Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Seven

第五幕 開き

小一時間ほどしてかな…ジタンだ。

俺たちはそれとなく住人に「このあたりに鍛冶屋はないか?」
と聞き込み、そこへ向かっていた。

「割りに小さい町で鍛冶屋も二件しかない、助かったね。」

ポールが言う。

…片方はどうやら外れだったようだ。
日用品やアクセサリーばかり扱ってたからな。

そしてもう片方に向かった。

「しっかしよぉー…ジョーンのスタンドがないと暑ちーなぁー」

ケントがバテ気味だ。
…基本的にこの状態で俺の現状維持を使っても
暑いままだからな…慣れるしかない。

遠目に俺たちがオープンなその鍛冶屋を見つけて、
その時点で「こいつだ」と判った。

一心不乱に彼が鎚を打ち込んでいるもの…
それは細身で刀身の微妙にカーブを描く…
とはいえ、アラビア伝統の「円月刀」までゆかん
微妙なカーブの…そして…鍛冶屋が水に入れ
冷やしたときの輝きはどうだ…
日本刀のように白刃の部分と峰があり、
刃そのもののの形状は確かに日本刀に似ている…
…なるほど、こいつだ…!

「もうすぐ…もうすぐできるぞ…わしの最高傑作じゃ…!」

キャラバン・サライと店名から読み取れるどうやらその名らしい
狂気に取り憑かれたような老人がつぶやく。

「…わざわざ遠い東洋の国から取り寄せた砂鉄…
 その製法…これぞわしの求める「斬るため」の刃…!」

この時代の剣の大半は「叩き切る」もしくは「削ぐように切り落とす」
というものが殆どだ。
溶けかかったバターにナイフを入れるように
すんなり物を斬るなど日本刀より有名なものもそうあるまい。

…これはジョーンからの後での豆知識なんだが…
その「焼きいれ」などの製法もさることながら、
日本の砂鉄など刃の原料に含まれる僅かな「バナジウム」
という元素があの硬さ、鮮やかな切り口に貢献しているらしい。

この老人、つまり「斬る」刃を作らんがために
執念で日本刀の原料や製法まで取り寄せ学んだのだ。

これが殺傷の目的でないなら天晴れだと褒めたいところだがな。

ややもしばらく見ているものの、そんな時俺が気付いてしまった。

「おい…ポール…ケント…ルナ…鍛冶屋の…壁に立てかけてあるものの中に…」

他の三人が目を凝らす。
…40代のデスクワーク男に極度の近視&乱視女にはきつかったろうが…

「…あれは…弓と…矢…だね」

「え…ありゃー…」

「…待ってよ…なんてこと…!?
 あれは「矢」だわ!
 間違いない…スタンドを生み出す「矢」よッ!」

「…だが、ここは鉄製武器を扱う鍛冶屋のようだ、
 石矢を作るはずはない、あれも元々起源不詳の
 発掘品だしな…しかもエジプトに眠っていた、
 …彼か誰かは判らんが、おそらく武器屋を象徴しての
 調度品と言う名目で発掘したものを飾ってるんだと思う…」

「…なるほど…こういう情報に関してはウインストンや貴方の
 十八番になるわね…」

「…まぁな。」

「しかし彼は…狂気に取り憑かれてはいるものの…
 矢を使いスタンド使いを増やして回る…
 そういう狂気は見えないね…」

ポールも分析をする。

「…刃を作るのにスタンドは要らないでしょうから…
 この状態だと既にスタンド使いなのか
 これからスタンド使いになるのか…判らないわね…」

「そうだね…時に三人とも…
 真面目に監視もいいのだが…まだあの調子だと
 刃の完成にも時間がかかりそうだ、
 彼も職人気質のようだし…まだ日もある。」

ポールのその言葉に俺とルナは

「…喉が渇いたのか? ジョーンが居ないし暑いからな。」

「それとも何かお腹を膨らませるものが欲しいの?」

流石のポールも自らが張り込みなど数年ブランクのある技能だ。
ばつが悪そうだが、

「…ああ、いや、済まんね、両方だよ…(苦笑」

ルナはあきれた顔をしつつ、

「偶然だわね、あたしもちょっとブレイクしたいわ。」

本気でそうなのか、ルナお得意の優しさなのか、

「オレもあちー…なんか飲みもんほしーぜぇ…
 コーラかセブンナップか無いのかよぉーってねぇーだろーなぁ」

ケントも後に続いた。
俺だけ残るとか言うと和を乱すんで、俺も付き合うことにした。



バザーに向かう道すがらだった。

どこからか俺たちには聞きなれた楽器の音が聞こえてきた。
あんまりに聞きなれた音色だったんで空気のように
流してしまった。
むしろ、今まで音楽とかなかったので、ちょっと耳をやってしまった。

ベース音が一音の後コードで三回、それが基本の演奏で
ルナが何気に反応しながら

「…あら…これ…」

あまり深く気に留めないようにしつつ、ルナが鼻歌を…
そうあるべきメロディを乗せてハミングをしだした。

…というか、こいつ何気にハミング上手いな…
音程もはずしてないし、ビブラートやトリルを仕込む技も持っている…
その楽器の音色より、ルナの隠れた特技のほうに驚いていると
…二小節ほどハミングして彼女はあることに気付いたようだ、

「……ちょっと待って…!」

ルナが音の方向を探し出した。

「どうかしたかね? いい曲じゃあないかね? これは。」

ポールが思わず言うのだが…

「…「いい曲じゃあないかね、これは」じゃあないわッ!」

ルナが走り出す。
俺たちもちょっと戸惑いながら後を追うと、
街角にちょっとした人だかりができている。
バザーのはずれに楽器屋(工房もかねている)があってな

…そこの前にジョーンが居る。

ギターを操り、あまり大きな声ではないが歌っていた。

ルナは選択的に現代英語で叫んだ

「ちょっと! ジョーンッッ!!
 貴女何フォークギター抱えて「イエスタデイ」なんて歌ってんのよ!!」

…う…そうか、やけに聞きなれた曲だと
流しかけたが、イエスタデイは1965年のビートルズの曲だった…
21世紀前半の現代ではベーシックなスタンダード曲だが…俺たちもあきれ返った。
人ごみの中、ジョーンは俺たちに気付いて

「ギターもイエスタデイもNGじゃあないようね、よかったわ。」

「…なんて事を…!
 貴女自分から下手をしたらステージNGになるようなことを…!
 しかも引っかからなかったとはいえ…
 何現代のギターなんて作ってんのよ!」

…この時代にもリュートという形でギターに似た弦楽器はあった。
しかし、その洋ナシのような形状で、中空ボディ、
おそらくオーディナリーワールドで作り上げたんだろう
スティール弦、どう見たって…20世紀になって完成した
「フォークギター」だよな…

「…まぁまぁ…この時代のこの場所でたった一本作り上げた
 フォークギターなんてすぐ埋もれるわよ…
 歌だって現代英語なのだし、問題ないわ。」

「…なんて気楽な…!」

ルナが怒ったものだか、呆れたものだかって顔をしつつ
しかし、ジョーンがそうやって逃げ出したい気分と戦っているのだと
言うことも理解できるので、気持ちと言葉の整理に
頭が追いついていないようだった。

「…もう…ちゃんとイエスタデイで使ってるギターまで…
 エピフォン・テキサンなんてコピーして作っちゃって…」

「いや、ルナ…それは突っ込みどころがちょっと違うぞ…」

このルナと俺のやり取りにポールが思わず笑った。

「…はっはっは…いやいやルナ…
 ジャンルが違うだけで…君も結構楽器にはOTAKUなのかもしれないね。」

ケントもそれを聞くと「ちげぇーねぇー」と笑った。
ルナが気まずい顔をして顔を赤らめた。

「…ルナはね、カントリーやフォークが好きだから…
 ちょっと詳しいのよね。」

ルナにちょっとフォローを入れると
見物人がきょとんとしているのでジョーンは次の曲を歌いだした。

「ああ…もう…次はデュランデュラン?」

「その名は知っているが…」

ポールが言うと、俺が

「曲名は彼女のスタンド名だ。」

大切な人を失ってしまって、どんなに悲しくとも
失った人の居ない世界を生き延びなければならないという
割りに重く悲しい歌なんだが、彼女が歌うと…
なんていうか…魂こもってるよな…
肉親と583年生き別れるなんてそうそうできる体験じゃあない…

あきれつつ、笑いはおきつつ、やはりジョーンの胸に去来している
激しい切なさは、それがNGスレスレであるのも結局は許してしまいそうに
俺たちの胸まで詰まる。

…そんな時だ。

「おい…! ジョーン! オメー何演奏してんだよ!?
 イエスタデイなんてよくNGにならなかったな!」

バザーの…俺たちとは反対方向から
ウインストンとアイリーが走ってやってきた。

「ああ、ジョーン、今度はデュランデュランやってるよー!><;」

やっぱり、こりゃまずいと二人も思ったんだろうな。

でも、ジョーンは二人に微笑みかけつつ、歌いきってしまった。

…やはりNGにはならなかったが…
野次馬の中から一人拍手が聞こえた。

「すごいわ、聞いたことも見たこともない楽器に歌ね、どこの歌なの?」

ジョーンに話しかけようとその女の声が野次馬をかき分ける時、
周囲の野次馬が

「やぁ、クレオパトラ、君にもこの言葉や楽器が判らないかい?」

「…その名は止して…私にはちゃんとシーシャという名前があるんだから…」

苦笑しつつ、シーシャが野次馬をかき分ける。
ウインストンやアイリーは既に彼女を知っているようで、
すごく気まずい顔をした。

…そう、俺たちは心臓が飛び出るほどの驚愕だ…
何より…ジョーンのその表情…
おそらく、この時代で一番会いたくなかった人物と出くわした
そういうことなんだと皆も悟ったようだ。

…多分…ウインストンたちも感想は述べたろうが…
「ジョット家の女」の持つ特徴に、この女を足して割れば…
…それは完璧なジョーンの下地になるべく女性だからだ…。

「……これは……遠い遠い国の歌よ……」

ジョーンが心の動揺を抑えつつ、努めて静かにシーシャに言った。

「…遠いって…どのくらい? 地中海を越えるの?」

「…ええ…遠すぎて遠すぎて悠久の時間のかかる遥かな国よ…」

間違っちゃ居ない…だがあまりに詩的なその表現にシーシャは

「…おかしな人…悠久の時間のかかる国からどうやってここに来たのかしら…」

「…わたしは時の旅人…100年も一年も…似たようなものだわ…」

ジョーンに限っては…そして今の俺達の状況にとっては
間違っちゃ居ない、そして、詩的な表現にすり返ることで
どうとも取れる、NGにならない表現で半分真実を言った。

ジョーンは笑って見せた。

シーシャも微笑み返しながら

「面白い人ね…それにしても貴女…目とか違うけど…わたしに似てるのね、
 ウインストンが言ってた通り。
 どこか遠くの外国には…私に似た人が居たのね。」

決定的に違うのは目と声だ。
だから野次馬も「似てる」と思いつつ、
ジョーンをシーシャと誤解することは無かったが

「クレオ、俺はてっきりお前さんの姉か妹かと思ったぜw」

「そうだといいのだけど、私、一人っ子なのよね。
 貴女達のさっきの言葉はわからないけれど…
 ジョーンって言う名前らしいわね、宜しくね、
 どこか遠くの…姉のような人…w」

握手を求めると、ジョーンもそれに応え

「…宜しくね…シーシャ…それともクレオパトラかしら…?」

「止して…w キャラバンに生まれて方々回って
 数ヶ国語を覚えてしまっただけよ…w」

「…それに貴女は問題なく美しいわ、わたしなんかよりは遥かにね。」

「遠い国のクレオパトラ、あんたもきれいだよ!」

野次馬の声が飛ぶ、
…顔の印象が違う、体の鍛え方が違う、差異は色々あるんだが
やはり、同じ体や骨格をベースにしてるんだ…
向かい合って握手を交わす二人は確かにある意味の鏡写しだ。

それに、同じ体をベースにジョット家の女だってそれなりに魅力的だった。

少し気まずそうに、でも、少し照れくさそうに、
ジョーンがギターのチューニングを始めた。

「ああ、それで…さっきウインストンとアイリーに
 私の危ないところを助けてもらって…家に御礼に来てもらう
 ところだったんだけど…貴方たちもどう?」

ジョーンを含め、俺達にも彼女は聞いてきた。

「…ありがたいんだけど…あたしたちは水分補給したら
 行かねばならないところがあるのよ、やることもある。
 だから、あなたを助けた二人だけを招待してあげて。」

ルナがこんな時も状況を忘れず、断りを入れた。
ケントやポールは少し行きたそうだったんだが、
まぁ仕方ない、アヌビス神の方があるからな。

「あ、ジョーン、貴女はどうするの?」

ルナが問いかけると、ジョーンはまたギターを弾き始めて
微笑みながら軽く首を横に振った。

「…歌ってたいって…やれやれって奴だわ…」

気持ちはわかるけれどね、という表情で、そして

「…次はディア・プルーデンス? NGにならないようにね…」

でもやっぱり呆れたように、微笑みかけて、俺達に「行くわよ」と促した。

「…残念ね、でもなんだか強い意志を感じる人だわ、
 何かやらねばならないことがあるのね、じゃあ、
 ウインストン、アイリー、来て」

「ああ」

俺達はまた三派に分かれることになる。

----------------------------------------------------------------------

「…いやだわ…ジョーンったら…「のっぽのサリー」なんて歌ってるわ…」

ケントだぜぇー
張り込み再開してたんだけどよぉー、遠くから
聞いたことのねぇ張りのあるジョーンの歌声がチラッと聞こえてくんのよ。

「激しい歌も歌えんのな、パンク聞くのかねぇ?」

「"Long Tall Sally"は…れっきとしたロックンロールだ、
 アナーキズムにシャウトするのとは違うからな…」

ジタンもやや呆れ気味に言った。

「きっと…ゼファーの奴も呆れてるんだろうな…」

続けてジタンがつぶやいたらよぉー

「あら、このスタンド使いの名はゼファーって言うのね。」

「ゼファー=セレクト…ヒッピーみたいな外見の奴でね…
 スタンド効果は「相手の過去を利用する」とは言ってたが…
 ここまでの能力とは意外だった…」

「…ふむ…これはまぁ…「ジョーン君の過去だから」
 ここまで洒落にならない制限やら凄絶さがあるんだと思うね…」

「…だろうな…だからこそ奴も考えあぐねている部分もあるだろう。
 どこからがNGか…
 だが、奴も楽しんでる…これは確実に精神的にジョーンや
 俺達を追い込むことができると喜んでるだろうぜ。」

「…やっぱりサイテーな奴のようね…」

「自分を知ってるタイプだけに…下手な狂犬野郎より始末に終えないな
 …ん…見ろよ…刃が完成したようだぜ。」

ジタンの言葉にオレ達が改めて遠巻きに鍛冶屋を眺めてたらよぉー

「ふっひ…ガハハハ…ギャハハハァァーーーッ!!
 …どうだこの輝き…!
 ついに出来たぞ…!」

確かによぉー…えれー光だ…その刃自体が輝いてるようだぜぇー
そいつは試しに何か切りたくなったんだろーなぁ
刃を柄に差し込み固定すると、店内をきょろきょろしだした。

「…通行人なんかを襲う気はないようね…」

「…正直言えばやってみたいが…流石にそこは良心が働くのだろうね…」

もし、俺がよぉーあんなの手に取ったら…確かに
やらねぇだろーが、考えちまうだろーなぁ…

そいつはよぉー…斬るターゲットを決めた、
鋭い眼差しにジジイとは思えねー見事な構えで…
店内の壁にたくさん置いてた鉄製の武器に向けて
斜め一線に刀を振り下ろしやがった!

「出来たばっかの刀壊す気かよぉー!?」

ちょっとは原料違うとはいえ殆ど同じなんだろ?
クレイジーって奴だよなぁー?

「…いや…」

ジタンが緊張した顔でよぉ、オレによく見るよう促した。

「……うっは…」

他の剣やメイスみたいな鎚系の武器の柄がよぉー…
すっぱり両断されて床に落ちた。
金属の重いけたたましい音がちょっと響く。

「…何て…切れ味なの…」

ルナも冷や汗モンのよーだぜぇ…
そいつ、やばい目をしてるが、しかしオレやジタンやポールは
一瞬職人の極致を見たよーな気がしてよぉ…
一瞬「やべ、カッコいいー」
と思っちまった。

「…うむ…刃こぼれなし…ついに出来たぞ…
 今までのような鉄のおもちゃではない…「本物の刃」じゃッッ!!」

日本刀だってよぉー…あんなに切れるもんじゃあねーよな…
前なんかのテレビで見たがよぉー…
45口径のピストルの弾くらいは両断してたが…
このジジイ…ただモンじゃあねーな…

そこでやっと正気に戻ったか、ジジイは店内を思ったより
深く斬り込んだのに気付いたよーだぜ?

「…むむ…おお…いかんいかん…壁まで…おお…!
 店の象徴まで斬ってしまったわい!」

…壁に掛けてあった「弓と矢」まで真っ二つだ。
とはいえよぉ、矢先は無事なんで、実質損害は
弓だけってことになるんかね?

ジジイが落ちた矢を拾おうとした

「うおっ…! アイタタタタァァーーーッッ!!
 まずいわい…指先切っちまった…石矢の癖にこいつも切れよるわい」

オレら全員…びっくり何てモンじゃねー

「…つまりこれが…」

ポールが言うと

「アヌビス神が生まれる瞬間だというのかッ!?」

「…むッ…うぐ…うご…うごごごごぉぉぉーーーーッ!」

切った指先からあっという間に炎症やら何やらが広がってく。
このジジイ…矢には選ばれない?

「せっかく…折角本物の刃を生み出した…というのにィィーーーッ!!
 …な…何じゃこれは…わしは一体どうなるんじゃァァーーーッッ!!」

相当な激痛らしい、
幸いってーか…向こうでライブやってるジョーンのほうに
珍しがって住人が押し寄せてるようでよぉー…
周囲はシーンとしたもんだぜ…

ジジイの背後に…沸き立つ何か…!

『しっかりしやがれーッッ! …俺を生み出しておいて
 テメーはくたばるってのかよぉーーーッッ!!』

もう殆ど意識不明なジジイ、倒れながらもその血だらけの
手を伸ばしてよぉ…出来たばっかの刀を手に取った。

「…この…この刀…せめてもう少し…楽しみ…たか…」

ジジイは…死にやがったよーだぜ…

普通…ここでスタンドは消えるよなぁ

『お前の怨念…なかなか強いぜ…なるほど…この刀か…
 いいね…オレはこの刀に潜もう…この柄を握る奴の体を乗っ取ってよぉ…
 オメーの願い…遂げてやるかね…クックック…』

アヌビス神はよぉ…刀に吸い込まれるように消えていった…

「ゴゴゴゴ」って音がよぉ…オレ達を取り囲むようだぜぇー…

「…とにかくやばい…死体をあのままにしては…パニックになる…」

ジタンが物陰から出て鍛冶屋に向かう。
オレ達もそうした。

「…どうするの? ジタン…うかつにあたしらも触れないわよ…」

「…心配するな…レット・イット・ビー!」

奴のスタンドがよぉー
ジジイの少し離れた位置から拳を地面に触れさすと
ジジイの死体やら何やらがどんどん「灰」になってく。

「俺のスタンドは「劣化」の場合触れなきゃならんが
 …それなら地面ごと劣化させるまでだ…」

「なるほどね…ケント、念のために壁でこの状況隠して。」

「お、おう」

「…しかしこれは…この刀はどうすべきだね…下手に拾えない…」

「…放置するしかないわね…夜になって誰かが拾うのを待つしか…」

「悠長な話なんだが…これでは仕方ないよな…」

「オレ達の仕事…地味だがよぉー…メチャメチャ重要じゃね?」

「…そうね、でも…ウインストンとアイリーのほうが辛さの点では上かもね」

「…そうか…そうだね…彼女…クレオパトラと呼ばれた彼女は
 「今夜までに死んでなくてはならない」のだね…」

オレ達の空気が沈む。

-------------------------------------------------------------------

「くっそぉぉぉおお…あの異端の白人め…!
 あの女はそうお目にかからん上玉だというのに…ッ!!」

「…は〜い、そこの君ぃ〜」

「…な…何だ貴様は…!?
 見慣れない格好をしおって…奴らの仲間か!?」

「…仲間…?
 僕が…そう見えるってかい…?」

ゴゴゴゴゴゴゴ…

「…な…なんだ…」

「…冗談をいっちゃ困るね〜ぇ……
 僕は彼らの敵…ちょうど良かったんだ…
 君にね…いい物をあげようと思ってねぇ…」

「…いいものだと…?」

「…そう…いいものさぁ〜…
 手に入らないのなら…殺してしまえばいい…
 あいつらも一緒にね…」

「…殺す…」

「…そうさ…ここいらは共有の井戸から大きな水がめに
 各家庭用に水を組んでおくシステムのようだしねぇ…
 こいつで全員…あの世行きさぁ…
 …あいつらあれでもかなり強いからねぇ…
 そんなに手に入れたい女なら…殺して手に入れればいいのさ〜…」

「こ…こんな小さなビンで…」

「…おっとぉ…開けて舐めようなんて思っちゃあいけないよぉ〜…」

「む…う…むむ…」

「悩むくらいなら、やっちゃいなよぉ〜…
 どうせここは異教の民の地だよ…君は偉大な白人の
 偉大な船乗りなんだ…何を恐れることがあるんだい…?」

「…う…ん…ふ…ふふ…そ、そうだな…もらっていいのか?」

「どうぞ〜」

「…ここに居てくれたら…礼はするぞ、ふふふ…待っておれ…」


「………ふん…行ったか…
 ちょっと焚きつけたらあれだ…ジョーカーの奴も
 ちょいと持ち上げたらあの通りだったしねぇ…
 バカって奴は扱いやすいがねぇ… 

 ……さて…とりあえず僕は直では手を下さず…
 上手くすれば…七人中二人が…死亡…
 ふっふ…まぁ…期待そこそこ…
 僕はまた空間に潜もうか…

 ここぞってとこでしか僕も…彼らをつつけないからねぇ…
 まぁどの道…誰かが死ねば…それが重要であればあるほど…
 あいつらの…ジョーンとか言う女の絶望も深まるだろう…ふっふ…」

--------------------------------------------------------------------

夕方になったかな、あたしだよ、アイリーね。

…どうしよう、なんかドキドキして落ち着かないよ…。

クレオパトラは…シーシャはまだぜんぜん元気。
とってもじゃあないけど、持病もなさそうだし、
健康そのもの。

…やっぱりあたしたちが…って事になっちゃうのかなー…

シーシャはあれから少しジョーンを遠目に見ていた。
現代の歌…主にビートルズだったそうだけど…
聞いたこともない歌に楽器、そして何より
「自分に少し似てる」ジョーン自身に興味があったみたいで。
「これは悲しい歌みたい」
「これは恋の歌みたい」
彼女なりに観察して感想を言いながら。

そして…ジョーンがまた店の奥にこもって
楽器を作り始めちゃったから流石にそこを去ったのね。

あたしらが珍しいのか、シーシャに気に入られたって言うのが大きいのか
ちょっとした「お礼」のつもりだった食事はパーティーになりそう。

「う〜ん、砂漠で拾った女の人が寝ているからね…
 家の前で皆で食べましょうか、」

なんてシーシャは彼女のお父さんとか仲間とともに
大掛かりな炊き出しを始めたよ。

家の前の広場から見える窓の奥に…ジョセッタが寝ているのが見える…

ついてきちゃった他の人たちになんか色々聞かれるんだけど、
苦笑して困りつつ
「いや、ホント、言ったってわかんないくらい遠い国だし…
 といってそんな色々寄ったわけでもないからそんなお土産話もないよ…w」
とか、ごまかすので精一杯。
そんな時、

「イタリアには寄ったな…名も知らん小さな村だが…
 一人の少女がローマの勝手な決定で村を追われる羽目に
 なったのに遭遇したよ。
 …辛かったね。」

ポツリとウインストンが言う。
地酒をあおりながら。
ジョセッタのことだね…

それを聞くと皆もシーンとしたんだけど。

「…オレ達の神とは違うが…しかしローマの決定じゃあ…
 その子は悪魔の使いだったんじゃあないのかい?」

誰となく、そう言った。

「ルナじゃあないが…俺にもあの子は天使にしか見なかったがな…」

「天使だよ、うん。」

あたしも心底言った。

「本物の天使に、ローマが嫉妬したんじゃないか?
 あそこは金や血にまみれてるからな。」

「…キリスト教も…イスラムだろうとユダヤだろうと
 地母神信仰だろうと多神教だろうと…
 俺は否定はしないが…だが、そうだな。
 中には欲におぼれた奴は居るよな…
 …まぁ、その子は大丈夫さ…色々大変だが、今でも元気にやってるしな。」

それを聞くと皆ちょっと安心したようだ。

ウインストン、時々かっこいいんだけどねぇ〜

そんな時だった、炊き出しの人たちの後ろで、ウインストンが
水がめに寄る人影を見た。

このあたりは共有井戸から各家庭には大きな水がめに
とりあえずよけておくスタイル。

だから、炊き出しの誰かだろう、と一瞬思ったようだ…

「シーシャ、先に出来た分を行き倒れの彼女にも出しておこう、
 わしが持ってゆくが、ああ、水っ気がちょっと足りなくなったかな…
 水を足そう…」

シーシャの父親が水がめのほうに行くと、その影は消えた。

「…? それにしちゃ…」

「どしたの? ウインストン?
 「それにしちゃ、飯が遅い」?」

「…ちげーよ…」

彼は立ち上がり、炊き出しの間を抜けて、水がめのほうに歩く。

「あら、もうすぐ出来るわよ、座ってて、」

「あ、…ああ、いや、ちょっとな、先に食っててくれよ…」

「…そう?」

父親が水がめから水を足し、更にその水をカップに注ぐ。

「何かあったのかね? おおっと、こぼすところだった…」

「しっかりしてよ…w お父さん。」

「ああ…彼女も起きたら腹ペコだろうし…スープでまず体を
 暖めてやらんとな…」

「…でも彼女…まだ起きそうにないわ、とりあえず皆でいただきましょうよ。」

「…それもそうかね…まぁ、置いてこよう。」

ウインストンが水がめのある家の脇に回ったとき、
あまり灯りもないこの時代だけど、何かの灯りで
10メートルほど先の路地裏に、この地方の服ではない…
そしてさっき昼間…港近くで見た奴が逃げ去るのを見た!

「…!!(振り返り)アイリーッッ! 来てくれッッ!」

ウインストンは風街ろまんの遠距離攻撃でそいつを攻撃した!
とはいえ、建物の影に隠れるところだったから、
ちょっとどっかを切ったくらいだった。

あたしが駆け寄る、
地元の皆は「危ないかもしれないから」って残しておいた。

「どうしたのッ!?」

「…昼間の奴だッ! 姿は一度きりだが…モニターできるなッ!?」

「…うんッ! こっち! ウインストン、怪我させたね?」

「…かすった程度だが…灯りも満足にないんじゃあ
 血の跡が…こっちは月明かりの裏だし…くっそ…」

「…大丈夫、こっちだよッ」

「流石だぜ…アイリー」

「…彼がそれで…どうしたの?」

「…水がめのそばに居たんだ…何をやってたかまで見えなかったが…」

「…居たッ! そこッ!!」

あたしが指差す暗闇。
ウインストンは風街ろまんの拳を叩き込み連打を浴びせた。

「…おいッ! 不審なまねしてんじゃねぇよッ!
 何してたんだッッ! おいッ!!」

そいつ、

「ぐぶッ…がばッ…手に入らぬなら…」

「何ッ?何だって?」

…あたし…すごく嫌な直感が…これって…!

----------------------------------------------------------------------

月明かりも明るくなってきた。

窓から差し込むやわらかい光に寝室に眠るジョセッタ。

薄れる意識で誰かが自分を救ったのは感じていた。

「…ああ、また死ねなかった
 手首を切っても、首をつっても…毒をあおっても
 …砂漠を彷徨っても…」

…なんにせよ生き残ってしまったのなら…
ここの人たちの下で…なんでもいい…生きる場所を提供してもらって
代わりに身を粉にして働こうか…

彼女はまだ目覚めては居ないが…「もう一人の彼女」は
そこに届けられた水や温かいスープが体力の回復に役立つと
運んできた初老の男性が去って充分間をとった後…
眠るジョセッタの体から手を出し、それに触れた。

---------------------------------------------------------------------

「…ウインストン…ッッ!! こいつもしかして……ッッ!!!」

あたしがそう叫んだときだった、
シーシャの家の前側の方から…声が聞こえた

「…コノ水ヲ…コノ水ヲ使ッタモノヲ口ニ入レテハイケナイッッ!!!!」

船乗りの胸倉を掴んだままのウインストンもあたしも
その声に驚いた。
オーディナリーワールドの声だったからだ。
叫んだ声は…ジョーンにも似ていた。

「…てめぇまさか…!」

「手に入らぬなら…殺す…!」

ウインストンがそいつを思いっきり一発殴り、
あたしとともに彼女の家の前に戻った!!


第五幕 閉じ  戻る 一幕 二幕 三幕 四幕 進む