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「サイド5近辺より近辺回収物の引き渡しを求める通信があります」

八代はきっぱりと

「宇宙ゴミは例外なく月の地球面か裏面指定場所!」

ルナが渋い表情で

「…幾ら公国ジオンが倒れたと言っても、矢張り残党も未だそこそこの勢力を
 保っているし、サイド5もすっかり怪しい場所になったわね」

沙羅も続いて

「全てがそうではない事とかも全てをくまなく調べるわけにも行きませんから、
 何とも言えない宙域になっている事は間違いないですねぇ…
 連邦も連邦で全てを殲滅に回れるほどの余裕はないでしょうし、
 色々な意味で「なぁなぁ」となっているところは多そうですね」

「そうね…月か…今見えるこちら側からはあたしの故郷でもあるフォン・ブラウン市…
 そしてその近くに、改修か廃船かの運命を待つシロナガスとジンベエ。
 表側投棄の時撮れる範囲で記録録っていい?」

ルナが八代に伺うと、八代は頷いて

「シロナガスやジンベエは録ってたんだけど、フォン・ブラウン市も追加するわ」

「悪いわね」

「別に許可取ればもう一時帰郷とかも不可能じゃないのよ?」

「いくら「中立」と言ってもね…アナハイム・エレクトロニクス社のお膝元だし
 絶対色んな思惑が駆け抜けている場所に成って居るのよ、
 せめて大きな戦いはしばらく起きないだろう、と言うくらいにならないと
 とてもじゃないわ、行く気はしないわね」

八代と沙羅が目を合わせ

「もし、近々に何かが気になってどうしても行きたくなったら、私達がSPにつくわ、
 ゲリラくらいならどうとでもなるから、まぁ頼ってよ」

またスケールのでかい提案に沙羅はニッコニコして頷いている。

「…色々問答したいところだけど、そうね、イトカワ社の方も色々引き抜きが
 でたりして、事務所は相当縮小したとは言え、何故か父とあたしの生家は
 保存しているようだし、せめてその分だけでも権利戻して委託の形で
 管理はお願いしたいから、そんな時が来たらね」

「是非、お供させてください!」

少しセンチメンタルにも望郷の念に駆られたせいか、ルナはちょっと締まらない
笑顔でだけそれに応え、作業を見守りつつ

「問題は裏側ね、ジオンの降伏と言ったってそれはザビ家が実質崩壊したからであって
 完全に戦闘で白黒ついた状態ではない事から今でも迂闊に触れられないわ」

そこへウィンストンから通信で

『なぁ…』

八代が声を掛けようとしたときに、ルナが遮って

「我慢なさい、今はまだその時では無いわ、携行している物だって
 対MS戦に使えないこともない、という消極的な物、
 何よりアイリーの居場所がハッキリしない、これではただ国際問題を
 まき散らしに行くだけになるわ!」

ルナも矢張り気に掛けては居たのだろう、真っ先に諭した。

『しかし…人工冬眠と言ったって一体どのくらい持つ物なんだよ?』

「そればかりはどんな設備かを見てみないと何とも言えない、でも、
 今でもアイリーの意志を感じるのだから、今はまだ耐えなさい!」

そこへ八代が

「煮え切らなくとも今は飲み込んで、やっと色々揃いだした今この段階では
 まだまだ手を出せないわ、ルナの言うとおりなのよ。
 ヤシマ重工と今後これからの事を考えビーム兵器なども計画しているから」

『…! それ勿論極秘だよな、いいのかよ』

「旧世紀憲法に則ったって防衛手段の一つとしての拠点攻撃は議論されていたのよ?
 それに貴方達の国籍や人種がなんであろうと日本に属し、世界の安全のために
 働いてることは紛れもない事実だわ、それに、これも打算の一つだけれど
 アイリー・アイランドの能力が隊長さんと重なったときの爆発力は
 記録で見ている、これからの時代に、必要なの、「みんな」がね!」

『…あんたは女たらしだそうだが、結構な人たらしだな、そんなこと言われて
 火のつかない奴は居ないぜ、俺達の中ではな』

「貴方達の悔しさやもどかしさは、改めて私が預かる、今回は日本国海軍
 宙空挺団としての試験と実践として頭を切り替えて」

『判った、済まねぇな、ルナも』

「今居場所が判ったからと言ってこの状態では作戦もヘッタクレもないわ
 あたしも悔しいけれど、あたし達も、そして日本も次に進んで居る最中なのよ」

『時代か…』

『言っとくけどよぉ、ニュータイプだっつったって目の前の危険くらいしか
 予測できねぇからなぁ?
 誰にもこっから先のことまでは判んねぇ』

「だからこそ、間違いを犯しながらも人は生きて行くのではないですか、さぁ」

沙羅の言葉でそれ以上はただの愚痴だと、全員気持ちを切り替えた。



作戦期間中の大半は月の近縁にある宙域だったのだが、最後にサイド7近くも寄る。
宙域に達したというのに、中々出撃指示が出ない。

『おい、大佐殿、どうしたんだ?』

「待ってね、今面倒くさい確認とってるところだから…コロニー再建のかどで
 けっこーここもピリピリしてるのよね」

通信の声は漏れていないが、ウィンストンは察し

『ああ、俺達やルナ…もっと言えばバケツとかも引っかかるか』

「そう言う察しは引っ込めておいて、と言うだけではダメか
 ルナも言ってたのだけど、もうスペースノイドってだけでアレルギー起こすような
 タカ派が連邦に居てね、厄介なのが信望者も軍内にまま居るって事なのよ
 それに私達も連邦軍とは半ば独立しているわけでね、彼らにとっては
 「日本国軍」ですら「不穏分子扱い」なのよ」

『なるほどな…ま、そう言うのは任せるわ、結果ダメならそれも相手の選んだことだ』

「そうそう、みんなまとめて「怪しい奴ら」だからさ」

「とはいえ…ちょっとこれは…放置できないところに差し掛かりつつありますね」

沙羅が観測班にまじり言葉を挟んできた。
ウルマ中尉がそこへ

『何が起こったんだ?』

隊全員の「うん」という声も聞かれる中、八代が

「これ伝えて相手側を押し切って、もうそんな長い時間粘れない」

ブリッジの中がにわかに忙しくなる中、更に八代が

「貴方達にも一応データは送るけれど、貴方達は先ずは通常のゴミ拾いから
 艦にくくりつけていって」

そして転送されたデータ、ウィンストンが声を上げる

『これは…小惑星が迫っているのか…!』

「数ヶ月前から「怪しい」と睨まれていた小惑星でね、軌道上に色々他の小惑星やら
 不確定要素があったので軌道が定まらなかったのよ。
 旧世紀には確認されなかった事から…小惑星イトカワタイプ…
 細かい瓦礫の寄せ集めタイプ…と言う風に見られているのだけど、
 こちらの方は私がテストをするから、先ずは気にせずGoサインでたら作業進めて」

『任せていいんだなって言うか…直径平均1km越えてるぜ…』

「それを今からどうにか出来るか、
 動かさないで済むならそれに越したことはなかったけどこのまま放置したら
 数時間後にはサイド7とルナIIの軌道すぐ側を通って地球の凄く近くにまで接近する、
 私は今から用意始めるから…、耐熱ブロックを後部甲板に敷き詰め用意!」

『おい、ルナ』

「ゴメン、色々計算していたのよ、推定体積から小惑星イトカワやリュウグウのような
 ラブルパイル天体…瓦礫の寄せ集めと思って間違いないわね、細かい砂などが
 余り見えないことからそう遠くない時期に合体したようだわ、一番大きな岩石で
 それでも二百メートル弱ありそうね」

『大佐殿の「用意」って何だ?』

「ガンキヤノンベースの小惑星粉砕用途を作ってみてね
 今からその性能と破壊力を試す所よ、四條院少佐はそれでも出るだろう大きな
 カケラを破壊して行くためのNT用「ロ」号」

『ケントのとはどう違うんだ?』

「ケントのは後の事変の可能性から「屋台」としての運用を考えて
 攻撃面は両腕を含めたサブアームでの武器の使用なのだけど、
 沙羅のは発展型、エルメスのビットを発展させたファンネル(漏斗)型ビットを
 多数配備した、こっちがMAとしては本命の実験機なのよ」

『すげぇんだけど軍事力との差が曖昧だよな、仕方ねぇんだが』

「使う人次第、使う場面次第、あたしは日本人を信じてみるわ」

そんな時にGoサインが出た、次々とモール隊は出撃し、
一年戦争終盤でV作戦に絡んだ戦闘で発生した破片等を回収しに回った。

艦上にタイルが敷き詰められて行く、接着剤付きなので多少の事では剥がれない、
そしてそこへ、

『バスター・Gキャノン試一(し・いち)、十條八代、左舷滑走台より直接後方甲板に出る』

エコー中尉が畏怖の声を上げる

『な…なんだあの砲の化け物は…!』

ガンキヤノンを幾らか改修し、後ろの装甲はほぼなく、そのまる見えの内部は
ほぼ排気口のようだった。
そしてその両肩のキャノンたるや…

エプソン中尉も叫ぶ

『自機よりでかい砲担いでるのか…!』

ビサイド中尉も

『なるほどあんなのなら多少の小惑星なら粉々に出来るかもな…!』

しかし、甲板に立っておおよその角度を付け調整し、半腰状態で
足や腰の固定用ロックがブロックに突き刺さって行くとき、
甲板要員がどんどん結構な太さのチューブをBGC試一に繋いで行く。
無線が遠くて聞き取りにくいが船自体で細かいコントロールや撃ち込みやすい
角度を決めるようだ、大がかりだ。

『…「てしお」の砲も使うようだな、「てしお」のはビーム砲だが
 キャノンの砲はどっちなんだ?』

そしてチャージを始めるように起動音が無線に混じって聞こえてくる。
「ゴミ袋」を艦に掛けに行くついでにウルマ中尉が八代に話しかける

『大佐! 大丈夫なのか、それは』

『まー大爆発は起こさないようになっているとはルナは言ってたし、
 私自身はどうにでもなるから、とりあえず、ほら、ゴミ拾いゴミ拾い!』

そう言うやりとりを見つつ、実はルナは少々不安に駆られていた。

確かに破壊は出来るだろう、しかし少々大きさが不安、最大チャージで
二度連続発射となったときに機体のダメージが或いは予想を超えるかも…
とりあえず作るのにバケツは妥協しなかったけれど、こちらは幾らかの妥協をした…!

不安に駆られたルナの脳裏に沙羅の声が聞こえる

〝不安があるなら、持ってきていますよ、貴女のも〟

その声に突き動かされるようにルナもブリッジから飛び出した。



二十分ほど発射のためのチャージを施したバスター・Gキャノン試作一号、
既に背面の排気口からは大量の水蒸気が発せられていた。

そして、艦尾下射出口から大きな、しかしケントの「ネオ屋台」と遜色ないほどの
スピードで恐らくケントのMA試作「イ号」よりバランスを絞り、
元となる上半身だけのバケツもあるのだろうが、背中部分の装甲がほぼ隙間を埋め、
それが前部へズレると言う感じで背部別装甲にもモノアイがあって
巨大な推進器を持った装甲が幾重にも重なる鳥のような、そんなMAが飛んで行く。

『…おいケント! ここら辺後頼む! 俺達は隕石から充分距離を取って
 前面に60度おきに一機ずつ配置だ、各辺は5km間隔を開けろ!』

ウィンストンの号令に残る五人は打ち合わせをするでもなく所定の位置について行く

『隊長殿? なにそれ』

『宇宙生まれの勘だよ、一発じゃ壊しきれねぇぞ、これは、二発目も何処まで行けるか』

『そうか、貴方達にはちょっとこれは賭けに見えるって事ね、
 瓦礫のゴミ袋入れ、ではお任せするわ』

『おう、任せろ』

そして一発目、左右二門のバスターキャノンが粒子加速でエネルギーの高まった状態で
それを撃鉄・薬莢として物凄いエネルギー量を一機に特殊砲弾に込め、発射した!

瞬間、それはもうバスターGキャノン全身から大量の水蒸気が舞う。

弾丸にあるまじきスピードで迫る小惑星に当たる頃、「てしお」の
三連装ビーム砲もらせんを描き、バスター弾丸で可成り内部まで食い込み四散した
カケラの中でも大きな物に撃ち込んでいった。

「ロ号」の装甲が持ち上がり、そこから58機のファンネル・ビットが一機に出てきて
ある程度の大きさ以上のもをそれぞれバラバラに更に砕いて行く!
必要なら二度三度、一発で済むモノはまた別の…
58機にも及ぶあれを全て別々に操るのか、攻撃向けNTとは…!

それでも飛んでくる欠片を矢からのゴミ袋で掃除をしながら迎撃するモール隊

そんな時、今度はその場の全員に沙羅の声が

〝八代様、まだ残っております、同じ威力の物をもう一度!〟

『お…これがニュータイプから聞こえる「声」か…
 さーここからが真骨頂、第二弾、なるべく早くチャージを!』

『そ、それが、接合部が幾つか壊れてしまったようで…』

そんな時にルナの声で

『作業用05試作バケツ、ルナ、甲板に出るわ!』

そして、バスターGキャノンのその緩んだ部分を見て補正をし始める
必要なら出来る限りの修理も、

『貴女としたことが、何か不安があった?』

『イトカワもリュウグウも300~500m級、いきなり1km…最大の塊は200m…
 少々限界に近い運用が必要かも知れない…あたしは…父と同じ間違いを
 犯したかも知れない、コストを削るに任せて貴女を余計な危機の上に
 立たせているかも知れない、貴女が幾ら平気だと言っても
 させなくてもいい危機回避をさせているなら、あたしの完全な落ち度だわ!」

作業用05試作バケツはその特殊カメラで判明する問題点を出来うる限りの
フォローに努める、その間にもしチャージを続けるバスターGキャノンが
その粒子加速の間にも凄い勢いで蒸気を吐き続け、細かい区画が崩壊して行く。

『完全な失敗だわ…!』

ルナの敗北感に八代は努めて落ち着いた声で

『そうでもないわ、第二射、てーッ!!』

バスターキャノンが炸裂すると、その内の左一門はその衝撃で壊れ、作業用バケツの
左腕をもぎ取りつつバーニア全開で支えていた物を足の関節ごともぎ取り
宙空に試作バケツがゆっくり放り出される、バスターGキャノンの衝撃分解は
免れたが、代わりにそれをルナのバケツが背負った形になった。
二射は正確に二百メートルの塊を半ば蒸発させながら砕き、ファンネル・ビットが
おおよその塊を更に砕き、
それでも影響の大きそうな破片はモール隊が矢が尽きるまで「ゴミ袋」にまとめていった。

『ルナ、結果オーライなのよ、どのみちこんな出力、只で済むはずがないんだもの』

オーバーヒートして最小限まで電源の落ちたバスターGキャノンのコクピットから
八代が出てきてルナの機体へ語りかけた。

ロ号が物凄い早さで、でも優しく試作バケツを受け止めながら

『ロ号は素晴らしい出来ですよ! 私仮称が気に入りました。
 BCKT-NT2-ロ号、正式名称にします!』

ルナが苦笑した。
ケントの「ネオ屋台」もモール隊に矢の補充をしながら、更に
ビーム太刀(八代機のに比べると2/3程の長さ)をサイドアームなど
複数の腕で岩の勢いを殺しつつ細かく分断している。
「てしお」からブリッジ要員が伝える

『サイド7より、改修した物を無闇に大気圏投棄としないよう減らす意味合いでも
 引き渡しを望むと言うことです』

たしかに、サイド7近辺にはルナ2しかなく、投棄できそうな場所も無ければ
余り多くを地球の大気圏に負担させるのも惑われた。
八代が広域で

『しゃーないわね、こっちもキャノンと試作バケツやかさばるロ号から奥に
 詰めていかないとならないし、モール隊、そのように引き渡してやってくれる?』

ウィンストンが範囲を物凄く絞った回線にて

『正直言うと意地でも渡したくねぇが…確かに思ったより回収量も多いし
 ここからの作業を考えると仕方ねぇな(ここで広域に戻し)了解した!』

『んで、何機か氷昇華するの待って運び込んでくれる?
 このままのポーズでしまい込む事になるからちょっと詰め込み方考えないと』

『ブリッジより、艦長! キャノンの技術とイ号・ロ号、バケツの技術移転も
 申し込んできていますが』

反射的にルナが

『ダメよ! これらはあたしが日本なら上手く使ってくれると開発した物!
 第一キャノンは総ざらいだわ! ロ号が活躍できたのは少佐の特性、
 イ号もケントの特性、バケツも細かくパイロット特性を組み上げた
 セミカスタムとでも言って断って!』

八代がそれに

『判ってるわ、あらん限りのデメリット並べて断って、いいわね?』

『了解しました、マニュアル1aに沿います』

『マニュアル?』

ルナを含めたモール隊が一斉に声を上げた

『目的は戦闘ではないとは言え、相手が相手なら相応の力を出すことは
 最初から見越していたからね、日本の予算すら底を突きかねなかった程の
 試作費が掛かったとか事実を元に幾つかね』

少々呆れたという感覚も否めなかったルナだが、確かに色々と事実

『そう言うところもキッチリ考えてあったのね、流石だわ』

『内容から見ても大量生産に向く物ではないからね、日本国内で回すので精一杯』

ウィンストンが加わり

『そーだな、少数精鋭と言えば聞こえはいいが…今は新品でも多少旧式に
 なったからと言って改修改修で間に合わせること前提な訳だ、
 コロニーやルナ2に向けた射出終わり、キャノンとバケツザクの足…
 あ~あ、凍り付いた上に衝撃でねじ切れたか…回収するぜ』

ルナはひと息ついて

『ザクの装甲や機構幾らか外して頭だけを試作で作った物だからね』

こうして、色々と課題の残る中期宙空作戦は終了した。



そこからこの年を含み次の年まではフィードバックからの改修や、
そこを縫っての通常作業、不発弾処理など八代が「足りない」と言っていたことを
裏付けるかのようにスケジュールが組まれ、方々でバケツMS隊が見られることとなり
(地上での作業時は黒に近いがレーダージャマー効果無しの通常塗装、
 コクピットカバーの装甲部分のみパーソナルカラーが許された)
中の人物は知られていないが、機外活動のある中華系のうるま中尉や八代はちょくちょく
写真やテレビに捉えられることになる(かなりの望遠だが)

こちらでは特に問題にならなかった物の、0080末頃には出所不明のジオン残党による
ア・バオア・クーへのゲリラ行為など、サイド5が怪しいとも目されたが、
誰も確証を得るまでのツッコんだことは出来ずに地上も宇宙サイドも
安心しきれるような状態にはなかった。

だが、例え遅々としていても日常に戻すための各国各方面の努力は惜しみなく奨励された。



「ガンキヤノン? 俺はもう軍を退役してこうして大学に通って
 一般人に戻ろうとしている所なんだぜ?
 そんなオレに今更何が言えるってぇのよ」

アイルランド、ベルファスト大学に八代が訪れ、一人の青年と接触していた。

「もう旧式になろうとしているとしても、私達の活動には必要でね、
 ガンキヤノン乗り…と言うと判明している分で貴方くらいしか
 「乗りこなした」と言える人を知らなくてね、
 技術者ではなくとも、作業用機器の免許も持っていたと記録にはあるし
 とにかく、感想と感覚的でもいい、進言が欲しくて、いいかしら元少尉?」

生年は露骨に煙たそうな表情を隠さなかったが

「今更キャノンが必要な場面って何よ? あ、食堂はマズい、
 どっか外出よう、あんた目立つよ」

八代が周りを見るとまぁ確かに国籍不明っぽい黒スーツの女、体格も良いが
凸凹も凄い、加えて美人と来ればまぁ確かに目だった。

敷地内のベンチに座りつつ、いぶかしげな青年は記録を見る段階で

「しっかし、あんたもその階級章じゃ技術系じゃないようだが、押しつけかい?」

「設計者自ら出向く! って息巻いてたんだけど流石に今の彼女の身分だと
 世界中を自由に飛び回れる権限がなくてね…友人代表として」

「行動に制限…日本人…ああ、ひょっとしてあんたが戦争裁判で
 今は手が足りないから有能な人物は誰で在ろうと召し抱えたい、
 とか言ったって軍人さんかい?」

端末の資料映像から必要部分を抜き出している八代は

「日本のニュースなんて良く見てたわね、大したモンだわ」

「「ジオンの奴らを? マジかよ」とは思ったからな、ただ、そうだよな
 誰もが簡単にMSに乗れるほど楽な世界じゃないよな、
 ゲルググとかに乗ってたのも半分プログラム任せの大半学徒兵だって言うじゃねぇか、
 そう思うと、仕掛けたのは奴らでも一方的にジオンって話でもねぇなってよ、
 そうさ、俺達だって元々は民間人だったんだ、仕方なかったとは言えよ」

「貴方も結構な活躍振りだったのに、よく抜け出せた物だわ」

「ホワイトベース隊は別だよ、オレは逆に民間に降りると言ったから逃げられたんだ。
 いや、一度イチ抜けってやって戻ったのもオレなんだが…
 盲目的に敵味方じゃない、どっちにもヤバい奴がいるって事は
 イヤって程味わったからねぇ、おっと、それが記録かい、どれ…」

それは件の小惑星破壊の時の物であった、青年は苦笑し

「お宅らバカじゃないの?(苦笑しつつ) だが…そうだよなぁ
 隕石の衝突による部分的な一時停電とかは時々あったからな、サイド7じゃあよ」

「地球にも毎日25トン総量が落ちてきてるのよ、全方位から、
 戦争の影響で今はもっと増えてるかな。
 大半は燃え尽きるとは言え、この時の一番大きいのは二百メートル、
 コロニー落としのような桁外れでは無いとは言え、都市一つくらいなら吹き飛ばせるわ」

「…お宅らの活動は良く判ったよ、…そうだなぁ、もう少し手先足先の
 安定感は欲しいかもな、あのガンキヤノンだって低反動とはいえ、時には
 這いつくばるように全身で衝撃に備えないとならなかったんだしよ…
 …砲に関してはオレは何にも言えねぇや、むしろ一回こっきりで交換するか
 壊れたら自動的に外れるようにするとかがいいんじゃねぇかなぁ」

八代は記録して行きながら

「ふむふむ…やはり砲身はここまで来ると使い捨て推奨か…」

「くれぐれも頼むけどよぉ、お宅らマジでこれを人に向けてくれるなよ?」

「判ってるわ、日本舐めないで」

青年は苦笑し

「日本か…あいつらの故郷…一度は行ってみたいねぇ
 おっと、軍はもうこりごりだぜ、そう言うスカウトは無しな!」

八代は微笑んで

「そんな気はないわよ、貴方達は民間人という所からあの激動の時を
 しかもホワイトベース隊なんて苦労に次ぐ苦労を超えたのだから、
 お疲れ様、後はこの世の中を見つめて、何が悪で何が正しいのか…
 或いは選ばざるを得ないのか、見極めてよ」

「正義なんて何処にもありゃしねぇ、明確な悪意だけはそこかしこにあるがな」

「そうね、ホワイトベース隊なんて体のいい陽動…イケニエみたいな扱いだったのは
 私も情報として知るたびに同情したもんだわ、
 日本軍は公式には宇宙での戦いに参加していないけれど」

「その代わり、止まない戦闘にお掃除して回る、か、どこもかしこも楽じゃないねぇ」

「そりゃそうよ、誰か彼か、何らかの役目を持つ物だわ、
 一般市民としてでも、それは生き延びて経済を回すって言う大きな役目がある」

「逃げたがりはオレの悪い癖だったが…今度ばかりは…何かやりがい…
 見つけねぇとな、あんなことを放り出しておくなんて出来ねぇ」

あんなこととは何かを問うことも出来たが、それは本人の抱える傷、
八代は軽く、だがしっかり海軍式の敬礼をして

「貴方の人生に光明が差すことを」

「止してくれよ、光らなくていいんだ、あまり目だっても面倒くさいだけだからな」

八代は微笑んで改めて軽く敬礼をし、彼の元を去った。



0081、八月十五日にはジオン残党によるデラーズ・フリートの結成と
それに伴いゲリラ活動も始まっていた。
やはり、散発的ではただしらみつぶしになるだけ、と相手も組織化してきた。

とはいえ、その時期の連邦もまだまだ立て直しの最中であり、
やはりそれなりの組織的な動きに対しても急に全てを再編できる物では無く
デラーズ・フリート側もといって一気に連邦を攻め入るだけの戦力もなく
双方に苦々しい、じりじりとした時間だけが過ぎていった。



0082、そのような中も日本海軍宙空挺部隊による掃除は続けられたが、
サイド5から月までの間の空間で、

『クッソ! ジオン残党かよ! こっちはお掃除中だっての!』

ついに狙われる時も来てしまった。
味方である事が明確でなければ問答無用という有様であった。

『エプソン、損害は!?』

『向こうもブランクだろうな、急所は外れて外装一個落としただけだが…!』

「てしお」も宙空の宇宙ゴミ掃除である旨を打診し続けているが、
聞き分けはなさそうである、やむなく警告射撃で普段が隠れている砲を起動し
宙域に撃つわけだが、当たらない物に動じるわけもなく
「てしお」の砲塔付近にザクF2型の攻撃が当たるも、流石にザクの装備では
破壊するには至らず、やむなく撃たれた主砲で粉砕される。

ウィンストンが思わず叫ぶ

『だぁあああああ! ゴミ増やしてんじゃねぇ!
 こんな事で命散らしてんじゃねぇよ!!』

この時点でも宙空艇隊用の「武装」は炸裂しないハンドガンと
刃部分の長さ8mほどのビーム太刀のみ(八代機のみ12m)
多くは弓のみの携行であったために苦戦は明らかだったが、そこは絶えず
ゴミ掃除を続けてきた強みであろう、
多少の装甲削りは覚悟の上で、落ち着いて相手のモノアイのみ、
腕部のみのゴミ袋包みで一瞬の隙にウィンストンや八代が
相手の利き腕のみ切り落としをし、ケントは矢の支給や、
襲いかかってくる者にサブアームなどでの太刀での応戦であった。

こう言う時に特性の測量用で360度視界の利き、基本人間の可動域であるとは言え
その気になれば腕や手首の360度回転も可能なバケツがザクやドムの改良型よりは
有利で、それなりに来た分を押せては居たが、目的が相手の殲滅でない以上
どうしても戦術的には後手に回りがちであった。

多段階ダメージ軽減装甲とは言え、「てしお」の砲塔がやられ、
ダメージコントロールやエネルギー供給はそれまでの経験や技術の蓄積から
小破に留まったが流石にこれ以上続くと…と言う流れに

『隊長殿と私だけ動き封じに回るわ! ケント君含む他の隊員は
 「てしお」を守って!』

矢は宇宙に漂流しても直角に近い衝撃があれば速勢いを殺しゴミ袋になる事から
宇宙ゴミとしての危険性は塊の破片よりは低い…
仕方ないので隊は後退しつつ、その通りになろうとしたところへ
ウルマ機がネオ屋台から自らビーム太刀を持ち、戦列側に加わった。

『私にはまだ大佐をお守りするだけの力は無い、でも、だからこそ
 私は強くなりたい!』

八代はかえって何も言えなかったが、ウィンストンが

『しょうがねぇな、だが相手の破壊ばかりに気を向けるなよ!』

そこで八代も

『来てしまった物はね、目的は見失わないでね』

『はい!』

相手も大きな戦力ではないだろうし、どこかで見切りは付けるのだろうが
ムキになってしまったか、こちらが飽く迄も相手の戦闘力だけを奪うという
戦い方(しかもかつての仲間達がやっていた戦い方)にプライドが傷ついたか
戦闘能力を失っていないMSは引き上げようとしない。
「てしお」も今はMSの護衛がある訳で、先ほどのウィンストンの叫びは
相手に対する物とは言え、迂闊に宇宙ゴミを増やすのは本末転倒、
回避運動にだけ勤めた。

さしものモール隊といえど、引かない相手に武器(矢や太刀)の補充はするとしても
ミッションは捗らないわ、ジワジワと損害になるわで強制離脱も視野になった頃
ウィンストンのザクJP改二が利き腕を取られた!

『やり返しかよ、このヤロー!』

ケントがそこに

『ウィンストンよォー、下がれ!』

ウィンストンはその言葉に、ネオ屋台の太刀だけを左手に取り

『まだだ、まだ終わらんぞ!』

ザクとは思えない、ザクIIF2型よりもスリムな分出力で勝ったかアクロバティックに
動き回り、やった相手の頭部を切り、次にその両腕を落とすも、
別の敵の空かさずの攻撃に片足も取られる

『くそ…!』

八代がウィンストンに引くことを進言しようとしたその時である、

『…! 何…! これは…ニュータイプの声…!?』

ウィンストンが叫ぶ

『アイリー! 教えてくれ!』

すると、全員にカメラの性能以上に、ほんの近い先の危機が感じられるようになった!
それは確かにアイリーだった、どこを狙って追い返すべきかも伝わる、
撃沈せず、なるべく宇宙も汚さずに相手を退却させる一手がそれぞれに浮かぶ!

初めての感覚に八代も感嘆して

『これは…凄い…! 判る…見ずとも見える…!』

明らかに動きの良くなった宙空艇隊に、流石に粘った残党軍も退却した。
弓を持った隊員達は即、アイリーの指定の宙域に弓を射、ゴミ袋として
まとめて行く、そんな時に黙り込んでいたケントが

『判った…! アイリーの居場所がわかった! この感覚記憶して…
 後でルナに詳しい場所指定して貰う!』

八代がそれに

『よし! 今はともかくダメージもある、この隙に月面表側指定場所にゴミ投棄!
 一旦地球に降りるわ、整備後、作戦行くわよ!』

皆が「おう!」と気合いを入れた。


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