Sorenante JoJo? PartOne:OrdinaryWorld

Episode2

第四幕 開き

誰でも一度は「追われる夢」というのを見たことがあるんじゃないかしら…?

先日に引き続き、ジョーンよ。

夢を見たのね。
そう、追われている夢を。
夢の中の感覚だと…わたしがまだ子供だった頃…?

だとしたら、追ってるのは彼ね…

霧の中をわたしは夢中で逃げている。
 
これは夢だけれど…夢じゃあない。
本物のわたしの記憶が呼び起こされてる…

昨日はいい夢が見られたのに…

嫌だわ…胸が苦しいし、例えようもない「漠然とした」恐怖が迫ってくる。

…誰かがわたしを呼ぶ、ジョーンって。
おかしいわね…この頃のわたしの名は…

「ねぇ、ちょっとジョーン。
 幾らなんでも寝すぎだよ?」

わたしは勢いよく起き上がったものだから
声を掛けてたアイリーやルナもびっくりしてる。

…少し記憶が混乱するわたし。

一気に体から汗が出る。

そう、ここは…ロンドン…いえ、エジンバラに出張中で…
彼女たちはアイリーにルナ。
ここはホテル。
そう、一仕事終えた後。

「…どうしたのぉ?
 いつも静かな呼吸なのに…息も荒いし…」

現実に戻ったわたし、呼吸を整え、少し落ち着いた。

「…いえ、ごめんなさいね、悪い夢を見てたのよ…w」

「波紋って夢はコントロールできないんだ?」

「…できないわ…w」

「出来るわけないでしょ…でも、ジョーン、具合を悪くしてるとか?
 そういうのは夢見に関係してるわよ?」

「…ありがとう、ルナ…そうね…まぁ何ヶ月かに一度は
 こういう悪い夢も見るものなのよ…w」

「どんな夢か覚えてるのぉ?」

「…追われる夢」

わたしがそれを言うと「あー、それって怖いよねー」とアイリーも同調して
自分の見た夢の話とかを話し始める。
いつもの空気、わたしも安心する。

「とりあえず…すごい汗だわね、洗い落としてらっしゃいな。」

わたしの服は一張羅だけれど、服の汚れなんかはオーディナリーワールドの力で
浄化していること、破れたりしても少なくとも新品一歩手前までは
戻せてる、ということを彼女たちももうよく知っている。

だから、とりあえずわたし本体がシャワーを浴びに行く。
あとでアイリーからそれとなく聞いたのだけど、この間に
こんな会話が二人の間であったらしい。

「…あたしが寝る前にヘンな質問したせいかしら…」

「なに? どんな質問したの?」

「「あなたは一体どこに居るのだろう、とても遠く感じる」って」

「…難しい質問のしかただなぁ…w で、ジョーンは何て?」

「「だいぶ遠回りをして生きてきたから…いつか知るときが来ると思う」
 って、そんな感じのこと。
 …それで昔の事思い出させたかなって、ちょっと思ったのよ。
 …だって、起きた時の彼女の目…見た?」

「…びっくりしたみたいに起きてたけれど?」

「…明らかに何かに対して恐怖を感じてた目よ…」

「…そう…なんだ、うん…止そうよ、なんか…かなり凄い人生だったんだろうって
 皆それは感じてるんだし。」

「…そうなんだけど…でも彼女のことをこのまま知らないでいると
 …越えるに越えられない…そんな気がするのよね…」

多分ルナ、あなたの言ってることは正しい。
でも…多分まだ順序が来てない気がする。

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遅い朝食を終えてわたしが少し皆にエジンバラを案内する。
正直、わたしにとってもエジンバラは古い都市だから
詳しいことはわたしも知らないのだけれど。

昼過ぎになってロンドンに帰るため、列車に乗り込む。

四時間半の旅だもの、昼食は車内で。
皆でそう話してタラップを上がったその時…

壁を透過して列車に乗り込んでる男性と鉢合わせた。
特殊なスーツのような形状をした、それはスタンド。

「あ…」

その男性もわたしたちと目が合って「やばい」と思ったのだろう。
逃げようとした。

「フォーエンクローズドウオールズ!」

あ…ダメ、それでは逃げられる…
案の定、彼は壁を透過した。
そう、ケント君の「壁」は今のところ「単に実体化している」
スタンドだから、多分意味は無い。

「アイリー、光の糸よッ、投げ縄のように、「彼」に投げて!」

わたしがそう叫ぶと、アイリーは混乱しつつ、
いつもは円を組むはずの糸をそのまま彼に投げつけた

「「絡めて捕まえる」そう思って!」

アイリーは何がなんだかわからないままわたしの言うように
やってみたらしい、
彼女の糸は最大直径4メートル近くの円を描く、ということは
12メートルほどが射程のはず、捕らえられる!

アイリーの光の糸は彼の足に絡んで巻きつき、彼はその場で激しくこけた。
…ちょっと痛そうだけれど…恨まないでね。

「ポール、あなたのスタンドで押さえて、アイリーの糸で絡み付けて」

アイリーがびっくりしている、こんな使い方は想像もしなかった
というように。

「あなたの糸は本物の糸でも光でもないわ、あくまでスタンドよ、
 物質を透過する能力を持ったスタンドを捕まえるには
 あなたの光の糸はもってこいなのよ。」

「すっげ、アイリー、オメー特技増えたなぁー」

「ううん、言われるがままにやっただけよ、今は「捕らえられている」けれど
 次にやろうとしてできるかわかんない…」

当のアイリーがびっくりしている、まぁ…仕方ないわよね。

「もうそこは経験よ、アイリー、覚えておくといいわ、この感覚」

ルナがアイリーにそういった後、男性に近寄り、目線を合わせ切り出した

「…なぜいきなり逃げたの?」

「……「敵かも」そう思ったからだよ…」

「スタンド能力で無賃乗車とはあまりいい使い方とは思えんが…」

ポールも尋問に加わった。

「無賃乗車じゃねー、荷物の中にちゃんと切符はあるッ!
 ただ、この列車はヤバイ、だからさっさと荷物引き上げて
 別なのに乗り換えるつもりだったんだッ!」

「…なに、それ? ちょっと待ってよ。」

「…話が見えないな、順を追って話してくれないかね?」

「ああー、もう…時間がねーんだよ、出発時刻が迫ってるだろ??」

「だから、かいつまんで説明しなさいな、」

ルナの眉間のしわがきつくなる…ダメよ?
余り彼女を怒らせちゃ…
動くに動けない、スタンドに捉えられたら
「物質を透過する」なんて能力は無意味だと
彼もよく心得ている、諦めたように、一つため息をつくと

「一時間前だ、俺はこれに乗ってロンドンに帰るつもりだったが…
 何せ一時間だ、出発時間までは更にもう少しある、
 散歩のつもりで外に出た。
 フツーにでたんじゃ怪しまれるから、能力でな…」

彼の表情がこわばってくる。

「どこの線路だったかな…どのくらい歩いた先だったかな、
 木々が多くてよく覚えてねー。
 スタンド使い同士がバトルしてたんだ。」

それを聞いたウインストン

「…まぁ、ままある話だな」

「片方の奴はどう見たってそんな強そうな奴でもなくってさ
 「ああ、こりゃ一方的だな」そう思った。
 でも大概病院送りくらいでせいぜいだ。
 流石に殺しちゃまずい。」

「…殺されたのか?」

「…多分な」

「おいよぉ、それでそのやられた奴ほっといて来たのかよォー?」

「…仕方ないだろ? 本当に恐ろしいと思ったのはその後だ、
 勝った側の奴がそのまま奴を線路にでも普通に置いておけば
 まだしもだ…やられた方のスタンドが最後に何かしようとしたらしい…
 それを察知した「奴」の能力の方が先に決まった。」

どんな能力なのだろう、わたしも含め、皆続きを気にした。

「…やられた奴の体が…どんどん小さく硬くなってゆくようだった。
 …なんてーかな、重さはそのままに「鉄」になって行くようだった…
 縮んでく訳だからよ…貫かれた胸の辺りから体はばらばらさ…」

皆息を呑んだ。
恐ろしい能力だわ…

「で、逃げてきたのかよォ?」

ケント君…それは当たり前の反応だと思うの…

「たりめーだろ!? あんな「能力」に勝てるか!
 で、その瞬間を俺は見ちまって、奴も俺を見つけたんだ!
 だから俺は一目散で逃げたさ!
 追ってきてるかも知れん、顔まで見なかったし、そんな距離じゃあなかったから
 見逃されたかも知れん、判らんから逃げるんだ!
 …………それに……」

「それに、何よ?」

「やられた奴のスタンドは消えてなかった。
 本体がばらばらにされても、能力を発動させようとしていた…」

「…それって…」

彼らが判断をあぐねていたのでわたしは自分の知っている
実例を挙げた。

「6年ほど前、イタリアで確認されたスタンドで
 ノトーリアスB.I.Gというスタンドがあるわ、
 「死んでから」発動されるスタンドで…
 あらゆる運動エネルギーを「糧」にして無限に
 動くものをターゲットとして追い続けるっていう…」

「げッ、なんだよそりゃー」

「あなた、どこからその情報を得たのよ?」

ルナがまたまたわたしに疑問を抱いたようだ。
でもまぁ、6年前の事例だしこれは普通に信じてもらえるだろう。

「5年ほど前にイタリアまで行ったのよ、
 ネアポリスの街で声をかけられてね、
 ナンパだったのかしら?
 グイード…何て言ったかしら。
 わたしもスタンド使いでイタリア出身だと
 知ったら、彼らの身の上に起こった
 事件を色々話してくれて。」

「グイード=ミスタ、ギャング「パッショーネ」の幹部だな」

流石にウインストンはスタンド使いに関しては詳しいらしい。

「ただ、能力はそれぞれにあるはず、だからこの場合
 ノトーリアスB.I.Gとまったく同じってことは無いでしょう、
 「死んでから発動するスタンド」という、あくまで実例よ」

「彼」は話が行き渡ったと感じると

「だ、だからよぉ、逃がしてくれッこのとーりだっ」

わたしたちは顔を見合わせた。

「…止めなくてはならないわ。暴走スタンドを。」

ルナが切り出すと

「あー、本体が死んだってことを判らせりゃあるいは止む能力かもしれねぇーしな」

ケント君が同調した。
彼って、あれね、結構情に厚いのね。

「誰が行く?」

ウインストンが言うと

「ポールとアイリーには残ってもらうわ、ポール、携帯電話を貸して頂戴、
 アイリーと…つまり電車内と外とで連絡が付けられないと。」

わたしがそういう。

「…つまり、あたし(ルナ)、ケント、ウインストン、ジョーン、四人ね?」

「「彼」の情報もまだ少し欲しいところだけれど、着いてきてはくれないでしょう
 これも携帯電話越しって事になるわね」

「OKだ、よし、まずは何とか列車の発車時刻をもう少し遅らせよう。」

ウインストンはそういうと、先頭車両の入り口付近から外を見て、
線路近くにある石…岩くらいの物を探して一気に「風街ろまん」の風で
線路にぶつけてその上に置いた。

「…これでまず「退かす」作業と「曲がった線路をとりあえず使える状態に戻す」
 作業が必要になるよな」

ルナはややその強引なやり方にあっけにとられたようだけれど

「…妥当だわ、あるいは全線不通にしないとならないほどの状況かも
 知れないわけだし…」

わたしが言うと、ルナも納得したよう。

突然の突風に線路の上の岩などを退かす作業、
駅構内はちょっとした騒ぎになった。
今よ、わたしたち四人が列車の外へ。

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線路の上を俺たちが走る…と、俺だ、ウインストン。

帰りは奴も走ったんだろう、そう考えると徒歩で40〜50分弱の場所か。
いや…戦いを見てた時間なんかもあるだろうから30〜40分ほど…?

くっそ、わかんねぇ。
どの道線路上でバトルの後相手を殺すなんてのは相当キレた奴だ。
まともじゃあない。

「っく…ハァ…ハァ…ちょっと皆…」

ルナが息を切らした。
そういやこいつ、運動まるでダメだった。
どうして着いてきたんだか今思うとよくわかんねェが…
まぁ色々冷静な判断下すしな…

「ルナ、ほら…わたしの背中に。」

ジョーンが自分におぶされ、と背中を。
そういうのは普通男の役目なんだが…だが、一瞬立ち止まった
俺たちでは俺もやっぱり息は弾むし、ケントも割りとひ弱だからな、
ルナの次に音を上げそうだ。

ジョーンは…まったく息を切らしていない。
これは波紋の効果だ。
スタンド使いには歯が立たなかった俺の知り合いだが
相手を走りまわせることで多少は互角に戦いを
持って行ってた。
俺はそれを知ってるからこの場は妥当だと思ったんだが。

「…ちょっと、なんであたしが女のあなたの背中に…」

「…それが今ここで「最良の選択」だからよ。」

「よく見ろ、俺たちの中でジョーンだけまったく息を切らしてないだろ?
 これも波紋の力なんだよ。」

俺だってしゃくに感じないわけじゃあないが、意地で
駄々をこねてられる状況じゃあねえことは皆わかってる。

「ハァ…ハァ…いーなぁ、オレもおぶってくんねぇ?」

オメーはプライド無さ過ぎだ…

「…流石に二人は無理よ…、こらえて。」

ルナは他人に触られるのを極端に嫌がる。
理由があるが、今それを説明してる暇はねェ。
同性の友達ということでアイリーくらいだな、
袖を掴むとか、その程度のことが出来るのは。

だが、状況が状況だ、この場で自分がまったく
足手まといになり、結局は付いても行けなくなる
それにくらべたら、ジョーンに体を預ける方が
まだいいと思ったんだろう、渋りながらも
ルナはジョーンに負ぶさった。

また走り出す。
走り難いったらねーな、線路ってのはよ。
人間が走るようにはなってねー訳だから当然なんだが。

10分ほど走っただろうか?
ケントの奴が「後から追いつく」とちょっと後ろになったこと以外は
どうやら…現場にたどり着いたようだぜ。

やたら気温が高い。
陽炎が揺らめいている、が…それを少し越えると
急激に今度は気温が下がってゆく。
この温度変化のせいで、あたりは濃い…深い霧に包まれている。

「なんだここは…」

気温の高いと思える領域は20メートルほど、そこから寒い領域は…
中心まで10メートルほどか…? どうやら、あいつがその中心らしい…。

線路の上に人影…いや、あれはスタンドだ。
足元に鉄塊がいくつか転がってる、あれが本体の成れの果てなのだろう。

「まず能力だわ…どういう能力なのかしら…何をしているのかしら」

ルナが推理を始めた。

「わたしにも似た事は出来そうな感じがするわ…」

ジョーンも確信には至ってないがそれとなく推理をしているようだ。
そしてそのジョーンの言葉とルナの推理はほぼ重なった。

「熱を奪うスタンド…中心近くが絶対零度付近まで温度が下がってる…。」

二人がまったく同じ台詞を吐いた。

「…暑い領域は中心の熱が回った領域ってことか?」

「ええ、多分…。」

これも二人同時に言った。
言ったと気づいてたからルナは怪訝そうにジョーンを見た。

「あ…ッ、ジョ…ジョーン、もういいわよ、ちょっと…降ろしなさいよ」

「ああ…そうだったわね、ごめんなさい」

ジョーンがルナを降ろした。
オレはなんとなく、っつーかかなり思ったので口にした。

「…なんだかんだいいコンビだな、お前ら。」

その言葉にジョーンは満足そうに微笑んだが、ルナは顔を真っ赤にして怒った。

「な…ッ、何言ってんのよ! 冗談にも程があるわよ!」

「何ムキになって否定してんだよ、肯定してるよーなもんだろうが」

「そんなことはいいのよッ! どうやってあれを止めるか、それが先でしょッ!?」

へぇへぇ、正論だ。

「…だがそもそも奴は何のために絶対零度領域なんて作る必要がある?」

俺が言ってると後ろから息を切らしたケントが駆けつけた。

「うを、何だよココ、暑ちぃー!
 うわッ…と思ったら寒みーッッ!!」

「賑やかだわね…気をつけなさいよ、あの…(スタンドを指差す)
 中心まではうかつに近寄っちゃダメよ、」

ルナがケントに注意する。

「なんだよ、どーなるってんだよ?」

「…恐らく絶対零度領域にすることで全てを止めようとしているんだわ。
 「時間を止める」能力はスタンド使いにとって最上級の能力
 そこまでは出来ないから、「彼」は本体を守るために
 すべての運動を止めているのよ、恐らく…
 5メートルまで近づいたら全身凍るでしょうね。」

「…まだ生体反応が完全に消えてない本体を守るため…ってとこね」

ジョーンの推測にルナが補足する。

「凍るって…寒みーだけじゃあねぇーのかよぉー?」

その言葉にルナは足元の石を拾って「中心」に投げつけた。
石は「中心」より5メートルほどから急激に速度を落とし
2メートルほどのところで氷や液体の地面に落ちる。
…が、音が鳴らない。

「…空気が凍ってるのよ…足元の氷は空気。
 水滴の方は…僅かなヘリウムかしらね…」

「つまり本体の周り2メートルほどになったらそこはもう真空。
 音も伝わらないし、…勿論呼吸なんて出来ない。」

ルナの解説に今度はジョーンが補足だ、やっぱりオメーらいいコンビだよ。

「…で…ででで…これどーやって止めんだよぉー?」

寒そうだな、ケント。

「手は二つ…あるかな、
 1:何とかしてスタンドをぶちのめす、
 2:出来るモンなら…奴を説得する。」

俺の言葉に皆は2を選びたかったんだろう。

「…あのスタンドが意思を持ってるならな、物理的なことは抜きに
 「会話」も可能かも知れんが…」

現状ではそれも判断不可能だ。
もともとの奴の射程は何メートルだ?
恐らくそれは奴のコミュニケーションの取れる範囲と重なってると
見ていいだろうが…

「オレの壁を地面から何度も突き出させることで攻撃とか…」

「やめなさい…恐らく壁が地面より数ミリでもせり出せば
 あなたは凍る。」

ジョーンの言葉にケントは気温以上に肝を冷やしたようだ。
ルナが携帯電話をジョーンから借りて(元々ポールのだが)

「…ああアイリー、あたしよ。「彼」まだ捕まえてる?」

奴に代わったようだ

「まずあなた、あたしはルナ、ルナ=リリーというのよ、
 さぁ、あなたも名乗りなさい、名前がわからなくちゃ会話もままならないわ!」

強引だな…いやまぁ俺自身も人のことは言えないが…

「…スティングレイね、いい? 重要なことよ、よく思い出しなさい。
 攻撃を受けた側のスタンドの射程範囲って判る?」

「そういやぁーよォー、殺った奴が居ねーなぁ」

ルナとスティングレイのやり取りにケントが疑問を挟んだ。

「「ヤバイ」そう思った瞬間効果が出る直前に逃げ切ったんだろうぜ、
 かなり場慣れた奴だな。」

「そうね…」

オレの予想にジョーンも同調した。

「…殴る範囲は普通に2メートル…多分生きてる時の効果範囲は5メートル…
 そう、…え、なんですって…列車が後30分で発車する?」

空気が変わった、ヤバイ、そりゃまごまごやってられる状況じゃあないが
本格的にカウントダウンが始まった。
ジョーンがつぶやいた。

「…やるしかないわ、わたしが行く。」

「…確かに…対抗できそうなのはあなた一人だけれど…大丈夫なの?」

俺とケント、アイリーやポールも未だによくジョーンの能力を掴んでない。
ジョーンに対してつっけんどんに接することの多い、誰よりジョーンを警戒してた
ルナが一番ジョーンの能力に理解を示してる。

「道は色々あったろうけど…時間制限がかかってはどうしようもないわ…
 ウインストン、エジンバラへ向かうほうの路線も止めておかなければならないけれど
 この状況を見せるわけには行かないわ、2〜3キロ先まで走って…
 …そうね…岩かなにか…置いてきてくれないかしら?」

「おう、わかった、その後は…俺たちは列車に戻るんだよな?」

「ええ、列車の発車を何とかもう少し遅らせて頂戴」

「ちょっと待ってよ、誰もあなたのフォローもサポートも出来なくなるのよ?」

ルナの問いにジョーンは静かに、でも確信でもあるかのように微笑んで言った。

「…わたしは大丈夫よ…死なない。」

俺やケントはジョーンのその言葉にまぁなんやら知らんが
大丈夫というなら大丈夫なのだろう、という信頼…っていうか、
まぁそういうのがあるんだが…とりあえず時間がねェ、
俺とケントは先に下り列車のほうを何とかしてこなくちゃあな、

というわけでナレーション変わるぜ…大事な場面だからな。

「死なないってどういうことよ!? うぬぼれてるの?
 それともやっぱり絶対の自信があるの?
 あなたの能力に「絶対」はないとあたしは知ってしまってるわ!
 何かあったらどうするつもりなのよ!?」

ルナよ。
あたしもなんでこんなにジョーンに噛み付いてるか自分でもわからない。
折角近くにやってきたこの女は、でも距離をあやふやにしたまま
またどこか遠くに行こうとしてる?
だったらなぜあたしたちのそばに来たわけよ?

いきなり荒れたあたしにジョーンは少しびっくりしたようだった。
予想外のことを言われた、そんな顔だ。

「……そう、ごめんなさいね、言い方を少し変えるわ。」

そう切り出したジョーンの表情に…あたしはちょっと絶望に似たものを感じた。

「…わたしは「死ねない」のよ…だから「最悪のこと」にだけは
 「絶対」ならない、と断言できるわ…」

言われた…聞きたくないと思っていた台詞だった。
どうしよう…心が痛い。

…ジョーンは無表情になっていた。

「あなたに出来ることがないと言ってる訳じゃあないのよ…
 でもわたしに対するフォローより、今はあなたの機転を
 列車という大勢の何も知らない人々が安全に
 この場を通り過ぎられることの方に力を費やすべきだわ…。」

あたしはもう何を言っていいのか…

「…「仲間」なんてわたしも初めて持ったのよ…
 わたしだって…例え死ねないにしても…
 ちゃんと元気であなたたちのところに戻りたいわ…
 その気持ちは…真実よ…。」

「…信じていいのね…」

「…信じて頂戴。」

あたしはきびすを返してもうジョーンを見る事も出来ず走り出した。

五分ほどして後ろからウインストンとケントがやってくる。

「ジョーンは…?」

あたしはつい聞いた。

「中心から6メートルほどに迫ってた、空気を操って熱を作りながら
 歩く、とかそんな感じだろ? 歩みは遅かったが
 結構余裕そうに歩いてたぜ?」

ウインストンはそういったけれど…
彼女は絶対に死の恐怖をあたしたちに見せたりしないわよ…
…そうか、あたし…今朝そういう表情を見たんだわ…
「ありえない」とか思ってた彼女のそういう表情を…
だから急に不安になった…?

「とりえずよぉー、線路の方は石やら岩やらで邪魔しといたからよぉー
 ああ、上りの線路の方も、だから後は最悪オレ達が
 発進しちまったしてその列車を止めることだけだぜぇー」

「…オメーもなんか急にジョーンに肩入れしちまったようだが、
 ここは任せておくしかない。」

「…肩入れなんて…」

あたしは思いっきり否定しようかと思ったけれど、言葉が続かなかった。
どうしてくれるのよ…ジョーン。

発進時刻まで…あと20分ほど…


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