Sorenante JoJo? PartOne "Ordinary World"

Episode:Seven

第八幕 開き

その館は…石造りの…当然か…確かに
城とも呼べそうな結構な豪邸だった。

ああ、ジタンだ。

ここで少し彼女の人生に対する補足というかな…

先ほどの言の通り、ジョーンはこの時代から
18世紀は中ごろまで主にジプシーの一員として
各地を放浪していた。

…といって一つのジプシーじゃあない。

例えばジプシーの一団が土地を離れる事になり、
彼女は残り一つの土地に少し留まる場合は、
つまりスパイとしての活動は続け、
残りの時間は勉強に費やした。

ジプシーでは学べない芸能…絵画やバロックの音楽
楽器の製作なんかもこういう時だったようだ。

…美術家の卵と思われるスケッチの中に
この頃のジョーンと思し気モデルの絵が数点見つかっているからな。

彼女は土地ごとに名前を変えた。

オーディナリーワールドとのコミュニケーションから
「ジョ」で始まる名前…というのが唯一の条件だ。

…とはいえ、イタリア語では「Gio」
フランスやイギリスでは「Jo」として
北欧やスペインで過ごした時は相当ネーミングに苦労したようだ。

ああ、因みにイタリア語には「J」はないというか
使わないんだがな、外来語には「J」を普通に使う。
似た例として、イタリア語でタクシーは「Tassi」だが
外国人の観光客なんかも相手にせねばならんからな、
普通に「Taxi」と掲げているぜ。
イタリア語には「X」もない。

イタリア語はだから割と包容力があるにしても、
ドイツじゃ「J」は「Y」の発音だし…
「G」は「ガ」の並びだ。
Sioとかで何とかごまかしながら…

途中からはかなりいい加減な名前になってたもんだな。
ロシアというかキリル文字なら「Жё」でジョだから
ロシア近辺が発音の上ではやりやすかったんだろう、
恐らく東欧のここに居るのはそういう事情もあると思う。

だからこの時期のジョーンの名は正確にわからないし、
(いろんな候補があってどれがその時期かわからない)
ジョーン自身も覚えていない、という有様だ。

…というわけでな…「17世紀の」ジョーンは
屋敷の壁の一部の隠し扉から中に入っていった。

俺達はジョーンが別の隠し扉を知ってるんで
そこから中に入った。

壁は二重になっている。
断熱というかそういう意味と、隠し通路の二つの意味からかな。

17世紀のジョーンとは逆方向から領主の居る部屋に向かった。
勿論防音加工を施しながら、だ。

「壁の一部を…加工するわ、結晶構造を変え半透明にする…
 無論向こうからは見えない。」

現代のジョーンはこういう事を事も無げに言うし
少し時間はかかるが確かにやってのける。

…そういう知識がないとやれないスタンド…
彼女の長い人生だから成し遂げたといっていい。

広い部屋が見える。

そこに、声を加工したと思われる17世紀のジョーン

「只今参上しました…今度はどのような仕事でしょう?」

低く、慎重に語られるその声は多少中性的というか、
マントやフードに身を包んだ姿からも、
使いの者以外はなるべくお互いの姿を
確認しないようにしていたのだろうと推察できる。

床にカーペットとは別に布が敷いてあってな…
そこが膨らんだかと思うと、そこにジョーンが参上している
という訳だ。
「岩などをすばやく崩す」というのに手馴れているのは
金を保存する以外にも、こういう登場の仕方をしてた
のもあるんだろうな。

「よく来てくれた…先ずは経過から話すとしよう。」

領主の声がその広い室内に響く。
現代のジョーンが俺達に言った。

「…彼の名はトラサルディ…位(くらい)は忘れたわ。」

「ずいぶんドライだな。」

ウインストンがいうと

「お互い深く干渉しないこと…それがお互いのためだと言う事よ。」

なるほど、闇に生きる訳だからな。
トラサルディは続けた。

「北欧を拠点に宝石専門の怪盗が居ることは…君も知って居ろうか。」

「…噂には…確か名は…ボルクムリーフ…」

「…そう…とりあえずそれは置いておく…
 インドから素晴らしい石が研磨のために
 イタリアに入ってね…
 正直手に入れたかったんだが…その前に
 ボルクムリーフに盗まれてしまったんだよ…
 君に…それを私の元まで持って来てもらいたい…」

「…その者の居場所は判っているのでしょうか…?」

「この街の郊外のどこかに…アジトを構えていることは掴んだ。
 後は君に頼みたい…なるべく迅速に…」

そしてトラサルディは続ける。

「…最初から君に頼んでおけばよかったよ…
 「宝石専門」なんて掲げているから、
 すっかり騙されてしまった。」

その言葉に現代のジョーンが俺達に

「つまり彼は最初怪盗に盗みを依頼し…ネコババされたって事よ。」

「盗み返して来いって訳か…なるほど、表向きじゃあ出来ない仕事だわね…」

ルナが呆れたようにつぶやく。
トラサルディは更に続けた。

「…報酬は現物と引き換えだ…
 早くお目にかかりたいのでね…なるべく急いでくれよ…
 グレートムガールを…この手にね…」

その言葉に反応したのはポールだった。

「…グレートムガール…はて…聞いた事がある…」

ルナも考えているようだが、宝石には興味がないのか
同じ歴史でも宝石にまつわる伝説とかそういうのは
端から興味がなかったらしい、判らないようだ。
まぁ…宝石にまつわる伝説ほど胡散臭いものもないからな。

「…グレートムガールは787カラットあるわ。
 僅かに青緑がかった色のダイヤよ。」

現代のジョーンがそれを言うと。

「…青緑…そうだ…! オルロフだよ…!」

オルロフ…言われて少し考えたが、俺と、珍しく
アイリーが同時に気付いた。

「今ロシアにある杖につけられたでっかいのだ!」

「アイリー、よく知ってるな?」

「アイリーはあれよ…テレビで見たんでしょ?」

「エヘヘ…うん。」

「いいかね…宝石…特に大きなダイヤとなると…
 産出量が極めて少ない…だから…途中の歴史が途絶え、
 姿を変えても、その色やおおよその大きさから
 「恐らく元々はこれで…」というように推測がつけやすいのだよ。」

「…つまりそんな歴史の中で翻弄された有名なダイヤを…
 ジョーンが盗んでくるって訳ね。」

「…そういうことになるわね。」

ジョーンはここでは我々が何を為すべきかを
きちっと理解しているようだ。
先ほどのエジプトように所在無げに
逃げ出したい雰囲気も特に見えないことから
心の痛み度ではさほどでもないことになるのかな。

「…それよりさぁ…どうしよう、こんな時なんだけど…
 流石に疲れちゃったよ…眠いかも…」

アイリーが申し訳なさそうに言うと、
ケントも「あ、悪りィ、オレもだぜぇー」と続き

「うむ…時代を超えて大変な事態に直面した
 テンションから今の今まで普通に動いていたが…
 現代の時間で換算するともう明け方近くまで
 動き続けたようなものだからね…」

ポールが言うと、全員「確かに…」という感じになった。

「…そうね…、今これから…名前が…面倒だわ、
 コードネーム「ジョジョ」のわたしは…
 怪盗ボルクムリーフの所在を確かめに回るから…
 少し時間がある…とにかく皆…わたしについてきて。」

なるほど、オーディナリーワールドが途中で訳判らなくなって
ジョーンを「ジョジョ」と呼んだ経緯からこの時代の
ジョーンを「ジョジョ」と呼んでみるわけだ。

「この時代の…「ジョジョ」は…いつ乗り込むの?」

「…数時間後って所なのだけど…とにかく来て。」

ルナも確かに少々疲れたって感じにジョーンに予定を聞くと、
ジョーンは詳しく言わずにとにかく俺達を案内したわけだ。



また屋敷の外にでて、更に郊外へと進む。

もう、ここは森だな。

しかも「ジョジョ」に見つからないようにわき道を歩くので
歩き辛いのもまた体力の消耗になる。

ジョーンは洞窟に俺達を案内した。

そして枯れ木を集めてきて即座に火をつけた。

「…皆、とりあえず寝て。」

洞窟近辺の雪を瞬時に融かし、
ウインストンの風街ろまんに草をなぎ払ってもらうと、
地面に手をつき

「生命磁気への波紋疾走…」

草や葉が一気にジョーンの手に集まってきた。

「…改めて思うと波紋も結構便利なのね…」

ルナが疲れた様子ながらもジョーンのそれに感嘆した。

洞窟内にジョーンが戻り、大量の草や葉を乾燥させ、
地面に敷き詰めた。

「個人向けとしてはオーディナリーワールドの方が
 今は便利だけれど、こういう用途なら
 波紋は使えるわ。
 スタンドパワーのように失うものもないし。」

確かに、気温を調節しどおしてたジョーンも多少疲れたろう。
火もあるし、波紋を併用することで彼女も少し休むようだ。

「…でもよぉー…数時間後には来るんだろぉ?
 大丈夫なのかよぉー?」

「…大丈夫、考えてあるわ…とりあえず、多少なり眠れる時間を
 確保できるとしたら、ここと最終ステージだけになる。
 …最終ステージの方は…眠れる度胸があるならっていう
 条件もあるし…ここしかないのよ…とにかく寝て頂戴。
 わたしが睡眠状態をある程度管理するから…」

「睡眠まで調節できるのかよ?
 改めて何でもありの奴だな、お前も…」

ウインストンがやや呆れて言うと。

「ああ、K.U.D.Oに来たばかりのジョーンの睡眠短かったのって
 調節してたからなんだ?」

アイリーが言う。

「…ええ、安心できるかどうかって言うのは…
 わたしも手探りだったわけだしね…」

「そうよね、当然だわ。
 ただそれが更にジョーンへの謎を深めたわけだけど、
 まぁ仕方ないわよね。」

お互いの探りあいや遠慮のし合いで最初の頃は
結構ぎこちないというか、ひたすらジョーンが
「でんと構えた謎の女性」だったわけだろう。
今となっては、アイリーもルナもちょっとそれを
「懐かしい」と思えるほどにはジョーンは
K.U.D.Oに馴染んだってわけだ。

「…では…お言葉に甘えて寝るとするかね…」

ポールが先陣を切って横になった。
ジョーンが彼の頭部にスタンドとともに触れると、
すぐ寝たようだ。
まぁ、脳内物質やら伝達やらを調整し、
半強制的に「睡眠状態」に置いたって事だろう。

ルナもアイリーも、ケントもすぐそれに倣い
ジョーンに寝かしつけてもらったようだ。

「…皆変わったよな…最初の頃ジョーンの得体の知れなさゆえに
 「もしこいつが敵だったら」と思うと
 おっかなびっくりだったモンだが…」

つぶやくウインストンも俺も横になる。

「…いまさら心配しないで…
 目覚めは少し悪いかもしれないけれど、
 体は確実に休まるはずよ、さぁ…」

俺達も寝たわけだ。

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レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す。
でもなんていうかな、心の奥底で
「あ、寝すぎたんじゃあないか、まずいッ」
と思っていきなり飛び起きることがあるように、
あたしは飛び起きたわけだ。

ルナよ。

あたしらは焚き火の周りで枯葉や枯れ草のシーツの上だったから
結構寝心地もよかった。

ふとジョーンを見ると、洞窟の壁に背中をもたれて
少し目をつぶっていたようだけど、あたしが飛び起きたのに
すぐ反応してうっすら目を開けた。

「…ああ、ルナ…おはよう。」

「…おはようって…あたし何時間寝たの?」

洞窟の外を見る、…真っ暗だ…

「…大丈夫よ…ほんの二時間ほど…」

「…二時間ですって…?」

皆も「寝すぎた」様な気がして飛び起きだした。

今度はあたしも加わって「大丈夫、まだ二時間ほどよ」
と言って回る。

「…リベラのスタンドと違って起こされればすぐにも起きて
 気分も悪くないのに比べると…ちょっとわたしのは
 具合も悪いでしょうけど…でも身体的に6時間ほどの
 睡眠分はあったはずよ…
 睡眠のサイクルと身体状況を早めて…4セットで一セットの時間にしたわ。」

皆、確かに目覚めはあんまりよくないみたいだけど、
なるほど、時間が過ぎてみれば、確かに体も頭も
それなりすっきり動く。

「睡眠のサイクルってそういえば90分でしたっけね…」

あたしが言うと

「そんな報告を聞いたわ、わたしは確かにそんなリズムで寝ているし。
 ただ、睡眠のベストサイクルは個人差があるから…
 それでどうしても目覚めが良くなかったりするのよね。
 だから幅を取って二時間ほど寝てもらったわけだけど」

「…な…なるほど…ふぅ…確かに…体は休まっている…」

「…起きてすぐに悪いけれど、水を補給して、すぐ行くわよ。」

ジョーンがあたしらに氷で作ったコップに
雪を溶かしたのだろう水をよこした。

「大丈夫、きれいにしてあるわ。」

「うっひょ…冷たっ」

アイリーはそれでも渇いた喉を潤した。
皆もそのキンキンに冷えた水で体と頭に活を入れ、

「それで…ここからどう動く?」

ウインストンが聞くと

ジョーンは外にでるのかと思いきや…
そのまま洞窟を進み始めた。

「お…おいよぉー…どこいくんだよぉー?」

「この洞窟のある場所は怪盗のアジトのすぐ裏なの。
 といって繋がってる訳でもないのだけどね。
 彼は反対側の洞窟をそれなりに家っぽく改造してるけれど。」

なるほど…本拠地をあらかじめ知っているから
寝る時間も稼げるわけね。
このへん…未来から来たことが利点になってるわね…
…とはいえ…最初の頃はジョーンは
自分の過去を本気で忘れかけていたし、
思い出さないようにしていたようにも思える…

…いつかあたしに「そのうち知ることになると思う」
と予感めいたことを言ってたけれど…
それでたとえ嫌な記憶でも思い出しながら
あたしらと過ごしてたんだな…

…そして…今回のスタンド攻撃で
あたしらは確かにジョーンの過去と向き合って…
彼女の導きでそうあるべき未来を手助けしている…

…例えこのステージではそれほど精神的に
辛くはないとはいえ…でもやっぱり辛いでしょうね…

ジョーンはレイプの経験はないとのことだけど…
体じゃあない、
ジョーンは今記憶をレイプされているって訳よ。
そして…あたしらもそれに無理やり参加させられてる…

…なんてことかしらね…

まだちょっと寝ぼけた皆を連れてジョーンが洞窟を少し進むと、
明らかに人工で作り上げた六角形の横道に入る。

「…ジョーンひょっとして…
 あたしら寝かした後これやったの?」

「…ええ、壁一枚で怪盗の部屋に通じるよう加工しておいたわ。
 その壁一枚も半透明化させておいた。」

「…貴女寝てないんじゃ…」

「寝たわよ…きっちりわたしのリズムで90分。
 …だから大丈夫。 ありがとう、ルナ。」

六角形って言うのは自然の作り出した妙。
蜂の巣なんかがいい例よね。
水の結晶…つまり雪も六角形。
まぁ蜂の巣と雪の六角形は別の理由だけど…

急ごしらえで作り上げる通路だから、
真四角で切り抜くと崩れる恐れを感じたんだろう。

真夜中…携帯で確認すると正に真夜中だった。

半透明の窓から怪盗のアジトを見る。

「ふふふふ…それにしてもでかい…色もいいぞ…
 幾ら眺めても飽きない…ふふふふ」

その男は僅かにカットはされてるけど
ほぼ天然の結晶面をそのまま残してあるような
大きなダイヤをながめていた。

部屋はたくさんの蝋燭が揺らめいていて…
暖炉の灯りとともに結構明るい。

部屋のいたるところに盗んだと思われる宝石が
たくさんあって…その反射もあっていろんな色に煌いていて明るい。

「…確かにでかいが…700カラットは切ってるな…」

ジタンがつぶやく。

「軽くカットしたんでしょ?」

あたしが言うと。

「そう…それは彼にとっても重要な作業なのよ。
 単に足のつかないようにするためではなくてね。」

ジョーンが言った。

「…どういうことだね?」

「すぐ判るわ…」

彼の家の扉がやや乱暴にバタンっと開いて…誰かが入ってくる。
…誰かじゃあないわね、ジョジョ…

マントもフードも背中に寄せていて、ほぼ正面からは
そのままのジョーンがやってきた。
…ジプシーでの仕事のすぐ後に請け負った仕事だけに…
踊り子の衣装や化粧もそのまま…
多少無表情な中に、強い意志を秘めた顔つき。

…なんて美しい刺客かしらね。

「…ほう…トラサルディの奴の手先だな?」

「…その…グレートムガール…奪いに来たわ…」

「…やれるかね…?」

「…やってみせる…」

ボルクムリーフの背後に沸き立つスタンド。
それをみた瞬間ジョーンの表情が険しくなる。

「…この当時はスタンド使い…当時で言えば
 「憑き神」を持っている人はそう多くはなかったわ」

…なるほど…余計に衝撃が走るってわけね…

そしてジョジョもスタンドを出した。
…この時代もエジプトに引き続き、今とは違う
ちょっと途上っぽい姿だわね…

「…おっと…お前も「憑き神」持ちか…」

「…そうなるわね…」

「…そりゃいい、良くそれを出してくれた。
 …ロキッ! あいつを除外だ!」

「…何ですって!?」

瞬間、ジョジョも…ボルクムリーフもそのスタンド…ロキも
姿を消した。
あたしらは驚いた…何が驚きって…
オーディナリーワールド「だけが」部屋に残ってるからよ…

「…このロキというスタンドの能力はどうやら
 宝石の中に一つの世界を作り上げ、
 その中をバトルフィールドとするスタンドのようだわ。
 …何が厄介かというと…
 封じ込められた「わたし」は一つの結晶面にしか居られないのに反して
 彼はそれ以外の複数の結晶面に「同時に」分身していられるところね。」

「…四方からやられ放題になるって事?
 しかも…オーディナリーワールドが選択的に除外された…」

「そう、わたしはこの時、スタンドを出すべきではなかった。
 そうしたら結晶面の中でスタンドを出せたのに…」

「…なるほど…厄介な敵だな…」

ウインストンがつぶやいた。
一人取り残されたオーディナリーワールドが
グレードムガールを拾う。
なるほど…結晶面にちらちら人影が見える…
殆どが怪盗とロキで…どこか一箇所だけがジョジョってわけだわ…

「…ちなみに中からは外が見えないわ。」

「…ねぇ…これで…どうやってジョーンを…ジョジョを助けるの?」

「大丈夫よ。」

ジョーンは…既にその半透明の壁も加工していた。
…何とその壁の扉を開けたのだ!

そしてずかずかと室内に入っていった
勿論当時のオーディナリーワールドはパニックだわ!

「…ちょっとジョーン!」

思わずあたしが言う。
皆も度肝を抜かれている。
ジョーンは先ずオーディナリーワールドに言った。

「…わたしは「今の」貴女の本体ではないわ。
 時を越えてこの時代に飛ばされてきた未来のわたしよ。
 …この戦いの後に何があったと問われても黙っているか
 「良く判らない」の一点張りでお願いね。」

無茶苦茶言ってる…!
当時のオーディナリーワールドは混乱している。
でも、結晶面の中に確かにジョジョは居て、
今ボルクムリーフの攻撃を受けているところ。

信じられないけど、確かに二人の「ジョジョ」が居る

ジョーンはあたしらを手招きした。

「手伝って頂戴、
 …これがこの時代のわたしたちが「為すべきこと」よ…」

ジョーンは盗まれたほかの宝石を片っ端から部屋にあった袋に詰めて
整理しだした。

「…まさか…盗むのかね?」

「…違うわ、彼はこの後グレートムガールから
 逃げ出すことになるのだけど、逃げ道を塞ぐために
 これを他の場所に移してしまうのよ。」

「…なるほど…これだけの宝石があれば…
 もし逃げ出すのだとして「どの」結晶面に逃げ込んだか
 全く判らないものな…」

ジタンが事態を把握し、ジョーンを手伝い始めた。

残ったあたし、ウインストン、ポール、ケント、アイリー
顔を見合わせた。

「…つまり、これからのジョーンの記憶だと
 グレートムガールから抜け出したときには
 彼の逃げ場が「いつの間にか」無くなっていた
 って言うことのようね。」

「…無茶苦茶なんだが…NGにならないところを見るとそうらしい…」

「ということはだね…私達も…」

「宝石除けとくのによぉー」

「協力するしかないねっ」

あたしらはなるべく戸惑っている当時のオーディナリーワールドに
顔を見られないようにしつつ、部屋中の宝石を片付けた。

そして、当時のオーディナリーワールドにジョーンが言った。

「もうすぐ…結晶面の中からわたしが貴女に指示を出すわ。
 …といって声も何も聞こえないのだから…
 タイミングは貴女に任せるしかないのだけど…
 そうしたら、貴女…この宝石を燃やして頂戴。」

ウインストンが叫ぶ

「な…何ィィィイイイイーッッ!?」

ジョーンは普通に続けた。

「燃焼のメカニズムは空気中の…この十六個の核で出来ている
 粒が二個でこの宝石を構成する粒一個と結びつく…そのようにお願いね。
 普通に燃やしたのではダイヤモンドの燃焼はあまりよくないから。
 普通の燃焼と併用してお願いするわ。」

要は…二酸化炭素を合成する、ということだわ…。
あたしらも戸惑うけれど、当時のオーディナリーワールドは
もっと戸惑っている

「…シ…シカシソレデハ…貴女マデ…」

そう、結晶面を含め燃やすのだから、ジョジョだって無事にはいられない。
でもジョーンはこともなげに言った。

「何言ってるの?
 未来のわたしは…ほら、ちゃんと生きてるじゃあない?」

滅茶苦茶だ…未来ありきで過去を作るなんて…
でも…多分、この時の「やけど」が元で体をまた少し
入れ替える羽目になるのだろう、
それが過去の「ジョジョ」の真実。
ジョジョはつまり、結晶面の中から
オーディナリーワールドに「このダイヤを燃やして」と
指示を出すことになるのだろう。

…ただ、結晶面の中からは外に意思が伝わらない
はずなわけだから…つまりジョーンにとっても
「ダイヤを燃やす」という指示がなぜ伝わったかが
「わからなかった」という事になるのだ…

…何のことはない、未来から過去へ
「自分はそういう指示を出す」
と直接外に伝えればいい。
自分の過去を利用した攻撃だというのなら、それを利用しない手はない。

…やっぱり貴女…いい感じに無関心だわ…
あたしらなら過去と未来がどうのと決して
こんな行動は出来ないだろう…

…彼女の強さを見た気がした…

皆は戸惑いつつ、宝石をさっきの洞窟まで持って行った。
(六角形の通路は後で埋めておくとジョーンが言ったから
 あたしらが寝てたほうの近くに置いておいた。)

「…燃やした後でわたしが…ジョジョが出来るだけ
 元に戻してというから…その時に構造のパターンを
 ある程度真似て再合成して。
 その際ホウ素…十個の核の粒や欠陥のパターンを少し変えて頂戴ね。
 鉄を含ませるのもありかもしれないわね。」

「ハ…ハイ…」

「未だ名前のない貴女…あと…三百数十年名無しのままだけれど
 …しっかりジョジョを頼んだわよ…
 貴女なしではわたしは成り立たないし、
 わたしなしでも貴女は成り立たないわけだから。」

ジョーンが言う。
この当時の余裕のないジョジョと違って、
現代のジョーンはもうほぼ何があろうと余裕の表情で
切り抜ける知識(=技能)を持っている。
その自信に満ち溢れた強い表情に
当時のオーディナリーワールドは顔を赤らめた。

ただただ、頷くしか出来なかった。

「…じゃあ…この事は言わないでね。」

あらかた作業を終えたら、さっきの扉を閉めた。
あたしらはまた通路から状況を見守る。

「…滅茶苦茶だわ…貴女ったら…」

あたしが思わず呆れて言うと。

「…いい感じでしょう?」

ジョーンがさっきあたしが言った言葉を返してきた。
ちょっと気まずい思いであたしの顔まで赤らんじゃうわよッ!

「…いやぁ…流石ジョーンだって思っちゃったよー」

「…心臓飛び出るかと思ったぜ…」

「…同感だね…」

「…同感だな…」

「まー確かに「目撃者」が「スタンド一人」だからなぁー…
 オーディナリーワールド一人口止めしとけば
 NGにはならねぇーってわけかよぉー」

「…そういうことよ…」

壁越しに状況を見守る。
戦いを見ていたオーディナリーワールドは
ジョーンに言われたとおりに行動を起こした。
火をおこし、グレートムガールを燃やすとともに
早く燃えるよう直接二酸化炭素の合成も起こし「燃焼」を促進させる。

…するとなるほど…

「…うぉぉぉおおおおおーーーーーッッ!!」

半分焼けたボルクムリーフがグレートムガールから
飛び出してきた。
ジョジョも一緒に吐き出された。
…つまり、こいつは厄介な敵ではあるけれど、
「敵だけを閉じ込める」
「敵だけをフィールドに残す」
という細かな芸当は使えないってことだわね。

…ジョジョは左足、左腕、顔や頭も軽度だけどかなりひどい火傷…
左足に至っては殆ど炭じゃあないの…

左半身を中心に全身それなりに火傷を負っている。
…それでも顔面だけは極力守ったようね…
機能は失っても…それが他人のものだったとは言っても…
やっぱり貴女はれっきとした女性なんだわ。

「…てめーッ! なんて事しやがるッッ!
 貴重なダイヤにィィイイイイーーーーッッ!」

「…関係ないわ…ある程度なら戻せるし…」

「…くそっ…ここはとりあえず退くのだ…ッッ!」

彼は辺りを見回した。
あるはずの「逃走経路」がない!?

「…なッ…何だとォォォオオオオオーーーーッッ!!」

ボルクムリーフが頭を抱える。
そりゃそうよ、あたしらが片付けたんだものね。
重症のジョジョは足を引きずりながらも彼ににじり寄り

「…どうあれ…目的は遂げさせてもらうわ…
 わたしは…生き延びる術を学び取るッ…!」

炭になりかけた左腕も使って、どんなに痛みが走ろうと
本体とともにオーディナリーワールドが彼に連打を浴びせるッ!!


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