L'hallucination 〜アルシナシオン〜

CASE:FIVE

第五幕


キラキラと光る粒になってどこか空に向かって散って行く汐留とそれを微笑みで見送る葵。
その様子を「葵ちゃんは強くて優しい子だな」と思いながら見つめていたあやめが
ふっと弥生に視線をやると、弥生は二人を見ていられなかったのか
東側の空を見上げながら、涙を流していた。

あやめには判った、それは感受性がそうさせたのでも、
二人に入り込んだからでもない、
自らの初恋の成就を思いだしたのだ。
弥生にとって、初恋はそれだけ重い出来事だったのだ。
まぁ端から見るだけの恋をした相手がその恋人に殺され怨念化して六年何も出来ず
やっと、駆け出しの自分が回りの協力を得て解決できた事件であり昇華成仏だった、
そんな、未熟だった自分やその思いを省みて弥生は涙を止められなかったのだろう。

この人は、どんなとぼけた行動を取っていても、純粋な人なのだ
あやめがそう思って弥生を見つめていると、弥生はその視線に気付き焦って涙を拭った。
裾じゃダメだ、とハンカチを取りだして一生懸命誤魔化そうとして笑った

「いやぁ…w」

「いいんですよ、振り返るのも道じゃないですか」

あやめの言葉に切ない表情を見せたまま微笑む弥生があやめを見つめ返した。
そしてあやめが弥生に

「あの…その…「十条さん」だと厳密には裕子ちゃんも居る訳で…その…ゴホン
 弥生さんって呼んでいいでしょうか」

弥生はフフッと笑って

「そういう言い訳が必要な状態だと、私は「富士さん」で継続かしらね」

そこへ気分も晴れやかな葵が

「ええー? ボクは? ボクは「あやめさん」って呼んでい〜い?」

あやめはにこやかに

「うん、葵ちゃんに懐かれるのは純粋に嬉しいから、いいよ」

やったー! と喜ぶ葵を余所に弥生はしけたツラをして

「私はダメなの? なんで?」

ハンカチを噛んで泣き真似をする弥生にあやめは

「本郷さんに「お前ら遂に出来たか」とか言われるのイヤな物ですからw」

「本郷めぇ…(ちょっと殺意が見えた) じゃあ、本郷の目がない時…
 ウチの事務所とかそう言う場所でならいいかしら…?」

「ええとそれ…徹底できます?」

弥生は渋い顔をして

「…が…頑張ります」

あやめも困り笑いというか少し渋い表情を見せ

「うーん…w まあ…じゃあ、いいですよ、本郷さんにヘンなネタ
 与えない程度にお互い楽に呼びましょう、でも、ちゃん付けは
 流石に24歳の身空で恥ずかしいのでちゃん付けはやめてください」

CASE:1の時に最初にそう呼んだのをあやめは覚えて居た。
凜のような親族とか幼なじみで小さい頃からそう呼び合う仲なら兎も角…と、
その細かい条件付けを聞いて居たのか居なかったのか、
弥生は葵と一緒にはしゃいで喜んでいた。

本当に、純粋な人なんだ。
しょうがない人達なんだけど、実は凄く強くて怖い人達なんだけど、
それは純粋だからなんだ、あやめは微笑んで

「…さぁ、とりあえずテレビ塔の警備室にだけは今から行きますよ、
 最低限の仕事はしてしまいましょう、他については
 屋外カメラの位置等情報の入ってるタブレット取りに一回署に寄らせてください、
 一応署から役所に旭山記念公園の事も伝えておくか…一応現場写真は押さえたし…
 今日はそれでいいです、私物も弥生さんの所に置いたままですし、
 私の車でそちらに行って、今日は泊まらせてください」

二人は喜んで

「大歓迎♪」



あやめの朝…目が覚める直前の何となく覚めかけた夜中から続く思考…

署について少し仕事をする間に、弥生と葵はほぼグロッキーになっていた。
「祓いの力を行使すると体力を消耗して食欲を増進させる」
今までの情報を繋ぎ合わせるとそんな感じだ…そう、
確かに彼女たちは強い、でも、無限に無敵でもないのだ。

もし、私が「敵に」操られ、普段は普段のまま過ごしつつ、こう言う時にスイッチ入って
二人を殺すようにされていたら…この二人は対処できるんだろうか…
多分出来るんだろうけど…少し不安になる。

署に止めておいた自分の車に何とか寝惚けた二人を乗せ、
弥生のマンションに着き、何とかエレベーターに乗せて十二階…(最上階ではない)
何とか着の身着のままだけれど、ベッドに寝かせて、自分もほぼそこで
気を失うようにして彼女たちの隣のベッドで寝たのだ。

ダブルベッドが二つという寝室だが、ほぼ弥生は葵と一緒に寝ている。
昨夜は流石に二人ともグロッキーだったから燃え上がるも何もない。

覚醒に近くなったあやめの嗅覚に美味しそうなカレーの匂いが…

「…ん…」

あやめが目を覚まし、隣のベッドを見るとまだ二人は寝ている、
しかも二人を寝かせた時自分も限界で掛けて上げる事も出来なかった毛布も
二人のお腹や下半身部分を冷やさないように掛けてあった。
…あやめにも。

「…じゃあ、誰が…あれ? 私鍵掛けるのだけはちゃんとやったはずだよね」

ダブルベッドから半分降りつつ、ちょっと両手で顔を覆って気を入れる。

そしてキッチンに向かうと、そこには、私服にエプロン、ご機嫌に鼻歌を
歌いながら昨日のカレーをどうも多少追加して再調理しているらしい裕子であった。

「裕子ちゃん…?」

「あら、富士さん、お早う御座いますわ
 何かお仕事があったようで事務所テーブルのコップはそのままでしたし
 ベランダへ通じる窓もそのままでしたし、皆様着の身着のままでしたし
 少々危機感が足りませんことよ?」

この子にそれを言われるとは…流石のあやめも心外に思ったが、
確かに昨夜は色々急で限界で色んな事が半端だった事は認める。

「…ん? 裕子ちゃんはここへは合い鍵で?」

「はい、叔母様から住居の方だけですが、住居から事務所へは中から行けますし」

「…あれ今日学校は?」

「ゴールデンウィークですわよ? わたくしの学校はこのまま五月初旬まで
 ずっと休みですの♪」

「凄い、ああ、だから四月のヘンな時期にテストなんてやってたんだねぇ」

「そのようですわね、叔母様達はまだ目が覚めません?」

「彼女たちは昨日物凄く…弥生さんは強めのチカラで二人分の飛翔の詞、
 その後戦闘フィールドをつくって維持とか…
 葵ちゃんは闘いつつ弥生さんの仕事の出来上がりを待ってから一気に本気の四撃
 多分凄く疲れたんだと思うよ」

「話を聞くだけで凄そうですわ、矢張りわたくしはまだまだ叔母様の領域へは
 辿り着けませんわね」

「裕子ちゃんは絶対領域的フィールドとかは?」

「出来ますが、多分範囲数十メートル数十分が限界かと思います
 美術館のあの時よりわたくし少しチカラの使い方も心得ましたが、
 それでもまだそんな物です、増して飛翔の詞を活かしながらですから…
 格が違いますわね…」

「でも、「全く同じように」にさえ拘らなければちゃんと似たような所に
 辿り着けるよ、大丈夫裕子ちゃん、なんか凄く飲み込みよく成長しそうだもの」

「そう言って頂けると、気も休まります、お二人が起きないようですので、
 富士さんはシャワーでも浴びてきてください」

「あ、そうだ、裕子ちゃん」

「はい?」

「まぁ、もしそう呼びたいなら…あやめで…名前の方で呼んでいいよ
 昨日二人にその許可しちゃったし、裕子ちゃんにだけしないとか不公平だもんね」

裕子は凄く嬉しそうにして

「いいんですの? では、あやめさん、お着替えの用意をなさって、
 シャワーで昨夜のお疲れを流して来てください♪」

あやめは微笑んで

「じゃあ、ご相伴にあずかります」



とりあえず下着だけ着替えを用意して後はそのまま昨日のスーツでいいかな
(警察署まではスーツ、ここに来てから私服に着替えていた)
と思っていたのだが、シャワーを浴びている時に裕子がドア越しに

「下着の替えはあるようですが、お召し物が両方とも少々汚れがありますので
 洗濯をしますね、叔母様の余り着ていらっしゃらない私服でお過ごしください」

「え"ッ !?」

「何か不都合御座いました? 申し訳ありません、既に洗濯機の中です」

「あは…はは、それじゃあ、それでいいや」

署に出勤するつもりだったが…ま、特殊任務中ってことでいいや…と
今の自分の立場にちょっと甘えたあやめはシャワーの後、着替え類などをみて

「…裕子ちゃん、脱いだ方の下着まで洗っちゃったのか…なんかこう、距離感が…w」

おしとやかなお嬢様のようでどうもグイグイ来る感じもある、
妙な下心は感じないし純粋に厚意なのだろうけど…私が仕事ではなく
単純に遊びに来たと思っているんだろうなぁ…と、
着替えに持って来た新しい下着を着け、弥生の服…といえど
タンクトップにかなり丈のあるチュニック、七分丈のスパッツという感じで
体格や体型差に余裕のある服をちゃんとチョイスしていて、
裕子ちゃんもいいお嫁さんになりそうだけど、レズビアンなんだよなぁと
微妙にもったいなさというか納得仕切らない何かを感じつつ、
着替えてリビングに行く、至る所が防音処理されたこの家のため
うっすらと何か音楽が聞こえるくらいだったのが、ドアを開けると…

弥生と葵が起きていて、タンクトップやキャミソールに三分丈スパッツ
と言う出で立ちでラジオ体操第一をしていた。
かなり本気で、しかも体操時に何か「体に負荷を掛けている設定」らしく
軽く汗をかきながら真面目にやっていた。
ラジオ体操は、本気でやると結構体中に効くんだよねぇと思ったあやめは

「あー、私も参加すれば良かったかなぁ、でももうシャワー浴びちゃったしなぁ」

と言うと、丁度最後の伸びの運動でラジオ体操も終わる頃だったため、
葵がさわやかに

「明日以降も泊まるなら一緒にやろうよ!」

と声を掛けてきた。

ふー、と深く息をついた弥生も軽く汗した体は葵ほどではないが結構鍛えられていて
この習慣を続けたら若々しさが保てそうだなぁ、とあやめは思いつつ

「そうしたいけど、幾ら特殊任務って言っても…今日はちょっと
 不可抗力(洗濯)で署に出られないけど、明日以降は流石になぁ」

すると弥生が

「ウチを起点に動き回ったんだから一つ一つ証拠になりそうな物潰して行くのに
 時間が掛かるとでも言ってウチを基準にするといいのよ、実際
 よしおを最初に追った時と、その後旭山記念公園に突っ込むまでは
 領域指定なんかしてなかったし、高さ100m程の飛行で点にしか写ってないにしても
 何かに写った可能性はあるわ…まぁそんな物わざわざ細かく検証するヤツなんて
 ほぼ居ないだろうし本郷もそう考えるかも知れないけれど、
 ゼロとは言えない懸念を何もしないウチから「どーでもいい」とは
 捨て置けない性格してるから、言ってみるといいわ」

「それ言われてしまうと、私も捨て置けない訳なんですが」

「でも実際、「このくらいならいいか」なのよね、多分だけど…」

「でも数日となるとその…流石に「お邪魔」じゃ…ありません?」

弥生はニッとして

「そう言う時に少し間の ラ ブ ホ テ ル 。
 中学の頃から馴染みの所があるからちょっとしけ込むかもね」

あやめの顔が真っ赤になる「中学の頃から」きっと、阿美の事なのだろう。

「中学の頃から馴染みって、そんなのアリなんですか?」

「今から思うと当時の私も阿美も馬鹿よねーw
 でも、なんかそこのオーナーとは割と話すようになって仲良くなったし
 お互い、お互いの事には口を出さないって暗黙の了解できたから
 今でもちょくちょく使ってるのよ?」

「そ…そうなんですか(汗)」

「さ、葵クン、一緒に汗を流してしまいましょう、もう空腹が限界だわ」

「うん!」

二人一緒に浴室に入っていった。
裕子はそこでまた甲斐甲斐しく彼女たちが脱いだ物を集め洗濯機に入れ
(なぜかここには二台洗濯機があった)
洗濯を開始し、着替えの用意をして浴室の着替え場所に置いておくのだ。

しかもその間、カレーの煮込みも継続しつつ、だ。
うーん、凄い。
あやめは裕子に

「準備くらいなら手伝うよ」

と声を掛けると、裕子は微笑んであれこれと指示を出す。
そんな最中にぽつりとあやめが

「…あの二人が一緒にシャワーって、中で燃え上がってないかな…」

言っててちょっと顔の赤らんだあやめ。
裕子は優しく微笑んで

「それはありませんわ、空腹には勝てませんことよ?」

確かに、昨夜とちょっと違うもっと美味しそうなカレーの匂いが渦巻いている。
あやめの空腹も限界だ。



それは凄い光景だった。
弥生ですら恐らく器抜きでも一キロを超えるカレーライス、
葵もその倍以上は軽くあるカレーライスをがつがつと食べた。
行儀だの何だの…まぁ最低限の下品さは回避しつつ、それでも勢いよく食べた。
しかも美味しそうに。

実際、裕子が手を入れ直したカレーは昨夜のふつーの「ビャーモントカリー(商品名)」
ではなく、何かもう少し高級な味わいになっていたし、肉に新たにささみと思われる
鶏肉、後載せの具として蒸し野菜などを加えた彩りも栄養価も考えた物。
元々市販のカレールーが油脂で固めてある事もあり、なるべく脂を追加しない
カタチで裕子はカレーを作り直していた。

弥生が全く料理がダメというのに、裕子のはカレー一つ取っても何か凄いなぁ
と言う感じだった。

ちなみに裕子もあやめよりは多く食べていた、やっぱり祓いの能力に関係するのかなぁ。
しかも何と全員少しお代わりまでした、美味しかったのだ。

そんな食事も過ぎて折角だからとあやめは申し出て後片付けと洗い物だけは担当し、
洗い物をするあやめの後ろのキッチンテーブルで一息ついたって感じで
満足そうな弥生と葵、ちなみに弥生はいつ仕事が入ってもいいように
いつものスーツ姿(ジャケットは脱いでる)で、葵は三分丈スパッツに結構
切れ込みの深いホットパンツ、白いタンクトップという出で立ち。
外出時はジージャンを羽織るらしい、ちなみに弥生は特注ではあるが割と普通のブラ
葵とあやめはスポーツブラだった。
裕子は多分ちょっとお洒落めな特注のだろうなぁとか何気にあやめは思って
「私、何でそんな事考えてるんだ…」と顔を赤らめて洗い物に集中する。

弥生がふと

「裕子、北大はいいとして通うのはここから?」

「はい? ええ、計画ではある意味「ここから」なのですが」

ある意味?
どう言う事だろうとあやめは考えるが、弥生はそこまで余裕がなかったらしく

「ええ…まぁ…その…いいのだけど…裕子…この際だからはっきりと…」

裕子は何を改まってこの話題をと思っていたのが合点がいったらしく

「叔母様? ここと言っても別室を借りるか購入するかで考えておりますのよ?
 世帯は別です、それに叔母様」

裕子は…ここがちょっと小悪魔的かも知れない微笑みを見せる
あやめも何かドキドキして手が止まって事の経緯を見つめていた

「「手ほどき」はわたくしが望んだ事ですし、もし今後も機会があればとは
 望んではおります、でも流石に叔母様の愛人を狙うつもりはありませんことよ?」

なるほど、この子は小悪魔だ…あやめは何となく裕子の強かさも感じた。
おっと…あやめは洗い物を再開した。

「そっか、やっぱり抱いては居たんだね、この甲斐甲斐しさ、
 ただの尊敬じゃあないよねとは思ってたけど」

葵がさらっと言う、裕子はそれに事も無げに微笑みながら

「まだ葵クンが小学生の頃ですわ、叔母様も我慢が限界だったようですのよ?」

「そっかぁ」

「はい、色々タイミングが重なった事、祓いの事…受験のこと…思春期があって
 なった事です、わたくしはそれはそれで素晴らしい体験だったと思っています」

「ここのどこかを借りるか購入するかって?」

「買うとなると相続しましたお婆様の遺産では足りませんし…祓いの稼業の
 アルバイトで使って貰うにしても、学業と両立できるか甚だ疑問です、
 といって借りるだけ…となりますとそれはそれで将来を見据えて馬鹿になりませんし…」

うん、この子、やっぱり結構計算高い、末恐ろしい子…!

今まで心臓バックバクで生きた心地が半分しなかった弥生だが

「…判った、貴女のお婆さん…詰まり私の母の遺産は私にはまだ残ってる、
 それを…奨学金のつもりで提供するわ、あと、おうじ↑事件については
 ホント感謝しかないから、私に援助はさせて…貴女の性格的に
 返さなくては気が済まないというのなら、それは大学卒業が見えた辺りでもう一度
 考えましょうよ、とりあえず私は今自立できて葵クンを養ってその上貯金する
 までは一応出来てるから、貴女さえ良ければ受け取って、
 そして今後も私の仕事を手伝って、それでいいわね?」

裕子はパッと表情(かお)を明るくして

「いいんですの? 嬉しいですわ!」

葵も屈託無く

「じゃあ、おねーさん来年にはご近所さんに成るかもなんだ!
 そうなるといいなぁ」

そこへあやめがあらかた洗い物を終え、手を洗いながら
コーヒー(エスプレッソではない)を淹れて席に着きつつ

「そう言えば、どこの学科を受けるの?」

「はい、個人的には理学部で天文学を…と思っていたのですが
 先のおうじ↑事件で医学部もいいかなぁと思っておりまして…
 と言いますのも、割と凄惨な現場もこれから目撃するようになるでしょうし
 人体の怪我に関し「無かった事にする」能力も「どこをどの程度」を理解した方が
 効率よく能力を奮えるかも知れません、現実の医療に触れて置いた方が
 今後何かと役に立つ事は間違いないわけで…それも悪くはないなと思っております」

しっかり者だ…
それに関しては弥生が、

「それは貴女の選択する貴女の人生、私らがどうこう言うべきではないのが基本だけれど…
 確かに助かるわね…とはいえ…北大の医学部まで出して就職先が探偵じゃあ
 兄と義姉(あね)も少々複雑かもね(苦笑)」

裕子はちょっと考えて

「探偵って儲かりませんの?」

と弩キッパリ聞いた。
弥生は独り立ち直後辺りの苦労をちょっと思いだしたか落ち込み加減に

「祓いだけじゃ食ってけないわよ…」

「そ…そうなんですか…判りました、その辺りも覚悟を決めます、
 医学部を出て叔母様の元で働きますわ!」

しっかり者なんだけど何かちょっとずれてもいる、そこが魅力と言えば魅力の裕子。
弥生は苦笑しつつ、葵を撫でながら裕子に微笑みかけ

「では、先ずは北大医学部に受かるところからスタートね」

「はい!」

何気なく、ダイニングルームから見えたいい陽気にあやめが何となく

「じゃあ、何となく話もまとまりましたし、散歩にでも行きますか、
 この辺り川沿いがちょっと散歩コースチックですよね」

弥生が「いいわね」と微笑み、葵が「みんなで散歩だ♪」とはしゃぐ
全員女って所がどこか何かが異常なのだけど、でも彼女たちにとっては
ごく自然な事であり、うーん、なんか、この常識の綱引き、手強いなぁ、
とあやめは思った、でも、いい天気に散歩をしたい。
空を見上げて深呼吸したいな、とあやめは思った。

あの子…汐留は次に生まれ変わった時には、今度こそ幸せになって欲しいとも思った。
それはもう法律だ常識だの世界ではない、願いはもっと、純粋な物だ。


第五幕  閉


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