Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Ten

第四幕、開幕


次の日から放課後…或いは若くして進学を諦めていた者を含めまず全員に
科学の力なくして解明の見られなかった事例の紹介を始めた。
そしてまだまだ知の世界に限りがないことも。

そして、年齢もバラバラな彼ら彼女らに対し、どの程度の学力があるのかを
テストした、それによっては学年を遡る者もあるが、それは恥ではなく
一つ一つ理解をして納得して行けばよいのだと、背伸びをするより前に
地固めをすることがいかに大事かを説いた。

勿論総合教育としてなので国語…この場合フランス語であるが…その指導も
子供によっては行わねばならない。
これも教本に使うような物は彼女が教科書を参考に他の国の児童出版物を含め
どういう伝手でそんな物を探してくるのかというようなものまで「良い」と
思ったものは取り寄せ、勿論翻訳を施してから教材にした。

彼女は年齢などでグループ分けをしてそれぞれを指導する。
やって良いこといけない事と言った物は普段のちょっとしたトラブルの中で
それを解決して行く中で示していった。
勿論ヴォーグ家の長男君もこの中で一人の生徒として過ごしていた。

普段は優しいジョアンヌであったが怒る時はとても怖かった、声を張り上げたり
ヒステリーを起こすことはなかったが、淡々とあらゆる面から結局は
その時にベストと思えるジャッジを冷酷なほどに下す人物だった。

徐々にその名と指導の成果は広がり、時にはこの私塾に希望者が殺到することもあったが
場所的にも時間的にも余裕のないヴォーグ家では一定以上は流石に拒否するまでになっていた。
ヴォーグ家の本分としてはジョアンヌはハウスキーパーであり、自分の息子の家庭教師なのだから。

1934年に成果が見えてきて一定に達したと思えてから、ジョアンヌはリーゼに手紙を出せた。
以降、二年置きくらいに1940年までちょくちょくと手紙を出すことになる。
その中で「そもそも何故核崩壊は起こりうるのか」という疑問と、幾つかの予想も込めて
送っておいた、これにはリーゼの研究ネタに寄与できるのかも、という彼女なりの
提示でもあったのだが、リーゼ・マイトナーにはこの時余裕が失われかけていたので
「興味は引いた」けれど手は付けられることもなかった。
結局それに関しては、戦後…1940年代後半に向かうまで待たねばならなかった。

1935年、ついに少しずつ行われてきたジョアンヌの引っ越しは完了した。

最後の荷物はそれほど多くなく、またパリの下町を颯爽と歩くジョアンヌに
ジタンヌが気がついて

「先生!」

「ジタンヌ、ごきげんよう」

「今度は少なかったね?」

「ええ、もうこれで最後よ、ドイツの方の家は引き払って来たわ」

「お部屋にお邪魔してみていい?
 だって、二年かけて行ったり来たりした紙の束ってどんな量なのか気になるんだもの」

これも知的好奇心には違いがないか…、と彼女はちょっと苦笑し、少女を招待した。
その日は休日でヴォーグ家も家にいたが、ジョアンヌの荷物が最後と聞いていたので

「…良かった、最後がそのくらいで、折を見て何とか整理もしてくれ給えよ」

ジタンヌが個人的訪問と言う事で家人に茶を振る舞うついでにジタンヌと自分の分を
持って、屋根裏部屋に行った。
ヴォーグ家長男君…モントも日頃から興味があったので同行した。

二人の子供達はその有様に口を開けた。
紙・紙・紙、幾らか本もあるが、殆どは色んなサイズのバラバラな紙であった。
そしてそのほぼ全てにびっしりと書き込みがしてあったり、タイプライターで
打ち込みがしてあったりした。

どうもタイプライター文章が「整理分」であり、今彼女は開いた時間で
その山のような書類を整理していたのだ。

これだけ勉強をしていれば…そりゃあ私塾の一つも開けるだろう。

「これ…整理した後手書きのはどうするの?」

ジタンヌが圧倒されながらも聞いた。

「捨てるのも勿体ないのよね…なんとか再利用できれば…と思っているわ
 細かくしてインクの成分を抜いて再生紙にできれば」

「そんなこと…出来るんですか?」

モントも聞いてきた。
リサイクルの概念自体は存在したが、余り身近ではなかった事も一因だった。

「小規模なものなら…実践も始めているけれど…」

彼女はその「再生紙」を見せてみたが

「あー…確かに「再生紙」ですねぇ…完全にインクを抜くのも難しいでしょうね」

新たに書き込む分には問題はないが、それは確かに細切れになった紙から
出来る限りのインクを抜いて再び漉(す)いたものであり、真っ新とは言い難かった。

「容赦のないような溶剤とか使えばもう少しいいのかもしれないけれど…
 それは環境にも健康にも良くないし、まぁこれでもテスト用紙や
 解答用紙や…或いはノートをとるのに辛い子にはいいでしょう」

それにしてもこの紙の山は…ジタンヌは再生紙元も角、それを待って居るであろう
書き込み済のこの大量の紙に

「これも…買っていったの?」

「ええ、まぁ安くはなかったけれど、大量に書き込んで積んでおくには
 やっぱり紙が一番ね…ただ、それももうここのある分は再整理するだけだから
 わたしの番は終わったわ、次に使う人に託すとするわ」

「先生は…これだけの紙をもしこのレベルでも再生できるのなら…
 これはこれで商売になりそうなのですが…何故そうしないんです?」

モントの純粋な質問だった、確かにこれだけの紙を集めるだけでも
結構な一財産だっただろう。

「…うーん…もう十分役に立って貰った…というか…
 余りこれで再び儲けようとか元を取ろうとかは思わないわね
 あまり物に執着もないの」

「…そういえば…服とか…普段の生活用品みたいな物ってあんまりないね」

ジタンヌがきょろきょろして言うと

「そこは最低限、残る余力は全部勉強に捧げたの」

この徹底ぶり、ご飯なんて満足に食べられる日も無かったのではないかと
思えるような有様だ、増して今だって、一応三度の食事は摂れているが
モントによると量も少なめのようであるし私塾だって貯まる物はクッキーばかり。

「先生は…何故そうまでしてお勉強をしているの?」

「これこそがわたしの知りたかった物だったから、よ
 …そうね…理屈が欲しかったの、何が起きているのかを説明できる理屈が」

それは彼女の「能力」についての動機ではあるが、彼女はそれを一般的に
表現していたため、謎めいたこともなく、聞く人によって「向学心がとにかく旺盛な人なのだ」
という印象に繋がった。

ジタンヌは、そんな紙だらけの屋根裏部屋の僅かに見える壁に小さく控えめな
写真が一つ飾ってあるのが見えた。
白人の女性のようだった。

「…これ…だあれ? 先生の先生?」

ジョアンヌは微笑んで

「こんなわたしに良くしてくれた…先生と言うよりはヒーローだわ」

それが意味するところは二人にも判った。
モントが気を取り直すようにジョアンヌに聞いた。

「それにしても小さな…写真ですね、どなたですか?」

「もっといい写真も貰ったのだけど…何しろこの有様でしょう? 飾るのも勿体なくて
 彼女はオーストリア出身の物理学者、リーゼ・マイトナーよ
 彼女も大変な苦学をしてドイツで研究者・教授として忙しい日々を送っているわ」

「オーストリアですか…ドイツとの絡みもなかなか大変なようですが」

モントはジタンヌと大差ない歳(この時で10才ほど)ではあったが、少し
考えや言動が大人びていた。
大きな度のきつい眼鏡をかけた、線の細い少年であった。

「ええ、それでわたしもフランスへ…ね」

なるほど…と流石にそれ以上は聞けなかった
ヒーローか…ジタンヌには何となくそれは胸に残った。



時が経ち、1939年であった。
9月1日、ドイツ軍がポーランドへ侵攻し第二次世界大戦の始まりとされた日だ。
(実際はアフリカなどで色々と各国の動きや思惑が重なり不穏な空気は
 この数年ずっと渦巻いていたわけであるが…)

しかしこの9月1日がまた悲劇の日だった。

ゴロワーズ家は行政書士の父と看護婦の母、そしてジタンヌと生まれて間もない
妹の4人家族であったが、たまたま父の仕事の用事と母の用事が重なり、
14才になっていてそれなりに大人の階段を上っていたジタンヌには留守番を任せ
三人で渡っていた先が…ポーランドであった。

戦闘による…とはいえ、ほぼ事故のような物であったが…若きジタンヌに
その残酷な知らせが届いたのは9月2日のことであった。

当然ジタンヌは深い悲しみに沈み、ジョアンヌの私塾に訪れることもなかった。
その出来事は近隣にはある程度知れており、誰もが軽はずみには声のかけられる状態ではなかった。

しかしその日、塾生達はジタンヌを慰めるために全員でゴロワーズ家に赴き
そこで塾を開こうと盛り上がり、こう言う時は余り触れない方が…と言う意見も
ジョアンヌはあったが、子供には子供なりの世界があるし、通じる心もある物だろうと
子供達の決定に従った。

かつて「クソガキ」だった彼らは軽い口調で、でも言葉は選んでジタンヌに窓の外からでも
庭先からでも語りかけた、モントも「一人で居ては行けない」と言い、その子供達の後ろには
ちょっと困ったような顔をしつつもジョアンヌが居た。

ジタンヌにはぬぐい去れない悲しみがありつつも、それでも前を向こうと
無責任なようでありつつも、それなりに真剣に考えた結果行動してくれる仲間が居るのだと
思うと、悲しい以外にも涙が溢れ、ジョアンヌの胸に飛び込んで泣いた。

これがベストかは判らないが、ベターな方向に転がった事はこの子供達に感謝すべきだなと
ジョアンヌは思い、ゴロワーズ家での私塾開催で暫くを過ごす事になった。

しかし地理的にかなりフランスも不味い状況にある、就業年齢にはまだ少し足りないながらも
そのぎりぎりの年齢であるし、両親がかなりきっちりと財産の管理などをしていたことと
本人の希望もあって当面一人で何とかする事になり(本来は有り得ないのだろうが
 この地域の子供達を中心とした結びつきは結構堅い物となっていて、親同士も
 連携し、支えられる部分はジタンヌを支えることに異論無かった)
ジョアンヌが家事などを教えるようにもなった。

「先生は…ずっと一人なの?」

そんなある日、洗い物をしながらジタンヌが神妙な面持ちで聞いてきた。
もうここにジョアンヌが住み始め6年になるが、彼女を訪ねてきた者は0であるし
いま、たった一人になってしまった事を思うとジョアンヌがどんな気持ちで
過ごしてきたのかを知りたくなったのだ。

「…そうね、でも…それにはどうしようもない事情もあったから…貴女には
 かける言葉もなくて…でも、みんないいお友達になったわね」

ジタンヌはちょっと泣きそうになりながらも満面の笑みで

「うん、先生をからかおうとしてたあいつらも、結構いい奴らになってくれたし
 モントも色々気を遣ってくれるしね…でももうそろそろ…一人だって事に
 慣れなくっちゃ…」

「わたしも…ここに居る間は出来る限りのことはするわ…
 何かステップアップをするようなチャンスは上げられないけれど…」

言っていて、かつてリーゼが自分に言ったことを思い出した。
今こうして、つい自然に同じ台詞が出てきたことに、少しリーゼのあの時の
気持ちも理解できた。
そう、チャンスそのものは上げられないけれど、少しの後押しなら出来る。

「いいんです、あとはわたしの人生です」

「…人生を語るには、まだ少し早いかなと思うわ、でもそうね、いつか考えなければならないことだわ」

「戦争…ここまでくるのかな…」

「…その覚悟はしておいた方がいいかもしれないわ」

「ですよね…どうしたらいいんだろう」

「…何とも言えないわね…でも生き延びて欲しいわ、貴女にも、モントや…他のみんなにもね」

1940年になろうとしていた。



1940年一月、ジョアンヌは所用でスイスに行くと言って出かけていった。
生徒達には「所用の内容」は伝えなかったが、モントはある程度知っていた。

それは親が携わる研究の経過や情報交換を一応の中立区間であるスイスで
行うために、ジョアンヌが「万が一」を考え、申し出たものであった。
「大丈夫、自分一人であればどうとでもなる」と大変な自信を滲ませていた。

「どういう内容なんですか?」

ジタンヌは時々夕食などをヴォーグ家でお世話になっていて
その日もジョアンヌの屋根裏部屋で自習をしながら過ごし、夕食の時に
ヴォーグ氏に尋ねてみたのだった。

「…詳しくは…言えないというか、言っても判らない事なんだ、
 先端科学について、とだけ言っておくよ、前までは科学に国境は無かったというか
 少なくとも「それは別」という感覚もあったのだけどね」

1919年の皆既日食観測でイギリスの観測隊がアインシュタインの一般相対論について
検証をし、確認したという出来事もあった、美談として扱われていただけに
「感覚もあった」というのはあくまで「それが理想だ」という願いに近い物ではあるが。
(ちなみにこの時の検証には後に誤りがあることが判った、しかし
 他の方法で一般相対性理論の検証は進み、現在も続いているが今のところ破綻はないようだ)

「危険なんですか?」

「「万が一」だよ…ただ…私も彼女の自信がどこから来るのかは判らないのだけどね」

「でも…なんなのかしらね…彼女の自信って、確かに「この人なら大丈夫そうだ」
 っていう…なんかいい知れない「迫力」があるのよね」

ヴォーグ氏の細君が言った。
でもなんだか判る気もする、とジタンヌは思った。
彼女が慌てたところを見たことがない。
諦めのような空気の時もあるが、基本彼女は「どんなトラブルにも動じない」
強い心を持った女性だと常々ジタンヌは思っていた。

ジタンヌにとって、ジョアンヌは「特別な人」になって行っていた。
運命の悪戯か一人きりになってしまった自分にとって「あんな人になりたい」という
目標というか、ヒーローになりつつあった。

数日してジョアンヌが戻ってくると、杖を突いていて、左足を少し引きずっていたのを
いち早く生徒達は気づき、手を貸した。

「何があったんだよ」

「大丈夫なのかよ」

口々に声をかけてくれる。
彼らももう就業年齢に達していた者も居て実際私塾を離れた者も居るが、継続して
勉強を続ける者も居た。
抜けた分新たな子も入ってきたり、7年近い年月はもうジョアンヌをこの土地に溶け込ませていた。

勿論ヴォーグ家やジタンヌにも訳を聞かれた。
ドイツにやられたのかとかも聞かれたが…

1940年1月…、それは彼女が「唯一」波紋戦士として闇の生き物と戦った時であり
用事そのものは済ませた後だった物の、その戦いで砕かれた足の傷はまだ完全には
癒えていなかったのだった。

「…いえ、むしろドイツの兵隊さんに助けて貰ったわ、いい人も居るなんて言っては
 いけないのかも知れないけれど…でもわたしが出会った人はいい人だった」

用事自体は問題なく、トラブルとも関係なく終えられたことを告げ、
ジョアンヌはその日をゆっくり休んだ。

ジタンヌはジョアンヌが眠りにつくまで看病し、色々会話をしたが
どんなトラブルがあったかはついぞ教えてくれることはなかった。
何か…知ってはいけない何かがあるのだ、と言うことだけはジタンヌも判った。

春になる頃、誰とは無しに「記念写真を撮っておこう」という話になった。
この素晴らしき日常は、いつか崩れるのかも知れない、そんな予感がしていた。
だがそれを口にすることはなく、主に生徒達皆が集い、集合写真や
幾つか普通のカメラでの撮影も行われた。
そのカメラマンも、かつての生徒の一人であったことはジョアンヌにとって
一種の至福であった、撮影や現像に関する知識も授けてあり、それを元に
彼はその職業を手にしたのだから尚更だ。

ジタンヌはそんな写真家になったかつての仲間に、ジョアンヌの写真を密かに
撮って貰った、彼女は写真に納まるのが余り好きではないらしく、
集合写真と言う事で一枚だけ、と言う形で引っ張り出したから。
(とはいえ、その後のスナップ写真では地味に映り込んだりもしたが)

そして堅実な財産運営をしていたジタンヌが珍しくアクセサリーなども買っていた。

「ペンダントだね」

モントが聞いてきた。

「ええ、真鍮の安物だけどね」

モントはその中身を聞けなかった、モントとしてはそれは家族の写真だろうと
思っていたからだった。

1940年6月初旬。
戦争の不安は広がりつつ、ジョアンヌ達の周りはぎりぎりまで「慣れた日常」を過ごそうと腹を決めていた。
ドイツ軍はそこまで迫っていたのだ。

既にパリ市民は脱出を始めていた、10日にはフランス政府はパリの防衛も放棄していた。

そしてその日はやってきた。

朝早くに私塾のみんなを集め、ジョアンヌは最後にいつも使っていた
余り大きくはない黒板に目一杯、こう書いた。

"Ne cede malis, sed contra audentior ito"

「最後の宿題よ、提出はしなくていいわ、ただ答えを胸に刻んでおいて」

彼らはそれが時々ジョアンヌが学術用語に必要だからと少し教えてくれた
ラテン語であることは判ったが、とにかくそれを書き写した。

そしてこの日は7年続けてきたクッキーの報酬も受け取らなかった。

「多分、パリは占領されるわ、もし…パリを脱出するのなら、どんな僅かな物でも
 貴方たちは大事にしてね」

そうして、私塾の歴史は幕を閉じ、解散した。
みんながぎりぎりまで「慣れた日常を過ごしたい」と願ったことで
いつもならある程度危機を目の当たりにしては余裕を持って別な土地に移っていたジョアンヌだったが
もう、荷物を抱えて脱出するような機会は失われていた。

ただ、僅かな荷物に大事な手紙や封筒を幾らか入れてた。

ヴォーグ家もアメリカまで脱出することになっていた。

「君を連れて行きたかった、申し訳ない」

ヴォーグ氏も、細君も残念がった。

「緊急脱出に一族の者以外の例外は認められない、そんな事は当たり前ですよ」

ジョアンヌは涼しげにそう言って

「わたしなら大丈夫です、モント…アメリカでもしっかり、立派な大人になって」

「はい、今まで有り難う御座いました!」

一族とジョアンヌが堅い握手を交わし、彼らを見送った。
列車…ちゃんと動いてくれるといいけれど…

小競り合い的な物であるが、戦闘も始まった。
…とはいえ、フランスは軍としての抵抗は放棄しているはずであるから…
あくまで個人としての抵抗が起ったと言う事なのだろう…

最後の授業からそれほど間がなかったが…脱出は始められたのだろうか…
ジタンヌはどうなったのだろうか、彼女の家に行ってみようか…

そう思った時に、生徒の保護者が一人、

「先生!ダメだ、ここは危ない!」

とばかり言った時、どこからか飛び込んできた弾丸が彼の頭を打ち抜いた。

ジョアンヌは取り乱しはしなかったが、彼の元に駆け寄り、オーディナリー・ワールドを
出現させ、足掻いた。
脳神経の再縫合に砕けた骨の復元、脳内物質の制御で脳の活動も活発にさせ、
何とか、何とか、彼を治療しようとした。

「無理デス…ジョアンヌ、モウ彼ハ救エナイ…」

人間に使われる物質、その組成、何をどうしたらより早く治療が出来るか
勉強してきたつもりだった。
でも、「即死」と言う状態はもう如何ともし難かった。
科学で魂は救えないのか、自分の能力はそう言う能力ではないのか?

そこでまた彼女は酷い敗北感を味わった。

そんな時に…マントと仮面を付けた男が現れ、畏まった英語で彼女に
「成すべき事を成せ、出来る範囲は手探りで構わないのだから」
と告げて去っていったのである、そしてそれはこれより67年後に出会うポールだった。

彼女は手探りの前に状況を確認したくて方々を回った。

怪我をして死にそうになっている近所の人々をとりあえず
「治療は必要であるが死には至らない程度」に治したりもした。
完全に治すには余りに余裕がなかったのである、彼女の能力は
確かに科学や医学を学ぶことによって格段に治癒力は高めたが、
触れて直ぐというわけには行かず、まだまだ居るだろう怪我人を捜し
最大の危機を脱っすることに注力した。

ゴロワーズ家を遠目に見る場所に行くと、ドイツ軍がちょっかいを出しているようではあるが
「なぜか」その攻撃が無効化されていた。
先ほどの「仮面の誰か」の仲間が居るのか…だとしたら…ジタンヌは無事だろう、
そう思い、重体の者を探してはとりあえず命の危機がないくらいには回復して回った。

夜が来て、朝になった頃には「死なない程度」には回復したはずの近所の人も
軒並み避難していた。

きっと、それもあの「仮面の誰か」やその仲間達が逃がしたのだろうと
ポジティブに考えることにした。
そして彼女は一旦パリを離れ、機会を待つことにした、
それも「仮面の男の予言」に従った物だった。

レジスタンスが形成され、しかし彼女は前線ではなく後方で医療活動に携わったり
しかし時には昔取った杵柄でスパイ活動も行った。

暫くぶりに訪れたヴォーグ家は、それはもう無残な有様であった。
ドイツ軍はパリ市民に対し穏当に接するよう教育はされていたようだが、
反抗する者、或いはその気配には容赦なく接していたし、ここに残ることを決めた
市民が生き残るために略奪をしていったのかも知れなかった。
タイプライターもなくなっていた。
整理し終わった書類も持つ出す余裕もなく紛失、
半分ほどを再生紙としていたあの膨大な紙類もほぼ無くなっていた。
ひょっとしたら、そのドイツ語を始めとした各国語の文章を「英語で」
整理していたことからジョアンヌ=ジョットとしても結構立場が危ういかも知れない。
(科学技術関係のノートやまとめ書類だけに、目をつけられる可能性はある)

ゴロワーズ家は…二階部分が砲撃で壊れている部分がある物の…
ドイツ語で「この家に触れる者に神の災いを」的な警告もあり、家もそれなり
しっかり封印されていたので中は大した略奪もないようである。

窓から中を見ると…どうもあの日遠目で存在を感じた「誰か達」は少しこの家に滞在したようで
床には少し血の跡(量的には大したことはないので治療をしたのだろう)
さらに床にランプが幾つか…そして灰皿に細いタバコの吸い殻が二本あるのが確認出来た。

ジョアンヌはその家の封をさらに堅強に施し、かつ封に使った釘などは
3年ほどで問題なく風化するように調整して、また去ったのだった。

終戦後はまずは何処も疲弊していたが、彼女はリーゼ・マイトナーとは接触しない範囲で
北欧を回っていたりもした。
それはかつて隠した財産の回収目的もあった、北欧にある分は全回収したのだ。

フランスに戻ることは…怖くて出来なかった。
本当なら彼らの教師としてそれは無責任だったのかも知れない。
だが、悲しみに落ち込みたくはなかった。
何人かは生きているだろう、戻ってきただろう、苦しいなか生活を建て直そうと
足掻いていることだろう、だが、戻ることが叶わなかった者も居るだろう
生きていようと、死んでしまったとしてもである。

どうしようもなく、顔向けが出来なかった。
自分が悪いわけでは無いのに、何故かそう思ってしまったのだ。

ジョアンヌ=ジョットは死んだのである、そういう事にしたのだった。
どのみちあれから十数年、全く外見の変わらない自分に不自然さを抱く者も現れるだろう。

暫く彷徨い、1963年彼女はイギリスに渡り、「ジョーン=ジョット」としての人生を歩み始めた。



重い話だった、いい陽気と暖かい空気のリゾートホテルの一室とは思えない空気になった。

「なるほど、会いにくいのは判るわ」

ルナの一言からまた少し会話が流れ出した。

「珍しくその土地に深入りしちゃったんだねぇ」

アイリーも呟いた。

「ええ…ジタンヌとの出会いでその場の空気が変わった事が…
 わたしのパリでの7年間を決定したわね…まだ存命の人も居るでしょう
 わたしは…出来れば全ての痕跡が無くなるまでパリには赴きたくはなかったのよね」

ジョーンのつぶやきに流されかけたその場であったが

「まぁ、それはそれとして俺の依頼は頼むぜ、なんなら今からパリに向かおうか…
 二日くらい余分に部屋リザーブしておくくらいで傾くようなK.U.D.Oじゃあもうないだろ?」

ジタンがそう言う。
さらに

「確かに君は歳をとれない、記憶力も抜群にいい、思い入れのある俺の祖母に
 憧れの目を向けられていたこともくすぐったい以上に心苦しい物もあるだろう
 「そうせざるを得なかった結果」と君は思っているんだろうからな」

ジタンは軽く飲み物を飲みつつ、強い表情で

「だが事実として「ジョアンヌ先生」は彼女のヒーローなんだ。
 少し恋愛に似た感情もあったかも知れない、だが今君は「ジョーン」で
 探偵なんだから、そう言うつもりで…ただ全てを知ってしまった身として
 やっぱり会って欲しいんだ、頼むよ」

ジョーンが「怖い」という感情と戦って少し黙ってしまっていると

「では…ここから二日ほどかけて、今すぐ済ませてしまおう、パリならば
 ここから…乗り継ぎが必要だが飛行機でも行けるし…スペインに入って
 からならどう言う手段でも行けるからね、我々はここに休日で来たのだ」

ポールがルナに促す。

「時間は最短がいいわね、お金はある程度…必要経費として請求できるし」

ジタンを見ると、流石にちょっと焦ったが

「ああ、構わないよ」

「あ、私はここに残る。
 今晩には父と母もこちらに付くから」

ミュリエルが言った。

「じゃあ、リベラ見ててくれる?
 流石に連れて行けそうにないから」

アイリーが言うと、承知した、とミュリエルも答えた。

「おい、ルナ…その検索の仕方…お前まさか陸路で行くこと考えてるか?」

ウインストンが聞くと

「一応見ただけよ…17時間はちょっときついわね…
 やっぱり飛行機乗り継ぎが最短かも知れない」

ルナは直ぐに手配しだした。

そして、ホテルにはそのままの予定日数のまま二日ほど空ける旨を伝え、
K.U.D.Oの面々+ジタンという7人ですぐさま行動したのだった。
勿論ミュリエルとは連絡が直ぐ取れるようにして。



それはもう強行軍だった。
パリに着いた頃には疲労が凄まじいことになっていた。
臨機応変にあらゆる手段を使って移動し、乗り継ぎ、別の地に飛び…
途中で仮眠はとったが、次の日の昼前にはジタンの実家の前に来ていた。

「…確かに頼んだのは俺だが…俺は確か休暇だったんだよなぁ」

「お前が取り次がないで誰が取り次ぐんだよ…俺達だって休暇中だぜ…」

ジタンとウインストンの会話、それが聞こえたのだろう、二階の窓が開き

「ジタン!そしてあんたはウインストン!久しぶりねぇ−!」

「ああ、何年ぶりかなレジェール、相変わらず元気そうだ」

ウインストンが帽子を取って挨拶している。
何気にこれは珍しい事だった。

「捜し物は、見つかった?」

「ああ、あんたのおかげで見つけたよ、で、今ジタンからの依頼で
 ジタンの里帰りプラス社としてお届けに上がったって訳だ」

彼女が窓の奥に戻る、多分玄関まで来るのだろう。
レジェールと呼ばれたジタンの姉はジタンより2才くらい上だろうか?
アイリーが

「…お姉さんなんだから当たり前だけど、似てるねぇ」

ジタンがそれに対して

「まぁ…彼女とそのもう一つ上の姉…イギリスに渡った姉は父親が同一だからな。
 母は奔放な人でね、さらにその上の姉たちになるとまた父親が違うのさ」

レジェールが扉を開く。

「ようこそ、直前にジタンからメールがあったけど直前だから
 大したおもてなしも出来ないけれどね」

「どのタイミングでここに来られるか判らなかったんだ…パリに着いてから
 じゃあないと連絡だって迂闊に出来ないさ…(姉に促されつつ)
 君らも遠慮するなよ、この家そのものは初めてじゃあないんだからな」

確かに…

「妙な気分だわ…つい二ヶ月くらい前に67年前のこの家に来ているのよね…」

ルナが言う、廊下を一団で進んで行くと

「お婆ちゃん、ジタンとウインストンと…ウインストンの会社の人が来たわよ」

レジェールがそう伝える、ロッキングチェアに揺られながら本を読んでいた後ろ姿の老婆が

「ああ、そう、良く来たね…ジタン、今日はゆっくりしていけるのかい?」

「そうしたいんだが…ルナ、帰りの飛行機の時間は?」

「…そうね…というかあたしらに貴方が付き合うこと無いのよ、
 貴方の実家なんだから貴方はゆっくりすればいいじゃない」

「君らもゆっくりしていけよ、帰りも同じような強行軍なんだぜ?
 いいよな?」

ジタンがレジェール及び祖母…ジタンヌに声をかける

「さっきも言ったとおり、大したおもてなしは出来ないけれどね」

レジェールが言うと

「お客さんは何人? ジタンも入れたら…」

ジタンヌが振り返りつつ、一人二人と数えて行く。
玄関に通じる廊下側にまだリビングには入れないで居るジョーン。

ルナがジョーンの故郷の言葉で

「もうここまで来たのよ、腹をくくりなさい」

ジョーンの肩に手を回し、エスコートのような強制入場のような。

その姿に、ジタンヌが声を失ったのが判る。
それもそのはずだ、髪型や服装が変わったところで顔も体もそのままなのだから

「彼女はジョアンヌに近い血縁なんです、ジタンが今年春頃お騒がせしたでしょう?」

ルナはそう言って、ジョーンをさらに促して、そしてジョーンが「依頼品」を手に

「これ…全く別な仕事から偶然見つけることになりました…どうぞ」

ロッキングチェアのジタンヌに対して目線がやや下になるように跪き、両手で
ペンダントをジタンヌに差し出した。

「ああ…貴女は…そう、先生のご血縁でいらっしゃるのね、綺麗な英語だわ」

ジタンヌもレジェールも英語は話せた。
ジタンヌの場合は教師という立場もあるし、レジェールやジタンの父親は
イギリス人だったからだ。

「60年以上も前に崖下に落とした物のはずなのに…こんなに綺麗に…」

それに対しては恭しくポールが

「我が社には多少の物なら直せる技能がありまして、大事な物と
 ジタン君から聞いております、お受け取りください」

流石に切れたチェーンはアリバイ作りのためにそのままにしてあるが
「多少の劣化」を残してそれはほぼ完全な状態にまで戻してあった。
ジタンヌはやや緊張した手でそれを受け取ると少しだけその中の写真を検めつつ

「…ありがとう、これを無くした時はでも、先生から「いつまでも自分を見ているな」と
 言われたようで…疎開先で膝を抱えがちだったわたくしに踏ん切りを付けてくれた
 出来事でもあったわ…今…こうして思い出が…もの凄く似た血縁の人によって
 もたらされたなんて…夢でも見ているかのようだわ」

ジタンヌはそれを握ったまま、それがあったのであろう胸の上に手を当てた。
なるほど、その仕草は確かにソルテ氏の残した…そして小粋の呼び出した「昔の記憶」
そのままの振る舞いだった。

「…でも正直…びっくりしたわ…先生があの時のままでまだご存命なのかと思ってしまったわ」

ジョーンがそのアリバイについて言うか言うまいかを悩んでいる、と言うのが
ジタンやK.U.D.Oの面々には判る、しかしその姿は傍目には
「言いづらいことを言うべきか迷っている」ように見えた

「ジョアンヌはレジスタンスの活動中に亡くなりました…
 …それに…ありえませんよ…あれから60年以上経っているんですから…」

「そうよね…そうなのだけど…でも何故か…先生なら…そんな気もしてしまうの
 7年くらいの交流だったけれど…いつ見ても見た目が変わらないように見えて」

これ以上この二人の会話を進めたらボロが出かねない、そうジタンは思い

「というわけで7人なんだ、そのくらい一晩なら泊まれるだろ?
 君ら(女性陣)は一緒の部屋でいいよな?
 俺達も二人一部屋くらいで別れれば余裕のはずだ」

レジェールがそれに対して

「え…、あ、ええ、そうね。
 今から用意はするから…ジブラルタルから乗り継ぎでここですって?
 疲れたでしょうから、まずはくつろいで」

レジェールがソファの方に全員を案内する。
何てことだろう、ソファそのものは変わっているが、配置が67年前そのままだ。

全員がそれぞれ礼を言い、ソファに座る。
全員が奇妙な気分だった、あの日そこの窓にルナが座っていた
そこの床にジタンがソファの肘掛け部分を背もたれに座っていた
アイリーやケント、ポールは優先的にソファを使い、ウインストンが二階で
外を警戒していたのだ。

ジョーンが座っていたアップライトピアノの椅子はそのままピアノと共にそこにある。

「そういえば…」

ちょっと離れた場所のジタンヌが彼らに声をかけた

「どうしたんだい?」

ジタンが応える。

「…全然別な…とはいえ何故この事を?
 誰にも言わなかったのに…」

それについてはK.U.D.O側でシナリオは決めていた。
スタンドを知らない一般人に事の経緯を話すために、こういった
アリバイ作りは時々して居たし、お手の物だった。

「我が社の最大の売りと言いますか…捜し物に強いのですよ、
 …それでホリデイでジブラルタルに居た時に…別な捜し物の
 依頼がありましてね…ただ、はっきりとそれが判るわけでもないので
 幾つか候補を立てて探していたのです、そのうちの一つがそれでした
 そして、それはジタン君によると六十余年前疎開していた貴女の物だと言うことで
 お届けに参った次第です」

「まぁまぁ…それでお仕事の方は?」

「後は報告のみ、という段階です、そちらは休暇後で構わないとのことですので
 取り急ぎこちらを優先致しました」

ポールの営業トークだが自信を持ち滑舌も良くわざとらしくない範囲で伝えるべき事を伝えていた。
こういう営業トークも学ばなくては…とルナは思った。

「優秀でいらっしゃるのねぇ」

ただここでポールは少し冒険に出た。

「ここまで来るのは大変でした、切っ掛けはジョーン君が我が社に入社したことでしょう、
 ジョット家というのは…なにか運命の女神のような存在なのかも知れませんな」

そこまで切り込むの?とルナは思ったが、「ジョット家」という象徴にしてしまうことで
個人特定をぼかそうという手段なのだろう、吉と出ると良いけれど、とルナは思った。

「…ほんとそうねぇ…あの日彼女と出会っていなければ…今のわたくしは無かったでしょうねぇ…」

ジタンヌの遠い目は、今を肯定している目だった。
決して後悔も、やり残したこともないという目だった。

レジェールが紅茶やコーヒーを持ってきつつ

「丁度お昼ね、何か作るわ、お腹空いたでしょ?」

言われてみれば…という感じで若いケントやアイリーはお腹に手を当てた。

「あ…」

ジョーンがレジェールに声をかけた、席を立とうとしている。
その意味はレジェールにはわかった。

「お客様を働かせるわけにはいかないわ、座っていて」

「でも…本来直ぐにでもおいとまする立場ですし…」

「気にしない気にしない、遠くに散った家族がいきなり帰省して家がごった返すなんてしょっちゅうだわ!」

レジェールは笑って見せた。

「そういえば母さんはどうしたんだ?」

「母さんは、昨日イタリアの方に渡った姉たちの家の方にバカンスかねていってきま〜す、だって、
 相変わらずよ、あの人のフットワークの軽さは。
 ま、ジタンが戻ってくると知っていたら流石に居たかも知れないけれどね」

「そうか、いや、相変わらずならそれでいいだろ…」

ジタンがコーヒーを一口飲む。

「どんなお母さんなの?」

アイリーがついついジタンに聞いた。

「元々なんか奔放な人でね…ファッション業界のアシスタント業務だったかな?お婆ちゃん」

「ええ、そう言う世界に入って…今日であったあの人がカッコイイ、この人が…
 とか…そのうちその人を追ってイタリアに行って結婚したけど…
 何だか馴染めないからって子供3人連れて帰ってきて…その後も
 あっちへ、こっちへ…まぁまぁなんて子かしら…と思ったけれど
 それでも一番判りやすく人生を謳歌している娘だわ」

「えっと…ジタンって何人兄弟なの?」

「上に姉ばかり7人で俺が末っ子だ」

ジタンは淡々とコーヒーを飲んでいた。

「ジタンの仕草が何気に女っぽい理由だぜ」

ウインストンも言う。

「ウインストンは何度かここに来たっていうがよぉー全員知ってンの?」

ケントも質問に加わった

「時期はバラバラだが…全員会ったんじゃあないかな?
 流石にもう10年くらい前の話だから顔まで全員は覚えてないが」

「男らしいお友達だって貴方も随分もてたわね?
 ふふふ…まぁ10も下手したら20も上の女に可愛がられても微妙だったかも知れないけれど」

ジタンヌがその時のことを思い出し微笑む。

「正直面食らいましたけどね…」

「変な意味でなく、男が同じ空間にいるって言うのにやたらテンション上がるんだよ
 ウチの姉たちは…女だらけの家だったからな」

「そっかー、なーるほどねー」

アイリーが深く深く納得している。

「ジタンもじゃあ凄く可愛がられたんだ」

「ああ、もう勘弁してくれってレベルでな。
 家がだいぶ手狭だったし、適齢期の姉たちも結構居たから
 20年まで行かないか…十数年前に散ったんだよ」

「でもまぁホラ…女の勝手な願望が入っちゃうから…どうも見た目に
 「男っぽく突っ張った女」にしか見えなく育っちゃって…」

ジタンヌも言う。

「体も鍛えてるのになかなかウインストン張りの逆三角形にはなってくれなかったし
 まぁ、もう諦めてるよ」

「そっかぁーオメーも苦労してんだなぁー」

ケントの何気ない同情の言葉に少しルナやジョーンが複雑な顔をした。
それは多分遺伝が絡んでいて、ジタンは確かに基本的に男の形をして
生まれては来たが、男の機能までは授かることが無く、かなり中性っぽくなっている。
二次性徴を越えたはずなのに、男の機能がいつまでも目覚めないのは多分何かしら
多分母親側の遺伝の特徴なのだろう。

そしてレジェールの料理と共に、一行は一晩ここに泊まることになった。


第四幕 閉

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