Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Seven

第四幕 開き

ジョセッタはその後何度も追いつかれそうになった。
…ああ、再び私だ、ポールだよ。

その度になるべく不自然にならぬようケントの壁や
アイリーのベイビー・イッツ・ユーで
木の上のものを落としたりして司祭に隙を作らせた。

道をストレートではなく、茂みの中もジョセッタは逃げ惑い、
少し休んでは頃合を見て逃げ出すも、見つかりまた追いかけられる。

彼女の名を呼び探す司祭、恐怖だ。

…そのうち霧が出てきた。

うむ、やったのだね、ウインストン。

これでだいぶ楽になる。

視界が悪ければ多少不自然なフォローもカモフラージュできるからね

どうやら分岐点の近くまでジョセッタは逃げ出してきた。

先回りでそこに行くと

「やっと来たわね、みんな」

「ルナ!」

アイリーが声を上げると、ルナは指先を口に当て「シーッ」と
音量を下げるよう言った。

「…いよいよ分岐点だがこればかりは霧でどうなるものではない
 …どうすべきかね」

わたしの問いにルナは既に考えてあったのだろう。

「ケント、ローマ側の道を壁でふさぎなさい、
 あたしらはそれに蔓や木や低木やら何やら
 かぶせるのよ、」

「…不自然じゃあねーのかよぉ?」

「そこは霧で何とか自然に見えてもらうしか手はないわね、
 …幸い彼も判ってるのか霧が濃くなってきたわ、早く!」

ケントの壁を三枚ほど使い、急いでカモフラージュする。

看板も見えないように隠した。
無学な少女には意味はないが、司祭も通るわけだからね。

「ジョセェェェ〜〜〜〜〜ッッッッタァァァアアア〜〜〜〜〜〜〜
 ハハハハハ…どこだ…我が糧となれ〜〜〜」

霧の奥から恐ろしい司祭の声が微かに聞こえてくる。

手前を半分死にそうになるほど息を切らしたジョセッタが
後ろを振り返りながら必死で分岐点のあった場所を
駆け抜けていった。

…成功だ。

「…よし、ケント、そのまま壁を移動して、
 今度はベネツィア側を塞ぐのよ!」

「お…おう!」

ジョセッタを逃がせばいいのかと…そういや
司祭を別なほうに誘導しなければ意味がなかったね…

ケントは壁を動かし、
(そういう修業もしているのだ。)
わたしたちもスタンドなどでそれをフォローする。
(やはりうまくは操れないからね)

そして茂みの中から我々は司祭がローマ側にジョセッタを求め
通り過ぎていったのを確認した。

…遠ざかる司祭のジョセッタを求める声。

確かに彼は別方向に去って行ったようだ。

「…成功のようだわね、聞こえてきたわ。」

「…え?」

そう、最初にこの時代に送り込まれたように、
またオーケストラの調律のような半音づつ上がる
上昇音が聞こえてきた。

「うお…次はどこかね…」

「…さぁ…聞かなかったわ、どの道、
 サイテーなステージが続くことには間違いはないわ、
 みんな、気を引き締めるのよッ!」

「おう!」

「まっかしてよぉ!」

場所はばらばらだが、ウインストンもジョーン君も
同じようにこの「スタンドの発する音」を
聞いていることだろう、

…次は…どんな彼女の人生なんだね…!?

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…引き続きわたしが状況を説明しよう。
ポールだ。

「あっつーーーい…」

アイリーの一言、昼間なのか
まばゆい光に包まれている。
目のくらんだ私達が慣れるまでに少し時間を要した。

「…ここは…何だよぉー…砂漠かよぉぉーーーーッッ!」

…見渡す限りの砂漠だ…揺らめく陽炎に容赦のない陽光と
白い砂漠の照り返し…

そのとき少し離れた位置から足音が聞こえてくる。

「ジタンの報告によると正確な年代は1486年、という事でしょうね…」

「ジョーン!」

アイリーがジョーン君を迎える。
ルナは携帯を見ながら

「…確かに1486年だわ、…でもこんな砂漠の真ん中に…」

「…昼間に出るとは思わなかったわね…何らかの意思があるのかしら…」

「ジョーン君の記憶によると、このステージは「夜」になるのかね?」

「ええ…ああ、居たわ…みんな…」

オーディナリーワールドが出現し、まずはあたりの気温を下げた。
光の乱反射もやや抑え、空気の成分や密度を調整し
小さなレンズと大きなレンズを作って空間そのものを
望遠鏡化し、我々に一点を見せた。

…砂漠数キロ先を一人の女性が彷徨っている…
衰弱しているようだが…
…あれは…

「…ジョセッタ=ジョットよ…ヴェネツィアにも居られなくなって
 逃げ出して…とはいえ、ローマを渡るわけにも行かず
 ブルガリアの方から南下してトルコ、アラビア半島を経て
 ここまで来たわ…ここはエジプトよ。」

…エジプト…

「南の大陸には大きな砂の大地があって油断すれば
 すぐにも命を落とす場所だと聞いてはいた。
 …だからわたしはここを彷徨ってたのよ。」

「…え、なんでだよぉー?」

ケントの純粋な質問、だがその言葉にルナは心を痛めたようだ。

「…この時のわたしは…混乱していた…
 波紋の修行をしていれば…若さは保たれる傾向にはある…
 でもせいぜい年をとって実年齢マイナス30歳ってところ…
 …なぜわたしは二十代も真ん中で成長が止まるのだろう…
 これは波紋のほかの修練者にも「疑惑」として映ったわ。」

「…疑惑って…やっぱり悪魔とか…?」

アイリーが恐る恐る聞くと、ジョーン君は軽く頷いた。

「…ただね、それでもこの数年前までは
 それなりにやれてたのよ…この時の波紋の師匠がね…
 「彼女はつまり、若さを保つほうに力が行っているのかも知れない」
 そういう風にフォローしてくれてね…
 確かに、個人差はあるから…
 でもはっきり言って波紋使いとしては二流のわたしだもの
 疑う人は多かったわ。」

「ジョーンって…波紋はそんなに強くないの…?」

「…ええ…だいぶ必死に…フォローをくれる師匠のためにも
 一流を目指したのだけどね…
 普通60年も修行して生き残れたならそこそこ他の
 支部の支部長になったり、代表してチベットの総本山に
 出向いたりするのだけど…わたしはダメだった。」

「…なんかちょっと意外…かも…」

「…考えられる理由はたった一つあった…
 波紋は生き抜くために強い精神力を持ち
 強い希望や向上心を持たないとなかなか身につかないもの
 …当時のわたしには決定的に欠けていたもの…」

「ジョーン…その先は言わなくていいわ…」

ルナがたまらず止めに入るが、

「…いいのよ、ありがとうルナ…でもわたしの
 この時の状況は知ってもらわないと…」

ジョーン君が次を言おうとすると。

「おい…お前ら無事か?」

背後からウインストンの声だ。

ひとつ山になってる十メートルほど先?
こちらへ来る様子がないのだが…

「どうかしたかね? こちらへ来給えよ?
 何かトラブルでも?」

「あ、…あーいや…なんでもねーよ」

相変わらず、ウインストン、君は隠し事が下手だね…

「ジタンがこっちに来てるのよ、隠れてないで出てきなさいな」

「えっ??」

「ジタンがよぉー、何でここに居るんだ?」

「「巻き込まれた」ようなのよ、さっきすれ違ってね。」

ルナがその一言で済ませたので皆も「出て来いよぉー」
「そっち暑いでしょ? こっち来ようよ〜」

苦笑しつつ、ジタンが現れ、ウインストンとともに
こちらに来た。

「…わざわざ御免なさいね、ジタン…」

ジョーン君がそう彼に言った。
…何というかこう、何も語ってないのに
ある程度「なぜ」彼がここに居るのか理解できているようだ。
ジョーン君はジタンに握手を求め、ジタン君はそれに応じる。

「貴方の言語機能もいじらせてもらうわ…
 こうなった以上は貴方にもフォローをお願いするしかないもの。」

「ああ…」

そして数分後、レンズ越しに状況を見ていたアイリーが

「…あ…ジョセッタが倒れたよ…?」

「助けに行くのかよぉー?」

ケントの言葉にジョーン君は冷静に言った。

「いいえ、放置して頂戴。」

「…たってよぉー…こんなところで倒れたらそれこそよぉー」

「…さっきの続き行くわね、
 この三年ほど前、師匠が亡くなったわ、御年120ほど、
 人類の限界ギリギリまで生きて最後まで厳しかったけれど
 わたしにフォローも入れてくれてた。
 …わたしの最後の味方も居なくなった。」

ルナが辛そうに聞いている。

「…わたしはもう修練場にも居られない…
 ある夜こっそり抜け出して、そして
 噂に聞いた砂漠に足を踏み入れた…
 …この時のわたしの頭の中にはたった一つの言葉しかなかったわ。」

ジョーン君は倒れたジョセッタをレンズ越しに眺めながら

「…"死にたい"…」

みなの空気が重くなる。

「砂漠を無防備に彷徨ってても…オーディナリーワールドは
 空気のわずかな水分から水を、砂漠の僅かなミネラルや
 組み立てれば使えそうなものを利用し、わたしを死なないように
 していたわけよ…
 だから二年も砂漠を彷徨ってしまった。」

「に…二年?」

アイリーが思わず言う。

「ええ、二年よ…それでもどう?
 そんなに彷徨ったようには見えないでしょう?」

「…確かに…衰弱はしているようだが…」

ウインストンの言葉に

「オーディナリーワールドは何であれわたしを守る…
 …そしてほら…見て。」

砂漠の数キロ先に倒れたジョセッタに…キャラバンかね?
一団が気づいたようで近寄ってくる。

「…あれも運命って奴なのかしらね?
 砂漠の人々は基本的に目もいいわ、遠くを彷徨うわたしに気づいて
 救いにきてくれたのでしょう、わたしは、どうあれ死ぬことはできなかった。」

そしてジョーン君は現場のすぐ左のほうを指差した、
レンズも移動する。

ジョセッタの歩く先は一つ山になっていて…それを越えると

「…あ…町がある…」

アイリーの言葉に

「ええ、そう、つまりあのまま歩けたとしても、
 わたしは町に向かっていたのよ…」

ジョーン君の苦笑、

「…海が街の先に見えるぜ…貿易港なのかな」

ウインストンが言う。

「ええ、どうやら商人の町のようよ、人の出入りも激しい。
 …さて、ジョセッタは回収されたわね、
 とりあえず街に向かうわ、そして皆、これを持って」

ジョーン君が我々に金貨を一枚づつ手渡した。

「…デュカット金貨だわ…これ…」

ルナだ。

「この地方でのレートは判らないけれど、それなりに高価なものだと思うわ。
 …これはわたしからの依頼にもなるしね、
 わたしを史実のとおりに現代まで送り届ける役目を
 みんなは担ってくれるわけだから」

「…何言ってるのよ、当たり前のことじゃあないの、
 こんなことでこんなもの受け取るわけには行かないわ…!」

「…ああ…「理由をつけるとしたら」
 …そういうことよ、おごるわ、町で服やら何やら
 調達して頂戴、そういう意味のお金よ。」

…確かに宗教上の理由などから…特にアイリーなどは
気をつけねばならん、何より我々もそれぞれ
時代にそぐわぬ格好をしているのだ、
この時代、昼間に現れ、それなり町も歩くことになるのだろうから…

「…なるほど…とはいえ、これは「借り」だわね…やれやれって奴だわ…」

「こんな時にそんなこと気にしないで欲しいのだけれどね…」

ジョーン君が心底苦笑する。

我々が町の郊外に来たときだ、
ジョーン君は靴を脱ぎ素足になった。

「…とりあえず皆が体を覆う布やらサンダルやらを先にわたしが仕入れてくるわ、
 わたしの格好なら踊り子か何かに見えるかもしれない。
 行って来るわね、皆はそこで待ってて。」

ジョーン君が去った後

「ジョーン、そういえばジプシーたちとも交流あったみたいな
 事言ってたよね、ルナ。」

「言ってたわね…そうね、芸能も身につけてたって言うから
 それこそ踊り子なんかも本当にやってたのかもね。」

「…またずいぶん適職な気がするな…
 あの格好だからそう思うのかもしれんが…」

「…欧州各地を回るジプシーだ…彼女にとって
 ジプシーを渡り歩くことはそのまま
 「そうせねばならない」生きる手段だったんだと思う。」

ジタン君がそういう。
…なるほど…重いね。

「…彼女のあの表面だから…ジョーン、あるいは
 ウインストンが「適職」と思ったように
 「そう見える」っていうのを利用してたのかもね。
 …内心はどうあれ…」

ジョーン君の表面が世間を渡り歩くのに精通すればするほど
心の内面の表れであるオーディナリーワールドは
極端に人見知りの激しい「個性」になって行った…
ルナの推理は、当たってそうだね。

ジョーン君が戻ってきた。

「まずこれを着てね、おつりは…はい、こんな感じよ。
 イベントは夜になるから…それまで何とか時間を
 つぶして頂戴。」

アイリーは色気もそっけもない扮装とはいえ、
オリエンタルなその全身が隠れる服を着るのに
ちょっとワクワクしてたようだった。

ルナはそれを身につけながら
(ジョーン君に手伝ってもらいながら
 我々もそれを見ながら着付けを覚えた)

「…昼間に現れたならそれは何らかの意味があると思うわ
 ジョーンを…ジョセッタを襲った「アヌビス神」のスタンドを探して
 どういう動きをするか見張らないとならないのかもしれない。」

ルナがそれを言うと、ウインストンやジタン君が驚いた。

「…アヌビス神のスタンドだって…!?」

「ええ、剣に取り憑き剣を握ったものの精神を支配し
 ただただ人を切り刻むのを楽しむスタンドのようね。」

ジョーン君が言うとジタン君が。

「…間違いないな…空条承太郎すら…あと一歩まで追い込んだ
 …かなり強力なスタンドだ…」

「…そうなの、彼すらその有様だったのなら…わたしがここで
 切り刻まれて敵わなかったのは恥ではないかな…」

「いやぁ…だってよー…攻撃したらそれを「覚えて」
 二度と同じ手は使えなくなるんだろ?
 …よくそれで生き残れたと思うぜ…」

「…死ねない体でなかったら、もちろん死んでたわ。」

ジョーン君は何気に言うのだが…

「…いいわ、あたしはそいつを探しに行く。」

ルナが言うのだが…かなり危険だね…

「ルナ、とりあえず「アヌビス神」は剣の姿だ、
 …これは俺のひいきじゃあないが、
 日本刀に似た剣だそうだぜ」

ウインストンが言う。
なるほど、そんな特殊な形状なら、遠くからの監視も
やりやすいかもしれないね。

「ルナだけではなんだ、わたしも監視に同行しよう。」

わたしも捜索に加わろう。
ルナとわたしが頷きあう、

「ジョーン、この町について情報はない?」

ルナがジョーン君に聞く、だがジョーン君は

「…ジョセッタは夜までほとんど昏睡に近かった。
 オーディナリーワールドが体を回復させるのに
 わたしの生命活動を著しく冬眠に近い状態に
 することがあったのね、…だから…」

ジョーン君は町のはずれのちょっと小高い砂丘に指を向け

「…そこにある遺跡…夜にアヌビス神と交戦になり…
 斬られながら最後は逃げて…
 その奥にある台にわたしは最後行き着き
 そこになぜか同じ年頃の女性の死体があった…
 …わたしが知ってるのはそれだけなの…」

「…なるほど…これはかなり白紙に近い状態から
 …あるいは私達が…アヌビス神をジョーン君…
 いや、ジョセッタ君に差し向けなければならないのかも
 知れないのだね…」

私が言うのだが…言いながらだんだんと腹が立ってきた…
皆もそれを感じているのだろう怒りの表情になりかける

「ルナがファーストステージで涙を流しながら
 「サイテーなスタンド攻撃」と言ったのが…
 今更ながら判った気がするよ…」

死ぬことはないとはいえ、神殿まで生き延びられるように
密かにフォローもしなくてはならないのだろう、
神殿に行き着く前に「生命活動停止」にしてしまってはNGだ…
…といって元気に動き回れるように手心を加えるのもNG…

「…判ったでしょ…「歴史がそうあるべき」
 あたし達がそうすべくそれは運命だったと
 言ってしまえばそれで終わりだけれど…」

ルナが町に足を向け、歩き出す。
私も続こう。

「…俺も同行しよう、調べておきたい。」

「オレも…いくぜぇー、何かあっても「壁」があるしなぁー」

「…アヌビス神は壁を透過するぜ?」

ジタン君の指摘にケントが

「それならなおさらだぜ、壁だけ放置してオレ達は逃げりゃいいんだ。
 壁透過ならオレ、怪我しねぇーし。」

「…なるほどな、いいかも知れん。」

「やっぱりケントもだいぶこういうことに頭が回るようになったわね、いいことだわ。」

ルナが素直にケントをほめたので、ケントは少し照れくさそうに笑ってついていった。
そしてジタン君も我々に続いた。

「俺たちは…やっぱそいつ探すべきだろうかな…」

とりあえず残ってしまったジョーン君、ウインストン、アイリー。
ウインストンがつぶやく。

「…うん、そうなんだけど…ごめんちょっと喉渇いちゃった。」

アイリーがのどを押さえるとジョーン君が

「バザーまで案内するわ、果物なんかがいっぱいある。
 そこから先は…
 わたしには何も指示ができないから…自由行動としか言えないわね…」

ジョーン君はバザーの入り口までアイリーとウインストンを送りつつ
そこまできたらこう言ったそうだ。

「では、折角来て時間があるのだから…わたしはちょっと
 やりたいことがあるから、失礼するわね」

「おい、どこ行くんだよ? 何するんだよ?」

「ステージには何も関係ないわ、この町を見学すらできなかったし
 見て回りたいのよ。
 アイリーが居るから、どこにいるかはすぐわかるでしょう?」

「あ、うん。 一応ルナたち三人も軽くモニターしてる。」

ジョーン君が微笑んだ

「流石ね、頼んだわ…」

ジョーン君が人ごみに消えた。
バザーは方々の貿易地からの荷揚げ品で溢れていて、
商人や地元人、僅かな旅人などで溢れかえっていたそうだ。

「…なんだよ、ジョーンの奴…」

あまり係わり合いになりたくなさそうなジョーン君に
ウインストンは口を洩らした。

「…逃げ出したくもなるよ…夜にはちゃんと合流すると思うし
 今は触れないようにしておこう。」

というわけで、二派というか三派に分かれてしまった。

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バザーは人も物も溢れていて、言葉も半分くらいしかわからない。
ああ、俺だ、ホレ…ウインストンだ。

「…ジョーンのマルチリンガルでも…わからない言葉が…」

アイリーが困ってるんだが

「言葉ってのは奥が深いからな…世界に何千言語あるか知れねえ訳だし」

とりあえず、知っている果物なんかを買いながら、
俺とアイリーはバザーをうろついてたんだ。

「人種もばらばらだね…一見肌の白い地元の人なんかも居るから
 あたしらが居てもそれほど目立たないし」

そうは言っても全身を布で覆ってるがな、買い物の瞬間に
アイリーの白い手が覘こうと気にも留められない、
むしろ古いイタリア語やらそれとなくこの当時のエジプトの言葉も
使えるから(でもわからない言葉もある)
かなり気安い感じだ。

…そんな時だな、港に近い場所でこの時代の…ポルトガルか
スペインか…その辺のちょっと偉い奴なんだろう、
船乗りが一人の女性に「自分のものになれ」と強要しているようだ。

女は…肌が純粋なアフリカンよりはやや浅い色で、
髪の毛も軽くウエーブしているくらいのゆるい巻き毛。

ちょっと遠めで顔までわからんが、

とにかく、俺はこういうのが無性に好かねぇ、
ジョーンの体に入れ替わったときに痴漢にあってから尚更だぜ。

アイリーも嫌な顔をしている。

俺はもうステージNGになろうと構わん勢いで
風街ろまんの「むささび変化」でそいつの帽子を吹き飛ばした。

そして走り出す。
女はその西欧人に突き飛ばされ、地面に倒れる。
アイリーが彼女を保護しに行き、
その西欧人は剣を抜き、俺に襲い掛かろうとするんだが。

…普通にスタンドで白刃取りやったっていいんだがな、
余計な騒ぎになりそうなんで、俺の体から
僅かに姿を表す形で、腕で剣を振り払って、
そいつの顔面にパンチを繰り出してやった。

スペイン語もポルトガル語も似た言語なんだが
とにかく喋れたんで俺は言ってやった

「恥ずかしい奴だな、オメーは…!
 虫唾が走るぜ、とっとと失せやがれ!」

「…お前…同じ白人だな…なぜこんな土民どもに組する?」

「…なんだとぉ…?
 俺はそー言う白人優位主義が嫌いなんだよ!」

もう一発パンチをお見舞いする。
ジョーンは今思い切り有色人種だ、そして…俺の師匠だった
俺の初恋の…そして恋人でもあった「みどり」は日本人だった。

人種で人の優劣を決めるのが、俺は大嫌いなんだ…!

誰であれ、学ぶことが多い奴が俺の場合ジョーンだったり
みどりだったり、有色人種だったからかも知れんが、
どうにも俺は…我慢がならなくてな…

西欧人のそいつは部下も連れていたが、
俺の腕っ節が効いたんだろうぜ、
鼻血を流しながら

「…くそっ…貴様異端か…?
 覚えておけよ…!
 白人の風上にも置けない奴め!」

捨て台詞を残し、そいつらはいったん船に逃げ込むようだ。
…追っていってボコボコにしてやりたいが…
アイリーが女を介抱する声に我に返った。

顔をベールで覆ってたその女は

「ありがとう…子供のころはそんなでもなかったのに
 最近彼らったら…あんな人が増えてきて困るわ…」

「大丈夫…? ちょっぴりすりむいちゃったかな…?」

「平気よ、ありがとう、」

女が立ち上がる、周りでちょっと遠巻きに俺たちを見てた
地元民が近寄ってきた。
だが俺たちをちょっと恐れてる?
同じ白人だからか?
…くそ…

「俺たちは白人かも知れねーが、オメーらの味方っていうか…
 肌の色で人を判断したりしねーよ!
 安心しやがれってんだ、まったくよー」

「ウインストン…(苦笑)その言い方じゃあ怖がられるよ…」

女がそこで

「私を助けてくれたのよ?
 それでいいじゃない、みんな。」

彼女はこの辺の「顔」なんだろう、女がそう言った事で
やっと口々に女の無事を確かめに来た。

「大丈夫かい? クレオパトラ…」

クレオパトラだと?

「その名はやめて頂戴…幾ら私が
 商人の娘として方々回って色んな言葉を話せるからといって…」

ニックネームのようだが、すっかり地元では固定してしまってるようで
皆、女を「クレオパトラ」と呼んでる。

地元民の群れから、一人の初老の男がやってきた

「シーシャ、何があったんだ?」

「父さん、…いえね…また白人が…ああ、ごめんなさい(俺たちに向き直って)
 貴方たちも白人ね…イベリア半島の船乗りが私を…ね、
 無理やり連れて行こうとして…この人たちに助けてもらったの。」

シーシャ、それがこの女の本名のようだな、
初老の男は俺たちに礼をいい

「…数十年前まではそんなこともあまりなかったのだが…
 君たちは信用の置ける人物のようだね…旅人ですかな?」

「…え…ああ、そんな所だな。」

「どこから来たの?」

「いやぁ…ちょっとこっからじゃあ遠いんでな…」

俺が口を濁すと、彼らも余計な気を利かせたんだろう
(追われている身なのかもしれないとか)
余計なことは聞かなかったが

「そういえば…砂漠で拾った「彼女」は大丈夫なの?」

何…?

「衰弱がひどかったんだが…寝ているだけなのに
 もう血色もよくなってるよ…相変わらず寝ているんだが…」

「そう…」

アイリーがこの父娘のやり取りを聞いてて

「ジョセッタを…助けたキャラバンって…彼女のなんだ…」

小さく俺に言った。
俺は頷くしかなかった。

「とにかく、お礼がしたいわ、家に来て、何かご馳走するわ。」

「あ、いやぁ…俺たちは当然のことをしたまでさ、」

アイリーも頷く。
ステージNGにならなかったんだ、間違っちゃいねー
だが、俺の言葉に更に父娘も、地元民も
俺たちを気に入ったんだろう、

「いいじゃない、来てよ、私のキャラバンは
 イタリアやシチリアやフランスなんかとも
 交流があるから、大丈夫、ちゃんと口に合うものを出すわ。」

砂漠を渡るときの外着をまとっていた女がそれを脱いで
町でうろつく格好になった。
ベールもはずした。

…俺たちは驚いた…
ジョセッタや…その母親のアレサがジョーンに印象が似ているといったが
その「足りない」部分をこの女がほとんど持っていたからだ…

この女自体が混血のようで整った顔に砂時計みてーな
体形とか…ジョーンのように体を鍛えてるわけじゃあねーから
余計にそのプロポーションが際立つ…

アイリーも驚愕している…

この女が…この後ジョセッタの体に…
今のジョーンにつながる基本になるんだ…!

「どうしたの? 何を驚いてるの?」

女はきょとんとして俺たちに聞いた。

「クレオパトラがあんまり美人だから、びっくりしたのさw」

地元民がそれを言うと、シーシャは「だからその名は止してよ…」
というんだが…なるほど、美形だ、現代人の俺たちから見ても
文句なく美形だ…
マルチリンガルにこの完璧すぎるプロポーション。
性格も良さそうだ、
クレオパトラと呼ばれてしまうのも頷ける。

「…いや…俺たちの…知り合いに似てるのと…
 …そうだな、やっぱりあんた、美人だからかもな。」

「あら、貴方たち、お連れの方がいるのね、
 一緒にお呼びしたいわ。」

「美人だから」のくだりはさらっと流した。

「…いや、初めての町でそいつどっかいっちまったからな、
 夜まで自由に動き回ってるんだ、
 …そうだな、折角だから俺たちは御呼ばれしようか、アイリー」

「ん…そうだね」

アヌビス神のスタンドのことばかり気にしてたが…
そうだよな、これからジョーンの体になる奴のほうも
気に掛けとかないとならねーよな。

道を歩くと、皆シーシャをクレオパトラと呼んで
挨拶をしている。
この町でのちょっとしたマドンナなんだろう、
彼女も「クレオパトラ」に苦笑しつつも
にこやかに挨拶に応じている。

俺たちはその少し後ろを歩いてるんだが…
そのうちアイリーが…珍しく俺より先に
「黒い考え」に気づいてしまったようだった…
小さく俺に

「…待って…待ってよ…こんな元気な人が
 今夜までに死んでないとならないなんて…
 ひょっとして…あたしたちは彼女を手に掛けないとならないの…?」

心臓も飛び出そうなほど俺は驚いた。
俺は敵なら女だろうと人種が何だろうと容赦はしねーよ。

…だが…この…誰もがクレオパトラと呼び
誰もが慕ってる何の罪もないこの女を…俺たちが
あるいは殺さねばならないだと…!?

最初のステージでルナが、さっきはポールが
このスタンド攻撃に怒りを燃やしていたが…
俺とアイリーにもその怒りの炎が燃え移ったぜ、

畜生…!
そうじゃねーことを祈るが…
たとえ俺たちが殺さずに済んだとして、
死に行く彼女をそうと知っていて見過ごさなくちゃならないってか!?


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