Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Seven

第六幕 開き

…なんてこと…ッ

家の前の広場に行くと、そこはもう地獄絵図のようだった。

あたし、もう半泣きになりながらまだ息のありそうな人を
とりあえず吐かせるべく奔走した。

「…ウインストン!
 ジョーンを…ジョーンを呼んで!
 ルナも出来れば…!」

「わ…判ったが…ジョーンはともかくルナが
 どこにいるかが…」

あたしはベイビー・イッツ・ユーを展開し、
それを半分砂地の地面に触れさせた。

知ってる範囲の道で町の地図がそこに描かれてゆく。

…後になって冷静に考えると、
誰かに判るように検索結果を見せる、なんてこれが初めてだった。

「ジョーンはここ…まだあの楽器店だね…
 ルナはここ…お願いッ!!」

「判った!」

とりあえず皆に吐いてと叫びながら、
あたしは恐る恐るシーシャに近づいた。

ピクリとも動かない…
息もしていないし…

とりあえず吐かせる努力をするんだけど、
もう彼女の体は喉の奥を突こうと反応しない…

生命反応が弱くなってゆくのがスタンド越しに伝わる

「ああ…そんな…確かにそうなんだけど…そうなんだけど…」

死んでなくてはならないのだから、これでいいはずなのに、
でもやっぱりこんなのってないよ…

あたし、シーシャの手を握りながらジョーンが早く来ることを祈った。

…そういえばさっきの…オーディナリーワールドの声は…
ジョセッタの方のなのかな…
でもジョセッタが半昏睡状態だから…動けないだろう…

ジョーンが走ってやってくる。

「…なんて事に…」

ジョーンもその様子にいたたまれないようだった。
シーシャに近づき、オーディナリーワールドを使う。

…でも…その表情は芳しいものじゃあなかった。

「…数種類の猛毒が使われているわ…
 一つ一つの分解をしていると体が持たない…
 機能保持を優先すれば毒は更に回る…
 …どうしようもないわ…」

そのうち、近くの人の吐瀉物を見たジョーンが

「…これは…重金属の酸化物…
 ありえない、この時代にそんなものは…ありえないわ…」

「…でも…毒を盛ったのはポルトガルの船乗りだよ…」

「…おそらく彼に毒を渡しけしかけたんだわ…「声の主」が…ッ!」

ジョーンはまだ助かりそうな人たちの治療を開始した。
…シーシャの父親も、キャラバンの人たちも
殆どがダメだったけれど、近所の人たちは
まだ何とか助かりそうな人が多かった。

「…後はルナ待ちになるわ…毒物を皮膚近くまで持ってきて
 広がらないようにして…内臓不全は何とか抑えた…」

「…ジョーン…」

泣いてるあたしにジョーンが近寄る。
あたしが手に取ってたシーシャの手をジョーンに渡す。

もう脈はない。
彼女の命は、今終わる。

「…こんな事を…予定の出来事だったと…流せるはずはない…」

ジョーンは大きく怒りを持って涙をこらえ、悲しみを怒りに変えて
うつむき、声と体を震わせた

そんな時、シーシャの半開きの目が…僅かにジョーンの方に動いた。

「! シーシャッ!」

あたしとジョーンが彼女に叫びかけると、
彼女は何か言おうとして口を少し開いて、
でも…何も言えないまま、今度こそ彼女の目に
命の光は見えなくなった。

シーシャは死んでしまった。

「…アイリー…!!
 …彼女に…彼らに毒を盛った船乗りはどこ…ッ!!?」

シーシャの手を握るジョーンはうつむいていて、
そしてまた、ジョーカーを殺したときのような
凄まじい怨念を発しながらあたしに言った。

ジョーンの体から湧き出ようとするオーディナリーワールドは
…また「超本気モード」になっているようだった

「でも…でも…もし彼がNG条件だったら…!」

「…関係ないわ…ッ!!
 この世に塵も残さず消し去りたい…!」

「…ダメよ、ジョーン。」

えっ? …いつの間にかルナが居た。
急いで走ってきて息を切らしながら
ア・フュー・スモール・リペアーで
助かりそうな人の治療を開始していた。

ルナはもう一度言った。

「ダメよ…この怒りを…胸にしまいこみなさい…出来なくとも
 やるしかないのよ…!」

ジョーンが泣きそうになる気持ちと
殺意と戦っている様子に、ルナが続けて言った。

「何度もこのステージのこの場面でNGになる訳に行かないし、
 …まだまだステージがあるのでしょう?
 …次がいつの時代のどこか、その次はどの時代か…
 貴女におおよその予想はついていても…
 それを忘れてここで復讐の炎に身を焼くことは…
 貴女が一番避けなければならないのよ…」

「…判っているけれど…でも…!」

「どうあれ、これであなたの体が手に入る下地が出来てしまった…
 あとはアヌビス神とジョセッタが起きて出会って…
 町外れの遺跡にたどり着く前に…彼女の死体を浄化して
 そこに置いてこなければ…でなければすべてが水の泡よ…
 彼女の死すら無駄になってNGになってしまうわ…!」

やるせない気持ちと戦うジョーンは泣くのも叫ぶのもこらえて
天を仰ぎ見たときだった。

『…どういうことか良く判らないけど…いいのよ、多分これで…』

シーシャの体から細い糸でつながってるような彼女の…魂だった。

『貴女の「時の旅人」って言葉はなんとなくわかったわ
 …そして、今この姿になって私はっきり見えた。
 ジョーン貴女…わたしが砂漠で拾った女性と
 同じ魂を持っているのね…今のあなたの体にかなり
 馴染んではいるけれど…そしてそう、これから…
 どういう流れか彼女の魂が私の空っぽの体に入って生きることになるのね』

「…シーシャ…」

謝りたそうなジョーンにシーシャは言った。

『…仕方ないわよ…多分いつかはこうなった気がするわ。
 貴女のせいじゃあない。
 世界の流れで…』

ルナがつぶやく

「ジョーンは知ってると思うけれど…ポルトガルによる黒人奴隷貿易が
 この15世紀中ごろから始まっている…既に…
 この時代は…欧州の人間が権利の拡大、自尊心の満足
 …欲した自らより「劣る」存在…を確保するために方々で
 布教という名の洗脳を開始している…」

『ああ、やっぱそんな目で見られてたんだ。
 だからジョーン…これは仕方のないことなのよ…
 むしろ…殺された私の体を貴女が大事に
 使ってくれているのが嬉しいくらい。』

ジョーンの悲しみが怒りに、そしてそれがまた悲しみになってゆくのを
あたしもルナも感じる。

『これでいい…というか、こうなってしまったのよ…
 逆らえない何か運命があるのなら…
 ああ…もう体が消える…逝かなくちゃ…
 最後に…ジョーンって名前じゃあない…
 貴女の本名を教えてくれる?』

「…ジョセッタ=ジョット…」

『…そう…ありがと…じゃあ、さようならジョセッタ…』

天に向かって消えてゆくシーシャを求めるように
ジョーンが手を伸ばす。
シーシャはそれに応えるように手を差し伸べる…
触れ合うことはないままだけど、彼女は消えていった。

ジョーンがうなだれる。

「…冷たいようだけどジョーン、彼女の体内の毒物を
 浄化しなくちゃ…女三人で神殿まで運ぶのはきついけど仕方ないわ。」

何とか命を救えた人たちは静かに眠っている。
死んでしまった人たちは…一応区別しておかないと…
ジョーンがシーシャの死体を浄化している間に
あたしとルナでその作業をした。

…なんかこう…
人が簡単に死んでゆく…
もうあたし、涙も出ないよ…

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「…上手くはいかないんだろうな…これも決まっていた
 「運命なんだ」って事になってよ…」

ルナの代わりにウインストンが張り込みに加わり、つぶやいた。
ああ、私だ、ポールだよ。

「…どうしようもないだろうな…運命って奴は…抗いがたいものなんだな」

ジタン君のつぶやきに我々は沈んだ。
運命は自分で切り開くものと私たちは誰もがそんな風に考えていた。
…しかし、それに逆らえばNGになり、受け入れねばならない。

「…そこまで迅速に人の命を奪える猛毒を
 簡単に持ち合わせられたとは思えん…
 恐らく…ゼファーの奴が手引きしたな…
 上手くすればウインストンやアイリーも始末できると踏んで…」

「…よくその怪しい奴に気づいたよなぁー…流石だぜぇー」

「…俺は人種で人の価値を決めるのが嫌いでな…
 昼間に出会ったポルトガルだかスペインだかの
 糞ヤローは忘れねぇ…、勘が働いたって言うか…」

「…まさか周辺住民まで巻き込んで毒殺するまでは
 考えも及ばなかったようだが…仕方ないね…
 現代ではまずありえん事件だからね…」

「…まったくだ…ここまで人の命が軽い時代なんだな…」

「…現代でも重いとは言えんよ…民族紛争やダイアモンド利権
 宗教の宗派がらみの政治的軋轢…
 飢餓や物資の不足ならまだしもだ…
 誰かの意思で誰かが数十人単位で簡単に死んでいっている…
 …まぁ大量毒殺なんて…あまりないがね…」

私たちはロンドンの割りにおとなしい地区で安穏と
生きているから…あまりそういったことは意識しないが…

…と…重い雰囲気の我々が物陰から見守る鍛冶屋の路地裏から
怪我を負った人物がやってきた。

「…あいつ…!」

ウインストンが思わず立ち上がり、その男に向かおうとするのを
私もケントもジタン君も止める。
…つまりあの男が毒殺の犯人で、
…そして今…彼が…

「…くそ…あの異端の白人…何か飛び道具を持っているのか…
 この俺をこんな目にあわせて…ただで済むと思うな…
 おい…!
 オヤジ…!
 武器をくれ!」

「彼」は鍛冶屋と顔見知りなのか、中に入るも
…当然、そこは無人…

「…いないのか…?
 まったくここのオヤジは…切れる剣だの何だのと
 血道をあげていつでも留守にしやがる…ん…?」

そう、彼は見つけてしまった。
「アヌビス神」の刀を…!

「これは…」

彼はそれを拾い、しっかりと手に持った。

「なんという輝きだ…これが奴の言っていた「斬る為の」剣なのか…」

そのときだ、彼が頭を抱えて苦しみだした。
いよいよだね…

「…そーさ…お前の体…何だよ…怪我してんじゃねーか…
 まぁいい…お前の体で俺がいかに斬れるか
 …試し斬りと行こうじゃあねーか…」

彼の口から漏れる台詞は…アヌビス神になっていたようだ。

彼はそしてふらふらと鍛冶屋から出て、歩き出す。

…ちゃんと方向的に「正しい」方向に向かって歩き出した。

「…オレ達が誘導しないとならねぇーのかと思ったんだけどなぁー…」

ケントのつぶやきに私が

「…必要ないかもしれない…ちゃんとこの時代でも
 発動しているようだね…あの法則が…」

そしてジタン君

「…スタンド使い同士は引き付けあう…
 この時代で向かうべき人物がジョセッタ=ジョットであることを
 どこかで無意識に認識してると見ていいだろうな…」

「…だが寄り道や余計な犠牲が出ないようには
 …俺達がコントロールしなくちゃならねぇな…
 そして見つかる訳にはいかねぇ…」

物陰から我々は彼の後をつけた。

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ルナよ。

死体をシーツでくるみ、あたしらがとりあえず人目を忍んで
神殿まで向かった。

神殿まではそう遠くはないから、
まぁあたしもアイリーも助かったけれどね。

半分崩れた石造りの柱がちょっと危険な神殿址…

なるほど、何の儀式のためなのか…それとも、
ここは住まいでそれこそここがベッドだったのだろうか

人が一人横になれる台座があった。

あたしら三人でシーシャの死体を台座に寝かせる。

一応そこであたしらは…というか、あたしとアイリーは
祈りの形で弔った。
あたしも神は信じないけど、魂に対して形は示さないとね。

ジョーンだけがうなだれて、ただただ彼女の顔を見つめていた。

「…ジョーン、町に戻るわよ、そろそろ…すべてが動き出すわ。」

「…ええ…だけど…少し彼女にお別れを言わせて…一人で…」

気持ちはわかる、アイリーも察したみたい。
あたしら二人が町へ足をむけ歩き出し

「…早めにお願いね…あなたのフォローが必要になると思う。」

「…ええ…」

あたしらは町へ戻る。
ちょっと振り返ると、泣いては居ないようだけど
シーシャの死体にジョーンがすがるようにしていた。

「…歌ってたジョーンもうかつだったけれど…
 それにしてもなんてダメージかしらね…
 あたしはなるべく時代に関わらないように
 ここでは気をつけたけれど…」

「…うん…」

「歴史上のただの事件…誰の人生にも関わるようなもので
 ないなら…あるいは全員心を閉じられたかもしれないのに…」

「…それも難しいけれど…ジョーンの人生そのものだからね…
 感情移入するなって方が難しいよ…」

「そうね…ん…?」

ちょっと小高い砂丘の上にあたしらは居る、
町を少し上から眺める位置に居て、キラっと光る
何かが見えた。

「…あの輝き…いよいよ動き出したようだわ、アヌビス神…」

「…まずいよ…余計な犠牲だけは出ないようにしなくちゃ…」

「…走るわよ!」

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「アヌビス神」は通りすがる人物一人に斬りかかり、
それを見ていた地元の住人は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。

ああ、引き続き状況説明は、私だ。

「…何だよ…こいつ(取り憑いた体)…よほど嫌われてるらしいな…
 面白くねぇ…これじゃあろくに試し斬りもできねーってんだよ…」

そう、白人優位の時代に入って特にウインストンの話によると
あの男は相当にその権威を振りかざしていたようだ。
最初は慎重にそれとなくシーシャを手に入れようと
数年通ったりもしたのだろう。
だが、その傲慢振りから拒絶され、この日、ウインストンにも阻まれて

…これも運命なんだろうか、
現代の我々が絡んで初めて動いた運命なんていうのも…

「…ウインストン…どうなんだ?
 ちゃんと向かっているのか?」

小声でジタン君が聞くと、ウインストンは頷いた。

「…引き寄せられるようだぜ…」

運命を感じずには居られない…

そして、シーシャのキャラバンの根拠地…彼女の父の家…
ということになるのだろう、その広場までやってきた。

…幸い、取り憑いた人物が人物だけに、皆逃げ惑い、
ここまでの犠牲は一人で済んでいる…
(あっという間の両断でどうすることも出来なかった…)

家の前の広場に、彼が立ち、その状況を見た。

「…なんだなんだ…ずいぶん大勢が倒れてるな…?
 こっちの奴らは…死んでやがる…
 …こっちの奴らは…生きてるが…活きが悪いなぁ…まぁいい…」

「彼」は左手で安静にしている住民一人を掴みあげた。

目が覚めた住民は目をむいて驚く。

「…ひッ…!? お前は…ドミンゴッ…!!」

シーシャとの絡みばかりがクローズアップされてきたが、
商人としてもこの男、相当にあくどかったらしい。
住民は明らかに彼を恐れた。

「…ドミンゴ…ああ、この体の名か…
 どうでもいい、そんなことは…」

ドミンゴは住民を転ばない程度に突き飛ばし、
彼がよろめいたところを斬りかかった!

「…風街ろまんッ!」

20メートルほど離れた位置でなるべく小声に
ウインストンがスタンドの名乗りを上げて、
風を起こし、突き飛ばされた彼を更に押し倒した!

風であるなら、ありえないフォローではない、
住民はさらによろめき、刀は彼をかすっただけで宙を斬った。

「くそ…風が…命拾いをしたというか…
 死の恐怖が深まったな…クックック…」

地面にへたり込み、ドミンゴを恐れるように後ずさる彼、
そこへルナたちも合流した。

「…ちゃんと彼ここに来てる…」

アイリーが言う。

「やはり法則は生きている…そういうことよね?」

ルナの問いに、ジタン君が頷いた。

「ああ…あの人斬られちゃう…!」

アイリーが頭をかかえる。
ドミンゴはもう一度刀を振りかざし、住民を斬りつけたその時だった!

宙を住民に向かって振り下ろされる刀身に触れる指先、
そこは火花のようなものを散らし、そして固定され
動けなくなったようだ。

そう、切っ先を止めたのは…

「…お止めなさい…!」

意識が戻って間もない、まだ吐く息も荒いジョセッタ君だった。
とうとう始まった、ジョセッタ君の表情は、状況を
見ては居ないがある程度理解は出来るといったような雰囲気で
険しい表情をしていた。

「…波紋か…この時代のジョセッタは…スタンドより
 波紋の方を主に使っていたようだな…」

ジタン君がつぶやくと

「ええ…だってこの時代のわたしは…「この世の成り立ち」
 だとか、そんなもの微塵も知らなかったし…
 オーディナリーワールドの能力はわたし自身に
 向ける力で精一杯だったころだから…」

ジョーン君も合流した。
そう、オーディナリーワールドの力を外に向けようとするならば
その為には物理というか科学というか、そういうものを学び
空間にどのようなエネルギーを与えれば何が起こると
彼女自身が知ってなくてはならない。

「早い話が…「スタンドはとても弱い」って事か?」

ウインストンが言う。

「…殴るのは話が別だけれど…
 この場合は「くっ付く波紋」で切っ先を止める以外
 この頃のわたしに手段はないわね。」

我々がまた戦闘の場を見つめた。

「…何だこの力…俺の力とは違うな…?」

ドミンゴという男に取り憑いたアヌビス神がつぶやく。

「…あなたは一体何をしているの…お止めなさい…!」

「…なんだぁ…?
 関係ないね…俺はまだ生まれたばかりでね…
 「俺自身の力」…知りたいじゃあないか?」

ドミンゴの蹴りがジョセッタ君を襲う!
ジョセッタ君は切っ先から手を離し、住民をもっと遠くに突き飛ばしながら
自らも後ろの壁面に飛びつく、

壁面に指先と足先だけで張り付いている。

「これが…「波紋でフリークライミング」って奴ね。」

ルナがジョーン君に聞く。

「ええ…」

ドミンゴが刀を振りかざし、ジョセッタ君ごと壁面を切るが、
彼女の身のこなしは病み上がりとはいえ、華麗なものだ
ギリギリだが大きく空中に円を描き、自らの蹴りを
かわすだろうが、ドミンゴに食らわせつつ屋根に上った。

ジョセッタ君のブロンドの髪が柔らかい風になびく。
月明かりを浴びて、とても神々しいものに見えるね…

見た印象は…確かにアレサに似ている。
…のだが、若くして波紋で体を鍛えたのもあり
身長や体つきは「戦う女」としての風格だ。

とはいえ、マッチョというのではなく、
そうだね、アスリートとかそういうのに近い
「鍛えられた美しさ」があるね。

「ジョセッタ…背高いね…今のジョーンより高い…?」

アイリーのつぶやき。

「そうね…メートル法なんて当時はなかったけれど…
 ああ、そうだわ…オーディナリーワールド!」

オーディナリーワールドがジョーン君のそばに現れ立つ。

「…この身長よ。
 そうね…ヒールの分が入ってるから素の身長は182ってとこかしら」

オーディナリーワールドはジョーン君の深い深層心理の表れでもある。
なるほど、彼女の身長がそのままジョセッタ君の身長だったのか…
アレサの身長は170少しといったところだった。
成長期の波紋が彼女の成長に著しく貢献したのは間違いないようだ。

「おいおい…そんなとこに登って…逃げるのか?」

ドミンゴがジョセッタ君に語りかける。

「…逃げないわ…貴方を…止めるッ!」

空中から勢いをつけドミンゴを攻撃するようだ、
砂漠を二年無防備で彷徨い、恐らくは
今も一切の食事をしていない。
相当に弱っているということなのだ…

ジョセッタ君の右手がドミンゴの刀…つまりアヌビス神に、
波紋で動きを止めようということなのだろう。

「…何度も同じ攻撃繰り出すんじゃあねーぜ…」

彼は切っ先の軌道を変え、ジョセッタ君の右腕を斬りかかろうとする!
しかし、ジョセッタ君はそれを予知していたようで、
空中で体を回転させ、切っ先をかわしつつ、左手指先で刀を止めた!

「…くっ…!!」

「「生まれたばかり」…その言葉が何を意味するのか
 判らないけれど…」

ジョセッタ君がつぶやくと、ドミンゴがまた蹴りを入れようとする、
ジョセッタ君はそれも鮮やかにかわし、左手の波紋で切っ先を止めつつ
左足で反撃に出る!

「銀色の波紋疾走ッッ(メタルシルバー・オーバードライブ)!!」

刀身に左足が触れると、火花のようなものが彼を襲う。
ジョーン君が解説した。

「…波紋はそもそも二派あるわ、ひとつは人の生命活動を
 活性化させ、医療として用いるもの。
 …もうひとつは…闇の生物…わたしはこの当時
 遭遇したことはなかったけれど…太陽の光に弱い
 怪物が…吸血鬼が居て…それに対抗する「武道」としての波紋…」

「吸血鬼?」

思わずウインストンが顔をしかめて聞きなおした。

「…人間の脳に眠る力を針で呼び覚ます…
 「石仮面」というものがあるわ…それによって
 指先で人の生気を吸い取り、強力な力と
 永遠に近い命を得る「吸血鬼」…
 ただし、弱点は太陽の光って言うことらしいわ…」

ドミンゴは強く衝撃を受け、しびれた…というか、
今の解説によると、体内のリズムを狂わされ
上手く動いたり思考できなくなったりするのだろう。
治療のための波紋ではなく、武道としての波紋というわけだ。

切っ先を波紋で止められたまま、彼は気絶したようだった。

ジョセッタ君はそれを確認すると、指先を切っ先から離した。

「…これが間違いだったのよね…」

ジョーン君がつぶやく。
「何だって…?」と私達が言う。

ドミンゴは…より眼光鋭く、その場に踏ん張り、持ち直した。
ジョセッタ君の動揺が伝わる。

「…な…なぜ…!?
 波紋は対人用の「攻撃」ではないにせよ…どんな大男だって
 食らってまともで居られるはずは…!」

「…ふぅー…妙な技持ってるな…
 だが…
 「お蔭様でこの体は完全に失神して俺の完全な支配下になった」
 その…「波紋」とか言う技…「覚えたぞ」…ッ!!」

ジョセッタ君が恐怖を感じたようだ。

「…今でもこの「覚えたぞ」はトラウマだわね…」

ジョーン君がつぶやく。
なるほど、震えるように手を組んで、微妙に嫌そうな雰囲気が伝わる。

「空条承太郎すら追い詰めたんだ…」

ウインストンがそれに応える。

動揺するジョセッタ君にアヌビス神が襲い掛かる!
ジョセッタ君は波紋で応戦しようとするものの、
それを超えるスピードになっている!

「は…早いッッ!」

ジョセッタ君の右腕が両断された!

鮮やかな切り口、斬られた事すら感じ取れないほど
突然の事態だった。

少し遅れて血が噴出す。

「…お前のその…「波紋」だっけか…
 指先か足先でしか強い効果が出せないようだな…
 だから…順々にその手足…切り刻ませてもらうぜ…!」

ジョセッタ君の顔が恐怖に包まれる。

「…そう、波紋の弱点は喉と肺の他に、
 体内のエネルギーを束ねて一気に伝えるために
 指先とか足先とか体の末端まで
 集約しないといけないこと…
 彼は単にスピードを上回れば良いというだけでなく
 ちゃんとその使い方まで理解している。」

ジョーン君が更に解説をくれるのだが…
これで遺跡まで持つのかね…

『…ジョセッタ…右腕ヲ拾ッテクダサイ…!』

オーディナリーワールドの声だ…ジョセッタ君から聞こえる。

「…ん…? 何だオメー…やっぱり「俺と同類」じゃあねーか…」

アヌビス神が斬りかかると、ジョセッタ君の体から
当時名無しと言う事らしいのだが、オーディナリーワールドが
腕だけを出現させ、アヌビス神を払いのけるよう動いた。
波紋というか武道をたしなんだジョセッタ君らしく、
その動きは最小限かつ確実に切っ先の軌道を変えさせ
被害はゼロだ。

ジョセッタ君は切られた右腕を恐怖半分、
必死で拾ってその場から逃げ出した。
チラッと郊外に遺跡があることを確認したようだ。

「…同類が居るならその方が面白い…
 病人なんざ斬っても面白くもなんともないからな…
 …お前の「憑き神」も…なんとなくだが今のは…「覚えたぞ」ッ!」

アヌビス神はジョセッタ君を追いかけた!

彼女としては、恐怖半分だが、自分に興味を移させ
とりあえずこの場から去ることも半分は目的だろう。
遺跡まで逃げる、というのが更にそれを思わせる。

520年遡っても…彼女らしい優しさも持ち合わせている…
どんなに世を儚み、どれほど世の仕打ちに絶望しても。

ジョセッタ君は逃げながらオーディナリーワールドで
腕をくっ付けた。

すぐに右手の指が動き、くっ付いたようだ…

「アヌビス神の斬れ味は凄まじすぎてね…
 細胞の損失も最小限だから…復帰が早かったわ。」

なるほど…当時のジョセッタ君にはわからずとも、
今のジョーン君はそれがわかる。
時代は残酷だ。
今この時代に今のジョーン君が出会っていたなら、
戦いになってなってなかったろう。
今のジョーン君なら、すぐに解決出来たろう。

だが…

わたしたちも二人を追い、ケントが壁で遺跡への道を誘導する。
(別な方向への道を閉ざすのだ)

「ははは…逃げたつもりか…逃げてるつもりかよ…!」

ジョセッタ君も体力の限界なのだ、狭い十字路に逃げ込み、
水がめの陰に身を潜め、荒い息を整えようとする。

我々は十字路のひとつの道を壁で塞いである。
彼女の逃げ道確保としてはすべての道を開けておきたいが、
遺跡までの誘導もしなくてはならない。

「くっそぉー…やっぱりこのくらいしか出来ねーがよぉー…
 何とか生き延びてくれよぉー」

ケントのつぶやきに

「ケント君…壁に近いわ…まずい…!」

「…ははは…狭い道だな…おい…狭けりゃ刀は振り回せないってか…?
 どこへ逃げたよ…俺と戦えよ…でなきゃ…この町…全滅だぜ?」

アヌビス神が刀を振る。
それは壁も何も透過し、ジョセッタ君の髪を少し切ったようだ。

…というか、ケントの壁も透過され、壁のそばに居たケントまで
腕が切断される!

「オーディナリーワールド…!」

腕が飛ぶ瞬間にそれをくっ付けた。
我々の顔がこわばる。

「ケント君、もう一枚壁を…!
 光学迷彩を施し…別な道に…10メートルの範囲で回り込まなければ!」

空気の方は加工済みで、音は伝わりにくくなっている。
立ち上がり、恐怖の表情を示すジョセッタ君。
そのまま固まっていたら斬られていたろうが…

「…そこに居たのかよ…だが…おかしいぞ…
 今何か別なものを斬った感触があった…」

アヌビス神が数回壁を透過し、こちらに切りかかるのだが、
我々は既に刀身の範囲から逃れていた。

その間にジョセッタ君が意を決し、走り出す。

「…あ…くそ…ハハ…だが…逃がすかよ!」

アヌビス神がジョセッタ君を追う。
我々は胸をなでおろしたらいいものだか
すぐに二人をまた追わなければならない!


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