Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Ten

第七幕、開幕


その日は夕食後も全員が事務所に残っていた。
ルナも報告書をしたためながらそこにいた。
…わたし…ジョーンがお送りするわね

「それで…宮殿ではどうだったのだね?」

わたしがみんなの分の紅茶やコーヒーを配膳に来ると、ポールがルナに報告を聞いていた。

「そうね…ああ、ありがとジョーン…人生であそこまで緊張した日はなかったわ」

「どーいうことだよ?」

ウインストンも混じってきた。

「時期が時期だし、王室の担当官とまぁ或いは国防省の担当を交えて…
 くらいだと思ったのよ、あわよくばちょっとくらいハイクラスな受注も見込めるかもってね…
 そしたら…居るはずのない陛下がいらっしゃったんだもの…緊張一気にマックスよ…」

わたしはその時の堅い堅いルナの一挙一動を思い出して少し可笑しくなったけれど

「咄嗟に出来る限りの礼は尽くしてたと思うわ…印象は悪くなかったはずよ」

「そうであってくれると良いけれど…」

「それで…陛下とは何か特別な感触はあったのかね?」

ポールが促してくる。
ルナはコーヒーを一口あおると

「…仕事や待遇の面で特にどうと言う事はないわね、あちらもスタンド使いの
 近衛兵…というか裏警護がついていたし…ただ…あたしは今後の…ジョーンの今後について
 「イギリスだけはジョーンの身の保証をしてくれるように」と頼んだのよね
 …理由は…彼女がジョージ三世に仕えていたから」

えっ、とみんなが驚く。

「確かに…彼女がジョゼとしてイギリスに滞在した時期はジョージ三世の時代だが…」

ポールが口火を切ると

「だってそれじゃジョーンの出生とかだってある程度話さないとならないじゃん、
 大丈夫だったの?」

アイリーがルナに言いつつ、わたしに心配の目を向けてくる、慈愛の瞳…人生で何度か
わたしはこんな瞳を見てきた。

「勿論あけすけに全部って訳にはいかないけれど…どのみち今回の事で調べようと思えば
 幾らでも掘り下げられるはずよ、登録スタンド使いとは言え、指紋や身辺調査を
 絶対やらないとはいえないからね」

そう、確かにそう。
先手を取る意味でもルナが「わたしだけは」と思ってくれた事に感謝してる。

「ということはよォー、BCとやり合ってる事なんかもかよォー?」

「そういう事ね、ただBCの内情把握や依頼なんかは国防省担当ではないようよ、
 情報局とかなんでしょうね、詳しい事は知らないようだった、担当のビターバレー少佐は」

「通常のセクションとして組み入れるのもどうかという感じだからね…スタンド能力者は…
 横の連携がないのはある意味宿命だね」

「とりあえずジョーンの過去を利用したスタンド攻撃で社の全員がイギリスでの事を含め…
 フランスやドイツでの出来事もある程度話して来ちゃったわ」

「身の保証か…ってこたー、ジョーン、お前これからは公文書偽造無しで行けるのか?」

ウインストンがわたしに聞いてきた、確かにそこもきちんと時系列に沿って調べられると
不味いと言えば不味い事だし。

「ええ…登録や戸籍については…どのくらいの頻度で…とかそう言う細かい調整は
 また改めてという感じだったけれどね、正式な決定を下すのに幾つか段階が必要なようだし」

わたしに続いてルナが

「ただ…決定権はないとはいえ、陛下は推してくださったわ、確定事項になると思う。
 裏警護のスタンド使いともその後接触したし…陛下の指示があったようで」

「では…今回は礼がどうのよりはそちらがメインになったと言う事なのだね?」

「するつもりもなかったけれど…ジョージ三世のシガレットケース…
 細かく見れば格調高くシックでありながら腕の良い彫り模様のあったものだけど…
 それがジョーンの…カサブランカ脱税調査で見つけた物だったのよ
 はっきり言って余程でない限り一目でそうと見破れるような外見ではなかったの」

ポールがルナの言葉について

「なるほど…それこそ当時仕えていたからこそ見知っていたという品物だったわけだね」

「そ、スタンド効果で見つけられたの? なんて陛下に聞かれた日にはね…
 ジョーンには少し心臓に悪い事…というかイギリスに縛り付けるような真似を
 してしまったけれど…後で調べられるくらいなら今言うしかないと思ってね」

わたしがそれに

「…いいのよ、確かに今のままではいつかイギリスに居場所はなくなるし…
 昔ほどアバウトに欧州を戸籍いじりながら回る事もできないでしょうし
 当時仕えた王家、王室が今でも存在しそれなりに力のある国家である事は
 いい切っ掛けだったと思うわ、ありがとう、ルナ」

わたしの言葉に、ルナは俯きながら静かに微笑んだ
きっと、彼女の事だから「多少の慰め成分が入っている」と感じたかも知れないけれど

「うむ…勇み足な部分は否めないが、この際はベターな選択だったと思うよ
 彼女がイギリスのために働いた事は紛れもない事実なのだからね」

「そう、それをね…強調したかったのよ」

「ちなみに…ホープのダイヤについても悶着があったのよ、フランス革命時
 わたしフランスに密使として行っていたから」

わたしが言うと

「なるほど…ラボアジエも死刑にされるわ…宝石のごたごたなんか確かにナンセンスよね…」

ルナが呟く。

「仕事だもの…ブルーダイヤはフランス側…王朝派からの依頼で取り返したけれど
 王朝派も史実の通り…どのみちあのままでは所有を巡って翻弄されるばかりだし持ち帰るしか無くて
 …でも、ジョージ三世は知っての通り余り華美な物は好まなかったし、由来のはっきりした物だから
 暫く宙に浮いてしまったのよね、気付いたら売られていて…当時わたしは別な仕事を請け負って
 いたからはっきりとは判らないけれど、彼の息子のスキャンダルを収めるために使われたのかしらね」

「なるほど…」

ポールが頷いている。

「絡みに絡み合った因縁だねぇ〜…オルロフを半分青くして…それが回りに回って
 100年後くらいにまただもんねぇ」

「ええ、もううんざりだった…多分持ち帰った辺りの史料も探せば見つかるはずよ
 もう見つけてると思うけれど、あのランバーという王室担当官優秀な人のようだから」

ルナが少し可笑しそうに

「対象年代の史料の箱の中からほぼ一発でジョゼ=ジョットに関する史料掘り当ててたわね、彼」

「目印が何かしらあるのでしょうけどね」

わたしとルナであの時の事をちょっと思い出して少し笑った。

「まぁ…ともかく、陛下の耳や目に直接君らが止まった事は喜ばしい
 できれば、何某かまた捜し物でも依頼されるといいね」

ポールの〆だ。

「あー、んじゃー解散?」

ケント君の言葉に

「ええ、そうね、明日はちょっとわたしは早めに起きて確認取りたい事があるから
 わたしとルナは早めに事務所には入るけれど、みんなはゆっくり体を休めて」

わたしが言うと

「確認ってなんだよ?」

気になるのかウインストンが聞いてきた、それにルナが答えて

「明日の事よ、ミルデに報告書と資料渡す前に…あれには過去の事とはいえ
 とんでもない物が写っているからね」

それを聞くと全員「あ、あれか」となる。

「ジョーンがグイード=ミスタの個人的な連絡先を知っていると言うから…
 とりあえず「もう本当に大丈夫なのか」「憶測でも構わないのでディアボロは
  なぜあの場で何某かの取引をしていたのか」そして「これを依頼人に
  資料として渡しても大丈夫なのか」の確認ね」

「ダメっていわれちゃったらぁ?」

「削るしかないわね、その部分は。
 文書のみでの報告にさせて貰う、あたしらと出会った後のコイキの
 東側斜面での再現映像は録画機器と共にパッショーネに引き渡す積もりよ」

「…そうだな、下手にごねたり知らんぷりして向こうに本気になられたらちょっとヤバい」

「そんなよォーバレるもんかよォー?」

「明日直ぐって訳じゃあないだろうが…いつかは嗅ぎ付けると思うぜ?」

ポールが不安そうにわたしに

「ううむ…大丈夫なのかね?」

「ミスタとはそれなりに気心は知れた…と思うけれど、彼も組織の中で
 働いている訳だし…組織として否と言われてしまってはどうしようもないでしょう
 ただ、こちらが大人しく引き渡しに応じれば、どうと言う事はないと思うわ」

「ふむむ…わかった、とりあえずは解散だ」

ちょっと最後に不安を残してしまったようだけれど、わたし達はそれぞれの部屋に戻った。



続いてわたしが…ジョーンがお伝えするわね。
明くる土曜の朝7時…わたしとルナが事務所に入る。
ルナがついてきたのには訳があって、或いはPCでのやりとりが予想されたため。

先ずはわたしが事務所の電話からミスタの電話番号へ掛ける

こちらも企業として活動している限りは向こうで対応しているならナンバーディスプレイ
と言った物で番号も出るだろうし、それを元に「K.U.D.O探偵社」という物は
直ぐにでも調べがつくだろう、当然その間少しわたしは回線が繋がるまで待つ事になる
…そして繋がった、向こうの「…もしもし?」という警戒の声、確かにミスタだ。

「お早う。
 お久しぶりね、覚えていらっしゃるかしら…ジョーン…ジョーン=ジョットよ」

『おおーー!ジョーンかよ、五年ぶりくらいか?
 いやー探偵社ってどう言う事だって思ったが、あんた今そこで働いてるって事でいいんだな?』

「ええ、そう…それでね、わたし達依頼とホリデーを兼ねてジブラルタルに
 数日居たのだけれど…そこでの依頼人の父の当時の記録…そして
 そこに住んでいるお猿さんの「土地の記憶を投写する」スタンド能力で写っていた物に
 ちょっとこのまま依頼人に渡すのはどうかなってものがあったの」

『…どう言う事だ?…あ、ちょっと待った…おいジョルノ…』

ここで少し間が開いた。
ルナが小声ですかさず

「7月には彼らとの出会いは聞いたけれど…、今回の事で話さざるを得なかった事にしなさいね」

わたしはマイク口の方を押さえながら頷く。

『あー…ジョーン、そこに…パソコンあるかい? ネットに繋がってる奴』

「ええ、あるわ」

『今そこに誰か居るのか?』

「副所長が居るわ、彼女が一番PC使い慣れているし…ごめんなさいね
 今回の事で五年前聞いた事は少し話してしまったわ、話さないと
 説明できない人物が写っていたから」

『あー…なるほど、じゃあ…スピーカーホンにしてくれ』

といって、電話をジョルノに代わったらしい

『では…今からお伝えしますアドレスへ飛んでください』

ジョルノがURLを一文字ずつ読み上げる

「OKよ」

ルナの言葉に、

『今のが副所長さんですか? ジョルノ=ジョバァーナです、宜しく』

「あたしはルナ=リリー、こちらこそいきなりでごめんなさい」

『いえ…黙っていれば判らない事でもありましたのに、何と正直な』

「一応こちらも信用商売なので」

『では…そのサイトの…』

ジョルノは少し暗号めいた指示を出すけれど、ルナは冷静にそれらを理解し
彼の誘導に従ってサイトを進んで行く、暫くそれらを繰り返すと

『…ではこちらからビデオチャットの要請をしますので受けてください』

わたしとルナが見つめ合ってしまった、彼女としてはわたしが応えるのかなと
思ったのでしょう、わたしとしてはPCの事はソフトウェア的な部分は余り詳しくないから
ルナにお任せモードだったのだけれど、その空気を読んでルナは

「わかったわ…これを受ければいいのね」

『はい…、あ、とりあえずジョットさんをまずPCの前へお願いします』

「ま、当然ね、顔確かめないと…ジョーン、はいこっち…大丈夫
 座っているだけでチャットは始まるというか、向こうが操作するから」

『電話は切って頂いて構いません』

わたしは受話器を置き、PCの前に座る。
画面にウインドウが一つ開き、ジョルノが映し出される。

『どうも、お久しぶりです、ジョットさん』

あの頃16才だったと思うから…21才になった彼がいる

「お久しぶりだわ…すっかり大人になって」

『まだまだ若造です…やっと余り舐められなくなりましたが』

彼の後ろでミスタがちょくちょく顔を出している、相変わらずのよう。
わたしはその様子に頬を緩め

「ミスタも、大人になったわね」

『よぉっ!あんたは変わらないな、相変わらずけっこうイカしてるぜ?』

「ありがとう」

『それで…その「記録」についてなのですが、それはどのような状態ですか?』

「動画よ、元のビデオテープはもう大分破損も酷くて何とかこちらに移した物
 もう一つは、この中に…(と言ってビデオカメラをわたしは手に持った)
 動画として記録されているわ、主にこのビデオカメラの方の映像が
 貴方たちの前ボスに関わる事が写っているの」

彼らはちょっと意外なところからの情報に戸惑いとまでは言わないけれど
何か思うところがあったよう。

『では…動画としてこちらに送って頂けませんか?
 ええと…そのチャット画面ではないWebページのですね右下の方に
 クリックできるところがあるはずです』

そればかり聞くとルナは横から操作をし、その通りにする。

『パスとIDが求められると思いますが…それらはこちらから
 承認できる事でもありますので、ジョットさん、僕たち組織の内の誰でもいい
 どっちがIDでパスワードでも構いませんので、二人、打ち込んでください』

ルナがそのIDとパスワードの所に持ってきてわたしに入力を促す。
「ブディーニ」「ドリーヴァ」
打ち込むとジョルノがちょっと嬉しそうに

『彼ら二人を覚えてくれていたわけですね、ちなみに彼らも元気ですよ』

「良かった、なによりだわ」

『では、そこへアップロードできる画面になったと思いますので、
 対象のファイルをこちらへ送ってください』

ルナがわたしの横でそれらをさっさと済ませる。

『こちらに全部到着するまで多少時間が掛かりますので…
 そうですね、ではまず…どのような経緯でどこで何をなさったか…
 依頼に影響しない範囲で構いません、教えてくれないでしょうか』

そしてわたしは「ソルテ氏のご子息から、その死に関しての情報からの依頼」と
「ジブラルタルでの出来事で対象物とそれを所有していた猿、そしてその能力」
に関するちょっとした報告をする。

…どうもこの間にK.U.D.Oの全員がいつのまにかわたしの周りにいた。
みんな、気になっていたのね、

『解像度が低い方の動画は届きました…なるほど、観光でジブラルタルに
 やってきた「ソルテ」というスタンド使いの人物がスタンド使いの猿と出会う
 と言うわけですね…そして夜明け前の…』

画面の向こうで動画を再生しているのも音で判る、そして遠目にディアボロが
写ったと思った瞬間、取引相手を打ち抜き、次の瞬間にはソルテ氏の(恐らく)横に
居た…ソルテ氏が逃げる機会を伺って「誰だ!」となったところで動画は終わる

「補足があるわ…ソルテ氏の「リアルタイム投写能力」はマスターデータ以外での
 保存が出来ないので…マスターのない今その動画には写っていないの…ソルテ氏は逃げる
 きっかけを作るのに当時日本に居ると判っていた「空条承太郎」の映像を投写したの」

『空条さんは…そう言えばあれから年は幾つかまたぎましたが訪れましたよ』

「ではポルナレフ氏と?」

『ええ、積もる話をして行かれました…と…余談でした、なるほど…
 確かにボートの上から消えた時に動画が10秒「吹き飛んで」居ます、声も…
 間違いなくディアボロですね』

「何故彼はジブラルタルの居たのだと思う?」

『彼は…自分の痕跡を何から何まで消してきたので…ああ、フーゴ…どうも、
 …今フーゴに調べて貰いましたが、その辺りを前後に行方不明になっている
 情報屋が居ます…恐らく…ディアボロの監視の行き届きにくいジブラルタルで
 ディアボロに関する調査資料を直接本人と取引したのでしょうね』

「その情報屋もスタンド使い?」

『未確認です、ただ、かなりのやり手だったようです、資料によると…。
 ペリーコロさんに後始末を依頼するのに電話を使用しているのは…
 当時まだ余りパソコンもネットも十分に普及していたとは言えませんから…
 1999年…切り替わりの時期だったんでしょうね、この後僕らが
 関わるようになってからは完全にPCでの文字のみの指示になっていましたから』

奥のミスタが

『チクショー、このソルテっておっさんがもう少し長生きしてくれてて
 オレ達が接触できていればあんな苦労しなくて済んだのかもなのによォ−』

「それについては…もう一つの動画を見て頂くと判るわ、貴方たちならもう
 結果はわかっていると思うけれど…次の動画は「土地の記憶から当時の
 状況を投写する」猿の能力を撮影した物よ」

『その猿は…』

「今もジブラルタルに居るわ…でも、静かにしてあげて欲しいの」

『判りました』

意外にもあっさりと…そう答えてみただけなのかも知れないけれどジョルノは言った。
そしてもう一つの動画も届いたようで、再生している。

『これを…この場で目撃されたのは何名ですか?』

「観光客には見えないようにわたしがカモフラージュしたわ、なので
 K.U.D.Oとその関係者二名の合計八人」

『なるほど…(こちらの画面内を見回して)六人、その場にいらっしゃいますね
 関係者の方々は信用のおける方々ですね?』

「ええ、保証する」

『判りました、貴女の仰有る事です、信じます
 この動画については…確かにもう終わった事です、当時から最近まで
 旧ボス派だった者についてはほぼこちらに引き寄せ…或いは始末を終えていますので…
 問題はないと思います、ただ、イギリス政府もスタンド使いやその記録を
 探っているようですので、そちらにはなるべく流さないでください
 理由は…余り探りを入れられたくないというこちらの都合ですが』

「判ったわ」

『絶対とは言いません、命と天秤に測るほどの物でもありません
 何しろ既に復帰不可能なディアボロや死んでしまったペリーコロさんの名前しか出てきていませんし…
 ジョットさんなら理解して頂けると思いますが、好奇心で探られては何かと困りますから』

「感謝するわ、有り難うジョルノ」

『こちらの動画は削除します、必要がないと言えば必要がない物ですし…
 貴女方の信用にも関わることでしょうから…とはいえ、確認のしようもないといえば
 これもまた確認して貰いようのないことですね』

「いえ、信用するわ、ありがとう、貴方は特にそれを広めることもないでしょうに
 貴方も律儀な人だわ」

『まぁ…混沌の中にも秩序はありますから、これも信用です』

あとは、ジョルノ側でその場にいるジョルノやミスタ、フーゴがそれぞれ
名乗りと挨拶をわたし以外のみんなに、こちらもわたし以外の全員をお互い紹介しあって
もし、イギリスに行く事があったら協力を依頼するかも知れない事とそれに対する協力の確約、
イタリアに来ることがあったときは何なりとという言葉を交わし、通信は終了した。

「ふぁーーー…! すっごい緊張しちゃったよ、若い人達だったねぇ」

アイリーがいつものちょっと大げさなアクションで胸をなで下ろしながら言った。

「…わたしが彼らと合った時はまだ…ぎりぎりミスタが成人したくらいの…少年達だったのよ」

「なんともはや…確かにあの風格、そして余裕、私もそれなりに長い人生を歩んだが
 なるほど彼らが今イタリアの幾らかを裏から支えてる訳だね」

「そういう事ね…さて…『許可』は得たわ、あとはミルデに結果報告ね」

わたしが言うとケント君が

「あのおっさん今日の何時に来るんだ?」

「午後を目処に…と思ったけれど、思ったよりスムーズだったから…空いているようなら
 今からでも…とは思うけれどね」

ルナがケント君に答えたらウインストンが

「その前によ、飯食わねぇか?」

ウインストンの「飯」という単語に反応したのはリベラだった。
彼女がわたしの足に絡みついておねだりの声をあげる。
わたしは思わず頬が緩み

「…そうしましょう、今から用意するわ、こちらの部屋の食卓、準備宜しくね」

そうして食後にルナがミルデへ連絡をし、昼前にこちらに来ることになった。



「…そうでやしたか…そんな事が…」

ミルデは事の次第を主にルナから報告され、事故死ではなくギャングによる殺人…
しかもスタンド使いによる殺人であったことに流石にちょっとやりきれない表情をした…
私、ポールがお届けする。

「報告したとおり、殺害した相手は既に倒されていて今はかなり中身も入れ替わったし
 既にその「パッショーネ」にもデータとしてこれらの物を貴方に引き渡す許可は取ったわ。
 これらの物は貴方にディスクとして引き渡したら元データの方は消してもいいわ
 パッショーネの方は既に削除して貰った」

「なんだか…でかい話しになっちまったようで、申し訳ありやせんな、
 親父もなんというか、運のない…時に親父の最後の捜し物はどうなりやした?」

「…ああ、そうね、報告書としては見つけた旨までだったわ
 その捜し物はジタンのお婆様の物…ご存命だから既に引き渡してあるわ」

「では、ゴロワーズさんも同行なすったんですね」

「まぁ、今回のほぼ一部始終はね」

「BCはやばいと言ったんですが、中から探りを入れる方向で固まっちまってるようで
 あっしとしちゃ、こっちに鞍替えしても…と思うんですがね、あれはヤバすぎる」

その言葉にウインストンが

「何か判ったのか」

ミルデはスタンド「ミラー・マニック」で鏡写し撮影したあと反転で加工し直した
写真のプリントを二枚、我々に出した。
それは、髪の毛の長い30才ほどのスーツの男が車に乗って走り出した直後くらいだろうか?

「あ…これ…」

アイリーが言う、そしてルナやケントも

「あたしもこのシルエットに覚えがあるわ…」

「…オレもだぜェー!」

「…かくいう私もだ…、私とアイリー達三人では矢を射られた年代が合わないのに
 抱く印象は全く同じ…か…」

その時ジョーンがもう一枚の写真を見て

「…待って…同じ車に乗って多分同じ通りを走っていると思われるこの二枚…おかしいわ…」

ジョーン君が二つの写真を並べて…もう一枚は角度と光の加減で顔が見えないが…
彼女はハンドルを握る手を指さした。

「うん…?」

矢を射られた四人で注目してみる。

「…顔の見えない方の写真でハンドルを握る手…若い男の手ではないような…」

ルナがスタンドも呼び出して見ている、ミルデはそれに対して

「正直あっしにゃあどう言う事なのかはこれといった見当がつきやせん、本来顔の見えない写真なんて
 用はないんですがね、なんだか気になりやしてね」

アイリーが顔の写っている方の写真からその人物の捜索を開始する…が…

「…存在しない…あるいは…数百キロ内のどこにも居ない、死んだわけでもない…
 これ、いつの写真?」

「存在しやせんか…何となくそんな予感はしてやしたが、これは一週間ほど前でがす、
 某刑務所の駐車場でのことでやす、ちょいと警戒して遠目なんで画像もそれで
 精一杯でした…皆様方、そこの刑務所で三日ほど前ちょっとした騒ぎがあったようでね
 ビディ=ブライト…死亡しやしたよ、服毒自殺って事になってやす」

…何と…!
これは流石に全員が仰天した。

「…少なくとも…BCの関係者…と見て間違いはないわね…後始末か…」

ルナがどす黒い気分を抱えたのを感じた、ただ感じただけではない、立ち向かう意思を感じる表情だ。
ウインストン君がそこへ

「…で、またなんでジタン向けと思われる情報を俺達に?
 いやまぁ、勿論これは俺達にとってもでかい情報だ、金は出すけどよ」

「…そうですな…本来別料金でと思ってたんですがね、
 親父の件、かなり突っ込んで頂けたようですんで、ま、これはちょいとしたオマケでやす」

そう言ってミルデは持ってきた荷物をテーブルに置き

「正規報酬のビデオです、ああ、今回のデータは頂やすが、そちらさんのデータは
 そっちはそっちで取っておいてください、データベースとしては必要でしょう」

「ああ…そう言って頂けると助かるよ…しかし…BCの「ヤバさ」というのが今ひとつ
 私には判らないのだが、ジタン君には何と?」

「…先ほどジョットさんの「違和感」リリーさんの「指摘」があったじゃあありやせんか
 あっしにゃあ、なんかね…これも「奴の能力の一つ」なんじゃあねぇかと思いやしてね
 …ただの勘ですがね」

「…フレデリコの顔はあたしら直で見たわけだけど…正直若い方の顔からは
 想像がつかないというか…あの老人の顔を若くしてもこうはならない…
 食った人間の消化を繰り返したのだとして長い年月でこういうベースになった…?」

ルナの推理に私が

「…なるほど、そして彼は長い年月のどこかで「一時の若返り」を得たのか…」

その言葉にミルデはフッと笑って

「やっぱりそいつぁ人食いなんでやすね、あっしにゃあとってもじゃあねぇが触れられませんぜ」

ウインストン君が

「ああ、無理して探らない方がいい…」

「しかしよォー、また何で刑務所にピンポイントで?」

ケントの疑問だ、うむ、それも尤もだ

「…地下組織…とまではいかねぇが…地下のゴロツキ集団…ご存じですかね?」

「ああ、先日そこと繋がりのある男と戦ったね…いやあれは戦いというか…戦いかな」

私も思わず混乱する、確かに人質を取られての強制の踊りではあったが…

「政府への登録をせずに…詰まり管理を避けて裏通りや地下で活動している…
 まぁそんな奴らが最近ちょいと勢いづいてきたというか…
 良く目につくようになりやしてね、そいつらとスーツ姿の男が
 何か喋っているのを遠目で見たんですよ、近づくのはヤバいとあっしの
 何かが警告だしやしてね…まぁ遠目にそいつの外見が
 「矢の所有者」のモンタージュに似ていたもんですから…追ってみたんですよ」

「なるほど…BCに直接探りを入れるのは流石に危険だし…
 管轄も防衛省ではなく情報局らしいから…なかなか正体に迫るのは難しいわね」

ミルデの報告にルナが応えた。

「向こうにも…スカウトってのは居るらしいから…スカウト兼「発掘者」ということ…か」

ウインストン君の推理、うむ。

「私もそう思う、ただ「或いは」…彼が自らの能力で直接やっているのかも知れない
 …そういう「可能性」がこの写真と言う事になるね」

ミルデは写真を懐にしまいながら

「これは…ゴロワーズさんへの報告用として持ってた物なんで、とりあえず
 今回はお見せするだけです、写真が欲しい場合は別途、購入宜しくお願いしやすぜ」

「しっかりしてんなァー」

「あっしも商売ですんでね、情報としてお教えしただけでも儲けもんだとあっしは思いやすよ?」

「ええ判ってる、有り難う、助かるわ」

ジョーン君が呟いた。



こうして、ホリデー期間をまたいだ全てが終わってまたいつもの日々がやってくる…
着実に前に進みながら、徐々に振れるのに躊躇われるような領域に踏み込みながら…
そのはずだ、我々は未来を信じている。

だがそれは、我々の願望でしかないし、相手には相手の事情や願望がある。


第七幕 閉

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