Sorenante JoJo?

Episode:Ten

第八幕:開幕


「…参ったね…ホントに砂漠の中に「ドア」がありやがった」

モロッコの街の郊外にまで足を伸ばしていたダビドフは砂漠の合間の空間に見える緑の森と
そのむせ返るような緑と土の匂いについ足を伸ばしていた。

「…んで、唯一英語がそのまま通じるあんたも後からここに来たって訳だ?」

ダビドフが会った人物は体が可成り痛んでいて浮かぶドアに寝そべるようにしていた。
そしてそのドアはスタンドだった。

「くれぐれも私に不用意に触らないでくれ
 …君が…これから先も元の世界で生きるというのであれば」

「…頭がどうにかなりそーだぜ、俺もスタンド使いなら大概の現象には
 驚かない自信があったが、この森の世界全部がスタンド効果なのかよ範囲何キロだよ」

「キロ…?」

「おっと…あんたがここへ来たのが1840年頃ッたっけか
 …その頃のイギリスじゃあメートル法は無理か…
 (苦笑しながら)ああ、割と最近までイギリスじゃあヤード・ポンド法が幅利かせてたか…w」

宙に斜めに浮いているドアのスタンドに寝そべる半死半生の男は訳の判らなさを感じつつ

「申し訳ないね…何にせよ…もう西暦も2007年になっているのか…そうか…」

そう言って男は遠い目をした。

「一万年も前から存在するスタンド空間の「過去を止めた王国」の方が
 俺にゃぁ遠い目をしたところナンだがなぁ、だがまぁ、滅びた切っ掛けが「矢」で
 スタンド能力での滅亡を望まずに対抗して固定された時間と空間だというなら…
 なんかこう、俺でも複雑な物を感じるねぇ」

ダビドフはここまで話を通すのに「スタンドの概念」「現代社会」を軽くレクチャーした後なので
次はお前さんの番だとばかりに彼の感慨深げな思考を遮るように言葉を返した。

「ところで君は…ここの事を知っていたようだったが…彼女はではあれから
 ジョシュアに全てを託してくれたのだろうか…」

「…科学的検証からサハラが昔は森林だった事くらいは判っているよ、
 だが王国…建造物・遺跡となると噂レベルばかりだね、俺が聞いて気をつけろと言われたのは
 「砂漠に開いた緑へのドア」についてであって、その奥に何があるとかはアイツ自身
 覚えちゃ居ないようだったがなぁ」

「私の能力は…自分でその時と場所を選べる、迷い込んだ現地民を元へ戻すためとか…
 そういう使い方だ…そのドアについて君が聞いたという「アイツ」がどう言ったかは知らないが
 ここは広大な空間だけに時々亀裂のような物が現実との境目に出来るんだよ…」

「…で、地面や草木くらいならともかく、空間内の動物に触れたらお前さんのように縛られると」

「私はそれを望んで…そうしたのだがね、ミス・ジョット…私の人生を掛けた探検の
 最後に力添えをくれた…自ら悪魔と名乗ったあの心優しい人は…流石にもう生きていないのかな…
 …でも、もう三百年も早くここを知っていたらここに居たいと言ったかもと言っていたし…」

「そら多分ジョーンの事だな、ジョーン・ジョット、ほらよ、写真だ」

ダビドフは調査ついでに撮った写真などからジョーンを選んでスマホの画面一杯にそれを映し
「触るんじゃねぇぞ」と断りを入れてから「彼」に向かって差し出した。

彼はその高精細なカラー写真に先ずは驚いたが、その次の衝撃が更に大きかったのが伝わる。

「…ああ、なんて事だ、ここと違う現実で彼女は矢張り年をとらずに生き延びているのか…
 何故彼女はそんなにしてまで苦しい思いをしているのだろう…」

ダビドフはコイツなんてお人好しだ、と苦笑気味にスマホを懐にしまいつつ

「アイツ自身まだ何か掴んだ訳じゃなさそうなんだが、何か目標があるみたいだな。
 敢えてどれほど苦しかろうと常世を生き抜く、と決めているようだぜ」

「…そうか…そう言う意味では私は逃げたのかも知れないな」

「お前さんは違うだろ、ここがゴールだった訳だから…ナンで俺が慰めなくちゃなんねーのよ」

ダビドフは再びスマホを取り出し、操作しながら「彼」に差し出し

「今はアイツも自分の事判ってくれる仲間や友達に恵まれているよ、
 一緒になって頭突きつけながら悩んだり苦しんだりする仲間がな、傍目から見て
 出来てるんじゃねーのと思うくらい、特にこの…ルナって奴とはカタく結ばれてんぜ」

「彼」はそれを見て安堵しながらも

「しかしその人達も彼女と同じに長い時間を歩める訳ではないだろう、大丈夫なのか…」

ダビドフはもう今度こそスマホは取り出さなくていいかなと苦笑しつつ

「百も承知だろうさ、時間が足りない事も判っているだろう、だから強く結びついているんだ
 ちょいと羨ましいよな、そういうの」

「しかしあの…優しいが人を一定以上寄せ付けない雰囲気もある彼女をそこまで
 近づけるなんて、余程気が合ったのかな」

「さぁ…ただルナはこのキツそうな外見と裏腹に優しい奴だからなぁ
 俺が確実に言えるのは…ルナは誰か他人の名誉を重んじる事の出来る奴だ、
 その為に命だって賭けられるくらいに。
 ジョーンもそういう奴だろう、だからお前さんの事はお前さんが望んでやった事、
 だから心に留めておく事すらお前さんの名誉を穢す事になるとここの事やお前さんの事は
 殆ど忘れちまっている、そういう二人だから…まぁ気が合ったんだろうな」

「私の名誉…か…ここに留まる決意をした事に後悔はない、これは永遠に変わらない
 ただ…」

ダビドフはちょいと眉を上げ、その思わせぶりで中途半端な言葉に敢えて

「お前さんの百六十年はともかく、時々現実との出入り口って亀裂が入るこの空間を
 一万年以上そのままにしていた事に滅びの道でも探していたとか?」

「彼」はビックリして

「君…察しがいいというか…」

ダビドフは自嘲気味に

「「死にたい」と思っている奴の匂いはなんとなく判るんでね」

「…ただこれは…全体の意向なんだ…今…長老がこっちに向かっていると思うが…」

「お前さんって「現代人」が飛び込んで
 その間の時間の流れを知ったここの住人が気付いたってトコかなぁ」

その時スタンディング・カンバセーション(スタンド使い同士の能力による対談)で

『そう…滅びまいと作り上げたこの世界…しかし一万年は長すぎた…』

「ほ、長老様のお出ましか」

長老だけではなかった、ほぼ全住民が集っているようだった。
「彼」…ブライト・ブラックストーンは全住人を代表して言った。

「我々は決して後悔はしていない…時間の流れもここではほぼ無意味だ…
 一日、日一日と数える事すら無意味…だが…滅びないというだけでここはいつでも
 「破滅の直前」というわけだ…どこまでも先延ばしにしてきた滅亡…」

「まぁ…一瞬にして文明が崩壊するような大災害ってのぁ、あるモンだからねぇ…
 スタンド使いになって足掻けただけでも立派ってところだろ…理解はするよ、
 んで、ナンでそれを俺に…こんなに人も集まって」

長老の声が響く。

『あなたに強い力を感じる、まさにここを…先延ばしにしてきた滅亡を体現出来る大きな力を』

ダビドフは苦笑しつつ

「…以前の俺だったら何て言ってたのかねぇ…、先ずは勝負だとか勝った方に従うとするとか
 言いつつ、俺は勝つ気満々だったんだろうなぁ」

ブライトは言った。

「本当にただ誰にも検知出来ないでそこにあるだけなら我々も永遠に先延ばししたかも知れない
 ただ、君のように時々迷い込む者も居る…多くは百年くらいでは余り生活も文化も変わらない
 現地の人々だが…それでもひしひしと細かい身なりや持ち物を見てきて…
 そして君を見て熟々、ここはいつまでもこの世に依存してはならないと悟ったんだ」

「まぁねぇ…出入り自由で振れても何しても大丈夫って言うならまだしも、迂闊に
 混じり合う事すら出来なくてここが「ただ引き込むだけ」というなら、いずれ脅威に
 なるかも知れねぇやな」

「…頼めないだろうか」

ブライトのその言葉にダビドフが改めて彼ら住人を見ると、全員がお願いというか
「頭を下げる」的な意思表示をして居る。

「…判ったよ…スタンド能力で作られた世界をスタンド能力で…と言う理屈なら
 この世界でも通用はするだろうさ、いいよ、送ってやるよ、逝くべきところへさ」

「有り難う、感謝するよ」

ダビドフはレディオ・アクティヴィストを表し、その顔のメーターが稼働…
詰まり能力を使い始めながら言った。

「礼は俺じゃねぇな、俺に本気で他人の名誉のために怒ったルナ…
 その精神でジョーンとも仲良くなったアイツに感謝してくれ
 と言っても、ちらっと写真見せたくらいで感謝しろと言われてもナンのこっちゃだがな」

「…最後にいいかい?
 君は一体彼女の…ミス・ジョットやそのルナという人のなんなんだい?」

ダビドフは能力を全開にしつつ、締まらない表情で

「本来敵なんだけどなー、敵味方じゃなく「人として」前提でルナに平手打ちの上
 説教食らっちまってさぁ、俺もう敵になり切れも味方に成り切れもできねぇ状態なんだわ
 …俺の雇い主にも言われたんだ、このホリデーは引き替えだってよ、
 クリスマスの朝に決行する計画に付き合うための引き替え…
 ま、余り深く考えなさんな、大丈夫、ミス・ジョットやルナは大丈夫さ」

ブライトはこの時ここに迷い込むにもひょっとして何か大きな抱えごとを秘めた人が
その鍵を開ける条件にもなっているのかも知れないと思いつつも、それももう意味のない事
少し思い詰めた表情を見せるも、彼のドアが開き

「…能力がどんな物か知らないが…発動する時にここをくぐるといい、元の場所に戻れる」

「ああ、俺は心中する気は無いからな、俺には俺で俺の行く道があるのさ」

レディオ・アクティヴィストの能力が臨界に振れる。

「じゃあな、あばよ、お前さん達の最後の足掻きはしっかり見させて貰ったし
 俺も覚悟を新たに出来た、礼を言うよ、アリガトさん」

「これも何かの導きだったのだ、私はそう思う」

ブライトの最後の呟きにダビドフも

「ああ、俺もそう思う」

そしてレディオ・アクティヴィストを解放する瞬間にダビドフはドアをくぐり、
その能力が炸裂した瞬間にドアごと消え、ダビドフは元いた砂漠の上に転がっていた。

「…俺には俺の役割がある筈なんだ、逃げる訳には行かねぇな、その結果がナンであれ…」

ダビドフはそう呟くと振り返りもせず町の方へ戻っていった。


Episode10 閉幕。


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