 笑う元気はあるわよ…ええ、それでね、来ては欲しいのだけど
 少し待って欲しいのよ…もう少しで出来上がるから…遺留品。」

ウインストンが「え?」という顔をしてそういえば、と
カールトンの死んだ現場を見た。

そこには、「手」が組みあがりかかっていて…その手には
フラッシュメモリーが握られている…

「ジョーン…お前…やたら手数が少ないからなんだと思ったら…」

「…復元作業を続行してたのよ…彼をなめていたわけじゃあない。
 場合によっては復元した遺留品を死守して逃げることも
 計画に入れていたから。」

「…そうか…まぁどの道手や足の復元には時間がかかるしな…」

「プラズマ攻撃なのだとしても、2回くらいはほぼ無効化できる自信があったしね…
 ただ、タイミングが重要で結局ルナには悪いことをしたけれど…」

「いいのよ、貴女も身に染みたでしょう?」

あたしはアイリーと電話をしながらジョーンに突っ込んだ。

「…ええ、身に染みたわ…」

また少しだけ泣きそうな、でもそれを苦笑に変えてジョーンは軽く首を横に振った。

「…手を…彼女に渡すべきかしらね…」

ジョーンのつぶやき。

「…俺はデータだけで充分だと思うぜ…」

「…そうね…一般人にはかなりの衝撃だと思うわ…」

ウインストンとあたしが続けて答えると、ジョーンは
カールトンの手を拾い、メモリーカードをその手から離し

「…これはわたしが全能力を傾けて100%に近い修復を試みるわ…
 あなたの手は…お父様のお墓の中に…後日入れておくわね…」

そう手に向かってささやいた。
…まぁ…あたしの足やジョーンの左手は少し後回しになるけれど
…うん、まぁ…いいかな。
こういう事情があるのなら…

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やぁ…ちょっとばかり久しぶり…かな…?
ジタンだ。

夕方だ、俺は仕事やら所要で出かけてたんで、今から
語る部分の…特に最初の方は後でダビドフから聞いたものを
俺が整理してお送りしよう…

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バタンッ!

と、勢い良い音がして社屋の裏のドアが開いた。

事務所兼所員の仕事待ちスペースからちょっと奥を見れば
その様子は見える。
普段なら気に掛ける者などいない。
「仕事には成功したが怪我をしたもの」
「仕事に失敗し、更に怪我をしたもの」
の通ることの多いこの扉は「負け犬の扉」
と呼ばれていて、忌み嫌われている。

…だがふっとダビドフの目には留まってしまったんだな。

ブロムナードが大怪我をして倒れこんでいた。
…まだ生きてはいるようだが、ダビドフは「時間の問題だな」と思ったらしい。

「いょーぅ…派手にやられたなァ…?」

裏口まで歩いていって、ブロムナードに話しかけた。

普段はこんなことはしないんだが、ダビドフは
この会社…BCでは古株でね、
ナットシャーマン親子共々ここで働いてる訳だから馴染みもある。
(親父はずいぶん前に死んだらしいが)
情けとまでは言わないが、馴染のよしみで話しかけたんだそうだ…

今にも途切れそうな息を吐き、喋る元気もなさそうなブロムナード。
ダビドフは続けた。

「…お前さんのヤマが何か…俺はしらねーが…
 立つ元気がねーなら…肩ぐらいは貸してやるぜ?」

ブロムナードもつまりダビドフとはそれなりに付き合いも長い。
…とはいえ、仲がいいって訳じゃあない。
…ただ、この会社で長年働いてきたって言うのは
それだけでここでは「別格」扱いでもある。
別格同士になると、それはそれで奇妙な友情みたいなモンがあるのさ…

つまり、ブロムナードはダビドフのその申し出を
「最後の手向け」と受け取ったらしい。

「…ああ……済みませんね……三階まで…宜しいですか……ね…」

それはプレジデントのフロアーだ。
(エレベーターは無い、階段だ)

大きく肩を切られた痕と、多数の打撲。
爆発でやられた傷もひどい。
相手はウインストン…打撲の方も奴か…それとも
…あの女か? 爆発は?
どう見ても「上手く行った」って状況じゃあねーよな…

ダビドフはそう思ったそうだ。
ブロムナードの技は中距離から遠距離が最も効果的だ。
普段は反撃を許さない形で距離を置いた戦いをする。
風で誘導され、接近を許したか?

奴らの結束も高まったか、めんどくせー事になりそーだなァ…

とも思ったらしい。

三階まで上がり、プレジデントの部屋の前まで連れてゆくと
ブロムナードはやっと作った表情で

「…ここで…いいですよ…扉を開けるくらい…はね…」

おいおい、ここで死ぬ気かよ…?
…と、ダビドフは思ったが、それはそれで
たいした土産になるかもしれない。
そう…プレジデントの正体の一端でもつかめれば…!

ダビドフが戻る振りをすると、ブロムナードは部屋に入っていった。

「…さてさて…プレジデント閣下の正体を探るために…」

ダビドフは靴を脱ぎ、廊下にしゃがみこんでスタンドを僅かに出し
その一点を僅かに鉄にした。

「壁の一部を加工して覗き込むのはいけないことでしょおーーーか〜〜〜〜」

…壁の材料が何かによるが、鉄より重い物質で出来てる壁なんて
よほどの施設だけだろう、大方それの主な成分は
原子番号8の酸素と14の珪素(シリコンと言った方が通りがいいか?)
予想外に重い物質があったとして、その時は原子番号26の鉄ではなく
82の鉛にすればいい、酸素原子二個とシリコンが一つで二酸化珪素。
その分子一個に比べれば鉄原子一つにまとめた方が隙間があく。

長々説明したが、奴はそんな風に「覗き穴」を作った。
これは奴が諜報活動をする際にも使われる。
奴がその気になればすぐ元に戻せるので、ただの豪快
プッツン野郎と思ってたら、案外狡猾なんだぜ。

さて…気になる中の様子だ…

「…ずいぶん…派手にやられたようだね…ナットシャーマン君…」

プレジデントの態度は、だがしかし、気分を害したような
雰囲気はなく、むしろ何かワクワクしてるような雰囲気があったそうだ。

「…申し訳…ありません…完全失敗です…」

「そうか…仕方ないね…」

「…」

「…どうかしたかね? 何か咎があるかと思ったかね?」

「…私は…今回の敗北で…疲れました…今回の罠で情報を事前に流し…
 かつては父も同じ事をし…父の友情を壊し…
 私はその父の友の息子…幼馴染も手にかけて…」

「…君の母親のためだ、…契約だろう?」

「…契約です…ですがもう…母も意識が戻らないところまできています…
 …もういい…もうたくさんです…ですから最後に…」

ブロムナードの背後にボロボロのスタンドが沸きあがる。

一矢報いる気か…だが無理だな…まぁ…無理なのもわかってるだろう、
神の如く権力を持ち振りかざす男に対する…意思表示…ってとこか

ダビドフは思いながらも、いよいよ見られるかもしれない
その瞬間に息を呑んだ。

「…考え直すなら…今のうちだよ?
 ナットシャーマン君、君のような素材は惜しいからね…」

「…いえ…もう…結構です…アルファーッッ!!!」

最後の力を振り絞り、最大火力の右の拳「アルファ」が撃ち出される!

「…そうか…惜しい…惜しいことだよ…ナットシャーマン君…」

プレジデントの前に大きな…ダビドフの言だと
エイリアンの口みたいなでかいのが突然現れた…!

…そしてその「アルファ」を一口で食ってしまった…!

動揺するブロムナードと…そして穴から見つめるダビドフ。

「…この能力を「食べる」にしても…
 求める能力者を先に捕食したかったのだが…仕方ない…
 君がその気なら…」

中空に現れた口が消えたかと思うと…
…それはブロムナードの背後に現れた…!
…射程は少なく見ても五メートルはあるのか…!?

ダビドフがそう思うや、ブロムナードは頭からバリバリと
食われていった。
…最初に頭部全てだったんだ…叫び声なんてありはしない。

生の骨と肉が砕ける嫌な音が充満する。

「…もう…君に何を言っても聞こえないが…
 一思いに全身「食べる」事もできるのだがね…
 …まぁ…そこは罰と思ってくれたまえ…ふふふ…」

ダビドフは流石に腰を抜かさんばかりに慄いた。
ブロムナードはともかく、ダビドフなら奴の視界の
200度ほどの扇形に最大20メートルまで能力を使える。

そんなダビドフを「飼っていて」プレジデントは恐怖に思っていないなら、
20メートルまでは行かなくとも…10メートルは射程があるかもしれない。

…勝てない…そう思ったんだそうだ…。

ダビドフがそこを退散しようとした時に、俺が社屋に戻り、
報告書の提出そのほか…まぁいつもの「業務」で
三階まで上がってきた。

…こういう時でもダビドフは俺の足音に歩調をあわせ、
だが必死な顔で階下に降りていった。

俺の怪訝な顔もいつもの通りだ。

「ゴロワーズです、入ります。」

いつものように俺が社長室に入ると、
シルエット加減でよく見えないのはいつものことだが、
その口の端は笑っているように見えた。

「…ああ…いつもご苦労だね…時に、ゴロワーズ君…」

「はい、何でしょうか?」

「私の葉巻は…どこだったかね?」

プレジデントは普段は吸わない。
何か特別なことがあったときだけ吸うのだ。
だから普段は俺が管理している。
俺は社長室の棚の一つを開けて

「…どうぞ、どうかなされたんですか?
 良いことでも?」

「ん…まぁ、ちょっと早いがね…ふふふ」

俺が書類の整理などで目を離し加減の時に
プレジデントのスタンドと思しき手が見えた。
赤熱を越え、白く輝く指先。

…はて…これに近い能力を持っているのは
ブロムナードだった気がしたが…

俺は思ったんだが、とりあえず作業を続けた。

プレジデントはその火先を思ったより葉巻に近づけてしまったらしい、
半分近くが一瞬にして燃えてしまった。

…!!
やはりこの火力…ブロムナード…?
おかしい、「似た」能力ではあっても、そう酷似する事は無い、
腕か指かの違いでこれは完全に同じ能力だ…!

…それに…今のちょっとした炎で床に飛び散っている
大量の血が見えた…!
…ダビドフ…この現場を見たのか…!?

「ふふ…いかんいかん…強すぎるな…ふふふ…」

ご機嫌なプレジデントをよそに、俺は出来る限りいつもの
スタンスで社長室での業務を終え、持ち場に戻ろうとすると。

「…ああ、ゴロワーズ君…」

「…はい、何でしょうか…?」

「先ほど…政府…というかね、まぁ色々巡り巡ってやってきた依頼なんだが…
 君が以前調査していた「工場」だがね…」

「…はい…」

「「速やかに、且つなるべく大事にさせず、且つ徹底的に破壊せよ」
 という依頼を受けたんだよ…それでだね…
 君一人でもダビドフ一人でもちょっと三つの条件を
 揃えるにはきついと思ったのでね…
 なるべく早く…ダビドフと共に遂行してくれないかね?」

ダビドフと俺が組むのか…?
…なるほど、徹底した破壊を求む…ってわけだ…

「…判りました。
 直ちに現場に急行しましょう、専用機ならびに
 「迎え」はあるんでしょうから…ダビドフにはこのことは?」

「…いや…君が戻ってからと思ったんでね…」

「…では、私から話して今から向かいます。」

「…ああ、頼むよ…まったく君は…本当に頼りになる。」

「…止してください、能力は適所に使ってこそ適材と言えるのですから。」

俺は一礼をし、社長室を去った。

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俺は街に出た。
ダビドフの奴…事務所からいなくなっててな…
他の奴に聞いたんだが…

「さぁー〜? 知ぃらないねぇ〜。
 ただよ〜ぉ?
 報告書に手直しか追加かが出たんじゃぁねぇ〜の?」

ふざけた語りにふざけたヒッピーみたいな格好のこいつは
ゼファー=セレクトと言う奴だ。
ふざけた格好だが、神経はまぁまともで自分をよく知っているタイプの奴だ。

そのゼファーが一緒にいる奴は…新入りのようだ。
…だが…絶対チンピラ崩れと言うか…
ロクでもない経歴の持ち主だろう…
匂いで判ると言うか…こいつはくせェ…

まぁ…それはそれとしてだ…奴の仕事なら
俺が中間報告書を受け取ってある。
だから大体どこに潜んでるかもな…


…そんな時だった。
俺が街のちょっと裏通りを歩いてたときだった。

「ゴロワーズさん、ちょっといいですかい?
 大変なことが…」

情報屋のミルデ=ソルテ。
俺がK.U.D.Oにいた頃から付き合いがある。

「…なんだ? 今特に知りたいことは無いぞ。」

「いえいえ…昔ッから世話になってますんでね…
 っていうか…大変ですぜ…まだゲラ刷りですが…」

こいつもスタンド使いだ。
スタンド名「ミラー・マニック」
鏡写しの分身を映し出すスタンド。
攻撃力とかは無い。
映像の鏡写しだからな。

だがそれだけに諜報活動には役立つ。
射程が広いのも特徴だ。

今回もこいつのスタンドに映したゲラ刷りの記事を
デジカメか何かに撮り、反転してプリントしたんだろう。

記事の見出しはこうあった。
「20年前のタブー、癒着企業BC/LM社と判明
 親子二代の命を懸けた取材」



俺はさして表情も変えずそれを読んだ。

「…ゴロワーズさん、流石にやばいですぜ…このまま
 あそこに居るのは…」

なるほど、ブロムナードが消されたわけだ。
親子二代で働いているのは何か縛りがあるからだと
直感はしてたが、憶測ながら俺の推理は
間違っていなかったらしい。

俺はミルデの得意先の一人なんで、こいつも
俺をこのまま事件の渦の中に置いておくのは
まずいと思ったんだろう。

「…なるほどな…だが、多分まだしばらくは持つだろうよ。
 社内でもこれに関しては別働隊と言うか…
 音楽で言うなら覆面ユニットみたいなもんでな…
 まったくこれに関してタッチしてない奴が殆どだ。
 追求があるとしてトカゲの尻尾きりの可能性もある」

「…危険ですぜ?
 あンた、ただ能力を活かしたくて鞍替えしたんでがしょ?
 今のK.U.D.Oなら…まだあンたの活きる場所がありますぜ
 …それともゴロワーズさん、あンたもしかして
 BCで探ってる事があるとか…?」

「…探ると言うかな…、俺は見届けねばならんものがある。」

「そりゃBCに居ないと出来ないことなんですかい?」

「…理想は社内だな、お前は俺に義理立てする必要は無いよ。
 まぁ…そうだな、俺はまだまだ死なんよ、安心しろよ。」

「…勘弁してくださいよ…俺っちは…売る価値の無い奴には
 情報は売らない主義ですからね…お飯の食い上げになる
 …まァ…あンたに考えがあると言うのなら…」

ミルデがきびすを返そうとするとき

「だが、なんにせよ貴重な情報だったよ、有難う。
 これで否応にも大きく全てが動き始めるだろうな。」

猫背の後姿で右手を上げ軽く振りながらミルデは

「…なんか俺っちも…っつーかロンドンはやばくなるかもっすな…
 わかりやした、俺っちはやばけりゃ逃げますが、武運は祈りますぜ。」

夕闇にミルデの猫背が人波に消える。

…さて、土産話も出来ちまったな、
ダビドフの抱えた仕事の奴の潜入先と思われる場所の二つのうち
一つを勘で訪れてみた。
閑散としたアパートの一室で、向かいのアパートに
ダビドフが細い鉄線を密かに敷き、糸電話で盗聴してたって訳だ。

窓際に奴が座り込んでた。

「…いよーぅ…」

「…殺されたのはやはりブロムナードでよかったか?」

「…見ちまったー。
 まぁ俺やお前を飼ってるんだ…簡単にゃア勝てねーとは思ってたがよー。」

俺も奴の隣に座り込みながら。

「…情報屋が「号外」をくれてな…
 20年前噂になった暗殺養成所…癒着の黒幕はウチだったよ。
 お前知ってたか?」

「…ああ…?
 いや、しらねーな…そうか…ナットシャーマン二代で
 その秘密を守ってたのか…」

「多分…ジョーンを殺れるものならやってみろ的に
 プレジデント直々にジャーナリストへそれとなく情報流させたぜ。」

「…そーいやそんなこと言ってたなァ…
 なかなか見事に散っていったぜ…
 …ちきしょー…プレジデントの奴…マジで人食いなんだなーァ…」

「…腕じゃあなくて指先がプラズマ化出来るようになってたようだ。
 能力を100%消化できるわけじゃあないみたいだが…」

「…なるほど…食った奴の能力を得られるのかァ…
 そりゃー…俺たちもやばいねー」

やばい言いつつダビドフはタバコをふかしだした。

「いや…ストレートに食えない事情があるぜ…
 確証は無いが…もし多少レベルダウンしても
 食った奴の能力を一律に保持できるなら
 俺たちはとっくに食われてるはずだ。」

「消化率を上げるスタンド使いが欲しいか…
 それとも…古い能力から弱まってゆくかするのか
 得た能力を断片化させること無くデフラグ(最適化)
 できるスタンド使いを探してるか…ってトコかねーぇ?」

やはりこいつも…かなり切れる奴だな。

「…俺もその二択だ。
 今後その動向はそれとなく監視する必要があるな…」

「…それでなんだ?
 オメーさんがわざわざそれを言いに俺を探すとは思えんがねェ?」

「…ふふっ…鋭いな…
 プレジデントからの命でね、俺と組んで俺が調査してた
 「限りなく黒」の鉄工所を完膚なきまでに破壊して来いとさ。」

「…それも今すぐって奴だろ?」

「…ああ」

「やれやれ…しゃーねーなァ…」

床に1/3ほど残ったタバコをこすって消し、それを鉄化…
いや、どんどん縮んでゆく。
…夕闇に薄ぼんやり光ってるんだが…やばくないか?

「行こうぜー。 ああ、こんくらいの量なら体に入れない限り平気だぁーよ。」

立ち上がり、怪訝な顔で俺はそれを見ながらアパートの一室を
ダビドフと出た。

「誰かが…浮浪者辺りが拾ったらまずいだろ…」

「ハン…、「怪しい」ってモン気楽に拾う方がどうにかしてるぜ。
 地球で天然に存在できる最も重い元素…プルトニウムだぜ、
 やばいもん拾ったと思う頃にはお陀仏かも知れんが、自業自得だね。」

「こんなところにプルトニウムが普通落ちてるかよ…」

「はっはっハァーッ! ちげぇねえ…w」

ダビドフは振り返り、指を鳴らすと、その薄明かりは消えた。

「プルトニウムの壊変…まぁ幾つか道はあるが
 とりあえず鉛になる道を歩ませた。
 これならほぼ無価値だよなァ?」

「…まぁ、いいんじゃあないのか?
 無用にまた放射性物質やらが撒き散ったとあれば
 ロンドンから出られなくなるぜ。」

「おっとォ…そーいやそんな事件もあったんだなァ
 ご用心ご用心、」

「…お前が言うなよ…。」

やれやれ、珍道中を予感させるな。
…ああ、ここで結びっぽいんだが…
まだK.U.D.Oの方の結びが終わってないんでな…
次の幕まで付き合ってもらうぜ。

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