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冬に差し掛かり、横浜方面にある海軍の官舎にて

「うらら・ウルマ元少尉、海軍宙空挺団少尉として任官、
 エアーズ・エコー元少尉、同待遇、
 バージニアス・ハイライト元少尉、同待遇、
 ピース・ビサイド元少尉、同待遇、
 エピック・エプソン元少尉、同待遇、
 ケント・ロスマンズ少尉、同待遇、
 そして、
 ウィンストン・ウィンフィールド元大尉も所属はこちらで階級はそのまま、
 サイド3に滞在中の元隊員にも声は掛けているものの、現地で
 現地の活動により活動を継続とのこと、従って当面この七名の
 元モール隊に対し、日本国軍の一部を担って戴くことと致します」

辞令が降りた、計七名の「投降組元モール大隊生き残り」はそのまま正式に
日本軍宙空艇部隊に正式に採用されてしまった。
因みにウルマ少尉の「うらら」は元は「麗」で「Lee」であり、中華系である。
日本籍に移るに当たり、日本風に改名というわけである。
寡黙で一見付き合いは悪そうな感じだが仕事にはとても熱心で
仲間意識は実はかなり高い女性である。

八代が代わり

「助かったわ、空軍宇宙作戦隊とは別に元々海軍からの分裂で
 MS特性も中々測れない中だったから私の無茶な駆け引きに乗ってくれて
 実にありがとうだわ」

ウィンストンが代表の形で

「裁判の時の「提言」も半ば少佐殿のスタンドプレーだったんだろ
 良くやるよ、俺達が態度はともかく真面目で良かったな」

「全くだわ、MSなんて物だって動かすのにそれぞれ適正って物だってある
 なんて基本的なことから始めないとならなかったからね。
 モビルポッドすら操縦最後まで慣れなくて海上勤務に戻った者も居るのよ」

「MSは画期的な乗りモンだが、それだけにかなりの部分慣れも必要だ、
 俺が適性テストを受けた四年ほど前だって落ちた奴それなりに居たし、
 軍人だってだけで動かせる物では無いわな」

「一気に七人即戦力、これから独自MS支給もぽろぽろ始まるし
 そうしたら今度は私の部下達の方も細かく訓練始めるから、
 先輩方、指導の程ヨロシクね」

ケントが割り込んで

「しかしまたなんで海軍から分裂なんて事になったんだよぉー?」

「空軍宇宙作戦隊は空軍からの出発で宇宙とはいっても元々大気圏内外
 くらいまでの行動範囲だったのと…そこから宇宙域を広く活動するには
 やっぱり母艦が必要になるわけ」

「船は海って事かよォー?」

「ま、そう言うわけ、それに正式に軍の一部として外に大々的に
 認知活動していた宇宙作戦隊だとどうしてもそのまま連邦軍と肩並べないと
 ならなくて、地味に活動するにはちょっと遠かったのよね」

ウィンストンもケントの疑問に

「サラミスみたいな船にジム一杯乗っけて
 「掃除部隊で御座い」って言ったって、新米だったお前さんだったら
 間違いなくパニクって面倒起こしてたろ、
 最初に「あれは誰だ?」と考えさせるのもここの重要な存在意義の一つなんだよ」

「あーなるほどなぁ、確かに先ず誰だ? となって通信からの…
 って流れだったよなぁ、まぁオレ「連邦には変わりはねぇよな」って
 仕掛けちまったけどもよォー、いやぁ、悪りぃ悪りぃ」

八代は気分を害するでもなく

「いいのよ、って言うかあれ貴方だったの?
 貴方もこちらも先ず話してそれからの、となれば
 あの当時のMSのラインナップで負ける気はなかったし。
 詰まりそう言う「通信からの戦闘」もあり得るだけにMS乗りとしても
 それなりに動ける人で無いと中々使えなかったのよね、
 あれも何かの縁とは言え、中々結果ヨシだわ」

と、八代がそこまで言って

「アイリー・アイランドについては貴方達何か進捗ない?」

「少佐殿の方には、なさそうだな」

「どうもグラナダのどこかに人工冬眠状態にある、くらいしか判らないわね
 あの辺りは今でも殺気立ってるから、流石に諜報員送るのもねぇ」

「ケントが時々感じるようだが、やっぱりケントの能力計測と訓練と
 アイリーの…どういう時計なのか判らんが…タイミングが合わないと
 強く感じる事はないようだ、それはオレも他の奴らもルナも同じ」

「流石に一旦終戦まで行っちゃうと何か切っ掛けが無いと中々踏み込めないのよね
 貴方達の大切な仲間なのに申し訳ないわ」

頭を下げる八代に皆困惑しつつ

「いやいや、少佐殿が頭下げることじゃあねーだろ…」

「仲間を救えなかった、という貴方達の慚愧は正式に私の部下となった以上
 私の責任になるのよ、何か詳しい場所の特定や作戦のその時には
 私が指揮を執ることになる、大尉さん、お分かりでしょう
 「上司になる」とはそう言うこと、貴方達の屈辱も何も私も背負うのよ」

「畏れ入ったぜ、まぁ…そうだな、俺達だけだと理性も失うかも知れない、
 俺達をコントロールしてくれ、頼む」

そればかり言うと流石に軽いケントも、普段はおどけているような皆も頭を下げる。

「ちなみに、いつになるかは決まっていないけれど、作戦時は
 「いしかり級特別支援艦」の「てしお」…まぁ私の乗艦ね、それと共に
 ルナもついてくることになってるから、総指揮として」

一瞬「?」に包まれつつも

「中造り替えられていたらどうしようもないが、そう言えば
 ルナはあの中に工場も持っていたし、なるほどな」

「出来る限りの相手への妨害工作もやる事になっているわ、とはいえ
 そのチャンスがまだ来ないので、そこはアイリーを信じてとりあえず毎日を過ごして」

海軍式(少し肘を閉めた)敬礼と共にその後は通常任務へと移る。



「追加で急ぎの仕事申し訳ないわねぇ」

ルナの行動許可範囲より少し外れたところにあるファミリーレストランにて
八代の奢りと言うことでルナも少し多めに食べようと食べるのだが、
それ以上に八代の食べる量が半端ない。

「そりゃまぁ…バケツはやっぱりコストが掛かりすぎるから、と
 ジムやガンキヤノンを求められる性能でアレンジ…を先回しで突貫とか…
 折角の工場に悪いことをしてしまったわ、ムーバルフレームとは言わずとも
 次の機会にそう言う入れ替えも出来るように今回はバケツ用から
 幾らかジムやキャノン用にデチューンだから…忙しいと言う以上は
 大丈夫だと思うけれど…それにしても貴女も相変わらず食べるわね」

八代は運ばれた料理をどれも美味しそうに平らげながら

「燃費だけは悪くてね…まぁそのお陰で怪我からの復帰も早いと思って」

「納得できるような出来ないような…」

「まぁまぁ、私の事はいいからさ、キャノンは少し大変かしらね」

「ジムはボウガンにしろ弓にしろやっぱり従来の関節の動きでは
 機体に隙が大きすぎるのと、ちょっと無理な機構が要るから…
 でもユニットで入れ替えてとりあえず繋ぐだけにしてある、
 コーティングは無理だけど「とりあえず用」にはいいんじゃないかな
 …キャノンはね…小惑星イトカワ型の瓦礫の集まったタイプでなら有効」

「まぁ流石に岩石小惑星で中身詰まってて直系何キロもあるようなのはねぇ」

「もし破壊できたとしてもカケラも大きい、そこ含めた処理もできないとね…」

ルナは簡単な設計予想図と共にスペックを小さい端末にデータだけ提示して

「とりあえずこんな感じよ」

「すっご…このキャノン大丈夫なの?」

「手足は確かに細くした、装甲も半端にした、
 でもそれ以上に大切なのは粒子加速の為のユニットと姿勢制御バーニアでね
 足や腰に反動を抑えるための物理手段講じてあるから、合わせれば
 計算上は大丈夫なのよ、ただ、支援艦からドバドバ水供給しつつ
 水蒸気として熱発散し続けないと砲は最短充填でもキビシイかも」

「やっぱ出来ればニュータイプ用でオールレンジも可能なのが欲しくなるなぁ」

「そっちは別枠で臨時予算組んで貰ったから何とか並行はさせる、任せて」

と、そう言えば、とルナのスプーンが止まり

「ケント以外にニュータイプの当てはあるの?」

「元は私の側だったはずの同僚がねぇ、どうも目覚めたらしい」

「貴女のガワって…Pacification(お祓い)とかって奴?」

「「祓い」と言っても単純な精神力でなくて…古い言語の特殊な発音や
 単語の並べ方で詞(ことば)を作り後は自然現象を森羅万象の息吹を仮り
 自らの体を通して強く発動…まぁ言葉がもっと単純で重要だった頃の
 「先科学的科学」と言った方がいいかな…これも才能は必要だけれど」

「古代の言葉には発音…音声を利用して何か効果を利用していたというわけ?」

「「コツ」その物は今でもポッと湧き出す人も居るわ、ニュータイプと違うのは…
 近傍の未来予想とか危険の予知とその通達とかを広い範囲で特定の人々に…
 っていうのは私達の力の範疇じゃない、超能力的な力ではないの、
 あくまで自然に眠る効果を「詞」と資質で引き出す…技術に近いわ」

「なるほど…まぁ真面目に学問としての魔法、みたいな感じね
 音声と条件と資質で効果を引き出す…」

「んーぶっちゃけるとそうなる、ニュータイプは全く違うわ、
 んでその私の力のガワに居たと思ってた同僚がニュータイプにも目覚めてね
 これがまた…射撃とか肉弾戦とか苦手でね…」

「良くそれで軍に入れたわね」

「苦手でも試験通るくらいはギリギリ…と言うのと家の力も大きいのかな」

「名家なの?」

「まぁお金持ちとか凄い権力持ってるとかの名家ではないんだけどね」

「ああ、貴女の力の分野でってことか」

「そう、確実に特定の分野では力になれるから」

「その人の名は?
 ケントから引き継ぎになるなら知っておきたい」

日本語を順調に覚えては居るがまだ1年目であることを鑑み
八代は紙とペンで先ず名前を書きつつ

「四條院 沙羅」

ルナも矢張りそれなりに勉強はしたのであろう、「院」と「沙羅」から関連で

「仏教系の人?」

矢張りな、と八代は簡単に当時の都の地図上での概念(何処に何があるくらいの)
モノを描き、そこから内裏の一条二条を書き記しながら

「っぽいわよね、でも違うのよ、古ーくから神道一本の家系なんだけど
 詰まりまだ日本の都作りまでは大陸を参考にしても仏教が本格的に入ってなくて
 何となく混同されて四条に神社構えていたから、なのよね」

「…何年続く家系なの?」

「あら、最古の家系天皇家まで行けばその倍近く長くなるんだけど?」

「…日本は奥の深すぎる国だわ…」

「そういうこと、彼女はケントよりは記録見る限りアイリーに近いのかな、
 ただパイロット技能は勿論ある」

「なるほどね…これもタイプを幾つか考えた方が良さそうだわ…」

「ケント君はあんまりビットというかファンネルは得意じゃないけど、
 多分沙羅なら行けるわ、格闘とか武器を持って戦うとかのが苦手でね」

「操縦以外は全サイコミュの方が良さそうか…ふむふむ」

ある程度食べ終わり、くつろぐ中
ルナは設計の草案は完成予想図から始めるらしく、大まかに
関節の自由度も含めた「想定」の落書きに近いモノから始める。

「あ、言わなくても判ると思うけど…」

八代の言葉にルナはもう入り込んだ様子で

「判ってる、ベースは共通よ、一点物じゃあないわ」

今まで一点物や最終チェックからの部品発注で右から左へ流すようなところから
今こうして量産品を考える頭に切り替わったルナを八代は満足そうに見た。



年末を迎える頃にはモール隊の仕事は宇宙だけに及ばず、
日本国内でコロニー落とし、ジオン侵攻、その他地震や台風など気象現象で
傷んだ消波ブロックの改修積み直しや、斜面を覆ったコンクリートの崩れかかった部分
などを補強、或いは張り直す作業に就くこともあり、大忙しであった。

隊長機(ウィンストン)はザクJP改で、他はとりあえずジムJP-N(NはネイビーのN)
と言う構成で通常重機を幾種類も使うような作業も中々捗る。

「あ~あ、これ口径から見てザクマシンガンだぜ、地上にも尻拭いが沢山だ」

隊の一人、ハイライト少尉が沿岸部のコンクリートで塗り固められた場所が
半ば崩れているのを整理しながら土にめり込んだ弾丸のカケラを発見した。
そこへウルマ少尉が言葉短かに

「もし不発弾がでてきたらこちらへ」

「えっ、あんた処理班だったのか」

「はい」

「処理班が何でモール大隊に…」

そこに作業中のウィンストンも加わり

「モール中佐殿が連れてきたってのは知ってたんだがそうだったのか、
 中佐殿のことだ、口では「相手に対して工作も」とか言いつつ
 逆のこと…詰まりコレさせるつもりだったんだぜ」

「処理の一環として設置や内部構造も学んだ、でも、そんなことはしたくなかった」

「他の…シーマ部隊とかアサクラの息の掛かったところに引き抜かれていたら
 そうなってたろうな、あんたの兵役に対してその技能を穢させたくない
 まーあのキザおっさんの考えそうなことだぜ、そこがいい所なんだがな」

「やっと、本来の仕事が出来る、感謝しかない」

エプソン少尉も会話に混じり

「しかしウルマよ、一生掛かっても無理だぜ?」

「構わない」

そんな時に通信で「てしお」に居る八代が

『ちょっと待った待った、そういう大事なことはもっと早く言ってくれる?
 ジムのメインカメラもザクのモノアイも多少機能追加したとは言え
 量産バケツ先んじて簡易版にしてあるんだから、それなら先ずは探査だわ』

そこへウィンストンが

「おいおい、少佐殿も何引っ込んでるんだよ」

『ザクは毎度の出動とかでそのままだったけど、私のバケツこないだ
 迂闊に表面塗り直しちゃってさ…黒塗料落ちやすいし安くはないから
 濡らしたくなくて』

「そういや俺のザクも…あ~足元に落ちた塗料が…モノアイのカメラだと
 ホントに真っ黒だな、特に引っ掻きに対して弱いらしい」

『塗料固定剤使っちゃうと真っ黒効果も著しく落ちるからどうしようもないのよね
 とはいえ、専門家が隊の中にいるとなっては話は別、見つかってから詳しいこと
 と思ったけど、しょうがない、開き直って塗料落とす覚悟で出るわ』

「そっちのモノアイならどのくらいの深さまで行ける?」

『数メートル、でもそれで充分でしょ』

「とにかく来てくれ、戦闘の詳細は分かっているのか?」

『戦場になった場所しか判らない、しかも規模までは…今回のここもそうだけど
 とりあえず生身でなくMSでの作業だから後は現地でって話だったのよ』

「おっかねぇな、そのくらいこっちに話通しとけよ」

『当時のジオンの日本への侵攻も「侵攻」と呼んでいいのかって言うくらい
 ゲリラ戦みたいな物だったからあまりバズーカとかなかったのも在ってね』

「補給が伸びきってたのに無茶したのは確かにジオンの悪手だな
 このザクもそう言った所から鹵獲しやすかったんだろうし」

『とりあえずマシンガンの弾くらいならそう大きな炸裂もないから…
 と、足用の水よけOK、必要な物は持って出動するわ』

弾丸とは言えMS用、信管付き爆弾になっている。
ただし、触れて直ぐ爆発したのではデリケートすぎるし、生身でなく
相手はそれなりの防御構造を持つ物であることから、戦時で簡素化してあるとは言え
結構手順や手間の掛かったモノであった。

バケツも塗料落ちなど気にしない方向で斜面に弾痕のある場所などを中心に
先ずは金属その他の反応や埋まり方を探り、見つけ次第バケツが先ず掘り返し
処理のし易い状態にしてウルマ少尉に托す物の、何故か八代まで表に出て
作業の補助などをやっている。
ウィンストンが思わず

「少佐殿、あんた危ないんじゃないのか?」

「まぁまぁ、「もし」の事があったらねぇ」

「いや、その「もし」にあんたがいたら悲惨なことになるだろー?」

「彼女はそんなヘマしないと思うけど、万が一不良品がやたら敏感になってる
 可能性もある、そうしたときにね」

「…わからん、俺には真逆の言い合いをしているように感じるぜ…
 何か考えがあるんだな?」

「そう思って、ウィンストン以下五名は検査済みの所ヨロシク」

ハイライト・エプソン、エアーズ・エコーの四人はかなり心配の様子で
ウルマの作業を見届けているが、最初の一発は無事信管が外せた。
そうなると八百はバケツに乗り外した信管と共にとりあえず置いておく場所に置きに行き
また対象区間で探し見つけ、ウルマ少尉と共に処理に加わる。

作業自体は指定でオートに半分任せて隊の四人は気が気では無かった、
しかし単発ずつの処理はとりあえずそつなくこなしているようで、
次の作業に移る前、には処理した物を指定した場所に置きに行き…を繰り返す。

「気が気じゃあねーぞ、ケントは引き続きNT用の調整でここには居ねぇし、
 ウルマ、本当にあの少佐殿大丈夫なのか!?」

思わずウルマのジムがまた次のポイントに移るときにウィンストンが代表して問うた。

「それが…私にも判らない、特に処理の技術があるようでもない…でも…」

「どうした?」

「…何故だか…物凄く安心出来る…そんなはずはないのに」

「迂闊に迂闊なことはしないだろうというのは判るんだが…
 何かそう言う「根拠」のようなものは?」

「なぜだか妙に落ち着いていて…何が起こっても大丈夫というような…」

「全く根拠になってねー!」

戻りつつあるバケツから八代の声が

「通信ノーマルよ、聞こえてるって」

「だが特に処理の技能はないんだろ?
 今日は作業としては探査だけで場所の指定だけして後日改めて処理後に
 俺達が作業すればいいだろ、解除一人素人の補助一人で何が出来る?」

「地味に軍も困ってるのよ、ある程度放置で弾の寿命尽きるの待つなんて方式は
 日本は採れない、そして、技能のある物は一日中あちこち回ってる状態、
 出来る範囲で今ここに技能者がいるならやってしまいたい所なのよね」

「功名心か?」

「バカ言わないで、ぶっちゃけるわ、人が足りないの。
 つい1年前まで戦争やってたのよ? 日本は早期にジオンと余計な波は立てないと
 中立都市のようなことやって凌いでただけなんだし、それもMS開発が遅れていたこと
 ジオン側も補給が伸びきっていたことで出来たことだわ、
 どっちも白旗揚げずに済ましたわけだけど、それにだって色々犠牲はあったからね」

「…それをいわれちゃぁ、確かに俺達の遠い仲間のしでかした尻拭い、
 処理は俺達で出来るならそれに越したことはないわけだが」

「少尉だけ貸して貰えればそれでいいわ…後は私が居る」

「だからその自信の根拠が何なんだよ…」

「彼女は犠牲にしないし、私も滅多事にはならないわ、根拠言われても…
 あ…これは…流石にヤバいのに当たった…
 隊長殿、他の皆も、近辺にこの感じだとマガジン落ちてないかしらね」

四人がどよめく、そう高くない山の谷間を削ったような海岸の地形、
木も生い茂っていて恐らく足形からザクのジャンプで通ったであろう跡も散見される
複雑な地形にさすがのバケツも一目では全景の中の脅威には届かず指示を出してきた

代表で通信をしているウィンストン以外の四人は直ぐに足跡からザクでの行動範囲から
当たりを付けて付近の捜索に入って、エプソンの

「あった! 何発か撃った痕跡がある、だがマガジンの中なら流石に暴発は大丈夫だろう」

更にハイライトが

「こっちにもある、どういう事だ」

ビサイドがそこへ

「こりゃぁ…支給された弾がロットごと使い物にならないと判断して投棄したんだな
 抱えたままじゃあホントにただの爆弾だしよ」

ウィンストンも回収に手を貸しつつ

「支給されたマガジンの幾つかを試しに撃って確かめたっぽいな、なるほど
 それならあの埋まり具合も判る…と言うことは少佐殿…」

流石の八代も慎重な声で

「そう、不良品最初のマガジン半分くらいかしらね…一気に撃って…
 炸裂しないからおかしいと思って今までの単発の痕跡なんでしょうね」

ウルマのジムが掘り返し途中で止まったバケツの側に来て

「少佐…!」

「やべぇわ…岩があって見にくいからどけたらさ…既に積み木崩し状態…
 信管半押しのがあるっぽい」

辺りに緊張が走った…が、八代は先ず慎重に

「自重で信管押し切る程はないと思う、とりあえず不発弾の詰まったマガジンの
 指定場所への回収をお願い、ビサイド少尉の言うとおり、撃たれても居ない
 状態でマガジンに収まってるなら問題ないでしょう、ウルマ少尉もまずはそっちへ」

「し…しかし…」

「このまま爆発させて山吹き飛ばすわけにも行かないのよ、裏側には民家もある
 今居る道路も一時封鎖であって普段使ってるんだから」

「それでは「てしお」に連絡の上専門チームを呼びますか」

「それはそれで、先ずはこれ処理できるまで掘らないと」

ウィンストンが焦って

「いやいやいや、それこそ専門家の仕事だろ」

「そうなんだけど、このままバケツ放置も出来ないのよねっと…」

八代がシケたツラを見せて機外に出て持ち込んでいたのだろうスコップで掘り始めた

「いやいや、放置しかないだろう、何やってんだよ」

「またルナには怒られるのでしょうね、でもダメなの、性分なのよね」

「人間離れした何か技が使えるようだとはルナも言っていたが…」

「細かく何が出来るとかそこまでは教えてない、言っても無駄だと感じたからね
 私の持つ技術に関しては前世紀に研究していた人も居るんだけど…
 さぁ今もそのデータ所持しているところがどこかにあるやらまではねぇ」

「何故途切れたんだ?」

「人工的に生み出せる物ではないから、あくまでそのコツを生まれながらに近い形で
 身につけている対象を見つけるところから始めないとならない」

「ニュータイプみたいなもんか?」

「ルナにも言ったけれど危機の予知までは出来ない、
 「縁を持った人複数に限定」でテレパシーみたいなのもちょっと無理かな」

ウルマ少尉がその場を動けず

「だったら危険度は普通の人間と…」

八代はもう一度シケたツラでウルマのジムを見て

「それが変わるんだなぁ、言っておくけど私はエスパーではない、
 超能力と言うよりは古代から受け継いだ技術のようなもの」

「しかし…この事態の危険確率を変えられる力とは…」

「…世の中にはね、余程デタラメだってヒトってまぁ居るわけじゃない?
 とりあえず他の四名と共に割と広い範囲で不発弾マガジン捜索してくれる?」

八百は多少慎重に既に半分見えている不発弾の食い込んだ斜面の土砂を掻き分けつつ
…モビルスーツに戻って確認をして居るわけでも無いのにまるで
もう何処に何があるのか判っているように掘り返していた。

ウルマのジムがマガジン捜索に加わるのだが、ウィンストンは

「いや、おいおいおい! なんでそうなる!?」

「判らない、でも、任せていい気がした」

「まー会話は記録してるから何があろーと責任云々は大丈夫だろうが
 こんな独断行為許されるのか…」

そんな時ウィンストンはハッとした、もう既に一度そんな場面に遭遇している
直属の海軍部下達も止められなかった、改めて何者なんだと思いつ
それを見越しての「隠密部隊」なのか…と思うに至り、
作業をしつつ見守るしか出来なくなっていた。
…が、今度は慎重にプライベート通信でウィンストンが

『エコー、監視は?』

『斥候上がりのエコー、抜かりはありませんぜ、音声映像、あのチャンネルで共有』

『オッケイ…少佐殿が何する気なのか気になって仕方ねぇからな…』

八代は粗方全体と、問題の「縦につんのめって他の不発弾に乗り上げ信管半押し状態の
弾丸をほぼ丸々と彫り上げ、一度バケツに戻り…そして次に刀を持参してきた。
ヘルメットも外して、それはいつもどこかつかみ所のない八代ではなかった。
物凄く鋭い、弾丸を見据える目と体の動きにはとてつもない緊張感が漲り、
そして弾丸の手前で構える。

『ま…まさか!?』

思わずウルマが振り返りそして辺りに金属で金属を触れ回った音が共鳴し、
そして次の瞬間には八代はずり下がる弾薬側の方を片手で支えていた。
ここまで一秒も経っていないと思う、他の四人は余りのことに声も出せなかったが
ウルマが思わず衝撃を少なめに調節しながらバケツの先に居る八代に近づく。

「見ていたのは判っていたけど、悪趣味よ」

ハッチを開けつつウルマが

「何が起こったか判らない…合金製の鉄より固いキャップ部分を
 鉄の刀で切って…人間一人では到底持てないはずの弾を支えているなんて…しかし…」

ジムが慎重に八代の支えている球をつまみ持ち上げる。

「気が利くわね、サンキュー、流石にずっとは支えられないし、ふぅ、
 これで後は通常の処理でも行けるけどどうする?」

「断面も…とても…滑らかで…そんな…厚さのある刃が通り抜けたとは思えない…」

「これはまぁただの抜刀術の範囲ね」

「これさえ出来るなら通常の処理は…」

「バカを言わないで、めっちゃ神経使うのよ、流石にこの弾の数を
 正確に信管部分と切り離しなんてやってたら刀が傷むわ」

そう言う腕を持っていることはともかく、彼女は「爆発させるかも」という
気負いは一切持っていなかった、価値観が違いすぎる

「判った…後は私が…」

ウィンストンが通常回線に戻り

「おおい、それこそ専門家だろう!?」

「やらせて欲しい! 私は、今ので燃えた…燃えたぎった!」

今まで声を荒げた事なんて、それこそア・バオア・クーで最後のひと踏ん張りだと
声を上げたときだけだっただろう、何か職人魂に火を付けてしまったらしい。
ウィンストンがぼやく。

「この少佐殿の下で俺達やって行けんのかなぁ」

エコーも

「監視のことも全部見抜かれていた…ただの抜刀術だって?
 まだまだ隠し球があるって事か?」

残る二人も

「…とりあえず後始末やろうぜ…なんか結構ショックだわ」

「人間極めれば「ああなれるかも」って事か? 俺達より若そうなのに
 一体何をどうやって鍛えたらここまでになるんだ」

ウィンストンの頭の中で八代が解けないパズルに感じられた。
ウルマ少尉だけは八代に心の底から信頼を置いて仕事に燃えているように見えた。




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