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「少佐、実行前に言うのもなんですが本当に良いんですか?」

「構わないわ、色んな意味で限度試験になる」

『高度15万ft、中間圏に入ります』

宇宙ステルス型特別支援艦「てしお」、いわゆる「掃除ベース」であるが、
それがいつもの掃除部隊と共に…つまり大気圏外に抜け、デブリ掃除に向かう途中、
バケツ一号機もそこにあった。

ウィンストンが呆れて

「しかも単体でだよ、ぜってー帰ったらルナ怒るぜ」

「怒るでしょうねー、第一声は「貴女死にたいの!?」」

全員が苦笑する、ありありとその様子がわかる、ルナなら先ず、
作戦の無茶さより命を粗末にするような行動を非難する。

八代の部下もしかし笑い事ではないと

「中間圏からですよ? 摩擦も起きる」

「装甲のテストや露出している機構部分の耐久テストにもなるのよねぇ、
 まぁ一号機だからこそ出来るというかレニウム合金やタングステン合金、
 そして耐熱層と水冷機構はそんなヤワじゃないと思うけど」

ノーマルスーツにヘルメットを被り

「ではそろそろ行ってくるわ」

「つか補給も無しで本当に大丈夫か?」

ウィンストンが聞くと八代はにっこり

「使えるモノは 何 で も 使うのよ」

この女怖ええ…今後も逆らわないでおこう…モール隊は震え上がった。

バケツには通常の背中装備部分に更にバーニアユニットが追加されていて、
MS用の小さめのアタッシェケースのようなものも後ろの腰部分に取り付けられている。
追加装備はそれだけだ。

「知らねぇぞ、ルナはこれを落下傘降下だと思ってるんだからな」

そこへ艦内放送

『そろそろ目標地点です、カウント始めます』

実行するのは自分ではないのに、と皆緊張した。
第一、作戦が無茶すぎた…

『投下!』

ハッチから膝を抱えて小さくなったバケツが落ちて行く、ほぼ真っ直ぐ下へ…!



一方その頃…

「アトラソフ大佐、上空の…例の日本のが飛んでいるんですが…」

「いつものことだろう、高高度ならこっちも何も出来んよ」

「それが…大きさは不明なのですが何かが落下してきます」

「不明?」

「同じ素材と言いますか…真っ黒すぎて大まかな事しか…」

「部品でも脱落したかな? 或いは美味しいかもしれんな」

「結構な塊です、中間層入り口付近で落下開始したと思われますが」

「落下以外の反応は?」

「…何も無いです、今は表面が熱に覆われていて判別も難しいのですが」

「落下予想地点は?」

「ここより東に1km以内と」

「…単純な落下にしては…しかし攻撃としてもおかしい、半端すぎる」

「本国に連絡を入れましょうか」

「まぁ待て、中間層とは言っても入り口付近で自由落下だろう、
 そう派手に落ちるモノでもなかろうし、何が落ちたかで判断しよう、
 手の空いたモノにMSによる偵察に当たらせるため…そうだな、
 東側だと直ぐ動かせるのがザク二機、大がかりなモノの可能性もある、
 一応全機動かせるように配備しておけ」

「はい」

アトラソフ大佐は少しの間あらゆる可能性を思い浮かべようとしたが、
しかし矢張り余りにも半端な高さからの「自由落下」と言うことで
深刻には捉えなかった。

そして落下物が外の監視の双眼鏡にも捉えられたがもうすぐ落着、という
その時である。

『ヒャーッッハッハァァーーーーーーーーーーーーーッッ!』

黒い塊に見えたそれが回転しつつ手足を広げ、足や背中のバーニアを一気に噴かす!

「て…敵襲だーーーー!!」



見張りが叫んだ瞬間には起動して立ち上がろうとする二機のザクに
黒いそれが僅かな距離での減速と共にホバリングに移行し、そして
見張りの声が響き終えるかどうかの間に凄まじい切れ味のサーベルで二機とも
右肩から頭に掛けてを切り落とされた!

アトラソフ大佐は叫ぶ、

「敵襲!? 敵襲だと? バカな! 地上すれすれでの一気な減速など
 内臓が滅茶滅茶になるはずだ!」

「しかし…既にザクが二機やられています!」

「く…やはり日本か…!」

「それが…記録にない新型のようで…」

「くそ…!! 迎撃しろ! 加えて…ミサイルの準備だ!
 確証がないとしても日本の船から下りてきたのだからな!」

「す…既に地上配備分は大半が…!」

「な…早い、早すぎる、ひょっとして全自動なのか、無人機での投入!?」

「つ…通常有り得ません…日本にとってもリスクが高すぎます!」

「だが日本だぞ!? 日本なんだぞ!?」

司令部が厳重なトーチカ内部にある為、外の様子が直接はわからない、
モニター越しに見ると、黒い塊が一瞬通り過ぎては次々と「戦力」と見做したモノを
全てたたき切っているようだ、しかも、大爆発を起こさないように!

時々MSの兵装と思えるモノの音、そして大きな質量が地面に落ちる音が響く。

「兵士達は何を…対空砲でも何でもいい!」

「応戦はしています!」

大佐は大きく汗を流し、

「ハッチを開けて大型を…!」

「お待ちください!」

「他にどうしろというのだ!」

「それでは…!」

と言ったばかりに、トーチカの天井一部が大きく丸く斬られMSの手が
その一部をトーチカの向こう側へ倒した。
見たこともない、しかしジオン系の濃いモノアイが司令部内部、そして
席順的に最高位である大佐をそのカメラの一つがにらみつけた感覚を大佐は覚えた。

『あれからどれだけ経ったと思っているの?
 まだ北海道諦めてなかったの?
 確かにここも横からの索敵は散らされるようになっているけれど、
 全てを閉じるわけにも行かない、真上から見える景色に
 私達が何も思わないとでも思った?』

「う…く…!」

『最低でも黒幕はロシアで良いのね?』

一見ジオンにしか見えない彼らは一斉に口をつぐんだ。

『それとも貴方達がジオン軍を騙った?
 あのねぇ、ウルップ島なんてまた微妙なところに陣取っちゃって
 政府は大きな事を言えないとしても、
 それに成り代わって動く部隊が居るとは思えなかったの?』

「お前は…お前は人間なのか!?」

その言葉にコクピットが何重かになっているが幾つか開いて姿を見せる。
乗組員は大量の血を吐いたことを示す跡があるモノの不敵な笑みで

「もう一つの肩書き…特殊配備課国選処刑人十條八代、
 まぁ貴方達が正体を明かそうと隠そうとどうでも良いわ
 歴史的経緯から敢えてツッコんだことをしなかった日本に対する挑発である事は
 ジオン群残党なら肝に銘じてと言うだけだし、
 「なぜ」今までロシアが動かないのか、政治的に「貸し」にも出来るからね」

八代に対して横に近い角度の衛兵がライフルを全弾撃つ、
しかし八百は乗りだした身に当たりそうな弾丸だけを瞬時に察知し、
長尺の日本刀で次の瞬間にはその弾は撃ち込んだ兵士の側に着弾する!

「MSから身を乗り出せばこっちのモンだと思った?
 残念、ザクやドムくらいなら生身でだって落としてやるわ
 さぁ、大型弾道弾当たりも隠してる?
 そのくらいしか私を再びMSに載せる手段はないわよ」

大佐の目に覚悟の光が辿ったのを八代は見た。
そして、大佐はボタンを押した。

「…あ~あ、知らないわよ? 弾道弾の場所知らないとでも思った?」

八代はバケツに再び乗り込みつつ、その手を腰に回し、カラのケースを見せつつ
その取っ手にはボタンがついており

「ま、吐くなら吐くで待遇考えたってだけでね、ではさようなら」



その日、千島列島ウルップ島で巨大な爆発が起こった。
それはオホーツク側、やや切り立った西側の湾になっている部分で起こった。
日本は火山が噴火したと最もらしい津波情報などを伝えつつ詳細には触れず、
そして、ロシアも何も言い返しては来なかった。

北海道や日本に住んでいる大多数、そして千島列島に普通に住んでいる誰もが
「いつもの地震」「火山の噴火」だと思った。



「まったく、貴女は死にたいの!?」

バーニアとケースの変形で水上スキーのように沈まないギリギリで北海道、そして
東京の基地まで戻ってきた八代、
初仕事で良いだけこき使われたバケツとその本当の作戦内容にルナが怒った。
やっぱりなぁ、と苦笑で上を向く八代に

「有り得ないわ、中間圏からの自由落下からの地表前ブレーキでホバリングや
 ほぼ直線走行向けに付けた車輪でその辺走り回ったですって!?
 貴女内臓滅茶滅茶になってないとおかしいわ! ちょっと! 検査はしたの!?」

八代は苦笑顔で、でも微笑みつつ

「貴女は、先ずは私の命を心配するのねぇ」

「当たり前じゃないの!! 機械なんて結局は道具よ!
 そんな物より命の方が遙かに上なのは当たり前のことじゃないの!?」

軍の医者が申し訳なさそうに

「…確かに、通常なら有り得ない…死んでもおかしくない衝撃なんですが…」

つい今さっき取ったX線に諸々の検査写真、刻まれた日付からも、時間からも
どこにも矛盾なく、八代は確かに「何事も無く」健康である事を示していた。
そして彼は付け足した

「彼女は、特別なのです、即死でない限りあらゆる怪我を、
 多少時間を掛けようとも治してしまう能力があります」

ルナは恨めしそうに

「関係ないわ、死ぬかも知れない危険に身を置いて、確かに影響があっただろう
 体を時間掛けてでも帰ってくるまでに治せば良いとか、
 そんなのどうでも良いのよ、あたしの前で二度とそんなことはしないで!」

矢張りルナはあのモール隊を気が合ったと言うだけはある、
内側にとても熱い血の通った人間であった、どれほど普段冷静であろうとも。
元々公安からの出向として軍人共用となった異端の経歴と、その余りに
人間離れした能力の数々に周りは思考停止気味に受け止めていたが、
ルナは真っ直ぐ「なんであれ命を持った人間である」事に平等であった。
八代は少しルナをなだめるようにしつつ

「ゴメンナサイね、第一こんな事されたってじゃあこれに合わせた実装にして
 量産とはならないものね」

「そうよ! 確かに今回のことはデータとして…
 パーツの限界データとしては有用だったわ、
 でもそんな数字、命の前では無用なのよ!」

「わかった、もうやらない」

宣誓のポーズで八代が言う。

「誓うわね!?」

「指切りしましょうか?」

そこでルナは突然恥ずかしくなったのか

「そこまでは…いいわよ、今回はわかりやすい構図に電撃過ぎる作戦内容、
 「貴女という異端」があったから問題なく成功したけれど
 少なくとも二度三度同じ事は通用しないし、次は普通に政治的取引からの
 部隊展開で「通常の作戦」としてお願いするわ」

「相手の出方如何では状態のいいMS拾えたんだけどなぁ…惜しかった」

「政治問題として大きくするか、末端として切り捨てられるか
 その選択で前者の…しかも最悪な選択を選んだというのだからまぁ
 そこはしょうがないわね、ああ、八代!」

もう終わりかな? と後ろを向いていた八代にルナが

「気が収まらない! 今度ばかりは次ご飯奢りなさい!」

八代はサムズアップにウィンクで応えた。



秋も深まりバケツ量産に向け、モール隊の面々が一号機での最終微調整に入った。
軍用機の格納庫にも使われる屋内試験の数々で、ルナは最終的な簡易化、
簡易化に伴う部品の強度計算のやり直しをしながら淡々と仕事に打ち込む。

「お前さんの雷はデカすぎて少しの間顔出せないって少佐殿落ち込んでたぜ
 お陰さんで俺達は少し地上勤務でこれの調整に参加だが」

「ビンタの一つ二つくれてやりたかったわね」

「まー少佐殿なら躱すことも楽々なんだろうが、受け止めてたんだろーなぁ」

「それも予想出来たからやらなかったんだけど、向こうのペースに乗せられそうで…
 っていうかなんで貴方達も止めなかったのよ!」

「俺達に当たるなよ…地球降下作戦にも参加しなかったんだし
 1Gなんてコロニーでしか味わったことねぇんだから…
 とはいえ…天然物の重力は怖ぇな」

「そうか…確かに知らないんじゃ仕方ないわね…
 コクピットに衝撃緩和システムも導入しているとは言え、
 それはMSで歩く走る多少のジャンプするくらいのもんで
 中間層から60000m降下ですって?
 そこまでの衝撃はMSでも想定してなかったわ!」

部下の動きを見ながらウィンストンが

「…確かに方々パーツが逝かれていて結構交換したらしいし、
 装甲もかなりダメになってて内骨格見える箇所もあるな」

「…記録見る限りザク8機、グフ4機、ドム2機…その他にも機銃や対空砲と
 交戦しているわ、それ以外にも「弾道弾載っけた車両」複数、
 あとは大型弾道弾仕込んだサイロとかの爆破まで…
 成果も真面目に検証するの馬鹿らしいくらいだったけど、
 あの機体が持つポテンシャルは限界まで判った、どの程度パーツが壊れても
 動けるかとかホントの限界の限界ね…」

「…それでもあの女ニュータイプじゃねぇのか…」

「あたしの設計による空間把握やある程度自動での沈黙させるべき順番
 そう言う部分をあの女も最大限利用したみたいね、ログ見る限り。
 時々順番指定と違ってたけど、それもあの女の操縦と戦い振りからすると
 なるほどと思えるし、その辺もいつかいじらないとな…」

「何だかんだ宿題出されてるな」

「そうよね、まぁいきなりエースパイロットの面倒は流石のあたしも見られない、
 甘えるわけじゃないけど、そう言った意味じゃこの電撃極限作戦も
 結構な宿題だわね」

モニタリングに幾らかパーツ限界を知らせる警告と、モール隊の搭乗員が
「動きがおかしくなった」旨を伝える通信。

「時間差で来やがったな、よくある」

ウィンストンは冷静に言った。

「良くあるのか…ケントの「屋台」は宇宙空間で余り関節やら動かす機体では
 なかったからある程度従来のパーツ基準で考えたけれど…
 素材面からもう一度洗い直しが必要かな」

「どうしてもどうにもならないモノってのはあるぜ、数回出撃で
 使えようが交換するって前提の整備品もあるからな、お前さんまだ
 こういうMSの運用までは造詣深くねぇんだから、まぁ焦るなよ」

「焦りか…」

「まぁアイリー救出に捗らない現状に俺も焦りがちなんだが」

「それもね…グラナダはやっぱり拠点でもあっただけになかなか難しいわね」

「でもお前さんの感覚だと「まだ縁は切れてない」んだろ?
 どう言う扱い受けてるのやら、おれはもう考えようとするたびに
 おかしくなりそうだぜ」

「…それに関してなんだけど、ちょくちょく情報の探りは入れてるのよ
 直接彼女の生死を確かめられる状態にはないんだけど…
 通常の隔離、或いは兵士として動いてる感じは全くないみたいでね」

「どう言う状態なんだ?」

「人工的に冬眠に近い状態に置かれている…可能性としてはそれかな」

「…だとしたら、ここまでの九ヶ月以上、何やってるんだ?」

「データ取りか、パイロットの資質をカバーするような何かか…
 それとも或いはなんだけど」

「なんだよ?」

「忘れられている可能性も〇じゃないかな」

その場に居た隊員達も含めどよめく

「攫って置いて忘れるってどーいうことだよ」

「あたしに聞かないでよ…でも、停戦のその日に、なのよ、
 どこもかしこも大混乱なのは間違いないわ、加えてジオン残党ではね」

「まぁ確かに…投降組にいつの間にか交じって誘拐企てるとかもかなり場当たりだな」

「ニュータイプとして彼女が高い能力を持っている…パイロット技能は別で…
 と言う情報その物はある程度あったと思うのよ、で、最後に貴方と組んで
 ア・バオア・クーでのジオングの活躍があったわけじゃない、
 キチンと威力や範囲も絞って…最後だけは思いっきり食らわせて」

「ああ、データとして残してあるし、お前も見ただろうし」

「あたしからすればそれは貴方のような手慣れて且つ
 ただ無我夢中でなく冷静に色々判断して操縦だけを受け持つという
 器があったからこその活躍だったと思うのよね、
 それで持て余されている可能性はあると思うのよね」

「確かに即戦力にはならないな…なるほど…」

「まぁ、貴方はとりあえず仕事に邁進して、あたしは時々イトカワを通じて
 情報だけは集めるわ」

「っていうか、元部下達に余り危ない橋も渡らせるなよ」

ルナは微笑んで

「貴方のそう言うところは尊敬に値するわね」



「ハァイ、ルナー」

ビル最上階のルナの仕事場兼居住部屋に八代が遠慮がちに現れる
ルナがいぶかしげに

「何、そんなドアに半分隠れるような現れ方してるのよ、らしくない」

「いや、流石にあれはやり過ぎたなってね」

「判ったならいいけれど…でもあの使い方してくれたお陰で
 思い切ってかなりグレード落して出撃回数からの循環交換パーツにすることで
 かなり費用落とす算段も付けられたわ、
 ウィンストンが言うには、どう足掻いても消耗品は消耗品だって事だし」

「まぁとりあえず、たい焼きでも」

ルナはジト目でそれを眺めつつ、お返しにとまだ開封していない御欠きを出し

「お茶淹れられる?」



「ふーん…随分思い切ったことをした感じね」

まとめられた改訂図案と削減費用の見積もりに八代が言った。
たい焼きにかぶりつきながらルナは

「ただ、それは飽く迄通常任務、或いは拠点があって補充に帰る
 余裕のある場合でしかない、いつ終わるとも知れない補給も難しい場合
 と言うモノを考慮すると、現行素材のモノも両立させておくのがいいのかな」

「うーん、私のは出来ればいいモノ欲しいな」

ルナは改めてウルップ島降下作戦の記録を再生しながら
同時に記録された機体の細かいダメージマップも広げ

「降下の段階で一気に壊れたパーツは極小、矢継ぎ早にザク二機、
 その後ザクの兵装を奪ったり、ドムの兵装を奪ったり、
 本来ほぼ直線での運用を考えて居たボールタイヤで準ホバリング状態にした
 読みにくい曲線的運動からの攻撃、これで貴女がトーチカを破壊する
 段階で75%程の稼働率に下がっている、どこまでも頑丈と言うだけでは
 どのみちこう言うことにはなると言うことはさっきも言ったとおりだけど」

「私の使い方が悪かったとは言え、まぁ全てのモノには寿命はあるからね
 カタければもろい、柔らかければ歪みからの疲労、と言うように」

「そこを色んなパーツを組み合わせることで限りなく長寿命に出来るかと
 思ったけれど、流石にあたしも地上運用のMSは初めてなので
 なんていうか、万物の法則には逆らいきれない限界も見たわ」

「それで、いっそのこと思い切ったコストダウンをと」

「そうなんだけどね、貴女も言ったように、使う人によってはグレード分けても
 いいかもしれないのかな、と思ってさ」

「どうしても癖はあるから私の使い方はやっぱり身を削る…
 貴女も言ったとおりある程度のダメージなら自力で私の場合治せるから
 その感覚がMSまで伝わっちゃったかな」

「そう言うことでしょうね、だから貴女はもう少し考えて動いてくれる?」

八代は宣誓のポーズをしてそれに応えた、「ヤレヤレ」とルナは呟き

「でもそれも良し悪しだわ、「単騎で変えられるほどの戦況はない」
 というのは大体戦争の大原則のようなモノだけど、
 単騎で出来る幅は変えられる、戦闘の規模によってはやっぱり塗り替えられる
 そう言った意味では…まぁ核で焼き尽くされたけど、貴女の敵に対する黙らせ方は
 大爆発を起こさせず、利き腕とメインカメラだけを基本的に潰すわけで、
 後の鹵獲が出来るなら、貴女の動きに合わせたパーツの素材や
 もう少し柔軟な、コーティングももう少し強めに施してもいいのかもね」

「ただそれだと、量産型と差がつきすぎるのも問題なのかな」

「そう面はある…でもね、量産のカスタムに留める、とは言っても
 それで逃す戦果がある可能性くらいは貴女の働きから考える価値はある、
 取り替えるパーツの付近を丸々ユニット化して量産向けと、エースパイロット向けとで
 幾つか用意するくらいの柔軟さはあっていい、安くなったコストで
 またそこでバリエーションなんてやってたら元の木阿弥だけれど」

「隊長殿の言葉は割と真理ね、なんのためのパイロットだと」

「そうね、詰まりある程度個人の癖も考慮しないとかえって損の可能性もある」

「刀のように、在る物に対して最大限合わせることも必要なんだけど、
 私もまだまだ修行が足りないな」

ルナは少し何と言った物かとお茶を飲みつつ

「モビルスーツは体のようには動かせてもやっぱりそれ自体が道具だからね」

「江戸時代の血縁に銃を開発した人が居るんだけど、故障のリスクを考えるには
 MSはちょっと余りにも部品が多すぎるな」

「リボルバーも色んなメーカーが色んな方式を試して19世紀に完成した、
 でもオートマチックも弾丸や機構、素材、その信頼性を上げることで20世紀には
 「もはやどちらを使おうと」と言うくらいには信頼性上げたわ。
 これからの時代を考えたら、まぁこれも通らないとならない試練かな」

「でも、そこにはどれほど良い素材を使ったとしても、限界がある」

「そう、そこのバランスと折り合いに、段階は付けてもいいとあたしは思う」

そこで八代は「そういえば」とお茶を飲みつつ

「貴方達の仲間のアイリー・アイランド、もし直接アクシズや木星圏への
 脱出に加わっていないのだとしたら、未だグラナダの可能性高いわね、
 諜報部使って中立コロニーやら共和制ジオンにも色々探りは入れたけれど」

「矢張りか…人工冬眠からの持て余し放置の可能性が高まったなぁ」

「やっぱりそう言う話はしてたのか」

「ウィンストンのフィーリングにぴったり合う子だったみたいだからね」

「記録は見た、本来火力と機動力で押し通すMSが複座である事を利用して
 完成度の低い状態にもかかわらずモール大隊としての役目を果たすべく、
 とても神経を使って運用したのは確かにあの二人が組んだからのようだわ」

「惚れた腫れたもあるでしょうけど、あたしも会ったことあるだけに
 どうにかしてあげたいけれど、こればっかりはなぁ」

ルナが呟きつつも、何か照明器具のような、モノアイの中身のようで
ちょっと違う雰囲気の機器に手を出した。

「? それは何? 作りかけ?」

「ああ…作りかけって言うのもあるンだけど…折角のMSの高出力と
 バケツ用にしつらえた高い演算能力を活かして、このくらいはやってもいいかと…
 ええと…降下作戦のデータとリンクして起動してみるわ」

と、そのステージ舞台のミニチュアのような装置に1/100程の像が投影され
降下時のポーズから、着地時にどれほどのダメージが…と言ったことが
空中投影の形でポーズを含め内部や外部で色分けされダメージの蓄積される様子など
リアルタイムに反映する物のようだ。

「へぇ、これをモニタリングに使うの?」

「ただのモニタリングならここまでは要らないわ、パイロット席の近くにおいて
 目で自機の状態確認を360度で見られるようにすればある程度
 「押し際引き際」も見極める手助けになるかなってね」

「いいわね、ちょっとした隙間にチェックするくらいなら判りやすい」

「これも検討するかぁ」

と、ログの再生を止めたときだった。
消えたモニタリング像の代わりに何か、中々形作られない像がノイズ混じりに
現れてきて、そしてルナが軽く手を頭に寄せて

「…何かしら…何かが聞こえる」

八代はいぶかしげに、慎重に辺りを確認しつつ

「「いつもの貴女の部屋」以外の音は私には確認出来ないわ、何が聞こえるの?」

「いや…耳で聞こえる音とはまた何かが違う…何かしら…、でも不快な感覚はない」

その言葉に八代が自分の両手の指先に何かを呟き、それを両のこめかみに当て

「…細い…とでも細い光る糸のような煙のような物が貴女に…私にはないわね…
 余り遠くまで見えない…電磁波じゃないな…」

ルナは怪しい物を見る目で八代をみつつ

「その人間技越えた能力何とかしてよ」

「今貴女の身に起こってることの方が私にとっては余程不思議よ」

八代は言うのだが、ルナのカウンターで言っているのではなく、本当に
正体がわからない現象を見た、と言う感じに言っている。
そして、3Dモニタリング機器に微かに横たわっているような人物像
ルナが目を見開く

「詳細は見えない…でもこれはアイリーだわ…!」

「え? ちょっと待って、更に判らないわ、何が起こっているの
 「祓いの力」とは全然別系統の…もっと超自然的な何か…?」

「さらっと新しい概念ぶち込まないでくれる!?
 間違いない、さっきアイリーのこと話してたし、この機械に触れて
 何か…通信とまで言わないけど…」

そんな時、ルナの電話に着信が

「ケントだわ」

繋ぐと凄い勢いで

『アイリーだ! アイリーが話しかけて…いや正確には会話のピンポンはできなくて
 近況報告みたいな感じなんだけどよぉー!!』

ルナ宅の置き電話の方にも着信があり、断ってから八代がそれにでると
ウィンストンからの電話であり「ああ、少佐殿か」と言いつつ

『何か…何か安らぐ感じというか、ルナにもこの感覚がないかと、
 隊の奴らも何か感じ取っているらしいんだ』

ケントとの会話に夢中になっているルナの様子に目をくれて

「どうやら、アイリー・アイランドは「縁のある人にだけ」感じられるような
 …何か特殊なメッセージのような物を送ってきているようだわ、
 ケント君の慌て方からすると…ニュータイプだともっとハッキリ受け取れるみたい」

『ケントがよりハッキリ…ニュータイプ…そうか…、なるほどな』

「ア・バオア・クー脱出時にホワイトベース隊がアムロ・レイの
 ニュータイプとしての感覚で脱出の方角やタイミングを得て大爆発の前に
 結構な数脱出できたという報告があるわ、恐らくそれに近いのでしょう」

八百の口調や表情も仕草も、仕事の時の物になっていた、続けて

「ただしそちらはリアルタイムで会話が成り立ったらしいから…
 この場合ルナの推測に基づくと、強制冬眠的な状態から
 とにかく貴方達に自分の無事を知らせるための物だった…?
 ケント君は今より実践的なNT能力試験の最中のハズ、それに共鳴した…?」

『ああ…良く判らねぇ…!
 俺にはニュータイプなんて物の素質はないみたいだし、もどかしいぜ!』

そこへルナが電話を譲り受けウィンストンへ

「ケントに貴方の番号教えたわ、今電話が行く、切るわね」

そして通話を終える、まだ、3D装置は動いていて、矢張り朧気ながら
「寝ている小柄な誰か」が投影されている。

「いつか、場所を特定まで出来たら、頼めるかしら?」

ルナの慎重な一言に、八代は

「任せて、今度はちゃんと部隊行動でね」

「宜しい」



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