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0083.10.13~14に掛け、地球連邦軍に属する国では表には出てこないものの
大きな衝撃が走った。
「ガンダム開発計画」によるRX-78GP2Aがオーストラリアでの試験中に強奪、
アルビオンがそれを追跡となった「らしい」と言う情報が掛け巡った。

勿論これらは一般に周知というよりは軍部での混乱である、

いたずらに数で押すのはかえって事や被害を大きくする恐れもあり、
事態を見守るしかなかったが、そんな時に八代は決意した。

強襲揚陸戦艦「てしお」が僚艦「きたみ」と共にクルーやルナ、沙羅とその部下も
「きたみ」にて「いつもの掃除」という建前で出発した。
実際に地球大気圏各所、一年戦争時の戦場跡で新たに航路近くに漂ってきたもの、
キリの無い作業ではあるのだが、この上ではまたとないチャンス、

強奪されたGP2Aの行方と共に動く連邦の邪魔にならないように、
レーダー索敵で判ったことなどを告げつつも約一週間、
黙々と作業に従事し、ソロモン改めコンペイトウでの宙域清掃も
観艦式に先立ち請け負う。

加えてデラーズ・フリートの動きも監視し、三日ほどの作業で去り、
ア・バオア・クー宙域の清掃から月の領空に近づく。

『一年弱でまた結構漂ってるな…型からみても当時の物もあれば
 若干改良されたと思われる物も多い…』

ビサイド中尉の呟き、彼は多少メカニカルな部分での型違いに詳しい。

『大佐殿の裁判の時の言葉が今更ながら身に染みて判るな、
 ただの軍人で居る間は「片付ける」なんて思いもしなかったが…』

エプソン中尉も呟き、片付け作業にも奔走する。
ウィンストンもまだ作戦前の清掃作業と言うことで神経を掃除に集中させた。

『戦争ってのは旧世紀末には最終手段だったはずなのにな、
 モビルスーツなんて物が出来たせいなのか…中々に深い業だぜ、これは』

ケントの「ネオ屋台」や沙羅の駆る「ロ号」のファンネル・ビットが
新たに漂ってきた艦船の大きな残骸を処理しつつ、

『どっちが先とか後とか言う話ではありませんね、地球の海にもまだ
 旧世紀の軍艦が沈んでいますし…半ば水中歴史遺産になっておりますが…』

『海の底ならまだともかく、こう言うところの物は迂闊に慣性を持つとただの
 凶器になるからなぁ…しかもミサイルやバズーカなんかの弾もかなりある』

エコー中尉はここに至るまでの間に宙域に漂う弾丸等を専門に拾い集めて
ウルマと八代が矢張り解体をして居る。
エコー中尉が続いて

『二年前の小惑星も、あれも戦争の爪痕の爆発から軌道を変えての
 地球接近だったのかもなんだよな、改めてこの立場になって
 俺達何やってたんだろうなと思うぜ』

そこへケントが飛んできて

『まぁーこれからはビーム主体になるんだろうからよぉ、弾の方はまだマシか?』

ウィンストンがそれに

『地球というか空気や湿度のある所なら普通に錆びたり湿気たり風化もするんだろうが、
 宇宙には宇宙の風化の仕方がある、例え数年の動乱であればらまかれた弾が
 いつどんな形で牙を剥くかも判らん、全く俺達は罪深いよ、
 ジオンとかそう言う意味でなくな』

そう、遠距離でのミサイルの応酬が宇宙世紀での戦争の口火だ。
どっちの軍が先だあとだという話ではない。

『お掃除しても片っ端から汚される、かーちゃんが怒ってたのも今は判るなぁー』

周りが苦笑しつつ、余りに適切なケントの例えに同意した。



共和国ジオン伝手にも、連邦、中立のサイドからも情報が入ってきて
10月末から11月初旬への流れで緊張が高まる、
一年戦争時ジオン汚れ仕事専門だったシーマ艦隊のデラーズフリート参画であるとか
ある意味懲りもせず開発の進められたGP03のアナハイム…フォンブラウンでの
トライアル開始であるとか、
コロニー再生計画による使えるコロニーの移動開始であるとか、
GP02Aを追っていたアルビオン隊のフォン・ブラウン市到着、その後
旧ソロモン(コンペイトウ)への移動…

連邦軍別働隊である日本海軍宙空挺隊にも話は来た物の、通航航路の安全維持の為
清掃活動を維持という名目でそれも断った。
その判断は日本軍をベースに「てしお」「きたみ」の判断に委ねられたが、
八代は丁重に観艦式参加を辞退した。

「予感」にしか過ぎなかった事であるが、それが割と直ぐに
「賢明な判断」であることが示される時が来る。



「てしお」と「きたみ」はラグランジュポイントL1付近…月とサイド5近くの
重力均衡宙域にて停泊していた。

「てしお」艦内にて八代がブリッジへ呼び出された。

『貴殿が艦隊司令か、重力トレーニング中だったとは、失礼した』

通信の相手はスキンヘッドで客気に溢れる中年男性で、八代は

「こう言うことは世界的に標準時何時にやりましょうという決まりがあるわけでも
 ないから気にしないで、私が今回の中空域掃除担当、十條八代大佐、貴方は?」

『エギーユ・デラーズ…』

「こちらこそ、こんな格好(トレーニングシャツ)で失礼、用件を伺いましょう」

『貴国の立場はそれなりに歴史的に知って居るつもりだ、敬意を表する、
 であれば尚更今こそ我らに力を貸してくれまいかと、共和国の釘刺しに思った物でね』

「歴史を知っているなら判っているでしょう、公国に比べてコテンパンと言えるほどの
 ダメージを負って今やっと何とか立て直せるところに来たのよ、
 この戦いの勝敗がどちらにせよ、更に疲弊するようなことを迂闊に出来ないわ」

『狼の爪も牙も、抜かれたままか』

「牙はともかく爪くらいはね、でもね、地球に国土がある限りどうしたって
 連邦の領域なのよ、貴方達のこれからの活動に連邦軍として参加している
 部隊については私は何も言うつもりはないわ」

スキンヘッドで髭を整えた男は少し何かを思い

『その代わり貴殿の部隊には何もするなと?』

「私達の活動は「掃除」よ? 散らかっている物を片付けるなと言うわけ?」

『もう一つ、貴殿の部隊にどうやらかつての同胞がいるようだが』

「彼らももう「片付ける」意義に目覚めてしまったわ、権利の主張は結構、
 でも私達は「後始末」専任なの、諦めて戴ける?」

『そうか、致し方あるまい、では、そこを退いて貰おう』

「どの辺りに行けばいい? 指定していただけると有り難いわ」

『…本当にどちらにも与しないつもりなのだな』

「基本的には日本は世界中と仲良くしたいのよ? その意味わかるでしょ」

『しかし余りに腰抜けた対応だな』

「何とでもいって頂戴」

『ではしばらく月の軌道上にでも移っていただきたい』

「了解したわ、通り過ぎる者に対してこちらへの刺激もやめるようにお願いね、
 貴方だってこんな所で余計なゴタゴタ起こしたくないでしょう」

『突かれれば徹底的に、か、なるほど、了解した』

通信が終わり、二艦が移動を開始するとなるほど、サイド5領域から
それなりにソロモン方面へ動きがある。

そして、これは近辺全宙域に対して
唐突にモニターの一つがジャックされ、そしてエギーユ・デラーズが
奪ったGP02Aの前に立ち、声明を出した。

曰くに


地球連邦軍、並びにジオン公国の戦士に告ぐ。
我々はデラーズ・フリート!

所謂一年戦争と呼ばれた、ジオン独立戦争の終戦協定が偽りのものであることは、
誰の目にも明らかである!
何故ならば、協定は『ジオン共和国』の名を騙る売国奴によって結ばれたからだ。
我々は些かも戦いの目的を見失ってはいない。
それは、間もなく実証されるであろう。

私は日々思い続けた。
スペースノイドの自治権確立を信じ、戦いの業火に焼かれていった者達の事を。
そして今また、敢えてその火中に飛び入らんとする若者の事を。

スペースノイドの心からの希求である自治権要求に対し、
連邦がその強大な軍事力を行使して、ささやかなるその芽を摘み取ろうとしている意図を、
証明するに足る事実を私は存じておる。
見よ、これが我々の戦果だ。
このガンダムは、核攻撃を目的として開発されたものである。南極条約違反のこの機体が、
密かに開発された事実を以ってしても、呪わしき連邦の悪意を否定出来得る者がおろうか!
省みよう。何故ジオン独立戦争が勃発したのかを!
何故我等がジオン・ズム・ダイクンと共にあるのかを!
我々は三年間待った。
もはや、我が軍団に躊躇いの吐息を漏らす者はおらん。
今、真の若人の熱き血潮を我が血として、ここに私は改めて地球連邦政府に対し、
宣戦を布告するものである。
仮初の平和への囁きに惑わされる事なく、
繰り返し心に聞こえてくる祖国の名誉の為に、ジーク・ジオン!!


いわゆる「デラーズ宣言」である、
方々で戦闘が開始されたようで、中立サイドなども含め動きが慌ただしくなる。

モール隊の面々がブリッジに集まり腕を組んで多々あるモニターに映し出される情報を
静かに眺めている八代に対し、

「さっきのは当時大佐だったデラーズ殿だが…その前の通信もか?」

「ええ、どちらにも与しない、私達は掃除部隊だとね、それで彼の指定宙域に
 動いているところ…彼もだまし討ちまではするつもりがないのか、
 そこまで割く人員もないのか、一応私達への手出しはしないようね」

そこへウルマが呟いた

「…また、宙(そら)が汚されるのか」

「デラーズ・フリートもその根本の意義は完全に間違っているとは言わない、
 古今東西、格差のない世界なんてありはしないから、その是正を求める…
 まぁジオン公国の意義そのままだけれどね」

そこへウィンストンも

「だが、デラーズ殿はギレン総帥にそれこそ心酔していた、
 危険だぜ、俺達の身がとかでなく、宙だけでもない、地球もだ」

そこで八代は状況を見定めつつ、きっぱり言った。

「悪いけれど、今度ばかりは公国残党も連邦にすらも糧になって貰うわ」



旧ソロモンでの連邦軍の観艦式に対してガトー少佐がGP02Aを駆り、部下と共に
その武装を用いた核攻撃に晒され、早期打電でも損害が過半数を超えると目された。
自らの開発した戦術核で自らが焼かれる、
宙空艇隊にとってはそれらに対して妙に冷めた目で成り行きを見守りつつ、
進路を月の裏側に向けて動き出した。

準備に掛かる実行部隊の面々に対してルナから主に八代へ向けて

『始めるのね? 今なら確かにこの作戦で集めたゴミを「身軽になるため
 月へ投棄してゆく」名目も立つわ』

『それとルナ、貴女も独自でグラナダにある工場について問い合わせてみてくれる?
 連邦軍的には特に何も突いてこなかったし、貴女の財産そのままの状態と言える』

『オーケイ、それはそれで大事な事だわ…低重力下での工業試作なんかも
 本格的にやりたかったし…』

いよいよ作戦前哨段階であるが、日々の活動の賜物であろうか、
MS部隊による指定場所への「ゴミ袋」の投棄に関してはいつも通り、
むしろ先だってのデラーズ宣言のことでグラナダにもとばっちりがないかを
愚痴られたりもする、NT用イ号(ネオ屋台)やロ号はゴミ集めではないので
とりあえず待機状態だが、ケントはいつでも出動できるように乗り込んでいた。

思ったよりも状況がこちら寄りなので、事を荒立てずに
「きたみ」の艦長でもある沙羅が「一年戦争時の行方不明者」生存とその救出の為の
打診をしている横で、ルナが叫ぶ

「ちょっと!! 何ですってェ!? 戦後処理で浮いてたとは言え何してくれてんのよ!?」

ルナはルナで自分がかつて使っていた小さい専用工場について別に打診していたのだが
(小さいと言ってもMSを組み立てたり整備するだけの広さや設備がある訳だが)
何かトラブルがあったらしい、またルナのこういうときの声はとても大きくて
辺りに不穏な空気まで伝えている。

「…そう、判った、では自分で何とかするわね」

完全に目の据わった状態で心静かに怒りを溜め込んだルナが通信を終えると

「整備班と技術班! 「てしお」と連携して今すぐ指定するブロックの
 外部電源供給場所に発電ユニットとともに月面に降りて設置してくれる?
 ああ、あたしも出る! 全く…!」

通信の最中だというのに、沙羅もすっかり固まって

「ど、どうされたのですか」

「あたしのラボは表層から四層目までのぶち抜きなんだけどね…
 その付近の電源回復が遅れていたついでにゴミ置き場にしてたとか言うのよ!
 デブリじゃあないわよ! モノホンのゴミ場よ!」

まぁ確かに地球以外での生活ゴミなどの処理も大きな問題ではある、
宇宙にコロニーを建設する段で沢山の小惑星や彗星が「資源」として投入された。
地球ほどの大きさで水量があれば循環も出来ようが、先ずその為の重力も気圧も
循環するためのシステムも人が作り出さなければならない、当然コストも掛かる。

『それで…その「生存が確認された仲間」というのはどちらに…?』

呆気にとられていた艦内だが、いち早く正気に戻った通信先のグラナダ通信士が
沙羅に問うてきた。

「あ…あの、勿論普通に生きているというわけでなく、方式不明ながら
 冬眠状態にあるだろうとのことで…今席を外した…当時こちらでは
 ルナ・リリー技術大尉として知られたイトカワ社のラボの近くだそうなんです」

『あー…』

「え、どうしました?」

『いえ、あの辺り、未だ主電源が喪失したままなのですが、それには理由もあって…』

「詳しく聞きます、出来る限り詳細をお願い致します」



月面ではそろそろバケツ部隊が撤収して乗り込みに…と言う頃に「きたみ」内
ブリッジにて何かあった様子で、ルナや作業員がモビルワーカーやルナバケツにて
色々物資を降ろして何やら作業を始める様子である、思わずウィンストンが

『どうしたんだよ、何かあったのか?』

ルナは溜息を一つつきつつ、それでも考えを絞って

『突入はもう少し待って、こっちを手伝ってくれる?
 この辺りの電源喪失には何か裏があるそうよ、詳しいことは四條院中佐に』

ルナは流石に頭に血は上っていてもキチンと状況は把握していたようだ。
八代が作業の補佐に入りつつ

『発電ユニットだわ、そんな大それた出力でもないと言うことは…
 こちらからこの辺り一帯の電源供給を一端になう訳ね?』

『そうしないとあたしのラボだったところを外から操作できないからね』

ウルマが手伝いに入りつつも通信に割り込んできて

『中佐殿に聞いたのだけどとりあえず皆「きたみ」のチャンネルに合わせて欲しいそうだ』

ルナ以外の全員が発電ユニットを使える状態にして行くと、ルナがそのコードとプラグを
グラナダ市の特定のユニット接合部に挿していっている。
そして沙羅が状況を説明した。

『どうも、戦争末期に先鋭化したゲリラ部隊が独自に活動した名残で
 この辺り一帯にはセキュリティシステムが都市機能を一部ジャック…
 自分たちで勝手に使えるようにして稼働しているそうです
 一つの電源からでなく、幾つも少しずつというように、一編には奪還されないように』

ウィンストンもそれに

『なるほどな、三年に及ぶ調査が遅々として進まないのもそのセキュリティシステムが
 一定の区画に誰も入れないようにしたからか…そしてアイリーもその中に…』

エコー中尉がそこへ

『だとしても三年…なんの動きもないと言うことは生きた人間の仕業でも
 なさそうだな、ゲリラの方は殲滅されたと考えるのが自然か
 先行して潜入してみるか?』

八代がそれに

『危険…と言いたいけれど、全員で行ってはそれこそ飛んで火に入る可能性もあるわね…
 無茶はしないこととあくまで偵察任務という事で三人でチーム組んで
 少しでも何が起こっているのか確認する必要がある』

『よし、先ず俺、エコーだ、後は…どうする?』

そこへウルマが立候補し

『爆発物だけでなくセキュリティ関係もそれなりにやれる、行かせて欲しい』

そこに八代が

『小隊長として本来の任務ね、ウィンストン准佐、頼むわ』

『ここはいいのか…?』

『中隊長たる私がいる、でもくれぐれもずんずん先行するとかは無しね、
 どんな仕掛けで閉じ込められるとも限らない訳だし』

『そーだな…俺にとってもちょっとした鍛練だな、よし、じゃあ俺達は一端戻る』

はやる心を抑えつつの隠密行動、ウィンストンも流石に一戦で戦ってきた兵士だけあり
極めて落ち着いて「てしお」に戻り潜入の準備を開始する

月面では粗方の作業が終わり、電源を投入すると、薄暗かった一画に灯が点る。
全てを確認することなく、ルナは自分のラボの周りだけの復旧を確認し、

『よーし、現状の図面も周りだけ取れたわ、では「きたみ」と「てしお」の錨を
 降ろして、あとはファイバロープもありったけ、船とこちらで指定する場所に
 引っかけるか繋ぐかしていって、錨四箇所はそことそこのフックに…』

八代がルナに

『何をするつもりなの?』

『今電源が入ったことで各廃棄ダクトも本来の動きになった事でしょうよ、
 でもあたしのラボに捨てられたゴミ処理は自分で何とかしろですもの、ええ、
 自分でナントカしようじゃあないの、父からいざという時のと聞いたけど
 まさか実行する日が来ようとはね、よし、今のウチに斥候部隊は指定する
 ところからグラナダ内部に入って、そうしたらラボの部分気密化するから』

『まさか…』

『そのまさかよ、どんなに冷静な判断は失わずとも、あったま来てんだから!!』

斥候三人がグラナダに侵入し、ルナはラボを気密化し、数十センチの隙間を空けるように
外壁を少し縮め更にそこも気密化、そして

『「きたみ」「てしお」、月引力脱出速度で時計回りに45度ラボ部分を回してから
 一気に50メートルほど引き上げて』

『人に無茶苦茶だという割りにルナも無茶苦茶だわ…』

ルナの父、ロンはもし何かあったときのために自分の作ったラボをグラナダと
切り離せるようにはしていたそうだが、街の一区画数十立方メートルとはいえ、
それこそ大型艦でも使わないと出来ないだろう事をルナはいま軍に所属する
と言う権限一杯使ってラボ部分を引き抜いてしまった。

気密化して月は地球の1/6の重力とはいえ、何かが隙間を縫って垂れているのも見える。

『親の代からの大事なラボを、このクソッタレめがァ!!』

グラナダ郊外まで運んでルナが艦と電源が繋がっているラボの一部をMSで操作すると
山と積まれたゴミ袋が月面にこぼれ落ちる。
なるほど、ほぼ殆ど生活ゴミ
ルナは落ち込んでいたが、わざわざそれをプロト・バケツを操縦してまで示した。

生命反応はネズミ以上の物はない、八代が思わず

『…ゴミ袋の中の色々から空気が漏れるのもあるんでしょうけど…
 虫って生命力高いわねー特に幼虫は…』

『あ”ー! 水が無尽蔵に使えるなら中を洗いたいところなのに!』

『まー…液体の水は厳しそうねぇ、流石にこの体積を洗い流すような水は
 ちょっと二艦では供給できないし…』

ルナはそこでちょっと一考して

『とりあえず中のゴミ全部かき出して…』

MSで甲板掃除をするときのデッキで少し中まで乗り込んでかき出しつつ

『「きたみ」「てしお」両艦、とりあえず戻して…』

『どうする気?』

『ロキシー始めメインの特別救護隊は「てしお」乗艦よね?』

『ええ』

『「きたみ」貸して…月面地層上でこの先に水鉱床があるから…』

『掘り出してくる訳か…まぁ気持ちはわかるわ』

『後は旧型のモビルワーカーとこのプロトバケツがあれば充分だし、
 状況は常にマップ込みで連絡くれればあたしが遠隔で出来る事するから』

そんな時に、ルナのコクピット内に設置された二つの3Dモニタリングのウチの一つが
反応し、人の姿になって行く

〝ふぁ…なんか前より具合いい感じ…おはよールナ〟

『…アイリー? 具合いい感じってどういう事?』

〝いやぁ…体の隅々に何かこう染み渡る感覚があってね〟

『…電源回復で生命維持装置が正常に機能しだしたんだわ…』

〝相変わらず自分のことはよく見えないんで良くは判らないんだけど…
 うんでも、なにか渇きが癒やされるというか…あ、何か機械が動いてるな…〟

『機械…? 維持装置とかそう言うのではなく?』

〝ちがう、動き回ってる〟

『詳細…判る?』

〝んー、ごめん、何か丸っこい物が一杯…何かこういうおもちゃなかったっけ〟

ルナはそこで本来の推理力がフル回転し幾つもの検索を掛け、その内一つを
メインモニタに映して

『これ?』

〝あー、うん、これっぽい、でもなんかちょっと動きが有機的というか…
 幾つもあってね、どっかに向かって居るみたいなんだ〟

ルナは結構深刻な表情になって八代に向け

『八代、彼らの後を追って! ひょっとしたらあたしが迂闊に電源回復した弊害かも』

『…なるほど、見えてきた、でもルナ、そのお陰でアイリーの生命維持装置も
 正常機能取り戻したなら差し引きゼロ、気にしちゃダメよ!』

そして、八代のバケツはルナのラボを戻しつつある「てしお」に戻っていった。



グラナダ市工業区域の一つ、ルナのラボのあったところの二層目付近から内部に侵入した
斥候組三人が先ずはなるべく詳細なマッピングをすべく、空気はあるがヘルメットのまま
AR表示でマッピングと端末を使いヘルメット内にデータも重ね合わせ、ウルマが

「…生命反応は例のマップ、によると未確認位置…
 多目的工業スペースと技術准佐が言っていた箇所に一つ…」

多少視界は遮られる物の、確かにあの日投降して割りとこの近くを通った記憶が蘇る。
ウィンストンが

「それがアイリー…到達点として…おかしいな…ア・バオア・クー防衛戦前
 ここに来て「屋台」の調整して貰ったときとは矢張り違う感じだ
 投降してからは細かい道のりとか覚えてなかったしな…」

エコーも生命探知とは別に

「ああ、間仕切りというか…通路の幅が狭すぎる、誰か短期間でここを
 改造したのは間違いなさそうだ…他に反応は? ウルマ」

「…この動きは…元の図面には合わないが…もしこの動きに沿って壁があるのだとしたら
 何かがこちらに多数…無線指示は極短い、半自立で何か機械がこちらに来る…」

その動きと共に仮マップとして元の図面に推定構造を重ねる
エコーが眉をしかめ

「随分無駄の多いというか…何をしたかったんだ…?
 人間を沢山詰め込むのとは違う感じだな」

「…微妙にイヤな予感がするな、遮蔽物がないのはマズい、次の扉の位置まで
 ツッコむ形になるが進まんとなんかヤバい感覚がする」

ウィンストンが言うので、元のマップによると次の間仕切りと共に扉があった
場所に逆へ進む以外は無いと進み、エコーはお手製の小型ドローンを先に飛ばす。
映像はエコーに、場所とマッピングはウルマが担当し「迫る何か」との合流地点を
正式にマッピングしながら進んで行くと…

「な…なんだこりゃ…」

「何と遭遇した? 二足歩行ドロイドなんて物は数を揃えられないはずだ、
 もっと単純な四足歩行か…」

ウィンストンが言うとエコーが遮り気味に

「違う、もっと単純な…今スクショを録った、そっちに…あっ」

ウルマがそこへ

「途絶した、破壊されたのか!?」

「そのよーだ、なに、あと何機か飛ばせるよ…今度はなるべく端っこを…」

映像がウルマの端末に来るのだが、ウィンストンものぞき込んでいて

「…なんだこりゃ…? おもちゃか?」

ウルマが記憶を絞りだし

「SUN社の「ハロ」とかいう製品だ…この部分を見て、隊長」

「口っぽい部分が開いて…こちらに向けて…これはエネルギーをチャージしている?」

そこへエコーが三機目を用意しながら

「そのようだ…ドローンや…そうだな、人間に怪我をさせるくらいの威力の
 レーザーを撃つらしいぞ…もう幾らかしたら目視できるが…」

ウルマが荷物から物を取り出しつつ

「ドローンはどのくらいの重さの物を持ち上げられる?」

「数百グラムってところだな」

「手榴弾ほどか…強度を確かめたい、これを」

「ピン抜いて何秒だ?」

「7~8秒」

「ちょいと短いが…やってみるか、因みに残基三な、覚えておいてくれ」

エコーがドローンごと投げる拍子にピンを抜いてそのまま操り前方へ進ませる。
ウィンストンが眉間にしわを寄せ

「おもちゃなら元手は然程掛からない、なるほど、半自立型でコイツに武装を施し
 少ない人数を補うようにセキュリティとしたのか…だとしたら…
 アイリーを攫った理由の一つは、パイロットとしてじゃない」

ウルマやエコーも気が付いて

「ここを乗っ取る為のサイコミュを使った対人兵器…!!」

「しかし…なるほど、技術准佐が憤慨した地域電力不足のせいか
 正常に機能しないまま、それを操作する人間その物が居なくなっちまった…」

「…アイリーも平和的な性格だ、上手く行かなかったんだろうな、
 そしてセキュリティだけが残された…」

「…そうなると一時的とはいえ電源回復した今、どのくらい対人ハロが潜んでいるか
 正確な数が判らない…余り売れなかったとはいえ、それはあくまで一般販売として
 子供達が手にするかも知れなかった販売数に対してだ…」

ウルマの緊張が残る二人にも伝わる、馬鹿馬鹿しいようで、安上がりに
ひょっとしたら新たな敷居全てがこの「対人ハロ」の給電場所として機能している
かもしれないのだ、これは迂闊に進めない、進みたくともできない
多く見積もれば何千という数も考えられる!

少し先で爆発がする、エコーが口笛を吹き残り三つの内一つを取りだしつつ

「外装は爆発に耐えうる物じゃないようだぜ、ただ、ある程度の衝撃には
 強いみたいで有効範囲は手榴弾程度では広いとは言えねぇな…」

「子供用のおもちゃと言うことで弾力がありつつある程度の丈夫さを保証されている
 …これは以前問題にもなったんだ、そう、こんな風に改造された場合だ
 結構なテロにも使えることになってしまう」

ウルマの声にウィンストンが

「…恐らくはそこら辺りはキチンと自律機能をコントロールして
 一定の改造を撥ね付けるプロテクトや外側からの制御も可能ではあったんだろうが…」

「そう、だが絶対ではない、ファームウェアごと書き換えられて通信機能も
 別なコントロールシステムと紐付けられ…そして識別が「公国ジオンのみ」だったら…」

「それが…今この事態って訳だ、やれやれだな」

遂に通路の先に幾つかの対人ハロが見えてウィンストンは敢えて遮蔽物を出て
相手のチャージとおぼしき時間の間に開いた口を狙って正確に自分を狙えそうな物だけを
静かに拳銃で内部を狙って一個に対し二発、六個ほど撃ち抜き、そして回避行動。

「流石だぜ、隊長…、ギリギリまで粘らずとも五個は一気に行けそうだ」

エコーの感嘆にウルマが

「手榴弾は悪手になるかも知れない、相手はある程度弾力がある…
 投げた手榴弾を…先ほどは固定していたから良かった物の、投擲では
 投げ返される恐れが出てきた」

ウィンストンは苦境の中にも口の端を上げて

「なかなかやってくれるじゃねぇか、既に死んじまったテロリストさんよ…」



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